タイトル:悪意の牙マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/03/28 06:41

●オープニング本文


「貴女は、どうして戦っているんですの?」
 最後の作戦が始まろうとしていた。度重なる作戦でついにバグア、『供給源』を追い詰めた傭兵達‥‥否、この場合はネストリングと言った方が正確か。
 居場所を転転とする敵に対し、彼らの逃げ場所を片っ端から叩き潰してきた。配下の強化人間も大方屠った。余力と呼べる物はとっくに残っていないだろう。
「前に言わなかった? 私は銃をぶっ放せればそれでいいって」
 作戦開始直前、廃墟の街に佇むマリスへ斬子は声を投げていた。マリスは煙草を一本取り出し咥えながら応じる。
「それもあるのでしょう。けれど、わたくしにはそれだけだとは思えない」
「どうして理由に拘るのかしら。理由なんてどうでもいいじゃない、そんな事」
「納得させて欲しいんです。信じさせて欲しい‥‥でなければ」
 振り返りマリスを見据える斬子。そこに感情はないが、鋭く冷たい威圧を感じる。
「わたくしは貴女達とも戦う事になるかもしれない」
「どうして?」
「そもそもおかしかった。この供給源を追う一連の依頼そのものが」
 考えるまでも無く供給源に関する情報は主にネストリングから提供されていた。
 しかしどうだ。確かに少しずつ敵の尻尾を掴んでは来たが、あまりにも冗長ではなかったか?
 そもそもこの闘いの発端もやはりネストリングからの依頼にあった。追いかける内に話が大きくなり引き込まれて行ったが、そこに不自然はなかったか?
「その回り道や闘いの中でわたくし達は強くなった‥‥でも、沢山の物を失って来たようにも思う」
 悲しい事や、辛い事が多すぎた。
 それが当たり前になって、段々と心が麻痺して行く。
 仕方ないと言い聞かせる事に馴れ、そうしなくても人を殺せるようになった。
「それでも‥‥感情を消せるわけじゃない」
 救いたい物があった。嫌だと叫びたい戦いがあった。そうしなかったのは、信じたかったから。
「なら、どうするのが良かったと思う? IFの話をする事に意味はないけれど、別に正解があったと思うの?」
「それは‥‥わからない。確かにそれは正論。でも、正論で納得出来る程わたくしは大人じゃない」
 紫煙を吐き出し目を細めるマリス。そこには普段の彼女とは違う冷たさのような物がある。
「当然ね。それでいいのよ、貴女は」
 意外な答えに顔を上げる斬子。マリスは歩み寄り、笑みを浮かべる。
「私はね、何もかも思い通りって面白くないと思うの。大きな流れがあるのなら、それをぶっちぎってみるのもいいかもね」
「マリス・マリシャ‥‥貴女は誰の味方なんですの?」
「自分自身の味方、よ。私はね、この世界に自分以外要らない。他の命は全て、私に生の実感を与える為に存在する道具」
 素早く銃を抜き斬子の額に銃口を押し当てるマリス。反応出来ない速さに斬子は目を見開く。
「そうやって死にたくないって顔してる子を見ると、生きている気がする。その命を私は摘み取る事も出来るし、生かす事も出来る‥‥それって素晴らしい全能感だと思わない?」
 指先で銃を回しホルスターに収める。斬子は止まっていた呼吸を再開し、立ち去るマリスの背を見送った。
「斬子ちゃん、昔の私に似てるわ。だから今のは、聞かなかった事にしといてあげる」
 ひらひら揺れる手に眉を潜め目を逸らす斬子。たまにそうやって優しくするのは、本当に止めて欲しい。
「‥‥信じたく、なるじゃない」

「茶番ですな」
 廃墟の奥にある埠頭。そこには既に誰にも使われなくなった大型客船が停泊していた。
 次々に傭兵達に居場所を追われてきた供給源。いよいよ以って使える拠点も限られてきたと言えるだろう。
「いつまでこんな事を続けるおつもりですか‥‥ミュウ」
 外套を纏った異形は椅子の上に座ったまま黙り込んでいる。否‥‥黙ろうとしているのではない。彼は言葉を話せないのだ。
 地球人とは余りにもかけ離れた構造を持つ彼は発声器官を持たない。故に常に沈黙と共にある。
「ジジイ、ミュウは何て言ってるデースか?」
「もう少し待て、と。まだその時ではないそうだ」
「ホワイ? その時って何ですネ?」
 腕組み首を傾げるジライヤ。ミュウと意思疎通出来るのは特殊な改造を受けた人間、或いは一部のバグアのみ。シルバリーはミュウと会話が出来るが、ジライヤには二人の会話は耳鳴りのような物にしか感じられなかった。
「彼には彼の考えがあるのだろう。私達は指示に従っていれば良い」
「‥‥オーケイ。ミーは所詮雇われのシノービ、従いマース。バーット‥‥この状況、決して良くないのも事実デース」
 顎鬚を弄りながら考え込むシルバリー。確かにジライヤの言う通りである。
 現状、既に供給源勢力は傭兵に追い詰められているといっても過言ではないだろう。もうミュウを守る戦力もこの二人くらいしか残っていない。
「いや、或いは‥‥負けでいい、そういう事か」
「どゆことデース?」
「これで筋書き通り、という事かもしれんな」
 すっかり意味不明で困惑するジライヤ。シルバリーは何も語らぬミュウの横顔を眺め、笑みを浮かべるのであった。



「斬子さんには、もっともっと強くなって貰わねばなりません」
 もう半年も前になる。ネストリングの事務所でブラッドがマリスにそう語ったのは。
「いえ、斬子さんだけではありません。他にも候補となる能力者が居れば、一連の依頼でより強くなって貰わねば」
「いざヒイロちゃんが使えなかった時の予備って事?」
「何事にも万が一という事はありますから。実際、彼女はオオガミさんにとって必要な人ですよ。色々な意味でね」
 前髪を掻き揚げながら目を瞑るマリス。斬子がこの戦いを切り抜けても途中で倒れても、彼女にとって幸せな明日はないだろう。
「貴方はそうやって何もかも壊して進んでいくのね。子供の頃に思い描いた夢を、本気で叶えようとして‥‥馬鹿な大人」
 ブラッドは何も答えない。マリスは身を乗り出し、ブラッドに頬を寄せる。
「いつかは私も使い捨てるのね。赤祢や水鳥や紫先生をそうしたように」
「そんな事はしませんよ。マリスは僕にとって必要な人です。色々な意味でね」
 長年連れ添ってきたのだからわかる。ブラッドは今嘘を吐いている。彼がこういう優しい目をしている時は、大抵人を騙そうとしている時だから。
 何も言わずに背を向け立ち去る。別にそれでいい。騙されていていい。必要とされなくてもいい。いつか捨てられても、愛されなくても。
「それでも私は、貴方の夢を――護ってみせるから」
 死体の山の中で泣きじゃくっていた少女に少年は手を差しべてくれた。
 あの日死ぬはずだった自分の命は、全て彼の為にある。
 二十年越しに願い、祈り続けた夢の末路。見届けるその日は、目前に迫りつつあった。

●参加者一覧

UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
イレーネ・V・ノイエ(ga4317
23歳・♀・JG
米本 剛(gb0843
29歳・♂・GD
キア・ブロッサム(gb1240
20歳・♀・PN
加賀・忍(gb7519
18歳・♀・AA
湊 獅子鷹(gc0233
17歳・♂・AA
ラナ・ヴェクサー(gc1748
19歳・♀・PN
犬彦・ハルトゼーカー(gc3817
18歳・♀・GD
ティナ・アブソリュート(gc4189
20歳・♀・PN
月読井草(gc4439
16歳・♀・AA

●リプレイ本文

●終点
「これが‥‥これが終われば、本当に終わりなのかな‥‥」
 決戦の地を前に呟くティナ・アブソリュート(gc4189)。マリスはその横顔を覗き込む。
「まるで終わって欲しくないみたいな言い方ね〜」
「そういう意味じゃありませんけど‥‥」
 胸に手を当て俯く。ここに辿り着くまで長かった。そしてその道中拾い集めた疑念はまだ払拭されていない。
 この戦いが何の為にあったのか。どんな意味が、理由があったのか。分らないまま、決戦を迎えようとしている。
「日がな一日、苦虫を噛み潰したような顔をしていて楽しいか? 悩むくらいなら自分を信じて進むべきだ。そして後で後悔すればいい」
 コートのポケットに両手を突っ込み語る犬彦・ハルトゼーカー(gc3817)。その言葉はティナにだけ宛てた言葉ではない。
「分っていますわ。ここまで来た以上、後戻りをするつもりなんてありません」
 頷く斬子。ティナもそれに倣い、決意を胸に顔を上げる。
「答えは勝ち取るしかない‥‥私も、諦めたわけじゃありませんから」
「どうせ奴らは全員揃ってるんだ。折角逃げ場のない場所にいるんだ、自分で確かめてみればいい」
 腕を組む犬彦。しかし、なぜわざわざこんな場所に陣取っているのか。逃げ場が無いのは明らかなのだが‥‥。
「型は古いが、まだあれが動くようだから、ね」
 遠巻きに大型客船を眺めるUNKNOWN(ga4276)。
「まだ動いている以上、修理したのだろうね。中々いい趣味をしている‥‥」
「げっ、いつぞやの変態‥‥いつからそこに!」
 仰け反る斬子。UNKNOWNは煙草に火を点け微笑む。
「最初から、ずっと後ろに‥‥見覚えのある尻があったのでつい、ね」
「って変態じゃねぇか!」
「変態ではないね。私は初心者傭兵‥‥ジョ〜〜ン・山田。先輩、今日は宜しく頼むよ」
「ぐあああっ、イライラするー! こいつ絶対おちょくってますわ!」
 斬子が繰り出す拳を無表情に左右にぐらぐらしながらかわすUNKNOWN。その様子をキア・ブロッサム(gb1240)とラナ・ヴェクサー(gc1748)は肩を並べて見つめる。
「‥‥態々面倒事に首を差し出すとは‥‥物好き、ね」
「ま‥‥仕事ですから。報酬の為、頑張りますよ」
 二人は顔を合わせずに話す。単刀直入に言えば、気まずいのだ。
 実際の所別に仲が悪いわけではないのだが、素直になるには時間を共に過ごしすぎたのだ。
「ツンデレ! ツンデレの香りがするわ〜!」
 仰け反りながら叫ぶマリス。キアはそのふざけた態度に二重の意味で笑えない。
 あの日の銃声はまだ記憶に新しい。眩暈がする程正しい一撃は、しかしキアの胸をも同時に貫いていた。
「やはり‥‥変わりましたね、君は」
 ぽつりと呟くラナ。キアは腕組み目を瞑る。
「‥‥その話は後に。今は目の前の事に集中すべき、ね」
 苛立ちを悟られぬように軽やかに語る。ラナは指先で髪を梳き、片目を瞑る。
「言われるまでもありません」
「あらら〜‥‥若い女の子って難しいわぁ。私、嫌われちゃったかしら?」
 頬に手を当て眉を潜めるマリス。斬子は深々と溜息を一つ。
「当然ですわ。あんな事をしてよく平然としていられますわね」
「そうは言いますが、マリスさんの行動はむしろ筋が通っていたのではないでしょうか」
 斬子に歩み寄る米本 剛(gb0843)。そうして背後で手を組み語る。
「彼女は公平であり、誠実でした。その行動は少なくとも一貫して微塵のぶれもなかったのですから」
「‥‥米本さんは、なんでもいいから敵を殺すのが正しいと思うの?」
「そうではありません。感情があり、考える意志がある。我々は機械と違い力の使い道を選ぶ事が出来る‥‥それは素晴らしい事です」
 黙りこむ斬子。剛は眼鏡のブリッジを押し、苦笑する。
「善悪は時、場、人で変わる物‥‥絶対の正義等ありません。斬子さんのその迷いも、マリスさんの揺らぎない様も、どちらも正しいのですよ」
 斬子もそれは分っている。だからこそここまでやってきた。しかし素直に受け入れるには‥‥やはり、時を重ねすぎたのだ。
「流石米本さん、大人は良い事言うわね〜」
「いや、自分はただ‥‥マ、マリスさん!?」
 マリスに抱きつかれたじろぐ剛。ティナはそれを遠い目で眺めている。
「長話もいいけど、そろそろ行こうよ。逃げ場がないとはいえ、ずっとあそこにいるとも限らないだろ?」
 肩を回しながら語りかける湊 獅子鷹(gc0233)。その隣で月読井草(gc4439)がスクワットしている。
「こっちは既にあったまってるぜー! いつでもバトルの準備はOKだ!」
「‥‥と、言う事だ。そろそろ行くとしよう。怖気づいたというのなら、話は別だがな」
 笑いながら振り返るイレーネ・V・ノイエ(ga4317)の合図で傭兵達は動き出す。
 目指すは決戦の地。それぞれの答えをもぎ取る為に、戦士達は戦場へ向かう‥‥。

●主犯格
 照明に照らされ、夜の港に浮かび上がる大型客船。そこに供給源はいると睨んだ傭兵達は客船へ向かう班と倉庫街に残る班、大まかに二つにチームを分割した。
 倉庫街には供給源に残された最後の戦力がまだ残っている。最早逃げ場も無い親バグア兵達は、能力者相手に敵わないと知る戦いを挑まねばならない。
「流石に全戦力が配備されているだけの事はあるわね」
 至る所に配備された敵戦力を眺め呟く加賀・忍(gb7519)。高所からは夜目の利きそうなキメラが索敵に当たっているのだ、見つからずにというのは難しいだろう。
「こちらで連中の相手をする。騒ぎに乗じれば、容易に客船まで辿り着けるだろう」
 銃を手に淡々と語るマクシム。忍は刃を手に坂道を駆け下りていく。
「そういう事だから、お先に」
「狩りは猫の本能だ‥‥身体が勝手に動いちゃう!」
 更に坂を転がり落ちていく井草。それに斬子とマクシムが続き、最後に剛が振り返る。
「それでは、ご武運を」
 倉庫班の戦闘が開始され、彼方此方で銃声が聞こえてくる。スポットライトもそちらを捕捉しているようだ。
「私達も急ぎましょう」
「そうだな‥‥んっ?」
 遠くから聞こえる警笛の音に振り返るティナとイレーネ。音は客船から聞こえているようだ。
「なあ、もしかしてあれ、出航しようとしてるんじゃないか?」
 獅子鷹の声に顔を見合わせる二人。UNKNOWNはその肩を叩く。
「慌てる事はないよ。ここからなら十分間に合うから、ね」
「とりあえず‥‥走るか」
 呟く犬彦。こうしてこちらも大型船に向け移動を開始した。
「き、来たぞ! 能力者だ!」
 倉庫に突入した傭兵達を一般兵が銃火器で迎撃する。しかしそれでは足止めにもならない。
「撃て! 撃ちまくるんだ!」
 放たれたロケット弾の一撃が傭兵達の姿を吹き飛ばす。その炎を抜け、忍は敵兵に襲い掛かる。
「‥‥手応えのない相手ね」
 次々に斬り倒されていく一般人。忍は退屈そうに血を振り払う。
「死にたくないなら出て来ないの! どうしてまだ戦うの!」
 斧を下ろし叫ぶ斬子。最早供給源に後が無い事は明白、ここで戦っても彼らに利などないのだが‥‥。
「なんだなんだー、ザコばっかりじゃないか! ツワモノはいないのかー!」
 剣をふりふり叫ぶ井草。一般兵は完全に傭兵達に圧倒されている。
「ジライヤ殿は居られるか! 先日の闘争の続きと行きませんかな?」
「そうだー、出てこいジライヤ! この猫侍と尋常に勝負しろ! いっちょ世界忍者戦といこうじゃないの!」
 剛と共に叫ぶ井草。すると、どこからとも無く口笛らしき音色が聞こえてくる。
「天が呼ーぶ、地が呼ーぶ‥‥皆が呼ぶ! ご来店マコトにアリガトゴザマース! スーパー忍者、ジッラァアアイヤ‥‥トゥッ!」
 倉庫の上から飛び降りるジライヤ。着地と共にポーズを取る。
「只今参上! 久しぶりデースね、野郎共!」
 赤いマフラーをはためかせサムズアップするバグア。その傍に無数の忍者キメラが降り立つ。
「‥‥攻撃しちゃいけない気がする」
 冷や汗を流す斬子。ジライヤは肩を竦める。
「イジメかっこ悪いデース。ここからは拙者が相手をしマース」
 そしてバグアは片手をヒラヒラと振り、
「ユー達は逃げなサーイ。命は投げ捨てる物ではナーイ」
「でも‥‥あいつらはレギン兄ちゃんを殺したんだ!」
 一般兵の中、少年が叫ぶ。すると口々に周囲もそれに続く。
「あいつらには仲間を大勢殺られた! 皆良い奴だったのに‥‥!」
「それはミュウも同じ事デース。ユーらの半分くらいはミュウに殺されたも同然デース。悪いのは彼らだけではない‥‥そうでショウ?」
 ジライヤの言葉に泣き出す人々。そしてバグアは傭兵達に歩み寄る。
「戦場に正義無し道理無し。悲しいかな、これって戦争なのよネ。拙者もユー達も雇われ、戦争は傭兵同士でするものデース!」
 後退していく一般人達。残ったのはジライヤを初めとした忍者隊のみである。
「貴方の武、確かに拝見しましたぞ」
「味方逃がしちゃって良かったのかー?」
「問題ナッシン。何故なら、拙者はベリー最強故に!」
 剛と井草の問いにツインアイを輝かせるジライヤ。ビーム刀を抜き、傭兵達へと襲い掛かった。
「ミュウの事情は知ったこっちゃねぇデース。こっちはこっちでレッツパァアアリィイイ!」

「見えた‥‥あそこから飛び移れそうだな」
 倉庫街を駆け抜ける客船班。既に動き出している客船だが、十分乗り移る事は可能だ。
 呟くイレーネを追い抜き船へ飛び移るラナとキア。続いてティナ、犬彦、獅子鷹が突入に成功。イレーネは先に飛び移り、後からとんだマリスの手を掴む。
「うむ。時間ぴったりだね」
 最後に悠々と片手で帽子を押さえUNKNOWNが到着。傭兵達は周囲を見渡すが、敵の姿は見えない。
「なーんか、すんなり行きすぎじゃない?」
「陽動が成功しているだけとは思えませんね」
 呟く獅子鷹とティナ。犬彦は首を横に振り、
「何だろうが構わん。やる事が変わるわけでもなし」
「‥‥では、予定通りに。我々は船を停止させに向かいます」
 頷くラナ。UNKNOWNは船から身を乗り出し周囲を眺めている。
「これはプレミアムクラスかな? 構造には覚えがある‥‥こちらは任せたまえ」
「細かい事は任せるよ。俺達は供給源を叩く。まあ、問題は探さなきゃいけないって事なんだけど」
 面倒臭そうに呟く獅子鷹。それにイレーネは腕組み微笑を向ける。
「それならば簡単だ。親玉のいる場所など、相場が決まっている」
 こうして船を停止させる為にキア、ラナ、UNKNOWNの三名が。そして残りのメンバーが供給源討伐の為に行動を開始した。
「で、その親玉がいる場所ってのは?」
「何と無く分るだろう? 堂々と目立つ場所だ。半分くらいは希望に過ぎんがな」
「そんな分りやすい所にいるかあ?」
 首を傾げる獅子鷹。そうして傭兵達が向かった先、供給源はパーティーホールを改造した大部屋で豪華な椅子に腰掛けている。
「いるし‥‥」
「あれが供給源か。これまで散々こそこそさせられたんだ。今回は正面から派手に行かせて貰う」
 腕を回しながら歩み寄る犬彦。供給源は席を立ち、自らが座っていた椅子を雷撃で吹き飛ばす。
「供給源‥‥貴方が諸悪の根源、ですか」
 二刀を構え眉を潜めるティナ。青白い光を放つ異形は襤褸の布をはためかせ瞳を輝かせる。
「強そうじゃん。いいね、面白そうだ」
「生半可な相手ではないという事か。マリシャ、頼りにしているぞ」
 片手で刃を振り笑みを浮かべる獅子鷹。イレーネは銃を構えマリスに笑いかける。
「私に優しくしてくれるのはイレーネちゃんだけよ〜、うるうる」
「まあ、貴公の組織の事は自分に関係ないからな。貴公と共に往く闘争は楽しい‥‥それだけだ」
 光を帯び両腕を差し伸べる供給源。まるで誘うように、傭兵達を手招きする‥‥。
「――狼藉はそこまでにして貰おうか」
 一方、船の停止に向かった三名。こちらはUNKNOWNに連れられ舵を破壊、これから機関室へ向かおうとしていた所であった。
 狭い通路の向こう、暗がりより燕尾服の老人が姿を現した。三人はそれぞれの反応でシルバリーと対峙する。
「ふむ、おかしいな。見取り図にはここに老人が居るとは書いていないのだが、ね。さて、どうしようか?」
「僥倖です、ね。彼が此方にいる以上、供給源の守りは手薄だという事です。ヴェクサーさん‥‥ここは私が」
「いえ、私が時間を稼ぎます‥‥その間にキア君は機関室へ」
 構える二人。それから互いに視線だけで見つめあう。
「‥‥私が残ります。あれは以前、依頼で遭遇していますし」
「時間稼ぎは私の方が得意です。それに‥‥今のキア君にやれますか?」
 構えたまま無言で睨み合う二人。その間に男は割って入る。
「二人の気持ちは分ったから、ね。船の停止は私が任されようじゃないか、うん」
 振り返る二人。男は二人の頭を両手で撫で、一歩後退する。
「どこへ行くつもりだ。狼藉は許さんと言った筈だぞ」
「機関室へ行く‥‥と、言った筈だが?」
 UNKNOWNは拳銃より火炎弾を放ち壁に大穴を空ける。二人の仲間に軽く手を振り、ゆっくりと歩き出した。
「直ぐに戻る‥‥それまで任せるよ」
 舌打ちし動き出すシルバリー。そこへ正面からラナとキアが迫る。
「貴方の相手は‥‥!」
「――私達です!」

●決戦
「供給源‥‥貴女達は何の為に‥‥彼女達は、何の為に‥‥」
 ホールで供給源と対峙し、悲しげに呟くティナ。異形は首を擡げ、腕を伸ばす。供給源が言葉を返そうとしているのか、耳鳴りの様な音、そして通信機から盛大にノイズが聞こえてくる。
「無駄よティナちゃん。あいつは人間じゃない。真っ当な会話は不可能よ」
 マリスの声に肩を落とすティナ。結局何もわからないままで、これが最後になってしまうのだろうか?
「どんな相手かもわからんからな。とりあえず突っ込む」
 槍を手に駆け出す犬彦。イレーネはすぐさま攻撃を仕掛けようとするが、それより遥かに早く供給源は指先から雷撃を放つ。
「――うぐっ!?」
 犬彦はこれを防御しようと試みるが、全く追いついていない。身体を射抜いた光の一撃に仰け反り、膝を着いた。
「やばいな。全然見えなかった」
「リーダー、避けて避けて!」
 乾いた笑みを浮かべる獅子鷹。マリスの声に犬彦は慌てて動き出すが、その身体を閃光が連続で貫いた。
 目を白黒させながら吐血する犬彦。更に両腕を伸ばし、供給源は傭兵達へ一斉攻撃を開始する。
「走って!」
 ティナの叫びで一同は別方向へ飛び散る。供給源の攻撃は壁や天井、床を派手に粉砕しながら傭兵達へ追従してくる。
「見てからじゃ間に合わないわ! 動き回りながら戦うしかない!」
 叫びながら拳銃を連射するマリス。イレーネは物陰に飛び込むが、雷撃は意に介さず突き抜けてくる。
「うわースッゲー怖いわ! 出鱈目過ぎだよ、こいつ!」
「く‥‥っ、しびれるな」
 頭を振って立ち上がる犬彦。口元の血を拭い構え直す。
「無事か、ハルトゼーガー!」
「無傷とはいかんが、うちなら耐えられん事もない。食らうと動きが止まる。見てからでは防御も回避も間に合わん。以上、まとめ」
 イレーネにサムズアップする犬彦。ティナはバックステップの連続で攻撃をかわしつつ叫ぶ。
「連携して仕掛けましょう! 一か八かになりますが、幸いここは広さがあります! 意識を散漫にさせれば、或いは!」
「それしかないわよね〜。というわけで、リーダーもう一回お願い!」
 槍を回し走り出す犬彦。味方への雷撃をその身に受け、何とか耐え凌ぐ。
「か、過労死する‥‥」
 更にエネルギーを収束しての一撃。爆音と共に犬彦は光に飲み込まれた。
「――がああああっ!?」
 その間にイレーネとマリスは左右へ移動。お互いに拳銃で供給源を撃ちまくる。しかし銃弾は供給源へ命中直前に帯電しているエネルギーで減衰されるらしく、効果は今ひとつだ。
「なら直接叩き斬る!」
 走って背後に回りこむ獅子鷹。ティナは迅雷でその反対に回り混み、距離を置いて斬撃を放つ。
 これに対し供給源は布を剥ぎ取り、背中から六本の触手を伸ばす。ティナは飛び退き回避に成功したが、獅子鷹はこれに絡まれてしまう。
 触手から直に放電をくらい、投げ飛ばされる獅子鷹。ふらついていた犬彦に命中し、二人は纏めて派手に吹っ飛んだ。
「あらら〜? これってもしかして‥‥ピンチ?」
 冷や汗と共に呟くマリス。供給源はエネルギーを収束、全方位目掛けて光を放出した‥‥。

「手加減無用! 最初から全力で行くデース!」
 一方、倉庫街。ジライヤが放出した霧が景色を包み込んでいく。
「またこの霧‥‥!?」
 視界の悪さに舌打ちする斬子。そこへ次々に忍者キメラが襲いかかってくる。
「皆さん、自分からあまり離れないで下さい!」
 斧から刀に持ち替える剛。すっかり敵の動きは予測出来ず、忍者キメラに反撃を当てる事も難しい。
「霧から離脱するのはどうですの!?」
「これはジライヤを中心に発生している。奴より早く動ける奴でなければ意味がない」
 斬子の声に冷静に応じるマクシム。忍と井草はキメラの斬撃を防ぐのでやっとの状態だ。
「ただでさえ速いのに、厄介ね‥‥」
「もっと狭い所に移動したらどうだ!?」
「そうね。閉所なら奴らの機動力を抑えられるかもしれない」
 井草の提案に頷く忍。こうして傭兵達は倉庫街を走りぬける。
「無駄無駄デース! どこに行っても逃げ場はありまセーン!」
 飛来する手裏剣を背中に受ける剛。傭兵達はダメージを受けつつ移動、袋小路に逃げ込んだ。
「ここならば、彼らの動きをある程度予測出来る筈です」
 振り返り構える剛。ここならば敵は正面から、或いは上からしか襲ってこない。そこまでわかっていれば先ほどまでよりはマシだ。
「視角に頼りすぎるなって事ね‥‥本当、いい修行になるわ」
 息を吐き構え直す忍。周囲の音や風の流れ、視覚以外の五感を使い相手の挙動を予測しなければならない。
「まるでアニメかマンガね‥‥!」
「あたしはスキルのお陰で霧の影響をあまり受けずに済んでる。敵が来る方向くらいは指示出来るよ」
「では、反撃開始と行きましょうか」
 身構える傭兵達。そこへ忍者キメラが接近する。
「正面から来るよ! 壁を蹴って上からも来る!」
 前に出て二丁拳銃を連射する剛。そこへ霧を突きぬけキメラが跳んでくる。井草はこれを剣で迎撃、上から来る個体は忍が跳躍し刃で打ち返す。
「斬子、使え!」
 マクシムから受け取った短剣に構え直す斬子。斧は大きすぎてどうにも使い辛いのだ。
 そのマクシムは前衛の戦闘の様子を確認し小銃で攻撃。この中で彼の命中精度は最も優秀であり、確実なダメージソースとなった。
「どうしたデース、ユー達の実力はその程度デスか? これならジジイの援護に行った方が良さそうデースね」
「待てこらー! 逃げずに戦えジライヤ!」
 叫ぶ井草。ジライヤの声はどこからか響いてくる。
「ユー達では拙者には勝てまセーン。今拙者が攻撃に参加すれば、ユー達はケチョンケチョンデース」
「こいつ‥‥」
 眉を潜める忍。しかし状況はジライヤの言う通りだ。高機動力のキメラ複数を相手にするだけでも手一杯なのだから。
「拙者、そいつらの倍は速いデース。ニンジャーコロイドがあれば尚更デース」
 話の間もキメラは攻撃の手を緩めない。傭兵達は少しずつ反撃を開始しているが、状況を改善するには遠く。
「ユー達、本当に拙者を倒しに来たデースか? だとすれば、ナメられまくりデース」
「あの変態、言わせておけば‥‥!」
 歯軋りする斬子。マクシムは首を横に振る。
「奴の言う通りだ。このチームで奴を倒すには抜本的に戦略と戦力が不足している。せめて霧さえなんとかなればな‥‥」
 幸い剛を筆頭に全員打たれ強さはあり、井草の回復とあわせれば簡単に負ける事もない。しかし同時に決め手にもかけてしまっている。
 今はキメラだけが相手だからやや優勢だが、ジライヤが加われば一気に戦況はひっくり返るだろう。
「とは言え、拙者の仕事はただの足止め‥‥故に命まではとりまセーン。精々そこで翻弄されているといいデース」
「――なんですって?」
 目を細め虚空を睨む忍。言い返したいのは山々だが、そんな余裕も無いのが現実である。
「挑発かもしれん。熱くならず、飛び出すな」
「言われなくても分っているわ‥‥」
 マクシムの声に頭を振る忍。熱くなって飛び出せば敵の思う壺だ。今は何とか耐え凌ぐしかない‥‥。

「小娘二人で私の相手とは‥‥馬鹿にされた物だ」
 船内、シルバリーと戦うキアとラナ。二人はあんな様子だった割には上手く連携し、強敵相手に引かぬ展開を繰り広げている。
「‥‥強敵ね。油断せず、お互い足を引っ張らずに、ね」
「当然です。死なず‥‥生きて、帰りましょう。私も‥‥貴女も」
 頷きあう二人。シルバリーは全身に銀色の光を纏い、一気に距離を詰める。
 これにキアは拳銃を連射し迎撃。ラナは跳躍、空中からシルバリーに蹴りかかる。
「ふはは、無駄だ小娘! 貴様らに出来る事などありはしない!」
 銃弾を腕で次々薙ぎ払い、蹴りも受けるシルバリー。ラナは空中で方向転換し、シルバリーの背後に着地。爪で襲い掛かる。
 ラナの連続攻撃を払い除けるシルバリー。更に反撃を放つが、ラナはこれを回避。そこへ背後から接近したキアが爪を振るう。
「ふん、小癪な!」
 片手で受け止めるシルバリー。同時にラナは屈み、足払いを放つ。体勢が崩れた隙に距離を取り拳銃を連射するキア。ラナはその射線上から空中を蹴り移動。同時にシルバリーの反撃を回避する。
 光を帯びたラナの爪とシルバリーの拳。これが高速で打ち合い火花を散らす。老人は眉を潜め、ラナの瞳を見つめる。
「ほう‥‥その歳でよくぞここまで」
 両腕を左右に突き出し、オーラを放出するシルバリー。狭い通路を突き抜ける閃光を二人は跳躍して回避。大きく距離を取って構え直す。
「‥‥私も老いたな。小娘二人に留められるとは」
 心臓の音が激しく高鳴るのを感じる。この敵は強い。まともに一撃でも貰えば、恐らく次はないだろう。
 二人は目の前の敵にただ集中する。余計な事を考えれば負ける。相手を信じて戦う、それ以外に生き残る術はないのだ。
 と、その時。船全体を突き抜ける激しい衝撃と爆発音が聞こえた。しかも一つではなく二つ、上下からである。
「船が‥‥!」
 片方はUNKNOWNが船を停止させた音だろう。なら、上からの音は‥‥。

 頭上を二人が見上げた頃。屋根が吹き飛んだ船上にて供給源が風に吹かれている。
 激しい戦闘の余波を受け、元のホールは見る影もない。星空の下、傭兵達は供給源と対峙する。
「奴め、船がどうなろうがお構いなしか」
 風に髪を靡かせ呟くイレーネ。転がっていた犬彦が立ち上がり、頭を振る。
「い、犬彦さん‥‥大丈夫ですか?」
「ああ。だがこの調子だと流石にしんどい。どう出る?」
「方法はいくらかあるが、どれも難しいなあ」
 溜息を漏らす獅子鷹。マリスは拳銃を片方納め、盾に持ち替える。
「一気にケリをつけるしかないわ。奴に有効打を与えるには直接攻撃、或いは意識外からの不意打ちが有効ね」
 銃弾を雷撃で弾かれたが、常に全身に発動しているバリアとは違う。ならば不意打ちならば通じるという事だ。
「私とイレーネちゃんなら変則的な銃撃が可能よ。ついでに私の目なら雷撃も受防出来る。彼女は私が守るから‥‥」
「うちは二人と一緒に突っ込めばいいのか」
 頭を掻く犬彦。ダメージで身体が重いが、他に有効打を与える方法がない。
「やるしかありませんね‥‥」
「あれ全部掻い潜って斬れってか。面白いじゃん」
 頷くティナ、笑う獅子鷹。供給源は目を細め、手招きする。
「待ってましたってか?」
「ここで会ったが百年目‥‥お望み通りケリをつけてやる」
 槍を手に走り出す犬彦。それに獅子鷹とティナが続く。
 供給源は無数の触手を伸ばし、三人を迎撃。これをイレーネとマリスが銃撃で撃ち落し、獅子鷹とティナがそれぞれ切り払う。
 降り注ぐ雷撃。前衛はそれぞれかわしながら何とか前へ。後衛への攻撃はマリスが盾を振るい打ち払う。
「くっ、こんなの良く耐えるわね、彦ちゃんは‥‥!」
「マリシャ!」
 イレーネの声に顔を上げるマリス。二人は拳銃を構え引き金を引く。狙いは供給源ではなくその周辺。残った床や壁に弾丸を反射させ、攻撃を狙う。
 銃撃を受け怯む供給源。全身に帯びた光を掌に収束し、巨大な雷撃を放つ。
 犬彦は槍を回し、紋章を展開。吸い寄せられるように雷光は犬彦に直撃し、轟音が鳴り響く。
「このチャンス、逃しません!」
 犬彦の影から飛び出す二人。ティナは背後に素早く回り混み斬撃を放ち、獅子鷹は前転気味に飛び込みながら刃を抜く。
「この位置なら‥‥!」
 起き上がると同時に供給源の顎を蹴り上げる。そうして刃を振り上げ、紋章を帯びた刀で鋭く斬りつけた。
 衝撃で更に崩壊が進む船。舞い散る瓦礫を吐きぬけ、槍を手に犬彦が迫る。
 触手を伸ばし犬彦を迎撃する供給源。これをティナが遠距離から斬撃を放ち切断、道を開く。
「お返しだ」
 供給源に槍を突き刺したまま走る犬彦。壁に供給源を縫いつけ、もう片方の槍で更に連撃を放つ。
 吹き飛んだ壁と共に甲板に転がる供給源。身体をぐねぐねとうねらせ、声にならない声を上げる。
 スーツが爆発し、中身がグロテスクに飛び散る。それも暫く動き回っていたが、やがて水のように変化するとスーツから漏れ出し動きを停止した。
「‥‥やった、のか?」
 呟く獅子鷹。犬彦はその場に倒れこみ、そこへティナが駆け寄る。
「犬彦さん!」
「プロトン砲より効いた‥‥もう動けん」
「心配無用だ、ね」
 と、そこへ下方から声がする。床をぶち抜き、UNKNOWNがキアとラナをつれて颯爽と登場、周囲を見渡す。
「ほう、もう終わっているね。怪我人の治療はこのジョン・山田が引き受けようか、うん」
 犬彦に練成治療を施すUNKNOWN。キアは倒れている供給源を一瞥する。
「シルバリーは‥‥急に慌てた様子で‥‥逃げ出しました。これを察知して、でしょうか」
「ていうかこの船沈むんじゃないの?」
 呆れた様子で呟く獅子鷹。船はとっくに停止、しかも激しい戦闘の余波ですっかり傾いている。
「救命艇の用意は出来ている。シルバリーのように、寒中水泳を楽しむ必要はないよ」
 治療を終え立ち上がるUNKNOWN。こうして傭兵達は沈む船から脱出するのであった‥‥。

「ミュウ‥‥まさかくたばったデスか?」
 何かを察知し振り返るジライヤ。霧の放出を止め、倉庫の上から傭兵達を見下ろす。彼らは既にキメラを倒し、ジライヤを睨んでいた。
「クライアントがいなくなっては拙者の仕事は終了デース。ユー達の仲間が戻る前にドンズラしマース」
「待てこの野郎ー!」
 超機械で攻撃する井草。ジライヤは飛び退き指を振る。
「縁があればどこかの戦場で会うデース。その時までに腕を磨いておくと良いデースよ。シーユー!」
 加速と同時に屋根を吹き飛ばす勢いで跳躍。ジライヤは彼方へ姿を消した。
「‥‥私達の負け、ね」
 刀を収め呟く忍。井草は涙目で地団駄踏んでいる。
「しかしジライヤ殿のあの様子、向こうは上手くやったようですな」
「ああ。それなら俺達の勝ちだ。気を落とす必要はない」
 忍と井草の肩を叩くマクシム。斬子は深々と息を吐き、空を見上げた。
「終わった‥‥やっと‥‥終わった」



 船から脱出した班と合流し、傭兵達はお互いの状況を報告した。
 シルバリー、ジライヤには逃亡されたが、肝心の供給源は船と運命を共にした。組織の中心にあったミュウが落ちた以上、彼の組織は壊滅したと言えるだろう。
 その後倉庫街を調査した傭兵達は様々な資料を入手。量が量だけに時間はかかるだろうが、組織の全貌も明らかになるかもしれない。
「やはり供給源は我が宿敵にあたわず、か」
 海を見つめるイレーネ。ティナは海を眺め、これまでに戦いに想いを馳せる。
「‥‥終わりましたよ。もう、悲しい戦いが起こる事もありません」
 入手した手掛かりから、もしかしたら彼女が望む真実も手に入るかもしれない。そういう意味ではまだティナの戦いは終わっていないのだが。
「ま‥‥今日の所は及第点‥‥。助かった、かな」
 肩を並べ海を見つめるキアとラナ。キアの言葉に肩を竦め、ラナは背を向ける。
「全員無事に帰ってこられたんです。そんな顔をする必要はありませんよ‥‥」
 背を向けたままのキア。立ち去っていくラナの足音を聞き、キアは小さく息を吐いて空を見上げた。



 こうして供給源との戦いは幕を下ろした。
 逃げ出した親バグアはの人間については、UPCやネストリング側が後始末をする事に決まった。そして‥‥。
「よかったわね。もうこれで可哀想な流浪の民を殺す必要は無くなったわ」
 倉庫街にて斬子に声をかけるマリス。斬子は振り返り眉を潜めた。
「わざわざ残って話をするって、そんな嫌味を言いに来たんですの?」
「まさか。今後に必要な大事な話よ」
 微笑と共に歩み寄るマリス。と、突然斬子の背後を睨みながら銃を抜く。
「シルバリー、こんな所に!」
「えっ!?」
 振り返り斧を構える斬子。その背中に向かってマリスは引き金を引いた。
 背後から胸を撃たれ倒れる斬子。その身体を踏みつけ、マリスは溜息を漏らす。
「マリス‥‥マリシャ。あな、た‥‥は‥‥」
 言いかけた斬子の瞳に狙いを定め、引き金を引く。闇を光の瞬きが照らし、再び全ては静寂へと包まれた。