タイトル:去りゆく君へマスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/03/24 02:15

●オープニング本文


「スバルちゃん、覚えてるですか? ヒイロとスバルちゃんに出会った時の事」
 病室のベッドに横たわったスバル。その傍にパイプ椅子を置き、ヒイロは腰掛けながら声をかける。
 あれは丁度一年ほど前の事。ヒイロがやたらと入退院を繰り返す知り合いの見舞いに来た時の事であった。
 いつも決まって一人で病院の中庭でベンチに腰掛けていたスバル。ヒイロが声をかけたのは偶然だったが、今思えば必然だったのかもしれない。
「ヒイロと出会わなければ、スバルちゃんは傭兵にならなかったのかな。そしたら、今はもっと違ったのかな」
 悲しげに呟くヒイロ。ベッドの上に横たわるスバルの顔色は蒼白で、体中に複雑に伸びた医療機器に囚われているかのようだった。
 スバルの病状は日に日に悪化していた。彼女は何も変わっていない。一人でこの部屋に居た時から、何一つ。
「オオガミさん‥‥来てたんですか」
 今気付いたのか、ゆっくりと瞼を開けるスバル。ヒイロはその手を取り顔を寄せる。
「ごめん、起こしちゃったかな」
「いえ‥‥。全く、大げさですよね。依頼に出る度病室に突っ込まれるなんて」
 身体を起こし微笑むスバル。あれから何度も戦場に出たスバルだったが、まともに動けるのは覚醒している間のみ。そうで無い時は殆ど倒れるように眠り続ける毎日だ。それが無理以外の何者でもないとヒイロは知っていたが、止める事もやはり出来なかった。
「スバルちゃん‥‥」
「そんな顔しないで下さい。全部自分で選んだ事です。誰の所為でもないし、これで良かったんですよ」
 優しく語りかけ、頭を撫でるスバル。ヒイロは目を瞑り歯を食いしばる。
「ごめんねスバルちゃん。私は君に何も出来ない。君が死んでいくのを、黙って見ている事しか‥‥」
「それでいいんです。元々、そう私がお願いした事ですしね」
 スバルが戦う理由もヒイロは速い段階で知っていた。同時にヒイロは助力を申し出ていたが、その申し出はスバルによって拒否されていた。
「オオガミさんにはオオガミさんの道がある筈です。私に構っている暇はないでしょう」
「‥‥そうだね。それに今の君には君が自分で手に入れた仲間がいる。君はもう、私だけの友達じゃない」
 穏やかに頷くスバル。ヒイロは寂しげに微笑み、それから握り拳を作る。
「大丈夫! スバルちゃんが死んでも、ヒイロはスバルちゃんを忘れないのですよ! ずっとずっと、友達なのです!」
「無理はしなくていいんですよ。死んで他人の重荷になるのは御免ですから」
「へーきへーき、ヒイロもう結構色々な人の死を背負ってるから! 一人増えたくらいへっちゃらなのです!」
 冗談なのか本気なのか胸を叩いて豪語するヒイロ。スバルは冷や汗を流しつつベッドに再び倒れこむ。
「そうですか。それなら安心です」
「うんうん。ドーンと、泥舟に乗った気持ちでいいのですよー」
「‥‥可哀想な人ですね、貴女も」
 聞こえないように呟いた言葉。ヒイロは小首を傾げている。
「そうだスバルちゃん。折角なので、死ぬ前に何かとっても楽しい思い出を作るのですよ」
「と言われても、私が死ぬ事は秘密にしたいのですが‥‥。他の方々に変な物を背負わせたくないので」
「うーん。じゃあ、お誕生日会でもするですか? この間はヒイロの所為でやり損ねたわけですし」
「いや、誕生日会っていうか、死ぬんですけど‥‥」
 滝のように汗を流すスバル。ヒイロは無邪気に笑い、腕組み思案する。
「じゃあ、例の如くみんなに考えてもらうのですよー」
「ですから、死ぬのは秘密ですと‥‥」
「死ぬ事は伏せておくよ。まあ、感づいている人はいるかもしれないけど、それはヒイロの所為じゃないから知らないのです」
「貴女という人は‥‥まあ、良いでしょう。この身体もいよいよポンコツで言う事を効かなくなってきましたし、そういう事が出来るのも最後でしょう」
「じゃあ決まりだね! ヒイロがなんか素晴らしいサプライズを考えておくので、スバルちゃんは首を洗って待っているのですよー!」
 手をぶんぶん振って部屋を飛び出していくヒイロ。スバルはそれを見送り目を閉じた。
「‥‥ありがとう、ヒイロ」
 廊下を歩き、エレベーターに乗り込むヒイロ。一階へと向かう小さな箱の中、少女は天井を見上げる。
 ゆったりとした振動を感じている間だけ、悲しい顔をしてみる。締め付けるような胸の痛みに手をやり、忘れぬようにと握り締めた。
 病院にも桜の花弁が舞う季節がやって来る。一年限りで続いた夢も、終わりを迎えようとしていた。

●参加者一覧

上杉・浩一(ga8766
40歳・♂・AA
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
ヨダカ(gc2990
12歳・♀・ER
巳沢 涼(gc3648
23歳・♂・HD
三日科 優子(gc4996
17歳・♀・HG
茅ヶ崎 ニア(gc6296
17歳・♀・ER

●リプレイ本文

「ふわぁ〜あ、こう天気がいいと眠くなってくるねぇ‥‥」
 身体を反らし、大きく伸びをしながら欠伸をする巳沢 涼(gc3648)。今日は快晴、出かけるにはいい天気だ。
 ヒイロの依頼を引き受けた傭兵達。彼らは相談の結果、スバルをつれて梅の花を見に行く事に決めた。
「スバルちゃん最近元気ないんだって? 大丈夫、ピクニックに行きゃ疲れなんか一発で吹っ飛ぶぜ!」
 白い歯を見せ笑う涼。一方スバルは既に車椅子に座った状態で、三日科 優子(gc4996)に押して貰っている。
「そうですね。車椅子というのは、少々大げさな気がしますが」
「まあ、久しぶりやしええやないの。戦闘中じゃこういうわけにはいかんしな」
 照れくさそうなスバルに笑いかける優子。ヒイロはそれを遠巻きに優しい眼差しで眺めている。
「スバルの奴‥‥本当の所はどうなんだぁ?」
 その隣に立つレインウォーカー(gc2524)。目線だけヒイロに向けるが、少女は黙りこくっている。
「なんでこういう事ばっかり気付くんだろうな、ボクはぁ‥‥」
 肩を竦めるレインウォーカー。彼は以前からスバルの事を気にかけていたし、彼女が戦う理由を知っている。そう言う人間からしてみれば、スバルに残された時間が少ない事は気付けない現実ではないだろう。
「だとしても、それがスバルちゃんの決めた事だから‥‥」
 首を横に振るヒイロ。腕を組み、レインウォーカーはヒイロに向き合う。
「楽しい思い出を作れるといいな、二人共。楽しくて、大切な思い出を」
 それからおどけた様子で片手をひらひらと振って見せ、
「そうそう、あの時の事、ボクは気にしていない。だからお前も気にするなよぉ、ヒイロ」
「あの時と言うと‥‥いつの事だったですかねー?」
 惚けた様子で唇を尖らせるヒイロ。二人は顔を見合わせ、穏やかに笑っている。
「ほらほら、さっさと行くわよー! 今日は色々予定が詰まってるんだから!」
 二人の内緒話を見つけ、手を振る茅ヶ崎 ニア(gc6296)。道化と犬は顔を見合わせ、同時に軽く手を振って応じた。
「ふっふっふ‥‥今日はとっておきを用意してあるのですよ。す〜ちゃんは楽しみに待っているといいのです!」
 胸を張り、スバルに語りかけるヨダカ(gc2990)。スバルは以前とは異なり、無邪気な笑顔を浮かべている。
「あの時は‥‥確か、桜だったな。一年というのは、早いものだ」
 丁度一年ほど前、上杉・浩一(ga8766)はまだ能力者になる前のスバルと出会った。
 あの時のスバルは、笑顔の裏に歪んだ想いを抱えていたように思う。しかし今のスバルはいい意味で以前とは違う。
「一年か。人が変わるには、十分な時間だな」
 一人呟き仲間達の後を追う浩一。こうして一行は移動を開始するのであった。

「というわけで、茅ヶ崎さんと一緒に探しておいたぜ。LHの梅の名所をな」
 案内をしたのは涼だ。丁度綺麗に咲き始めた梅の花を眺め、一行は感嘆の声を上げる。
「これはなかなかだな‥‥良く見つけたじゃないか」
「LHって、探せばなんでもあるんじゃないかな」
 浩一に続き呟くヒイロ。涼は腕組みしきりに頷いている。
「いやー、見つからなかったら日本まで行かなきゃならなかったしな。良かったよ、うん」
「きれいなものね〜。まだ春は遠いけど、花は咲くんだ」
 ニアの一言で何と無く感慨深い雰囲気になる。その空気を仕切り直したのは当人である。
「おほん‥‥そんな事より、力の限り遊ぶわよ! 青春は待ってくれないのだから!」
 握り拳で高らかに宣言するニア。涼はポンと手を打ち、荷物を漁り始める。
「そうそう、あんまり身体を動かさずに遊べそうな道具を持ってきたんだよ‥‥ほら!」
 いい笑顔で取り出したのは携帯麻雀セットである。ちょっと微妙な間があった。
「そこで麻雀に行っちゃうのがー、実に涼君なのですよー」
「巳沢さん、麻雀好きよね」
「しょうがないだろ、流行りの遊びなんか思いつかねぇんだから! あと麻雀は好きだ!」
 ヒイロとニアの視線に慌てる涼。結局麻雀は打てる人間が限定されていたので、トランプという事になった。
「それはいいですが、肝心のお弁当はどこですか?」
「焦らんでもちゃんと作って来とるよ。うーん‥‥そうやな。飲み食いしながら適当に騒ぐんがええかな」
 中にはどう見ても保護者サイドの人間が混じっている。そういう人達はちびちび酒でも飲みたい所だろう。そう思い直し、優子は弁当を広げる事にした。
「ほーらヒイロ、肉やでー。スバルは野菜やな。皆もサンドイッチ、適当に摘んでな」
「私も肉用意しちゃったのよね。丸かぶりだけど、まあ別にいいか。ヒイロだし」
 ニアの言う通り、ヒイロは量が多いに越した事はない。種類よりも量。味よりも量である。
「ヨダカは手作りの和菓子を持ってきたのですよ!」
 取り出した竹筒を開くと、水羊羹とわらび餅が綺麗に詰め込まれている。スバルの体調を配慮し、あまり噛まなくてもいい物を選んだ結果だ。
「わー! ヨダカちゃん、和菓子作れるですか! いただきまーす!」
「って、なんでヒオヒオが食べまくってるですか!?」
「ヒイロ、和菓子大好き!」
 がっつくヒイロに冷や汗を流すヨダカ。咳払いを一つ、切り分けた水羊羹をスバルに差し出す。
「はい、す〜ちゃん。あ〜ん‥‥ですよ?」
「あはは‥‥なんだか照れますね。それじゃ‥‥あーん」
 口を開けるスバル。が、そこでヒイロが横取りしてしまう。満面の笑みで食べ尽くすヒイロにヨダカは眉を潜める。
「話聞いてなかったのですか!? ヨダカはす〜ちゃんにあーんしたのですよ!」
 ヒイロのほっぺたを摘み睨みつけるヨダカ。ヒイロはアホ面でぽかーんとしている。
「ヒイロ、沢山あるから落ち着いて食おな?」
 苦笑を浮かべる優子。涼は日本酒を取り出し声をかける。
「それじゃあ、スバルちゃんの傭兵生活一年達成を祝して乾杯と行くか!」
「いえ、まだですよ。一年達成はフライングです」
「ありゃ、そうだったか? まあなんでもいいじゃねぇか、乾杯乾杯!」
 こうして各々飲んだり食べたりしつつ、小さな観梅会は進んでいく。
 シートの上に座り、トランプを楽しむ少女達。その様子を眺める浩一に涼は日本酒を片手に歩み寄る。
 ヨダカはやっとスバルに和菓子を食べさせる事が出来た。レインウォーカーは二人の遣り取りを笑顔で見つめている。
「そうだぁ。スバル、道化特製のクッキーもよかったらどうぞぉ。それなりに評判いいんだよ、これ」
「貴方‥‥お菓子なんて作るんですね」
「ヒイロも食べるですよー!」
「言われなくてもやるから、そこを退けぇ」
 座っているレインウォーカーに背後から圧し掛かるヒイロ。その状態のままヒイロはクッキーを食べている。
「梅を見つつ酒を呑む‥‥かなり贅沢な体験だな」
「そうだな。こういう依頼ばかりなら、俺の腰にもいいんだが」
 酒を飲みながら語る涼と浩一。そこでニアが手を上げる。
「そろそろスバルちゃんにプレゼントあげちゃおっかな〜。はい、これどうぞ」
 ニアが取り出した本を見るなり車椅子から立ち上がり、覚醒してニアを攫ってその場を離れるスバル。
「誰から聞いたんですか?」
「ぐぇえ‥‥絞まってる、首締まってる‥‥!」
 スバルはニアを突き放し、ダッシュでレインウォーカーに駆け寄りライターを引っ手繰る。
「少し借ります」
「あ、おーい?」
 そしてダッシュで戻り、本に火をつけた。
「あー!? プレゼント貰った目の前で燃やすか普通ー!?」
「私の名誉の為です。散ってください」
 涙目で叫ぶニア。スバルは燃やした本を踏み潰し、最寄のゴミ箱に捻じ込んで戻って来た。
「スバル、それ返してくれよぉ。色々役立つんだから」
「失礼しました。しかし、喫煙者でしたか?」
 ライターを取り戻したレインウォーカーは立ち上がり、自らの手に火をつける。
「ちょ、ちょっと!」
 しかし熱そうな様子はない。更にその火を掌に集め、浮かばせて見せる。
「種も仕掛けもあるけど、見破れるかなぁ?」
「優子ちゃん、何で顔覆ってるの?」
「怖いからに決まっとるやろ!」
 ヒイロの呟きに叫びで返す優子。手が燃えてる辺りでもう見ていなかった。
「まさか燃やされるとはね‥‥気を取り直して、キャッチボールでもしましょうか!」
「お、いいねぇ。俺も参加しようかな!」
「ヒイロ、ノックの鬼になる!」
 何故かキャッチボールを始めるニア、涼、ヒイロ。優子は苦笑を浮かべる。
「こらー、スバルが混ざれんやろー」
「私の事なら気にしないでください。見ているだけで楽しいですから」
「んー、スバルがそう言うならええねんけど」
 首を横に振るスバル。そこへヨダカが取り出したのは蜂の巣だ。
「じゃあ、す〜ちゃんはヨダカのとっておきを食べるといいのですよ」
「いっ!?」
「蜂の子入りと抜きとありますけど、どっちがいいです?」
「いや、あの‥‥何故そんなものを‥‥?」
 蜂の巣を手に笑顔でスバルに迫るヨダカ。それを眺めていたレインウォーカーの額に野球ボールが直撃する。
「あーっと、私の魔球がっ!」
「お前らなぁ‥‥やってやろうじゃないかぁ」
 額を撫でながらボール投げ返すレインウォーカー。そんなこんなで騒ぎは続き、平和なのか平和じゃないのか分らない感じで時は過ぎていく‥‥。

 一頻り遊び終えると、すっかり夕暮れ時。傭兵達は海辺に向かい、並んで夕日に染まる海を眺めている。
「風が気持ちええな。スバル、寒くないか?」
「ええ、大丈夫です」
 車椅子の背後でスバルを気遣う優子。ニアはスバルに毛布をかけ、風に髪を靡かせる。
「海に落ちる夕日ないつ見ても良いものね‥‥」
 茜色の空は一日の終わりを告げる。世は朝を向かえ、次の一日がやってくる。しかしそれは誰にでも訪れる物ではない。
「こうしていると、初めて会った時を思い出すなぁ」
 腕を組み微笑む優子。そうしてあの日の事を思い返す。
「スバルはちょっと変わったな。本音を言うようになった。仲良うなれたって事かな?」
「どうでしょう。そうだといいのですが」
「スバルさん‥‥本当に傭兵をやめるつもりはないのか?」
 問いかけたのは浩一だ。その言葉に場は静まり返る。
「‥‥はい。自分の意思で決めた事ですから。半分くらいは、意地ですが」
「本当は‥‥本当は何があるん? ヒイロがこんな依頼を出すって事は、何かしら理由があるって事やろ? 最初の時みたいに‥‥」
 優子の問い掛けにスバルは寂しげな笑みを浮かべる。そして空を見上げて言った。
「実は‥‥浩一さんにはああ言いましたが、私‥‥今の戦いが終わったら、傭兵を引退しようと思っているんです」
 背中を向けたまま目を見開くヨダカ。ヒイロも目を瞑り俯く。
「意地でここまでやってきましたが、そろそろ潮時です。私は実家に帰って、父のような画家になろうと思います」
 それは、嘘だ。けれど、半分だけの嘘。
 画家になりたいのは、本当。彼女が嘘としてしか語れなかった、叶わぬ夢の形。
「そうか‥‥それは淋しゅうなるな」
「父のように山奥にアトリエを構えるつもりです。もう会う事はないでしょうが、いつか私の描いた絵が皆さんの目に触れるように頑張りますから」
 優しく笑うスバル。ヨダカは唇を噛み締め、呟く。
「『東風吹かば 匂ひをこせよ 梅の花 主なしとて 春な忘れそ』と言う唄があってですね。梅には空を飛び、海を越えて大切な人の所まで行ったと言う伝承があるのですよ」
 そうして振り返り、笑顔を浮かべた。
「だから皆で見た梅も、す〜ちゃんが『遠く』へ行ってしまってもその事を忘れなければ来てくれるのですよ!」
「そうだな‥‥精一杯、やりたい事をやるといい」
 浩一の言葉に頷くスバル。まだ肌寒い三月の風に吹かれ、傭兵達はそれぞれの想いを馳せる。
「それじゃ、海に向かって叫びましょうか!」
「え!? な、何故?」
「それが青春って物でしょ? 朝に道を聞かば夕に死すとも可なり‥‥とは行かないけど、楽しまなきゃ損よ」
 スバルにウィンクするニア。そうして海に向かって叫んだ。
「海のバカヤロー!」
「ば、ばかやろー!」
 照れながら叫ぶスバル。夕日はどんどん沈んでいく。楽しい時間は終わってしまう。それが今は名残惜しかった。
「沈んじまったな、夕日」
「そうだね」
 涼の呟きに寂しげに呟くヒイロ。と、そこで涼はどこからか用意していたバケツと花火を取り出した。
「これで終わりってのも勿体ねぇし、やっぱシメは花火だろ?」
「ヒイロねー、涼君のそういう所かなり好きかも」
 サムズアップして笑うヒイロ。涼は一人一人に花火を配っていく。
 夜の海辺に淡い光が灯る。咲いては散る儚い花に何度も火をつけ、その瞬きに思い出を映す。
「なぁ、スバル。この前ボクは友達の友達はって言ったけど、実際の所ボクとお前は友達でいいのかなぁ?」
「友達の定義にもよると思いますが」
「す〜ちゃんはこういう言い方しか出来ないのですよー」
 照れた様子のスバルに微笑むレインウォーカー。線香花火を摘む姿を横目に呟く。
「それはよかった。‥‥道化は忘れないよ、友達の事をねぇ」
「出会ってすぐのす〜ちゃんのフォローはホントに大変だったのですよ‥‥今では安心して背中を任せられる様になって嬉しい限りなのです」
 二人の言葉にスバルは目を瞑る。思えば色々な事があった。その全てが最良とは言えないだろう。しかし自分で決めて歩いてきた、大切な人生だから。
「きっと次が最期になるです‥‥戦力にならないなら下がってもらうですから、体に気をつけるのですよ?」
 切なさを噛み締め微笑むヨダカ。スバルは首から提げた十字架を握り締める。
「‥‥ありがとう。最後の最後まで、世話をかけますね‥‥」
 そう、きっと次が最後。それが済んだら、別れの時がやってくるだろう。
「世話が焼けるのは今更なのです。言った筈ですよ。ヨダカは最後まで付き合うって」
 風を受け微笑むスバル。そんな彼らの様子を遠巻きにヒイロは見つめている。
「スバルさんは変わったな」
 背後からの浩一の声。ヒイロは頷く。
「彼女には彼女の戦いがある。私達も自分の事を頑張らないとね」
「『彼』はもう‥‥自分で自分の事を止められないのだろうな。そしてそれを活用しているバグアが‥‥おそらくいる」
 肩を並べる浩一。そうしてヒイロと同じように夕日を眺める。
「大神緋色の仕事の時は、近いかもしれん」
「誰にでも避けられない戦いがある。でも皆一人ぼっちじゃない。だから私達は生きていける」
 拳を握り締め、掲げるヒイロ。そして無邪気に笑った。
「大丈夫なのですよ。正義は絶対に負けないのです!」
 穏やかに微笑みヒイロの頭を撫でる浩一。楽しかった一日はゆっくりと終わっていく。

 いくら戦いから遠ざかっても、彼らが戦士である以上それは永遠ではない。
 最後の一本、線香花火の光が落ちる。涼は苦笑を浮かべ、水の満ちたバケツへと放り込むのであった。