タイトル:【流星】朱に染めよマスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/03/14 06:53

●オープニング本文


 マルスラン=ギマールは、所謂日陰者のバグアだ。
 どこで間違えたのか彼の現在のヨリシロは平凡に過ぎた。ビデオゲームを趣味とするだけの、地球人であるという事だけが特徴のヨリシロ。自然、前線に出して貰える事はなく、補給艦を駆っては上位のバグアの奴隷のように働くだけの日々を送っていた。
 マトモなヨリシロを得る機会もなく、無為に生きるだけ。
 闘争とも、進化とも無縁の現状を斟酌する者は身近には居ない。彼自身も、ただ焦りだけを抱いていたに過ぎない。
 そんな彼が、身に余る野望を抱いたとして誰が責める事が出来るだろうか。

 ――貴方達には目に見える痛みと絶望がまず、必要なんですね、人間。

 マルスランはエアマーニェのその言葉を聞いた時、戦慄を覚えた。
「‥‥俺なら、出来る」
 ヨリシロの知識が囁いていた。

 鬱屈した現状から開放される為に彼は――バグアにとっては禁じ手に近しい方法に手を伸ばした。

    ○

 長い年月を経てなお在る赤い月は、今も見る者の心を冷えさせる。
 ならば、夜天を貫くように落ちる赤い星々は、どうだろうか。
 同色の光輝を曳きながら降る星々は。

 多くの者はその光景の美しさに胸を打たれただろう。
 だが。哨戒していたKVが撃ち落としたそれが、キメラプラントだと判った時。
 そのうちの幾らかの動静が捕捉出来なかった事が明らかになった時。
 その現実が、牙を剥いた時。

 対峙した者は、何を思うだろうか?



「‥‥よくまたフェニックス持ってこられたな」
 背後からの声に振り返る中里。歩いてきたのは外山で、頭に巻いた包帯を解きつつ中里と肩を並べる。
「まぁ、COPだからな。色々な意味で余っている。それよりもう良いのか?」
「ああ。いつまでも寝てる訳にはいかねぇだろ」
 先日の戦闘で撃墜され負傷した二人だったが、能力者の回復力もあって短期間での復帰を果たしていた。
 破損した外山のフェニックスは修理され、中里には新たにフェニックスが支給された。そしてそこにはもう一機、乗り手の居ないフェニックスが並ぶ。
「で、ありゃ誰の機体だ? 内村はもう‥‥いないんだぜ」
「はい。それは自分のフェニックスです、外山先輩!」
 更に背後から声。きょとんとした様子で外山が振り返ると、そこには軍服を纏った女性の姿があった。
「本日付で九頭竜小隊へ配属となりました、大和 梢伍長であります、宜しくお願いします、先輩!」
「いや、知らなかったのお前だけだぞ」
 呆然とする外山に中里が語る。外山は大和の身なりをじろじろ確認し溜息を吐いた。
「ガキじゃねえか」
 まだ幼さを残した顔立ち。新品の軍服はまだ馴染んでおらず、一見するとちょっとしたコスプレに見えない事もない。
「自分は確かに未熟者ですが、先輩達と共にバグアを打倒する所存であります!」
 握り拳で語る大和。外山は頭を掻き、それから中里を睨んだ。
「こんなちんちくりんの面倒なんか見てられっかよ。後はお前に任せるわ」
「あ、先輩‥‥!」
 立ち去る外山。しょげた様子の大和に中里は肩を竦める。
「悪く思わんでやってくれ。あれで色々考えているんだ、バカなりにな」
「はあ」
 腕組み思い返す中里。この隊に居たもう一人の仲間が死んだ事を誰より悲しんだのが外山だった。
 随分荒れていたのだが持ち直したようで、今はあんな様子である。中里から見ればあれで大分マシになった方なのだ。
「直ぐに次の作戦が始まる。その説明をしなければな」
「宇宙から降下してきたキメラプラントの破壊だと聞いています」
「ぶっちゃけそれだけだから難しい事はないがな」
「はい! 初陣を勝利で飾れるように頑張ります!」
 きょとんとする中里。勿論、この部隊にまともな人材が補充されるとは思っていないのだが‥‥。
「こういう手合いは、内村が適任だったんだがな‥‥」
「はい?」
「いや、なんでもない。そういう面倒見のいいお人よしがいたって話だ――」

「我々の使命はこのプラントを防衛する事だ! 命に代えても死守するぞ!」
 地上に落下したキメラプラント。大量のキメラを吐き出し続けるその周囲に配備された紅いゴーレムの姿があった。
 声を張り上げているのはランスとシールドを装備した騎士風のカスタマイズを施された機体で、残りは割とだらだらした感じである。
「い、命に代えても‥‥(笑)」
「別段、俺達がそこまでする義理もないだろう」
 ダビダとエウドラの声に槍を突きつけるゴーレム。コックピットの中、顔立ちの整った若い青年が叫んだ。
「貴様らのその甘さが敗北を呼ぶのだ! 我ら詠子様の騎士に失敗は許されん!」
「‥‥ギルデニア、煩い。顔が気持ち悪い」
「理不尽な罵倒はやめろユリアナ! 顔は整っている!」
 プラントを防衛するゴーレムは合計四機。人類側の領地に深く食い込んだこのプラントの周辺に他の戦力は存在しない。
 UPC軍が撃ち漏らし地球への降下を許したプラントのうち一つ。それを守るのが彼らの仕事であった。
 この任務を上手くこなせば、単独行動気味でろくな補給も受けられない『デストラクト』にそれなりの補給がある約束になっている。フットワークの軽さを生かした、謂わばバイトである。
「今回はビアンカがいないからな、私が指揮を取る!」
「誰がお前の指示なんか聞くか‥‥ハゲ」
「ハゲてないだろうユリアナァ!! ふさふさ! それにこれは詠子様からの命令なのだぞ!!」
 その名前が出ると大人しくなるユリアナ。ちょこんとシートに座って周囲を見渡している。
「チッ‥‥ママがそう言うなら‥‥」
「ユリアナたんのデレキター! ハァハァ、幼女‥‥ハァハァ!」
「気持ち悪いんだよお前ぇえ! こっちくんな! こっちくんな!!」
 ダビダのゴーレムにタックルし弾き飛ばすユリアナ。その様子をエウドラはぼんやり眺めている。
「めんどくせぇ‥‥」
 
 一人愛機の前に佇む玲子。鞘に収めた刀を握り締め、じっと見つめる。
「‥‥また繰り返すというのか、私は」
 目を瞑れば思い出す。夕焼けを背に笑っていたかつての上官の姿を。
「私は違う。貴様とは‥‥違う!」
 刃を抜くと同時に目を見開き空を斬る。まるでそこに幻でも見えているかのように。
「証明してやる、草壁。私は貴様とは違う。貴様のように‥‥死を楽しんでなどいないと」
 戦場にとって取るに足らない、一人の兵士が死んだ。
 それは誰にとっても記憶に残らないような出来事だが、確かに何かを変えようとしている。
 踵を返し刃を収める玲子。コートの裾をはためかせ、新たな一歩を踏み出すのであった。

●参加者一覧

飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA
ラサ・ジェネシス(gc2273
16歳・♀・JG
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA
ミルヒ(gc7084
17歳・♀・HD
久川 千夏(gc7374
18歳・♀・HD

●リプレイ本文

「今回の作戦では君たちにプラントを直接破壊してもらう。九頭龍、やれるか」
 月明かりの下、キメラの進軍を辿りプラントへ向かう傭兵達。リヴァル・クロウ(gb2337)の声に玲子は冷静に応じる。
「ああ。破壊自体はそう難しくないだろう」
 玲子は以前と変わらぬ様子だが、九頭竜小隊全体の空気は重い。新人の大和も居心地悪そうな様子だ。
「この雰囲気、この光景‥‥戦場で似たような目には何度もあったけど慣れることはできないね‥‥」
「内村殿‥‥」
 ぽつりと呟いた鳳覚羅(gb3095)。ラサ・ジェネシス(gc2273)もその声に思わず目を伏せる。
「例え新兵が混じっていても、今の九頭竜小隊であれば、まあ大丈夫でしょう」
 そう語る飯島 修司(ga7951)。そして懐かしむように続ける。
「いやはや、富士の樹海の時とは大違いですな。覚えておられますかね、中尉? あの時とは変わりましたな、色々と」
 玲子は答えなかった。だが彼の言う通り、多くの事が変わってしまった。目に見える物も、見えない物も。
「そうだ、大和伍長。実戦は初、とお聞きしましたが‥‥あまり気負わぬよう願います。傭兵風情が申すまでもないでしょうが、初陣での兵士の至上命題は生還すること、ですよ」
「分っています。手柄を焦ったりはしません。自分は出来る事を精一杯やる所存です!」
「何、厄介な敵は我々傭兵か頼りになる先輩に任せれば良いのです。簡単ですよ」
「は、はあ」
 口篭る大和。そこに明るい声が飛んで来る。
「何だか皆さん暗いですわねぇ。折角なのだから、楽しまなければ損ですわよ?」
 ミリハナク(gc4008)は髪を指先で梳きながら微笑む。反応は殆どなかったが、大和だけが少しむっとした様子であった。
「大和の言う通り、お互い自分に出来る事とやるべき事をやるとしようかぁ」
「今度は負けぬように、落ちないように、死なないように、頑張ります」
 レインウォーカー(gc2524)の言葉に表情無く意気込むミルヒ(gc7084)。彼らの前に目標が迫り、レインウォーカーは今一度玲子に問う。
「なぁ、九頭竜。お前が今やるべき事はなんだぁ?」
「考えるまでもない。誰一人欠かす事無く、勝利を収める事だ!」
 威勢のいい返事に頷くレインウォーカー。その答えは彼も同じ。最早誰か一人でも死なせる事はあってはならない。
「話はよくわかりませんけど、一番槍は頂きますわよ!」
 遠距離からプラント目掛けてレーザー砲を放つミリハナク。闇の中に浮かんだ紅いゴーレム達はそれぞれ無秩序に動き出し、迎撃に乗り出した。
「あれが例のプラントか。バグアも面倒な物をばら撒いてくれるね」
「護衛は赤の外形‥‥草壁の所のデストラクトか」
 プラントを確認する覚羅。そしてリヴァルの言う通り、またしても件の敵が迫ってくる。
「アハハー! 来た、来たぁ!」
「見覚えのある連中か」
 高笑いしながら走るユリアナ。エウドラは跳躍で前進しつつ笑みを浮かべる。
「何ですこの敵‥‥普通じゃない」
「俺達で奴らを引き付け道を切り開く。君達はプラントに向かってくれ!」
 戸惑う大和に叫ぶ覚羅。傭兵達は二人ずつで班を作り、対応すべき相手に向かって先行していく。
「来たか。私が名は詠子様の騎士、ギルデニア! 詠子様の為に、貴様らをこの槍で粉砕してくれる!」
「黙れハゲ‥‥こっちは君の名前なんか覚えるつもりはない」
「貴様ァ! 美しい我が頭皮に何たる侮辱!」
 真正面から突っ込んで来るギルデニア。繰り出す槍に覚羅も槍を繰り出し衝突する。
「むきになる辺りは図星だったか。冗談だったんだけどね」
「我が血肉骨皮の一端までも全て詠子様の所有物である! それを侮辱する罪深さ‥‥万死に値する!」
 正面から盾とランスを交互に繰り出し猛攻を仕掛けるギルデニア。ラサはその側面に回り込み、マルコキアスで攻撃する。
「そんな機体に乗っていながら、騎士道精神はどうした!」
 叫ぶギルデニアに対し目を細めラサは引き金を引き続ける。無駄口は叩かず、今は敵を倒すのみ。

 一方、こちらはエウドラと対峙するレインウォーカーとミルヒ。ミルヒはマルコキアスでプラントを狙い攻撃を試みている。
「空から落ちたチューリップからキメラが生まれていますね。幻想的な光景なのでしょうか?」
 しかし間に入ったエウドラが左右の腕を十字に組み、攻撃を遮断。そのままミルヒ目掛け突っ込んで来る。
 そこへレインウォーカーは煙幕弾を発射。更にレーザー砲で横槍を入れる。ミルヒがその間に退避すると、レインウォーカーはエウドラへ接近。
「悪いな外山。こいつへの借りはボクが返させてもらう。踊るぞ、リストレイン」
 煙幕に覆われたエウドラへ真雷光破を使用。併せ、ミルヒは後退しつつミサイルポッドとマルコキアスで攻撃。白煙の中へ火力を集中させた。

「どれも真っ赤だなんて、暗くても目立つ敵は正直助かりますわね」
 ミリハナクと久川 千夏(gc7374)が狙うのは大型のユリアナ機。ゴーレムは炎を巻き上げ直進してくる。
「敵ゴーレムの様子、布陣を確認、なるほど‥‥協調性の欠片も感じられない動きです」
「流星と共に踊る紅いゴーレム。面白い事する敵で素敵な殺し合いが楽しめそうですわね」
 眉を潜める千夏とは正反対にミリハナクは歌でも歌いだしそうな様子だ。
「ぶっ潰すぶっ壊すぶっ飛ばす!」
「素敵かどうかは兎も角、一癖も二癖もある自己主張の激しいカスタムゴーレムが勢ぞろいみたいね」
 ユリアナは盾を構え大地を削り突っ込んで来る。二人はこれに対し迎撃を開始。
「さぁ、行きますわよ! 久川君!」
「はい、ミリハナクさん」
「ミリハナクさん?」
「‥‥いえ、ミリお姉様」
 一瞬の間。ミリハナクは目を見開き、声を上げた。
「テンション上がって来ましたわー!」

「って、ま、またお前かよ」
 対照的にテンションだだ下がりなのはダビダだ。向かって来る修司の姿を捉え、心底げんなりしている。
「デストラクトが相手ならば、遠慮は不要と判断する」
「早めに片付けてしまいましょう。色々と、気懸かりな事もありますしな」
 近づいてくるリヴァルと修司に対し、ダビダは後退しつつマントの合間から大型のライフルを突き出す。
「あ、あんま効かないんだよな、あいつ‥‥」
 狙いは非常に正確だが、修司のディアブロに有効打を与えられるほどの威力は持たない。結果、ダビダは逃げながら撃ちまくるしかなかった。

「行くぞ外山。今の内に俺達はプラントを叩く。大和、ついてこれるな?」
「はい! 訓練通りにやりさえすれば‥‥!」
 護衛のデストラクトを吹っ切りプラントへ直行する九頭竜隊。それに気付いて焦るのはギルデニアだけであった。
「このままでは‥‥おい、プラントの護衛を優先するのだ!」
 叫んでみるが、基本的に誰も聞いていない。それ所ではないとも言うが、兎に角返事はなかった。
「貴様らァー! 誰も守らんとはどういう事だ!?」
「ふざけているのかい? こちらも忙しくてね‥‥君達と遊んでいる暇はないんだ。そろそろお開きにさせてもらうよ」
 ギルデニアは覚羅の射撃に対し盾を構える。プラントに駆けつけたいのは山々だが、傭兵もそうさせるつもりはない。
「ならば貴様らを倒すまで!」
「‥‥プラントを残せばまた人が死ヌ。なら‥‥!」
 距離を取りギルデニアの周囲を移動しつつ射撃を繰り返すラサ。紅いゴーレムは盾からフェザー砲を放つが、ラナはこれを落ち着いて盾で対処。その間に覚羅が距離をつめる。
 互いに槍を繰り出し打ち合う二機。これは互角の様相で、互いに一歩も引かぬ戦いを繰り広げている。
「やるな。しかし詠子様の騎士である私に敗北は許されんのだ!」
 盾を打ちつけ、跳躍からランスを繰り出すギルデニア。その鋭い一撃を覚羅はジェットエッジ掴み受け止めた。
「何と! だがしかし!」
 光を放ち、幾つかの節に分かれたランスが回転を始める。ドリルとなったランスは拘束を突破し破曉の肩に突き刺さるが、同時に覚羅もゴーレムに機杭の一撃を放っていた。
 二機は互いに距離を取る。ゴーレムは跳躍から滑空するような挙動で今度はラサに向かう。
 マントをはためかせランスを叩き付けるゴーレム。ラサはこれを盾で受けるが勢いを殺せない。弾かれたラサ、それを覚羅が射撃でフォローする。
 ラサはその間にブーストで距離を取り、旋回しつつマルコキアスで攻撃を継続。二機による射撃攻撃にギルデニアは防戦を強いられている。

「死ね、死ねー!」
 巨体を引き摺り猛然と突進するユリアナ機。ミリハナクと千夏の迎撃を意に介さず突っ込んで来る。
「効いてはいるようですが、無視ですか」
 溜息を漏らす千夏。ユリアナはミリハナクへ突撃。これを回避したように見えたが、ユリアナは片手で竜牙の尾を掴み、二機は縺れながら旋回する。
「ぎゃおちゃんの尻尾が!」
 空いている拳で竜牙を殴るゴーレム。竜牙は爪を立て、更に尾を振ってゴーレムを振り払う。
「‥‥怪獣映画に出てくる防衛軍になった気分ね」
 二機が殴り合っている間に側面からレーザーキャノンで攻撃する千夏。ユリアナは舌打ちし千夏を睨む。
「強化型のSESエンハンサーにツインブースト空戦スタビライザーを搭載。見た目の割りに中身は化け物じみたKVですね。開発にGOサインを出した人物は間違いなく変人です」
 至近距離で多数のフェザー砲を放つユリアナ。ミリハナクは盾を構え体当たりをかまし、爪でゴーレムの装甲を引き剥がしていく。
「壊れろ、壊れろ! アハハハー!」
「その調子ですわ! さぁ、もっと舞い踊りなさい!」
 口を開く竜牙。対しゴーレムも胸部の装甲を解放しプロトン砲を突き出す。荷電粒子砲と大型プロトン砲が同時に発射され、二機はそれぞれ被弾、後方に大きく仰け反った。
「うぐ‥‥っ」
「お姉様、下がってください。こちらも荷電粒子砲を使います」
 荷電粒子砲を構え、加速するクルーエル。照準が定まるような代物ではないが、構わずSESエンハンサーを使用し発射する。
 大地を吹き飛ばす光はユリアナ機に直撃、轟音と共に爆発し外部装甲の殆どが吹き飛んでいった。

「やったか‥‥なんて言うほど間抜けじゃないんでねぇ」
 一方、呟いたのはレインウォーカー。彼の予想通り、白煙からエウドラ機が飛び出してくる。
「読んでたさぁ!」
 クローの一撃を跳躍して回避するレインウォーカー。エウドラ機を踏みつけ反転、二対の光の剣で背面を斬りつける。
「お前らの隊長の物真似だけどねぇ。予想以上に有効だな、こいつはぁ」
「何‥‥だと」
「嗤え」
 再びの真雷光破。これにはエウドラも距離を取り体勢を整えざるを得ない。そこへ回り込み、背後からミルヒが練機爪で斬りつける。
「ちっ、めんどくせぇ」
「めんどくさいなら、退いてくださると助かります」
 振り返りながら放った蹴りを滑るような動きで回避するミルヒ。移動しながらミサイルポッドを使用、ベアリング弾をばら撒きまくる。
 エウドラは乱されたペースを取り戻せず、二人を相手に劣勢を強いられていた。しかし尤も劣勢だったのはと言うと‥‥。

「こ、こっちくんなし!」
 突撃してくる修司を撃ちながら下がるダビダ。狙いは非常に正確で修司といえど隙を見せるのは危険だが、構えて臨めば別になんでもない。
「出し惜しみは無しです。一撃でケリをつけます」
「さ、流石にそれは無理だろ、常考!」
 盾を構え真っ直ぐに突っ切るディアブロ。リヴァルはその背後で跳躍、変形し空へ舞い上がる。
「うおお! 何故飛んだし!」
 狙撃銃で撃たれながらも突っ込むリヴァル。ダビダの背後に変形しつつ着地、背後からスパークワイヤーで羽交い絞め状態にする。そこへ槍を携えた修司のディアブロが吶喊してくる。
「うそーん! こ、これ死ぬんじゃね!? ていうかお前も死ぬんじゃね!?」
「心配には及ばない」
 もがくゴーレムへ勢いを乗せ機槍で貫く修司。その際リヴァルはジャンプで槍の一撃をかわしていた。そのまま距離を取って着地したリヴァルの目の前、ロンゴミニアトが炸裂しゴーレムが真っ二つに割れた。
「ひぎぃい‥‥っ! あが、が‥‥」
「これが初見殺し、というものだ」
 小さな爆発を繰り返し、炎を巻き上げ沈黙したゴーレム。デストラクトも驚きを隠せない。
「ダビダが死んだ‥‥?」
「馬鹿な!」
 そうこうしている間に九頭竜小隊もプラントに取り付き一斉攻撃。完全破壊とまでは行かないが、大打撃を受けていた。
「申し訳ございません、詠子様! 私は‥‥私は!」
「引き上げるぞユリアナ。こんな所で死にたくはないだろう」
 無言で舌打ちするユリアナ。デストラクトはそれぞれ戦闘を中断、戦域を離脱して行く。
「あぁん‥‥これからがいい所でしたのに」
「ま、一機落としたし‥‥戦果は上々じゃないかぁ」
 唇を尖らせるミリハナクに肩を竦めるレインウォーカー。続け傭兵達はプラントに攻撃、これを完膚なきまでに破壊するのであった。



「花型のキメラプラント‥‥さしずめチューリップと言った所かしら」
「やっぱりチューリップ、ですよね」
 全てが終わった戦場。千夏の声にミルヒが無表情にサムズアップする。キメラも殲滅された大地の上、チューリップの残骸を玲子は眺めている。
「実は以前から確認したかったのですがね。中尉、貴女は敢て自分の隊の状態を容認していたのですな」
 腕組み背後に立つ修司。そして続ける。
「真っ当な兵士程最前線に狩りだされ易い。それを畏れた貴女は‥‥いや、私にしては少々喋り過ぎですな」
「臆病な女だと思うか?」
 振り返り微笑む玲子。それは問いに肯定したという事でもある。リヴァルはそんな彼女に歩み寄り、大量の勲章を差し出した。
「これは返却する。今更、内村の事で言い訳をするつもりはない。だが、ジハイドだから仕方なかった‥‥等と、思うつもりもない」
「責任を取ったつもりか」
 目を瞑り息を吐く玲子。リヴァルの差し出す手に自らの手を重ね、顔を寄せる。
「君は確かに優秀だ。だが自惚れるな。まさかこの勲章、自分の力だけで勝ち得た等と勘違いしてはいまいな。これで過去を帳消しにするというのは、君をこれまで支えてくれた人達に責任を取らせるという事なのだぞ」
 そう語ると玲子は徐にリヴァルの頭を撫で、優しく抱き締める。
「それでもと言うなら受け取るが、もう一度考えてみろ。今まで君と共に歩んでくれた者達の事を。数多の激戦を」
 目を瞑るリヴァル。人は誰しも過去を背負い生きる。それはまだ死ねないという思いがあるからだ。
 まだ見えぬ生きる事の意味を、その価値を証明する為、人は生き続ける。ならば過去は呪いであり、同時に力そのものだろう。
 遠巻きに様子を眺め肩を竦める覚羅。ラサは星を仰ぎ、心に誓う。もうあんな思いはしたくないと。
 トンと胸を叩き立ち去る玲子。荒れ果てた大地に風が吹く。地平線から霞む光が、戦場に夜明けを告げていた。