タイトル:【DD】ジャイプル攻略マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/01/25 08:22

●オープニング本文


 デリーを巡るバグア包囲網。
 デリーとUPCを分断するそれは、あまりにも厚すぎる壁であった。
 同じ空の下にはあれど、声は届かず、姿を見ることも叶わない。人々にとっては絶望の壁であった。

 しかし、攻勢に出たUPCはデリー解放を決断。大部隊を率いたUPCによる四都市同時奪還作戦を第一陣とし、デリー解放に向けて一気に畳み掛ける。
 バグア包囲網を打ち破る戦いが、始まる。 

「というわけで、我々もこの四都市同時奪還作戦に参加する。担当都市はジャイプル‥‥ここだ」
 刺す様な日差しから逃れた野営地のキャンプの中、九頭竜玲子は部下達を前に地図を広げる。
 極東から一転、この地まで飛んできた九頭竜小隊だが、唐突な遠征は慣れたもの、特に疲れた様子は見受けられない。しかし‥‥。
「我々はジャイプル周辺に展開する敵ワーム戦力に突っ込み、後続の本隊の道を切り開く‥‥ま、いつも通りの任務だ。質問はあるか?」
 腕組み顔を上げる玲子。三人の部下は特に何も言わない。玲子は背を向け、並んだKVの中から愛機であるフェニックスを見つけ出す。
「‥‥では、作戦開始まで各自自由に過ごす事。装備と機体のチェックを忘れるなよ‥‥以上」
 立ち去る玲子。三人の部下はその動きを目で追う。彼女が居なくなると場に沈黙だけが残った。
「ねえ、外山。隊長、最近ちょっと様子がおかしいよね?」
「ああ、らしくねえな。なんつーか、馬鹿っぽさが薄れたというか」
「前回の戦いの事を引き摺っているのだろうな」
 作戦行動中に何度か遭遇した紅いゴーレムの部隊。その事に三人はあえて触れなかったのだが、玲子の様子をみていれば分ってしまう事もある。
「おい中里。お前何か知ってんだろ?」
「何故俺に訊く‥‥」
「すっとぼけんじゃねーよ。お前の事情通っぷりは流石に嫌でも知ってるわ。あの隊長と紅いゴーレム、何の関係がある?」
 中里の胸倉を掴み上げた外山。内村はその様子をはらはらしながら眺めている。
「知っていたとしても、それは俺から説明する事ではないだろう。それこそ、彼女の口で語られるべき事だ。語られないという事は、俺達が信頼されていないというだけの事だろうよ」
 舌打ちし手を放す外山。中里の言葉は大体いつでも間違いには遠く、そして今回に限っていえば外山も同意見であった。
「まあいい、今は兎に角目の前の任務に集中だ。敵も多いみたいだしな」
「ああ‥‥毎度の事だが、俺達と傭兵のチームで先行し敵の数を減らすって寸法だ」
「なんか、悪いよね。俺達が不甲斐ないばかりに傭兵のみんなには毎回苦労させちゃってさ‥‥」
 三者三様の反応。しかしどちらにせよまずは目の前の作戦で生き残る事が先決。不甲斐なかろうがなんだろうが、今は戦うしかない。
「お、俺機体のチェックしてくる! 外山と中里も、何か手を貸して欲しかったら言ってね!」
「おー‥‥。俺は身体動かしてくっかな。作戦前は軽く運動しねーと」
「何だかんだでやる気あるんだな、お前ら」
 煙草を咥えたまま微笑む中里。そういう彼も、こうしてこの部隊で戦う事に吝かではない。
「やってやりますかね、一つ」

『隊長! 隊長、今どちらにいるんですか!?』
「うん? ああ、すまない。勝手にゴーレムを一機拝借して、戦場に向かっている所だ」
『はあ!?』
「ははは、ビアンカ。君なかなか面白い声になっているぞ」
 荒野を移動するノーマルタイプのゴーレムが一機。そのコックピットで長い黒髪の女が微笑んでいる。
『また隊長はお一人で勝手な事を‥‥困ります! せめて私を護衛につけるようにとあれほど‥‥!』
「良いではないか。ずっと後方に控えているのは退屈なのだ。たまには前線に立って刃を交えねば、戦士の直感が錆びてしまうよ」
『兎に角、直ぐに迎えに行きますから! どちらに向かっているんですか? 私のゴーレムで‥‥』
「おぉ、ゆーぴーしーのじゃみんぐだ! つうしんがきれてしまう‥‥ざざざざー!」
 手動で通信を遮断すると女は申し訳無さそうに苦笑を浮かべる。ただっ広い大地の真っ只中に足を止め、周囲を眺めた。
「‥‥さてと。近い戦場はどちらかな――と」
 再び跳躍するように移動開始するゴーレム。砂煙を巻き上げ、ジャイプルへ向かうのであった。

●参加者一覧

リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA
御鑑 藍(gc1485
20歳・♀・PN
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
鳳 勇(gc4096
24歳・♂・GD
ニコラス・福山(gc4423
12歳・♂・ER
皆守 京子(gc6698
28歳・♀・EP
ミルヒ(gc7084
17歳・♀・HD

●リプレイ本文

「デリーの夜明け作戦か‥‥アジア圏の勢力図もこれで大きく変わるかな」
 ジャイプルへと向かう傭兵達。鳳覚羅(gb3095)はまだ見えぬ戦場に一人呟く。
「戦局も、地球だけでなく宇宙まで広がりました‥‥ね。終局は宇宙になりそうですし、まずは足場を固めて‥‥かな?」
「ああ。これは遣り甲斐のある大仕事だ」
 御鑑 藍(gc1485)の声に頷く鳳 勇(gc4096)。一方レインウォーカー(gc2524)は外山に機体を寄せ、声をかける。
「この前はどうも、と。今回もよろしく頼むよぉ」
「またあんたか。何か良く会うな」
「で、外山ぁ。九頭竜の奴、何かあったのかぁ?」
 二人して玲子の方に目を向ける。その玲子はリヴァル・クロウ(gb2337)と並走している所だ。
「どうした九頭竜、反抗期の妹を持った姉のような悩んだ顔をして」
「うむ。いや、優しくていい子なんだよ斬子は‥‥」
 真顔で応じる玲子。いつも通りの様な、そうでない様な感じである。
「道化よりきゅーちゃんへ。何を悩んでいるのか知らないけど、馬鹿が一人で抱え込んでも解決しないぞぉ。同じ馬鹿が言うんだから間違いない」
「ふむ。まあ、確証が得られたら考えるさ。今はまだ分らんからな」
 レインウォーカーにそう答える斬子。しかしリヴァルには何と無く事情が読めて来ていた。今回はいつも以上に玲子を気にかけるべきだろう。
 そうこうしている間にジャイプルに到達。正面に敵部隊の展開を確認した。ゴーレムとTWは迎撃に動き出す。
「見た所、強力な機体はいないようですね」
「単純な戦力比で12対12‥‥。のんびり見学してても良いんじゃないかな〜。私の機体は燃費が悪くってさ」
 敵を確認する皆守 京子(gc6698)の言葉にニコラス・福山(gc4423)は欠伸をしながら続ける。確かに今の所特別危険そうな敵は見当たらないが‥‥。
「今回は援軍が来ないといいんですが‥‥無理だろうなぁ」
 悉く邪魔が入る事が続いている。それを思えば、京子の憂鬱も当然だろう。
「‥‥紅いゴーレムが来ませんように」
「そう言っていると、逆に来そうな気がします」
 ミルヒ(gc7084)の言葉に冷や汗を流す京子。相変わらずぽけーっとした様子のミルヒはジャイプルの街を眺め呟く。
「ピンク・シティ、ジャイブル‥‥なんとなく惜しいです」
 今となっては新たに作られた城壁の所為で街の景観は以前と同じとは行かない。ちなみに何が惜しいのかはミルヒのみぞ知る。
 敵は前衛にゴーレム、後衛にTWの典型的な布陣。これに対しミルヒは煙幕弾を使用し、TW周辺に白煙を撒き散らす。
「白くなりました」
 これによりTWは照準が上手くつけられない。射線上にゴーレムを乗せてしまう可能性もあるのだから、とりあえず前進して煙からの離脱を目指すしかない。
「よし、一気に行くぞ」
 傭兵達は各々射撃武器で、ゴーレムはフェザー砲で撃ちあいながら接近。勇はゴーレム達へ種子島を向ける。
 放出されたレーザーの光がゴーレム達の中央を突き抜ける。そうして散ったゴーレムが作った道を藍のシラヌイが一気に駆け抜けていく。
「御鑑、仕掛けるぞ。TWを殲滅する」
 リヴァルはシュテルンを大きく跳躍させ、空中変形。一気にゴーレムの頭上を通過しTWの背後へ回り込む。
「えっと、ガンバります」
 ゴーレムをやり過ごし走る藍。その突破を残りの傭兵達が援護する。TWに関してはリヴァルと藍に任せ、残りがゴーレムに突っ込む構えだ。
「接近戦の方が好きだけど、銃の腕前も悪くはないんだよぉ」
「オラオラァ! とっととくたばりやがれぇ!」
 レインウォーカーと外山はそれぞれ二丁拳銃、機銃を連射しながら走る。
「防壁のお陰で、街への流れ弾は心配しなくて良さそうですね」
 肩部のキャノン砲を放ち、前衛の接近を支援する京子。勇と内村は特に藍を狙うゴーレムを集中的に攻撃し援護する。
「皆さん、ありがとう‥‥行きます」
 煙を突き抜け出現するTWの巨体。放たれるプロトン砲をかわし、擦れ違い様に一撃を放つ。
「雪村‥‥っ!」
 狙うのは本体ではなくプロトン砲。光の刃は砲身を先端から両断し、爆発させる。
 更にリヴァルも人型に変形、TWの背後に着地する。TWが旋回している間に装甲にマルコキアスを捻じ込み引き金を引く。
 TWが二人で抑えられた事により、前線はただの殴り合いとなる。こうなってしまえば傭兵達も思う存分力を発揮出来るという物。
 ゴーレムへ接近しブレードを突き立てる玲子。フェニックスが背後に跳ぶとミルヒがチェーンガンでゴーレムを撃ち抜く。
「ところで、何故棒立ちなのですか?」
「棒立ちではない、バルカンが迎撃しているだろう。今の内にパチンと殺っちゃってくれ」
 腕組み立つニコラスの破曉。自動攻撃のファランクスが一生懸命戦っている。
「数はそこそこ多いけど‥‥俺達の相手をするには不足だね」
 ゴーレムの頭に機斧を叩き込みながら呟く覚羅。一応敵も持ち堪えているが、後は各個撃破を待つのみだろう。と、その時――。
「後方より新たな敵機が接近中です」
 背後に目を向けるミルヒ。ニコラスも振り返り新たな敵を見つめる。
「ゴーレムが単機で‥‥? 増援にしては少なすぎるよな。ただのはぐれゴーレムか、それとも‥‥」
「で、でも紅くないですよ? 普通のゴーレムみたいです」
 ドキッとした京子だったが、増援は通常のゴーレムにしか見えない。背後からの襲来と言う事もあり、最も近かった京子に突っ込んで来る。
 振り返り砲撃で迎撃する京子。しかしゴーレムは当たり前のようにするっとそれを回避する。
「‥‥嫌な予感」
 アサルトライフルを撃ちまくる京子。ゴーレムは大剣を盾に強引に突破、体当たりをかました。
「くぅうっ!?」
 ミルヒはすかさず射撃で援護。ゴーレムはそれを滑る様に回避し、回転しながらミルヒに向かって来る。すかさず盾を構えるが回転の勢いを乗せた大剣の一撃で天は大きく弾き飛ばされてしまう。
「なんだぁ? あいつ、他のと違う‥‥」
「だが紅くはねーぞ?」
 後方が気になるレインウォーカーと外山。しかし前方にはまだゴーレムが半分以上残っている。
「増援‥‥でも、今は」
 ゴーレムを一瞥しTWに集中する藍。機刀でフェザー砲も破壊、更にスラスターライフルで足を次々に撃ち抜き行動不能に追い込む。
 同じくTWに専念するリヴァル。一機撃破した後、別のTWに接近。ハイ・ディフェンダーを叩き付け甲羅をかち割るとチェーンガンの掃射で更に撃破する。
「また正体不明の増援、か。やれやれ‥‥君達と組むと退屈しないね」
 ゴーレムに突き刺さっていた斧を引き抜き振り返る覚羅。このまま後方で暴れられては折角の優位を崩されかねない。誰かが足止めに向かわねばならないだろう。
「奴の相手は俺がします。そちらは引き続きゴーレムの殲滅を」
「‥‥ああ、了解」
 踵を返し増援に向かう覚羅に中里が頷く。ニコラスもその様子に思案し、それから一歩踏み出した。
「良く分らんが、見過ごすわけにもいかんな。ミルヒちゃん、くず中ちゃんは任せるぞ」
「任されました」
 後方、覚羅と接近し刃を交えるゴーレム。素早く攻撃と離脱を繰り返すゴーレムの動きは明らかに無人機とは異なる。
「こいつ‥‥」
 斧に大剣、盾に刀。二機は一歩も引かず何度も激突し刃を交える。そこへニコラスが接近、スラスターライフルを放つと敵は距離を開く。
「破曉か、いい機体だ‥‥懐かしいな」
 聞こえて来たのは落ち着いた女の声。その言葉の意味を考える間もなく、ゴーレムは二人に襲い掛かってくる。
「あの声‥‥やはりか」
「きゅーちゃん?」
 振り返ったまま棒立ちの玲子。ミルヒは襲い掛かるゴーレムの剣を盾で受け、機鎌にて引き裂く。
「あのバカ、またボケーっとしてやがる!? さっさとこいつらぶっ倒すぞ、道化!」
「言われなくてもそうするさぁ」
 猛然と突進しゴーレムにブレードを振り下ろす外山。すかさず接近し、レインウォーカーはハンドガンを突き刺し連射する。これによりゴーレムを更に一機撃破。残すは三機となった。
「二人があの敵を抑えている今がチャンスです!」
 京子はハンドガンでゴーレムを攻撃。この間に勇が敵へ飛び込み、胸にグングニルの一撃を叩き込む。槍を引き抜くとゴーレムは倒れ、爆発した。
「残り二機だ」
 一方、TWを完全に黙らせた藍とリヴァル。二機はそれぞれ引き返し、帰り際に弱っていたゴーレムをそれぞれ剣で両断した。
「邪魔‥‥です」
「残すは奴だけか」
 増援として現れたゴーレムは覚羅、ニコラスの二機と戦闘を続けている。相手は通常のゴーレムだが、高性能のカスタム破曉相手に負けない立ち回りである。
 京子、ミルヒは後方より遠距離攻撃で支援。更に他の機体も集まってくると流石に劣勢を感じたのか、ゴーレムは一度大きく距離を取った。
「そこまでだ、これ以上はやらせん」
 構える傭兵達の中、リヴァルが声をかける。剣を携えたゴーレムは既に撃破されたジャイプル防衛戦力を一瞥した。
「ほう。もう少し粘れそうだと思ったのだが、これは相手が悪かったか」
「‥‥名前くらいは聞いておこう」
「フッ、戦場で名を名乗るか。悠長な事だが、嫌いではない」
 大剣を地に突き刺し片手を胸に当てるゴーレム。
「元UPC軍大尉、草壁詠子。現在はバグア遊撃部隊、『デストラクト』を預かっている」
「どうやら君達の部隊は彼らとつくづく縁があるみたいだね‥‥」
 視線だけで玲子のフェニックスを捉え呟く覚羅。玲子は眉を潜め、草壁のゴーレムを見つめる。
「草壁詠子‥‥貴様は確かに死んだ筈だ」
 玲子の言葉の意味は判らない。それが理解出来たのは当の草壁本人だけである。
「ビアンカから話は聞いていたよ、玲子。まさかこうも早く再会が叶うとは思わなかったがね」
「どういう事だぁ、きゅーちゃん?」
 レインウォーカーの声。しかしその場の殆どが状況を理解出来ずに居る。
「奴は‥‥私の元上官だ。尤も、もう何年も前に私がこの手で殺した筈だがな」
「は?」
 隊員達は全くついていけていない。それが事実だとすれば、余計に事情が見えてこない。
「安心しろ玲子、私はとっくに死んでいる。たまたまこの身をヨリシロとするバグアに拾われた、という幸運はあったがな」
 低く、しかし優雅に笑う草壁。ゴーレムは軽く腕を差し出し身を乗り出す。
「さて、お喋りは仕舞いにしよう。戦場を駆ける戦士達に馴れ合いは相応しくない。戦争とは無慈悲で凄惨な物でなければな」
 剣を引き抜き構え直すゴーレム。女は冷たい笑みを浮かべる。
「君達に薔薇の花を贈ろう。さあ、私と遊んでおくれ――傭兵よ」
 一気に動き出すゴーレム。九頭竜小隊はすっかり混乱している。
「どうするんだ、隊長!?」
「近接戦は奴の十八番だ。我々は只管下がって射撃で応じるぞ!」
 しかし意外と冷静に指示を下す玲子。何か吹っ切れたのだろうか。小隊のKVは後退、布陣を組み機銃で草壁機を迎撃する。
 藍はスラスターライフル、リヴァルとミルヒはマルコキアスでそれぞれ射撃攻撃。京子は後退しとにかく砲撃を行い、勇は側面に回り混みながらチェーンガンで攻撃を仕掛ける。
 ここまで一斉に射撃が集中すると全回避は不可能。状況打破の為、大剣を盾に草壁は真っ直ぐ飛び込んでくる。
「そう好き勝手にはさせられないねぇ。切り札を使う、アシスト頼むよぉ」
 前に出るレインウォーカー。真正面を薙ぎ払う様に真雷光破でゴーレムを迎撃する。
「嗤え」
 眩い光が視界全てを焼き照らす。しかしそこにゴーレムの姿はなかった。大きく跳躍すると、そのまま空中を縦に回転しながらレインウォーカーの上に落下してくる。
「何ぃ!?」
 更にペインブラッドを踏み台に跳躍。銃撃を受けながらも空中から大剣で布陣に斬り込んで来る。それを受けるのは覚羅の破曉だ。
「出し惜しみすればこっちがやられそうだ」
 盾で受けた大剣を押し返す覚羅。二機はそれぞれ長大な得物をぶつけ合い、入れ替わり立ち代り刃を交える。
「黒焔凰‥‥リミット解除! 受けろ黒焔凰の全力攻撃を!」
 装甲を展開し、放熱板より光を放つ破曉。加速し、旋回気味に機斧を鋭く叩き込んだ。
 この一撃を草壁は大剣で受けるが、武器が持たない。亀裂が走り、粉砕された大剣を抜け斧はゴーレムを切り裂く。
「剣が持たんか」
「こんな場所で超限界稼動なんてするもんじゃないんだがな」
 同じくスキルを発動、ニコラスがスラスターライフルとファランクスで一斉に攻撃を仕掛ける。ゴーレムに既に盾はない為、次々に装甲が剥離していく。
「押し切れるか‥‥!」
 更に側面から飛び込みグングニルで攻撃を仕掛ける勇。しかしこれはかわされ、カウンターで刀の一撃がシコンを切り裂いた。
「シコンか。デザインが好みすぎてワクワクするな」
 既に勝敗は見えているが、逃げずに飛び込んでくるゴーレム。藍とリヴァルは並んでこれを射撃で蜂の巣にする。
「それでも下がらないなんて‥‥」
 穴だらけになり腕がもげ、それでも刀を手に突っ込んで来る。藍は機刀で剣戟に応じ、更にゴーレムの刀も砕いてしまう。
 リヴァルはゴーレムの足を剣で切り払い、背後に回り混みながらシュテルンの翼でゴーレムを斬りつける。更に傭兵の一斉射撃、これでゴーレムは完全に沈黙した‥‥しかし。
「やはりただのゴーレムでは歯が立たんか」
 声がした。リヴァル機の肩の上、UPCの軍服を着た女が立って居る。
「出直すとしよう。楽しかったよ‥‥ありがとう」
 携えた刀を抜き、シュテルンの頭部を斬りつける女。機体は僅かに後退したが、切り傷をつけられた程度で済んだ。
「くっ、奴は‥‥?」
 周囲を見渡す傭兵達。しかし結局草壁の姿を見つける事は出来なかった‥‥。

「無事ジャイプルは解放できたわけですが‥‥」
 ぽつりと呟く京子。UPC軍はジャイプルを完全に制圧、傭兵の仕事も終わったのだが。
「きゅーちゃん」
 玲子はゴーレムの残骸の前に立ち、乾いた風に吹かれている。
「私は笑っているきゅーちゃんが好きです。今の戦いに勝てたあなたは笑えていますか?」
 背後から声をかけるミルヒ。その様子を隊員達も固唾を呑んで見守る。玲子は振り返り、そしてミルヒの頭を軽く撫でた。
「勿論、笑えているさ!」
 歯を見せ笑いサムズアップする玲子。それからミルヒの頬を指先で持ち上げ笑わせるのであった。
「隊長‥‥壊れたか?」
 こうして僅かばかりの不安要素を残したまま、ジャイプル解放戦は終了した。
 しかしデリーを開放する為の戦いは、まだまだ始まったばかりである。
「仲間がいるのなら信じろ、そして頼れ。じゃないと馬鹿は一生馬鹿のままだぞぉ」
 玲子とミルヒの様子を眺め呟くレインウォーカー。不穏な風が、戦場に新たな波を齎そうとしていた。