タイトル:ラブ・ソング2マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/01/21 07:39

●オープニング本文


「能力者ってのは選ばれた特別な人間なんだ。なら、折角なんだし英雄を目指そうぜ!」
 二人の少年が居た。二人は傭兵になったばかりの頃に出会い、協力して戦うパートナーとなった。
「英雄って‥‥お前バカだろ」
「バカっていうな。男に生まれたからには目指したいだろ、最強とか。浪漫と夢を捨てちまったら、そりゃもう男じゃないって」
「それなら俺は女でいいよ‥‥」
 自分の技量に合わない、見栄そのものの大剣を掲げ笑う少年。ライフルを手にした口数少ない少年は、彼にいつも呆れた笑みを返していた。
 幸いこの世界はどこも戦乱に満ち溢れている。優秀な戦士が必要とされる場所など幾らでもあり、名を上げる好機など何処にでも転がっていた。
 惜しむらくは二人が生粋の天才ではなかったという事。天才と呼ぶに値する能力者の中でも、更に際立って優れた者など幾らでもいた。
「安全とか安心とか優先してるから活躍出来ないんだ。お前と組んでると何でもかんでも危ないからって止められちまう」
「まだ俺達は駆け出しなんだ、一つずつゆっくり依頼をこなして腕を磨けばいいじゃないか。焦る事は無いよ」
「でもよ、こうしている間にもバグアを討ち取ってる奴がいるんだぜ? そんな悠長な事言ってられっかよ!」
 剣士の少年は相棒の忠告を無視し、身の丈に合わない危険な依頼を頻繁に引き受けるようになった。
 その成果なのか、二人はめきめきと腕を上げ、武勲を立てて言った。
 エスカレートしていく強さと名への渇望はより危険な戦場へ、より危険な敵へ二人を導く。そしてそれが止まる事は、最後までなかった――。



「朝比奈さん、何か今日は大人しいですね?」
 目的地への道中、カシェルに声をかけられた朝比奈。歩きながら視線を向ける。
「大人しいってなんだ、大人しいって」
「朝比奈さんって刀狩りの事になると単独行動取ったり、他の人に黙って先に言ったりするじゃないですか。今日は全員一緒に、しかも奇襲する気もないとか変ですよ」
 確かにこれまで朝比奈は何の前触れも無く突拍子な行動を取る事があった。それは自覚しているので、言い返せず頬を掻く。
「まあ‥‥その辺も込みで、ついてくればわかるさ」
 ひらひら手を振り歩く朝比奈。カシェルは疑問を抱きつつもその背中に続く。
 傭兵達が向かったのは山の麓にあるとある廃村。かつて大火事で焼き払われたこの村に人の姿は無く、焼け落ちた住宅等がそのままになっている。
「いらっしゃい。意外ね、真正面から来るなんて」
 廃墟には大鎌を肩にかけ待つ女の姿があった。刀狩り配下の強化人間、ナラクである。
 女と対峙した朝比奈は黙って剣を抜く。しかし襲い掛かる様子はなく、無表情に女を見つめている。
「あの話、考えてくれたかしら?」
「何の事です?」
「貴方達のお陰でエンジュは死に、ムクロは重傷‥‥私達は新しい戦力を欲しているの。どう? 私達の仲間にならない?」
 呆れた様子で肩を落とすカシェル。だが何か気にかかったのか、朝比奈へ目を向ける。
「朝比奈さん、まさか‥‥」
「お察しの通り、彼には前回の戦いの後、個人的に会ってこの話をしてあったの。今日はその答えを貰う日だったんだけど‥‥余計な子も一緒って事は、期待出来そうもないわね」
「あったりめーだ。何で俺がお前達の側に着かなきゃならねーんだよ。死んでもお断りじゃボケ」
 ニヤリと笑う朝比奈。カシェルはその言葉に安堵したが、だとするとこの状況はなんなのか?
「残念。それならこれまで通り、貴方には仲間を失う苦しみを味わい続けて貰おうかしら。私の研究の為にも、ね」
 首を傾げるカシェル。女は微笑を浮かべ、流暢に語る。
「朝比奈は私達を追う過程で、もう何人も仲間を犠牲にしているのよ。彼は目的を果たす為なら平然と仲間を見殺しにする‥‥本末転倒よね、貴方の復讐って」
 朝比奈は黙って話を聞いている。カシェルはナラクの言葉より、その事実が気懸かりだった。
 今、彼が何を考えているのか。問答無用で襲い掛かれば、そもそもこの話をされる事もなかったかもしれない。
 何故あえてナラクにこの話をさせたのか。ナラクの狙いは動揺を誘う事にあるのだろうが、では朝比奈の狙いは?
「貴女も無用心ですね。そんな裏切りそうな人を仲間に誘うなんて、どうかしてますよ」
 口を開くカシェル。朝比奈もナラクも驚いた様子で彼を見る。
「私はいいのよ、素直にさせる事くらい簡単だから。本当に無用心なのは貴方よ。朝比奈はこれまでに三人、パートナーを殺しているんだから」
「一応確認ですが、そんなチープな情報で僕を揺さぶっているつもりですか? だとしたら甘く見られた物です」
 肩を竦めるカシェル。そうして朝比奈を一瞥する。
「確かに僕は彼の事なんてまだよく知りません。だって話してくれないんですから。でもね、彼はそんな人じゃない。裏切ったりする筈もない」
「妄信ね。貴方もこれまで通り、遣い捨てられる事になる」
「勝手に僕を死人にしないで下さい。そういうのは僕を殺してから言う事です。出来るものなら、ですけど」
 きょとんと目を丸くするナラク。カシェルは頭を掻き、苦笑する。
 何と無く朝比奈が何をしたかったのか分った気がした。自分で自分の事は語らない。だからあえて自分の過去を知るナラクとこうして引き合わせたのだ。
 恐らくナラクは以前のパートナーにも同じ話をしたのだろう。そしてその時は今とは違う流れになった。朝比奈はそれも知っていて、不器用ながらに善意を振るった。選択の余地という名の、酷く押し付けがましい善意を。
「うふふ、子供だと思って過小評価していたわ。カシェルとか言ったかしら? 貴方、見た目に寄らずタフなのね」
 笑顔で会釈するカシェル。朝比奈は困ったような顔で深々と溜息を漏らした。
「お前を選んだのは俺だが、流石というかなんというか‥‥修羅場を潜った数は伊達じゃねえのな」
「それは兎も角、後でちゃんと事情は話してくださいよ。知らないんじゃフォローしようがありませんからね」
 構えるカシェルと朝比奈にナラクは後ろに跳躍。代わりに複数のキメラが前に出てくる。
「仕方ないわね。それじゃ、こっちの実験に付き合ってもらおうかしら‥‥ブガイ、お願い」
「ういっす。話が長ぇんで待ちくたびれやしたよ」
 肩を回しながら物陰より姿を現したブガイ。キメラと共に前衛を固め、能力者たちの前に立ち塞がる。
「ほんじゃま、この間の続きと行きやすかね。俺ぁ別にお前らに恨みはねぇが‥‥ま、刀の錆になってくれや」
 歩み寄る大男。対峙するカシェルの顔に迷いは無い。その事実が逆に、朝比奈の剣を鈍らせていた――。

●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA
加賀・忍(gb7519
18歳・♀・AA
黒木・正宗(gc0803
27歳・♂・GD
ラナ・ヴェクサー(gc1748
19歳・♀・PN
月読井草(gc4439
16歳・♀・AA
雨宮 ひまり(gc5274
15歳・♀・JG

●リプレイ本文

●開幕一閃
「何が実験だ! しにハゴーでヒジュルーな年増女め! いったーむるたっぴらかす!」
 両腕を掲げ叫ぶ月読井草(gc4439)。長話の終わりを締めくくったその発言に全ての人物が沈黙する。
「‥‥何? 何て言ったの?」
 小首を傾げるナラク。井草はその場でぴょこぴょこ跳ねながら続ける。
「超汚くてマジ冷たい年増女め! お前ら纏めて叩き潰す! って意味だー!!」
「月読さん、それまだ言ってたんだ‥‥」
「皆さんきょとんとしていますね〜」
 冷や汗を流すカシェルの隣、雨宮 ひまり(gc5274)が遠くを眺めながらぼんやりと呟く。
「いいだろーマイブームなんだから!」
「いいけど、話通じないんじゃ挑発になってないような‥‥」
 じたばたする井草に苦笑するカシェル。一方気を緩めず剣を握っている朝比奈の背後に藤村 瑠亥(ga3862)が歩み寄る。
「朝比奈、少し下がっていろ。一気に仕掛ける」
 目線だけ瑠亥に向け、直ぐに敵に気を戻す朝比奈。カシェルも状況は分っている様で、井草を抱えて背後に飛び退いた。
 二人が下がるのと入れ違いに飛び出したのは終夜・無月(ga3084)だ。巨大な聖剣を掲げ、前衛のブガイ達へと突っ込んでいく。
 当然身構えるブガイ。しかし無月の振り下ろした刃は彼を直接打つのではなく大地へ突き刺さった。
 切っ先から十字に炸裂する大地。黄金の光の柱は十字に立ち上り、波打つように周囲にある全てを薙ぎ払っていく。その一撃は剣撃ではなく爆撃――。激しい衝撃波と光に仲間達も目を細める。
「うおっ!? なんじゃこりゃ‥‥!?」
 光を片手で遮りながら驚愕する朝比奈。やがて波が収まるとそこには四方を抉り取った巨大なクレーターが形成されていた。
 攻撃に巻き込まれたのは敵の前衛。土煙に覆われているが、彼らが立っていた場所も当然範囲に巻き込まれている。この一撃、どうかわそうが受けようが瀕死の重傷は確実だろう。
「件の刀狩りは、私より強いですか‥‥?」
 大剣を振るい煙を払う無月。笑みを浮かべるその正面、届かぬ視界より声がする。
「いやぁ、強ぇえ強ぇえ‥‥。単純な力なら大将よりずっと上でさぁな。だが、『強い』ってのは腕っ節だけで語れる事じゃあねぇ‥‥お前もそう思わねぇか?」
 目を見開く無月。キメラ二体は当然のように倒れているが、最も近くで必殺の一撃を受けたブガイが何故か立って居る。しかも無傷で、へらへらと笑いながら。
 それは一体どうした道理なのか。考える、しかしそれよりも早くひまりは状況を把握し追撃に乗り出していた。
「終夜さん‥‥下がってください!」
 横に飛び退き射線を開く無月。影から見えたひまりは長大な弓矢を構え、ブガイに狙いを定めている。
 ブガイは何故か手に何も持っていない。先程まで太刀を装備していた気がするが――今は思考しない。ひまりは事前に狙いを定めている。攻撃は確実に、そして素早く放たれた。
 同時に発射された矢、その数四。光の線を帯びながら放たれた矢は高速でブガイに迫る。それに対しブガイは軽く身体を斜めに倒し、片手を前に出す構えで応じる。
 ブガイの背後、飛来する物があった。後方に控える砲兵キメラ、カズラの銃弾である。二体が放ったそれはひまりの矢に命中、そして炸裂する。
 銃弾という言葉は訂正しよう。要するに、文字通りの砲撃――。小さな爆発は矢の勢いを殺したが、ひまりの矢はその程度で払われる程弱くはなく、ブガイの身体に次々に突き刺さった。
「うおっ、小せぇのにすげぇ力だな、お嬢ちゃん」
 しかし胸に対しての一本を片手で握り受け止める。勢いを殺せず後方に引き摺られるが、ブガイは未だ健在である。
「なんだあいつ、何しやがった? まさか白刃取りで無月の剣を受け止めました〜とかいうオチじゃないよな?」
「分らないけど、何かしたんだ。朝比奈さん、あいつはただの脳筋だって言ってたけど‥‥」
 目をぱちくりさせる井草。カシェルはそれに冷静に声を返す。
「とにかく、ゲーム開始だ! あたしとあんたの二人で、ラナと藤村が走るラインを空ける!」
「わかった。行こう、月読さん!」
 互いに頷き合い、得物を手に走り出す井草とカシェル。それに対しブガイはマントを翻し、腰に携えた左右の刀を抜く。
「うりゃああ! 邪魔だーっ!!」
 跳躍し身体ごと大剣を叩き付ける井草。同時にカシェルも斬りかかるが、ブガイは左右の刀でそれを同時に軽くいなした。
「今の内に突っ込むぜ、藤村!」
「好きにしろ。どうせ止めても止まらんのだろう」
 走り出す朝比奈と瑠亥。二人に続くラナ・ヴェクサー(gc1748)はそれぞれの背中を見つめながら戦いに臨む。
 ナラクの話を聞いた今でも、朝比奈が裏切りを働くとは思っていない。しかし前々から彼の不審な点は気になっていた。
 カシェルは全面的に朝比奈を信頼しているようだが、そういうわけにはいかない。任せつつも適度に疑う、それが今ラナのすべき事だろう。万が一の時には自分がカシェルを守る為に。
 尤も、これでも信頼はしているのだ。何せ全幅の信頼を置く藤村瑠亥、彼が朝比奈と共に戦っているのだから‥‥。
「ラナさん、ナラクをお願いします!」
「分っています。背中、お任せします‥‥ね」
 カシェルと擦れ違い、走りながら小銃でナラクを狙うラナ。ナラクは左右の手で器用に大鎌を回転させ次々に銃弾を弾き飛ばす。
「ふふふ‥‥まあ、当然こっちに来るわよね。なら、何の対策もしないと思う?」
 キメラが砲撃による迎撃を開始。次々に放たれる炸裂する弾丸は非常に高い精度で三人を襲う。朝比奈はこれを大剣を構えての正面突破で応じ、瑠亥とラナは掻い潜りながら前進する。
 火を吹く砲弾から身をかわし、華麗に前進するラナ。瑠亥はその様子を一瞥し、一気に加速しナラクへ迫る。
「あの迎撃を苦にせず、か‥‥。生半可な能力者なら太刀打ち出来ない筈なのだけど」
 密接した状態から二刀で襲い掛かる瑠亥。それに対しナラクは両者の間に常に鎌を挟み、舞うように立ち振る舞う。
 歪な形状をした鎌は予測困難な動きで瑠亥と打ち合い、気を抜けば柄や石突が飛んでくる。しかしこれらの攻撃も瑠亥を留めるには及ばない。
「面白いデータが取れそうね。一緒に踊ってくださる? スペシャルさん――!」
 曲がった刃に引っ掛けるようにして瑠亥に接近するナラク。片手の鎌で引き寄せつつ後退を阻止し、逃げ場を固めての膝蹴り――しかしこれは空振りに終わる。いつの間にか包囲をすり抜けた瑠亥は一歩後退している。
 大鎌を回転させながら身体ごと舞うナラク。黒い光を帯びた刃は繰り出されると同時に波打ちながら敵を薙ぎ払う。その範囲、正面全域。
 朝比奈は回避しようがない為これに踏ん張って耐え、ラナと瑠亥は同時に回りこむように移動する。が、更にナラクは回転し今度は自分周辺全てに光を放出した。
「ほらほら、もっと上手に逃げないと」
 跳んで回避するラナ。瑠亥はスライディング気味に前進しつつ光を掻い潜るが、今度は縦に、斜めに、そして横に――連続で斬撃が繰り出される。
 避ける避けない以前にそもそも逃げ場所がない。狙いの中心にいなかったラナは更に回り込んで対応するが、狙われている瑠亥には折り重なった斬撃が飛来する。
「瑠亥さん‥‥!」
 声を上げるラナ。しかし瑠亥は落ち着いた様子で回避を実行する。
 線と線の間、僅かに見える空白に飛び込むようにして身をかわす。無数の波を飛び越え立つ瑠亥の足元以外、大地も建造物も根こそぎ吹っ飛んでいる。
「‥‥す、すごい」
 呆然と呟くラナ。あれは自分だったら避けられていなかっただろう。師と仰ぐその背中は、まだまだ遠い場所に立っていた。
「あらすごい。もう少しよく観察したいけど‥‥」
 背後に片手を突き出すナラク。倒れていた二体の武者キメラに黒い光が灯り、ゆっくりと立ち上がる。その外見と相まって、正に亡者の様相である。
「とりあえず、仕切り直しと行きましょうか」

●絢爛舞踏
「ぐぬぬ、このやろー‥‥って、カシェル後ろ後ろー!」
 ブガイに構えていたカシェルの背後、立ち上がったキメラが刀を振り上げる。慌てるカシェル、しかし次の瞬間次々に飛来した矢がキメラの全身を射抜いた。
「カー君、油断しちゃだめだよ?」
「ご、ごめん‥‥助かったよっていうか月読さん後ろーっ!」
 ひまりに礼を言っている間に井草の背後にキメラが迫る。しかし次の瞬間割り込んだ無月がキメラを斬り払った。
「うおっ、なんだこいつらゾンビか!?」
「当たらずも遠からず、という所でしょうか‥‥」
 無月の初撃を受け吹き飛んだ鎧の下、人間の物とは思えない赤黒い肉が脈打っているのが見える。ナラクの治療を受けたのもあるが、このキメラ自体かなり頑丈なようだ。
 再び立ち上がり刃を振り上げるキメラ。無月はこれに連続で聖剣を叩き込む。幾ら頑丈と言えども細切れに割断されてしまえばもう動く事もないだろう。
 すかさずひまりの矢を受けたもう一体に接近し、首を刎ねる。その場で横に回転しながら足と胴体を達磨落としのように捻じ切り、キメラを沈黙させた。
「カシェル、こいつは俺と赤木が引き受けるッスよ」
 ブガイの前に躍り出る六堂源治(ga8154)と赤木・総一郎(gc0803)。それと入れ違いにカシェルと井草は身を引いた。
「気をつけて下さい。彼は何か隠しているかもしれません」
「大丈夫ッスよ、ちゃんと俺達も見てたからな」
 先のキメラは決して弱くはなかった。むしろナラクの言う通り、生半可な能力者では困難なレベルの相手だった。
 それを一撃で鎧ごと吹き飛ばした無月。その一撃を平等に受けた筈のブガイだが、今も尚傷は身体に刺さったひまりの矢くらいのもの。
「隠し球でもあるのだろう。向こうの女もあんな調子なんだ、別段不自然ではあるまい」
 笑みを浮かべる総一郎。源治と肩を並べブガイと対峙する。体格のいい強面の大男が三人、睨み合う構図だ。
 その間に残りの傭兵達は移動を開始。ひまりは弓を抱いた状態で様子を見ながら迂回し前進、カシェルと井草は奥で戦う仲間達の元へ向かう。
「さてさて、素通りさせんのは拙いんだが、あんたらも俺を行かせちゃくれねぇんだろう?」
 楽しげに笑いながら構えるブガイ。一方、カシェルは井草と共にナラクを迂回、その後方に居るキメラを目指していた。
「加賀さん!」
 視線の先、砲兵キメラ二体へ向かう加賀・忍(gb7519)の姿がある。彼女のお陰でナラクと戦う者達は砲撃を受けずに居たが、逆に忍は劣勢を強いられていた。
 キメラといっても、基本性能は非常に高く、こと命中精度に関しては侮れない力を持つカズラ。これが二体で集中的に攻撃をしてきては、まともに近づく事すら難しい。
 素早く飛び込み擦れ違い様に刃を振るい切り裂く忍。しかしキメラは倒れず、二体が集中して砲撃を加えてくる。何とか回避を試みるのだが、十字砲火という事もあり殆どが直撃してしまう。
「ところがどっこい、練成治療!」
 走りながらどや顔の井草。振り返る忍、しかし練成治療は発動しない。
「あ、超機械持ってこなかった」
 沈黙したまま固まるカシェルと忍。そこへ忍の額に砲撃が直撃し吹っ飛ぶと井草は頭を抱える。
「うわーっ、忍ーっ!?」
「何で持ってきてないの!?」
「無線機ならある‥‥じゃなくて、誰か超機械ーっ!」
 慌てる井草。そこへ駆けつけた無月が擦れ違い様に小型超機械を投げ渡す。
「‥‥良ければ使って下さい」
 そのままキメラへ向かう無月。キメラの迎撃はやはり無月でも回避出来ず、彼は大剣を盾に強引に前進して行く。
 一方、忍も井草の練成治療を受けて立ち上がる。カシェルが銃で援護する中、忍はキメラへ再接近。太刀を振り下ろす。これをキメラは銃を両手で横に持ち防御、後方へ飛び退く。
「逃がさない‥‥!」
 地を蹴り一息で後方に回り込む忍。しかしその目にも留まらぬ動きにキメラは正確に銃口を合わせている。飛び退きながら引かれる引き金、接近する砲弾を高速移動を終えた忍は身体を逸らすようにして身をかわす。
 一歩、片足を大きく外側へ。眼前を通過する砲弾から視線を敵に戻し、光を帯びた足を軸に旋回、飛び退いてきたキメラを斬りつけた。
 すかさず振り返り、キメラが銃を突き出していた腕を切断する。よろけるキメラ、次の瞬間側面から飛んできた矢がキメラの胴体を穿ち、出鱈目な体勢でキメラは吹っ飛んでいった。
「よし、当たった」
 弓を下ろすひまり。残り一体の砲兵キメラの目を向けるが、そこには頭から真っ二つに無月に両断された無残な死体が転がっていた。
「忍ー、大丈夫かー」
「ええ‥‥」
 井草の治療を受け万全な状態に回復する忍。何とか敵は倒したが、余裕のある勝利には程遠かった。
「まだまだね‥‥」
「ん? なにが?」
「何でもないわ。これで残りは強敵二体、ね」
 キメラは全て沈黙し、残す所は強化人間が二体。戦闘は傭兵達に有利に、順調に推移しているように見える。
「いやぁ、こりゃあ大ピンチだ。さぁて、どうしたもんかねぇ?」
 源治、総一郎と退治するブガイ。状況は明らかに劣勢であり、それを冷静に把握している。しかしそれでもブガイの様子は楽しげであった。
「ジョン・ドゥは居ない、か。今頃イスルギが稽古でも着けてんのかね‥‥」
「そういうこった。大将は大真面目にあの坊ちゃんを一人前に仕立て上げるつもりみたいでさぁな」
 片方の刃を鞘に収め、空いた手で顎を撫でるブガイ。
「まぁしかし、大将の努力は実を結ばねぇかもしれねぇなあ。あんたがここで俺に倒されちまえやそれまでよ。大将にゃあ悪いが、俺が先に味見させてもらいやすぜ」
「俺は別に、そんな大した男じゃねぇ。折れそうな心を、迷う心を、無理矢理に律してるだけの弱い男だ」
「迷う、ねぇ。何を迷う事があるんですかい?」
 逆に言えば、迷わない事なんて無い。何が最適であるかという事に関しては無限に議論の余地があると言えるだろう。
「迷った刃で何を斬るのか、興味がありまさぁな。ナマクラで斬られた方は堪ったもんじゃねぇ」
「分ってるさ。だから答えを出し続ける。アイツの前に立つまでは死ねない。アイツの憎悪を一身に受け、その上で全力で応じる」
 頬をぽりぽり掻き、それからブガイは両手で刀を構える。
「成程。そんなら、尚更殺ってみたくなりやした」
「お前に俺の命はやれねぇよ‥‥ブガイ」
 口元に笑みを湛えるブガイ。最早話の余地は無く、問答無用で切り込んでくるだろう。
「ふん。語る言葉を持たない手合いか。わかりやすい、そして手強い相手だな。だが、勝てない道理も無い」
 二対の硬鞭にて身構える総一郎。どっしりと構えたブガイへと走り出す。
「戦場で双鞭を振るうのは久しぶりだ。全力でいかせてもらうぞ!」
 同時に源治も総一郎とは別方向へ走り、ブガイへと襲い掛かる。挟撃を受ける形にブガイは脇差を抜き、太刀との二刀流で応じる。
 ブガイが目を見開くと筋肉が一気に隆起し、元々太かった腕は丸太の如く肥大化する。これにより片手ずつで大男二人の攻撃を次々にさばいていく。
 単純な力技だけではなく、そこには確かな技術がある。単純な打ち合いでは守りを崩せず、源治は蹴りを放つ。しかしブガイの足は鋼のように硬く体勢は崩れない。
「生半可な攻めでは崩れんか‥‥ならば」
 源治に目配せし、一気に猛攻を仕掛ける総一郎。しかしその動きは隙だらけであり、また強引過ぎた。
「退屈な攻撃でさぁな」
 猛然と繰り出される太刀の一撃。これに対し総一郎は手にしていた硬鞭を叩き付ける事で応じる。
「おおおおおおお!!」
 総一郎の目の前に紋章が浮かび上がり光を放つ。次の瞬間硬鞭は砕け散り、同時にブガイが振り下ろした強烈な一撃は弾き返される事になった。
 すかさず硬鞭を放り投げ、新たに二対の鉄鞭を取り出す総一郎。絶対防御で生まれた隙へ強引に踏み込み、鉄鞭の連撃を叩き込む。
「ほう、こいつぁ‥‥!?」
「楽しんで貰えたか? 六堂、今だ!」
 動きを制限されたブガイ、そこへ総一郎と入れ替わり源治が襲い掛かる。眩い光を帯びた太刀を振り上げ、一気にブガイへと振り下ろした。
「俺のとっておきだ‥‥遠慮無く喰らっとけッ!!」
 一瞬で繰り出される連続攻撃。その一撃一撃が限界を超えた破壊力を持っている。命中すれば間違いなくブガイを下す事が出来るだろう、しかし――。
「ところがどっこい、遠慮させてもらいやすぜ」
 源治の刀に対し、同じく刀を叩き付けるブガイ。次の瞬間光が爆ぜ、ブガイの持っていた刀は粉微塵に砕け散った。そして、源治その衝撃で後方へと大きく弾き返されていた。
 更に総一郎の束縛から逃れたブガイは総一郎へ接近、その身体を鋭く切り裂いた。結果傭兵二人は同時に後退した形になる。
「ぐ‥‥っ!」
「赤木、大丈夫ッスか!?」
「ああ‥‥それより、奴のカラクリが見えて来たぞ‥‥」
 傷を庇いながらブガイを睨む総一郎。ブガイの足元には先程砕け散った刀だった物の残骸が細かく光を放っている。
「カラクリ‥‥?」
「単純な事だ。つい先程、俺がやった事と理屈は同じだろう‥‥」
 初手、無月が放った天地を引き裂く強烈な一撃。それに何故ブガイだけが耐えられたのか。
 あの時総一郎はブガイの様子を見逃さず観察していた。そして先程源治の一撃を跳ね返した時の状況と照らし合わせれば、自ずと答えは見えてくる。
「武器を犠牲に相手の攻撃力を激減させる‥‥俺がやった『絶対防御』の類似品、というわけだ」
「ご明察。まあ、別に隠し通そうってわけでもなかったんだがねぇ」
 肩から掛けていたマントを取り払うブガイ。その下にはまだ幾つかの種類の武器が見て取れる。
「脇差二ぃの刀が一。折角のコレクションが減らされちまったもんだ」
 とは言え、武器を犠牲にした守りにも限度がある。ネタがわかってしまえば、対処はそう難しくはない。
 源治は先の攻撃で大技を空振りさせたが、それでもまだ余力はある。要するに、武器を片っ端から粉砕すればいいだけの事――。
「そういう事なら、お手伝いします」
 駆けつけてきたのはひまりと忍の二名だ。源治、総一郎とはブガイを挟み込む形になる。
「キメラは片付けたわ。残りはこいつと、向こうの女だけね」
「攻略法は見えた‥‥後はやるだけ、だな」
 口元の血を拭い再び鞭を構える総一郎。ひまりは後方に下がり弓を構え、忍はその前に立ち塞がる。
 一方、ナラク戦。こちらには井草、カシェル、そして無月が参戦する。これにより瑠亥、ラナ、朝比奈を含め六名でナラクを包囲する布陣となった。
「女一人に寄って集って‥‥これじゃあどっちが悪役なんだか」
「ふふん、今度こそ逃げられると思うなよー。年増女、お前の命運は既に尽きている!」
 ぴょこぴょこしながら叫ぶ井草。しかしあながち冗談ではなく、この布陣を突破するのは幾らなんでも無理があるだろう。とくれば、ナラクも腹を括るしかない。
「そうね‥‥でも残念、私はこういう多勢に無勢の状況の方が戦りやすいの。全員纏めて踊らせてあげようかしら」
 鎌を手に踊るように攻撃を繰り出すナラク。その攻撃は専ら遠距離、しかも広範囲を薙ぎ払う物だ。
 ナラクを逃がさない為には彼女を囲うこの布陣は重要。仮に穴が開いたとしても一部の傭兵の機動力なら追撃は可能かもしれないが、確実性には欠ける。手堅い選択という意味で、傭兵達が布陣を変えなかったのはある意味必然。
 しかしナラクの言の通り、彼女は対多数戦闘において最も効率的に能力を発揮する。繰り出される光の波は傭兵達の視界も邪魔する為、誤射の危険性も増す。しかし動きを止めれば纏めて薙ぎ払われてしまうだろう。
 井草は先ずダメージを受けていた朝比奈を回復。それから自らも大剣を手にナラクへと走る。カシェル、無月は件の波状攻撃では大したダメージを受けない為強引な突破も可能だが、問題が一つ。
「おい、大剣装備者多すぎだろ!」
 攻撃を受けながら叫ぶ朝比奈。ナラクは一つのポイントに立ったまま周囲に攻撃を飛ばしまくっているが、これに同時に大剣をあちこちから繰り出せば、当然同士討ちのリスクが高まる。かといって一人ずつ攻撃するのでは順番の決闘と何ら変わらない。
「終夜、俺とお前でワンチャンで決めるぞ! 残りの面子、隙を作れるか!?」
 走りながら叫ぶ朝比奈。多少のダメージは回復してしまうのなら、一発でケリをつけるのが効率的という発想だ。
「‥‥やってみます。この中で攻め易いのは、私と瑠亥さんですから」
 ラナの言葉に頷く瑠亥。二人は左右に分かれ、一気にナラクへと突っ込んでいく。
 繰り出される光の波、波、波‥‥二人はそれらを悉く掻い潜り、ナラクを挟撃する事に成功する。
 一気に踏み込み、至近距離で襲い掛かる瑠亥。ナラクは身体を引き裂かれ血を流すが、余裕の笑みは変わらない。
 鎌を駆使した多角的な攻撃から逃れる為には瑠亥も張り付いたまま、という訳には行かない。その隙はラナが飛び込みカバーする。
「瑠亥さん!」
 前後から擦れ違い様にナラクを切り裂く二人。薙ぎ払う鎌の閃光を跳んでかわし、ラナは引き金を引き捲くる。ナラクの動きが鈍ると、すかさず残りの傭兵が背後から襲い掛かる。
「‥‥全く、鬱陶しい」
 回避出来るのはラナと瑠亥のみ。残りの迎撃に対しては溜め動作から強烈な一撃で迎撃するナラク。その光を飛び出したカシェルが盾で防御する。
 カシェルに収束された光は彼を吹き飛ばし消失。その影から大剣を持った三人が飛び出す。
「派手な攻撃が仇になったね! 一番乗りー!」
「くっ!」
 大剣で攻撃する井草。ナラクはこれを鎌で防ぐ。井草を蹴飛ばし転がすと、すぐさま朝比奈が放った強烈なソニックブームが飛んで来る。
「この程度っ!」
 これは跳躍にて回避。しかしその頭上に差す影があった。朝比奈に続いて高速接近していた無月だ。
 空中により回避不能。鎌で防御を試みるが、無月の剣の前でそれはあまりにも無謀だった。
 袈裟に振り下ろされた一撃が鎌ごとナラクを両断する。肩口から脇腹まで一撃で両断され、ナラクは血飛沫と共に舞い散るのであった‥‥。
 一方、対ブガイ戦。こちらはブガイ正面に源治と総一郎、後方に忍、その更に遠方にひまりの布陣。ひまりの遠距離攻撃は決して無視出来るレベルではないので、ブガイの動き方は必然。
「まあ、先にお嬢ちゃんだわなぁ」
 振り返り一気に地を駆けるブガイ。その行く道に忍が立ち塞がる。
「怪我するぜぇ、色っぽいねーちゃん!」
 体格から考えても単純な体当たりですら忍は吹っ飛ぶだろう。しかし突進するブガイの足に総一郎が襲い掛かる。
「行かせるか!」
「かーっ、ったくめんどくせぇなあお前!」
 動きは止まったが、強引な阻止の代償にブガイは振り返り様す総一郎の顔面を殴り飛ばした。しかしその隙は忍を動かすに十分な猶予だ。
 身体を回転させ、力任せに太刀を叩き込む忍。斬りつけた感触は肉というよりは鋼だが、背後からの一撃という事もあり確かに血を啜るに値する。更にすかさずひまりの矢が連続で背中に突き刺さり、ブガイは顔を顰めた。
「だぁもう! お嬢ちゃん達に武士道ってもんはねぇんですかい!」
「そういわれましても‥‥」
「勝てばいいのよ。あなたは私にとって通過点に過ぎないわ」
「あぁ、そうですかい!」
 振り返り忍を薙ぎ払おうとするブガイ。しかし吹っ飛んだ総一郎と入れ違いに源治が突っ込んで来る。
「ブガイ――!」
 背中から斬られたらそれで終わってしまう。当然ブガイは背後からの攻撃を振り切り、源治へ向かう。
「勝負ですかい? しかしさっきの一撃、あと何発撃てますかねぇ?」
 必殺の両断剣・絶。しかし先の不発もあり、源治も消耗している。撃てて三発――それが終われば力を殆ど使い切ってしまうだろう。
 一方、ブガイは丁度三発分を凌げるだけの『残弾』を持っている。仮に全てを相殺されたとすると、余力が残るブガイに分があるのだが‥‥。
「大丈夫です! やっつけちゃってください、六堂さん!」
 遠くでひまりが叫ぶ。何が大丈夫なのかは源治も理解出来なかったが、今は信じるしかない。
「‥‥承知した! 行くぜ、ブガイ!」
「ハッハハー! 賭けかい兄さん、面白ぇ、乗ってやるかねぇ!」
 互いに詰め寄り、刃を繰り出す二人。源治、渾身の一発目――ブガイは脇差を叩き付ける。脇差は光を放って粉砕され、相殺。
 二発目、一発目と同じ結果。となれば勝負の三発目、ブガイは刀を抜いて源治の動きに合わせそれを振り上げた――その時。
 遠方から飛来したのはひまりの矢だ。それは正確にブガイの刀を撃ち、その手の中から弾き出した。秒に満たない間の中で目を見開くブガイ。
「ああ、こりゃだめだ」
 強烈な源治の一撃が直撃。そのまま余った力で源治は連撃を振り抜いた。血塗れになり倒れるブガイ。源治は肩で息をしながらその様子を見届ける。
「倒した?」
「まだわからねぇッスが‥‥入れられるだけはブチこんだ筈」
 構えを解かない忍の問いに汗を流しながら応じる源治。しかし直後、ブガイは飛び起きた。そうして血を流したまま笑う。
「‥‥どうした、仕舞いかい?」
 すかさず斬りかかる忍。ブガイはその刃を片手で握り締め、忍の動きを止める。
「まだ俺ぁ死んじゃいねえぞ‥‥どしたぁ! 来いやぁあっ!!」
「くっ、なんとしぶとい‥‥!」
 接近し左右の鉄鞭で打ちつける総一郎。それでもブガイは倒れない。更にひまりは背後から矢を連射、背中に次々に突き刺さる。
「どうして倒れないんですか‥‥っ」
 必死で刀を動かそうとする忍。しかし刃はびくともしない。そうしてちらりとブガイの顔を見て、気付いた。
「こいつ‥‥」
 にやりと不敵な笑みを浮かべたまま、忍の刃を握り締めたまま。
「もう、死んでるわ」
 ゆっくりと太刀を引き抜く忍。ブガイの亡骸は体中に刀傷を負い、背中に大量の矢を浴びたまま佇んでいた。

●再起の墓標
 全ての敵を殲滅した傭兵達。朝比奈はナラクの上半身の前に立ち、血染めの刃を大地に突き刺した。
「朝比奈さん‥‥ナラクの話の続き、聞かせて貰えますね?」
「ラ、ラナさんそれは‥‥」
 慌てるカシェルにラナは真剣な眼差しを向ける。
「私も裏切りは危惧していません。しかし、刀狩りを追う上の不安要素は‥‥可能な限り潰しておくべきでしょう?」
「それは‥‥」
 振り返る朝比奈。頬を掻き、ラナに歩み寄る。
「あの頃、俺は相棒と刀狩りを追ってた。そしてこの街が戦場になり、俺の不手際で一般人を沢山巻き込んじまった。俺の所為で沢山人が死んだ。そして相棒もな」
「仲間を失った場所、か」
 腕を組み呟く総一郎。辛さには共感出来るが、同情はしない。戦場に生きる者ならば決して珍しい話でもないだろう。
「俺は刀狩りに奪われたダチの剣を取り戻す為に追ってんのさ。至極個人的な理由で、色々な奴を巻き込んじまった。けど今は反省してるから、大丈夫だぜ?」
 馴れ馴れしく肩を叩く朝比奈に眉を潜めるラナ。瑠亥はそこへ歩み寄り声をかける。
「朝比奈がどんな目的であれ、構わないだろう。意図は誰にでもあって当然だからな」
「‥‥でも」
「いざとなれば、おまえが止めればいい。今のおまえなら‥‥大丈夫だ」
 小声で囁き、ふっと微笑む瑠亥。それは彼女の成長を見てきた瑠亥ならではの一言であった。
「さっすが藤村さん、話分かるー! 何気に俺達っていいコンビだよな!」
 肩を組み笑う朝比奈。瑠亥は腕組みしたまま微妙な表情を浮かべるのであった。
 そんな様子を苦笑気味に眺めるカシェル。ひまりはその隣にちょこんと並ぶ。
「カー君、騙されてるかもしれないのに相変わらず頑固だね」
「頑固って‥‥信じないで疑い続けるより、信じて裏切られる方がいいと思うんだけどなぁ」
「裏切られるの前提なんだ‥‥」
 頬を掻き笑うカシェル。ひまりはその顔を覗きこみ、小さな拳を握り締める。
「大丈夫、私は裏切らないから! 残りの人たちもやっつけて、まるっと解決しちゃおう!」
「いや、君が裏切るとは思ってないよ‥‥だって、ほら」
 そこで言葉を止めるカシェル。腕を組み、笑みを浮かべる。
「僕のピンチには、大抵君が居てくれたしね」
 小首を傾げるひまり。カシェルは口元を押さえて何故か笑い続けている。
「朝比奈さんもしっかりしなきゃ駄目だよ。せっかくの信頼を無駄にしないで、皆を信じて戦いましょう」
「はーい、しっかりしまーす。まあ俺がしっかりしなくても終夜とか藤村とか六堂とかがしっかりしてれば大丈夫だろー!」
「‥‥というか、そろそろ離れろ」

 こうして終わってしまった街での戦闘は傭兵達の完全勝利で幕を閉じた。
 この一戦の間に交わされた事、その幾つかの要素が何処へ続くのか、それはまだ誰にも分らない‥‥。