●リプレイ本文
●月へ
「会いたかったわよリヴァル、命の恩人よー!」
月へ向かうベネトナシュ内、会議室。リェンはリヴァル・クロウ(
gb2337)を確認するや否や即座に飛びつくのであった。
「ま、まさか君が戻ってくるとは思いもしなかった。当時の作戦に参加していた一人として、再会出来た事を嬉しく思う」
「お陰様でね。本当、あの時あんた達が居なかったら死んでたわ。お礼にちゅーしちゃう!」
リヴァルの頬にキスしまくるリェン。アルヴァイム(
ga5051)はその様子を背後から眺めている。
「アルヴァイム、た、助けてくれ‥‥!」
「普段から人助けをしている結果なのですから、素直に受け入れてはどうです? 喜ばしい事でしょう」
悶えるリヴァルに引っ付くリェン。赤崎羽矢子(
gb2140)は苦笑を浮かべ肩を竦める。
「久しぶりに一緒になったけど、元気そうで何よりね」
「元気そうなのか、あれは?」
腕組み首を擡げるシン。一方他の傭兵達は間近に見る月を興味深く眺めている。
「――これが『月』か。今迄は見上げるだけの存在だったが‥‥」
「近くで見ると全然違いますね。友達にも見せてあげたいな‥‥」
並んで窓から月を見る煉条トヲイ(
ga0236)とシャルロット(
gc6678)。月までやってきた傭兵は今の所ほんの一握り、彼らにとっても物珍しいだろう。
「ほらほらシンにリェン、月だよThe Moonだよ? 中古のサジタリウス号で月なんてよく来られたなー!」
手招きする海原環(
gc3865)にリェンが向かい、漸くリヴァルは解放されたが既に戦闘直後の様相でグッタリしている。
「大丈夫か?」
「色々な意味で際どいが、大丈夫だ」
顔を拭いながらシンを見やるリヴァル。
「随分と嬉しそうだな、シン」
「どこがだ」
鼻を鳴らしそっぽを向くシン。リヴァルは笑みを浮かべ、環と話すリェンの背を見やる。
その時、遅れて部屋に久川 千夏(
gc7374)が入ってくる。美具・ザム・ツバイ(
gc0857)は地図を広げつつ千夏を一瞥。
「お、来たか。暫く姿が見えなかったようじゃが」
「機体のチェックとか色々、ね」
「心配性だなぁー。結構整備とか補給はちゃんとしてると思うよ?」
振り返り笑う環。千夏は席に着き、片目で環を一瞥する。
「別に疑ってるわけじゃないけど、性分なんです」
ふと、環の隣のリェンと目が合った。手を振るリェンに千夏は顔をあげる。
「ファフォさんの機体、インファイト特化でしたね」
「そうね!」
「大丈夫ですか? 宇宙だと空間把握とか難しいでしょう」
「大丈夫!」
「そちらが大丈夫でも、誤射してしまう可能性も‥‥」
「大丈夫! 避けるから!」
満面の笑みで拳を掲げるリェン。千夏の肩をシンがそっと叩いた。
「何言ってもあいつは大丈夫としか言わないんだ」
「腕は確かって聞いたけど‥‥」
唖然とする千夏。リェンは環と肩を組んでそのへんをウロウロしている。
「ま、何かあれば美具とリヴァル殿がフォローする。心配無用じゃ」
「だといいんだけど」
溜息を漏らす千夏。こうして傭兵達を乗せ、艦は月へと向かうのであった。
●降下
『作戦域に突入。それじゃあ皆、お願いね』
月に接近したベネトナシュは減速しつつハッチを開き、KVを出撃させる。
「一番槍での月面偵察、か‥‥これは責任重大だ」
『周辺に敵影なし。進路クリア、発進どうぞ』
「煉条トヲイ、リヴァティー‥‥発進する!」
次々に発進する傭兵達のKV。予定通り班毎に陣形を組みつつ月へと向かう。
「敵と遭遇したら撃破しつつ、月面に降下すればいいんですよね?」
『ええ。アルヴァイムが月面の地質調査もする予定だから、皆援護してあげて』
シャルロットの声に通信機から管制官の応答が聞こえてくる。美具は続けて声をかける。
「千夏殿、月面のマッピングを手伝って貰えぬか? ピュアホワイトの能力ならかなり捗る筈じゃ」
「分ってます。敵についても情報共有しますね」
傭兵達は三つの班に分かれる。この内ベネトナシュの直衛に着くリヴァルと美具を残し、一斑、二班のKVは月面へと降下する。
「複数の敵影を確認‥‥あれが浮遊砲台?」
目を凝らす千夏。闇に浮かんだ幾つかの岩の塊は動き出し、砲門をKVへと向ける。
「やっぱりというか‥‥素直に調べさせてはくれないよね」
一斉に攻撃を開始する砲台。しかし事前に確認出来ていた為、全機回避に成功する。
「宇宙空間での活動は今回で2度目だが――大気圏内とは随分勝手が違って来るな‥‥」
プロトン砲を回避しながら呟くトヲイ。その脇をリェンのハヤテが突き抜けていく。
「いやっほー! 一番乗りー!」
「お、おい‥‥」
リェンはアサルトライフルを連射しつつ砲台に接近、変形して蹴りを叩き込んだ。
「考えていても仕方ない、か」
「トヲイさん、援護します!」
トヲイとシャルロットは二機で砲台へ接近、十字砲火でこれを撃破する。
「おいリェン、戻れ! 勝手に暴れるな!」
慌てるシン。羽矢子はレーザーライフルで砲台を攻撃しつつ声をかける。
「リェンいい動きじゃない。ベネトナシュは人手不足だし、本人もやる気があるなら歓迎したげれば?」
「だからって勝手な行動は困る!」
「多少じゃじゃ馬でも、フォローして補い合うのがチームってもんでしょ? リェンが突撃でシンがバックアップでしょ。見た感じ、バランスは取れてるわよ?」
何とも言えない表情のシン。そこへリヴァルが声をかける。
「シン、リェンの左側を重点的に支援するといい。左目を閉じてみれば、彼女が何を望んでいるか理解出来るだろう」
「あんたに言われずとも分っているさ」
リェンを追うシン。結果的に同じ班である環と千夏も引っ張られてしまう。
「待ってよシン、リェンー!」
「‥‥はあ。お手並み拝見ね」
砲台を排除し降下する一行。行く先、月面には複数のキメラの姿が見える。
飛行し接近してくる個体と前衛が交戦する中、美具は地上のキメラを睨む。
「これでは月面に降りられぬではないか。とりあえず焼き払うのじゃ」
月面目掛けて『燭陰』を放つ美具。広範囲に放出された金属弾にキメラが次々に被弾するのを確認すると、今度は上空の敵を見やる。
「鳴かぬなら、許してくれとお願いさせてやるのじゃ、ホトトギス」
コンテナを放出する天。そこから夥しい量のミサイルが花開き飛行しているキメラを次々に襲う。
「制空戦闘は美具に任せて降りるが良い。案ずるでない、銃後はしっかりと守ってやるでな」
『ベネトナシュも続くわ。援護お願いね』
「状況は把握している。問題ない」
ベネトナシュ周辺を飛び回り、近づくキメラを片っ端から撃ち落すリヴァル。一方傭兵達は次々に人型に変形し月面へ降り立っていた。
「さぁ月面にやって参りました! フライミートゥーザムーンなわけですよ!」
環は美具の攻撃で弱っていたキメラ達をアサルトライフルで倒しながら前進。リェン、シンがそれに左右から続く。
「降下完了、周辺状況把握開始」
月面に人型で降り立ったアルヴァイムと低空飛行する千夏が月面の調査を開始する。
ベネトナシュに広がる白紙の地図は見る見るうちに埋まり、立体的な図面を描いていく。
「敵はキメラだけか‥‥。バグアが月面に展開している戦力は、本当にこれだけなのか?」
アルヴァイムの傍に着地するトヲイ。目に付く敵はキメラと砲台だけで、しかも数もそれほど多くはない。
「これなら調査も上手く行きそうですね」
トヲイの傍に着地しするシャルロット。同じく着地した羽矢子は周囲を感慨深く眺めている。
「‥‥こんなとこまで来たんだね。初めて宇宙に上がったときはそんな余裕も無かったけど、月に降るとなればちょっと感慨深いかな」
「綺麗ですよね。こんな状況でなかったらゆっくりと月から地球を見たいんだけど」
「よーし、バグアを追い払ったら月まで新婚旅行にくるわよ! 相手はまだ居ないけど」
拳を掲げる羽矢子の天。二班のKV達の間に奇妙な沈黙が流れた。
ベネトナシュは低空飛行で展開するKV達の中心に移動。そこへ周囲からキメラが集まってくる。
「更にキメラが接近、注意して」
「先手必勝ォオオ! こっちに来る前に落とすわよ!」
「え? ちょ、ちょっと‥‥!」
飛行形態に変更しすっ飛んでいくリェンに唖然とする千夏。しかし接近されればベネトナシュに防御能力はない為、先手必勝で合ってはいる。
「こっちはキメラ掃除してくるから、護衛はよろしくね!」
環とシンはリェンを追って移動。止む無く千夏もそれに続く。
接近するキメラにミサイルを発射する環。変形しアサルトライフルを連射しつつ降下し、月面のキメラを殴り飛ばす。
「あんた達じゃ役不足よ!」
加速し次々に爪でキメラを引き裂くリェン。千夏は前衛をレーザーガトリングで支援しつつ周囲を探る。
「お陰で敵の迎撃がスムーズに運ぶ。電子戦機は有り難いな」
「当然です。この状況で敵に先手を打たせるなんて無様な真似はしたくないもの」
シンの声に笑みを浮かべる千夏。一方、もう片方の班もキメラの迎撃に動いていた。
上空からの攻撃を回避し舞い上がるトヲイ機。上空で戦闘するトヲイをアルヴァイムと羽矢子はライフルで援護、キメラを撃ちぬいていく。
「駆け抜けろ、ツークンフト!」
シャルロットは地上の敵を高速移動しながらアサルトライフルで次々に撃破。キメラは続々と沈黙して行く。
「無理しないで錬力切れそうな機体は補給に戻って。状況は安定してるし、余裕もあるでしょ」
声を上げる駆羽矢子。キメラの光線を盾で防ぎ、ライフルで迎撃する。
「ったく、ここはお前達の居場所じゃ無いんだよっ!」
のたうつようにして沈黙するキメラ。粗方接近する敵が居なくなると、傭兵達はKVに補給を行なう事に。
補給は交互に行なわれた。ベネトナシュごと移動しつつ、補給を繰り返し傭兵達は偵察を続ける。
彼らの行動は実に的確であった。常時ブーストを発動せず、前衛機だけ臨戦態勢にし、後衛は錬力を休ませたりと、宇宙戦の為の工夫が多くみられた。
電子戦機二機による万全の索敵体勢もあり、ベネトナシュに敵を寄せ付ける前に迎撃に成功。偵察は非常に上々に進行していた。
「ほっ」
大量のミサイルを放出し浮遊するキメラを薙ぎ払う美具。進行方向上、そこにこれまでとは違う景色が見えてきた。
「クレーターか。かなりの大きさじゃな」
巨大なクレーターを前に徐行する艦。傭兵達は各々写真を撮ったりKVの能力を使用して周辺の情報を収集する。
「敵の始末もついたようですし、降機してみます」
「了解、援護する」
トヲイの応答を聞き、幻龍に膝を着かせるアルヴァイム。コックピットのハッチを開き、月面へと降り立った。
「ねぇシン、赤毛女って好き? てかぶっちゃけ私の事だけど!」
「別に好きでも嫌いでもないが‥‥この間会ったばかりだし‥‥」
アホな通信に微動だにせず月の表面を削り採取するアルヴァイム。やる事を済ませさっさと機体に戻る。
『大体調査も済んだかしらね。もう少し巡ってみて、何も無ければ帰りましょうか』
こうして傭兵達は万全に調査を終え、月から立ち去るのであった。
●帰路
「どうよ、あたしの実力! まだまだ錆びちゃいないでしょ?」
再び艦内会議室。どや顔でサムズアップするリェンに環は歩み寄る。
「心配だったけど、大丈夫だったみたいだね。おつかれー!」
「環もおつかれー! イェーイ!」
ハイタッチする二人。実際、敵の数もそれほど多くは無く、強力な個体も見つからなかった。偵察環境が万全だった事もあり、先手が確定しているのであれば、この面子で苦戦するという事もないだろう。
「しかし‥‥本当にこれだけなのか?」
口元に手をやり思案するトヲイ。実際、彼らが調べたのは表層だけで、月の全てを確認したわけではない。
「何処かにまだ、何か隠しているのかもしれないな‥‥」
「確かに、ちょっとあっけなかったかもね」
窓から月を見やり呟くシャルロット。美具はそんな二人の隣に並ぶ。
「そう疑心暗鬼になっても仕方あるまい。得られた情報を冷静に正しく吟味する事、それが大人というものじゃ」
話を聞きつつリヴァルは物思いに耽る。疑心暗鬼はどうかと思うが、この艦の行く先を思えば不安にもなる。
「リヴァル、改めて有難うね。あんた達が居なかったら、こうして宇宙には来られなかったわ」
「ああ。腕前は健在のようだな。お陰であまり俺の出番がなかった」
「でもないでしょ。あたし結構凡ミス多かったし」
眼帯の上から瞳を撫でるリェン。リヴァルはその肩を叩く。
「自分のイメージの通りに動けなくても焦る事ではない。今の自分に過去の経験や技術を融合させれば、そのジレンマも和らぐだろう」
「ん。あんがとね、黒眼鏡!」
背中をバシバシ叩くリェン。様子を眺めていたアルヴァイムは背を向けちょっと笑うのであった。
「今日は振り回してしまって悪かったな」
疲れた様子の千夏に声をかけるシン。リェンと環はすっかり意気投合したのか、疲れも見せずに仲良く話し込んでいる。
「クドウさんも大変ね、本当に」
「ああ。先が思いやられる、本当に」
二人してがくりと肩を落とす。様々な懸念や徒労や笑顔を乗せ、ベネトナシュはカンパネラへと帰還する。
こうして得られた月面偵察のデータは、これから月周辺の開発に生かされる事だろう。その道筋はまだ、始まったばかりだが‥‥。