タイトル:誰が為の刃2マスター:神宮寺 飛鳥

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/01/08 08:18

●オープニング本文


「あれ? スバルちゃんも依頼を受けに来たの?」
 背後からの声に振り返ると、そこには親しげな笑顔を浮かべたカシェル・ミュラーの姿があった。
 UPC本部、幾つか提示されている依頼を前に腕を組み佇んでいたスバル。カシェルの登場に困惑した様子である。
「ミュラーさん‥‥私の後をいつもつけてるんじゃないですよね?」
「えぇ!? な、なんでそうなるの‥‥」
「一応、被害妄想である事は自覚していますが‥‥私が何か考え込んでいると背後からいつもやってくるので‥‥」
 口元に手をやり呟くスバル。影の差したその横顔にカシェルは苦笑する。
「そういわれてもな‥‥僕、本当に今来た所だし」
「そうですね。そういえばミュラーさん、貴方‥‥どうして傭兵を続けているんですか?」
 唐突な質問にきょとんとするカシェル。スバルは腰に手を当て、カシェルの目を見つめる。
「朝比奈さんから聞きました。貴方が『人形師』というバグアとの戦いで、どのような位置に居たのかを」
「あの人はまた余計な事を‥‥ていうか本当にそういう情報どこで仕入れてくるのかなぁ」
「貴方は‥‥『復讐』という事柄に関しては熟練者なのでしょう? するにしても、されるにしても、貴方はそれに関わりすぎた」
 たかだか十代後半の、しかもこんなへらへらした顔の少年が背負った事情にしては重すぎる。朝比奈から話を聞いた時はだからどうしたと思ったものだが、今となってはその心境に興味が沸いていた。
「えーと、誤解があると思うんだけど‥‥僕は別に、復讐なんて物に関わってるつもりはないよ」
「しかし、貴女が人形師を追った理由の根源は、双子の姉を失った事でしょう?」
 後頭部を掻き、困った様子のカシェル。そこまで来て漸くスバルは自分が失礼な質問をしている事に気付いた。
「すいません、不躾な質問をしました」
「ああ、いいんだよ。済んだ事だしね。確かに僕が戦う理由も、最初は復讐だったんだと思う。でも、思い返してみればそれだけでもないんだよね」
 腕を組み回想するカシェル。そう、確かに切欠は復讐だった。
 姉を殺された事。仲間に裏切られた事。その仲間すら殺さなければならなかった事。
 戦って戦って、追いかければ追いかけるほどやりきれない想いを募らせた。結局最後の最後、人形師を殺してもその陰りが晴れる事はなかった。
 今度は自分が復讐される側になり、自分達は何故こんな事をいつまでも繰り返すのかと疑問にも思う。どこまでも愚かしく、馬鹿馬鹿しく、下らなくてどうしようもなくて、そんな生き物である事に嫌気が差す事もある。
「でも、少なくとも今は違う。僕は復讐という言葉に正当性は感じない。誰でもやったらやり返される。やり返したら、またやり返される。下らない連鎖だよ」
「ならば、失った者はどうすれば? 一方的で理不尽な暴力に、大切な者を奪われた者は? その怒りと悲しみと憎しみ、怨嗟の声をどう解決すればいい?」
「そんなものは、黙って我慢すればいい」
 いい笑顔だった。にっこりと微笑み、優しい声で即答する。あまりにその言葉が綺麗だったから、思わずスバルも唖然とした。
「戦争をしているんだから、やるもやり返されるも日常茶飯事だけどさ。こと復讐に関して言えば、それはどこかで誰かが我慢すればいい事だよ」
「‥‥だから我慢すると? 悲しみも怒りも飲み込むと?」
「それで一つ、悲しい運命が終わるなら」
 真っ直ぐな瞳には嘘は感じられない。何故だろう、それは綺麗事なのに。綺麗事だと感じているのに、どうしようもなく響くのだ。この少年のどこからそんな説得力が沸いてくるのか不思議で仕方がなかったが、兎に角それは生半可ではない覚悟を伴いスバルの胸に突き刺さった。
「‥‥貴女は大人ですね。私はそんな風には考えられない」
「それが普通だよ。僕は別に復讐を否定したりしない。ただ自分はやらないってだけさ。感情の形に貴賎はない‥‥どんな事でも心の底から願うなら、それは多分純粋なんだよ」
 冷や汗を流すスバル。三つも年下のこの少年は、どうしてこう枯れた老人のような言葉を平然と吐くのだろうか。
「この間イスルギに言われた事を気にしてるんでしょ?」
 無言で頷く。あの日、憎しみをぶちまけるべき相手と再会を果たした。そして同時にその復讐を下らないと一笑もされた。
 復讐とは自分の為ではなく誰かの為にする物。それは義によって成され、私的な感情を挟んだ瞬間に高潔さを失う‥‥。
 あの異形は復讐を否定しなかった。しかし復讐の形にも美があると語った。その声がわだかまっているのは、元々彼女が抱えていた迷いと符号するからだ。
「私の復讐は‥‥所詮、私の為でしかありません。ただの我侭で引いた引き金に正当性なんてない‥‥それは分っているんです。でもやめられない。それをやめてしまったら、これまでの人生を全て否定してしまう気がする」
「それは君が答えを出すべき事だから、僕にはなんとも言えないけど‥‥その事ばかり考えていても、視野を狭めるだけだよ。己の身を改めるようなはっとする瞬間って、結構関係ない事をしている時に訪れたりするしね」
 そう言って笑い、カシェルはスバルの手を取る。目を丸くするスバルを引き、カシェルはカウンターへ向かう。
「というわけで、一緒に依頼を受けよう!」
「‥‥何故そうなるんですか?」
「刀狩りの事ばっかり追いかけてるから考えすぎるんだよ。その辺のキメラを倒す事だって、能力者の立派な仕事なんだからさ」
 ずるずると引っ張られるスバル。心ここになく、憂いを帯びた瞳は答えの出ない自問自答に囚われ続けていた。

●参加者一覧

六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA
ラナ・ヴェクサー(gc1748
19歳・♀・PN
ヨダカ(gc2990
12歳・♀・ER
月読井草(gc4439
16歳・♀・AA
雨宮 ひまり(gc5274
15歳・♀・JG
藤堂 媛(gc7261
20歳・♀・ST

●リプレイ本文

●秘湯
「やってきました、愛の湯けむり傭兵混浴露天風呂! さーて、温泉熊はどこかなーっと‥‥?」
 雪の降り積もった山道を登った先、傭兵達は目的地である秘湯へ辿り着いていた。月読井草(gc4439)が目を凝らすと、湯煙の向こうに複数の大柄なシルエットが見える。
「変な言い方しないでよ‥‥この状況のどこに愛の要素があるんだ」
 冷や汗を流すカシェル。それは兎も角、温泉には手ぬぐいを頭に乗せた熊が各々自由に寛いでいる。その数、合計四体。
「ほ、本当に熊さんが手ぬぐいを乗せてる‥‥? ちょっとした癒しですね」
「ていうか君はどうしちゃったの、その格好は」
 カシェルの声に振り返る雨宮 ひまり(gc5274)。何故か彼女はトナカイの格好をしている。トナカイの格好っていうか、コスプレである。
「熊さんの警戒心を和らげるための擬態です。どこからどうみても野生動物ですよ〜」
「そ、そうかな‥‥」
「温泉熊かー。可哀想だけど‥‥たっぴらかす!」
 握り拳と共に頷く井草。カシェルとひまりは顔を見合わせる。
「え? なに?」
「たっぴらかす!」
「なんだい?」
「たっぴらかす! 叩き潰すという意味だよ!」
 ジタバタする井草を見やり、特に興味無さそうに熊へ視線を戻す二人。ふと、井草は自分を見ている視線に気付く。
「スバル先生、まだ怒ってんのー? こないだはやりすぎたよ、ごめんね」
 スバルは無言で立ち上がり井草へ素早く接近、背後に回りその首を絞める。
「ぐえぇっ!? 締まってる、締まってる!」
「その話は二度としないで下さい不快です」
「ど、同好の士を見つけた嬉しさが暴走しちゃったんだって! そんな事は温泉にでも入って忘れるといいよ!」
 青ざめた顔でタップする井草。ダウンした井草をスバルは片足でぐりぐりしている。
「でも、温泉てえぇよねぇ。パパっと倒してもて、ゆっくりしよ! うち沢山蜜柑持ってきてん!」
 ダンボール箱にたっぷりの蜜柑を取り出す藤堂 媛(gc7261)。満面の笑みだが、スバルは困惑している。
「その蜜柑をどうするんですか? まさか、浮かべるとか‥‥」
「これは食べる用やでー? 欲しい人おったら言うてね!」
 全員で食べたとしても食べきるのだろうか? という疑問は口に出来なかった。
「よし、早速討伐と行くか。温泉久しぶりだし、楽しみッスねー。最近激戦続きで疲れも溜まってるし」
 肩を回し、首をごきごき鳴らす六堂源治(ga8154)。カシェルは遠い目で苦笑している。
「私も万全なら‥‥ね」
 身体を抱き自嘲気味に笑うラナ・ヴェクサー(gc1748)。先の依頼で負傷したラナの傷はまだ癒えきらずに居た。
「ラ、ラナちゃん大丈夫ー! うち足引っ張らんように頑張るし、強い人も居るし!」
「刀狩りとの戦いでは、六堂さんと肩を並べて戦えたのに‥‥重体なんて不甲斐ない‥‥」
 膝を抱えて俯いているラナの周りでおろおろしている媛。カシェルもそこに加わる。
「重体なんてよくある事ですよ! 僕なんか毎回身体捻じ曲がったりしてますし!」
「それは、カー君も気をつけた方がいいと思うよ?」
 ひまりの一声で肩を落とすカシェル。その様子に苦笑し、ラナは立ち上がる。
「今は‥‥自分に出来る事をします。落ち込んでいても‥‥仕方ありませんし」
「うんうん! 狙われそうな時は、前衛の人らに隠れさして貰お!」
「隠れるんですか‥‥?」
「うち、普通に戦うん初めてやからねぇ、弱いんやもん!」
 ダンボールを抱えてにこにこ笑う媛。ラナも釣られて笑うのであった。
「とーりーあーえーずー‥‥ですねー」
 声を上げたのはヨダカ(gc2990)だ。立ち上がり、くるりと振り返る。
「言いたい事は色々あるですけど、まずお仕事なのです。滑らない様に足元に気をつけて、さっさと終わらせるのですよ!」
 ずんずんキメラに向かっていくヨダカ。スバルは小首を傾げる。
「ヨダカ、何か怒ってます?」
「いやー、早く温泉に入りたかったんだろ。寒いしなーここ」
「それは多分違うと思います」
 笑う井草にツッコミつつ、スバルもその後を追うのであった。

●手拭熊
「露天風呂がでーじなってる!」
「え? なに?」
「でーじ。大変って事。今ウチナーグチがマイブームなんだよいいだろ」
「さっきから居たじゃないか、熊」
「今言わないともう言う所ない気がしたんだよ」
 井草、ひまり、カシェルの三人が漫才をしている間に傭兵達は熊へと近づいていく。
「実は俺、ちょいと試したい技があるんスけど、やってみていいッスか?」
 全員の視線が源治に集中する。そこには戸惑いと羨望の眼差しが含まれている。
「六堂さんの試したい技ってどんなのだろ〜。すごくカッコいいのかな〜?」
「対『刀狩り』用に考えた技ッスよ。ちょいと消耗がデカいが、効果は期待できる‥‥かな?」
 ひまりのきらきらした視線に腕組み答える源治。するとカシェルはその肩をがしりと掴んだ。
「と、と、と、とりあえずまずは敵を温泉から引き離しましょう!」
「お、おう‥‥どうしたカシェル?」
「いや、温泉が破壊されてしまう可能性がありますから!」
「温泉破壊って‥‥どんだけ化物だと思われてるんだ、俺」
 兎に角温泉が破壊されては依頼失敗なので、源治は少し待機する事になった。
「六堂さん、ちっちゃくなっとる‥‥可哀想やん」
「いえ、彼は本当に‥‥やりかねませんから‥‥」
 物陰で待機している源治を顧みて呟く媛。ラナは遠い目でそう返した。
「よーし、まずはあたしが熊の手拭を奪い――」
「えいっ」
 井草がそう言い出した時には既にひまりが熊の手拭を矢で射抜いていた。
「あたしが取ろうと思ったのに!」
「撃ち落したらどうなるのかと思って〜」
 どうなるのかというと、熊達は一斉に立ち上がり、怒号を上げながら二足歩行で突進してきた。
「ですよね〜」
「今度こそ、この剣で熊のスライスにしてやる!」
 大剣を腰為に構え、どや顔の井草。媛は仲間に次々に強化を施していく。
「とりあえずー、順番に練成強化ー!」
「ついでに弱体なのです!」
 ヨダカは練成弱体を熊に施す。襲い掛かってきた熊はカシェルが足止めを引き受け、攻撃を次々に捌く。
「流石に、連中と比べちゃうとね‥‥っと」
「その熊は貰ったー! ねんがんのえーすあさるとの一撃をくらえー!」
 跳躍した井草は剣ごと縦に回転し、熊へ襲い掛かる。振り下ろされた刃は深く熊を切り裂いた。
 ひまりはキメラに矢を放ち、スバルはライフルでそれに続く。カシェルは井草と剣で共闘し、それぞれ一体ずつ熊をあっさり撃破した。
「この程度、大した事ないのですよ!」
 ヨダカは媛と共に超機械でキメラを攻撃。ラナは雪の上に腹這いに構え、銃で二人を援護する。これにより特に苦戦せず三体目も撃破した。
「これで‥‥残りは一体」
 呟くラナ。漸く源治の出番である。傭兵達が一斉に退避するのに一握の寂しさを覚えつつ、源治は太刀を構えた。
「さぁて、試してみるか!」
 突進してくる熊に真正面から駆け出す源治。その動きは鈍重で、彼の刃をかわせるような物ではない。
 刹那、紅い光を帯びた源治は刃を繰り出す。斬撃は瞬く間にキメラを引き裂く――その数四。一撃一撃が致死の威力を持つ為、大した体力もないキメラは斬られたというより、炸裂したというのが正しい結果である。
 衝撃でバラバラに吹き飛び、細かい肉片になった熊キメラ。源治は血振りし刃を収める。
「何か、手応えがなくてよくわかんなかったッスね‥‥おっ?」
 振り返ると傭兵達が各々複雑な表情で彼を見ているのであった。
「カー君も真似してみたら?」
「無理です」

●愛の湯けむり以下略
「さて、帰りますか」
 踵を返し早足で移動するスバル。ひまりはその腕を掴み、瞳を輝かせる。
「みんなで温泉に入りましょう! もちろんカー君とスバルさんもです!」
「いえ、私は‥‥」
「大丈夫です、バスタオル持ってきましたから〜」
「何が大丈夫‥‥ちょっと‥‥!」
「ヨダカもすーちゃんには話があるのです。ここで帰られては困るのです」
 ずるずると物陰に引きずり込まれるスバル。カシェルと源治はその様子を肩を並べ苦笑で見守る。
「ラナちゃん、ほら! うちが着替え手伝ってあげる!」
「あ、はい‥‥すみません」
「えぇんよ、友達やないの。気にせんでかまんて〜」
 ラナと媛も物陰へ向かう。最後に井草が二人の前に立ち、腰をくねらせ言った。
「覗くなよー?」
「覗かないよ!」
 井草がちょこちょこ走り去るとカシェルは溜息を一つ。源治は頷き、カシェルの背中を叩いた。
「さて、俺達も入るッスよ!」
「えぇ!? 僕達以外全員女性ですよ!?」
「俺は大丈夫だ。カシェルは怪我ばっかするんだから入った方がいい。湯治だ湯治」
「僕は大丈夫じゃないっていうか、さっきの戦闘無傷‥‥あ、ちょっとー!?」

 こうして男女共に色々あって、数分後‥‥。

「やっぱり温泉てえぇなぁ‥‥。ラナちゃん、傷は大丈夫?」
 ラナを気遣いつつ湯船に浸かる媛。井草はあちこちうろうろしたり、湯船に浮かんだり泳いだりしている。
「そんな所にいると風邪引いちゃうよ。混浴なんだからカー君も一緒に入れば?」
「何か、入ってしまうと大事な物を失ってしまう気がする」
「そっか〜、そうだよね〜。でも大丈夫、入ってしまえば嫌なこと全部忘れられるから、さあさあ」
 何だかんだで棒立ちしていたカシェルもひまりに轢かれて入る事になった。
「こ、この状況は異常です‥‥男女とか以前に、他人と一緒に裸で風呂に入るなんて!」
 スバルは泣きそうな顔でしっかり湯船に浸かっている。源治はその様子に苦笑を浮かべる。
「それが温泉ってもんッスよ。必要なのは手拭一枚のみ‥‥水着とかは俺としては邪道ッスね」
「そんな! 女性に脱げというのですか!」
「脱げばいいじゃないッスか。俺、別に何とも思わないし」
 顔を洗いながらそう返す源治。無心で空を見上げるカシェルに、媛とラナがお互いの背中を流している声が聞こえてくる。
「ラナちゃんむこ向いてー、お湯かけるよ〜」
 空を。
「ん‥‥っ」
「あぁ、ごめん! 痛かった?」
「大丈夫です‥‥ありがとう。今度は私が‥‥」
 見上げて。
「藤堂君‥‥微妙に私より、大きいのですよね。不思議‥‥」
「ウチのがお姉さんなんやけん当たり前やんか〜、まあ大きい言うてもちぃとだけやけど。確認してみよか?」
「あ‥‥っ、ちょっと‥‥っ」
 いる。
「ところでさぁカシェル」
「うわっ!?」
 突然井草から声をかけられ驚くカシェル。
「君はこの状況下で何も感じないのかい。青少年的なアレは無いの?」
「は?」
「アレって言ったらアレだよ言わせないでよ。うっかりタオルを剥がしてしまうドジっ娘がいたらどうするの‥‥あ、ちょっ」
 井草の頭を掴み湯船に沈めるカシェル。ひまりはその騒動の脇でのんびりしている。
「はふぅ〜‥‥」
 ちらりと目を向けるとスバルとヨダカが並んで話をしていた。何やら真面目な雰囲気だ。
「全く、まだ揺れる余地があったとは驚きなのです」
 溜息を吐くヨダカ。スバルは顔まで湯船に沈んでいる。
「アレの言った事など論外の極みなのですよ。復讐とは個人の情念で発する物で誰かの為に復讐を行うなんて欺瞞もいい所なのです」
 結晶の竜とスバルが対峙した時、ヨダカもそこに居た。そしてあの化物の言葉は、ヨダカの思想とはかけ離れていた。
「戦士? 義? 道理? そんな物が戦場に存在するとでも思っているのですか! 好き好んで殺しをやってる癖に、あたかも尊い事を行っている様に自分を飾り立てて、やれ義だ戦士だと愚かにも程があるのですよ!」
「ヨダカ‥‥」
「以前す〜ちゃんには言いましたね、ヨダカ達は好き好んで殺しを行う悪鬼なのだと。自身の納得の為に好き好んで他人を殺す‥‥それが復讐という行いなのです」
 歯軋りし、小さな拳を握り締める。彼女にとって、戦争を綺麗事で語るのは悪徳に他ならない。
 憎悪と共に歩んだ彼女の人生において、それは何の意味も持たなかった。そこに救済は無く、そこに道理は無く、理不尽なリアルが常に鎮座していた。
「滅尽滅相、一人も生かして帰さない。私はバグアに関わった者を決して許さない事を選んだ‥‥それがヨダカの在り方なのです」
 黙りこむスバル。いつの間にか近づいていた源治は二人の傍に腰を下ろし口を開いた。
「俺は、復讐を下らないとは言えない。俺自身、復讐を原動力にここまで来たからな。だが俺は、常に心にひとつ、答えを持って臨んだ」
「答え‥‥?」
「迷っても悩んでも、折れず曲がらない、筋を通してきた。それは誰もが自分で決める事で、一人一人答えは違う。俺もカシェルも、ヨダカもな」
 ヨダカは源治の声に目を向ける。源治は二人ではなく月へ視線を放り投げた。
「だからスバル、お前も何かひとつ答えを持って行け。自分に筋を通した答えは、誰にも否定される謂れの無い、たったひとつの真実なんだ」
「凄いですね。皆、自分の中に曲がらない物を持っている。私は‥‥それが羨ましい」
 湯船に浮かんだ月に手を伸ばすスバル。触れれば壊れる、それは簡単な幻。
「見つかるでしょうか、私にも‥‥答えが」
 誰もが探し求める自分だけの答え。ラナはカシェルと肩を並べ、同じく月を見上げていた。
「そういえば‥‥こうして貴方とゆっくりするのは初めて、でしたか‥‥?」
「言われて見るとそうですね」
「穏やか‥‥です、ね」
 色々な事があった。そのどれもが激戦の記憶で、こうしてのんびりしている事は不思議だとさえ感じる。
 それはカシェルも同じだったのだろう。何も言わず、ただ空を見上げていた。
「あの時‥‥カシェル君がジョンに言った事、覚えていますか?」
「え?」
「エンジュを倒した時です‥‥。格好‥‥よかったですよ。眩しかった‥‥かな」
 冗談っぽく笑うラナ。カシェルはその横顔に笑顔を浮かべる。
「良かった。ラナさん、笑うようになってくれて」
 それから遠く、どこか遠い所へ想いを馳せて言う。
「答えは‥‥見つかりましたか?」
 湯煙は空へ舞い上がる。温泉は激戦に身を置く彼らの身体と、そして心を癒せただろうか。
 依頼は無事に終了し、傭兵達は帰路へついた。帰ればまたそれぞれの戦場が待っている事だろう。
 どこまでも続く戦い。それはもしかしたら、自分の中に答えを持たない者には、辛い道程なのかもしれない。

「ところでスバル、カシェルのことはどう思ってるん?」
「どん引きです」
 
 戦士達の行く道に、幸多からん事を‥‥。