●リプレイ本文
●追跡
「わふー! 早速スバルちゃんの秘密を暴露するのですよー!」
広場に集まった傭兵達。ヒイロは既にテンションが限界突破しており、意味もなくはしゃいでいる。
「‥‥まあ、なんだ。とりあえずおでんでも食うか?」
持ち込んだタッパーを開き、ヒイロの口にちくわを捻じ込む上杉・浩一(
ga8766)。ヒイロは大人しくなった。
「いいよなぁ、誕生日会。なんか久しぶりだなぁ‥‥こういう依頼」
腕を組み、遠くを見つめる巳沢 涼(
gc3648)。とりあえず準備と言う事で、まずはスバルを探さなくてはならない。
「とりあえず呼び出すか、出歩いてる所をとっ捕まえるですよ」
ヨダカ(
gc2990)の言葉にヒイロはちくわを咥えながら振り返る。
「ヒイロ、スバルちゃんの連絡先わかんない。でも、いそうなとこはしってる」
「ほな、とりあえず行ってみようや。そこにおらんかったら聞き込みやな」
頷く三日科 優子(
gc4996)。そんな訳で一行は移動。スバル行きつけの本屋にやって来た。
「普通に居るな」
店先で雑誌を呼んでいるスバル。速攻見つかったので涼は微妙な表情だ。
「スバルちゃ‥‥もがぁっ」
大声で飛び出そうとするヒイロを背後から優子が抑え、浩一が大根を捻じ込む。ずるずる引き摺り、一行は一旦物陰へ。
「何故そこで止めてしまうネ。ストップ早すぎて暴走の余地がないヨ」
ジト目で浩一と優子を見る楊 雪花(
gc7252)。大体皆ヒイロを停止させる事に関してはプロなので、暴れる気配もない。
「さて、どうするか。全員で固まっていても効率悪いしな」
後頭部を掻きながら呟く涼。ふと見ると、曲がり角から月読井草(
gc4439)がスバルの様子を眺めている。
「匂う‥‥匂うね。あのスバルって奴からご同類の匂いがプンプンする。あたしには分かる、アイツは『隠れ』だ」
「むしろ隠れているのはヨダカ達だと思うですが‥‥。こうしていても仕方ないので、ヨダカはアタックしてくるですよ」
というわけで、ヨダカがスバルの所へ向かう事に。残りは尾行という事になったのだが。
「ワタシはちょと準備あるので先行くネ。皆サンはストーキング楽しむヨロシ」
と、走り去る雪花。残された面子の中、井草とヒイロはどや顔をし、残りは微妙な表情を浮かべた。
「‥‥まあ、スバルさんのその後は気になっていたからな。丁度いいか」
「スバルちゃんもこれを機に皆と仲良くなれるといいな。なんか友達いないとか言ってたし」
と、物陰から顔を覗かせる浩一と涼。見れば丁度ヨダカがスバルに声をかけた所だ。
「す〜ちゃん、こっちなのですよ!」
「ん、ヨダカですか」
少年向けのマンガ雑誌を閉じながら振り返るスバル。二人は一言二言挨拶を交わす。
「うちの妹弟子がこっちに来るので何かプレゼントをしようと思うのですけどね、相談に乗って欲しいのですよ。す〜ちゃんならどんな物が欲しいです?」
「自分で言うのもなんですが、私が参考になるとは思えませんよ」
「年の頃とか背丈とかす〜ちゃんと同じくらいなので参考に色々聞いておきたいのですよ」
腕を組み思案するスバル。今、スルーしていいか迷う部分があった気がする。
「な、何か特別な事情があるんですね‥‥そういう事でしたら」
スバルは何か勘違いしつつ納得した様子で、二人は移動を開始する。
「わふ? 猫の人、何してるですか?」
「スバルが読んでた雑誌をちょっとね」
傭兵達もぞろぞろ移動するのだが、井草はスバルが呼んでいた雑誌を手に取る。
大体どのあたりを読んでいたのかは横から見て把握していた。後は『それらしい』ものを見つけるだけだ。
「あかん、子供が二人立ち読みしとる!」
ヒイロもマンガを読み始めたので、優子が戻って二人の首根っこを掴んで戻ってくる‥‥。
ヨダカはスバルと共にウィンドウショッピング中。スバルはヨダカについて行くだけだが、楽しそうに見えない事も無い。
「依頼とは言え、これは大丈夫なのか?」
冷や汗を流す涼。浩一はすっとラジオを取り出し、イヤホンを耳に装着した。
「俺はラジオを聴いているようだ」
と、その時。唐突にスバルが振り返り、二人に目を向けた。
浩一はラジオを聴きながら無表情にノリノリな様子。涼は慌てて隣にいた井草を掲げ、顔を隠した。
井草はというと、何やら瞳をきらきらさせながら無垢な笑顔を浮かべ、舌をぺろっと出している。
「ヨダカ、今そこにロリコンが‥‥」
「そんなもの居るわけないのですよ! さあ、次はあっちなのです!」
「でも確かに‥‥」
手を引かれ去っていくスバル。暫く追跡班は固まっていたが。
「みんななにしてるの‥‥」
ヒイロの一言で我に返り、慌てて後を追うのであった。
●友達
ショッピングの途中、ヨダカとスバルはレストランに入った。そこで追跡班も合流する事に。
「おお、スバルさんか。久しぶりじゃないか」
声をかける浩一。スバルは一瞬目を凝らしたが、直ぐに涼が続ける。
「今皆でランチに来たんだよ。良かったら一緒にどうだ?」
ヨダカに目配せするスバル。こうして許可を得て、卓を囲む事になった。
「久しぶりなぁ、スバル。隣りええか?」
頷くスバルの隣りの席に座る優子。二人は少しぎくしゃくした感じだ。
「二人の所を邪魔した侘びではないが、好きな物を奢るぞ」
「いや、スバルちゃんの分は俺が出すぜ。なんてったって先輩だからな!」
顔を見合わせ、スバルを見る浩一と涼。スバルは表情変えずに告げる。
「結構です。私、そんなにお金に困って見えますか?」
取り付く島もなかった。涼はとりあえずヒイロにカレーを与え、黙らせる。
「この間負けたし‥‥」
遠い目の涼。浩一も同じく遠い所を見つめていた。
「自分、サラダばっかやな。それが好きなん?」
「ベジタリアンですから」
もしゃもしゃレタスを口に入れながら優子に応じるスバル。
「ウチは、炭水化物が特に好きやね」
「そうですか」
「そう言えば病院にいたが、アレルギーとかはないん?」
「いえ、特には」
微妙な会話である。浩一は咳払いし声をかける。
「‥‥スバルさん、雰囲気変わったか?」
首を傾げるスバル。確かに先の会話も『拒絶』というよりはどうしたらいいのか困っている様子だ。
「どうでしょう。ただ、色々思う事はありました」
「まだ、復讐の事を考えとるんか?」
優子の声に目を瞑るスバル。
「復讐したい自分の気持ちはウチにはわからん。やけど、自分はもう少し大切にしたがええよ。意外と、自分が怪我したら悲しむ人多いで」
「余計なお世話です。それは貴女が容易く踏み込んでいい事じゃない」
ぴしゃりと言い放つスバル。それから微妙な空気になり、いまいち会話は弾まないまま一行は店を出た。
「スバルちゃんは、本当は分かってるのです」
口の周りのカレーを舐めながらヒイロは優子を見やる。
「あれは優子ちゃんに怒ってるんじゃなくて、心配して貰ってるのに復讐をやめられない自分に怒ってるですよ」
少し前を歩くスバルの背中を見つめる優子。傭兵達は少し距離を取り着いていく‥‥その時。
「アー、ちょとちょとそこ行く可愛いお嬢サン」
道端に店を広げる怪しげな占い師がスバルに声をかけた。が、完全スルー。
「ちょと! この寒空の下ずと待てたのにそれはないネ!」
振り返るスバル。占い師は慌てて席に着く。
「そう貴女のことネ。貴女中々大変な仕事しているネ、命の遣り取りをすル‥‥そう例えば傭兵のようナ」
ジト目のスバル。傭兵達は集まり、小声で話す。
「なんだあのあぶねーやつ‥‥?」
「雪花やな‥‥ここで待ち伏せしてたみたいやで」
井草の呟きに答える優子。傭兵達は納得し、スバルの後ろに移動する。
「仲間なんていらないと思ていたガ、最近になて人と協力することを覚えたのではないかナ?」
腕を組み、眉間に皺を寄せるスバル。
「頼もしい仲間を得た今、もう貴女は自分の趣味を隠す必要が無くなたのコトネ。さァ勇気を出してカミングアウトするヨロシ! 大丈夫! 彼らはそれを待てるのことヨ!」
両腕を広げ叫ぶ雪花。しかしスバルはノーリアクション。雪花は咳払いし、そそくさと店を畳む。
「じゃ、そゆことデ!」
脱兎の如く逃げ出す雪花。スバルはまだ難しい顔をしている。
「もしも〜し? す〜ちゃん?」
くるりと振り返り、何やら悶絶し始めた。
「あわわ‥‥すごい当たってたー! 何今の、すごいです!」
それからはっとした様子で真顔に戻る。
「別に占いとか信じてませんけど」
何か色々遅すぎるのだが、皆黙っておいてあげた。
それから一行はスバルと一緒にショッピングを続けたのだが、困った事が一つ。
「す〜ちゃん、物欲がないんですかね?」
かなりの店を回ったが、スバルが何かを欲しがったり興味を持つ事は一度もなかった。
武器や装備に関しては手に取る事はあったが、揃ってるから別にいいとすぐ戻してしまう。
何か買ってやろうという話になると、キッパリお断り。結果、分った事は何も無かった。
「結局マンガと野菜が好きって事しか分かってないぞ」
頭を抱える井草。困っている彼らの気も知らず、スバルは振り返る。
「あの、私そろそろ帰りますので」
「拙いで、帰るとか言っとる!」
「かくなる上は‥‥!」
瞳を輝かせるヨダカ。こうして一行はそのままスバルに着いていくのであった。
●空白
「で、何でついてきてるんですか?」
結局全員そのままスバルの家まで着いてきた。スバルの家は傭兵の兵舎ではなく、マンションの一室にあるらしい。
「アイヤー、これは巨大ネー」
「いつ合流したですか?」
ビルを見上げる雪花に驚くヒイロ。ではなく、ここが正念場。
「よければす〜ちゃんのお部屋にお邪魔させてほしいのです」
「同じドラグーンだし、仲良くしようぜ」
ヨダカに続く涼。スバルは困った様子だが、溜息をついて歩き出した。
「OKと言う事か?」
「そうみたいやな」
歩き出す浩一と優子。こうして傭兵達はスバルの部屋に向かった。
エレベーターに乗り込み、部屋に向かう一行。スバルは部屋の扉を開き、中を指差す。
「お邪魔しまーす」
「わふー! スバルちゃんのにおいがする!」
部屋に駆け込んでいく井草とヒイロ。続々と傭兵達が入るが、涼と浩一の番になって扉が閉められた。
「え?」
固まる二人。すると扉越しに声が聞こえる。
「すいません。流石に男性はどん引きです」
冷たい風が吹き抜ける。涼と浩一は顔を見合わせた――。
「ここがす〜ちゃんの部屋ですか‥‥って」
困惑するヨダカ。広々とした室内には本当に最低限の家具しかなく、インテリアと呼べる物は存在しない。
「物を持つのが嫌いなんです」
ソファに腰掛け覚醒を解除するスバル。大分疲れたのか、肩で息をしている。
「本当に何もないんやな‥‥」
それが何を意味しているのかは分からないが、優子の目には広すぎる部屋が寂しく見えた。
と、そんな雰囲気の一方、井草、ヒイロ、雪花の三人は勝手に彼方此方調べて回っていた。
「一見何も無い部屋だが、押入れ、納戸、クローゼット! アイテムが隠されていると見た!」
クローゼットを開く井草。同じ黒のライダースーツがずらりと並んでいる。
「なんか違う意味でやばい物見てしまたネ」
震えるヒイロの肩を叩く雪花。井草は寝室に入り、ベッドの下にもぐりこむ。
「流石にここは王道過ぎるかー!?」
と、動きが止まる井草。そのまま出てきた彼女が持っていたのは何やら薄い感じの本が多数。
「わふ? これは?」
「興味あるなら見てみるヨロシ。新世界広がるネ」
一冊手に取りヒイロに渡す雪花。と、そこで漸く気付いたスバルが悲鳴を上げた。
「わぁー! ちょっと何やってるんですか!」
覚醒して突っ込んで来るスバル。井草は押し倒され、無数の本が吹っ飛んだ。
聞こえてくる悲鳴や騒音に外で待つ男二人は耳を傾ける。
中では一応騒動が片付き、スバルは床にへたりこんで本を抱え俯いている。
「いやー、いいよね。某大手少年誌で連載中の‥‥」
視線で人が殺せると言わんばかりの眼差しで井草を射抜くスバル。井草は息を呑み、涙目で縮こまる。
「あたしは小さい子供だから、その本の意味はわかんないな〜!」
しかし効果なし。見れば雪花は一部始終をカメラに収めている。
「撮るなぁああ!」
「スバルちゃん、男の子同士が抱き合ってるのが好きですか?」
純粋な眼差しで問うヒイロ。スバルは身を乗り出し叫ぶ。
「違う! 私が好きなのは、女の子です!」
一瞬の間。スバルは顔を真っ赤にして頭を抱えている。
「そういう意味じゃなくて‥‥っ」
「まぁ、ええやん。秘密を共有して深まる友情ってのもあるやろ」
苦笑を浮かべ歩み寄る優子。そうして手を差し伸べる。
「一先ず、友達の好意に甘える事から始めよや」
涙目で優子を見上げ、手を取るスバル。そんな感じで、一先ず調査は終了するのであった。
「これがす〜ちゃんが参考にしている本‥‥」
「ヨ、ヨダカーッ!」
「そんなわけで、す〜ちゃんと友達になってきたのです」
サムズアップするヨダカ。ちなみに友達になってと言われたスバルは、『友達じゃなかったんだ‥‥』とへこんでいた。
寒空に取り残された男二人は楽しげな女性陣の後ろをちっちゃくついていく。
「所でヒオ、プレゼントは今から用意しておいた方がよろしいです?」
「わふ。なんなら預かるのですよ?」
「ガレキとかフィギュアだな。間違いない」
ニヤリと笑う井草。雪花はどこからともなく取り出した不思議な花をヒイロに見せる。
「この可愛い花はどうかネ? 身体の痛みやココロの痛みを忘れて幸せになれるヨ」
「やめんか!」
後頭部を優子の手刀で打たれる雪花。楽しげな様子を男性二人は後ろから眺める。
「ヒイロちゃんとこでやると、また大掃除が必要だろうなぁ。食い物は‥‥やっぱ鍋だろ、皆で食材を持ち寄ってな」
「温まるしな‥‥」
涼と共に空を見上げる浩一。ふと、思い出したようにヒイロを見る。
「そういえばヒイロさん、あのライフル‥‥どこで入手したんだ?」
びくりと背筋を震わせるヒイロ。満面の笑みで振り返るが、浩一はその頭を素早く鷲づかみにした。
そんな感じで依頼は終了。
得られた成果はスバルが好きな物というよりは、スバルが隠したかった趣味のような気がしないでもない――。