タイトル:誘蛾灯―ザ・モスマン―マスター:ジンベイ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/28 22:07

●オープニング本文


 ――蛾の化け物だ。
 高速道路を、銀色のクーペが駆け抜ける。ヘッドライトの強烈な明かりが夜気を裂いて風景を照らし出した。
 盛夏の山岳を抜ける高知自動車道。運転する男の目は、憑かれたように見開かれていた。
 ――蛾の化け物だ、蛾の化け物だ。
 そうすることが唯一、理性を保つ方法だとでもいうように、繰り返し唱えながら、アクセルを踏み込む。タコメーターの数値が瞬く間に上がり、広い直線をタイヤが空転するほどの勢いで駆け抜けた。
 男はバックミラーで背後をのぞく。重油の中をたゆたっているのかと錯覚するほど、暗い闇が沈殿し、広がっていた。そこにあるのは、暗闇だけだということが、男を安心させた。
 荒く息をしながら、さきほどの見たものを思う。一つ前のトンネルの中、コウモリのように天井にぶらさがっていた蛾の化け物。いや、蛾のキメラ。茶色い繊毛に覆われた、人間ほどもあるキメラだった。
 早く、軍へ要請しなければ。
 そう考えるまで冷静さを取り戻していた男は、アクセルを踏む力を徐々に緩めていた。速度計が百の大台から離れていき、いつしか入っていたトンネルの中を、安定したスピードで走っていく。
 危険とは知りつつも、携帯電話を取り出して近場の駐屯地へかける。片手をハンドルに乗せたまま、繋がった瞬間、電話へ向けていた意識を前方へ戻す。
 赤い瞳と、目が合った。
『きゅい?』
 甲高い鳴き声をあげる蛾の化け物が、べったりとフロントガラスへ顔をはりつけていた。
「うあ、わぁあああああああ!!」
 男は叫び、とっさにハンドルを切る。路面を噛むタイヤが悲鳴をあげ、道をずれた車体は壁へとぶち当たる。エアバッグが飛び出し、男の身体を包み込んだ。激しい衝撃に、一瞬、頭の中が白くなる。
「うっ…………」
 薄く、目を開ける。フロントガラスは白くぼやけ、よく見えない。
 蛾の化け物は、どうしたのか。男はそう思った。もしも生きているならば、逃げ場がない。そのときのことを思うと、車が爆発でもしていたほうが、よほどましに感じられた。
『きゅい』
 サイドガラスに、赤い、巨大な複眼が男を見つめていた。
『きゅい、きゅい、きゅい、きゅい……』
 後ろから、前から、横から、声が聞こえた。がりがりと、牙がガラスにつきたてられる。
 がり、がり、がり、がり、がり、がり、がり、がり……。
 無数の赤い瞳が、男を求めていた。男は一人だった。だから、このキメラたちに、おそらくは等分に分配されるだろうことが、容易に予想できた。
 耳を蝕む単調な響きに、男の頬がひきつる。牙の一つがガラスを割り、車内へと口を伸ばす。群がるキメラにガタガタと銀色のクーペは揺れ、あちこちから蛾の鳴き声がとどろいた。
 携帯電話から、もしもし、もしもし、と問う声がする。その画面へ、びしゃりと、濃い血潮が跳ねとんだ。

●参加者一覧

御巫 雫(ga8942
19歳・♀・SN
ウラキ(gb4922
25歳・♂・JG
長谷川京一(gb5804
25歳・♂・JG
天原大地(gb5927
24歳・♂・AA
巳乃木 沙耶(gb6323
20歳・♀・DF
日野 竜彦(gb6596
18歳・♂・HD
真山 亮(gb7624
23歳・♂・ST
シャイア・バレット(gb7664
21歳・♀・SF

●リプレイ本文

●AB螺旋トンネル
「蛾って鳴いたか?」
 メルス・メス社ジーザリオのハンドルを握りながら、A班の運転手を務める長谷川京一(gb5804)は素朴な疑問を口にする。そこには禁煙パイプが揺れていた。窓の外へ目を向けると、ピンクのライダースーツを着込み、DN‐01リンドヴルムの上にまたがるシャイア・バレット(gb7664)の姿が見えた。胸元が大きく開けられ、ともすれば脱げそうだ。夏という時節のせいか、艶かしい服装は、シャイアに言わせれば「蒸れちゃうから」であった。
「ああ・・・・。実に深い闇が心地よい。良い夜だ」
窓から入り込む夜気を吸い、御巫 雫(ga8942)は息を漏らしつつ、静かに呟く。空に月が冴え冴えと浮かんでいた。荷台でその明かりを一身に受け、冷めた表情を浮かばせる巳乃木 沙耶(gb6323)は、高知自動車道の中、UPCからの情報をもとに両班の車の始動地を決める会議のあと、ぽつりと雑談に動機を、
「何となく、ただ蛾と同じ様に何か引かれたのかもしれない。だけど――蛾とは違ってそれを掃除する為に」
 と、あまり感情の入らない声と表情のまま語った。その表情に、いま微かな小波が走る。
「ふふん。光が欲しいならたっぷりくれてやるぞ。・・・・マズルフラッシュだが、な」
 ヘッドライトに誘われて現れた、数匹の蛾のキメラ。雫の番天印の弾丸が飛んだ。自身の速度のせいもあり、キメラはひとたまりもなく仰向けになる。
「加速するぜ、うまくあしらってくれよ」
 京一が吼えて一気に加速する。速度計いっぱいまで踏み込む。併走していたシャイアは即座に覚醒し、バイクからアーマーへ変わる。ただでさえ大きい胸が、さらに広がって、パワードスーツに収まりきらず、ぐにゅ、と押しやられた。
「う・・・・ん」
 胸の感触に、悩ましげな声を出しながらも、走行しながら後ろへ目を向ける。荷台では沙耶がM‐121ガトリング砲に指をかけ、明かりに誘われるキメラを眺めてつぶやく。
「害虫退治、と言えばいいのかしらね」

「A班が接敵したみたいだ」
 ウラキ(gb4922)は、無線機から知り合いの間柄である京一の報告を聞き、周りに伝える。今回の依頼は知り合いが多く、「見た顔が多いね・・・・心強い」と呟いたものだった。無線機を戻すと、『OR』ウェポンライトを小銃バロックに装着し、動作確認のためライトをチカチカと点けて確かめ、「・・・・注文通り・・・・良い品だ・・・・」と呟いた。
「さて初依頼だ。どうにも戦闘ってのは慣れないんだけど・・・・。ようやく得た就職先だ。キッチリ仕事は・・・・こなしますよ?」
 真山 亮(gb7624)は、近づくキメラとの戦闘に、改めてそう言った。緊張がそうさせるのかもしれない。運転をしていた天原大地(gb5927)は歯を噛み鳴らした。故郷での記憶もあり、民間人を凄惨に殺したバグアへの怒りが表情に滲んでいた。
「荷台はよく揺れる・・・・運転はあまり荒くしないで欲しいな」
冗談めかしてのウラキの助言に、大地は表情を緩めて頷く。瞳にだけ怒りを燃やし、心を静かに。無線機からバイクで併走しつつ警戒していた日野 竜彦(gb6596)の、トンネル内の照明について報告を受け、そのまま直行する。
「巨大な蛾の怪物って、パニック映画かよ!」
 トンネル内では、十に近いキメラの群れがパタパタと飛び回っていた。「きゅい? きゅい?」と首をかしげるような仕草をしながら、牙をむいて襲い掛かる。
「ほらほら、こっちにも獲物はいるぞ!!」
 降車を狙うキメラたちの注意を自らへ引き寄せ、クルメタルP‐38で牽制する。移動しながら撃った二発は、その影響か一つが羽を打ち抜き、一つがそれた。
「・・・・涙も知らねえ化け物どもが・・・・!!」
 大地がキメラのうちへ飛び込んで、覚醒による茜色の強烈な輝きを放つ。キメラたちの注意が向いた。示現流の太刀筋そのままにキメラへスマッシュを放つ。受け止めた刀ごと額を叩き切った、とさえ伝わる苛烈な剣がキメラの脳天を叩き割った。
「命で償えッ! うぉおおおっ!!!」
叫び、返す刀でもう一体を同じく切り捨てた。
「飛んで火に入る・・・・いや、飛び込んだのは僕達の方・・・・笑えないか?」
 大地を取り巻くキメラへ、ウラキは不意打ちで強弾撃を連続して叩き込む。四体の羽を打ち抜き、回避しづらい地上戦へ持ち込んだ。キメラたちは大地へ噛み付く。
『きゅい? きゅい?』
 囲まれているため避けることはできず、牙が突き刺さった。がしゅ、がしゅ、と抉っていく。鍛えられた大地であればこそ一撃は大したことがないが、入れ替わり立ち代りで削られていく。
「さーて。お仕事お仕事」
 脅えにか、かすかに声を震わせながら、しかし亮は大地へ練成治療をかけ、敵の一匹へ練成弱体をかけた。覚醒によるものかその手際はいい。
「楽に逝けると思うなよ・・・・!」
 傷の恨みをそのまま返すように、大地が気合一閃、続けて二閃。袈裟、逆袈裟にそれぞれ切り割られ、絶命して果てた。ウラキが数発弾層に残しつつ、強弾撃で残りを始末していき、弱ったキメラを竜彦が処理した。あたりをうかがいながら、竜彦はぽつりと、
「・・・・今、思ったんだけど、どこかに卵とかさなぎとかないよね?」
 美貌といって言い風貌に、紅のオーラをくゆらせたまま聞く。その答えが出る前に、無線機が鳴った。

「落ちろ、蚊トンボ! なんてな」
 翠色に光る目で、京一は和弓『夜雀』で射撃を放った。宙を舞う四体のキメラへ、ヒュッと矢が走り、羽を破っては地に伏せさせていく。
 A班はキメラに襲われてから、牽制しながらの加速で一気に突き放し、トンネルの中へ進入した。「それでは私はバックアップに付く。逃した分は気にするな。目の前の目標にだけ集中してくれればいい」と、雫が後衛に回り、京一も一服つけてからそちらに加わった。無線機を持ったシャイアは「向こうも、始まったみたいね」と言って、B判の状況を説明しながら、改めてAU‐KVへ身を包んだのだった。
 そして今、トンネルの中ほどで固まっているキメラのうち四匹を京一が落とした。
「ふん。・・・・いくら素早くても、これだけ図体が大きいんだ。ただの的にしかならん」
 鼻を鳴らし、雫は瞬く間にバロックで五発を撃った。京一が弱らせていたキメラのうち三匹は絶命し、残りは重傷を負って、うぞうぞと巨大な蛆大な蛆のようにうごめいた。
「退治の本番ね」
 沙耶は言って、ガトリング砲を撃ち放す。
「いくわよ!」
 シャイアは溢れるような胸を揺らしながら、ガトリングで弾幕を張る。沙耶と二人での銃撃で阻止線が作られる。もうもうと硝煙が立ち、瀕死の二匹にとどめを刺すと同時に、接近しようとしているキメラの足を止めた。しかし、勢い数匹のキメラが牙を立てて襲い掛かる。
「あんっっ」
体当たりは盾でしのいだが、噛み付きの力強さに、路面に押し倒され、強かに身体を打った。
「・・・・っ」
沙耶は二匹からの牙を受けてたたらを踏む。ブーツが舗装された道をギュッと強く噛んだ。仕立てのよいスーツへ汚らしい鱗粉がはらはらと落ちる。
「キモイんだよ、チョコチョコ飛ぶな!」
それ以上はさせじと京一の矢が飛んだ。耳に微かに響く音を鳴らし、三本の矢と影撃ちの一本が死角を飛ぶ。手負いの二匹をしとめ、残りの羽を射抜いた。その二匹を雫が倒し、残った一匹へ弾丸を二つくれてやる。どろりと血が流れた。それは喰った人間の血であろうかと、一瞬だけ考え、すぐに捨ててジーザリオに乗り込んだ。
沙耶は活性化で生命力を回復する。荷台でそうしていると、ムッと蛾の形をしたキメラの死臭が立ち込めるトンネルに、エンジン音が響いた。

「ほら、こっちだ!」
 リンドヴルムのタイヤがキュキュッと鳴り、高速での無茶な機動を実現させる。ぼんやりとしたトンネルの明かりを跳ね返し、竜彦はB班ジーザリオの周囲をジグザグに動き回った。
 アクセルをべた押しして大地はトンネルを突っ切らせた。超音波かなにかで繋がっているのか、次々とやってくる。小さめのキメラがフロントガラスにへばりついてきたが、かまわずそのまま跳ね飛ばすか、カーブで振り払った。クルッとハンドルの上を手が踊り、併走しようなどというふざけたキメラを引き離す。
「頭上! 撃ち落とす・・・・仕留めてくれ」
 上から天井へ急降下を狙うキメラへ、ウラキのバロックが火を吹く。強弾撃により威力を増した弾丸に、キメラはボンネットで一度跳ね、きりもみして落ちていく。バックしながらP‐38を構えた竜彦が、そこへ止めを入れた。
「合流地点まで、あとすこしです!」
 地図を片手に伝える亮。そこへ、ベタベタと窓にキメラが張り付いてきた。無線機から声が響く。出る暇はなかった。亮は超機械「ブレーメン」を用い、まとめてガラスから引きずり降ろす。おまけに一番でかい一匹に練成弱体をかけておいた。
「回復だけが・・・・能じゃないんでね?」
 トンネルを抜けた。大地の目には、またトンネルが道の先に見えた。いくつあるのだろう。無限に感じられた。けれどもちろん、そんなものは幻想だった。
「あと四つです」
 亮が言った。幻想の数字は四だった。

「止めるぞ、舌噛むなよ!」
 京一がジーザリオを止める。傍らでシャイアがリンドヴルムに制動をかけた。エンジンの音が失せていき、妙な沈黙が落ちる。静かだった。いや、遠く発砲の音は聞こえる。しかし、それは目の前のトンネルではなかった。
 ほの明かりがトンネルに点っている。闇より深い黒の瞳を向け、雫は思案顔をした。無線機から聞こえてくる銃撃音。それに比べてこちらの静けさはどうだ。向こうがジョーカーを引いただけか。それとも、私たちこそが引いたのか。ここは、
 沙耶は黒髪をなびかせ、冴え冴えとした表情を、この日の月明かりみたいに変えずに保ち、これから入るところを見やった。いくつ目かのトンネル。臭いがした。腐臭というのでは、すこし足りない。ふと、思い出す。ここは、
――被害者が殺されたトンネルだった。
キュッとシャイアがAU‐KVを着たまま眺める。そこそこの時間が経っている。パワードスーツのまま動き回っているのだから、中は蒸れているだろう。流石に暑いのか、一度バイクに戻る。開いたライダースーツの胸元を、ツゥ、と汗が滴った。
「行くか」
 誰ともなく言った。京一は数回吸っただけの煙草を車の灰皿でもみ消した。前衛、後衛に、さきほどと同じように分かれる。しかし前衛が傷を受けているぶん、後衛がフォローに回れる位置をとった。「頼りにしてるわ♪」とシャイアが言う。
 事故の名残か、ところどころで照明が切れている。薄暗い中を、雫は索敵しながら歩いた。声が聞こえる。妙に甲高い、セミと鈴虫の合いの子のような声。
『きゅい? きゅぴぴ?』
 がしゅり、ごしゅり、ばきっ、じゅる、じゅるるる・・・・。
 ひときわ大きな蛾のキメラが、食事をしていた。腐りかけの腸を牙で吊り下げ、ソーセージでも食べるみたいに千切って咀嚼する。血の池ができていた。それは決して、一人の人間が出せる量ではなかった。
「虫はあまり好まぬが、蛾は美しい。多様性に富み、実に幻想的だ・・・・」
 凛とした声で、唐突に雫は語り、
「だからこそ、こんな趣の分からぬフザけたキメラを放っておくわけにはいくまいよ」
 開戦の狼煙をあげた。番天印の銃口からマズルフラッシュが連続して溢れ出し、雷鳴のような銃声が響く。大きな蛾のキメラに過たず刺さりつくす。トンネルの頭上からバサァッと何匹もの蛾のキメラが降ってきた。
「一意専心・・・・そこだっ!」
 京一が飛んでくるキメラへ影撃ちで狙った矢と普通の矢を二本ずつ放つ。射抜かれた四匹がドサドサと落ちるも、なお飛び込んでくるものが数匹。
「いくわよ」
 仲間に合図を送り、沙耶は閃光手榴弾を投げつけた。目を覆って伏せると同時、カッ! と昼のような、いや、太陽が現前したかのような錯覚を思わせた。
 目を開けると、赤い目をグルグルさせてふらふらとあちこちへ飛ぶキメラの姿。
「ショット!!」
 ガトリングで動きの鈍いキメラたちを打つ。ばらまかれた弾丸の群れが面白いように当たった。
『きゅぴぴぴぴぴぴぴぴぴ!!!!』
 大きな蛾のキメラが鳴き声をあげる。バサッ、バサッ、と数匹がどこからか降ってきた。襲い掛かる。前衛の沙耶やシャイアが牙をガブガブと突き立てられる。新たなキメラが二人へさらに襲い掛かるというところへ、後衛の二人がフォローに入り、牙を受けた。多い。奥から奥から赤い複眼が浮かぶ。焦れる中、四方を囲まれようとして、
「おおおおおおおりゃああああああああああああああ!!!!」
 大地の雄雄しい叫び声とともに、B班のジーザリオが乱入する。
「あいにくと顔がそう見えても女の子じゃないんでね」
竜彦のAU‐KVが殺陣でも舞うように弾丸をばら撒いた。固まっていたキメラたちへ見事に命中する。
「僕も銃だけで生き残ってきた訳じゃ・・・・ない」
 ウラキが飛び出し、弾切れの銃の代わりにアーミーナイフを構える。目立つ蛾の赤い瞳へと、その刃を突き立てた。ぶちゅっ、という感触が広がり、暴れようとしたキメラを、さらに突いて殺した。注意がA班からB班へ移りはじめる。その隙に亮はA班前衛の二人へ練成治療をかけた。
「これで戦える状態にはなってるハズだ!!」
 一手遅れ、車を止め終えた大地が敵陣へ飛び込む。向かってきたキメラへ振り上げた剣で切りつける。スマッシュの一撃にキメラは断ち割られた。また、もう一撃で、竜彦が弱めていたキメラを切り倒した。突出している大地へ五匹が向かう。死角からの攻撃を三度ほど受けたが、傷といえるものはその程度であった。
『きゅ、きゅい? きゅいきゅい?』
 不利と感じたか、大きな蛾のキメラが飛び立とうとする。しかし、先の雫による銃弾が響いており、満足に飛ぶことができない。他のキメラたちは指示を待つように大きな蛾を仰いだ。雫が狙う。数発、銃声が響いた。後は小虫の駆除だけであった。

●彼岸トンネル
 通行止めを解除する前に、キメラの卵や蛹などを分担して探す。疲れもあり、見過ごすことのないようにだけ、ウラキや雫、竜彦などがぽつぽつと調べる中、煙が移動していた。
「あー・・・・緊張したわー」
 亮が、探しながら、煙草を一服。傍らで京一も一服。
「肩身が狭いね、ヤニ飲みは」
 仕事終わりの煙を、たまらなそうに吸いながら、捜し歩く。
 キメラによる食事の場所を、大地は唇を噛みながら見た。かみしめるように、呟く。
「敵は・・・・取ったからな・・・・。せめて、静かに眠ってくれ・・・・」
 現場の凄惨さに、静かにという言葉を飲みそうになる。
 せめて、静かに。夏の夜気、線香のにおいが漂う。彼岸が、すぐそこに来ていた。