タイトル:【授業】プール実習マスター:ジンベイ

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/24 10:46

●オープニング本文


7月10日
教務課
「水中訓練のお知らせ」
気温が高くなり、生身での水中での訓練も楽になったため、広域のプールでの水中訓練を行う。水深は十分なものを用意しているので、行動の制限を受けることを想定して訓練に臨んでほしい。KVの使用は施設の関係上、遠慮してほしい。攻撃を行う相手として、全ステータスを高めに設定してある水中訓練用実験体『木人くん改』を用意してある。依頼の前に水中戦を試すのもいいだろう。『木人くん改』の攻撃は近距離でのパンチのみとなっている。威力は低いのでたいした怪我にはならないだろう。積極的にさまざまな行動を試してほしい。
ちなみに、水深を浅くすることで一般にも開かれるため、浮き輪やビート版、ボールなどが揃っていたり、プールの周囲にカキ氷屋やフランクフルト屋があったりするが、訓練に集中するように。誘惑されたからといって、罰則があるわけではないが訓練に集中するように。念のためにもう一度言っておく。訓練に集中するように。
                                               以上

うっとうしい暑気が目をかすませる日中、掲示板にそんな張り紙があった。
授業の内容などよりも、カキ氷という単語が目に付く。
かんかんと照る日光に、クーラーとアイスが恋しくなる。
鐘の音が響いた。学内に響く荘重な音を、風鈴代わりに、耳にした。

●参加者一覧

百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
御巫 雫(ga8942
19歳・♀・SN
岩崎朋(gb1861
17歳・♀・HD
都築俊哉(gb1948
17歳・♂・HD
常世・阿頼耶(gb2835
17歳・♀・HD
最上 空(gb3976
10歳・♀・EP
水無月 春奈(gb4000
15歳・♀・HD
東雲 凪(gb5917
19歳・♀・DG

●リプレイ本文

●掲示板
 都築俊哉(gb1948)は、学生に配られたチラシを眺めた。
(「プールでの戦闘訓練か・・・・また朋の奴が大はしゃぎしながら『一緒に参加するのよ!』って言い出すんだろうな・・・・」)
 思っていると、ふと、聞きなれた声を聞く。
「プールで戦闘訓練か〜トシの奴と一緒に参加しようかな〜☆」
 掲示板で張り紙を眺める岩崎朋(gb1861)は、俊哉の姿を見つけると、足早に近寄って、『一緒に参加するのよ!』と訴えた。
(「で、結局こうなるワケか」)
 予想通りの展開を経て参加することが決まり、朋は授業のことを話しだす。
「水着か・・・・流石にいつもの可愛い水着とかじゃ、戦闘の時ぽろりがあったりするだろうから、スク水にした方が良いかしらね・・・・どう思う? トシ?」
 俊哉は、朋を眺め、ある一点でその視線が止まった。
(しかし・・・・朋の奴また大きくなりやがったな・・・・胸が)
 注視していると、朋の視線を感じ、俊哉はすぐに視線をはずした。
「ん? トシ? 何処見てるのかな〜?」
 にやにやとした笑みを浮かべながら、朋は意地悪く言う。そんな二人が話しながら掲示板から行き過ぎると、赤い髪のまぶしい、新婚の百地・悠季(ga8270)が、ゆらめく暑気にスタイルの良い身体を浮かばせながら、紙を見つめた。
(「夏の学校授業と言ったらやはりプール実習よね」)
 印刷されている文字を見つめながら、悠季(ga8270)は思う。
(「あたしはそれなりに泳げるから、参加するのに苦にはならないというか、是非とも講習は受けたい側なのよね。水中戦闘の実習もあるみたいだけど、そこは最近フィリピンで経験済みなので、ある意味復習の様相なのだし」)
 内容を読み進め、ふと目をとめる。
「・・・・えーと、屋台も有るの?」
 授業という字面にあわない単語に、しかし悠季は笑みを浮かべ、
(「なら、泳いだ後のスタミナ補給は万全よね。という訳で色々楽しむわよ」)
 と、結婚したことで色々と吹っ切れたのか、むしろ意気込む。悠季がそのまま準備へ向かう後に、御巫 雫(ga8942)が張り紙へ目を留め、睨むようにした。
 艶やかなセミショートの黒髪を風に揺らし、雫はタラリと額から汗を落とした。プール実習。浅瀬で溺れるという奇跡さえ起こす自信のある彼女は、張り紙を愕然と見る。しかし、と、心でつぶやき、
「不得手を不得手のままにしておくわけにはいくまい。傭兵なれば、水中での戦闘をせざる得ない状況もあるかもしれんしな・・・・。特訓あるのみである!」
 水着を用意しに行く雫を、通りかかった東雲 凪(gb5917)は見送って、掲示板に目をやる。その内容を読むと、
「この張り紙は遊べって言ってるようなものだよねー。立場上、おおっぴらに言うとまずいからっていう先生の心遣いかな。いい先生だよね、うん」
 そう解釈して、うんうん、とうなずいた。玉石を溶かしたような艶のある黒の長髪がさらさらと揺れる。その色に対比するように、グリーンの髪を結った背の低い少女が傍らで紙を見つめていた。その金の瞳からは、まるで、心の声が聞こえてきそうだった。
「最近、梅雨も明けて夏本番で毎日暑く、そろそろカラダが溶けそうなので、水浴びと、カキ氷目当てで参加しますかね」
 聞こえてきた。しかもひどく俗っぽい言葉だった。最上 空(gb3976)は、隣の人物にも気づかず、スタスタと歩いていった。

●授業
「久しぶりに授業らしい授業・・・・ですよねぇ・・・・?」
 水無月 春奈(gb4000)は、貸し出されたスクール水着に身体を包み、ギラギラと光る水面を眺めた。なぜだか胸にワッペンがあり『はるな』とひらがなで書かれている。講師が授業の概要を話し始めると、春奈はぽつりと、「ぇ、水中戦闘の授業なんですか? ・・・・特に何も持ってこなかったので見学・・・・」言いかけ、集まる視線に、「というわけには行かないですよねぇ・・・・」とつぶやいた。同じくスクール水着を借りた空は、浮き輪を胴にまわしており、とても訓練をするようには見えない。周囲の視線に気づくと、
「念の為に大きめの浮き輪を借りただけです。ええ決して空がカナヅチなわけでは無いですよ? ええ、ただ、何故だか水に入ると沈むだけで、泳げないわけではないですからね?」
 泳げないんだ。
 誰も思ったことを口にはせず、講師の指示で準備体操が行われる。
 終わると同時に、凪と空が屋台へ向かった。講師が目を向けると、
「か、体が勝手に、カキ氷の方に! これはきっとバグアの仕業です!!」
 セリフを吐きながら、空は屋台でカキ氷を頼み始める。授業の張り紙でもされた講師の注意に、同じくカキ氷を注文する凪は、
「えー、でも先生、あの張り紙じゃそう解釈されても仕方ないですよ? 日本の一部じゃ、三回同じこと言ったらフリなんですから」
 スプーン状になっているストローの先をカキ氷にさしながら凪はプールサイドに戻り、一口食べる。
「うん、やっぱり夏はこうじゃないとねっ」
 眼鏡の奥の目を細め、涼しげに微笑んだ。授業に来たというよりは、涼をとりにきたという風情である。屋台の前では空が「空には練乳たっぷりでお願いします、むしろ氷より練乳多めで」と細かく注文を行っていた。教師の呆れたような視線を受けつつも、空はカキ氷をかきこむと、
「ぬぉおお、あ、頭がガンガンします、きっとこれはバグアの新兵器です、なので調査の為に更におかわりを」
 再び注文をする。ガンガンするらしい頭を押さえていたが、むしろ教師が頭を抱えた。プールサイドで朋が屋台の様子を見ていると、肩に、ふわりと長袖の羽織る服がかかった。傍らの俊哉へ、首をかしげて見せると、俊哉はすこし目をそらしながら、
「いや、屋台の店主もいるし、他の野郎の視線からの一応の護衛だ・・・・」
 朋はカアッと顔を赤くして、「ば、ばかっ」と言い、頬の熱さを払うように、プールの浅瀬へと入っていく。肩には、服をかけたままだった。
 雫はプールの浅いところで水に戯れていた。黒曜石の瞳を水につけ、おっかなびっくり足をバタつかせる。沈む。手をかき回す。沈む。とにかく顔を水面へと押し出そうと喘ぐ。沈む。
 足さえ立つかという水深だったが、奇跡的な運動音痴ぶりを発揮した雫にとっては問題ではなかった。講師が慌ててプールへ戻ると、それより一手早く、クロールでコースレーンを往復していた悠季が助けた。オレンジで彩られたセパレート水着に押し込められた大きな胸が、雫の背に、たゆんと触れた。
「水泳をする機会が無かったために泳げなかっただけだ」
 水を吐いて、雫は泳げないのかと問う講師に答えた。まずは水に慣れるところからと、顔を水面につけ、ついで、バタ足の練習をしていく。悠季の手助けもあって、泳ぎに慣れていった。水中戦の経験があった悠季のアドバイスを、雫は様子を見て見学しにきた春奈とともに聞く。
「水の中での戦い方というのも、いろいろあるものですね。AU‐KVを使用しての戦いばかりでしたから、なかなか水中戦って経験できなかったんですよね」
 なるほど、と濡れたスクール水着を陽射しに光らせ、春奈はうなずく。努力の甲斐あって、雫は人並み一歩手前くらいまでには動けるようになった。しかし、もっとと練習するうち、
 くぅ、と本人だけが聞こえるほどささやかにお腹が鳴った。

 木人くん改がプールの数箇所に放たれる。傍目には不恰好な木の人形である。
 悠季は、金縁の鮮やかな赤い金魚の描かれた浴衣を着流しのように着こなして、持ち込みの飲み物とフランクフルトで一息つく。さんざん練習した雫も、訓練に入る前に、腹ごなし、
「ふむ。水泳というものはお腹が空くものだな。だが、嫌な疲労感は無い。健康には良さそうだ」
 と、照りつける太陽を心地よさ気に見上げた。屋台のあたりでは、朋が甘えたような声音で、
「あのかき氷・・・・食べたいな〜?」
 上目遣いをして言うので、俊哉は、
「あ? かき氷が食べたい? 仕方ないな・・・・苺とメロン一個ずつちょうだい」
 と、言われるがままにした。カキ氷を手にし、一口二口食べるうち、朋にまた甘えた口調で言われ、「・・・・あ? メロンも一口くれ? はいはい・・・・勝手に食べてくれ・・・・」と、俊哉は自分のカキ氷を一口渡した。
「ん〜☆ このイチゴも美味しいよ☆ トシも食べる?」
 ストローの先ですくって、シロップを吸ったカキ氷を見せる。
プールサイドでも、カキ氷を食べる姿があった。春奈は、悠季や雫とともに、溶け落ちそうな、カキ氷に似た白い肌を日光にさらし、水中の木人くんを見た。
「う〜ん、別に水の中に居るからって馬鹿正直に水中で戦う必要はありませんよね・・・・」
 ドラグーンの彼女はつぶやいて、方策を考え込む。
「問題は、水面にどうやって引きずり出すか・・・・ですが・・・・難しいでしょうね・・・・」
 あれこれと考える春奈。AU‐KVということを考えると、特殊能力を使ってすばやく倒し、錬力などが危険なときは竜の翼で退避するのがいいだろうか。と考える。
「・・・・まぁ、コレくらいではないでしょうか? 水中装備なしでの方策はコレくらいしか思い浮かびません」
確認するようにつぶやき、持込みを許可された春奈のBM‐049『バハムート』の隣に、なぜか重機のようなKVがあるのが気になった。
 休憩を終えて講師が訓練の内容について話し、数人が組むことを推奨する。言葉に力をこめ、キッ、と空と凪を見たが、二人はどこ吹く風と手にカキ氷を持っている。
「AU‐KVを使って良いですか」
 朋が講師にそう尋ねる。いつものことながら組むことになった俊哉は、
(「使えるんだったらいい訓練にはなると思うんだが・・・・」)
 思いながら返答を待っていると、いいという答えだった。代わりにと、春奈を含めたドラグーンの三人で、まず木人くん改と戦ってみるように、と講師は言う。悠季や雫には、ひとまず離れて見学するように告げた。様子を見る同じドラグーンの凪は、自分だったらどうするかと考え、ふと向けられる講師の視線に、
(「一応完全に遊んでるわけじゃ無いという事で・・・・。自分はやらないけど」)
と、心の中でつぶやく。その手にカキ氷があるあたり、誤魔化せていなかった。凪は、AU‐KV三機を見て、いかにも機械的な風情に、照りかえるプールへ目をやりながら、
「っていうか、AU‐KV装着して水に入ったら普通に沈むよね・・・・私達かなり不利だと思うんだけどなぁ」
つぶやいた。二機のバハムートと一機のミカエルが、プールの中へと飛び込む。春奈は大きくジャンプし、竜の瞳と竜の翼を使用し、真上から剣で突きそのまま底に縫い付けるようにした。朋と俊哉は隙をうかがうようにして木人くんの近くへ落ち、接近戦をしかける。
 ガクン、と、三機のAU‐KVが動きを止めた。春奈のバハムートは落下した形のまま止まり、剣が刺さった木人くん改がじたばたと動く。朋も俊哉も、動きが完全に止まっている。指先ひとつ、ピクリともしない。
ザバァンッ、と水が弾け、KVがプールに身を沈めた。講師が三機をプールサイドへと運ぶ。するとAU‐KVは動き出し、三人はそれぞれにアーマー形態を解いた。
――SES機関をAU‐KVが搭載しているのは、知っての通りだ。普段、当たり前に使っていると忘れるかもしれないが、SES搭載兵器の原理は「大気中から水素を取り入れ効率的にエネルギー変換させる」というものだ。水中キットがない現在、AU‐KVは水中での稼動はできない。これはドラグーンにとって重要であるため、申し訳ないが実際に体験してもらった。
 KVから降りると、講師は語り、春奈が木人くん改を突き刺したのは意外だったと続けた。助けのない状態では、水中でAU‐KVの行動は控えるようにとまとめ、悠季と雫を含めた水中戦の訓練を開始した。
「行くわよ! トシ!」
 水着姿に戻った朋と俊哉は、木人くん改に向かう。ブンッ、とグローブの拳が朋へ飛ぶと、朋は合気の要領でさばき、腕をつかんで投げ飛ばした。水中を飛ぶ木人くん改へ、俊哉が攻撃を放ち、たたらを踏むところへ朋が追い討ちをかける。しかし木人くん改は立ち上がり、俊哉へ攻撃を放った。
「今度は・・・・あたしがトシを護る!」
 無理にかばいに行こうとする朋を、俊哉は逆に押しやって、拳を受ける。とはいえ、衝撃ばかりでダメージはほとんどなかった。
(「・・・・水は怖くない。苦しかったら出ればいい。それだけのことだ」)
 別の木人くん改へ水陸両用アサルトライフルで狙いをすました雫は、自身につぶやく。春奈と悠季が相手の動きを翻弄する。両断剣で強化された試作型水中用拳銃『SPP−1P』の弾丸が、木人くん改をえぐる。オレンジのセパレートが踊り、木人くん改は満足に近づくことも出来ないでいた。
(水は私を縛ったりしない・・・・)
悠季の戦いを見ながら、思う。溺れるのは、無理に水に逆らおうとするから、変に力が入って溺れるのだろう。受けたアドバイスを思い返し、引き金を引く。
木人くん改が、よろめいた。水中での銃声を、耳に覚える。――当たった。感覚が消えぬうち、息継ぎをしながら、雫は丁寧に撃ちつくしていった。
 訓練の様子をながめながら、凪は丸太を組み合わせただけにしか見えない木人くん改へぼうっと目をやり、
「粗末な見た目の割に強い・・・・油断させて叩くのにも有効だね・・・・」
 黒い瞳に思案を浮かばせる。そこへ、口の端につけた練乳をぬぐい、空が訓練を見て、
「やれやれ、頭脳派の空には、肉体労働は向かないのですが、取り敢えず、正面から行くのは得策ではないので、空が木人くん改に悩殺ポーズを決めて、空の肉体の虜になっている隙にザクリとやってみますかね」
 プールへ飛び込んだ。乱入に視線が向くと、空は一体の木人くんへ悩殺ポーズを決めた。可愛かった。だが相手は機械だったので容赦なく殴り飛ばされた。
 水面から飛び出し、水を切ってプールサイドへ投げ出される。なぜだか傷一つつかなかった。伸びた空を見ながら、凪はカキ氷を一口食べ、ぽつりと漏らした。
「夏だなぁ」
 かすめる塩素の匂いと、うだる太陽。カキ氷が溶けて、しゃくっと音を立てた。木人くん改が遠隔操作で水から上がる。講師が後は自由というと、プールに飛び込んだ。肌に、水がしみる。ほかの受講者もまじって、陽射しが傾く時間まで大いに遊んだ。
「んー、楽しかったー!」
 長い髪から水滴を垂らしてプールから上がる凪を、レモンのカキ氷を手にした悠季が迎えた。満足顔の凪と、訓練終わりを楽しんでいる悠季の耳に、何度目かの授業終わりの鐘の音が響いた。プールサイドの端で朋が今日の戦闘を振り返り、「本当の戦闘でも‥‥ちゃんとあたしを護るのよ! 良いわね? トシ?」と、俊哉へ告げていた。夕の近づく、涼やかな風が肌を撫でる。夏の空気が、まだ続いていた。