タイトル:AMR『怪異:独り鬼』マスター:ジンベイ

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/06/09 22:17

●オープニング本文


「独り鬼?」
 アリーシャの言葉に、寮のベッドに寝転がったまま、胡々は首をかしげた。
 子供の遊びには不可思議なものが間々混じる。特に心霊だのというものは、なにか密やかな楽しみになるらしい。
「ほら、鬼ごっこってあるでしょ。あれを独りでやるんだって」
 アリーシャの説明するのは、
〈独り鬼〉
 という、遊びであった。このところ、あちこちで耳にする。学生の間で囁かれているらしい。
「……独りか。悲しい遊びだねぇ、つまんなそ」
 言いながら、胡々はもう、興味を失ったように視線を外す。
「や、違う違う。別に誰も友達がいないからやるって言うんじゃないの」
「んじゃ、何が楽しくて独りでやるっつーのだ」
 聞くと、アリーシャはピンと指を立て、
「幽霊と遊ぶのよ」
 と、意味ありげに答えた。胡乱な言葉である。胡々は目を細め、
「病院送りにされすぎて、ついに頭が……」
「やかましい! 違う! 私だって、別に信じているわけじゃないわよ!」
 すこしばかり頬を染めて、ぶんぶんとアリーシャは腕を振る。
 話を聞いてみれば、それは若干のケレンがあるものの、子供の遊びに過ぎなかった。ぬいぐるみを用意し、それを刃物で刺す。それから「今度の鬼はあなた」と言い、隠れる。すると、ぬいぐるみに霊が憑依し、探しに来るという。
「アレか? こっくりさんみたいな。あったあった。勝手に動いたーってキャーキャー言うやつ」
「そうそう、で、失敗すると呪われるっていう」
「自演だね」
「うーん、まあ、それは置いといて、私、やってみたのよ」
 ニヤリと、喋りたそうな表情をアリーシャはした。
 意外にも行動が早い。胡々が興味を示して話を聞くと、昨夜のことであるらしい。
「それは、肌寒い夜のことでした」
「早く話せ」
 前置きを邪魔され、アリーシャは空咳を一つして、
「寮の部屋だと隠れるも何もないから、学校を使ったの。暗いし、雰囲気があるし。で、ね……」
 条件として、深夜零時に行わなければいけないらしい。手持ちのものは思い入れがあるため、最も安いぬいぐるみを買った。刃物もまた、単なるカッターナイフである。水飲み場に置き、ぬいぐるみを、ぷすりと刺す。
 嫌な感じが、した。
 ナイフは時折、使う。キメラを突き刺した経験もないわけではないものの、暗闇の中ぬいぐるみを刺すというのは、なにか、戦場のそれとは違う感覚がある。不気味、と言ってよい。
「今度は、あなたが鬼よ」
 と、アリーシャは言って、トイレに入った。ここならば見回りに見られることも、鍵がかかっていることもない。
「三十分位してさ……」
 ドス、ドス、と、ふいに音がする。見回りであろうか、と思った。が、それにしては足音が妙である。
 次第に、近づく。そして、
「私の前で、止まったの」
 扉越しに、気配が伝わってくる。
 誰か、と考えても、分からない。そもそも、こんな時間に学園のトイレに来るものなど、いるものだろうか。知らぬうちに産毛が逆立っており、依頼の緊張とは別種の、なにか吐き気を覚えるような、嫌な緊張を味わった。
 ぬいぐるみでは、ない。
 だいたい、ぬいぐるみに足音を立てるほどの質量はない。明らかに、ずっと重い何かである。聞いた話では、追いかけてくるのはぬいぐるみではなく、そこに憑依した霊であるという。では、目の前にいるのが、霊か。
 ぴちょん、という水音が響く。
 瞬間、トン、とアリーシャは飛び上がると、壁を跳び越して横の個室へと移り、さらに飛んでトイレを飛び出た。水飲み場へ行くと、その蛇口から漏れる水滴で床が濡れているのだけは以前のまま、ぬいぐるみは消えていた。
(どこに行ったのか)
 疑問が、残る。不気味で仕方がない。
 翌日、つまりはこの日、明るいうちの校舎の中を回ったものの、結局、見つからなかった。
「あ〜あ、呪われた。ざまぁ」
「うるさいな。で、さ、ちょっと、気になるでしょ。ぬいぐるみがどこいったか、とか。トイレの足音とか」
 こうアリーシャが言うと、胡々は、のそりと起き上がり、
「AMRの出番だ」
 ぽつりと、言った。
「AMR?」
「朝見胡々・ミステリー・リサーチャーズ」
 なにか以前からあったかのように言うが、思いつきに過ぎない。
「それって、あんた一人でしょう?」
「うにゃ、召集をかければすぐに来る。まあ、一週間くらいかかるかもしれないけどね」
 矛盾している。依頼に出す気だ、こんなどうでもよいことを、と、アリーシャは内心、ごちる。
 胡々が用紙を取り出し、なにやら書き始めるのを、アリーシャは諦めたように眺めた。そして、「あ、センセ、ちょっとお願いしたいんだけど……」などという電話の声を聞き、話さなければ良かったと、後悔したのであった。

●参加者一覧

マルセル・ライスター(gb4909
15歳・♂・HD
沁(gc1071
16歳・♂・SF
功刀 元(gc2818
17歳・♂・HD
夏子(gc3500
23歳・♂・FC
ファリア・レンデル(gc3549
16歳・♀・FC
巳沢 涼(gc3648
23歳・♂・HD
犬彦・ハルトゼーカー(gc3817
18歳・♀・GD
海原環(gc3865
25歳・♀・JG

●リプレイ本文

1.準備
「学園で困った事が起きているので助けて欲しいのですー」
 功刀 元(gc2818)のそんな言葉に誘われたファリア・レンデル(gc3549)は意気揚々と、
「怪物? 面白い私が退治してみせますわ!!」
 名刀「飛天」を握って示した。所詮、怪物退治のつもりでしかない。
 が、依頼当日となると、意気もだいぶ沈む。由縁は、
「れ、霊・・・・? きーてませんわよ!」
 事前に調査した内容というので聞いてみれば、『独り鬼』の悲劇的な話を語る中で、
〈霊〉
 という言葉が出た。怪談話である。
 ファリアの表情に怯えが浮かんだ。同道していた巳沢 涼(gc3648)も、ぶるりと身を震わせる。
「二度続けて心霊絡みの依頼、呪われてんのか俺は!?」
 嘆くように言うものの、
「いやー、やっぱり不思議体験してーΩΩΩ<な、なんだってー)とか言いたいですよねー」
 元は楽しげに微笑む。顔色の悪い二人に、「まさか、怖いのですか?」とでも、言いたそうであった。ファリアも涼も、「まさか」と笑ってみせる。が、若干ひくつく頬は隠せないでいた。
 アリーシャが使ったぬいぐるみを捜しつつ、三人は研究棟へ向かった。道すがら、鬱々とした『独り鬼』にまつわる怪談話を元がが話す。
「口に含んだ塩水を、誤って吐いたその人は・・・・」
 などと、涼とファリアの反応を楽しむように語る。
 調査は、これといった不思議もなく済んだ。研究員などは、初めて聞いたような風情でさえある。
 当の事件現場、カンパネラ学園校内では、
「独り鬼・・・・、人形、儀式。これは、あいつ(キメラ)の手掛かりに・・・繋がるのだろうか・・・・?
 そのような心情で、沁(gc1071)が歩き回っていた。静かに進む姿が、日差しの差し込む窓に映る。これといって、キメラの痕跡のようなものは見受けられない。見たといえば、
「みゃあ」
 と、巨大な猫が身体を揺する姿である。菓子をねだっているようだが、持ち合わせがない。
(――どっちにしろ、怪異は・・・・嫌いじゃない)
 猫をやり過ごすと、いましばらく沁は調査を続けた。廊下に面した室内では、件の『独り鬼』が話されている。
 海原環(gc3865)の調査である。実際に行った人の、怪談らしい不気味な話などが聞かれた。
 環は、依頼として調査を進めつつも、
「独り鬼ならもう一度あの人に会えるかもしれない・・・・」
 と、密かな期待を持っていた。既に亡い、戦友のことである。
 会えるなら、という思いが、心を浮き立たせる。遺族の罵声と世間の冷たい目が、少し、思い出された。
 二人のもとに、重そうな荷物を持った夏子(gc3500)とマルセル・ライスター(gb4909)が現れた。雑然としているが、荷物はビデオ機材や独り鬼の道具である。借り物のようであったが、
「朝見胡々」
 の、名前で借りたらしい。マルセルが次々と、ぬいぐるみ、米、爪切り、縫い針と赤い糸、刃物、生理食塩水と取り出すが、並べると異様である。他に、夏子の使い捨てカメラと、古本屋で買ったという【Welcome to 怪異】がある。さっそく、沁らの協力を得て、現場に設置していく。夏子はどこかを見つめていた。尋ねるものには、
「気になるのはあの子・・・・話し合いの時も全く発言せずに部屋の隅っこに居ただけの黒帽子の女の子・・・・」
 ぽつりぽつりと、言った。
「恥ずかしがり屋さんなんでゲスかね?」
 逆に、聞く。誰のことか、分からない。
 エリィを通して機材の設置の許可は出ており、配線が行われた。また、マルセルは一人、使用するトイレの個室へ向かい、なにかを仕掛けてきたようであった。
 準備が済み、夜が近づく。それぞれに顔色の良し悪しがある中、夏子は楽しげに興行めいた文句を唱える。
「さてさて、学園の夜の平和を脅かす怪異! 独り鬼を調査せよ! 始まり始まりでゲスよぉ♪」

2.独り鬼:零時〜
 巫女装束が舞っていた。
 既に夜更けである。波の音さえ聞こえてくるほどに静かな中、月影に浮かぶカンパネラ学園の姿が不気味であった。
 が、その校舎の前で、
「こうゆうのいっぺん着てみたかったんよ、めったにない機会やし」
 シャラシャラと、布の擦れる音がした。犬彦・ハルトゼーカー(gc3817)の切る巫女装束の立てる音である。
 依頼と言うよりは肝試し、そうでなければ遠足、といった風情である。ぺたりと自らの頭にシールを貼り、
「みんなの分も持ってきたんで、寝たら容赦なく貼ったるで〜」
 と、『ねおちシール』を示す。これで、一応、事前に用務員へ聞き込んでいる。
 既に、誰が『独り鬼』を実行するのか決まっている。午前零時と午前三時に分け、ており、零時、Aプランは、
〈A班、巳沢涼。B班、海原環〉
 であり、三時、A2プランの方はといえば、
〈A班、朝見胡々。B班、ファリア・レンデル〉
 となっていた。いつの間にか、胡々も参加している。当人、まだ来ておらず、鬼役と知らない。
「うぁつ、なんや本格的な機械やん、テレビで見た胡散臭い心霊番組みたい」
 犬彦もまた、夏子や沁たちの手で準備された機材に胸躍らせる。巫女服のまま椅子に座る犬彦は異彩を放っていたものの、慣れるもので、早くも鬼役以外は、着々と席に着いた。
 最後に、使用するぬいぐるみに不備はないか、沁がチェックをする。声もなく、しばらく見つめると、
「良し」
 とばかりに小さく頷き、鬼役へ渡す。
「クソッ、どこをどう間違えれば俺が独り鬼をすることになるんだぁおい?」
 ちょっと頓狂な声になっていた。涼はそれでも準備を進め、ぬいぐるみに刃を立て、塩水を口に含んだ。
 B班の環は、由縁のありそうなナイフを取り出し、ぬいぐるみに規定の物のほか、戦友の認識票を詰めた。
「こんな使い方したら怒るかなぁ・・・・」
 認識票は、
〈形見〉
 である。思い入れは強い。ナイフも故人に由来する。
「あなたが鬼だから、ちゃんと追いかけてきてね」
 出てきて欲しい、というような気ぶりがある。
 A、B班共に、トイレの個室へ隠れた。カメラは、個室、個室前を見渡せる場所、ぬいぐるみ前の三箇所に設置されている。まず、別室のモニタで確認できるだろう。
〈幽霊〉
 ならば、別であるが。マルセル、沁、夏子、ファリア、犬彦は、食い入るように画面を見つめた。
(正体がキメラなら・・・・、銀色の部位を採取したい処・・・・)
そんな風に思っている沁は、ふと、周囲を眺め回した。妙な違和感がある。それは、
「誰か、足りなくはないか」
 という、ものであった。が、なにも言わずに、またモニタを見る。
 モニタの片方に映る涼は、酒瓶を握り締めていた。昼に元から聞いた話が思い起こされ、
(絶対に口に含んだ塩水は吐かない、絶対にだ)
 心に決める。十分ほど経っていた。これといって、変化はない。
 B班の環は教室に隠れていた。こちらはこちらで、常とは違う雰囲気がただよっているが、むしろ、
〈期待〉
 をしているようであった。
 戦友に会えるかもしれない。別室のファリアの方が『オルカ』と『名刀「飛天」』を持って小刻みに震えている。
 また、時間が経った。待っているうち、
〈どすっ〉
 というような、足音が聞こえた。
 別室組は、モニタを見つめた。ぬいぐるみに変化はない。どこにも、これといって変わりはなかった。
 強いて言うのであれば、
〈空気〉
 が、変わった、といってよいか。瞬間、トイレの個室で、
「んんんーっ!」
 と、くぐもった叫びがする。
 モニタへ視線が集まる。涼は、必死に便座を指差している。見れば、不気味なものがあった。
〈生首〉
 では、ないか。ぞわりとした寒気が一同に走る。
 そのとき、
「あ、それ、俺が仕掛けておきました」
 さらりとマルセルが白状する。よくよく見れば単なるゴム人形である
 涼が頬に塩水を詰めたまま、カメラへ向かって怒りのジェスチャをする。では、さきほどの足音もそうかと言うと、これが違う。一同は、涼の怖がる姿と怒る姿を眺めつつ、他のモニタへと目をやった。
 なにか、おかしい。沁が言った。
「ぬいぐるみは、どこだ」
 水飲み場からは、まるで煙のように、その姿が消えていた。
「あ・・・・」
 一転して教室。環は廊下に、なにかを見たような気がした。
 誘われるように、そちらへ足を向ける。気が急き、ファリアが無線でかける声には、ぼんやりとした返答をする。トイレの方で何かあったらしく、喧騒が聞こえた。
「ああ神様、年末年始はちゃんと参詣してるじゃねぇか! 何が気に入らねぇってんだぁ!?」
 いつ塩水を吐いたのか、涼の声がする。環はかまわず、進んだ。
 扉を、開いた。薄く、なにかが見える気がした。それは、
〈戦友〉
 の姿、ではないか。少なくとも環は、そうだと確信した。
「あの時、助けられなくてごめんなさい」
 複雑な感情がある。環は自分の表情を、泣いているとも、微笑んでいるとも思った。
 やがて、戦友の姿が掻き消え、ファリアが震えながらやってきた。彼女の問いに、
「戦友と」
 会っていた、と答える。故人であるとも伝えた。
「ふ、ふふふふ・・・・。霊何ていないのよ〜」
 脅かしていると思ってか、震えた。環は、何も言わずに微笑む。他のメンバから、なにかあったのかと言う問いが無線で来たが、「なにもない」と答えようとし、
〈バリバリッ〉
 という、音を聞く。
 廊下の先から、何かがやってくる。姿は異様であり、あちこちに奇怪な突起ができていた。
 近づくにつれ、ファリアの震えが増し、ついには、
「はわあっ!」
 ちょっと頓狂な声を出し、切りかかる。スパリと、一部が切れ、ファリアへと覆いかぶさった。
 環が、ぽつりと、つぶやく。
「ダンボールね」
 暴れていたファリアが、動きを止めた。
 見れば、それはパイドロスである。が、あちこちにダンボールをくっつけていた。今の今まで、その中に隠れていたらしい。パイドロスの中から元が現れてニコリと笑いかけ、
「隠れると言えばダンボールですよねー?」
 と、言った。応援にかけつけたのである。ダンボールの下からファリアの恥ずかしそうな顔が覗けた。
 
3.独り鬼:三時〜
「そういえば知ってますか朝見先輩」
 結局、足音の主も、ぬいぐるみの行方も知れないまま、午前三時を迎えた。
 環のぬいぐるみも消えている。儀式が終らず、涼は不安そうである。夏子は霊現象が起こらぬのが不満なようで、本に書かれた謎の呪文を涼へと唱え続ける。涼にとっては有り難いことに、夏子がAU−KVを着る事はなかった。
 が、それはそれとして、三時からの鬼役、
〈ファリア、胡々〉
 の二人が、準備を始める。遅ればせながら胡々が合流した。鬼役を嫌がるところへマルセルが、
「深夜3時にですね。三階の水飲み場にぬいぐるみを置き、それに向かって好きな人の名前を3回言ってキスをして隠れると、その好きな人が迎えに来てくれて、恋愛が成就して幸せになれるそうです」
 と、言った。加えて、
「風水的には今晩辺りにやるとベストかと♪」
 微笑む。かつて、騙されたことのある身である。胡散臭そうにしながら、しかし、胡々は一応、現場に向かう。
 こちらをA2班として、B2の鬼役はファリアである。
「ですから、怖くなどありません!!」
 元に向かって、吼えていた。憤った様子で現場へと向かう。お守りのように二刀を握っていた。
「最初の鬼はファリア」
 水を張った風呂桶に、オーロラと名づけたぬいぐるみを入れ、三度、つぶやく。
 周囲は暗い。テレビの砂画面が燐光を放つ。目を瞑り時間を数えると、
「オーロラ見つけた」
 ぬいぐるみを、刺す。「次はオーロラが鬼」とつぶやき、塩水を持ってトイレへ入った。
 A2、胡々は、三階の水飲み場に居た。鬼役がモニタされていることは知っているが、マルセルによれば、
「ここは、別です」
 とのことである。例の『恋愛成就』のために、設置しなかったという。
 ぬいぐるみを取り出し、
「    」
 なにか、小さく、つぶやいた。唇を近づける。
 密かに設置されたカメラが、その様子を撮っており、別室ではマルセルが噴飯ものの光景を眺めている。
「私の勝ち
 言おうとしたファリアは、息を呑む。
 ぬいぐるみが、ない。胡々の奇態に注目が集まる間に、やはり、なくなっている。 
「人形が勝手にどこかに行くわけがありません!」
 ファリアは叫んだ。いまにも『迅雷』で逃げ去ろうという格好である。
 ――そのとき、背後から近寄る影があった。
「実は、ドッキリでした」
 というのは、ファリアではなく、胡々へ向けられた言葉である。唇を近づけているところへ、マルセルが現れた。
「・・・・ドッキリ?」
 胡々がぬいぐるみから手を離して、聞いた。マルセルは一画を指差す。カメラのレンズがあった。
 ふいに親指を立て、胡々はニコリと笑い、マルセルが笑い返そうとすると、その指を、下へ向けた。
〈処刑〉
 とでも言うような、凄愴な表情を胡々は見せた。その後、マルセルの姿は消えた。
 ファリアの側では、
「あくりょうたいさ〜ん!」
 犬彦が塩を投げかける。
 沁ら、マルセルを除いたメンバが集まっていた。ファリアの背後に現れたものは、ヒラリと飛ぶも囲まれている。すわ、霊かキメラか、と眺めてみれば、足もあり、人の形をしている。それ以前に、
〈アリーシャ〉
 では、ないか。
 不得要領な視線にさらされ、アリーシャはすまなそうに説明を始めた。
 
4.終って 
「なにもなかったら、白ける」
 というのが、胡々の主張であるらしい。反省の色はない。
 不意をついて盗んだだけである。事情が明らかになり、環と涼のぬいぐるみが返されると、
「あら?」
 ファリアが尋ねた。彼女のオーロラだけ返らない。
 アリーシャは、手をつけていないという。胡々は、行動をカメラで撮られている。また、足音も、
「知らない」
 と、言うのである。涼とファリアにだけ、不思議な点が残る。
「記念写真を撮るでゲスよ♪
 青い顔をしている二人へ、夏子が言った。使い捨てカメラでパシャリと撮る。
「残念ながら夏子は撮る側だから写真には写れないけど、代わりに皆さん、≪9人全員≫をばっちりフィルターに収めて見せるでゲス♪」
 聞き流してはいたが、胡々とアリーシャを入れると8人であり、9には、一つ、たりない。夏子には何かが見えているのか、パシャリと撮って微笑んだ。涼やファリアがぞっとする。
 それで、結局、アリーシャのぬいぐるみはどうだったのか。
 依頼後、疲れから教室の机に突っ伏した犬彦が、どすっ、という足音を聞いた。顔をあげると、
「みゃあ」
 でっぷりとした猫が、ファリアのオーロラを咥えている。
 学園周辺に現れる『テト』という猫らしい。犬彦は、欠伸を一つして、それを受け取った。蓋を開ければこの程度である。寝なおす犬彦であるが、この日、また、別の怪談が生まれた。
 三階から、すすり泣く声が、聞こえるという。マルセルの声に、似ていたかもしれない。