タイトル:【講師】寄生された地区マスター:ジンベイ

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 不明
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/15 23:35

●オープニング本文


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●蝙蝠
「いやあ、どうもどうも」
 モニターから目を外すと、男が立っていた。若くはない。三十か、あるいは四十を超えているかもしれない。
 肌は黒い。声をかけられたメリィはぼんやりと、
(バグア側からの催促だな)
 と、思った。
 メリィの使う、この拠点は、バグアの支配地域なのだから、真っ当な人間は入れない。この男、定めし、
〈バグア派〉
 であろう。
「研究は進んでますかねぇ。ほら、ハーモニウムも頑張っているでしょう。こっちはどうかと上が・・・・」
「順調です」
「ほう・・・それは、いい。よいことですね、それは」
 うん、うん、とにこやかに頷くものの、目は意味深に輝いていた。
(信用していないな)
 メリィはデスクの紅茶を飲み、小さくため息を吐いた。
 それはそうだろう。もう、半年近く、実戦データがない。順調と言って、信じるほうがどうかしている。
(先生の作った強化人間たちにも)
 苛立ちが募っている。
 なぜ、戦わせないのか。そう聞かれれば、「その必要がないから」と答えるだろう。メリィにすれば、かつての恩師の研究を引き継ぐために来たのであって、別にそれを利用してどうこうということは意中にない。
 だから、
(できれば)
 戦いなどせずにいられればよい、と思う。
 その所以が、頭を掠める、カンパネラ学園の講師時代での、学生の顔にあるとは、考えない。今更言えた義理ではないが、それは少々、身勝手が過ぎるように感じられた。
「お名前を、うかがっていません」
 話をそらすように、メリィは言う。
「失礼、失礼。私は・・・・ええと、そう、アグリッパと申します」
 目深に被った帽子を傾けて、男は名乗る。
 元々は古代ローマの女性名。今は、他でも使われている。ゆえに偽名であろう。が、別に本名を知ったところで何かあるわけでもない。
「強化人間?」
「いいえ、ただの人間です。バグア派なだけの人間ですよ。お見知りおきを」
 愛想よく言って、アグリッパは、
「ものは相談ですが、メリィ先生、お宅の強化人間とキメラを、貸していただけませんか?」
 と、いきなり言った。
「なぜです?」
「実戦が遠のくと、腕が鈍りますからねぇ、先生はお忙しいでしょうから、私が代わりに行ってきましょう」
「・・・・それはバグアからの命令ですか?」
「お願いですよ。どこからかは言えませんが」
 メリィは一瞬だけ、
(強化人間たちも戦闘がないことへの不満を持っているようだし・・・・仕方ない)
 と考え、その提案に乗った。
「それで、どのようなことをするのですか?」
 メリィが尋ねると、アグリッパは微笑を浮かべ、
「能力者をおびき寄せて相手になってもらいます。・・・・ああ、殺せたら殺しますよ」
 そのように言った。
 親しみのこもった笑みが、なにか酷く下卑たものに、メリィには感じられた。任せてよかったのか、と思ったが、いまさら、「やっぱりダメ」と言って通じるはずもない。メリィは目をそらして、モニターへ向かった。
 目をそらすのが、最近は癖になっていた。

●作戦
 施設は、静かであった。
 メリィの担当する強化人間は、もう半年ほど、戦闘に出ていない。訓練はあったが、それだけである。
 遠く、ヘルメットワームの飛ぶのが見える。それをぼんやりと眺め、
「静かだな」
 強化人間の少女、玉麗は烏龍茶をすすって呟いた。
 ワームの開発期間、と、メリィは言う。確かにそういった面もあろうが、
(戦いが嫌になったのではないか)
 とも、思う。そもそもが、メリィはカンパネラ学園の講師であった。学生を殺す命令を出すのも難儀であろう。
(このままならば)
 頭を挿げ替えねばなるまい。玉麗がせずとも、誰かがするだろう。
 考えるうち、コツ、コツ、と、足音が近づいてきた。
「玉、仕事だ」
 強化人間の老人、寒山が言う。その背後に、帽子を目深に被った黒い肌の男がいた。
「そちらは?」
 聞けば、「アグリッパ」と答える。今度の仕事は、彼が指揮するらしい。
 メリィに話は通してある、という。きなくさい上、この男、強化人間でも能力者でもないらしい。つまり、戦闘はすべて、こちらに任せるということだ。玉麗は眉をひそめた。高みの見物というなら気に入らない。
「一応聞くけれど、どうするつもりなの?」
 問いに、まずは、とアグリッパは作戦を話す。
「町を襲う。なるべく殺さないようにして、人質をとる」
「それから?」
「人質は子供と親に分ける。子供には爆弾をしかけ、親にはキメラを寄生させよう」
「なぜ?」
「子供を助けに来たら、道連れに。親は意識だけ保つようにし、頑張って能力者と戦ってもらう」
「・・・・親と子供以外は?」
「暴れたら面倒だから・・・・殺しておこう。軍が来たらキメラの性能テストにでもしようか」
「・・・・場所は?」
「四国の・・・・」
 地図を取り出し、「ここ」と、周囲からちょっと浮いている地区を指差した。
 なぜだか、玉麗はぶるりと震えた。残虐だが、バグアの殺してきた人数を思えば、ささやかな被害だ。
「お前は?」
「寒山さんに守られながら、キメラの指示でもしておこう。・・・・そうそう、キミには、送迎を頼む」
「送迎?」
「言っただろう? 私は、ただの人間なんだ。キミのワームは速いらしいから、送迎を頼むよ」
 帽子を少しずらし、微かに目がのぞく。
「っ、了解」
 吐き気を覚えながら、玉麗は頷いた。
 言葉遣いが悪いのでもなければ、命の危険にを覚えたわけでもない。ただ、死んだハンバートを煮詰めたような、
〈下種〉
 の臭いが、ただよってくる。
(関わりたくない)
 そういう類の男だと思った。とはいえ、仕事は仕事として、果たすことにした。
 同行する寒山は何を考えているのか、普段と変わらずに、穏やかに、遠くを見つめていた。

●依頼
 ぷつりと、連絡が途絶えた、という。
 徳島県にある、山にほど近い地区と、一向に連絡がつかない。
 キメラに襲われたか。と考え、UPC軍が小隊を派遣して調査に向かったものの、
「連絡が途絶えた」
 のであった。
 何が起きたのか、わからない。しかし、
「何かが」
 起こったのは、間違いないだろう。
 オペレータも行うエリィは、この依頼を見て、なんとはなく、嫌な感じがした。もっとも、こんな「不明」だらけの依頼など、エリィでなくとも怪しむだろう。まず間違いなく、
「避けたい」
 類の依頼である。
 が、異変は起きており、苦しんでいる人がおり、依頼として出されたのだから、
「掲示しないわけにはいかない」
 と、思われた。
 能力者たちへ向けて、届いた依頼を提出する。それを実行するとき、知らずに、目をそらしていた。
 目をそらそうとするのが、癖になりかけていたようである。

●参加者一覧

緑川 安則(ga0157
20歳・♂・JG
番 朝(ga7743
14歳・♀・AA
夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
芹架・セロリ(ga8801
15歳・♀・AA
紅月・焔(gb1386
27歳・♂・ER
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA
犬彦・ハルトゼーカー(gc3817
18歳・♀・GD
エシック・ランカスター(gc4778
27歳・♂・AA

●リプレイ本文

●街へ
「霧に包まれた街に、消えた住民か。まるで悪趣味なホラー映画だが・・・・」
 ジーザリオを運転しながら赤髪の青年はつぶやく。
〈夜十字・信人(ga8235)〉
 である。車には、同じアクティブ・ガンナー小隊の面々が乗っていた。
「乗っ取られた町、か・・・・いつかの依頼を思い出すな」
 と漏らすのは、信人が呼ぶところのロリ、
〈芹架・セロリ(ga8801)〉
 である。彼女の前の席で、ガスマスクの上から軍用双眼鏡で様子を見る、
〈紅月・焔(gb1386)〉
 が調子よく会話に乗ると、三人、いつも通りの荒っぽい会話が始まった。
 それを楽しげに見つめる、もう一人。
(相変わらず仲が良いなあ)
 思いつつ、
〈番 朝(ga7743)〉
 は先へ目を向ける。近づく街の様子が、おぼろげに見えてきた。

●役場
 商店街を行きすぎ、A班は役場へ向かった。
 バイクと、二台のジーザリオの音が響いていく。街は静かだった。
(先の部隊の二の舞だけは避けたい所だが)
 冷たい霧の中、紅い髪がなびいていた。バイクに乗る、
〈鹿島 綾(gb4549)〉
 の、髪である。
 先遣隊は、役場で連絡を絶ったと聞いている。注意したいところだが、
(情報が少ないとなると、時には大胆に動くことも必要か?)
 とも、考えた。
 後ろを走るジーザリオをチラと見る、その運転手は向かう前、
「戦力の逐次投入。まあ、状況が不明の場合、適した戦力の偵察部隊を送らねばならないのも事実」
 と言い、続けて、
「徳島を取られれば暫定首都の大阪にも影響力が出るしな」
 呟いていたものだった。ハンドルを握る、
〈緑川 安則(ga0157)〉
 は、前を走る綾の視線に気づいて軽く目礼し、左右へ目をやった。
「とにかく、異常があるはずだ。そうじゃなければ偵察隊が連絡が取れなくなるはずがない」
 とは、彼の言。なにが襲ってくるか知れない。
 安則の後ろを走る、もう一台のジーザリオに乗る二人も、わかっていることだろう。助手席に座る少女は、
(UPC軍が消息を絶ったっちゅーことは、相等やばいんとちゃうか)
 街に向かう前から、思っていた。
 ハンドルを握る男は、気を使ってか、穏やかな顔をしている。薄い霧の先に、かすかに建物が見えてきた。
「血のにおいがする・・・・」
 車から降りると、少女、
〈犬彦・ハルトゼーカー(gc3817)〉
 はポツリと呟いた。すでに覚醒し、目が赤くなっている。同乗者、
〈エシック・ランカスター(gc4778)〉
 は、かすかに頬を緩める。こちらも覚醒が行われていた。
「あれは・・・・」
 入り口のあたりに、車がある。見てみると、
〈UPC軍〉
 のロゴがあった。先遣隊の車らしい。あたりに血痕が残っている。
「この状況・・・・やられたか」
 苦々しげに安則は言いつつ、当然の疑問を抱く。
(死体は、どこだ)
 答えは、すぐに知れた。
〈ギインッ〉
 綾の天槍「ガブリエル」 が金属の打ち合う音を立てた。警戒をしていたものの、犬彦、エシック、安則は間に合わず、刃を受けつつ相手を見る。その服のフォルムと肩章は、
〈UPC軍の兵士〉
 のようだった。
 腕に刃を生やした姿は、人ではない。数は五、八・・・・もっといる。
 寸毫の間もおかず、綾の槍が閃いた。左右の槍を振るうと、
〈轟ッ〉
 と凄まじく唸り、UPC軍人だったものは、くの字に折れて地面を転がった。
 安則のドローム製SMGが火を噴き、犬彦の拳銃「キャンサー」もそれに続く。動きの早い相手であるが、火線に動きを邪魔されたところへ、エシックの竜斬斧「ベオウルフ」 が振り下ろされた。
〈ズガッ〉
 と小気味良い音がして、キメラは崩れ落ちる。
「こちらA班。敵勢力と遭遇、交戦中。可能な限り情報を手に入れてみる」
 無線で安則が連絡をする。何かあったら報告しあうのが基本であった。
 銃声が途切れる頃には、辺りに遺体が転がっていた。軍事知識のある安則が検めると、先遣隊のものであることが確認された。綾が調べてみると、右目を中心とした寄生の痕が見て取れる。
 一向は役場の中へ赴く。
 エシックは内部を探りながら考えた。注意すべき三点は、
〈1.連絡が取れなくなった理由 2.先発隊に何があったのか 3.負傷者や死体がないか〉
 であるまいか。答えはある程度出ている。疑問も出てきた。
(先発隊に、キメラを寄生させたのは誰か)
 犬彦は監視カメラでもあればと探ったが、今回は見当たらず、他のメンバの調査を手伝った。そうする間にB班から商店街の調査を終えたことが伝えられ、一旦、合流することとなった。
 遺体へ、冥福を祈ってから・・・・。

●合流、工場へ
 セロリによれば、
「レジの情報からして、二週間ほど前か」
 とのことだった。商店の最後の利用日である。探索中に、
「しっかし、昼間の商店街も人が居ねぇと不気味なこと極まりねぇな・・・・」
 と呟いたが、商品ばかり残る町並みは奇怪だった。
 A班は住宅地へ向かい、B班は工場へ赴いた。工場が稼動しているような音に気づいたのは、
「安全運転で・・・あと、障害物があったら教えてな。首が飛ぶのは避けたいし」
 言いつつ、後部座席から顔を出したセロリが最初だったか、あるいは、番であったか。
 ジーザリオを止めて耳を澄ますと、やはり、聞こえる。
 『GooDLuck』を使用し、ランタンを持ちガスマスクを被った焔が先行した。
「単独行動は、しない方がいいぜ・・・さっき、ガスマスクのキャニスターがとれたからな・・・嫌な予感がする」
 冗談めかして言っていたが、警戒は本当のようだ。焔が合図し、仲間たちが近づく。内部へ目を向けると、
「なんだ?」
 一つ、奇妙な機械が、動いていた。
 円筒型の水槽に、あちこちからパイプが伸びており、異様である。内部で何かが浮かんだり沈んだりしている。
(どこかで)
 似たものを知っている気が、番にはした。
 様子を窺うと、周囲にはキメラがいるようだった。むっ、と嫌な臭いが立ち込めている。
 床に散った血の量から、A班の言う、
〈UPC軍人へのキメラの寄生〉
 は、ここで行われたのではなかろうか。恐らくは、住民へも・・・・
 信人は仲間へ合図を送り、その場を静かに離れた。あの装置を壊しても、どうせまた作るだろう。もし倒すとすれば、それを設置したものたちではあるまいか。倒せないにしろ、情報収集は、もう、済んだ。
 ジーザリオに乗り込み、次の場所へ向かう。水槽で寄生型キメラが、ゆっくり浮き沈みを繰り返していた。

●山へ
「誰か〜! 誰かおらんかね〜!」
 犬彦のピンポンダッシュの後、住宅の合間にある公園に、子供の姿を見つけた。
「・・・・大丈夫か?悪い人に何かされなかったかい?」
 怪しみつつ、綾が優しく尋ねる。子供に近づいていくと、転瞬、
〈キンッ〉
 キメラの刃が、綾の槍とかみ合っていた。
「・・・・ママ」
 子供が呟かなければ、躊躇いも無かっただろう。
 綾は一度振り上げた槍を留め、キメラを観察した。表面に異常があるとしたら右目だが、
(内部まで侵食されている)
 のだった。せめてと、その場を離れて倒そうと思うが、キメラは子供のそばを離れない。
 犬彦が子供を引き離して助けようと近づくと、
〈ボンッ!〉
 その身体が、四散した。爆風にさらされるものの、「絶対防御」が間に合う。
 キメラは倒したものの、後味が悪い。近場の公民館にも子供がおり、エシックは、
「あ、虫です。じっとしててください」
 さりげなく、FFを確認しようとした。最も、気づいたのはFFではなく、
〈爆弾〉
 であったが。こちらでも戦闘があった。安則は目元を隠すように、帽子を被り直した。
「発進しますよ」
 犬彦が乗り、エシックがジーザリオを動かす。
「最悪やで・・・・こんなん・・・・」
 子供の骨が爆風で飛んできた時の感覚が、妙に後を引いている。
 一向は山へ向かう。エシックは運転しながら住宅地で得られた情報を簡単にメモするうち、麓にたどり着いていた。
「兵器を隠すには森が一番だからな、移動用のHWぐらいは出てくるかもな」
 と言ったのは安則であったが、エシックが双眼鏡で観察すると、見づらいが確かに、
〈自然物ではない〉
 物が見受けられた。犬彦も借りて、枯れ木、枯れ葉で覆われた辺りを眺める。
 綾が先行し、星をつけた怪しげな辺りに向かう。ガサッと音がしたと思うと、
「ッ」
 巨大なトカゲが、のそりと姿を現す。
 攻撃は同時。が、トカゲが一方的に負けた。倒れ際、叫びをあげると周囲がざわく。似たキメラが次々に現れた。
 そして。
「目ざといわね」
 少女が一人、現れる。左右で黒髪を結んでおり、総体、引き締まっている。
(強化人間)
 であった。安則が反射的に銃を向けると、倭刀を握りしめ、もう片方の手で剣指を作る。
 一斉に、動いた。
 綾、犬彦の攻撃はキメラに邪魔をされ強化人間に届かず、その強化人間は一跳し安則へ刃を向けた。サブマシンガンが強化人間の頬を掠め、倭刀が安則に飛んだ。血がパッと舞う。
 そこへ、
〈ブンッ〉
 エシックの斧が襲い掛かる。倭刀が受け流そうとしたが、
「チッ」
 重い一撃に、腹が浅く切れた。追撃は、しかしキメラの爪によって防がれ、エシックらも傷を負う。
 犬彦のスキル「四肢挫き」が狙われるが惜しくも一瞬早く強化人間は飛んでいる。この隙を過たず綾が切り込んだ。
〈轟ッ!〉
 打ち合い、倭刀はあっさりと打ち負け、切っ先が強化人間を抉った。
「くぅう!」
 キメラが壁となり、強化人間が下がる。その背へ犬彦や安則の銃撃が飛び、背を抉った。
 そうして、追いつく間に、起動音がした。
〈HW〉
 である。
 車に向かう退路は、キメラに封じられている。銃撃が襲った。木の陰などに身を隠すが、どうしても限界がある。犬彦は閃光手榴弾のピンを抜き、全員へ合図を送った。
「女の子の後ろで指を咥えているのは苦手でして」
 待つよりも先にエシックは『ソニックブーム』でキメラの列に隙を作る。ややあって、
〈バシュッ〉
 と爆発し、キメラたちの動きが鈍った。
「照明弾打ち上げ!撤退するぞ!」
 安則の声と共に、一斉に走り出す。その後に、血が点々と残っていた。
 銃弾のせいか倭刀のせいか、恐らくは積もり積もったものだろう。安則は唇を噛み締め、誰にも知らせず運転した。

●学校
「まったく、いつもお前たちだけで背負おうとして・・・・」
 セロリと番は、体育館の入り口に立っていた。
「番長、せろりん、お前らは見なくて良い。是から嫌でも見ることになるからナ」
 言って、信人と焔が先行したのだった。不服に思わないでもないが、
「・・・・だから、今は見なくて良いんスよ」」
 珍しくガスマスクを外して真面目に言う焔に、気を呑まれた。
「子供の泣き声か、誘っているようにしか思えんが‥‥」
 と、信人は元々警戒していたが、A班から連絡が入って後、いよいよ気が張っているようだった。焔と共に、
「周囲に声まで聞こえる状況だ。無事でいるのはおかしい。罠だ」
 と、やはり制した。セロリや番にしてみれば複雑であるが、セロリの言葉で言えば、
(あいつらの気遣いも気持ち悪いが嬉しい)
 のであって、大人しく待っている。
 体育館には子供たちがいた。数十人、というところであり、学校としては少ないほうだろう。
「動くな。良い子だ。まずはそこで俺と話をしよう」
 目が合い、即座に動きを制する。絶対防御と活性化を行いつつ、大剣を盾代わりに話を聞こうとする。
 子供が口を開いた、転瞬――。
〈ボンッ〉
 と、その身体が爆発した。二人にさほどの傷はないが、爆発の周囲にいた子供たちが、悲惨である。
 泣き叫ぶ声が、悲痛に響く。信人はポーカーフェイスを保ち、
〈パンッ〉
 苦しむ子供たちを安らかにした。
「よっちー、お前だけにやらせたりしねぇよ。借り作るつもりはねーからな!」
 唇を噛んで、焔も加わる。が、そう長くは続かなかった。
 刃が、二人に襲い掛かる。一つは信人の肩を撫で、一つは焔の背を切った。
(この服)
 キメラの名残を見ると、教師だったのではあるまいか。続々と現れたのを見れば、親もいるだろう。
「麗しいね」
 二階、体育館を一望できる位置から、男の声がした。
「子供を護ろうと必死だ。それを殺すキミたちか」
 ははは、と笑う。。
(誰か)
 と思ったところ、
「四人か」
 彼の脇から、老人が現れた。数十のキメラに、この強化人間が加わるらしい。
「行く」
 老人が降りるのと同時、一斉に襲い掛かった。
 信人でも、なんとか捌く、という所が精一杯であった。立て続けのキメラの攻撃に、焔は受けきれず、傷を負う。物量の違いに囲まれるかという所で、セロリが瞬天足を用いて飛び込み、裏に回る敵へ菫を浴びせた。
(・・・・この感じ・・・・)
 遅れて豪破斬撃で切り込む番は、二階から見下ろす男に寒気を感じた。次いで、
(・・・・似てる)
 キメラを見て、記憶にある寄生型を思う。A班から『玉麗』らしき強化人間と交戦を開始したことを考えると、
(あの人か?)
 漠然と、首謀者を思った。ただ、
(あのキメラと同型ならば)
 ここから、抜け出せるだろうか。刃を合わせて、
(まずい)
 到底、相手しきれない。豪破斬撃でセロリへ向かう敵へ割り込んでも、何体も相手にするのは無理だ。
「よっちー、道を切り開け! せろりんはよっちーを援護だ。番長、迂闊に踏み込んではいけませんぜ、下がりやしょう」
 蓄積するダメージをロウ・ヒールで回復しつつ、焔が撤退を提案する。
 軽く頷き合い、動き出す。番が信人へ向かっていたキメラへ豪破斬撃を浴びせ、信人は反転、ジーザリオへ向かい、途上のキメラへ、クルシフィクスを浴びせる。セロリが真デヴァステイターでカバーし、信人の攻撃を助けた。
 息のあった連携である。ただ、焔を全体の指令でなくても調整役と見たか、
「疾ッ」
 何体ものキメラに混じって、強化人間の小太刀が、焔へ一閃、二閃。
 ボタボタと、血が、床を濡らす。
「ッッ!!」
 猛獣のような咆哮を番があげる。『樹』を振り上げて襲い掛かろうとするが、
「番長!」
 当の焔の叫びが、足を止めた。
「こう言う手を使う連中は、必ず見ている。良いか、泣き叫ぶのは帰途でだ。この街では動揺を殺せ。撤退だ」
 信人が言い聞かせ、無理に頷かせる。
 既にルートはできており、キメラを追い返して駆け出しジーザリオに乗り込む。
「ああ、こっちもすまねぇが撤退させてもらうぜ。最寄のルートから脱出するから、町の外で合流しよう」
 セロリが無線で告げる。空に、A班の照明弾があがっていた。
「・・・・畜生。いつまでたってもこんなんばっかだ」  
 迫り来るキメラを大口径ガトリングで牽制しながら、嘆いた。
「憎しみで戦うつもりはない」
 信人が独り言のようにつぶやく。だが、と、続けて、
「その憎しみを生み出す元凶に、容赦をするつもりもない」
 気丈に表情を和ませる焔と、それを心配する番の姿を、チラと見て、ジーザリオを走らせた・・・・。