タイトル:【講師】La traviataマスター:ジンベイ

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/05/11 22:50

●オープニング本文


『起て、学徒。誓いて退転せず、魔界の胸を暁天の光に浴せしめよ』
                J・W・V・ゲーテ『ファウスト 第一部』

●歴史
 2009年の夏から初冬にかけ、虫姫事件と呼ばれる戦闘が、四国で起こった。
 キメラを指揮する上位種、虫姫。そして、キメラや強化人間を作り出すバグア派、サイレンス。
 能力者は二人を討ち、虫姫の遺体は、研究室へと運ばれた。
「先生の、遺産か・・・・」
 それはいつだったか知れない。けれど、確かに、虫姫の遺体が、保管庫から消えていた。
 時を同じくして、カンパネラ学園の研究室に、見慣れない人物が現れる。
 名前も素性も誰も知らない。それでも捨て置かれたのは、彼女が助手と呼ばれたからだろう。
 研究者、オペレータ、講師と職を掛け持つ、忙しい、メリィ・ナブラの助手と。

●裏切り
「みゃあ」
 夜のカンパネラ学園。ひっそりとした闇を破って、猫が鳴いた。
「あら、お見送り?」
 それに気づいたメリィ・ナブラは、その猫に近づく。大きく、でっぷりとして、甚平を着ていた。実験動物として依頼に出されたこともある、猫妖精こと『テト』である。静かな、厳しい目を向けていた。
「マスター、あまり時間に余裕はありませんよ」
「ミウ、ちょっと待って。どうせ、最後なんだから」
 メリィは屈みこみ、テトの頭を撫でようとした。しかし、テトは身を避けた。鳴きもせず、見つめる。
「無愛想な猫ですね」
 ミウと呼ばれた少女が言う。褐色の肌に、金色の髪が輝いている。かつて虫姫と呼ばれた彼女は、メリィによって改めて強化人間として生き返され、今は、ウォルミウス・オブ・マゴトと名乗っていた。
 メリィは、しばしテトと見つめあい、ふっ、と笑った。「そっか」と、独り言をつぶやく。
「どうしました?」
「ううん……テトは鋭いな。私が敵になるって、分かっているみたい」
「その割には、向かってきませんね」
「見送りなんでしょう。仲間としての、最後の」
 立ち上がって、深く息を吐く。メリィにとって馴染み深い学園の夜気が、今日は新鮮に思えた。
「ねえ、ミウ。あなたにとって先生は、サイレンスはどんな人だった?」
「……冷酷で、身勝手で、馬鹿な人でした」
「そっか。……私が習っていた頃は、無邪気で、真っ直ぐで、素敵な人だったよ。憧れで、大好きだった」
「だから継ぐのですか?」
「そう、約束したしね。先生が死んだらって……生物学を引き継ぐつもりだったんだけどな、本当は」
「では、止めますか?」
「まさか。私もね、結局、馬鹿なんだよ。先生の形見を引き受けたいんだ」
 そのとき、テトが「みゃあ」と鳴いた。どこか、引き止めているように聞こえる。
「ダメダメ、浮気はいけない。……行こうか、ミウ」
 歩き去るメリィへ、テトは鳴き声をあげた。メリィはヒラリと手を振った。夜闇の中、ひっそりと行われたそれは、静かな別れであり、静かな裏切りであった。……ただ、それを許さないものが居る。
 足音を、あえて立てるように、その人物は現れた。
「エリィね」
 言葉の通り、エリィ・ファブレスであった。その手に、エネルギーガンを構えている。
 メリィにとっては、後輩に当たる。講師陣の中では、最も親密だったのではないか。
「マスター」
 ミウがチラリとメリィを見た。殺すか、という問いを、視線で投げる。
「大丈夫よ。彼女は、撃てないから」
 そう言って、踵を返す。エリィは、止まるように叫んだ。しかし、そのまま進んだ。
 再び、彼女は叫ぶ。「先輩!」と、響く声が、夜空に呑まれていく。
「ここのところ、見覚えのあるキメラが、出現したでしょう」
 ふいに、メリィはそんなことを言う。
「あれを作ったの、私なの。エリィは、薄々、感づいていたとは思うけれどね。向こうでも、似たようなことをするでしょう。キメラと強化人間の開発。そして、この間の四国みたいに、その実験もね。先生のデータを私なら活かせるし、カンパネラの科学者という肩書きが気に入ったのか、バグアも乗り気なの」
「見損ないました」
「そう……正しいと思うわ。これから先、もっと、そうなると思う」」
「バグア側に付くということがどういうことか、わかっていますか」
 メリィは答えずに、薄く笑って、また歩き出した。
 銃声が、響く。
「言ったでしょ、彼女は、撃てないって」
 銃を構えたままのミウに、言った。遠くで、エネルギーガンを取り落とし、呻くエリィの姿がある。
「はい、マスター。ただ、万が一と言うこともあります」
「そう……。お利口ね」
 血を流すエリィの姿に、かすかに唇を震わせた。彼女は、ふいに顔をあげて、「行かないで」と、涙に濡れた顔で訴える。メリィは、きゅっ、と唇を結び、改めて踏み出した。
「行こう」
「はい、マスター。グリーンランド方面へ」
 巨大な猫、テトが、「みゃあ」と、悲しげに声を上げた。

●海上
 六機のヘルメットワームが、グリーンランド方面からカンパネラ学園へ向かっていた。
 四機までは一見、通常のヘルメットワームと変わらない。しかし、残り二機のうち、一機は脇に竜のペイントを入れており、もう一機は妙に巨大な格闘戦用のアームを持っていた。航行速度を見れば、どれも性能の良い機体であることは分かるが、この二機は、やはり目立った。
「この馬鹿は、なんで格闘戦用の装備なのよ! 援護だって言ったでしょ!」
 竜の描かれたヘルメットワームから、少女の声がする。巨大アームの機体からは、
「近づいてきたら殴れる」
 と、分かりやすい答えが、男の声で出される。
「近づかなかったら?」
「そのときは玉麗が活躍するだろ」
「人任せにするな!」
 コンソールでも叩いたような音が響く。
「あんたがそんなだから、サイレンスが死んでから一つも仕事が回ってこないのよ!」
「そのために、新しいマスターが来るんだろう。ようやく、部隊も動き出せる」
「分かってるなら、やる気出しなさいよ!」
「出してる出してる」
 アームが閉じたり開いたりした。「あー、もー!」という苛立たしげな声が、夜の海に呑まれていく。そうしながらも、六機のヘルメットワームは、カンパネラ学園に近づいていった。
 彼方では、二機のKVが、小さなコンテナをロープで提げて、カンパネラを飛び立ち始めていた。

●参加者一覧

緑川 安則(ga0157
20歳・♂・JG
伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
番 朝(ga7743
14歳・♀・AA
六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA
紅月・焔(gb1386
27歳・♂・ER
シャーリィ・アッシュ(gb1884
21歳・♀・HD
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA
ウラキ(gb4922
25歳・♂・JG

●リプレイ本文

●飛行
 カンパネラ学園からグリーンランドへ向かう海上。突き抜けるKVによって、その水面が波打った。
「何とも厄介な事態になっているね? KVも奪われるとは・・・・尚更、逃がす訳にはいかないな」 
 鹿島 綾(gb4549)は、軽く周囲を見回す。KVは上下に分かれて編隊を組んでいた。彼女の乗るKVF−108改ディアブロ『モーニング・スパロー』の横には、緑川 安則(ga0157)のXF−08D改2雷電『フェンリル』、番 朝(ga7743)のXF−08D雷電、紅月・焔(gb1386)のXF−08D改雷電『ホムライデン・怪』が並んでいる。
 逃走に使用された機体は、シュテルンという情報が入っている。ロープでコンテナを運んでいるのであるから、そうそう速度は出せまい。しかし、元々の高性能ゆえに、一行は全速で海上を飛翔する。
「まったくシュテルンとは厄介なことだな。だが、奪わせるわけにはいかん。ここで食い止めねば」
 気負うように安則は言って、オペレータの知らせる最短距離を駆け抜ける。
 裏腹に、番は静かであった。まだ遠い目標を見るように、先へじっと視線を向ける。
(虫姫の事件は全部覚えてる・・・・あの歌と一緒に)
 ぎゅっ、と操縦桿を握る。口元が小さく、動いた。声には出さず、ただ思い出すように唇が震える。
 記憶を辿る。そうしているうち、同じ部隊である焔の嘆きが聞こえてきた。
「女性が敵とは・・・・く・・・・勿体ない・・・・非常に勿体ない!」
 あまり会話をしたことはなかった。が、『そういう男』であると、この瞬間、番は理解する。
 歌声を回想するのを止め、番は唇を結んだ。その口角が、すこしばかり、上がっていたかもしれない。
「・・・・新型はあまり身体に馴染まねぇ。新品のシューズを履いた気分だ。靴擦れしそうだ、まったく」
 伊佐美 希明(ga0214)は、ぼやくように言いながら、『音夢のリボン』を手にした。オペレータから聞いた因縁を少し思い出したようにしてつぶやく。
「わかンねぇ話じゃねぇ。誰だって心の支えはある。・・・・どんなに形が変わっちまっても、そう簡単に切れるモンじゃねぇ」
 希明のFPP−2100ペインブラッド『ウルスラグナ』は、番たち上空を飛ぶ機体の下方を、真っ直ぐに目的地へ向かっていた。傍らには六堂源治(ga8154)のF−104改バイパー『バイパー改』、ウラキ(gb4922)のPT−056ノーヴィ・ロジーナ『Culebra』、シャーリィ・アッシュ(gb1884)のHA−118改翔幻『アヴァロン』が飛ぶ。
 希明はリボンをぎゅっと締め、「・・・・だが、落とし前はつけさせる。必ず」と、独りごちるようにつぶやいた。聞くともなしに耳にした源治は、「姉御の因縁か・・・・」とポツリと漏らす。
「俺に出来る事は、全力で姉御をサポートする事だけッス。ウラキ、俺らの出来る限りをやっていこうぜ」
 声をかけられたウラキは、力強く頷いた。使い慣れた自らの操縦桿を撫で、
「・・・・Culebra・・・・頼むよ」
 胸中において(二人と戦えるとは思っていなかった・・・・無様は晒せないね)と呟き、一層、意気込む。
 彼方に、敵影が見え始める。目標のシュテルンではなく、ヘルメットワームの群れである。
「考えるのは後にしましょう。まずは逃亡した機体を押さえないと」
 シャーリィの言葉に、ウラキは少しだけ微笑んで続けた。
「戦闘開始・・・・作戦は成功する・・・・お嬢と六堂さんが居る・・・・根拠は、それだけだけれどね

●交戦
「2の4の・・・・8機?
 竜の紋様を持つHWの乗り手、玉麗は小馬鹿にするように迫るKVを眺めた。
「上下に分かれている。どうする?」
「決まってるでしょ、両方叩くのよ! 支援は成功するし功績は増える。言うことなしじゃない!」
 六機のHWもまた、KVに向かっていく。上の編隊の安則は、近づくHWを見て叫んだ。
「敵機影確認。HW、腕付きもいるぞ! 恐らくはエースだ!」
 6機のHWはまとまって飛行する。迎えるところへ、下の四機と上の二機から火力が放たれた。
「作戦計画に基づき、よろしく頼む! ここは何とか妨害してみる! 超伝導アクチュエータ起動! ロックオン! 斉射!」
 強化されたK−02ミサイルの白煙が空を彩り、下方から放たれた同じミサイルと共に爆炎を噴き上げた。
「吼えろバイパーッ!!」
 宙に軌跡を残すミサイルを追うように、源治の『バイパー改』はブーストを吹く。いまだ炎の上がるHWの地点には、伊佐美のスナイパーライフルや焔のファランクス・アテナイ、シャーリィのMSIバルカンR、ウラキのホーミングミサイルなども順に呑まれていく。煙が晴れる間もなく、源治に続いてシャーリィら数機が飛び掛った。
「空は久しぶりですね・・・・だから言って、やることは変わらない・・・・邪魔をするものは薙ぎ払う」
 煙が晴れる。海へとHWの一機が落ちていく。他は傷ついているのみで、落ちはしない。竜の描かれたHWから覗けている砲口に、いくつかのミサイルは一手早く撃ち落されたかのように見える。
「しばらく出撃していなかったから腕が落ちたか、最近話題のファランクス防御システムのせいか」
 小さく愚痴り、すぐさま安則はHWの群れへと向かう。
(変わったのが2機・・・・エースか・・・・)
 ウラキが腕の付いたHWと、竜のペイントを持つHWを確認すると同時に、ブースト空戦スタビライザーを発動させた源治のソードウィングが、一機のHWを切りつけた。煙の晴れやらぬ中、再度の発動で刃を返す。
「ルーニィ!」
 HWが、もう一機落ちた。ブースト空戦スタビライザーを用いて別のHWに向かう源治へ、玉麗の叫びに応えてか煙の中から腕を生やしたHWが突っ込む。ソードウィングを片腕で受けると、そこへ刃が切り込むのも構わず、もう一方の巨大な拳を握り締め、源治の『バイパー改』へと叩きつけた。
「腕付き、エースタイプか。格闘戦闘をご希望か? 趣味なデザインだな」
 スナイパーライフルを構え、腕つきへと安則は向ける。なおも拳を振り上げるHWへと、ウラキの『Culebra』が上から強襲をかけ、初撃で残った分のミサイルを流し込んだ。空虚重量にして18.9tという機体でありながら、頭上を押さえ、攻撃と共にブーストを使いつつ、また距離を離す動きは軽やかでさえある。
「機の重さを気にするのは・・・・逃げる側の思考でね・・・・」 
 距離を離すウラキに変わるように、焔が次々と品を変える。
「2100発の弾幕・・・・中々うざったいだろ?
 ファランクス・アテナイ二挺に、7.65mm多連装機関砲、ファランクス・ソウル。一度に撃てる装弾数、占めて2100発を、撃ち放つ。上空からHWへと、逃げ場もないかのように降り注いだ。
「こんのぉっ!」
 竜をペイントした機体からプロトン砲が放たれ、安則の『フェンリル』と焔の『ホムライデン改』の二機の装甲を抉った。続けて、その砲口は源治を狙う。――刹那、横合いからのライフル弾によって、その狙いがそらされた。
「外敵なんてない・・・・」
 希明のウルスラグナがなおもライフルを撃ち放つ。玉麗はふわりと回避運動を取り、続く弾丸を避けた。
「・・・・獅子座だけでは飽き足らず・・・・バグアがっ! 私の目の前で竜の紋章をちらつかせるなっ!!」
 バルカンを撒きつつ飛び回るシャーリィは、UK−10AAM とピアッシングキャノンをHWへ放ちながら、横目に竜の紋章を見て歯噛みした。自国ウェールズの象徴たる竜を冒涜するかのような、バグアの意匠に憤る。
「ははん、なら、削って燃やして消してみなさいよ!」
 度重なる攻撃に、また一機、HWが落ちた。
 腕の付いたHWは、源治との格闘戦をひとまず棚上げにし、玉麗の周囲に集まる機体へ向かう。そんな中、希明の『ウルスラグナ』はブーストを吐き出し、玉麗の横合いを駆け抜けた。
「そっちへは・・・・行かせるか!」
 メリィたちの乗るKVを追うと見た玉麗は、高速で飛ぶ『ウルスラグナ』に追いすがる。プロトン砲の吐息が装甲を覆い、さらに、繰り返し吐かれようとし――フォトニック・クラスターの閃光が、一瞬早く目を焼いた。
「一機でも減らせれば、KVを確保し易くなるはず・・・・頼むッスよ鹿島!」
 源治は、竜ペイントと腕付きを除けば、最後の一機となるHWへ『試作型「スラスターライフル」』を放って撃ち落した。前方、二機のKVが、さらに前を行く二機のシュテルンへと追いすがっていた。
「っ!?」
 確かめてさえみれば。
 八機が六機になっていることくらい、すぐに気づいただろうに、初陣の興奮か、侮った代償か。
「まずは、それを置いていって貰おうか!」
 後悔の先には立つはずもなく、綾の『モーニングスパロー』から曙光の輝きが放たれる。95mm対空砲『エニセイ』を撃ち放した末に、ブーストで近づくままソードウィングを抜いた。
「・・・・ッ」
 ホーミングミサイルを発射しながら、番は無表情となった頬を、ほんの少しひくつかせる。かつて虫姫と呼ばれた敵は、どちらに乗っているのか。瞬き一つの間に、そんなことを思う。
「・・・・いっそ俺は破壊したい、けど
 スナイパーライフルを構えると、コンテナを吊るロープへと銃口を向けた。超伝導アクチュエータを発動させた弾丸は、チリッ、とロープを掠める。
「裏切りには相応の代償が伴う。分かってやっているんだろうね?」
 攻撃を受けつつ、回避運動を取るメリィであったが、避けた先には既に綾が陣取っていた。剣翼を振り上げると、ロープを勢いのまま断ち切り、コンテナを海上へ落とすことに成功する。
「その機体も持っていかせる訳にはいかない。全力で叩き落す!」
 パニッシュメント・フォースにより剣翼の威力を上昇させ、その刃を、今度はシュテルンへと向けた。回避も間に合わず、装甲で刃を受ける。真っ二つ、とはいかないまでも、メリィの機体は大きな損傷を受け高度を落とした。
「マスター!」
 二機の間に、別のシュテルンが割り込む。PRMシステムを発動させ、三度の剣翼に立ちはだかる。邪魔するようにD-502ラスターマシンガンが、横合いからウォルミウスのシュテルンへと放たれていった。
「あなたは・・・・」
 超伝導アクチュエータに増幅された槍を受けつつ、ウォルミウスは漏らす。しかし、それ以上は何も言わずに、距離をとってメリィのシュテルンへと近づいた。大きな改造も装備もない機体に、唇を噛む。
「玉麗、ルーニィ、なにをやっているのですか!」
 竜のペイントを持つ機体は、周囲を飛ぶKVの対応に追われている。
(地を這う蛇に咬み付かれた龍は・・・・どういう反応をするかな・・・・)
 ウラキの『Culebra』の後ろを取った玉麗は、それまでゆったりとしか動けていなかった機体が、突如、ブーストで反転し、正面から84mm8連装ロケット弾ランチャーを撃ってくるのを見た。
「こなくそッ!」
 ぐんとHWは有り得ない機動を描き、直撃を防いで、その爆炎にのみ巻き込まれた。炎の中を駆け抜けるHWからプロトン砲が放たれ、ウラキの放っていたGPSh−30mm重機関砲とぶつかりあう。HWの横を弾丸が掠め、回避運動に入っていたウラキもまた、太い砲撃の端を装甲に受けてしまい、動きを乱す。
「・・・・っ・・・・地上であればそうそう遅れは取らないものを・・・・!」
 腕を持つHWは、その頑健な装甲を前に出し、シャーリィや安則の攻撃を防いでいた。幻霧発生装置を発動させつつブーストで一時に離れ、攻撃を受けぬよう慎重に立ち回る。
「悪いが、私は素敵な女性の方が好みなんでな。腕を組むのはご免だ」
 弾薬を打ち込みながら、超伝導アクチュエータを発動させ、安則も回避を忘れない。ウォルミウスの叫びは、そんな中で聞かれ、たちまち玉麗はプロトン砲の追撃を止め、機首の向きを変えた
「ルーニィ、任せるわよ!」
 希明の『ウルスラグナ』がブーストをかけて、KVへ向かう玉麗を押さえようと追いかける。続いて、番の方向へと飛ぶHWを認めて、焔が続いた。そうはさせじとばかりに、腕付きのHWは希明へと飛ぶ。
「ゲンジー、ケツ持ちしっかり頼むぜ!」
 腕付きHWへと、ソードウィングをかざして源治のバイパーが飛び込む。無視・・・・するには、その威力が大きすぎた。腕で受け止め、HWは足止めを食らう。
「あの赤色め!」
 シュテルンへ追撃をかける綾の『モーニングスパロー』が玉麗の目に映り、最大射程からのプロトン砲が放たれ、直線状を砲撃が埋めた。回避は間に合わず、綾はそれを受け、番もまた、その位置から掠った程度に受ける。
「番長! お供しやすぜ!」
 HWへ射撃を浴びせつつ、焔は番へと翔けた。『番長』という呼び名が、どうやら自分のことらしいと理解し、かすかに頷く。希明は玉麗の後を追い、ブーストをも使用し一散にKVへと向かう。
「爺が捨てたゴミ拾って、自慢げに何が『継ぐ』だ。笑わせる」
 HW、ウォルミウスのシュテルンの奥、メリィへと雄たけびにも似た声をあげる。
「テメェは過去に縋って、やり直したいだけだろ! 迷惑なんだよ!!」
 強化型SES増幅装置『ブラックハーツ』を発動させ、裂帛の気合とともにスナイパーライフルD−02を撃ち放つ。
「私は、それで助かってるのよ!」
 慣性制御機能をフル活用し、HWもまた機体を強化する。フォースフィールドを発動させつつ、スタートの差分、前に出ていた機体を横にずらし、弾丸を至近距離から受け止めた。なおも止まらず、気丈にシュテルンへと向かう。
「一応こういう事も出来るんだがね・・・・」
 迫る機体に番がマシンガンをばら撒き、シュテルンの前で動きを遅くしたところへ、超伝導アクチュエータVer.3を用いた『ホムライデン改』の残弾全てが硬直したところを捉え、動きを制限し、綾の剣翼が重なった。
 フォースフィールドに阻まれつつ、その機体を傷つける。とはいえ、よほど強力であるのか、HWに対して十分なダメージとは言いづらかった。
「有難う。では、撤退しましょう」
 メリィの言葉に、玉麗は反駁し、
「向こうの練力も限界です。戦いましょう」
 言って、コンテナの回収を主張したが、
「もう、向こうの手に渡っているもの」
 希明の要請によって、最大限の速度で来ていたカンパネラの回収斑の手に、コンテナは渡っていた。腕つきのHWが、静かにKVたちから離れていく。シュテルン二機とHW二機は、瞬く間にグリーンランドへと飛んでいった。

●帰路
 当初の目的は達成し、一行は帰路を飛ぶ。かろうじてカンパネラまでは保つという程度の練力のものもあった。
「調査はこれからでしょうが・・・・厄介ですね。離反者が出ることも・・・・あのHWも・・・・」
 シャーリィはつぶやく。海上を進むコンテナの回収部隊のあることが、すこしだけ心を軽くさせた。そんな中、番はチラリと、後方へ目をやってつぶやく。
「・・・・また、あの子と戦うんだな」
 青い目を、少し細める。夏に近づく海面が、ギラギラとした光を辺りへと放っていた。