タイトル:AUKVロードランナーマスター:ジンベイ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/02/10 10:15

●オープニング本文


●地下演習場
 エンジンの音が、冷え切った街路に響いていた。
 カンパネラ学園地下、AUKV専用演習場。市街戦を想定した場所で、ウォンウォンといくつものエンジンの唸りが轟く。
 冬の気温のもと、路面をタイヤが踏みしめていく。ドラグーンたちが、バイク形態のAUKVで、曲がりくねったコースを高速で駆け抜けた。
 レース紛いの走行だったが、咎めることもない。ほんのお遊びであった。
 ……その一台が、背後から突き抜けていくまでは。
 艶のない黒が、夜気に紛れて駆け抜けていった。街灯の明かりに、フルカウルの隙間から、銀のフレームがギラリと輝く。
 1000CCは優に超えるであろう、獰猛な叫びをあげて、AUKVの後ろに突然、現れた。キメラの目のような赤いライトが、ドラグーンたちを捉える。
 市街を想定した走行。すでに、100キロを超えている。150を迎えようとしているというのに、黒いバイクはまたたく間に近づいてきた。
 コーナーを迎える。アウトから入り、目いっぱい車体を倒し、インから再びアウトへ。AUKVの駆動をもってしても、150が限界に感じられた。
 それより速度を出しているバイクが、曲がれようもない。
 ――はずであった。
 最後尾のドラグーンが、背後にピタリとついてくる、黒いバイクの姿をサイドミラーで確認した。
 ドラグーンはアクセルを開いた。エンジンが悲痛な叫びを上げて、限界まで回転数を伸ばす。路面から浮くほどにタイヤが回り、速度は200キロを迎えようとした。
 バイクは、しかし、離れない。
 どころか、一瞬のうちに横に並んだ。ドラグーンは、そのバイクへ目をやった。乗り手を見てやろうと思った。
 シートに座る乗り手は、赤いライダースーツを着ている。フルフェイスのメットは、ドラグーンを一顧だにしない。
(にゃろう)
 カチンと来て、さらに速度を上げる。250を迎え、先を行っていた他のAUKVを、次々と抜き去っていった。
(最後尾なのは遅いからじゃないんだぞっと)
 もはや、300に近づいている。ひたすらに走り続けたドラグーンは、そこでようやく、横を見た。
 変わりなく、あのバイクが併走している。ドラグーンは目を疑った。市街地演習場で300など、本来、正気の沙汰ではない。
 ブーストを使えば、まだ飛ばせる。しかし、それで市街地の角を曲がれるかと問われれば、答えに詰まるしかない。
(まだ、上がるの!?)
ブーストを使用した様子もなく、なおも加速するバイクへの驚きのせいで、コーナーへの対処が遅れた。
 車体を傾ける。タイヤが滑り、ぐるりと回った。横を走るバイクへ、車体が向かってしまう。(避けて!)と心の中で叫んだ。
 スパリ、と、不思議な音が、ドラグーンの乗るAUKVから響いてきた。
 宙を舞うような感覚。近くのビルへと身体を叩きつけられた。いくらか骨と筋肉がおかしくなったのを感じる。そのまま、視界が薄れていった。
 彼方へ消える黒いバイクのサイドから、鋭利な刃が伸びているのを、ドラグーンは最後に認めた。

●病院
「それで、また入院とか馬鹿だなぁ、本当に、なんていうか、やーいやーい、ばーかばーか」
「うっさい。帰れ、とっとと」
 見舞いに来た友人、朝巳 胡々(あさみ ここ)の低レベルな罵倒に対して、包帯を全身に巻いたドラグーンの少女は邪険に言った。
 重傷ではあったが、命を失うほどではない。ドラグーン、アリーシャ・ハートは、動けぬ身体のまま、悔しそうに、
「速さには自信あったのに……」
「ま、バイク形態の速さに特化した実験機みたいだし、仕方ないんじゃ? 負けたのは事実だけど。負けたのは」
 後半の言葉は無視して、アリーシャは、
「まだ走ってるって言うのがさ。しかも、なんか、私のにぶつかったせいで、ちょっと壊れた所もあるみたいだから……」
 結局のところ、あのバイクは開発途中のAUKVらしく、乗っていたのも人間ではなく、いわばリモコンで動かすバイクについてくる、人形のようなものだった。それに負けたというのが、なおさら悔しいところではあるが、それよりも、あの時に飛んだ破片で、一部パーツが壊れたらしく、あのバイクはいまだに演習場を走っている。燃料切れを待てばいいと思ったが、どうやら、知識がなくても可能なように、緊急時用に他の機体から自動で燃料を移すことができる構造らしく、そのシステムが狂った結果、演習場から飛び出して、他のAUKVや止めてあるKVを襲いかねないという話であった。バイク形態の近接特化という珍しい構造もあいまって、危険性が認められている。
「いまのうちに止めるって依頼、そのうち出るだろうけど、この体じゃあ参加できないしなぁ」
「う〜ん、そのうちっていうか、もう出てた」
 胡々の言葉に、アリーシャはがっくりとして、うなだれた。
 怪我以前に、AUKVが真っ二つにされている、という事実は、アリーシャの頭から忘却されているようであった。

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
絶斗(ga9337
25歳・♂・GP
嵐 一人(gb1968
18歳・♂・HD
風雪 時雨(gb3678
20歳・♂・HD
マルセル・ライスター(gb4909
15歳・♂・HD
ダグ・ノルシュトレーム(gb9397
15歳・♂・SF
片倉 繁蔵(gb9665
63歳・♂・HG
ファング・ブレイク(gc0590
23歳・♂・DG

●リプレイ本文

●病室
「これでもドラグーンの端くれです。仲間に怪我を負わせて・・・・黙ってはいられません!」
 被害にあったアリーシャの病室、マルセル・ライスター(gb4909)は温厚な彼に珍しく、熱くなっていた。拳を掲げ、「絶対にアリーシャ先輩の仇をとってみせます。だから安心して、ゆっくり静養してくださいね」と、健気な微笑みを浮かべる。
 絶斗(ga9337)が静かに、目を向ける。黒い髪のせいか、それとも無口なせいか、どこか重苦しい。マルセルが意を汲んで、相手の機体の癖や弱点を聞く。アリーシャは、癖のないのが特徴と答えた。人ではなく機械の操作ゆえに癖がなく、逆に言えば、予想通りに動く。絶斗が了解を示すように軽く頷く。
 マルセルも頷きながら、それでも性能上では最速なのが、と言って、ふと思い出して振り返ると、
「あ、朝見先輩、お見舞いのバウムクーヘン勝手に食べ・・・・って遅かったーーッ!」
 リスのように頬を膨らませた朝見胡々の姿があった。先ほどから話に加わらないと思えば、これである。
「むしろ最速は朝見先輩の食い意地ですね・・・・」
 がっくりと肩を落として、マルセルはつぶやいた。絶斗にも微かに、笑ったような気配があったのだった。

●ロードランナー
「まぁ現状の暴走は事故だとしても、何の通達も無く殺傷能力満載で実験機を投入するでしょうか。現に怪我人も出ていますし、故意にやったのなら研究員の刑事責任問われるでしょうね・・・・。目標の情報も不足していますし、それに前回の一件もあります。・・・・俺は研究練で情報を集めてから現場へ向います」
 ダグ・ノルシュトレーム(gb9397)は、そう言って、研究所で話を聞いた。学園に演習場の使用は届けていたものの、現場での確認が行き届いていなかったことは陳謝した。停止方法としては、バイクのように、実験機についた鍵をひねれば、止めることはできるらしい。
「しかし、勝手に他の機体を襲って補給をするとは・・・・。こんなもの敵に奪われて量産されたら、UPC壊滅しますよ。・・・・制御しているのはエミタの擬似AIか何かでしょうか?」
 背景がいくらか知れ、ダグは詳細なデータを手にした。最も重要なのは、そのタイヤの特殊性である。氷と雪が覆うグリーンランドでの使用に耐えうるように、試験的に、太いチェーンと、車輪とその周囲に大きなスパイクが出るギミックがつけられているのだった。無論、人間が巻き込まれればミキサーにかけられたような状態となる。
 現場へ向かい、仲間とともに罠の位置などを検討した。開発名『ロードランナー』。ダグは視界のとれる位置に立ち、走っていく姿を双眼鏡で捉える。事前に、「現行のAU−KVではスペックで負けていますし、かといって、レーサーバイクを仮に借りられたとしても、壊して弁償となると大変な額になりそうです。ここは勝負を避け、補給システムを利用するのがいいでしょう」と言って、研究所で聞いたスペックと走行距離から、残存燃料を割り出していた。それによれば、コースを走るロードランナーの燃料は、そろそろ切れ掛かってきている。 
「なかなかゴキゲンなスピードじゃないか」
 女性のような美形を楽しげに歪めると、嵐 一人(gb1968)はロードランナーを見つけ、短く口笛を吹いた。バイクが趣味だけあり、またがるAL―011『ミカエル』は、嵐のトレードマークである白をベースとした赤と黒のラインカラーで、彩られている。目を巡らせれば、同じようにバイクにまたがるものが、各所にいた。
「しっかしまぁ、近づくのに困難な装備をつけちゃって・・・・こんなんじゃ、乗るのも困難だろ・・・・」
 遠目に確認し、須佐 武流(ga1461)は学園から借り受けたバイクに乗ったままつぶやいた。無線の先の風雪 時雨(gb3678)は、DN―01『リンドヴルム』の機上で頷いて、
「実験機だとしてももう少しやり方を考えて欲しいですね。それも機動力特化の接近機体だなんて面倒なものを作りましたね」
 そのように言い、走り行くロードランナーの脇に光る、鋭利なブレードを見やった。同じくリンドヴルムに乗るファング・ブレイク(gc0590)も無線の会話に頷きつつ、エンジンをひとつ唸らせて発進の準備をして、ぽつりと言った。
「手段としては捕獲を一番に考えていきたい、試作機ならなおさら残しておいたほうが良いだろうからな」
 無線の先から、病院で解決を請け負った、ミカエルに乗るマルセルの、肯定の返事がある。バイクにまたがる彼ら五人は誘導役であり、ダグが研究室から借りてきた、囮のAUKVへと向かわせ、補給を行おうとしたところを捕獲、または破壊する、という作戦であった。
 要所にトリモチや車輪止めを設置した片倉 繁蔵(gb9665)は、罠で動きが鈍くなるか、タイヤのギミックが出る隙を狙えるようスコーピオンを構え、
「暴走した機械ほど手に負えないものはないな。・・・・とにかく止めねばどうにもなるまい」
 つぶやいて、無線で罠の準備が整ったことを伝えた。向こう側からも、準備が整ったことを知らせる連絡が、絶斗からもたらされた。ダグが全体合図を送り、ロードランナーが所定の位置まで走ったことを見咎めると、近場の誘導役である嵐へ発進の合図を出した。
「さあて、行くぜ」
 ミカエルのエンジン音が響き渡り、コースへ独特のカラーのAUKVが飛び出す。遥か後方を走るロードランナーが、餌を見つけた獣のように、駆け抜ける嵐へライトを浴びせかけ、獰猛なエンジンの叫びとともに、一直線に向かってきた。スペックの違いから、見る間にその差が埋められていく。ロードランナーのサイドカウルが開き、銃口が現れたと思うと、バンッ、という音とともに、ペイント弾が放たれる。
 嵐は迫る弾丸を避けるため、速度をさして緩めず、コーナーを曲がった。膝がコースに触れそうなほど身体を傾けると、その背後をペイント弾が飛んでいった。再びストレートにさしかかり、異常なほどの加速とともにロードランナーが迫る。並ばれた。嵐が認識すると同時、ブレードが抜かれる。
「おっとぉ!」
 瞬間、バイク形態からアーマー形態へ変形した。あったはずの前輪が消え、刃は空を切る。なおも襲おうとするところへ、スコーピオンの弾丸が、ロードランナーの周囲へ飛んだ。ファングがリンドヴルムを走らせながら、ロードランナーの前方から撃っているのであった。
 ファングを追って走りだすロードランナーへ、嵐はアーマー形態の限界速度で駆けながら、試作銃「グロリア改」で後輪を狙った。しかし、変化したばかりかガタつき、速度もあいまってあらぬ方向へ弾丸が飛ぶ。
「さすがにこのスピードで狙うのは厳しいぜ!」
 叫んで、距離を離されていくのを見ながら、次の作戦の場所へと移動した。新たに追われる立場となったファングは、スコーピオンを撃ちながら、その挙動を見る。病室で絶斗とマルセルが聞いてきたとおり、動きは実に素直だった。
(不用意な接近は気をつけたいが)
 放っておいても、向こうから接近してくる。一度抜かれれば到底追いつけず、並ばれればブレードが襲ってくる。
(バイク上ではスピードも半端ではないから、こけて落ちれば大けがなんてのもあり得るしな)
 スコーピオンを漠然と狙って撃つ。避ける動作を、注意深く眺めた。避ける? そう、それは紛れも無く避けていた。コースを決められたとおりに走るだけでなく、傍らのエネルギーに反応するだけでなく、飛ぶ弾丸を見ていた。そのカメラは、あの人形にあるらしかった。
 コーナーを機械的に曲がり、ロードランナーがファングへ迫る。その顎たる刃に砕かれるかという刹那、ファングは急停止した。止まろうとしたところで、速度の分、ロードランナーは前へ行く。そのタイヤが、粘つくトリモチに覆われ、また車輪止めに食われた。エンジンの悲痛な回転音が響いていく。
 繁蔵が物陰から姿を現し、止まったところをスコーピオンで狙った。弾丸の飛ぶ先はタイヤである。パンクさえさせれば、いかなるスペックを誇ったところで、アーマー形態にはなれないのだから身動きの取れぬガラクタに変貌する。穿つ弾丸が襲いかかり――しかし、タイヤを覆うカバーによって、パンクは防がれた。繰り返し放たれる弾丸は、そのカバーを貫通させようとした。しかし、煙幕弾が放たれ、あたりを煙が包み、狙いが定まらない。換装は、その合間に終了していた。
 唸る音と共に、タイヤにまとわりついた罠が、ミキサーにかけられていく。現れたタイヤは、舗装された道を走るものでは決して無い。コンクリートさえ穿ちながら駆け抜けようとばかりに、ロードランナーは咆哮をあげた。繁蔵は位置をずれながら、変わらずスコーピオンを構える。ゆったりとした初動に合わせて、制圧射撃を行った。弾丸の雨の中、晴れ始めた煙に、ミカエルの車体が浮かんだ。マルセルである。
 実験時から長く走り続けた上、滅茶苦茶な挙動を強いられ、ロードランナーはますます餌に餓えているかのように、そのライトをマルセルへ向けた。ミカエルが先立ってコースを駆け、その後をロードランナーが続く。路面でチェーンにスパイクなど、おかしかったが、バランスを失って吹き飛ばされることも無く、マルセルの後を追いかけた。
 見る間に横に並ばれようとする。マルセルはチラと次の誘導役を担当する、須佐と時雨の位置へ目を向け、距離を確認すると共にアーマー形態へ変形した。迫るブレードを、マルセルは竜の鱗と竜の瞳を用いて双剣「パイモン」で受けると、二つに分かれた角を、須佐たちのほうへ弾き飛ばし、自らは逆へ弾かれた。
「さぁ、いい運動して腹ペコになろうじゃないか。飯がうまいぜ?」
 須佐は借り受けたバイクを走らせ、後方へ迫るロードランナーへ目を向けた。ダグから無線機で連絡が入り、横を走る時雨と頷きあった。
「運良く止まってくれたら・・・・俺が飛び乗って停止装置を入れる」
 無線へつぶやき、「駄目だったら・・・・泣きながら追いかけるさ」と軽く笑って言った。時雨もそれに応えて小さく笑う。伸びる髪は白く、時雨はどこか、女性のような風情があった。このコースの中では最も広く、長い直線を、リンドヴルムが駆け抜ける。
 須佐と時雨は、ふいに、コースの左右の端へ分かれた。ロードランナーは、そのまま中央を走り抜ける。絶斗によって、いくつもトリモチがしきつめられており、たちまちにタイヤへこびりついた。一つ二つであれば軽々と突破もしたが、度重なり蓄積され、その足を緩めるに至った。
 その直線の先、広めの倉庫からエンジン音が響き渡り、ハイビームにされたライトが、ロードランナーを手招きするように光を浴びせる。研究所から出されたバイクである。絶斗が先回りをして行っているのであった。手負いの兎へ狼がそうするように、そちらへ飛び掛ろうとするのを確認し、絶斗はヒラリとその場を離れた。無線で仲間たちへ、ロードランナーが餌にかかったことを告げる。
 補給用のチューブを餌のバイクへ伸ばしたところへ、時雨と須佐が踊りかかる。チューブを伸ばした格好で、ぎゅるりと向きを変えながら、ロードランナーは刃を向けた。ギィンッ、と刃の噛みあう鈍い音が響く。時雨の名刀「国士無双」に、ブレードが捉えられたのであった。時速三百キロを見る運動量は既になく、車体の重さのみによる斬撃ならば、キメラと戦う能力者で立ち向かえない道理はない。
「自分の刀とそちらのブレード、勝負と行きましょうじゃありませんか」
 がっちりと刃同士が噛んだまま、リンドヴルムをまとった時雨はそう言った。視線の奥には、ロードランナーだけでなく、そこへ飛び掛る須佐の姿がある。脚爪「オセ」でロードランナーにまたがる人形を蹴り飛ばすと、そのままシートに座り、停止装置を探した。通常のバイクと同じような位置にあるのを、見つけた、と思った瞬間、ロデオよろしく激しく揺れると共に、サイドから銃口がのぞき、再び煙幕弾を放とうとする。
 瞬間、絶斗が狂戦士の斧剣を振り上げ、その銃口へ振り下ろした。ぐしゃりと潰れ、煙幕弾を放つ用をなさなくなる。遅れてスコーピオンが火を噴く。予定の位置までたどり着いた繁蔵の弾丸が、今度こそとタイヤを狙う。暴れる中、チェーンやスパイクに弾かれつつも、一発が紛れもなく、前輪のタイヤを撃ちぬいた。
 ウィリーをするようになおも暴れるところを、横合いから飛び出た嵐がアイムールで押さえつける。残る後輪を、嵐と共にやってきたファングがスコーピオンで狙った。跳弾が仲間へ当たらぬよう気をつけて狙いをつけて撃つと、一発がチェーンの間を縫って、タイヤを傷つける。
「走りたいんだね・・・・。でも、ごめん・・・・駄目なんだ。このままじゃ、君を壊さなくちゃいけないから・・・・。お願いだから、今は・・・・止まって・・・・!」
 時雨が押さえるのと逆側の刃を、倉庫へたどり着いたマルセルが双剣「パイモン」で押さえる。瞬間、いい加減に止まれとばかりに須佐が機械巻物「雷遁」の攻撃をロードランナーへ浴びせた。バチッ、と音がして怯んだ隙に、そのキーを回す。エンジンの音が消え、ゆっくりと、ロードランナーは傾き、倒れていった。須佐が跳び下り、すたりと地面に立った。静かになった中、無線で、ダグに作戦終了を告げた。
 捕まらない鳥の名を与えられたAUKVは、すでに捕まえられたのだ。

●作戦成功
「まったく・・・・これからは衝突実験以外はきちんと人間を乗せてやるこった」
 回収にきた研究員たちへ、須佐が注意をする。彼らは侘び、感謝を示すと、手早くロードランナーを運び出した。
 ブレードのついた機体が運ばれるのを、時雨はぼうっと眺めた。あの内蔵ブレードが魅力的に感じ、乗ってみたい、と思う。
 しかしながら、研究員の話によれば、どうも一般発売には、ほど遠いらしい。乗車する当人がブレードで怪我をする可能性も高く、さらに変形機構となると、スペックや他の装備との兼ね合いから、他のAUKVに乗って操縦者が刀剣を持ったほうが、まだましというのが実情のようであった。
 時雨が若干の失望を抱いていると、ダグが運ばれるロードランナーを一時止めてもらい、その様子を見ていた。このところ、研究所関連で妙な話があったために、おかしなところはないかと念のため調べてみたが、喜ばしいと言うべきか、これといって不審な点は見当たらなかった。
 機体が運ばれていくのを、見送る。嵐は愛車のシートを撫でた。投げ出されたままの、ロードランナーに乗せられていた人形を見て、須佐がぽつりと口を開く。
「都市伝説はごめんだぜ」
 その人形は、脚爪「オセ」によって、首が綺麗に刈られていた。

『AUKVロードランナー』―了―