タイトル:汝はバグア派なりや?マスター:ジンベイ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/20 10:11

●オープニング本文


●汝はバグア派なりや?
 カンパネラ学園地下、廃棄された研究棟。
「God save our gracious Queen,Long live our noble Queen……」
 朗々とした歌声が、響いていた。細く高い声だと言うのに、荘厳な空気が感じられる。
 打ち捨てられたはずの研究棟、その一室は、なぜかこざっぱりとして、研究設備が整っていた。椅子に腰掛ける人物が、顎に指をあて、真剣に歌声が終わるのを待っている。聞き入る、というよりは、どこか、一瞬のミスさえ聞き漏らすまいという気概がうかがえる、強張った表情だった。
「ふぅん、結構、覚えているのね」
 感心したように頷いて、椅子に座る人物は楽譜へペンを走らせる。歌い手は「ええ」と言って軽く笑った。声を張ったせいか、浅黒い肌に、艶やかなほてりが浮かんでいた。
「ほんの田舎でしたが、あのころは何度も歌いましたし、結構、好きなんです。この響きの美しさ、いえ、美しいというよりはビューティフルでしょうか」
「違うの?」
「日本の『美しい』には、命をかけた、涙が漏れるような、死んでしまいたくなるような、そんな『どうしようもない美しさ』を感じます」
「ふぅん。意味はわからないけど。英語の方は?」
「華やかさがあります。ああ、美しい、と思わず、息を呑むような美しさです」 
「やっぱり、わからないわ」
 椅子に座った人物が言うと、歌い手は、「私の思い込みですから」と微笑んだ。バラの香気が匂うような笑みに、なんとはなしに、英語で言うところの美を感じたような気がした。
 そのとき、カタリ、と小石の弾けるような音がした。
 瞬間的に、二人とも振り向く。その一室の入り口のあたりに、ヒラリと揺れるカンパネラ学園の制服が見えた。
「どうしますか?」
 歌い手の質問に、「無論、捕まえる」と椅子に座ったまま答え、ふいに、ぽつりと、こんなことを聞いた。
「研究者と趣味人の違いはどう思う?」
 唐突であったため、歌い手は首をかしげた。すこし待って、続ける。
「私は、命を懸けているかどうかだと思う。本当の研究者というのはね、研ぎ澄まされている人。余計な贅肉がごっそり落ちた、綺麗な思考をしていて、とても、美しいのよ」
 歌い手は「よくわかりません」と返し、人影を追った。「私の思い込みかしら」とつぶやいて、座りなおす。ぎっ、と椅子が音をたてて軋んだ。

●噂
 街談巷説というように、カンパネラ学園の行く生徒の口の端に、ひそやかに語られることがあった。
『地下の秘密研究施設』
 捕らえられたキメラの一部は、ここで分解され、日々の食堂の料理に回されるとか、バグア派の人間がここで集会を開いているとか。
 あるいは、ドローム社のミユ・ベルナールの抱き枕が量産されているとか……。
 噂はまだしも、肝試しに降りた人物が、数日の間の記憶を失う、といったことや、実際に歌が聞こえる、と訴えるものも現れた。
「ちっす、胡々ちゃんが来てやったんだから、感謝のひとつくらいしたらどうだ!」
 いきなりキレ気味に、朝見 胡々(あさみ ここ)は病室へ入るなり叫んだ。
 見舞われた側の、記憶を失った他は健康な友人は、げんなりしつつ感謝を示す。そもそも、胡々との、噂が怖い怖くないの言い合いが肝試しのもとである。
「依頼は出しておいたから、受けられたら、ま、近日中には何があったかわかるんじゃないの?」
 見舞いの林檎を自分で剥いて自分で切って、自分で食べながら、胡々は語る。「受けられなかったら?」という質問には、「時が解決するんじゃ?」と返した。
 能力者なのだから自分で行く、という考えは無いのか、と友人は言いつつ、ふと思いついたように「ああ、怖いのか」と告げた。
 怖いの怖くないの言い合いが始まる。
 けれど、胡々は地下へいくのは控えておいた。

●参加者一覧

ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
最上 空(gb3976
10歳・♀・EP
マルセル・ライスター(gb4909
15歳・♂・HD
ダグ・ノルシュトレーム(gb9397
15歳・♂・SF

●リプレイ本文

●購買
「抱き枕、ですか」
 カンパネラ学園の購買の前。最上 空(gb3976)は男子生徒を見上げて言った。
 依頼の調査として聞いたのだが、「抱き枕」という言葉が出た。
 学園の地下、使われていない研究施設。そこで、あのドローム社の女社長、ミユ・ベルナールの抱き枕が作られている、という。
「抱き枕、ですか」
 空は繰り返した。男子生徒は頷く。背の低い空は、その大きな瞳を上目遣いにして、じっと見つめた。たらりと、男子生徒の額に汗が浮かぶ。
「抱き枕、ですか・・・・」
 呆れたような声音。いっそ侮蔑するかのような視線に、男子生徒は逃げ去る。その目の端から、青春の汗が漏れていた。
(さて、いやがらせと言う名の遊びは、この辺にしておくとして)
 ぷん、と鼻をうつ、むせ返るほど甘い香り。購買の店先に並べられた焼き立てのメロンパンへ目を向ける。
(情報収集のついでにメロンパンも・・・・)
 こうばしい香りに、甘党のお腹が、くぅ、と音を立てた。
(何も食べたり買ったりしないで、情報収集をしていると怪しまれ警戒される恐れがありますので)
 心の中でつぶやくと、メロンパンをあるだけ袋に詰めてもらった。しっかりと領収書を取る。不思議そうな店員に、
「決して空が個人的に、依頼の必要経費で、メロンパンを買えないかなと、企んでいる訳ではありませんよ?」
 しれっと、空は言い放って、溢れんばかりの紙袋で視界を埋めながら、早速メロンパンを一つ掴むと、サックリとした生地を噛み締めた。
 口にくわえたまま、購買から食堂へと歩き回り、食べながら適当に声をかける。緑色のツインテールが揺れる先から、甘い香りが振りまかれた。
「ふむ・・・・かりかり・・・・闇の組織が・・・・もふもふ・・・・美少女を・・・・かりかり・・・・監禁していると・・・・もふもふ」
 メロンパンのくずを落としながら、胡散臭いこと、この上ない情報を頭のメモ帳に書きとめる。手は食べることで忙しすぎた。
 三つほど食べたところで、少々、真面目な話も耳にする。依頼の発注でも言われていたが、入院者が出たとか・・・・。
 空は指についた、キラキラとした砂糖の粒をペロリと軽く舐めながら、そちらへ向かった二人を思い出す。
 とりあえず、空はメロンパンをかじった。サックリとした焼き立てのクッキー生地に、脳がとろけそうになる。
 耳から溶け出す前に、無線から、仲間の声が響いた。

●病院にて
「歌を覚えている人と、覚えていない人では、何か違うのかな?」
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)は、院内で集めた情報をまとめながら、つぶやいた。
 ぽつぽつと、歌を聞いたような記憶を持つ生徒がいた。失ったのは、ほんの数分から数十分という程度の記憶であるようで、ばらつきがある。
「イギリスの国家・・・・かな?」
 散見される歌詞から、マルセル・ライスター(gb4909)がぽつりと言う。二人して考えていたとき、見知った顔が廊下に現れる。
「お? 女装(中略)マルセルだ」
 依頼を提出した当人でもある、朝見胡々であった。
 マルセルは、いつぞや与えられた汚名を訂正しつつ、話を続けた。ちょうど、胡々は被害者の見舞いに来たようである。
「一緒に行ってもいいかな?」
 メモを仕舞って言うホアキンに、胡々は頷く。
 病室は近くにあり、三人して入っていった。入院者は、ホアキンやマルセルの姿に、不思議そうに胡々へ目をやる。
「ビビリの誰ぞのために出してやった依頼の参加者だよ。ありがたく思いやがれ」
 はっ、と鼻で笑う胡々の顔面に枕が飛んだ。が、避けた。なぜかマルセルに当たった。
 被害を受けたマルセルを放って、ビビリはどちらかという他愛のない議題による低レベルの言い合いが発生した。ホアキンが軽く笑って、
「・・・・仲が良いね」
と言うと、「「どこが!」」と最速で返ってきた。その声の重なり具合に、また言い合いが加熱する。
 マルセルが律儀にも枕を返したところで、喧嘩の隙をつき、ホアキンがここまでに調べた内容を、胡々と被害者へ話した。
「噂の出所は不明だが、学園生の間でばかり広まっているところを見ると、すくなくとも学園に由来するのかな。進入ポイントは、少々曖昧だな。研究施設のうちのひとつへ入り、そこから降りていくというが、詳しい位置は、まだ、分からない。失った記憶や覚えている事柄には差があるようだけど、あなたはどうだろう?」
 聞かれ、言い合いも忘れて、被害者は「うぅん」と唸って考える。その間に、胡々が代わって答えた。
「場所は、知ってる。調べたけど降りてないってのは、まあ、考えてみたら私くらいかな。ここのエレベーターに乗って地下四階・・・・だったかにゃ」
 紙を取り、簡素な地図を描く。方形と長方形が並ぶ奇怪な図案であったが、方位と固有名詞によって、なんとか解読できそうだった。
 後半は聞き流して礼を言って受け取り、ホアキンは、思い出そうとしている被害者のほうへ目をやった。「そういえば」と彼女はつぶやいて、
「降りてすぐに、歌が聞こえたような・・・・」
 その内容を、マルセルは書き取った。断片的であるが、他の情報とも符合する。とはいえ、どうやら、歌は一種類というのではないようだった。
 ホアキンは「・・・・曰くありげな施設だな」とつぶやくと、おおむね情報を得られたと見て、他の仲間へ無線で連絡をする。
 空がモサモサと何かを食べるような音を発しながら報告を返すのを聞いてから、ホアキンはマルセルに後を頼んで、自らは図書館へ調べものに向かった。
 マルセルは、ホアキンが学園から借り受けたボイスレコーダーを譲ってもらい、それを胡々へ、差し出した。不思議そうに首をかしげるところへ、
「俺達も記憶を消される可能性がありますし、俺の無線を一つ渡しますので、安全な位置で情報を記録してください」
 と言って、無線機と共にレコーダーを渡す。不承不承といった風に受け取る胡々へ、
「・・・・それにもし万が一の事があった場合、メリィ先生に報告をお願いしたいのですよ」
 言いながら、すっ、とアップルパイを取り出す。マルセルの手作りのパイからは、ふんわりとシナモンの香りが立ち上り、鼻をくすぐった。
 じゅるり、と涎をすすり、快く胡々は受け入れる。病室だというのに、見舞いの品の紅茶を入れ始める。熟したマスカットのような匂いが立ち込めた。
「それはそれとして朝見先輩。実は面白い心霊スポットを見つけたんですけど、今度一緒にどうですか?」
 肝試し、好きなんですよね。と、マルセルはにっこりと笑う。胡々が「え、遠慮を・・・」と言いかけるところへ、被害者が「怖いの?」と煽った。
「マ、マルセルが怖がるといけないから、遠慮させていただこうかしらだわ?」
「あ、猛獣は怖いけど、心霊現象は大丈夫です」
 混乱して口調が定まらない胡々を、マルセルは無邪気に追い詰める。胡々は「うぅ」と弱弱しく唸ると、
「あー! 中庭でマルセルの妹が見知らぬ男と逢引してる!」
 え、とそちらへ注意を向けた瞬間、マルセルの腹に掌打が放たれた。ぐったりと、崩れ落ちる。
 胡々は「よし」と頷くと、アップルパイを食べ始めた。作った当人は、感想を聞くこともなく、倒れ伏していた。仲間からの無線が来るまで、そのまま放置された。

●時時計
「記憶を丸々消す、または口封じをするなどしたら事が大きくなりますが、・・・・かといって、抱き枕の量産程度で、目撃者の記憶を消す等という手の込んだ事をするとも考え難い」
 もごもごとした空からの「抱き枕を作っているとか聞きましたですよ」という報告に、ダグ・ノルシュトレーム(gb9397)は、すこし考え、そう返した。
「そうですね」と、やはり何かを食べているような音を出しながら、空が言う。
「明るみに出ると拙い事があっても、何ら不思議ではありません。・・・・そういえば、似たような事件を報告書で確認しています。何か関連があるのかもしれませんね」
 その事件の中心にあったのは、『時時計』である。ダグが読んだ報告書にある、学園の研究所で開発された機械の名称であった。
 この『時時計』を開発した研究所をダグは訪れ、「時時計の注文をした人物について」開発者の一人に話を聞いた。
「注文は取りやめになっている、ですか」
 もともと、時間を操るという無理な注文をしたのは、UPCの将校だったという。しかしながら、途中で不可能という結論から、諦めさせている。
 それを、製作過程のものとデータを受け取り、別の形で完成させたのは、複数の研究者であり、特に記録もつけなかったため、誰が完成させたのかも定かではない。
「記録を見せてもらえますか」
 ダグは言って、研究所の中を案内してもらった。殺風景な通路を進み、資料室へ入る。
 記録を見ても、しかし、詳しいところは分からなかった。ただ、よくよく見ると、
「・・・・この部分は」
 一部、抜けているようなところがある。前後に整合性がなく、不自然さが感じられた。
 開発者は、首をひねった。たしかにおかしいが、特に重要な情報が載っている箇所でもない、という。
「・・・・周辺に、怪しい人物の出入りは、ありましたか?」
 黒く大きな瞳を、すこしばかり険しくさせて、ダグは聞いた。開発者は首を振る。
 最後に、『時時計』を見に行った、すると、保存されているはずのそれが、消えている。ダグは開発者を軽く睨んで、
「・・・・相変わらず管理が甘い学園だと思いますが、だからといって易々見逃すわけには行きませんね」
 無線機を取り出して、仲間へ連絡した。その傍らで、開発者は、首をひねってつぶやく。
 前回も、今回も、勝手に逃げ出すことは出来ないはずなのだが、と。

●地下
「相手の正体はわかりませんが、『記憶を消される』という事象は確定しています。・・・・つまりそこに知られたくない事情と、何者かが居るということです。わざわざ纏まっていくのは得策ではありません」
 ダグの言葉に、専用のエレベーターで着いた先からは、空が先行して地下へ降りていくこととなった。当の空は、ランタンを片手に、
「・・・・そう言えば「ランタン」を「ランたん」と書くと何やら萌えキャラっぽい響きになりませんか? はっ!? そうです、これからは空の事は「空たん」とか「もがみん」と呼んでみて下さい!」
 と、後方の仲間へ語りかけていた。事前にホアキンが確認したところ、電気は供給されており、微量ながら使用もされていたのだが、通路は暗かった。落ち着いた雰囲気をまとっているホアキンは、珍しくすこしばかり頬を引きつらせて、「・・・・お化けなんて怖くないよな?」と、つぶやいた。何かいそうな地下の雰囲気が、ざらりと顔を撫でてくる。
「あれ?」
 心霊に強いマルセルは、ふいに立ち止った。ピクリとホアキンの身体が跳ねる。
「歌が、聞こえませんか?」
 耳を澄ませば、たしかに、小さく、聞こえてくる。ホアキンは耳栓をしてレコーダーを起動するよう、胡々へ指示を出した。
 先行する空に、無線で様子を尋ねる。空も歌を聞いているようで、それに加えて、
「向こうの道に人形が歩いてます。ちょっと、近づいてみましょうか」
 と、告げた。瞬間、それまで静かだったダグが「待て」と吼えた。失われた『時時計』は、人形の形状をしているのである。
 他には異常はないということで、空の位置まで進んでいった。空が、先ほどの礼を言うと、「別に、心配したわけじゃない」とダグはそっぽを向くいた
 ランタンで足元を照らし、ホアキンが暗視スコープで策敵を行う。いくつかの要因から、AU―KVを置いてくることにしたマルセルは、胡々と連絡をとる。
「あれは・・・・?」
 ホアキンが、ずいぶん広い地下の中、ひとつ、他とは様子の違う一室を見つける。歌も、どうやらそこから流れているようだった。
 再び、空が先行する。散々メロンパンをタダで食べておきながら(覚醒に糖分が必要だとして結局必要経費となった)、早くも脳が糖分を欲し始める。それでも注意深く、ホアキンが示した一室へ向かった。音もなく近寄り、薄っすらと明かりが漏れるドアへ目を寄せる。人数は、二人。どちらも女性のようであった。いや、そもそも・・・・
「誰かしら?」
 声をかけられ、ビクリと空が跳ねた。気づいて、他の仲間たちも近寄る。跳び退いた空へ迫る影に、ホアキンはイアリスの平たい部分を向けて、峰打ちを放った。
 転瞬。
「っ!」
 イアリスが、受け止められた。
 峰打ちで加減しているとはいえ、超人的な能力を持つホアキンの一撃が、交差した腕に受け止められている。
 とはいえ、相手は痛みに顔は歪ませた。褐色の肌と金色の髪をした、まだ、ほんの少女の額に、汗が浮かぶ。
 ダグやマルセルも駆け寄り、少女と向き合う。しかし空は、「ちょ、ちょっと待ってください」と止めた。
「メリィ先生が」
 というつぶやきに、ホアキンとマルセルは言っている意味に、ダグはそれが誰かという意味で首をかしげた。
 部屋の中から、白衣を着た女性が現れ、驚いたように目を丸くする。
「あら? こんなところでなにしているの?」
 学園の講師、メリィが、尋ねた。むしろ、逆に聞きたいような面持ちで、一同は見返したのだった。
 
●メリィの研究室
「あの辺りは、開発途中で放置されていて危ないから、立ち入り禁止なのよ」
 メリィが言うと、図書館で調べたホアキンは頷き、
「研究施設はいくつかあったようだが、今回のは、完成間際に資金や必要性を考えて、途中で投げられたものらしい」
 地上でも研究室は余りあるようだし、と続け、「なぜ、あんなところに?」とメリィへ尋ねた。
「ちょっと、この子に、ヨーロッパの話を聞いていたの。歌とか色々ね」
 さきほどの少女――助手とのことだった――を示して答え、「ここだと人の出入りがあるからって、歌ったりするのを恥ずかしがるの」と軽く笑った。つられて、もとより、悪事でなければと思っていたこともあってか、「そうでしたか」とマルセルが微笑んだ。
「あの人形はどうしたんですか?」
 ダグが聞くと、「たしか保管されていたと思うんだけど、抜け出したのか、気がついたら迷い込んでいたの。調べるつもりだったし、地下なら誰も来ないと思ったんだけれど・・・・まあ、私の出入りが見られたなら噂にもなるでしょう。入ってきた人には、被害のないよう、こちらで確保したかったのだけど・・・・」
 来る途中や逃げる先で人形に近寄ってしまうことが多くて、と、メリィは言った。溜息をつくところへ、空が抱き枕のことを話すと、唇へ人差し指を当てた。
 それは、秘密であるらしい。言わないでね、と、口止めのように、紅茶とスコーンがテーブルに並べられる。メリィのカップの英字が、ふと目に付いた。
 ――If You Were Alien・・・・