タイトル:【授業】越冬作戦129マスター:ジンベイ

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/12/17 22:48

●オープニング本文


●授業掲示
『冬季特別授業の事』

 依頼で活躍される皆さんはご承知の通り、防寒は軍事において大変重要なものであります。
 前大戦の例や氷点下の作戦時の注意を書くまでも無く、実際に体験しておられる方も多いことでしょう。とはいえ、これから一部地域では極度の冷え込みを記録し、また、そういった地域での作戦も増えます。
 防寒の意識を高めるため、また、防寒について実際に使用する立場の人たちから、機器の開発案などを聞かせて頂きたい、という考えから、今回の特別授業が企画されました。学生の皆様は振るってご参加ください。

※ネタに走る必要はありません。走る必要は無いですよ。決して無いですよ。

                             講師 メリィ・ナブラ


●数日前
『企画案』
・炬燵(こたつ)型越冬ボディスーツ
・全寒気遮断ハット
・暖房付アンブレラ

「……ふむ」
 腕組みをし、メリィは自身の研究室で、難しい顔をしながら、ホワイトボードを睨んだ。
「文字を見ているだけで暖かくなりそうね。……脳が」
 この冬の寒さはどうにかならないか。学者仲間に話を振ってみたところ、悪乗りし始めた。
 終いには、回収したキメラでソファを作ったら体温で暖かいんじゃないか、気力を使うとSES兵器から温風が出るようにしてはどうか、などという話も出た。学園についての会議や授業の話はやる気がないというのに、無駄な話には全力になる講師陣が嫌だった。本当にSES兵器を改造しようとし始めるものが出たために、無理やりに話を終えさせ、出た案だけをまとめた。それにしても、現実的な話をしようという気が見られない。なるべく本筋から外れようという意図すら感じられた。しかもそれが悪意からではなく、子供のような無邪気さから来ているから性質が悪い。
「見事に役に立たない……」
 深く、溜息をつく。さして期待をしていたわけではないものの、期待に応えようと言う素振りすらないことに腹が立つ。まだ学生のほうが有用な意見を出してくれそうだった。たとえ、回答が「使い捨てのカイロを携帯する」というものであったとしても、現実を見ているという点において、講師たちとの差に涙さえ浮かべてしまうだろう。
 ――ふいに、ティーカップが横から差し出される。そちらへ目を向けると、助手役を買って出てくれている少女が微笑んでいた。
「どうしました、先生?」
「ああ、いや……うーん、自分の沸点を試されているような気がして。もしかして頭に血が上れば暖かくなるということなのかな」
 助手の少女は首をかしげた。ティーカップを受け取り、ミルクティを飲みながら、ぼんやりと考えた。せっかくだから、次の授業は、この流れでいってみようか、と。いい案があったら試作してみようと考えながら、メリィはカップを再び傾けた。

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
シェリー・神谷(ga7813
23歳・♀・ST
真田 音夢(ga8265
16歳・♀・ER
最上 空(gb3976
10歳・♀・EP
祝部 流転(gb9839
19歳・♀・ER
カンタレラ(gb9927
23歳・♀・ER
アルストロメリア(gc0112
20歳・♀・ER
風間 千草(gc0114
19歳・♀・JG

●リプレイ本文

●授業前
「これは・・・・凄く、凄く楽しそうな依頼だわ・・・・っ」
 カンパネラ学園の掲示板で、カンタレラ(gb9927)は悪そうな笑みを浮かべる。
「私自身、寒がりだから・・・・うん。楽しくなりそうね」
 カンタレラは豊満な身体をぶるりと震わせて、さっそく教室へ足を向けた。その後に続くように、同じ掲示の紙を覗き込む、石動 小夜子(ga0121)の姿がある。
「聴講生でも参加出来るのは嬉しい、ですね」
 ぽつりと、まずつぶやいた。後ろで結んだ黒髪が、冷たい風にふわりと揺れるが、小夜子は紙を注視し、
「えと・・・・参考資料を見たところ・・・・一風変わった防寒具を考案すれば良い、のですよね? あまり得意ではありませんが・・・・頑張りますね」
 ぐっ、と気合を入れて、紙に書かれている場所へ向かった。教室へ入ると、すでに人は揃っているようであった。見たところ、女性ばかりである。先に入ったカンタレラが「女性ばかりの授業依頼だし、寒さ対策としてはすごくいいかもね」と、つぶやくのが聞こえる。彼女はそのまま、席の一つに着いた。横から見ると、胸が揺れている。別に視線を移すと、風間 千草(gc0114)が机で寝息を立て、冬の花のように赤い長髪が広がっているのを見つけた。視界の端の雪だるまは気にせずに席に着くと、猫の声がした。
「来年は寅年ですので、虎ぐるみ・・・・」
 足元に、手製らしい青いちゃんちゃんこを着た巨大な猫を寝転がらせ、真田 音夢(ga8265)は飼い猫ハイジの着ぐるみをちくちくと縫っていた。小夜子の視線に、音夢は、はたと気づくと、
「・・・・猫は寒がりなので、検証するのに役立つかと思い連れてまいりました」
 と、言い放った。無表情である。小夜子が何か言う前に、授業の鐘が鳴り響いた。

●授業中
 メリィは期待をしていた。
「メリィ教師、今日はよろしくお願いするわね」
 と、シェリー・神谷(ga7813)が、しっかりと挨拶をしてきたことも、それに起因していた。この子たちは真面目だ。そのような印象があった。
 はじめにシェリーが教壇に立ち、小麦の肌に浮かぶ紅の瞳を一同へ向けて、発表を始めた。
「まずは、プロテクト・アーマー(仮)よ」
 それは全身にまとうタイプであった。とはいえ、メリィは説明を聞くにつれ、その現実的で真面目な解説に、じわりと涙が浮かんだ。シェリーは左右にまんべんなく目を向けて、
「AU−KVの技術を流用した、全身を覆う戦闘鎧よ。能力者の練力を常時消費しながら、内蔵暖房機器により寒冷地での悪環境での行動ペナルティーを軽減するわ。AU−KV同様、寒冷地でも−4℃までとなるわね。ドラグーン以外の能力者でも使用可能なよう、無動力型となっているわ。付加性能として、火力・命中精度を向上する能力があればなお良いわね」
 シェリーは「課題は・・・・」と続けて、
「重量の軽量化・練力効率の向上ね。この能力者用プロテクト・アーマーの開発が上手くいけば、一般人兵士用のものの開発も願いたいわ。一般人用は温度維持の練力確保用に、エネルギーパックを背中に装備してはどうかしら」
 言い切り、これで終わります、と軽く頭をさげたところへ、拍手が飛んだ。幸先がいい。なんと真面目な。これを待っていたのだ、と。シェリーが席に戻ると、雪だるまが立ち上がった。
「メロンパンのきぐるみです」
 着ぐるみを脱いで、最上 空(gb3976)は言う。続けて、「外見は、そのままにメロンパンの形です、ええ、遠くから見るとUFOの様に、見えない事も無いです」と解説を行う。数名がツッコミを入れようとするところへ、空は、
「能力者の間では、「こたつむり」や「ゆきだるまのきぐるみ」等の、どうみてもネタな外見なのに、意外と−30度位まで持つ、アイテムがありますので、メロンパンの形をした物があっても、良いと思います!」
 熱弁に静まる中、祝部 流転(gb9839)がぽつりと、「それは単なる趣味では・・・・?」とつっこむと、
「ええ、100%空の趣味です! ただ単純にメロンパンとか好きだから提案してみました!」
 言い切った。悪びれる様子が無い。ふいに神妙に「ただ、既存のきぐるみとかの技術を応用して、外見を変えるだけなので意外と簡単かもしれませんよ?」と言って、評価を上げかけると、
「はい、ただ問題は手を出す所が無かったり、形のせいで、足下が余裕で100%見えない所ですね」
 自身で即座に突き落とした。シェリーが「まあ、着ぐるみ系は、負傷兵用のベッドに出来るかも・・・・」とフォローを入れたのだが、空はそれで終わらなかった。黒板に『スーパーふんどし(赤色)』と書いたかと思うと、
「スーパーと付いていますがどこから見ても、普通の赤いふんどしです、それ以上でもそれ以下でもありません。心頭滅却すれば火もまた涼しをコンセプトに、大和魂の象徴である、このふんどしを身に着ける事により、「精神力」「気合い」「根性」「やせ我慢」で寒さを防ぐ事が出来る!・・・・かもしれません!!」
 それは単なる、ふんどしだろう、と流転とシェリーがツッコミを入れかけたが、空が「ええ、ちなみに空の趣味により、コレを着用する場合、全裸にふんどしのみとなります! 他の衣類は外して下さい! 邪道です! と言うか空が外しに出掛けます!!」と熱く語るのを見て、止めておいた。メリィが目を他所へやると、アルストロメリア(gc0112)と目が合った。その瞳が語る。「サイエンティストらしく、真面目に考えました」と。彼女が次に教壇に立った。
「一つ目は、発熱繊維です」
 アンダーシャツ等下着に使用し、運動することにより発熱する特殊繊維だという。メリィは聞いていると、
「じっと待機したりする場合や、睡眠時寝相のいい人の場合は効果が出ません。激しい動きが継続すると加熱しすぎで火傷。いえ、火達磨になる可能性があります」
 なにやら不穏になってきた。「危険では?」と流転が聞く。
「・・・・危険ですね。自分でいうのもなんですが、間違っても着たくないですね」
 あっさりと言う。気を取り直すように。
「次は発熱材です。薬物やダブレット、ガムの形をしています」
 薬物という言葉にメリィは不安を覚えたが、「体温を上げる薬物です。大昔からありましたが、副作用大有りで禁止になりました。キムチなどの唐辛子系・鍋でも食べていろといわれそうです」と、自ら言う。その言葉に引かれたか、眠っていた千草が、ふいに椅子を蹴って起き上がり、
「鍋だ! 鍋食いたい!」
 叫んだ。注目を受け、頬を染めながら、「・・・・いや、暖まると思って」という姿が、どこかいじらしい。アルストロメリアは、
「最後は、暗示です。怪しげな光の発する物等で行います」
 再び「大昔からあったが副作用大有りで禁止に」という件を言って、「しかも、実際しもやけや凍傷になっていても錯覚を起こしている為気づかず大惨事に・・・・これまた危険ですね」とまとめると「なかなかうまくいきませんね」と首をひねった。メリィも首をひねった。別の意味で。アルストロメリアは、思いついたように、
「そうだ上記3つを組み合わせて見ましょう」
 と、危険を乗算するようなことを言って、発表を終えた。先ほど立ち上がった千草へ、メリィは話をまわす。千草はしばし考え、教壇へ行くと、
「かんぷぅまさつ」
 怪しげなタオルを一枚、示す。「それは防寒・・・・?」と流転が言うところへ、
「古来より日本より伝わる由緒正しき健康方法」
 健康方法だった。「裸になってタオルで擦って体温上昇」と、千草は身振りを加えて説明をする。誰かが言った「精神力」「気合」「根性」などの言葉が頭をよぎる。
「そして・・・・ぱちぱちぱぁ〜ん」
 疑問が浮かぶ中、「裸になって両手は自分の体を激しく・・・・」と千草は説明をする。基本、身体を使うらしい。「古来日本より伝わる由緒正しき・・・・」と引いておきながら、
「お笑い芸人がやった体温上昇方法」
ネタじゃないか。と、誰ともなく声がかかる。体温上昇方法であるかも疑いが濃い。濃いと言うより真っ黒であった。そうして三つ目に、
「心頭滅却」
 と言った。気合である。「精神論では?」と流転が言いかけたが、「こちらは古来日本より伝わるかもしんないけど由緒正しき忍者とか侍とか修験者がやっていた方法」という曖昧な説明に押された。千草は、催眠、気合の一種であると説明をする。つまり、気の持ちようである。紛れもなく精神論であったが。千草は暖かそうな赤く長い髪を揺らして、席に戻った。眠そうに眼を擦るのを見てから、苦笑いをしてメリィは次の人へ声をかけた。
「依頼に携帯できるものだったら、普段の装備も損なわないで済むし、便利だと思うの」
 と前置きをしたのは、カンタレラであった。
「そこで、私がサイエンティスト的に考えたのは・・・・これよっ」
 黒板に紙を叩きつける。二つの案が載っており、一つは「(SES式)貼り付け型発熱機」とある。
「SES式とはいえ、必要熱量を確保するくらいなら、練力消費は少ないと思うのね。作戦行動でも、長期間のものではなく、短〜中時間程度の作戦行動であれば、十分な保温が期待できると思うわ。肩とか、腰、とか、衣服とかに張り付けていたら十分あったかい・・・・はず。火傷はしない程度にきをつけなきゃね」
 まともな意見ではないか、と内心、メリィは驚く。が、カンタレラが自分の胸をチラと見て、
「・・・・肩こりにも、効くと思うの・・・・」
 瞬間、殺意が湧く。押さえる間に、「(SES式)人肌型竹夫人2号(本命)」へ話が移った。「・・・・さて、まじめな話はこのくらいにして」とつぶやくと「私は、この世で一番暖かいのは、人肌だと思うのね」と、カンタレラは言い出す。
「竹夫人を御存じかしら? 日本に伝わる・・・・えと、抱き枕、なのだけど。私は、この竹夫人に人肌的質感をミックスして、新世代型能力者向け抱き枕にしたいのよ」
 ぐっ、と力を込める。真面目さはどこかへ飛んでいた。
「戦闘? そんなの知らないっ! 最近寒いし、こういうアイテム、夜が冷えて眠れない女性には向いていると思うのよね・・・・! 少なくとも、私はあると幸せ」
 先ほどとは隔絶した熱意をもって語っている。「SES式だと、覚醒しないと使えないけど」と自分で言って、「ふーっ」と満足げに息を吐いた。カンタレラと入れ違いに、小夜子が教壇へ上がる。
「防寒の基本は暖める、ですよね。つまり、冷えやすい末端用が良いという事で・・・・」
 小夜子は『懐炉内蔵刀』と書き、「持ち手の部分に懐炉を仕込む事で、戦闘中も手が暖かい刀です」と説明をした。が、「というのは・・・・インパクトに欠けるでしょうか」と言うと、他、複数の案を取り出す。
「二つ目は土鍋型ソリです。見た目が美味しそうです」
 すぐさま三つ目を黒板へ書き出した。土鍋型ソリの説明は終わったようだった。
「携帯マッチです。とても寒くて凍えている時に火をつけると、幸せな幻が見える気がします。睡魔には注意しましょう」
 メリィは方向がおかしくなってきているのを感じたが、当人は「だ、駄目です・・・・こんなネタではとても適いません。やはり私には変な防寒具は無理なのでしょうか」とそちらの方面を極めようとしていた。四つ目には、
「ネコ型湯たんぽです。金属製の湯たんぽに、ふかふか毛皮の猫カバーを被せた道具。手触り抜群」
 逆にリアル志向になり、「これは・・・・何となく市販されてもおかしくない一品、です・・・・」小夜子も呟いた。一周回って、良い結論に達したところで、流転に変わる。超機械の扱いにも長けた彼女は物静かに、
「暖める必要は・・・・有りますけど、この際度外視しまして・・・・。寧ろ相手を凍えさせて此方より酷くしてしまえば・・・・なんて思いまして」
 と言うと、シックなスーツに浮かぶ中性的な美顔をそのままに、続けて、
「辺りの冷気を吸引して込めて放出する系の機械とか、駄目・・・・ですかね? 吸引機と放出機で二つの砲門が肩から覗き、装置を背中に背負ってみたり、とか。装置にカモフラージュとして亀の甲羅でも被せましょうか」
 語りながら、考えは膨らむ。教壇の前で麗人は、キラリと目を輝かせる。いや、砲門を増やし、回転させることで吸引と放出を激しく行う。亀の色は黒。北方水気、玄武である。くるくると回りながら空を飛び、火を吹くようにしてはどうか。流転は止まらない・・・・というのは、メリィの妄想であり、「何だか段々ロクでもないものに成りつつあるので」と、流転は辞退していた。涼やかに席に戻ると、猫をつれて音夢が教壇へ立った。
「猫ちゃんこです」
 巨大猫、通称、猫妖精テトが、机の上でモデルのようにくるりと回る。青いちゃんちゃんこを着ていた。
「中に綿ではなく羽毛を使い、軽く柔らかく、ふかふかと保温性の高いちゃんちゃんこ。丁寧に縫われたその内側左右に収納ポケットがあり、必要に応じてカイロを装着できる仕様です・・・・」
 猫妖精は机の上で丸くなり、うとうととし始めたが、音夢は無表情に「土鍋型ふかもこ防寒ベットルームを合わせて使えば、豪雪の中でも、スヤスヤぽかぽか眠れる優れもの」と言い、
「・・・・テト。今日は・・・・ブリ鍋にしましょうか・・・・」
 じゅるり、と涎をすする音がして、テトはすたりと机から降りて音夢の足へ懐く。小夜子は、雪の中暖かな空間に猫が群がる姿を想像してうっとりとした。
「さて、次は人間用です」
 丁寧に図にまとめたものを黒板に張り、音夢は説明をする。
「防寒具は数多く存在しますが、装備部位を圧迫するのが欠点です。また総じて重量があり、中には行動を阻害するものもあります」
 図を指差し、そこに書かれている意味を解説した。
「・・・・そこで、機能性と保温性の高いスウェットやウェットスーツに、熱伝導率の高い素材を網目状に内側に編み込み、SES搭載武器と連結させて、発生する余剰エネルギー・・・・放熱を流用し、全身へ回します。更に表面には遠赤外線効果を持つセラミック素材を張り、身体を芯から温めます。熱発生源を武器からもらい、軽量と機能性を上げる設計です」
 思わず、息を呑むほどにまともである。音夢は、ひょいとテトを抱え、
「まぁ・・・・こうして猫を抱いているだけでも、結構温かいものです・・・・。その誰かの温もりが、一番温かく感じるのかもしれませんね・・・・」
 まとめたのであった。メリィは全体を通して、一言。
「ネタに、走るなって、書いたのに・・・・」
 あれは前振りだろうという一同の思いの中、シェリーが「色々大変みたいだけど、無理せずね」と励ましてくれた。
こうして授業に集まり考えてくれる気持ちが温かい。と、いい話に報告書ではまとめておこう、とメリィは心に決め、授業終了を宣言した。