タイトル:【虫姫】外道蟲〜大出現マスター:ジンベイ

シナリオ形態: イベント
難易度: やや難
参加人数: 27 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/12/03 23:41

●オープニング本文


・酩酊
「現実を、理不尽だとは感じないか」
 大学の講師をしていたころ、サイレンスはゼミの生徒に、そう言ったことがある。
 バグアとの戦争は様々な発展をもたらした。しかしその中で、あおりを食う学問もある。サイレンスの行う研究は、正にそういったものだった。
 仕方なく、キメラの糞や死骸を漁って、研究費を稼ぐ。他の時間は講義に裂いた。助手もおらず、数少ない生徒を相手にした。それが終わると会議に出かけた。
 研究のために、研究する時間を削った。
(道を間違えたのではないか)
 眠りに就く前、サイレンスはよく、そう思った。薄給のまま、研究も完成されず、このまま死ぬのかと思えた。
 そんな弱気を、ぽつりと、学生に見せたのである。しかし、学生は笑って、
「先生、それは死ぬときに言うものですよ。『ああ、理不尽だった。最悪の人生だった』って。まだ早いです」
 そう言った。この時代に同じ分野を学ぶだけあり、変人だとサイレンスは苦笑したものだった。
 しばらくして、サイレンスは大学を辞めた。どころか、人の側であることも止めた。特に絶望があったわけではない。それは単に、
(バグアの側で、研究をしてみたい)
 と、思ったからである。いままでの経験からキメラを主とし、そこに昆虫などの生物を組み合わせていった。
 いつしか、キメラの開発に、本格的に没頭することになる。人道、正道、そういった言葉は徐々に消えていった。肉をいじくりまわし、ただ、
(楽しい)
 と、愉悦に浸るのだった。研究を続ける生活に、酔いしれたのである。

・胎動
 一匹の甲虫が、一匹の獣に勝てないように。
(キメラは、ワーム、ましてシェイドには、勝てないのか……?)
 バグア派の研究者、サイレンスは、もはや廃墟と化した高知の一都市、その地下の研究所で、水槽の中の自らのキメラを見つめながら思う。
 六メートル、ほどだろうか。成長は止まった。地を揺らすほどの膂力は、ある。だが、その程度で、集大成と言えるのか。
 巨大で強靭なキメラ。そういった例がないわけではない。しかし、サイレンスは、それを作ることが出来なかった。
 いっそ、研究対象をワームへと鞍替えするか?
(いまさら、兵器を?)
 ふっ、と、サイレンスは頬を不敵に緩ませた。
 生物。それが研究対象であり続けてきた。人類側についていた頃から、常にそれが主眼であり続けた。
 蛹から蝶への変態の不思議さはどうだ、蟻の隊列の見事さはどうだ。
 あの奇怪、あの美、あの力強さ。
 機械? 機械だと?
 たかだか数千年の人の技術、バグアとて、いくらか進んでいると言うだけだろう。
 数十億年の歴史がある。紡がれてきた能力がある。いまだ手探りの生物の秘奥に比べて、その技術のなんと安っぽいことか。
(劣っているとしたら)
 それは、生物の力ではなく、自身の技術。
 頬の緩みが、不気味な歪みへと変わっていく。老いた瞳に、活き活きとした、狂気の輝きが灯る。
 六メートルのキメラ。この巨大さで、これは寄生型であった。
 誰が耐えられる? 一般人では無理だ。能力者でも、よほど優秀でなくては。それでいて、サイレンスの指示に従うものでなくてはならない。
 無論、そんなもの、いるはずもない。
(つまり、使えるとしたら)
 それは、サイレンス、自身であった。
 ためらいもなく、杖で、とん、とガラスを叩く。水槽は割れ、内容物が溢れてくる。巨大なキメラが、襲い掛かった。
「ふ、ふふ……はははは……」
 身体へ、触手が刺さる。ぶよぶよとした身体が抱きついてくる。ひどい悪臭だった。その中で、サイレンスは笑った。
 徐々に、我が身が作り変えられていく。どくんどくんと、生れ落ちる赤子の胎動が、聞こえた気がした。

・広域制圧型外道蟲=サイレンス
 四国に展開するUPC軍の会議室。サイレンスの率いるキメラ郡の掃討作戦の議論中に、巨大なスクリーンに砂嵐が走った。
 徐々に画像は明瞭となり、一人の男の姿が浮かぶ。ひげをたくわえた紳士。偵察での写真を見たことがあるものは、息を呑んだ。
 ――サイレンス!
 不気味な拍動をBGMに、うごめく桃色の背景の中、サイレンスはゆっくりと、優しげに言った。
「無駄な議論の最中に失礼する。私は、諸君が馬鹿面を並べて、滑稽にも驢馬のような愚鈍な脳髄で立てる無意味な作戦に辟易するものである」
 長ったらしい口上を、さらりと述べる。口の端が吊りあがっており、どこか、狂的に見えた。
 パチン、と指を鳴らす。徐々にサイレンスから映像が遠くなり、その全景が見えてくる。彼に繋がる太い肉の管、巨大な、グロテスクなキメラが姿を表す。
「私はこれより、このキメラ、広域制圧型外道蟲をもって、各都市を破壊していく。UPC軍の諸君、これまで見守っていてくれてありがとう。そしてさようなら」
 サイレンスは微笑んだ。画像が乱れ、声だけが、明瞭に聞こえた。
「この現実を嘆きながら、死ぬがよい」

●参加者一覧

/ 黒川丈一朗(ga0776) / 終夜・無月(ga3084) / 三島玲奈(ga3848) / 番 朝(ga7743) / シェリー・神谷(ga7813) / 百地・悠季(ga8270) / ルナフィリア・天剣(ga8313) / 優(ga8480) / 時枝・悠(ga8810) / 結城加依理(ga9556) / 火絵 楓(gb0095) / リヴァル・クロウ(gb2337) / フェイス(gb2501) / アレックス(gb3735) / 澄野・絣(gb3855) / 橘川 海(gb4179) / 冴城 アスカ(gb4188) / ウラキ(gb4922) / 天原大地(gb5927) / セグウェイ(gb6012) / フォルテ・レーン(gb7364) / 五十嵐 八九十(gb7911) / 真上銀斗(gb8516) / ゼンラー(gb8572) / 館山 西土朗(gb8573) / 飲兵衛(gb8895) / CHAOS(gb9428

●リプレイ本文

●高知荒野
 生体弾による弾幕を、二十七機のKVが、それぞれに縫うように避け、あるいは受けた。
「一番槍、往かせて貰うわね。トライデント、オールファイヤー!」
 KV‐R‐01改「Storm Maiden(ストームメイデン)」に乗るシェリー・神谷(ga7813)は、叫ぶと同時にアグレッシブファングを四度重ねた長距離ASM「トライデント」を離れた距離から撃ち尽した。十二本のミサイルが尾を引いて巨大キメラ「広域制圧型外道蟲=サイレンス」に襲い掛かる。キメラへ飛ぶのはそれだけではない。84MM8連装ロケット弾ランチャーやホーミングミサイルD‐01が空に線を描いた。撃ち放ったKVフェニックスが弾幕の間を駆け抜けていく。パイロット席の優(ga8480)は、サイレンスの変貌した姿を見て、
「奴自身、キメラを寄生させたようですね。虫姫からの短い因縁ですが、ここで決着をつけさせて貰います」
 つぶやいた。傍らを戦闘機型のナイチンゲールが飛び、スナイパーライフルRが火を噴く。
「サイレンスか・・・・随分と堅そうだな、しかし他の形態もあるかも・・・・か。もしかしたらその他の形態は装甲が薄いかもしれんな、まぁ期待薄だが」
 飲兵衛(gb8895)が操縦しながら呟くと、あらぬ方向を飛んでいた通常弾が軌道を変えた。ハイマニューバを使用した回避の後に見れば、弾は巨大な蝿のようだった。
「これがキメラか・・・・面妖な、ってところか」
 ひやりとした。その横を、銀の機体が駆ける。冴城 アスカ(gb4188)である。黒のラインを持つシュテルンが、GPSH‐30MM重機関砲を持ちキメラの複数枚の羽を狙った。
「狂った科学者の成れの果て、か・・・・。飛んで火に入る夏の虫、虫が好きなら一緒に駆除してあげるわ」
 射撃音が荒れ狂う中、高く飛ぶF‐108改ディアブロに乗る時枝・悠(ga8810)もまた、攻撃を行おうとしていた。
「行こうかディアブロ。名に違わぬ力を示そう」
 試作型G放電装置の全弾が飛び、キメラの周囲に放電現象が起こった。広範囲の攻撃で、装甲の欠陥を見破ろうというのである。F‐104改バイパー「ダライアス」が飛翔する。赤に塗られた縁が鮮やかに輝き、空色の尾翼が軌跡を描いた。ツヤのない青灰色の骸龍の後方に張り付き、高感度カメラで情報を得る黒川丈一朗(ga0776)の背中を見る。
「ダライアス、交戦ってか!」
 ミサイルの接近を告げる音が響いた。フォルテ・レーン(gb7364)は自身に向かうのを確認すると、ラージフレアを使用しつつ、ブースト空戦スタビライザーを起動し、一気に回避行動を行う。
「ぶっつけ本番の緊急回避!」
 だが、あらぬ方向からのロックオンを知らせる警告が走る。
「悪い、スイッチを間違えた」
 黒川からのそんな言葉に、いくつかの意味が混じった溜息をつく。同じく回避に神経を使ったのか、「うう・・・・胃がひっくり返った・・・・」と、黒川は始めての骸龍にまだ慣れない様子だった。そこへ、他の機体から情報が入る。CHAOS(gb9428)が、そのときの状況から読み取った情報を伝えていく。激しい攻勢で緩んだキメラの懐へ、飛び込もうとする仲間に合わせるよう、得物を構える。
「KV戦特化クラスの腕前、舐めないでね・・・・」
 突撃を待つ機体は、また別にいた。火絵 楓(gb0095)はオーバーブーストBを使用しつつレーザー砲を放つ。
「アレ倒したら中からウネウネなんてでてこないよね? よね?」
 蛹型の異形を、塗られた両肩の深紅も眩しいKVフェニックスの中で見ながら、言った。同じく、機会を待つゼンラー(gb8572)はキメラと化したサイレンスを見ながら、
「生命の神秘に魅せられたあまりに、畜生道に堕ちちゃったんだねぃ・・・・そこまでやりきれて幸せなんだろうかねぃ。彼は」
 と、言った。ちょうどそのときだった。攻めるポイントが決まり、激しい銃撃と爆発に乗じて、合図と共に橘川 海(gb4179)のKVロングボウが飛び出した。
「意地でも、落とされるわけにはいきませんっ!」
 叫ぶ海のやや後方、高高度を、蛇とダイスのエンブレムが入った、ウラキ(gb4922)のKVノーヴィ・ロジーナ「クレヴラ(Culebra)」が飛んだ。
「ミサイルパーティの会場までお嬢さんをエスコートさせて貰う・・・・急ごう。遅刻は出来ない」
 高性能IRSTで、残っている誘導型キメラを警戒する。離れた距離から、橘川がトライデントを構えた。「楔、打ち込みますっ!」叫ぶそのとき、ミサイルの一つが向かってきた。
「進路そのまま・・・・僕が迎撃に向う」
 ウラキの機体の特性を活かした急降下急襲。自身の防衛を完全にウラキに任せ、橘川はトライデントを放った。それに合わせて、空戦のメンバが一気に攻勢に出る。
「機体系で海・絣と揃うのは珍しいけど・・・・何時もと同様に息合った処を見せましょうねと」
 百地・悠季(ga8270)のKVF‐108改「ポザネオ」がG放電装置を使い切るほどに連続して使用した。それらの攻撃に紛れ、澄野・絣(gb3855)がマイクロブースターで加速し突撃する。
「私たちらしい、良い連携を心がけましょうか」
 KVロビン「赫映(かぐや)」の、コックピットの紅一点が美々しく輝く。桜の花びらのような機体が、レーザーガン「オメガレイ」をキメラへと撃ち込んだ。回避機動を取る赫映の横を、KVフェニックス「斬空」に乗った天原大地(gb5927)が一直線にキメラへと吶喊をかける。UK‐10AAMの全弾が、蛹のような硬い殻に炸裂しようとする。ミサイルを放ちながら、なおも「斬空」は駆け抜けた。海の初撃に合わせた一斉攻撃に、超伝導アクチュエータVeR.2を起動した濃紺のシラヌイS型・乙が加わる。その表面のファイヤーパターンを迸らせる様に十六式螺旋弾頭ミサイルを吐き出すと、操縦者、アレックス(gb3735)が吼え声をあげる。
「道を踏み外した者の末路、か。見るに堪えねぇな。楔と合わせて、コイツも持って行け! 螺旋の礫よ、その身を穿て!」
 K‐02小型ホーミングミサイルもそれに続いた。シュテルンに乗るリヴァル・クロウ(gb2337)が、硬い口調で画面のサイレンスを見つめながら呟く。
「研究とは本来自分の仮説、信念を証明するために行う行為である。その本質を忘れた時点で彼は研究者ではない。・・・・この世が理不尽なのは当然だ。だからこそ、我々研究者が存在する」
 KVS‐01Hの五十嵐 八九十(gb7911)は「久し振りの空戦、大空に飛ぶのは汚い蟲より翼持つ大鳥だという事、分からせましょうか!」と気合を入れると、長距離砲「三昧眞火」の砲撃で海から続いた波状攻撃に加わり、
「さぁて、害虫にゃ蚊取り線香って相場は決まってるんでね、叩き落しますよ!」
 叫んだ。攻撃はなおも苛烈になり、KA‐01試作型エネルギー集積砲が外骨格を貫かんとばかりにKVS‐01Hから撃たれる。操縦者フェイス(gb2501)は憤ったような、呆れたような風で、
(結局、辿り着いたのはそんな姿ですか。人から離れ。バグアに与し。自らを実験台にした事で、研究者である事もやめた)
 思い、なおもエネルギー砲を放ちながら、サイレンスへ低く、吼えた。
「あなたは、自分の嘆きに人を巻き込みたかっただけです。報われない事に、一人で嘆くのが嫌だっただけ。事ここに及んでは、言えるのは一つだけ。・・・・くたばれ、半端者」
 海たちの攻撃に若干遅れ、ルナフィリア・天剣(ga8313)は、硬い装甲に身を固めたまま回避運動を行い始めたキメラへ、UK‐10AAEMを発射しながら味方へ進路変更を告げた。
「まずは空から叩き落す・・・・覚悟しろ、蟲野郎」
 ルナフィリアのミサイルを浴びるキメラの進路上を、ライフルD−02の弾丸が阻む。ついでライフルRの弾丸が飛んだ。どちらも、当たらない。が、三島玲奈(ga3848)はむしろニヤリと微笑み、長口上をパフォーマンスじみた抑揚をつけて言い放った。外れた二射は、感覚を把握するための、言わば交互射撃のようなものであった。
「人間の愚鈍を嗤う者は多いが、ありもしない奇跡を望む人間こそ哀れだ。勝利は掴み取る物だから。・・・・極大射程の魔手、玲奈登場! 本日の標的はお前だ」
 改めてライフルの照準にキメラを入れる。ミサイルや弾丸に揉まれ、視界の狭くなっていそうなそこへ、結城加依理(ga9556)のKVシュテルンが、二段噴射式ミサイル「ストレイ・キャッツ」を撃ち込んだ。パイロット席の彼の髪は逆立ち、黒猫マークのミサイルの行き先を見つめる。おどおどしたような口調の名残は、静かな唇にだけ残っていた。
 終夜・無月(ga3084)は、純白のKVXF−08「白皇」でI‐01「ドゥオーモ」を放ちながら、「シェイド・・・・」とつぶやいた。サイレンスの異形に、別の何者かの影を重ね、「ふっ・・・・面白い・・・・」と言うと、繰り返された攻撃で剥がれてきている蛹へM‐12強化型帯電粒子加速砲を撃った。それらの爆風を裂くように、数機のKVが飛ぶ。
「堕ちろおおおっ!!」
 ミサイルを放って後、駆けたままだった天原の「斬空」が、攻撃の勢いに紛れてキメラの懐へ入り込む。銃機刀「落雷」を携え、羽へと一気呵成に切りかかり、結果を確認せぬまま機首を上げて孤を描くように駆け抜けた。キメラの上空へと至ると、空中変形スタビライザーの効果で形態を変え、機体を真下へ向け、エンジンを噴射する。加速したKVが突き出すトィンクルが、キメラへ襲い掛かった。しかし、そうはさせじとサイレンスから生体ミサイルが天原へ飛ぶ。無数の通常弾が逆さまの雨のように天へ降っていった。黒川がミサイルの機動を観測し、データを回す。「あー頭が痛い! くそぅ・・・・いや独り言だ、気にするな」と、慣れない電子装備にぼやいた。フォルテや結城のライフル弾や海のミサイルなどが飛び、サイレンスの攻撃をいくらか防いだ。天原は退くことなく、刃を向けたまま、幾分減った弾とミサイルを受けた。そこへ集中して攻撃を放とうとするサイレンスへ、
「虫やケモノと一緒だねぃ・・・・獲物を狙うときが一番油断する」
 ぽつりと、言葉が入り込む。ゼンラー(gb8572)のヘルヘブン750が後背、羽の付け根を狙ってソードウィングを振りかぶっていた。事前の情報にあった弱点という、火属性の近接武器である。たまらず、そちらへ気をやる刹那、逆側の羽へオーバーブーストAで突っ込む機体があった。こちらもソードウィングを構え、勢いのまま振りかぶる。
「うひゃ〜〜〜近くで見るとかなりグロいにゃ・・・・」
 火絵の、そんなのんきな声とは裏腹に、三機のKVに刃を突き刺され、キメラは押し込まれるように大地へ落ちていった。前戦闘で歪んだ道路のアスファルトが砕け散り、粉塵を巻き上げる。それまでは煙や爆発で見えなかったが、既に殻は壊れかかっており、内部の怪しげな瞳の輝きとツートーンの体色が隙間から見受けられた。壊れかけの蛹は、しかし、さきほどよりは薄いものの再び弾幕を作り上げる。空戦のKV数機が、館山 西土朗(gb8573)の情報を受け取った黒川の誘導で着陸によさそうなところへ飛行する。間に、既に待機していた陸戦の部隊がキメラへ飛び掛った。番 朝(ga7743)は陸での作戦開始の知らせに、事前に連絡したとおり、とん、と一回軽く音を出すことで了解を知らせた。キメラとはこれまでの付き合いもあるだろうに、その無表情には弔いや恨みはない。彼女のバイパー改がホーミングミサイルG‐01を淡々と放つ。
「蟲は無視・・・・できるようなサイズじゃないなありゃ」
 言うのは館山である。地殻変化計測器を設置し、位置情報などを仲間へと送る。また、自身、突撃仕様ガドリング砲で牽制を行いながら近づいた。セグウェイ(gb6012)もヒートディフェンダーで身を守りながら、距離を縮め、ガトリングナックルで牽制しながら練機刀「月光」の間合いを目指した。元バグア派だったからか、左右で違う変化を起こした瞳にキメラ化したサイレンスを映すと、なんとも言えない感情を抱いてしまうようであった。
「敵さんは虫ですか・・・・」
 真上銀斗(gb8516)はナイチンゲールで放つガトリング砲で注意をそらし、味方機が近づきやすいように援護を行った。たちまち通常弾が降り注ぐが、
「味方を守るのが自分の勤めです!!」
 自身に聞かせるように、歯を食いしばって、なおも援護を続ける。空戦に参加した者たちが攻撃に参加し始めた。3.2cm高分子レーザー砲が、真上の横合いから飛ぶ。優のフェニックスが合流したのである。また別の方角からスナイパーライフルRの発射音が響いた。飲兵衛の射撃がキメラの殻を削っていく。
「さてと、枯れ木も山の賑わい・・・・自分でも枯れ木ぐらいにはなれる」
 終夜がソードウィングを構え、接近戦を目指すメンバに加わる。時枝とルナフィリアも、それぞれに近接兵器を構えて接近戦に加わった。
「マッドサイエンティスト、か・・・・くだらん玩具遊びを。死ぬがよい? その言葉、お前に返してやろう」
 金と黒で塗られたKVウーフーES‐008「フィンスタニス」の中、ルナフィリアが迫る砕けかけた殻をまとうサイレンスへ告げる。真ツインブレイドを構え、
「このLH傭兵軍団が貴様に制裁を与える。見果てぬ野望を抱いたまま死ぬがよい。そしてさようなら、とな」
 弾雨の中を駆けながら言う。漆黒と群青に塗り分けられた、CHAOSのKVヘルヘブン250「倶利伽藍竜王」も着陸を果たし、ディフェンダーで弾丸を受けながら暴れまわるサイレンスへと向かった。画面を見ながらつぶやく。
「馬鹿と天才は紙一重・・・・納得の格言だヨ」
キメラと共に落ち、吹き飛ばされながらも再び戻ってきた天原も、
「・・・・命の重さ・・・・その身で思い知れっっっ!!!」
 近接兵器を構える。先の地上部隊が一手早く、キメラへとその得物を叩き込んだ。館山がKV‐F‐104バイパーで機槌「明けの明星」をサイレンスへと大きく振り下ろす。
「ハエ叩きならぬサイレンス叩き! 威力は折り紙付きだ!」
 シンプルながら恐ろしい棘付きの鉄球が、ゴシャリと脆さを増した殻をへこませる。セグウェイはKV‐GFA‐01シラヌイで練機刀「月光」を振りかざし、硬い殻の奥へと非物理攻撃を響かせる。
「近接戦闘は苦手じゃないんですよ…っ!!」
 そう言って量産型機槍「宇部ノ守」で真上は突き出す。銀色の髪の中、頬に走る蒼く輝く線へ、汗が伝った。そこへ番が、精一杯KVの身体を反らし、暴風をまかせて機槍「ドミネイター」を振るった。一撃を叩きつけ、その反動のまま次の一撃へと移行させる。CHAOSがディフェンダーを突き刺し、そのままヘルヘブン250を二輪装甲に変形させ、殻の上から突き殺すかのように、瓦礫のビル壁に叩きつける。他方から突き出した試作機槍ガンランスが、逃れようと離れたキメラを続けざまに刺撃し、
「一気に畳み掛けるわよ!」
 冴城は叫び、開けたところへキメラをなぎ払う。KV長刀がそこへ伸びた。着陸の衝撃もそのままに、シェリーのストームメイデンが殻に切りかかっていたのだ。
「旧式化したとはいえ、そんな蟲に負けるほどこのストームメイデンは落ちぶれていないわ!」
 そうした攻撃の中、時枝とルナフィリアが、機体越しに合図を送りあう。
「行こうかディアブロ。名に違わぬ力を示そう」
 サッと互いに距離をとり、ブーストを使用して突撃する。ビームコーティングアクスの一閃が走ろうかというとき、逆側からルナフィリアがブーストで駆ける。
「双方向からの斬撃・・・・受けてみろ」
 真ツインソードが、殻のへこんだ場所を狙う。時枝とルナフィリアのアクスとソードが交差し、その軌跡が×の字を描くように深々と殻に刻み付けられる。「電子戦機とやる連携では無いな、これは」ぽつりと、時枝は漏らした。駆け抜ける二人のKVが止まるのを待つように、攻撃を受けた部分の殻が弾け飛んだ。ボロボロのそこへ、天原がまた切りかかる。上空から観測していたウラキから連絡が入る。「…羽化する…警戒を」。「中身は蝶か、蛾か、それとも蜂か・・・・?」というフォルテの声も、聞き取れた。震え始めたかと思うと、外道蟲は突如、殻を吹き飛ばした。サイレンスの声が響く。
「・・・・よくもここまで頑張ってくれたものだ。しかし、高知の住民を糧とした、あのキメラ群を耐え抜くことは、とうに私の予想するところであった。いや、計画の一部であったとさえ言えるのだ。邪魔臭い殻を蹴飛ばし、私はこれから、日本に産の火を灯すこととする。では諸君、パレードの時間だ。広域制圧型外道蟲の本領を見るがいい。ごきげんよう、そして、さようなら」
 黄色と黒に塗り分けられた六メートルほどの体躯に、輝くような六枚の羽を広げ、バーニアを吹かせてゆっくりと上昇していく。させじと優のKVフェニックスがブーストに、更に『SES−200』のオーバーブーストBを重ね、試作剣「雪村」を全力で振り下ろした。終夜もブーストと接近仕様マニューバを起動させ、
「奇遇ですね・・・・白皇も今の姿が本領です・・・・」
 錬剣「雪村」で切りつける。強力な二度の斬撃に加え、
「逃げんじゃないわよ! このインセクター!」
 と、シェリーが滑空砲を向ける。キメラは羽化したての柔らかな体から、どぶ臭い血を吐きながら上昇する。カッ、と眩い光が辺りを包んだ。それは本来、闇夜でしか気づけないような明るさのものである。再生を始める震える胴から、蛍の形をしたキメラが溢れてきた。
 先回の戦いを知るフェイスが、黒川、また他の仲間へと告げる。退避を知らせた転瞬、爆炎がサイレンスの周囲を包む。近距離をとっていれば、吹き飛ばされていただろう。
「カッシングみてぇな馬鹿は一人で十分だってのに、派手にやりゃあがる」
 黒川は離れたところから、高感度カメラで姿を変えたキメラを覗く。観測の間の隙を、ゼンラーのKVヘルヘブン750が守り、飛んでくる通常弾を弾き、あるいは身を挺して押さえた。
「交誼ある友人を落とさせはしないよぅ…!」
 それに守られた黒川のカメラが捉えたところでは、先ほどよりも耐久力は低そうであったが、明らかに前よりも素早く、攻撃的であった。並のKVの速さでは届かない。
「うむむ!! せっかく落としたのにあがってくるとは!! 皆でハメ技するぞ!!」
 フェザーミサイルと3.2cm高分子で、なにすることもなく叩き落そうと攻め立て、火絵は叫んだ。回避が高いという想像から、
「援護、お願いしますっ!」
 海は叫び、一気に近寄る。距離が短ければ当たるだろうということだ。ウラキがそれに続いて空を翔る。先ほどより一回り大きな蜂型の生体ミサイルが飛び交うのを見て、
「あまり飛び回られると困るんだ・・・・」
 ウラキは海の障害になりそうなものを短距離高速型AAMで優先的に排除していく。「クレヴラ」の尾を噛む様に、海を守る形で飛ぶもう一機、澄野の「赫映」は、処理し切れなかったミサイル型キメラを、レーザーバルカンなどで撃ち落とそうとした。澄野、海の両方の友人である百地は、狙いをすましながらぽつぽつと、
「気持ち悪さで鳥肌が立つんだけどね・・・・見た目的にうっとおしいから、とっとと退治よ」
 喋りながら、パニッシュメント・フォースを起動させ、I‐01「ドゥオーモ」をサイレンスへ放った。アレックスは、RA.2.7In.プラズマライフルを構えながら、ドゥオーモの攻撃を見守り、
「まさか知覚兵器を反射、なんてしてこねぇだろうな」
 そのようなことがあれば、と思ったが、どうやら反射はないらしく、そのままプラズマライフルを放つ。キメラの後を追尾するリヴァルは、先ほどよりも強力な通常弾を浴びせられるも、
「・・・・数は多いが法則さえ理解すれば問題ではない」
 黒川の情報とも照らし合わせ、最小のダメージで切り抜ける。フォルテは遠距離から狙いをつけ、ライフルを構えながら、
「何というか、典型的な狂科学者ってところかね。直接関わったわけじゃないけど、そこまでして何やりたいんだか・・・・。ま、迷惑だからコレで退場してもらおっかね!
 言って、手数で押すように弾丸を放ち続けた。忙しなく動く羽の周辺を狙いつつ、味方機の牽制も行う。
「変形・・・・いやむしろ変態か」
 飲兵衛はポツリと漏らしつつ、動き回る敵を見て、ホーミングミサイルを準備し、
「狙い撃つ、そこから動くんじゃないぞ・・・・聞いてくれる訳もないが・・・・ミサイル発射、少しは効いてくれよ?」
 言いつつ、サイレンスへ飛ばした。プラズマライフルやドゥオーモに紛れながら、空に白線を描いて襲いかかり、爆発を起こす。
「好き勝手も大概にして貰いましょうか」
 フェイスのUK‐10AAMが飛び回るサイレンスを追った。外道蟲はKVの機動ではありえないような運動で、放たれ続ける攻撃を避けていく。ミサイルの爆発が長い尾を引くように宙に描かれる。それでも、すべてが避けられたわけではない。四方へ弾を放ちながら移動するキメラへ、ライフル弾が飛び掛る。宴席のクラッカーのようにキメラの行く先々で弾丸が襲った。進行を阻まれ、左右さえも塞がれる。口角を上げるライフルの主、三島の十八番、「ライフルパーティー」。邪魔と見たか、サイレンスは三島へ向かう。
「お待たせ。死のデフレスパイラルだ」
 動くサイレンスへと、KVS‐01Hが狙いをすます。R‐P1マシンガンを構え、機体の能力を発動させる。
「ブレス・ノウVer2、起動ッ! 酒漬けにしてやるぞ、害虫ッッ!」
 五十嵐が叫ぶ。命中をあげた無数の弾丸が、風を切り裂いてキメラの横っ腹へ襲いかかった。結城のシュテルンもスナイパーライフルを撃ち放つ。左手が妙に疼き、破壊衝動のようなものが結城の中で湧き上がる。その凶暴性が乗り移ったような弾丸の数発が、高速で飛ぶサイレンスの頭を弾いた。
「ミサイル、行くぞ。避けろ!」
 黒川がキメラの口が開いたのを確認し、そこから溢れる蜂型のキメラの動きを仲間たちへ伝えた。それぞれが気ままに動くミサイルのデータを、正確に連絡する。
 近寄っていた海が、新型複合式ミサイル誘導システムを起動する。二段噴射式ミサイル「ストレイ・キャッツ」が、キメラの羽を千切ろうとロングボウから噴出した。前方を飛ぶキメラの瞳が、海を見た。――怖い。びり、と体に電流のようなものが走り、皮膚が粟立った。つむりかけた目に、自身の部隊が思い浮かぶ。
(ラウンドナイツ。その赤き外套は、己が血を流すことを厭わぬ誓い。そして。自分の為に人の血が流れても、泣かない覚悟)
 駆けた。目を見開く。迫るミサイルを、しかし、ウラキのKV「クレヴラ」がブーストでキメラと海の間に割り込んで、自身が食らいながらも防いでいく。
「ここを凌げば・・・・持ってくれ」
 振動する機内で唇を噛み、横を抜けていく海のロングボウを見る。ロングボウの残像を辿るように、海の覚醒時に見る赤い蝶の舞うのが瞳に映った。なおも攻撃を放つサイレンスに、
「海へは攻撃を通さないわよっ!」
 澄野は吼えて、海へ迫るミサイル型キメラへRA.0.8In.レーザーバルカンを浴びせる。機動を変えたいくつかのミサイルの炎が、KV「赫映」を舐めた。
  ――いや。
 刹那、レーザーガトリング砲の無数の光線が、生体ミサイルである蜂型キメラへ突き刺さった。その源は、少し離れて見守る百地のディアブロであった。ウィンクでもするように、微かに機体を揺らす。海の機体とは別の方角からサイレンスへ駆ける機体があった。KVフェニックス。火絵が蛹型のときのように、再びオーバーブーストAで突っ込んでソードウィングを振りかざした。だけではないリヴァルもPBMシステムを起動しつつ、エース用と知られるハイディフェンダーを持って空を駆け抜ける。
「味方機の攻撃に乗じて吶喊する。各機支援を頼む」
 言葉に、飲兵衛が即座にナイチンゲールの向きを修正し、通常弾やミサイルへライフルを向けてライフルを撃ち放つ。
「援護なら任せろ!」
 ミサイルに焼かれながら、外道蟲が向かう先は、いまだに三島であった。他の機体が間に合うよりも先に攻撃を受けてはと、五十嵐がR−P1マシンガンを撃ち放つ。通常弾の密度が濃くなり、
「かすったのか!? まだ落ちる訳にゃ行かないんですけどね!」
 慌ててKVS‐01Hの態勢を整える。そうこうしている間に、フォルテも背後からサイレンスへ詰め寄っていた。近接戦を挑むものたちの刃が降り注ぐ。
「フッ・・・・!」
 三島は超伝導アクチュエータを起動すると、KV雷電をアクロバット飛行でもするように動かし、迫るサイレンスの横スレスレへ飛びつつ、銃口がサイレンスにキスするかという距離で、ライフルを撃った。黄色と黒の皮膚が弾けるそこへ、フォルテがブースト空戦スタビライザーを使いつつ、「邪魔させてもらうよ!」と試作型「スラスターライフル」をキメラの体へ撃ちこんで行く。羽を千切るように銃弾が繰り返し跳ね、サイレンスは背をそらすような形となった。
「もう結論に至って良い頃合いだ、終わりにしよう」
 リヴァルの声が、冷ややかに響いた。ハイディフェンダーが襲う。一度捕まった虫が叩き潰されるように、その一撃が深々とキメラを切り裂いた。火絵が続いてソードウィングで斬りつける。肉を切ったのか、黒い血しぶきが舞い、火絵のKVにかかった。その辺りで、空陸の両方に対応しているメンバが空に戻ってきた。チロリとキメラはそれを見ると、再び蛍型のキメラを飛ばし、近くにいたKVたちを吹き飛ばすと、まだ再生には程遠い身体を陸へ向けた。KVの離着陸は、外道虫のそれよりも遅いのだった。黒川が地上班へ位置を連絡しており、降りざまを朝が機槍「ドミネイター」で狙った。ブンと振り回し、当たろうが当たるまいが、そのまま振り切って二撃目、三撃目と加えていく。数発を食らいつつも態勢を立て直し、超低空でサイレンスは飛びながら機槍を避ける。口を開くと、ミサイルが朝へ飛んだ。
 爆発。が、それは20MM小型ガトリング砲による破壊によってであった。
「援護致しますっ!!」
真上のナイチンゲールが弾丸を連射し、直前での破壊により、爆風だけが朝を襲った。もうもうと立つ煙の中、セグウェイが機刀「陽光」を振りかぶる。合わせて、館山が機槌「明けの明星」を握った。しかし、セグウェイのKVシラヌイが放つ「陽光」が掠り、「明けの明星」が避けられる。ぶぶぶぶ・・・・と音を鳴らし、外道虫は、その腹から無数の蛍を吐き出した。
 盾で、あるいは回避行動をとって、被害を避けた。朝は危機に敏感に反応すると、我が身を省みず、さきほど自分を助けた真上の前方へ飛び、代わって爆発を受ける。全陰、距離を離されはしたものの、ダメージ自体は深刻なものではない。セグウェイがヒートディフェンダーで身を守り、館山は機盾「シャーウッド」をかざした。そこへ、地殻変化計測器によって出した着陸地点へ、空へ飛んだKVたちが、再び戻ってきていた。優、ルナフィリア、時枝、天原、火絵、冴城、飲兵衛、CHAOSらが加わり、連携によってさきほど外した「陽光」や「明けの明星」による一撃も入った。
「さぁ、閻魔大王が地獄でお待ちかねよ!」
 冴城が叫んで、PRMシステムを発動すると、全力でサイレンスへ突っ込み、試作機槍ガンランスを突き刺し、さらに砲撃を行った。
 砲撃により煙の立つ中、外道虫が爆発するような音が聞こえた。そこから飛び出すのは、二メートルにも満たない物体。サイレンスの顔をし、過去に持っていたあのステッキを持ち、白濁した瞳をKVたちへと向けていた。そのスーツは、筋肉の不恰好な膨らみによって歪み、背からは一対の巨大な羽が生えていた。キラキラと、その羽は不気味な姿に似合わぬ美しさであった。いや、その羽ばかりが美しいからこそ、いっそう、サイレンスは不気味に見えた。ひび割れた唇が、ゆっくりと動く。
「よ、く、も・・・・」
 ばら撒かれ、地に伏していた通常弾に使われたキメラが、一斉に飛び立った。無数、としか言いようが無い。それは避ける、受けるというよりは、耐える弾であった。
 低空で飛行するサイレンスは、杖を振りかぶり、上空へ電磁波を飛ばした。空戦の部隊がより守りを硬めたところへ、ふわりとサイレンスの体が浮き上がる。
「やってくれたな・・・・。ひき潰してやるぞ!」
 杖をあげる。すると、その頭上に通常弾のキメラたちが集結していき、宙に巨大な渦巻きが現れる。避けるという点で言えば易くなった。が、耐えるといえば不可能である。
「だが断る!」
 黒川の骸龍がサイレンスをカメラに移し、確認できる情報を次々と仲間たちへ伝えていく。黒川の後方を飛ぶKV「ダライアス」のフォルテが武器を構える。援護に回っていたゼンラーもソードウィングをとった。援護でどうにかできる攻撃ではない。陸戦班、館山やセグウェイらも固唾を呑んで見守った。そこで、
「1番から100番まで、フルオープンっ。新型複合式ミサイル誘導システム、起動」
 海の声が響いた。攻撃のタイミングを知らせる声でもあった。三島は試作型リニア砲へ持ち直し、その機会を待った。百地はレーザーガトリング砲を構えながら、三度目のパニッシュメント・フォースを起動した。CHAOSはH‐044短距離用AAMを準備しつつ、ぽつぽつと、画面越しの歪んだサイレンスの顔を見つめて、
「人間が野の命を美しいと思うのは、そこに人間の意思を介さないから。人間は心の何処かで、人間を醜いと感じてるんだ・・・・歪んでいく科学者もまた、醜い人間の姿そのモノなのかもしれないね」
 言って、KV白皇は再び空へ飛び上がる。一言、
「・・・・なら、俺達が其れを止めるまでだヨ」
 つぶやく、その機体の横で、他にも、海にあわせてサイレンスへ攻撃を行おうとするKVがいくつもあった。シェリーがアグレッシブファングを用いる準備をし、結城もライフルをサイレンスへ向けていた。リヴァルは通常弾で傷ついた機体の状況を調べ、「損傷率○○%・・・・これが君の成果というわけか」とつぶやくと、かつての研究者、サイレンスへK−02を構えた。
「・・・・迷う事は無いハズだ、あの蟲野郎を叩き落とす!」
 アレックスが高く叫んだ。残りの十六式螺旋弾頭ミサイルと、その他の兵装を撃ち尽くすような気概を持って、その時を待った。フェイスはKA‐01試作型エネルギー集積砲を携えたKV‐S01Hの中で、これまでのことを一瞬だけ思い出した。引き金はいつでも引ける。澄野は愛機「赫映」のブースタを、いまにも点火するような面持ちで、海の射撃を待つ。冴城は、通常弾によるダメージ具合を見ながら、「豆鉄砲じゃ私は落ちないわよ?」と不敵に言って得物を構えた。五十嵐も同じように、武器をとって待った。
「堕ちた科学者よ・・・・今日で終わりだ」
 ハイマニューバを使用し、スナイパーライフルRを構えた飲兵衛は言った。そうして、サイレンスの頭上に集まる通常弾が、この上ないというほどになったところで、一声が放たれた。
「I‐01『パンテオン』。いっけっー!!」
 名の通り、古から未来にかけての『全ての神々』を、唯一つの目標に向けて盛大に放つ。その趣意は、
(百の弾幕。でも私の放つ本命の光の矢は絣さんや皆。連携、開始ですっ)
 であった。パンテオンを追うように、KV「赫映」がマイクロブースターで追いかけ、レーザーガン「オメガレイ」を叩き込む。
「これがフレンドシップアタックよ!」
 言うのは、百地である。二人に合わせて襲い掛かり、強化したレーザーガトリング砲をサイレンスへ向けて放った。その時を待っていた三島が試作型リニア砲を向ける。
「ストライクパーティ」
 燃え上がる爆発に追われるサイレンスへ、砲弾による死の接吻が行われる。二門のライフルが、さらにその追撃に走った。
 リヴァルからのK‐02小型ホーミングミサイルが、いやに壮大に、華麗に空を飛ぶ。後を追うように、結城が二種類のライフルをKVシュテルンから迸らせる。
「橘川はパンテオン(全ての神々)か。ならこっちは火天の砲(アグニ)だ!」
 アレックスは言って、火力の集まるそこへ、長距離砲「アグニ」の炎を注ぎ込む。フェイスもUK‐10AAMを初めとして、エネルギー集積砲を叩き込んだ。爆発、そして炎上。
「これだけの数の花火があるなら、花見酒でも持って来りゃ良かったですね・・・・」
 五十嵐が、そうつぶやくほどに、空をいっそ神々しいほどの光が包んでいた。自身もまた、花火へ色を添える。
「凄いな・・・・あの火力は真似できそうにない」
 飲兵衛も呟きながら、ライフルで狙い打つ。味方でさえ呆気にとられる焦熱地獄のようなそこへ、数機のKVが突撃した。
 ゼンラーがソードウィングを燃えるサイレンスの体に叩きつける。シェリーがアグレッシブファングを使用し、襲い掛かった。天原のKV「斬空」も切りかかる。ルナフィリアや時枝も、地上戦で見せたような連携を行う。
「因縁なんざ無いしな。簡潔に一言で済ませよう。・・・・死ね」
 終夜の錬剣の二刀がサイレンスの翼を引き裂いた。あれほど宙を乱舞した通常弾が、はらはらと解け、雪のように地表へ降る。サイレンスもふらふらと高度を落とすところへ、地上班が襲い掛かる。
「もういっちょ、サイレンス叩きだ!」
 落ち様を館山の機槌「明けの明星」が叩きつけられる。ごしゃりと、先の火力で燃え立つ肩口から破損する。セグウェイの練機刀「月光」がきらりと走り、サイレンスを斬った。量産型機槍「宇部ノ守」を持った真上が、そこへ突きかかる。さんざんに攻め立てられながら、なおもその双眸が狂的な輝きを宿しているのを、朝は見た。
(・・・・わからない)
 祖母たちとの決別し、自身の過去から、追求というものを忘れた朝には、そこまで執着する心が理解できなかった。
 それは死の恐怖であろうか。生きたいとする狂的な輝きであろうか。恐らくは、そのとき、朝が見たのは、
〈研究をしたい〉
 という、それこそ、この場面で考えるのが狂気と思える、一つの妄執であった。朝の機槍に、サイレンスは吹き飛ぶ。燃え立つ身体は宙を飛び、やがて膨張し、爆散した。
「・・・・君も・・・・夢の中の人、だったのかな」
 虫姫の歌を思いだして、朝はつぶやいた。

●花散らしの雨
 初冬の冷たい風が吹き込む。それぞれに、戦闘後の休憩を味わう中、煙が一つ、立っていた。
「彼との因縁も、これでお終い。とは言え後始末の方が大変ですね、これじゃ」
 フェイスは、ここが日本かと思うほど荒廃した一帯を見て、それでも、少し気が落ち着いたように、タバコの煙を吐いた。
「うう〜〜んやっぱり仕事終わりのメンマはうまいにゃ〜」
 いくらか暖かな機内で、火絵がメンマを頬張る。海もまた機内で、自身のために機体を損傷させてくれた仲間たちを思い、
「やっぱり泣いちゃうかな? ごめんね。そして、ありがとう」
 と、小さく言った。うるんだ瞳に、しかし、それを知ってか海のKVまで来た友人たちの姿が映る。
「生命が兵器に負けたんじゃない、アンタが・・・・人間が人間に負けただけだヨ・・・・」
 荒野に立ち、消えたサイレンスへ、CHAOSは呟く。それが弔いになっているのかもしれない。
「勇敢に散って逝った方達の冥福を祈ります…」
 真上は、広がる荒野に、サイレンスとの戦いで、なくなった軍人たちや街の人間のことを思った。祈りを捧げ、冥福を祈る。似たようなことをしているのが、また、一人。
 セグウェイは一人離れたところで、冥福を祈った。それは真上とは違い、サイレンスにであった。
「あのままでいたら俺もあぁなってたのかもな・・・・せめて安らかに眠ってほしいものだ・・・・せめて一人くらいは…祈ってやっても罰は当たらないよな」
 アレックスは痕跡を探るようにあたりを巡り、
「例えキメラ一匹。否、肉片一つすら残さない。燃え尽きろ」
 サイレンスの断片のないのを確認した。あるいは、それこそが、歪んだ男に捧げる、冥福を祈る行為だったのかもしれない。
「・・・・とりあえず終ったか」
 空を見上げ、朝も祈りを捧げる。それは、墓標の無いものたちすべてに捧げるものであった。優もKVから降りると、サイレンスが爆発した辺りを調べた。
 事前に、人間形態があった場合の、確保の有無を確認している。返答はNOであった。しなくともよいという意味だ。短い因縁の終わりに、死んだ所へ何気なく語る。
「サイレンス。「この現実」ではなく、「生きている」限り嘆き続けます。だって、私たちは人間なのですから」
 ふいに、はらりと、雪が舞った。それは灰だったかもしれない。あるいは、白く煤けた落ち葉であったかも。
 寄って見れば、すべてが違った。綿のような白は、雪虫のものであった。サイレンスの影響か、まるで春の花が盛大に舞い散っているようであった。
 空に還っていく。遠く、飛んでいく。それを見送った。亡くなった者へ、そうするように、それを見送り続けた。