タイトル:節分を前に・・・マスター:優すけ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/02/05 16:11

●オープニング本文


「いや〜、ホント最近の子供たちってシビアですよね〜」
「ま〜確かに、昔と違ってゲームやテレビなどリアルな情報源がたくさんあるしな‥‥」

 何やら難しげな顔で相談している男が二人、喫茶店でコーヒーをすすっていた。彼らの前には薄っぺらな台本が一冊置かれている。題名は【桃太郎】。彼らは節分の日に、幼稚園児達の前でこの劇をする事となっている。これはある企業がイメージアップも兼ねて、毎年行っているそれなりの規模のイベントであった。しかし年が経つにつれ、子供達の反応が段々と冷めた雰囲気になってきているのが役者達にも伝わってきており、ここ数年は流れ作業的に劇をこなしている、というのが現状だ。

「しかし、だからこそ今の大人達が伝えなくちゃいけない何かがあるんじゃないか?」
「それは何となく分かりますけどね〜‥‥でも去年は散々だったんですよ?人が大真面目に鬼を演じていたら、舞台下から『今時あんな鬼なんていないよな〜』なんて散々馬鹿にされる始末だったんです。挙句の果てに携帯ゲームを取り出して遊ぶようなガキも現れたり‥‥」

 部下らしき男が深々とため息をついて、残りのコーヒーを一気に飲み込む。どうやらかなりキツイ目にあってきたらしい事が伺える。その様子を見て上司らしき男がトンと指を台本の上へ乗せて呟く。

「そ〜だな〜。ただ台本通りに劇を進めても、今の子供達には面白みが無いと言うわけだ。‥‥となると、やっぱり何かオリジナリティを加えた要素が必要と言う訳だ」
「オリジナリティ、ですか?」
「ああ。例えばそうだな‥‥能力者達を使った、鬼気迫る桃太郎とうのはどうだ?」
「鬼気迫る桃太郎というと?」
「まず演じる舞台を野外に大々的にセッティングして、鬼との戦いを能力も使ったド派手なバトルにするんだ。当然鬼たちにも能力者を起用して、お互いに思いっきり派手にしてもらうんだ。当然出演者は男に限らず、【桃少女】なんてのもOKだ」
「う〜ん‥‥でもそう上手くいきますか〜?第一、そんな事に能力者達が手を貸してくれるかどうかも‥‥」

 やはり去年の事が尾を引いているのか、どうも気が進まない様子の部下。そんな部下を見て上司がふんと鼻を鳴らす。

「何を弱気な事を言っている?まずは何事もやってみなくては分からないじゃないか。俺が新たな台本を書き上げるから、能力者達への連絡は任せるぞ」
「‥‥ってええ!?こういうのは言いだしっぺのあなたがするべきでしょう!?」
「じょ・う・か・ん・め・い・れ・い・だ!!」
「トホホ‥‥今年は本当に災難な年になりそうだ‥‥」

 がっくりとうなだれた部下は、渋々と電話帳を開いて番号を検索するのであった‥‥。

●参加者一覧

旭(ga6764
26歳・♂・AA
片柳 晴城 (gc0475
19歳・♂・DF
守剣 京助(gc0920
22歳・♂・AA
滝沢タキトゥス(gc4659
23歳・♂・GD
追儺(gc5241
24歳・♂・PN
シルヴィーナ(gc5551
12歳・♀・AA
グリフィス(gc5609
20歳・♂・JG
蒼 零奈(gc6291
19歳・♀・PN

●リプレイ本文

●鬼、そして桃太郎、参上!!
ポン、ポン、ポンポンポン‥‥‥‥ポポン!!

 野外ステージの横でつづらを打っていた職員が立ち上がり、舞台裏へ消えていく。幸い好天に恵まれて、絶好の演劇日和となった。すでに広めの観客席には子供達が所狭しと座っているのだが、やはりその視線はあっちへ、こっちへ向いてしまっていたり、ぺちゃくちゃとしゃべっていたりする。職員達が心配そうに見守る中、ついに舞台劇【桃太郎】は始まった。

「なあなあ、昨日のゲームどこまで行った?俺は‥‥ん、何だあれ‥‥?」
「‥‥お、鬼だ‥‥鬼が出てきた‥‥うわ〜!! な、何だありゃ〜!?」

 さっきまで雑談をしていた子供達が一瞬で視線を向けた先には、真っ赤な目と赤く光る両手をした鬼(追儺(gc5241))が舞台から、そして銃を持って子供達に突きつけている鬼(グリフィス(gc5609))が観客席から急に現れたのである。そして二人の鬼はゆっくりと、しかし重みのある声で哀れな少年少女達に語りかけた。

「そうか‥‥派手なのが見たいか‥‥なら、見せてやろう‥‥」
「おまえら、静かにしてなければ‥‥‥どうなるか、分かってるな?」

 いきなり警察に通報したくなりそうな光景が繰り広げられているが、それだけでは無い。何故かコーラ缶を腰につけた大剣使いの鬼(守剣 京助(gc0920))が観客席の後ろの方から雄たけびをあげながら出現したかと思えば、色っぽいへそだし衣装・ミニスカ装着の美女鬼(刃霧零奈(gc6291))が舞台から身体を堂々と見せ付けるように現れたのだから、子供達は大いにビビリまくった。(刃霧に関しては、むしろ顔を赤くして見る男子児童が多かったが)

「コーラ〜〜!! 大好きな〜〜、少年少女は‥‥いね〜〜がああああ!!」
「さぁ〜、今日もめいっぱい悪さしてやるさ〜!! ‥‥くふふ、誰を攫っちゃおうかな〜♪」

 舞台開始からの衝撃的な登場(光っていたり銃を突きつけていたり、コーラを持って雄たけびを上げていたりミニスカ美女鬼だったり)により、子供達は一気に舞台の中へ引き込まれていったようだ。しかしこのまま鬼達に好きにさせまいと、正義の味方が立ち上がった。その名は‥‥

「強盗強奪に飽き足らず、子供の誘拐まで行うとは許しがたいね。この桃太郎が、お天道様に代わって成敗してくれる!!」

 ポポンとつづらの音が鳴り響いたかと思うと、舞台の上からぶわっと着物の裾をたなびかせて旭(ga6764)が舞い降りてきた。その腰には刀と鉄扇が付いており、思わず従来にありがちな桃太郎と思われがちだったが‥‥着物の上に装着した無骨な装甲が、和風の雰囲気を徹底的に壊していた。

「ふふ〜ん、また来たね〜!! 今日こそ決着をつけてやるさ〜!!」
「桃太郎だか金太郎だかしらねえが、やってやる!」

 ゆっくりと男の子を下ろして声を上げる刃霧に、いきなり髪が金色に変わった(若干泣き出す子供達がいたが)グリフィスが口上を述べたと同時に、今度はいきなり爆発音がしたかと思うと真っ白な煙が舞台から噴出した。そしてその中から、三人の人影が現れてくるではないか。もちろん子供達はサル・イヌ・キジの話は知っているので、当然そうだと信じていたが‥‥現れたのはフェイスマスクで顔を隠した兵士(片柳 晴城 (gc0475))に、全身白色のプレートアーマーで身を包んだ戦士(滝沢タキトゥス(gc4659))、そして妙に可愛らしい犬耳と尻尾を付けた美少女(シルヴィーナ(gc5551))だった。しばし絶句する子供達を前に、それぞれが声を張り上げる。

「‥‥‥‥猿、だ」
「お、狼さんなのですよ〜!? 犬さんじゃないんですよ〜!?」
「俺がキジだ。さあ、鬼退治を始めようじゃないか!」

 イヌ以外はまったくこれっぽっちも似ていないが、本人達がそう言い張るのだから仕方ない。そのイヌ自身も、あくまでオオカミと主張しているのだから、最早【桃太郎】の登場人物はいないと言っても過言ではないだろう。そんな正義の味方(?)が現れたのを見て、追儺と守剣が不敵に笑いかける‥‥どうやらやる気のようだ。

「面白い‥‥かかってくるがいい」
「うぉ〜〜〜!! コ〜〜〜ラ〜〜〜〜!!」

 お互いが戦い前の名乗りをあげた所で、シーンは戦いの場へと移っていく‥‥果たして結末はいかに?そして子供達は無事に家へ帰ることが出来るのか‥‥空の太陽は、ただ静かにその光をたたえていた‥‥


●勝利するのは‥‥俺達だ!!
 演劇がが始まって20分、もはや舞台は戦場と化していた。二丁拳銃を撃ちまくるグリフィスに、応戦しようと片柳のマチェットが唸る。追儺が光る拳を打ちつけようとすれば、滝沢が翻弄するように二本のナイフで迎撃。側面に一瞬で回りこみ大鎌を振り回すシルヴィーナの動きを、見切ったかのごとく刃霧がハルバードを振り回し舞台に穴を空ける。これほどの大立ち回りを繰り広げれば、どんな子供達もゲームを放り出して見入るというものだ。‥‥ただ、【桃太郎】という話の内容とは180度変わってしまっているが。

「桃太郎が出るまでもないな。あんたらはこの自分『キジ』が片付けてやる!!」
「ふ、余裕だな。ならば目に焼き付けておくがいい‥‥これが、鬼の力だ!!」

 とてもキジとは思えない動きで(どこの世界にナイフを振り回すキジが‥‥)滝沢が一瞬で追儺の懐に入り込もうとする。しかしそれを見越していたのか、追儺は慌てず光る拳で目にも止まらない一撃を放ち迎撃した。一応子供向けと意識していたのか、少し大げさな動きではあったが滝沢の動きを止めるには十分であったようだ。その隙を突いて、無防備になった脇に反対の拳を打ち込むと、滝沢は大きな音を立てて後方に吹っ飛んで、そのまま動かなくなった。(若干派手な雰囲気ではあるが)

「今、分かった‥‥自分がキジと呼ばれた理由が‥‥それは‥‥グフッ!」
「キジよ、お前もまた、強敵(とも)であった‥‥」

 なんと正義の味方がやられてしまうという展開。一部の子供達が泣き出してしまうが、そんな事はお構いなしに他の場所では戦いが続いている。ひときわ大きな衝撃音が鳴ったかと思うと、背後の壁紙に鋭い傷が走っていた。どうやら片柳の放ったソニックブームがグリフィスにかわされたようだ。だがぎりぎりでかわしきれなかったのか、頬には薄い傷が走りうすらと血が流れる。

「‥‥なかなかやるな。俺の攻撃をかわすとは‥‥」
「くそっ!! たかが人間風情に‥‥負けてたまるか!!」

 言葉だけを見るとどちらが正義の味方かは分からないが、とにかく片膝をついたグリフィスを、少し離れた場所から見ている片柳という構図が出来上がっていた。このままでは勝てない‥‥そう考えたグリフィスは一か八かの賭けに出ようと、切り札である『影撃ち』を仕掛けるべく相手の死角に回り込んだ。しかしそれさえも見切っていたのか、片柳は一瞬で後ろへ飛び去り、靴に取り付けた脚甲を武器に回し蹴りを放った。まともに受けてしまったグリフィスはそのまま足元に崩れ去り、口から大げさに血を吐く。(どう見ても映画用の血糊であったが)

「くっ! すまない‥‥皆、後は‥‥頼んだ‥‥」
「‥‥これが、サルの力だ」

 世のサルが見たら絶対に尻尾を巻いて逃げ出しそうな攻撃であったが、とにかくこちらの決戦は桃太郎側の勝利になったようだ。感動の余韻(?)もままならないまま、観客席の後ろ側ではミニスカ鬼とわんこ狼が今まさにクライマックスを迎えようとしていた。
 暗い狼の影を背後に、一瞬で距離を詰めて大鎌を振り下ろそうとシルヴィーナ(やはり狼というよりはわんこだが)の攻撃を、ガギンと音を立ててハルバードで受け止める刃霧。その衝撃で揺れる胸元に、大きな子供達(要するに男の先生や職員達)が歓声を上げていた。そのまま刃霧がハルバードを振り回すと、体格の関係上背後に飛ばされてしまったシルヴィーナが大鎌を構えなおす。

「‥‥これで、最後なのです‥‥わふ」
「ふふ、そう簡単にいくとは思わないことっさ!!」

 西部劇のように風が吹き、落ち葉が二人の間を舞い踊る。そして一瞬の間が空き‥‥どこかで子供のくしゃみが聞こえた。その瞬間、二人の距離は0になりお互いの武器が派手に打ち鳴らされた。あえて負ける前提で戦おうと決めていた為か、若干力が抜け気味だった刃霧に対して、とにかくがむしゃらに突撃してきたシルヴィーナの勢いは凄まじく、刃霧は大きな胸をたゆませて尻餅をついてしまった。そこへわんこ耳少女が一生懸命決め台詞を告げる。

「わん‥‥あきらめなさいです‥‥」
「いったぁ‥‥くっそぉ、あたしの負けだ。もう悪さは、しないよ」

 がくっとうなだれた刃霧を最後に、これでお互い大将を残すのみとなった。現在の所は桃太郎側が優勢。果たして最後の結末は‥‥?


●いざ、大将戦!! そして伝説へ‥‥
「さて、泣いて謝るなら今のうちだよ‥‥?」
「はん、ぶっ潰れても安心しな。この下に埋めてやるからよ」

 鉄扇と刀を装備した装甲桃太郎に、思いっきり地面に大剣を刺して不適に笑みを浮かべるコーラ鬼。最早この戦いを止めることは仏でも許されない‥‥かもしれない。固唾を呑んで見守る子供達を横目に、ついに二人の戦いが火蓋を切った。まず仕掛けたのはコーラ鬼である。空気が唸るような大剣の振り下ろしが桃太郎に迫り、思わず子供達は目をつぶりそうになったがすぐに歓声に変わった。流れるように鉄扇で攻撃を受け流し、そのまま刀で鬼の脇を狙って打ち込む。まるで牛若丸と弁慶を彷彿とさせる動作(あえて言うが、これは【桃太郎】である)に、子供達はわぁわぁと騒ぎ立てていた。

「このままじゃ埒が明かないな‥‥ここは一つ、勝負に出てやろうじゃね〜か!!」

 猛烈な勢いで振り回す大剣をことごとく受け流す旭に業を煮やしたか、一歩下がって息を吸い込む守剣。するとたちまちその身体の筋肉が隆起していくではないか。子供達がわいわい騒ぐ中、まさしく体つきも鬼となった守剣が全ての力を込めて桃太郎と地面を纏めて叩きつける。陥没する地面、震える大気。このまま桃太郎は、あわれ鬼達の前に敗北してしまうのか!?

 だが、桃太郎は死んでいなかった。そう、決して正義が負けるわけにはいかないのだ‥‥たとえ世界の全てが絶望しても、最後の最後まであがき続ける‥‥それが‥‥

「こんなところで、負けてられるか‥‥僕は‥‥僕が、日本一の桃太郎だぁッ!!」

 全身全霊の力を込めてかち上げる様に剣を振り上げ、大剣で受け止められた時点で瞬時に上から下への切り下げに変える斬撃に、周囲は凄まじい爆音とともに煙に包まれた。そして煙が風とともに流れていき‥‥大きなクレーターの中心に立っていたのは、煤だらけになっていてもなお神々しささえ感じさせる、日の本一の桃太郎だった。(若干身長が縮んではいたが、最早そんな事はどうでも良いだろう)

「う、うわ〜〜〜!!すっげ〜〜〜!!」
「ももたろ〜〜〜〜〜!!」
「かっこぇ〜〜〜!!」

 あまりに衝撃的なクライマックス、そして高々と刀を突き上げる姿に全ての子供達は惜しみない拍手を送るのであった。ありがとう、桃太郎!!君の事は少年少女たちの心の中にずっと残り続けるであろう!!そして最後まで己の誇りのため、勇敢に戦った鬼達!!その姿は雄雄しくも見事であった!!‥‥こうして桃太郎達は鬼退治を終えて、村に戻ったのでした。めでたしめでたし‥‥完!!

‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥
‥‥ 

 
「なぁ、ホント〜にこれで良かったのだろうか?」
「子供達が喜んだのだから良いんじゃないですか? ‥‥ただ、誰も【桃太郎】を見たという記憶は残らないでしょうけど」
「何だか打ち切り漫画みたいな締め方になったが‥‥あ、そういえばキジはやられたんだっけ?」
「‥‥もう、どうでも良いんじゃないですか‥‥はぁ、来年はどうしましょうか‥‥」

 ナレーションを終えた部下は、ため息を吐きつついつまでも鳴り止まない歓声と散々になった舞台をど〜しよ〜かと頭をかかえるのであった。