タイトル:初詣も終わり・・・マスター:優すけ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/23 15:33

●オープニング本文


 そこは日本にならどこにでもあるような、それなりの規模の神社であった。初詣の時期にはかなりの参拝客も来るのだが、正月も過ぎた後に訪れるのは散歩コースとして選んでいる近所の人か、普段から参拝を心がけている年配の方々だけである。そんな神社の中で、参拝者にお札やお守り、絵馬やおみくじを販売している売店が存在していた。

「は〜‥‥‥もうこんな時間なのね‥‥」

 ため息をついているのは、アルバイトとして巫女をしている近所の大学生三年生。三が日の間は臨時のアルバイトが増えるのだが、普段は非常に少ない人数でこの場所を回している。特に彼女は高校時代からずっとこの道(?)一筋のベテランアルバイト巫女で、最早境内の中など隅から隅まで知り尽くしている。そんな彼女がため息をついている理由とは‥‥

「ホント、情けないったら‥‥あ、それじゃあ後はお願いね?」

 いつもの境内見回りの時間がやってきた事を確認すると、ひとまず仕事の残りを別のアルバイト巫女に引継ぎをして売店を出る。普通なら神主や警備員が回るべきなのだが、

「わしゃ〜いつまででも〜現役じゃぞ〜〜い〜〜」
「え、え、ええと‥‥この、このば、ばば場所は、異常なしであります!!」

 4分の3ほど死に掛けている神主に、がちがちに固まった挙句ネコ一匹にあたふたしている新人警備員を当てにしていては逆に気が休まらない。もし金庫でも盗まれて、アルバイト料が入らなくなるのは自分達だ。そう仲間内で話し合った後、結局境内の見回りは一番のベテランである彼女が受け持つ事となったのである。

「それじゃ、いつも通りさっさと回って休憩にしましょっか」

 そんな彼女はいつもの通りに見回りを開始する。境内はそれほど広いわけでは無く、中央に御本殿、そこを囲むように柵らしき物が巡らされており入り口賽銭用の箱へ続いている。そしてその本殿を出て大きな門をくぐると、手前右に売店がある庁舎。そして左手にはこじんまりとした手水用の社が建っている。一応本殿の横には仮本殿もあるのだが、現在は修復中で大きな幕がかけられている。これらを通り抜けると少し大きな道が続いて入り口の鳥居へと続くのであった。この道には三が日の間、多くの出店などが開かれて賑やかなのだが‥‥今はただの静かな道である。

「うぅ‥‥相変わらず寒いわね‥‥早く暖かいお茶でも飲んで‥‥あら?」

 ぶるっと体を震わせて鳥居前まで歩いたその時、脇の森の中から音が聞こえた。いつもの小鳥達かと思ってひょこっと中を覗き込んでいったのが彼女の運の尽きだった。

「‥‥‥‥え?」

 中でごとごとと動いていたのは何やら大きな仏像であった。右手には錫上を持ち、袈裟を身に着けたよくありそうな服装なのだが‥‥‥一番目立つのは左手のギターと頭のリーゼントである。しかも袈裟の背中には【仏恥義理】【夜露死苦】と掘り込まれている、一昔前の痛い暴走族を意識したような仏像が森の中からこちらに向かってのっしのっしと無言で歩いてきているのだった。その無機質な目がまた絶妙な迫力をかもし出している。

「‥‥‥‥‥ちょ、ちょっと怪物!?それもかなり偏った異質な!?」

 かなり冷や汗をかきながら後ずさる彼女に向かって、どこかニヤリと笑った(ような雰囲気)かと思うと‥‥‥

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!??」

 昼の静かな境内に、凄まじい音波が響き渡る。一番近くで直接聞かされた彼女の意識はす〜っと消えていくのであった‥‥‥

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
龍零鳳(ga2816
20歳・♂・CA
佐賀 剛鉄(gb6897
17歳・♀・PN
ノエル・アーカレイド(gb9437
20歳・♀・ER
蒼 零奈(gc6291
19歳・♀・PN
アメリア・カーラシア(gc6366
17歳・♀・SN
リル・ミュー(gc6434
15歳・♂・DG

●リプレイ本文

●戦う前には準備を夜露死苦
「それでは〜、みなさん耳栓はちゃんと用意してきましたか〜?」

 の〜んびりとした声で皆に声をかけるのは、魔術師風の怪しげな衣服を着込んだノエル・アーカレイド(gb9437)。彼女は皆を見回しながら持ち物確認をしていた‥‥というのも、今回のターゲットは非常に特殊なキメラと聞いていたからだ。そのキメラとは‥‥

「神社に仏像‥‥それにギター‥‥。何かを間違って‥‥ここに来たとしか‥‥思えない‥」

 淡々とした声で呟きながら耳栓を取り出しているのは幡多野 克(ga0444)である。今回のキメラは仏像の形をしており、巫女たちが言うにはリーゼントでギターを持って、騒音を鳴らしながら境内を闊歩しているのだという。何を書いてるか分からないかもしれないが、あくまでありのままの事実である。

「何だか罰当たりないでたちですね‥‥。駄目です、私達で何とかしませんと‥‥」
「カタツムリに火焔巨人で、仏像ねぇ‥‥。硬いキメラにホント縁があるなぁ、にはは」

 自身が巫女の服装をしているせいか、非常に場所と雰囲気がマッチしている石動 小夜子(ga0121)と、ノエルと同じ魔術師風の衣装を身に纏った(ただ身体の一部分は大きく違っているが)刃霧零奈(gc6291)がお互いに思いの丈を呟いている。それぞれ思うところがあるようだが、とにかく自分達までこんな騒音に巻き込まれては敵わないと耳栓はしっかり準備していた。

「とりあえず耳が聞こえない場所での戦いになるんだから、手信号でも決めておきたいな〜」
「そうやな〜。後はあらかじめ先回りして罠でもしかけとかんと、真正面からやと危ないしな〜」

 カチャカチャと自分の銃の点検をしながら皆に声をかけたアメリア・カーラシア(gc6366)の言葉に同調したのは、チャイナドレスで身を包み、少し離れた場所で穴を掘っている佐賀 剛鉄(gb6897)である。彼女達は少し開けた場所で、もうすぐ近づいてくるそのキメラを退治するために行動準備を行っていた。流石にまともに戦っては神社に被害が出かねない、そう考えた彼女達は、あらかじめ進行方向に罠を仕掛けてかかったところを集中攻撃する作戦を立てていた。なおかつ耳が聞こえないならお互いの行動も考えなくてはならない。そこで簡単に手信号を決めて、いざという時に備えていかねば‥‥そんな思い思いに皆が準備をしている中で、実に個性的な思いを持った参加者が二人。

「くそ‥‥頭がガンガンする‥‥はた迷惑な奴め‥‥三枚におろしてくれる‥‥」
「巫女さんにチャイナちゃん、そして魔女っ子(×2)に、あのジャケットの下は恐らくシスター‥‥くくっ、今回は可愛い女の子がいっぱいだね‥‥」

 新年のお参りに来ていたのだから‥‥という理由(?)で獅子舞を着ながら呪詛を呟いている龍零鳳(ga2816)と、ニヤニヤと参加者達を見回して幸せそうな顔をしているリル・ミュー(gc6434)。自身の欲望にとても忠実な彼らは、あくまでマイペース(隙あれば酒を飲んだり、女の子達をじっくり観察したり)に自分達の出撃準備を進めているようだ‥‥と、そうこうしている内に騒音が段々大きくなってくる。銃の点検を終えたアメリアが、穴を掘っている佐賀にひょいと声をかけた。そろそろ耳栓をしておかないと、近寄ってからでは遅い。

「よ〜し、そっちは準備出来きた〜?」
「ほんま、罰当たりな敵やでまったく‥‥っと、これで穴の大きさは十分やな。出来たで〜!!」
「あ、それじゃあ俺は報告を受けていた例のお姉さんを助けにいってくるよ〜。見つからないように遠回りで行かなくちゃいけないし」

 手をひょいと上げて、ごく真面目な顔で皆に声をかけるリル。リルはあらじめ別行動を取ると決めており、最初に被害を受けたという大学生を救出に行くようだった。一番近くで、それも恐らく長時間騒がれていたのだろうから、一刻も早く助け出さないと‥‥と考えているに違いない。‥‥恐らく。そんな彼の後ろから幡多野が、ころころと耳栓を転がしながら変わらず淡々とした調子で声をかける。

「‥‥十分気をつける。終わったら‥‥皆で初詣‥‥」
「あら〜、それは良い提案ですね〜。でしたら〜、怪我などしないよう気をつけませんと〜♪」
「ぬぅ、ならば我も参加せねばな‥‥こういう場ではお神酒や甘酒を飲むべきと相場が決まっておる」

 ノエルと龍が嬉しそうに同意をしたところで、ついに視認出来る位置にまで仏像が接近して来た。リルが一足早く遠回りで大学生を助けに行き、他の皆がそれぞれの位置へ立つ‥‥さあ、戦闘開始である。


●とことん喧嘩上等だぜベイベー!!
「ほらほら〜、こっちこっち〜♪」
「穴まで3メートル‥‥2メートル‥‥1メートル‥‥今です!!」
「よっしゃ、ウチの出番やな〜!!よいしょ〜!!」

 刃霧が挑発するようにキメラを引き付け、石動が軍師のごとく合図を出す。そして佐賀が仕掛けを引っ張るという連携が実に上手く働き、ただでさえ重たいキメラは完全にずぼっと穴に落ち込んでしまった。たとえお互いの声が聞こえなくても、手信号のやりとりを強化したお陰で皆の意思疎通は上手く働いているようだった。そしてキメラはというと、何とか出ようともがいているのだが‥‥重たい体が災いしてますますめり込んでいく有様である。しかしそれでもずりずりと前進を続けようとする為、メインの主通路に大きな溝が生まれようとしていた。

「これ以上好きに動かさせはしませんよ〜。覚悟して下さいね〜?」
「ふふ、神に懺悔なさい‥‥な〜んて、ね!!」

 境内をこれ以上傷つけてはならないとばかりに、かっこよく脱ぎ捨てたコートを省みず(一瞬だけ遠くからリルの強烈な視線が走った気配が‥‥)スキルを使って射撃を続けるアメリアと、後方から超機械で援護攻撃を仕掛けるノエルの前に段々と押されていく仏像。しかし‥‥それだけであっさり終わらないのが今回のキメラ。何と錫杖を使って、棒高跳びの要領で穴を抜き出たのだった。

「‥‥なん‥‥だと!?」
「ちょっとちょっと〜!! どうしてあんな体のキメラがオリンピック選手みたいな動きをするのよ〜!?」

 思わぬ動きに幡多野と刃霧が気を取られた瞬間、キメラは周囲の能力者達をオーディエンスと見なしたのか、ギターから出る音量をより一層大きくかき鳴らし始めた。その音波は並の大きさでは無く、耳栓を付けていても皆の行動を遅らせるには十分なものであった。これでもし付けていなかったらどうなっていた事か‥‥想像するだけで頭が痛くなる。しかしそんな音波の中で、あくまでマイペースに怒りを滾らせる男がいた。

「ぬぅ‥‥頭に響きおる‥‥ヒック‥‥ぎゃんぎゃん‥‥やかましいわ!!」

 酔っていたのかどうかは分からないが、龍にとってこの音波は少し大きめの雑音にしか感じなかったのだろう‥‥憤怒の表情で接近していくと、頭のリーゼント部分を狙って大包丁を振り下ろす。獅子舞の格好で包丁を持っている姿はまるでナマハゲを彷彿とさせるが‥‥深く気にしたら負けである。とにかく、流石に石製のリーゼントを砕くには若干力が足りなかったが、それでも音量を下げることには成功し、その隙を狙って石動が皆に号令の合図を送る。

「音が、小さくなりました‥‥皆さん、今です!!」
「いくら硬いといっても、集中攻撃したら砕けるはずだよっ!!いっけ〜〜!!」
「全ての力を注ぎ込み、確実に破壊する…!」

 刃霧の連続炎拳に、幡多野の急所を狙った月詠が確実に仏像の体を削り取っていく。そしてついにその体が大きく崩れる時が来た。その一瞬に佐賀の一撃が仏像の胴体部分に直撃した。

「神罰覿面 無に帰るべし!! とどめじゃあああ!! 悶絶昇天百裂撃!!」
「コトシモブッチギリデヨロシク〜〜〜〜〜〜!!」

 謎の断末魔を最後に崩れ去るリーゼント仏像キメラ。何とか道に出来た大きな溝と落とし穴以外に、境内に損害が出ずにすんだようだ。ふ〜っと安堵の息を吐いて銃を収めるアメリアが、ふと気付いて皆に声をかけた。

「ホント、色々と大変な相手だったわね〜‥‥あ、そういえばリルさんは大丈夫なのかしら?無事に学生さん達を避難させてくれてたら良いんだけど‥‥」
「ええと‥‥あ、確か戦闘中にちらっと見かけましたよ?ちゃんと被害を受けた巫女さんを背負いながら歩いていました。‥‥ちょっとだけ顔が変でしたけど」

 同じく乱れた黒髪を整えながら石動が呟く。リルが一体何を考えていたのかは全く分からない(としておこう)が、とにかく無事に皆を非難させてくれたのは間違いないようだ。安心した能力者達は、戦闘後の穴やキメラがつけた溝を修復した後で、リル達が待つ本殿の方へ結果報告をするべくにこやかに歩いていった。


●今年も平和に愛羅武勇
「う〜ん、う〜ん‥‥えい!! ‥‥やったね、大吉〜!!」
「さっすが零奈さん!! 俺もその運気にあやかりたいな〜!! ‥‥本当に、ね‥‥くく」
「‥‥‥‥小吉」

 遅まきながら初詣をしている刃霧の横で、一緒に横でリルと幡多野がおみくじを引いて楽しんでいた。大吉が出たらしく大喜びしている刃霧と、若干不満げにくじを見ている播多野‥‥若干リルの視線が揺れる胸元辺りに向かってるのは、男であれば誰でも当たり前の事だと声を大にして言いたい。

「う〜〜い‥‥やっぱ良いとこのお酒は違うわな〜‥‥ヒック」
「ほらほら〜、そんな一気に飲んだら後でしんどくなるで〜? ほどほどにせんと〜」

 流石に獅子舞をつけて酒は飲めないと分かっていたのか、部屋の脇にどかっと置いて(顔がこっちを向いているので若干怖いが)満面の笑みで酒を煽っている龍を、少しあきれながらも一緒に甘酒を飲んでる佐賀。その横にはすでに何本もの空き瓶が転がっており、それをノエルがにこにこと片付けていた。彼女にとってはこういう片付けもきっと楽しい作業の一つなのだろう‥‥実に良い人である。

「ふふ、皆さん本当に楽しそうですね〜。何だか見ている私まで楽しくなってしまいます〜♪」
「まあこういうのが依頼の楽しみでもあるんだし、私達も一緒に楽しみましょうか、ね?」
「わしゃ〜〜いつまででも〜〜現役じゃぞ〜い!!‥‥‥‥新年から眼福じゃ」

 同じように甘酒を飲んで少し頬を赤くしているアメリアが、ノエルに声をかけながらにっこり杯を差し出し、神主は相変わらずぼけぼけ〜っと(?)している‥‥こんなにこやかな風景の中で、若干一名の姿が見えなかった。

‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥
‥‥

「え、ええと〜、私はここの巫女では無いのですけど‥‥」
「ほらほら、次の参拝客が参られたわよ!? もたもたしないの!!」
「だ、だからええと〜〜〜!?」
「ほら顔が固い!!あくまでにこやかに対応しつつ、心では常にお客は金だと考える!!そうすれば自然と笑顔になれるわ!!」

 何故か助けた巫女達に混ざって、あたわたと破魔矢などを販売している石動の姿があったという‥‥合掌。