●リプレイ本文
●奉納祭の中にて‥‥
ドンドンドン〜〜♪ ピ〜ヒャララ〜〜♪
周囲には明るい音色が響き渡り、集まった人々を照らす提灯の光は優しく輝いている。そう、季節外れのお祭り‥‥ではあるが、この街の人々にとっては大事な行事の一つ・『奉納祭』がこの神社で開かれていた。
「くくく、祭りですか!! 歌え、踊れ、飲んで、笑え、のどんちゃん騒ぎ!! これこそ祭りの醍醐味ですね!!」
「全く‥‥前の事をもう忘れてしまったのか。どんちゃん騒ぎにも限度と言うものがあるんだぞ?」
「何を言ってるのですか!! こういう場所でそういうクールな態度は、女性の目から見ても減点対象なんですよ!? もっと熱く、情熱的に燃え上がるのです!!」
「‥‥減点、か」
まさにテンションがマックスになっている住吉(
gc6879)に対して、あくまで普段通りの態度で返すエリク・バルフォア(
gc6648)だったが、住吉の一言に若干反応を見せている。前回の一件でマリーとの関係が大きく変わったと言える彼だったが、あくまで『表面上には』変化は見られなかった。
「そうですそうです!! もし私がエリク様の恋人だったりしたら、その一言でマイナス50点ですよ!?」
「む‥‥」
「それでは私は早速出店へ突撃してきます!! いくぞ英雄王!! 武器(注:サイフ)の貯蔵は充分か〜!?」
深く考え込むエリクを放っておいて、さっさと祭りの中へ突っ込んでいく住吉‥‥普段とは違う着物を着ていたのだが、それが何か関係しているのだろうか?
「‥‥‥マリーはどこだ」
あくまでさり気なく、しかし内面はさっきの住吉の言葉が刺さったまま周囲を見渡し始めるエリクであった‥‥
「なかなか盛大ですね‥‥楽しめそうな雰囲気です」
「そうですわね〜♪ こうして賑やかな場を見ていると、何もしなくても心が踊る気がします♪」
「え、ええと‥‥そうくっ付かれるとその‥‥」
心と言うより胸が大きく踊っているリアナを横目で見ながら周囲を見渡していた比良坂 和泉(
ga6549)。そんな彼を放すまいと身体ごと抱きついてきたリアナに、彼の鼓動は最初からクライマックスとなっていた‥‥まあそれはともかく、意外と気持ちが高ぶっているのは彼も同じ事であった。
「それじゃ、早速向こうの店へ行って見ましょうか。あそこは‥‥甘酒の無料配布みたいですね」
「あらあら〜、それは早く行かないと無くなってしまう恐れがありますわ。早く行きませんと♪」
「だ、だからそんなに引っ張らなくても大丈夫ですよ!! ‥って意外と力が強い〜!?」
ぐいぐいと引っ張られるがままの比良坂‥‥そんな彼から少し離れた所で、マリーがユキメ・フローズン(
gc6915)と一緒にチョコバナナの屋台の前にいた。しかしその顔は、一生懸命あちこちを見渡しているようにも見える。
「ごめんなさい、それ一つ貰えないかしら? ‥‥あら、マリー様? どうかしたの?」
「い、いえその‥‥エリクさんが見えなかったらちょっと‥‥」
「ふふ、大丈夫よ。あなたとエリク様は以前よりずっと強い絆で結ばれているわ‥‥私には分かるもの」
「だ、だからそういう意味じゃなくてね‥‥!?」
クスクスと微笑んでいるユキメの言葉に、一気に顔が赤くなってしまうマリー。なかなか素直になれない性格だったが、ようやく前回の一件で前に進めた様子の彼女。しかし、まだまだ周囲からはやし立てられるのには慣れていない様子である。
「‥‥何て言うかその‥‥恥ずかしいじゃない‥‥」
「そうね‥‥そういう方向に深いアドバイスは出来ないけど、一つだけ。きっとマリー様が思っている以上に、あの人はあなたを信頼しているわ。それだけは信じて頂戴」
「ユキメさん‥‥」
にっこりと微笑みながらチョコバナナを舐めているユキメを見ながら、どこかほっと心の重みが取れていったような感覚を覚えるマリー。と、そこへ‥‥
「‥‥あ、エリクさんだわ!! ねぇ〜!? こっちこっち〜〜!!」
「ふふ‥‥どうやらお相手が見つかったみたいね。それじゃあ私は失礼させてもらおうかしら」
人の群れの向こうでエリクの黒髪を発見した様子のマリーを見て、そのまますっと離れていくユキメ。その歩く先にはたこ焼きやべっ甲飴の屋台‥‥
「‥‥さて、どれから見て回りましょうか‥‥」
「はい和泉さん♪ あ〜ん♪」
「ちょ、ちょっとそれは二人っきりの時だけで‥‥!!」
「だって〜、今は『二人っきり』、ですわよね♪ ‥‥ふふ、ほっぺにチョコレートが♪」
「〜〜〜!!?? い、今、ほ、頬に‥‥!?」
「‥‥退屈はしなさそうね」
今にも倒れそうになっている比良坂を介抱しようと、ため息をつきながら歩き出すユキメであった‥‥
「結構色々出揃ってるもんだね。人も結構‥‥」
「あ! あんな所に射的!! ね、庚一? スナイパーでしょ? 腕の見せ所じゃない♪」
「‥‥たまにはこういうのを真面目にやるのも悪くはない、か」
射的の出店の前で、きゃいきゃいと騒いでいる香月透子(
gc7078)に引っ張られながらライフルの弾を装填している鈴木庚一(
gc7077)。あくまで『元』婚約者らしいのだが‥‥どう見てもお祭りを楽しんでいるカップルにしか見えない。
「何か欲しい物があったら取ってやるぞ。無ければ勝手に‥‥」
「ほらほら、あのクマのぬいぐるみとか可愛い〜!! あれを狙ってよ〜!!」
「‥‥分かった。外れても文句言うなよ」
そう言いながらもキッチリと狙いを外さないのは、スナイパーたる所以の事だろう。一発では落ちなかったぬいぐるみも、立て続けに連射で撃たれるとカタンと後ろに落ちてしまった。
「ほら、やるよ」
「あ、あの、その‥‥っ、あ、ありがとっ!!」
「落としたりするなよ? それじゃ次に行くか」
素っ気無く言いながら先に向かう彼の後ろ姿を見ながら、慌ててぬいぐるみを抱き抱えながら走り出す香月‥‥その足取りは軽い。少し歩き出すタイミングが遅れたのは彼の横顔に見惚れていたから‥‥というのは内緒である。合掌。
「よいしょ!! あらよっと!! ‥‥ふぅ、こんな感じでしょうか」
「へ〜。こんな特技があっただなんて知らなかったわ〜‥‥凄いじゃない!!」
「ふむ、なかなかの手際だ‥‥感心する」
マリーとエリクが足を止めた屋台。ここは終夜・無月(
ga3084)が開いている屋台なのだが、彼の出す品物は様々だ。和洋中、そしてありとあらゆるデザートまで用意するという万能っぷりである。しかもその作業工程がかなり派手で、思わず足を止めて見たくなってしまうような荘厳さを放っていた。
「前回は急な飛込み依頼で本番に顔出しが出来ませんでしたし‥‥今日はたっぷり食べていって下さい」
「ふふ、是非そうさせてもらうわ。エリクさんもいいでしょ?」
「ああ、問題ない。‥‥しかし、能力をそっち方面に生かすとは、君もやるな」
「いえいえ、慣れれば皆さんにも出来ますよ。‥‥それじゃ、次は‥‥!!」
放り投げた食材を空中で細切れにし、落ちてきた先には既に鍋が用意。そして手を伸ばした材料を入れたかと思うとすぐさま冷蔵庫に‥‥
「うははは〜〜♪ 食〜べ物〜一杯〜♪」
「ちょ、ちょっとあなたはローティシアさん!? どうして屋台の中に!? むしろいつの間に!?」
「気にしたら負け負け〜〜♪ あま〜いお菓子もたっくさん〜〜♪」
手を伸ばした先には、保存用のクーラーボックスからイチゴやらクッキーやらをばくばく食べているねこみみ少女・ローティシア(
gc7656)が『どかっと』鎮座していた。その口周りはクリームやら何やらでベタベタである。
「きゃははは〜♪ それじゃ〜次の店へGO〜なのだ〜♪」
「だ、だから勝手に食べないで下さい〜〜!! 待て〜〜!!」
「‥‥どうしようかしら」
「‥‥どうしようもあるまい」
ドタバタと走り回る終夜とローティシアを見ながら、肩のジャケットをかけなおしているマリーとエリク‥‥どうやら彼女がかかわる先には常にハプニングがあるようである。合掌。
こうして、祭りの時間は更けていく。
街の人々から強引(?)に薦められた結果、奉納の神楽舞を披露しているユキメを見てのん気に笑っているリアナと比良坂。
ドタバタと走り回るローティシアを捕まえようと、片手にフライパンとおたまを持ちながら追いかけている終夜。
甘酒を飲んで酔っ払った香月をおぶりながら(注:首元をぎゅ〜っと抱きしめられている)、ゆっくりと歩いている鈴木。
射的をしていた住吉を発見し、マリーが後ろから声をかけた拍子に的を外してしまい、冷静にからかっている(?)エリク。
思い思いの行動を楽しみながら、舞台は温泉施設へと戻っていった‥‥
●祭りの後で‥‥
「良いお湯ね‥‥冷たくなった身体を暖めるには最高の温度だわ」
「はい〜♪ やっぱり温泉は最高ですわ♪ あの時の舞も綺麗でしたしね♪」
「ふふ、良い経験にはなったわね」
ユキメがゆっくりとお湯を肩にかけながら浸かっている横では、全く同じ様な笑みで微笑んでいるリアナがいた。今回は『非常に』残念ながら、全ての女性陣が温泉に入っている訳では無い。こうしてのんびりお湯に浸かって笑っている二人の近くで、住吉がタオルを頭に載せながら和らいだ顔をしていた。
「楽しい時間も後僅かです。後悔の無いように、『存分に』楽しみましょうか♪」
「楽しむ‥‥? 住吉様、一体何を考えて‥‥」
ユキメが不思議そうに住吉の顔を見ていたのだが、その視線の先を見ていると‥‥
「うははは〜〜♪ ブラシブラシ〜〜♪ 滑って転んで失神〜♪」
「うふふ、本当に賑やかな子ですわね〜」
「ええと‥‥ここは突っ込むべきなのかしら‥‥?」
ローティシアが素っ裸のままでデッキブラシを床に擦りつけながら走っている。その様子はまるで掃除をしているようにも見えるが‥‥ただの遊びであろう。
「ご〜しご〜しかめさ〜ん、かめさ〜んよ〜♪ お〜まえのさきに〜は何がある〜♪」
「床も綺麗になりますし、ローティシアさんも楽しそうですし‥‥一石二鳥ですわね♪」
「‥‥久しぶりに、何か起こる気がするわ」
「だ〜いじょうぶですよ♪ 何が起こったとしても、それはきっと『思い出』になるだけです♪」
「‥‥‥」
全く安心できない言葉の住吉に微笑みかけられて、がくっと項垂れているユキメの頭には大きな暗雲が立ち込めているのだった‥‥
「ふぅ〜‥‥もうすぐ新年ですね〜‥‥」
「そうですね‥‥俺も今年は色々とありました‥‥」
男湯に浸かっているのは比良坂と終夜の二人。他の男達はそれぞれの休憩を楽しんでいる所なのであろう‥‥ここにはいなかった。
「やっぱり温泉は気持ち良いですね〜‥‥気負いなく入れるというのは素晴らし‥‥」
「‥‥? 何だか向こうで音がしたような?」
「‥‥‥」
終夜の一言にピタッと体が硬直する比良坂。こういう場面での役割は大体決まっている。きっと壁が倒れて比良坂が鼻血、そして終夜が介抱しながら退場。最早ワンパターンだ。お決まりのお決まりだ。
「ふっふっふ‥‥そう簡単にはやられませんよ‥‥リアナさんのお陰で耐性は上がっています!!」
「‥‥え〜と、比良坂さん。そうやっている暇があれば逃げた方が‥‥というか、それって死亡フラグ‥‥」
『ドッカ〜〜〜〜〜〜〜ン!!!!!』
‥‥‥‥
‥‥‥
‥‥
「‥‥何だ? 風呂の方で何か大きな気配が‥‥消えた?」
「も〜、こ〜いち〜!! もっといっしょにいるの〜〜!!」
「‥‥いや、今気にするべきはこっちか」
ここは祭りから戻った鈴木と香月の部屋。甘酒一杯でしっかりと潰れてしまった彼女を運んでここまで来たのだが‥‥戻っても絡まれているのはどうしたものか。
「ね〜ね〜‥‥らいねんもいっしょにいよ〜ね〜‥‥? こうやって『きせき』みたいにいっしょにいるんだから〜‥‥ずっといっしょでもおかしくないよね〜‥‥?」
「あ〜はいはい。俺もそう思うよ。だから今はじっと寝ておけ」
むぎゅ〜っと抱きついたまま離れない香月を、完全に諦めた表情でされるがままになっている鈴木。髪からほんのり香る香水の香りに、どこか懐かしい気持ちを感じながら‥‥彼は想いに耽る。
「全く‥‥透子、お前はさっき何を願った‥‥ま、知る由もない事なのは確かなんだが‥‥」
「む〜‥‥こ〜いち〜‥‥こ〜いち〜‥‥」
しっかりとクマのぬいぐるみを大事そうに抱えながら、それごと抱きついている香月の髪を梳いている‥‥まだまだ自身の気持ちがはっきりと決まっていない鈴木であった‥‥
「ふぅ‥‥温泉に来てあの子とお風呂が別々って、なかなか無かったわね‥‥」
「そうなのか。まあたまには良いだろう」
トクトクと徳利からお猪口へお酒を注いでいるエリクに、少し赤くなった顔で微笑んでいるマリー。二人だけの静かな時間を過ごしたい‥‥それは鈴木と香月だけでは無かった。
「こうやってエリクさんと一緒に飲むのも、もう何回目になるのかしら‥‥」
「何回だって良いじゃないか。これから先も長い付き合いになるんだから、な」
「むぅ〜‥‥卑怯よ‥‥そうやって真顔で恥ずかしい事を言うんだから」
ぷくっと子供みたいに頬を膨らませる顔も、リアナ以外にはまず見せない表情だ。そんな顔を見ながらそっと手を伸ばした‥‥その時、僅かによろめいてしまったのかエリクの体勢が少し崩れた。
「ちょ、ちょっと大丈夫!?」
「あ、ああ‥‥すまない、少しだけ足にきてしまったようだ‥‥」
潰れるまでもいかないが、若干気が緩んだのか足元がふら付いてしまった彼を、しっかりと正面から抱きとめたマリー‥‥その状態を再確認したのか、一気に顔が真っ赤になる。
「え、ええとその‥‥そ、そろそろ離れて‥‥」
「‥‥もうしばらく、このままでいさせてくれないか‥‥すまない」
「‥‥もう、分かったわよ‥‥仕方ないんだから‥‥」
彼が既に離れられる状態なのは分かっていた‥‥しかし、口には出さずともお互いの気持ちを理解していた二人は、しばらくそのままで温もりを感じあっていたのだった‥‥合掌。
「うははは〜〜〜!! このシーンをばっちり録画だ〜〜!!」
「ふむふむ‥‥男子勢は二人、なれどもその素材は極上ですね♪」
「な、何を冷静に分析してるのよ!? このままじゃあの人が出血多量で死んでしまうわ!!」
「あらあら♪ こういう場合は、一番の犯人は誰になるのでしょうか♪」
「‥‥‥(反応が無い。ただの屍のようだ)」
「ちょ、ちょっとこれは俺でもマズイと分かりますよ!? というかこういう場合は逆なんじゃ!?」
倒れた壁の向こうに広がった桃天国。それを一番正面から見てしまったのは、なんと終夜の方であったという‥‥合掌。