●リプレイ本文
●集まった能力者達‥‥
ここは【さらさの湯】のロビー。集まった能力者の皆々は、見知った顔もあれば初対面の面々もいた‥‥。
「ありがとうリアナ。この様な機会をくれて、感謝している」
「ふふ、蕾霧は真面目ですね。でも、私からも御礼を言わせて頂きましょう」
白い着流しから覗く『谷間』があらゆる者の目を引く蕾霧(
gc7044)と、その横ですっと立っている黒髪の麗人・紅苑(
gc7057)が揃って挨拶する。二人は初対面になるが、あくまで『恋人』同士、水入らずの温泉を楽しみに来た‥‥といった所だ。
「今まで危険な依頼が多かったからな‥‥」
「全くですね‥‥あ、勿論私は蕾霧と一緒の部屋ですよ?」
「ふふふ、分かっていますわ♪ その辺りの【事情】は全く問題なしです♪」
「感謝する。ではとりあえず先に荷物を置きに行こうか」
リアナに御礼を言った後、二人で仲睦まじく歩き出す後姿は‥‥まるで女性同士である事を忘れるかのようなラブラブっぷりであった。
「あ、リアナさんにマリーさん。今回はお誘いありがとうございます〜」
二人が去った瞬間に後ろからかけられる声‥‥振り向いた先には月隠 朔夜(
gc7397)がぺこりと頭を下げている。
「いえいえ♪ 月隠さんもゆっくりと遊んでいって下さいね〜?」
「はい。‥‥あ、別に後で良いのですけど、少し相談に乗ってもらいたい事がありまして」
「分かりましたわ♪ では宴会の時にでもゆっくり聞きましょうか♪」
「‥‥絶対普通に終わらない気がするわ‥‥」
リアナののんきな答えに、軽く頭を抱えるマリーだが‥‥特に気にする事も無く自身の部屋へ歩いていった月隠。
「さ〜て、それじゃあ私達もそろそろ‥‥」
「お・ね・え・さ・ま〜〜♪ ただいまショッピングから戻りましたよ〜〜♪」
「ちょ、ちょっと何なのその荷物は!?」
ふと気を抜いた瞬間にドアから飛び込んできたのは、最早お馴染みとなった住吉(
gc6879)であった。その手にはマリーが思わず目を見張るほどの大量の買い物袋がある。
「ふふふ〜、勿論このクリスマス商戦を生かして買い漁った『戦利品』の数々です♪ 御姉様に似合うような下着も見つけてきましたので、後で試着をお手伝いしますね?」
「だ、だからどうしてあんたはそういう事には全力なのよ!!」
「全く‥‥よくもあれだけ騒いで飽きないもんだな」
きゃいきゃいとじゃれ合っている(?)二人を、少し離れた場所から見ている二人の男女がいた。両手をポケットに突っ込んだまま冷めた目で見ている鈴木庚一(
gc7077)と、彼の横で何やら顔を赤くしている香月透子(
gc7078)である。
「え、え〜と、ちょっとだけ聞きたい事があるんだけど‥‥」
「‥‥何だ?」
向こうを向いたまま答えている鈴木に対して、若干もじもじしながら配られた部屋のキー番号を見ている香月。そのキーは、『二人で一つ』しか渡されていない。つまり‥‥
「何て言うか、ナチュラルに同室なんですけど‥‥?」
「それが何か問題でも?」
「い、いやその〜‥‥何て言うか‥‥」
「‥‥変な奴だな。とりあえず荷物を置いたら先に風呂へ行って来る」
「ちょ、ちょっと先に行かないでよ!?」
全く気に留めない様子でさっさと歩き出す鈴木を慌てて追いかける香月だが‥‥どうやら彼らの間には色々と過去がありそうである。そんな二人から離れた場所で、普段ならマリー達の近くで話をしているはずの常連さんが一人。
「‥‥全く、どうしたものか」
エリク・バルフォア(
gc6648)は悩んでいた。最近ずっと心にひっかかる胸の固まり、それに今までの自分が崩されていくような感覚‥‥
「‥‥いい加減に腹を括るか。これ以上無様を晒すのも癪だ」
果たして何に対して腹を括るのか、それはまだ秘密であった‥‥
「‥‥協力、感謝するわ」
「いえいえ、あくまで皆さんに楽しんで頂くのが私達のお仕事なんですから♪」
「ええ‥‥それじゃ、楽器の演奏の手配も御願いするわね?」
「はい、畏まりました♪」
何やらごそごそと暗躍しているユキメ・フローズン(
gc6915)と女将‥‥彼女達は一体何をしようとしているのか? それもまた、後の秘密である‥‥
●まずは軽く宴会にて‥‥
「ほらほら御姉様〜♪ 今ここにお豆さんが落ちましたよ〜?」
「ちょ、ちょっとどこに手を入れてるのよあんた‥‥ひゃん!?」
「おやおや〜? 何だか面白い声が出ましたよ〜‥‥クスクス♪」
「‥‥‥全く、それぐらいにしておけ住吉」
ここは大広間。にやにや笑いの住吉に胸元へ手を潜り込まされて、片手にお酒を持ったまま顔を真っ赤にしているマリー‥‥という光景を見ながら、若干遅れた反応を返しているエリク。その視線がどこを向いてしまっていたのか、それはあえて問わないでおくのが優しさである。
「ふふふ〜‥‥宴会の醍醐味はお酒!! そしてどんちゃん騒ぎ!! これが無くして何が宴会ですか!?」
「だ、だから落ちたのは私が自分で拾うから‥‥ぅん!?」
「‥‥今、身体が反応しましたね〜‥‥♪ もしかして『コッチ』のお豆さんが‥‥」
「ま、待て住吉!! それ以上は色々な意味でマズイ!!」
すす〜っと浴衣の隙間へ手を差し入れる住吉を、大慌てで振り解こうとするエリク。その顔にいつもの余裕そうな顔は見られなかった‥‥その理由は(以下略
「全くもう‥‥ホントに油断も隙もないわね」
「‥‥あ〜、マリー。実はその‥‥後で話があるんだが‥‥」
「え、勿論良いけど‥‥ここじゃマズイ話?」
「ああ。色々とまずい。『色々と』な‥‥」
なにやら決意したような顔の彼を見て、少しだけドキッとしながらお酒を飲むマリーであった‥‥
「それでは一曲、デュエットで何かやろうと思います。蕾霧、行きますよ?」
「ああ。いつでも」
軽快な音と共に流れ出したデュエット用のポップス曲に合わせて歌いだす紅苑と蕾霧。その歌声は、まるで最初から一つの歌であるかのような合致さを見せつけ皆を魅了していた。そんな彼女達の歌を聴きながら、ふにゃふにゃ〜っと崩れ落ちている香月‥‥
「ふにゃ〜‥‥おそらが〜さんかくしかく〜♪」
「‥‥で、潰れたわけだ。全く困った奴だお前は」
そんな彼女を片手で胸元に寄せながらため息をついている鈴木。だが、その顔は本気で嫌がっている様子は見られない。そんな彼を良いことに、にへら〜っと笑ったまま顔を胸元にすりすりと擦りつけている彼女‥‥
「ね〜こーいち〜。あたしの〜こと〜〜、まだすき〜?」
「あー‥‥落ち着け透子。お前は今完全に酔っている」
「ね〜ね〜。はなしをそらさないでよこーいち〜‥‥ふにゃ〜」
「‥‥全く、いつになっても世話のかかる奴だ‥‥」
むぅ〜っと頬を膨らませながらずずいと顔を近づけた彼女だったが、どうやら限界だったらしくそのまま腕の中へ沈んでいく。そんな彼女を抱えてそっと部屋を出て行く彼を見た紅苑と蕾霧は、あえて見なかったふりをして歌を続ける。
「さあ、次の曲へ移りますよ!! 続いては‥‥『君と私のロンド&ロンド』!!」
「ふふふ、そう来たか‥‥さて、私も遅れるわけにはいかない‥‥な!!」
そして、また二人のデュエットが始まった‥‥
「じ、実はその‥‥私、結婚する事になりました‥‥ですが、最近その人に会えない日が続きまして‥‥」
「あらあら〜。それは色々と大変ですわね〜。大切な方と会えないのは寂しいものですわ」
なにやら神妙そうな顔でリアナに話を持ちかけている月隠。まだ未成年なのでお酒は飲めないが、その代わりにオレンジジュースのグラスを片手に、若干俯き加減で話しかけていた。
「う〜ん、そうですわね〜‥‥一度思い切って自分から飛び込んでみるのはいかがですか?」
「飛び込む、ですか‥‥? 例えばどうやって‥‥」
「ふふふ‥‥二人っきりの時に〜、『明かりを消して下さい‥‥』と囁いてみるのはどうですか♪」
「〜〜!? そ、そういうのは流石に恥ずかしいのですけど!?」
そんな月隠が顔を赤くしたり青くしたりしていると、ちょうど紅苑と蕾霧の歌が終わった。パチパチパチと拍手が起こる中で二人が舞台を降りて行ったその時、
「‥‥おやおや〜? 何だか雰囲気が変わりましたわね〜」
「そうですね‥‥何と言いますか、和風でありながらまた違った‥‥」
流れてくるツヅラと笛の音、そしてゆっくりと現れる綺麗な芸子‥‥勿論その正体はユキメだったのだが、その見事な化粧と、普段とは違う迫力に、彼女だと気付いた者は‥‥
「ふわ〜‥‥綺麗な人ですね〜。ここの施設が雇っている人なのでしょうか?」
「〜〜? もしかして月隠さんは気付いて無いのですか?」
「え、もしかして知ってる人なのですか?」
「‥‥いえいえ〜、とっても綺麗な方ですから、どこかで見た事があるのかと〜♪」
全く気付いていない月隠に、いつものぽわぽわ笑みで答えるリアナ。こういう場では何も考えずに楽しむのが『お約束』というものであろう‥‥
●その後の能力者達‥‥
「ど〜だ、少しは戻ったか?」
「え、ええ‥‥迷惑かけちゃったわ‥‥」
月明かりの下で、ゆっくりと庭を歩いている鈴木と香月。先ほどの酔いは冷めたのか、少し顔を赤くしながら彼女は俯いていた。
「‥‥ねえ庚一‥‥そ、その‥‥月が、綺麗よね‥‥」
「あー、まあ綺麗な月だな。うん、綺麗だ」
「うん‥‥綺麗よね‥‥」
そのまま言葉が止まってしまう香月‥‥と、その時不意に強い風が吹く。冬の風はとても冷たく、まるで二人を試しているかのようであった。かつては婚約者同士だった二人。別れてしまった事実は変わらないが、それでもまだ二人の心の中に残っている想い‥‥それは、果たしてどこまで繋げる事が出来るのだろうか。
「‥‥そ、それにしても寒すぎっ!! 綺麗な星もステキだけど、やっぱり外は寒いわ!!」
「ま、冬だしな。‥‥そういや、二人で旅行なんて何年ぶりかね‥‥」
「え? そういえば‥‥忘れちゃってたわね‥‥。でもまあ、気が向いたらいつでも行けるんだから、ね?」
「‥‥ああ。たまには悪くない‥‥な」
ぶるっと震えた香月の肩にそっとコートをかけてやる鈴木‥‥彼らが今後どのような人生を歩むのか、それはまさに神のみぞ知る‥‥といったところであろう。
所変わってここは温泉場。かなり広い露天浴場だけに、それぞれ思い思いの行動をして気を休めている皆々であった。
「ふふ、あなたの身体は本当に綺麗ですね‥‥洗っていると、それが良く分かります」
「そう言って貰えるのは嬉しいな。後で私も紅苑を洗わせて貰おう」
ゆっくりと泡をつけたタオルで蕾霧の肌を擦っていく紅苑‥‥小麦色の肌に泡立つ白い石鹸がゆっくりと背中・臀部へと流れていく様は、なかなかに美麗なものであった。そして彼女が気持ち良くなれる部分を知り尽くしているのか‥‥その洗い方は慣れたものである。
「ふぅ〜‥‥そう、そこの辺りが気持ち良い‥‥やはり紅苑は‥‥上手い、な‥‥」
「いえ、私はただ蕾霧の事を考えて洗っているだけですよ‥‥たまにはこういうのも、良いですよね」
そう言った後、洗っていた手を止めて、ゆっくりと背中から身体を被せていく紅苑‥‥むにゅっと潰れた二つの果実を背中で感じながら、すっと顔が赤くなっていく蕾霧が呟く。
「その‥‥いつも傍に居てくれて‥‥ありがとう‥‥あの時の婚約も、いくら言葉を重ねても足りないくらい、嬉しかった‥‥」
「こちらこそありがとう、蕾霧‥‥これからも、末永く御願いします‥‥ね‥‥?」
「ぅん‥‥はぁ‥‥ああ、これからも頼、む‥‥」
至近距離で振り向いた蕾霧の頬に、自身の頬を当ててすっと目を閉じている紅苑の顔は、心から安心した表情であった‥‥ちなみに、彼女が荒い息を漏らしながら息を吐いているのに深い意味は無い。合掌。
「ん、ん〜〜‥‥温泉気持ちいい〜〜♪」
「それにしても、本当に気付いて無かったのですわね〜」
「ふふふ、ドッキリ成功、かしらね?」
お湯の中で思いっきり腕を伸ばして胸を逸らしている月隠の隣では、リアナとユキメがクスクスと微笑んでいた。先ほどまで優雅に、そして見事に芸子として演舞をしていた彼女がユキメだった事に気付いたのは、どうやらリアナだけであったようだ。
「でも全く気付きませんでしたね〜。それにとっても綺麗でしたよ?」
「ふふ、ありがとう。ちょっとした隠れ技、といったところかしら」
「あら〜、私はすぐに気付きましたわよ♪」
そんなのん気な会話を楽しみながら温泉に浸かっている三人の所へ、てこてことお酒の載ったお盆を持って歩いてくる住吉がいた。すぐに気付いたリアナがひょこひょこと手を振る。
「あらあら〜、住吉さんもこちらへ来ませんか〜?」
「はい、勿論行かせて貰います♪ せっかくの温泉ですし、夜景を楽しみながらのお酒は欠かせません♪」
にっこりと微笑みながら足を浸けて行く彼女‥‥しかし、ふと疑問に思った事が一つ。『それ』に気付いたユキメがゆっくりと小首を傾げながら住吉に問いかけた。
「‥‥少し、聞きたい事があるのだけど‥‥良いかしら?」
「何でしょう? ちなみに御姉様への愛なら無限大ですよ?」
「いえ、そういう事では無いのだけど‥‥あなたって、何歳‥‥?」
「「「‥‥‥‥」」」
『お酒』をゆっくりと傾けたままの姿勢で止まる住吉と、同じく笑顔のまま硬直しているリアナに月隠‥‥女性の年齢は地球より重いのである‥‥結論。
ここは玄関横にある大きなもみの木がある広場。今はクリスマスの飾りで彩られていて綺麗に光っている木の下で、二人の若い男女が立っていた。
「え、え〜と‥‥それで話、って?」
「あ、ああ‥‥その、この前の話の続きなんだが‥‥」
エリクがぽつりと呟いた言葉に、少し身を緊張させるマリー。少しばかりの沈黙の後、続けて彼が言葉を続ける。
「‥‥最近、自分でも変わってきたという自覚があってな‥‥恐らく、君や周りの連中の影響だろう」
「そ、そう‥‥ま、まあ確かに笑顔や焦り顔も増えてきたわよね!?」
少し緊張を解そうと大きめの声で笑うマリー。そんな彼女を、今までに無い優しさの篭った顔で見つめながらエリクは声を出す。
「特に君だな‥‥僕が変わったのは、間違いなく君の存在が大きい。色々と変わる表情、仕草、その全てが僕の目に眩しく写る」
そこまで言ってから、ふと息を吐いて‥‥そして、告げる。
「出来れば‥‥これからもずっと、傍にいて欲しい。君が嫌で無ければ、ずっと‥‥」
「‥‥!?」
その言葉の意味に気付かない彼女では無い。途端に顔が真っ赤になってぷしゅ〜っと頭から湯気が立ち上ったかと思うと‥‥しばらくの間の後、コクンと恥ずかしそうに頷く。
「‥‥な、何て言うかその‥‥わ、私からも一緒にいて欲しいな〜‥‥なんて‥‥」
「マリー‥‥」
そっと近づいて抱きしめ合う二人の姿を、クリスマスツリーのイルミネーションが優しく照らし出していた‥‥