●リプレイ本文
●森の入り口付近にて‥‥
鬱蒼とした森の中をがさがさと音を立てながら歩き続ける能力者達。皆の警戒は最初からぴりぴりと張り詰めており、いかなる気配も見逃すまいと注意を払っていた。
「今回も中々厳しそうだねぇ‥‥ま、やる事やるだけだけど」
「ふふふ〜‥‥こうして歩いていると、まるで気分は某考古学者ですね〜♪ ちゃ〜ちゃちゃちゃ〜ん♪」
「‥‥よっしー、何だか随分ご機嫌だね‥‥」
「勿論ですよ〜♪ こう何て言いますか、【秘宝、ゲットだぜ〜!!】みたいな感じです♪」
「‥‥それはきっと違うゲームだよ?」
いつもの着物姿に白衣‥‥の住吉(
gc6879)がうきうきとリアナ・マリーの右隣を歩いている後ろで、軽く苦笑いをしながらケープを巻き直している常木 明(
gc6409)。なかなか目立つ虎柄のケープだが、その模様は森に隠れる迷彩模様を彷彿と‥‥させるには厳しいかもしれない。
「あらあら、今回も賑やかで楽しそうな感じですわ♪」
「全く、あんたはもう少し緊張感を持ちなさい。‥‥あ、シクルさんは大丈夫?」
「うん、勿論大丈夫だよ。マリーさん達も能力者じゃないんだから無理しないでね」
にこにことマイペースに微笑んでいるリアナを軽くたしなめながら、後ろにいるシクル・ハーツ(
gc1986)に声をかけるマリー。森の中を歩くにはちょっと厳しいかもしれない着物姿ではあるが、彼女にとっては全く支障無さそうな様子である。
「それにしても、今回は難しそうなクスリを作ろうとしてるんだね?」
「はい〜。‥‥ふふ、私も少し次のステップへ進まなくてはいけないと思い始めまして〜♪」
「満月の花、ですか‥‥おとぎ話に出てきそうな、綺麗な名前ですね。由来などはあるのですか?」
同じくシクルと一緒に護衛対象のバックを守っていたクゥオーター(
gb9452)が、黒髪を軽く風になびかせながら聞き返す。彼女は本物の迷彩服を着込んでおり、まさに森林に溶け込み‥‥するには隣のシクルの青髪・着物姿が目立っており、逆に雰囲気を際立たせてしまっていた。
「いや、本当の名前は他にあるんだけど、この子が勝手に名づけちゃってるのよね‥‥」
「だって〜、何だかやけに長くて難しい名前なんですもの〜。だったら分かりやすくて綺麗な名前の方が良いですよね〜?」
「なるほど。まさに質実剛健、といったところですね‥‥感心しました」
「‥‥本気、なのかな?」
大真面目に頷くクゥオーターを見て、若干冷や汗をかいているシクル。そんな話をしている前では、またもや森を賑わせるような元気な歌が聞こえてきた‥‥
「ちゃら〜男がと〜と〜大団〜円〜♪ く〜ず鉄〜押〜し込んでま〜たあ〜した〜♪」
「だ、だからもう俺をいじるのは止めて下さい〜!! さっきのだってあくまで少し緊張していただけで‥‥!!」
「ふ〜〜〜ん。『少し』なんだ〜。あ〜んだけ動揺してたのにね〜?」
「ろ、ローティシアさん〜!!」
「きゃははは〜〜!!」
どたばたと寸劇を繰り広げているローティシア(
gc7656)と比良坂 和泉(
ga6549)を見て、は〜〜っとため息をつくのはエリク・バルフォア(
gc6648)。
「全く‥‥まだ入り口とは言え、そんな大声でバタバタしてどうする。‥‥それに比良坂。きみのさっきの態度を見ていれば、誰だって何かに感づくぞ?」
「い、いやだからあくまでリアナさんに挨拶をしようとしただけで、他意は全くありません!!」
「あらあら〜、そう断定されるのは寂しいですわよ〜? せっかくあんなに『熱い夜』を過ごしたといいますのに‥‥」
「〜〜〜〜〜!!??」
少し目元を押さえてクスンクスンとさせながら(注:思いっきり嘘泣き)発するリアナの爆弾発言を聞いて、思わずアス●ロンがかかる比良坂。
「それで、その『熱い夜』とはなんですか〜?」
「いや、何と言うか以前の公共温泉施設で起こった出来事なのだが‥‥ところで月隠、その袴は歩きにくく無いのか?」
「〜〜〜? 特に何ともありませんよ〜?」
「‥‥そうか、なら何も言うまい」
エリクの近くですす〜っと歩いている月隠 朔夜(
gc7397)を見て、思わず声をかけてしまった彼だったが‥‥少し気持ちは分かる。のほほ〜んとした空気はリアナにそっくりなのだが、その格好は森を歩くには若干‥‥いや、結構不向きに見える。まあ今回は和装・着物率が高めなので違和感は無いのだが(注:シクル・住吉を合わせると、森の中で三人である)。
「そういえばその『満月の花』って、どんなものなのですか?」
「うん、あちきも気になったね。すぐに分かるのかな?」
「う〜ん、見ればすぐに分かりますけど‥‥とりあえず先に進みましょう〜♪」
なかなか不安の残る掛け声であったが‥‥リアナとマリーを守る能力者達は、深い森の中へと入っていくのであった。
●森の戦い‥‥(前編)
「う〜ん、なかなか見つからないですね〜‥‥」
「ホントに大丈夫なの? まあ一昨日から何の結果も無いけど‥‥」
もぐもぐと乾燥パンにスープを浸して食べているマリーの横では、何度か首を傾げながらも散策を続けているリアナの後ろ姿があった。早々に食べ終わった彼女は、あくまで皆の目が届く範囲ではあるが作業を続けている。
「んぐ、んぐ‥‥よし、俺も手伝いますよ」
「うふふ、ありがとうございます〜♪ ではこちらへ〜♪」
メロンパンを食べ終えた比良坂が散策を手伝おうと彼女に近づくと、待ってましたとばかりにぴと〜っと寄り添うリアナ。一気に桃色空間となった一角を見て、深くため息をつくのはエリク・マリーコンビだった。
「全く‥‥あれ以来、何だか吹っ切れたようだな‥‥」
「そうよね‥‥見せ付けられる私達の身にもなってみなさいよ‥‥」
「おや〜? 何だかこっちでもお揃いの空気を感じるんだけど〜‥‥?」
「ちょ、ちょっといきなり何言ってるのよ!?」
顔を真っ赤にして声を上げるマリーを見て、にやにやと微笑んでいる常木。‥‥と、その時隣でメロンパンを頬張っていた住吉が立ち上がる。
「くくく‥‥鬼さんみ〜つけた〜‥‥皆さん〜、右方向数メートル先から反応ですよ〜!!」
「‥‥‥!?」
食後の烏龍茶を飲んでいたクゥオーター(
gb9452)が立ち上がるのと同時に、足元へドスドスと突き刺さる数本の矢。後30センチ前なら直撃だっただろう。
「道具を使う、か‥‥知恵が働くな。さすがはエルフといったところ、か」
「あはは〜〜!! ぜ〜んぶやっつけちゃえ〜〜!!」
一瞬にして覚醒したシクルの目が鋭く光り、冷静に物事を観察‥‥している横では、これまた空気を読まない『撲殺少女』ローティシアがブ〜ンブ〜ンと大きくクギバットを振り回しながら突撃を開始。こう見えてしっかりSESを搭載している為、当たると‥‥
『グギャ〜〜〜〜〜〜〜!!!!』
「め〜いちゅ〜〜♪ やっぱりこれってすっご〜い♪」
「‥‥あなたの近くには近づかないようにしましょう‥‥」
少し描写に困るような光景と叫び声を上げながら倒れこむエルフを見て、かなり冷や汗をかきながら錫杖を構えているクゥオーター。しかし悩む暇も無く、縄張りに侵入してきた異物を追い出そうと迫ってくるエルフ達。
「あははー♪ 空高くふっ飛べです〜♪ ぜ〜んぶデストロ〜イ♪」
「‥‥多少の角度のずれは効果範囲の広さでカバーする‥‥!!」
銃をまさに曲芸の如く撃ちまくり、にこやかながらもその冷徹なまでの射撃は確実にエルフを仕留めていく月隠を見て、どこかデジャブを感じているエリクだったが‥‥戦闘の手は緩めない。
「やれやれ‥‥数が断定出来ないのは堪えるね〜」
「と、とりあえず一度集まって、ある程度数を減らしたら先に進まない!? これだときりが無いわ!!」
「ですね〜。この近辺は探しつくしたみたいですし、御姉様の言うとおり、さっさと進んでしまいましょう〜!!」
マリーが常木の後ろで身を守っていると、戻ってきた住吉が皆に号令をかけて強引に前進をかける。戦闘が長引くとそれだけリアナ達の身が危ない‥‥そう考えた皆は、ある程度反撃が収まると大急ぎで前進を開始したのだった‥‥
●森での戦い‥‥(後編)
「はふぅ〜‥‥何とか撒けたかな‥‥」
「もう少しで練力切れです‥‥少し休まないといけません」
カクンと項垂れてしゃがみ込んだクゥオーターの横では、息を切らせながらも周囲を見張っている常木。とりあえず細かい怪我などは多いものの、深手を負ったような者はいないようだった。
「ふ〜‥‥リアナさん、どこか怪我などはありませんか?」
「はい〜、全く大丈夫ですわ♪ ずっと傍で比良坂さんが守って下さっていましたし、ね♪」
「は〜いはい、おしゃべりはそこまで。リアナ、この辺りは何か分かる?」
マリーの手を叩く音にひょこっと顔を向けたリアナは、周囲をきょろきょろと見回す‥‥と、その目がある木の根元を指差している。その根元には小さな赤い花びらをつけた、まるで大き目の赤いタンポポのような花が咲いていた。
「あらあら〜、恐らくあれでは無いかと〜。図鑑に載ってる絵とも似ていますし〜‥‥」
「これが満月の花ですか‥‥何だか不思議な雰囲気ですね‥‥」
所々が泥で汚れてしまってはいたが、まだ少し元気のある月隠が興味深々に見ている‥‥とその時、不意に彼女へ襲い掛かる数本の緑色の触手!!
「え、え、ちょっと何ですか〜!?」
「あ〜!! 向こうから変な触手が伸びてきてるよ〜!?」
びし〜っとローティシアが指差す先には、うぞうぞと現れるウツボキメラの群れ。すぐさま戦闘態勢をとる皆だったが、先ほどの戦いの後なだけに若干疲れが出てきていて‥‥
「あら、あらら〜〜!?」
「か、体が‥‥動かない‥‥です‥‥」
ついにウツボキメラの触手に月隠にクゥオーターが捕らえられてしまった。早く助け出さないと嬉し‥‥いや、危ない目に合ってしまう!!
「う〜ん、なかなか危ないね〜‥‥とにかく今は助けない、と!!」
「は〜い!! それじゃ〜いっくよ〜!?」
すっと目を細めながらも刀を構える常木に、残り少ない練力を振り絞ってバットと銃を構えるローティシア。それにならってシクルと住吉もそれぞれの武器を装着し直した。
「それじゃ‥‥いくか!!」
「うふふ〜、某先生みたいに鞭でビシバシ!! ‥‥って出来ないのが残念ですけどね〜♪」
そして、リアナ達の採取時間を稼ぐ時間稼ぎが始まった。
「キメラさんキメラさん〜、これをあげましょ〜♪」
「全くも〜!! どれだけいるっていうのよ!!」
何とか花を採ろうと先に進むリアナとマリー達だが、やはり簡単にはいかないようである。意表をつく程度の力しか無いが、何とか爆弾や爆弾、そして爆弾を放り投げるリアナを見ながら護衛役として付いて来た比良坂とエリクが苦笑いする。
「全く‥‥リアナさんは本当に怖い物なしですね」
「ああ。だが‥‥僕達の役目は分かっているな?」
「勿論ですよ!! 彼女達には指一本触れさせません!!」
「‥‥指、なのだろうか?」
立ち塞がる敵を倒したり弾いたりしながら先に進んでいく4人‥‥そして、ついに『満月の花』を手に入れる事が出来たのだった!!
「よし、後は全力で退避だ!! マリーは僕に、リアナは比良坂に付いて‥‥走れ!!」
「リアナさん!! 行きますよ〜〜!!」
襲い来る触手や溶解液を何とか避けたり切り落としたりしながら全力で走り出し、何とかその場から逃げ切れたのであった‥‥
●そして帰還‥‥
「はぁ、はぁ‥‥何とか、逃げ切れた、みたい‥‥」
「ふぅ〜‥‥今回は流石に疲れたね〜‥‥皆、大丈夫〜?」
肩で息をしているマリーの横で、汗をかきながらも皆を見渡している常木。ここは初日のベースキャンプ場所で、先ほどの戦闘場所からほぼノンストップで走り続けただけに全員の疲労も大きかった。
「うぅ‥‥服がボロボロです‥‥」
「私もあちこち溶かされてしまって‥‥でもリアナさん達が無事で良かったです」
クゥオーターと月隠がタオルで身体を隠している場所から少し離れた木の陰では‥‥
「‥‥‥」
「あははは〜〜!! やっぱりチャラ男はチャラ男だ〜〜!!」
「ちょ、ちょっといきなり何を言ってるんですか!? これは少し頭に血が上りすぎただけです!!」
顔が赤いままじ〜っと上を見上げている姿を見て、やんややんやと騒ぎ立てるローティシアに大慌てで弁解する比良坂。流石にリアナによる『耐性』が構築されてきたのか、以前みたいに鼻血で気絶‥‥ということは無くなったが、やはり純情な性格は変わらないようである。
「全く‥‥あの人はいつもこんな感じですね」
「まあ仕方あるまい。だが、確かにきみは成長したものだ」
少し感心したように腕を組んで頷いているエリク。お互い長い付き合いになっているだけに、その成長は肌身に感じている事だろう。
「それは勿論ですとも!! なんせいつもリアナさんを見て鍛え‥‥」
「ん‥‥ぁ、ぁん‥‥そこ、そこが良いですわ‥‥♪」
「この辺りでしょうか‥‥やっぱり随分揉まないといけないですね‥‥」
「ぁん♪ そこは効きます〜‥‥何だか気持ちよくなってきましたわ‥‥♪」
「‥‥‥‥」
不意に聞こえてきたリアナの喘ぎ声(注:シクルによるマッサージ)を聞いて、必死に上を向いて鼻血を流し込み始める比良坂をそっと目を閉じて黙祷するエリク‥‥そして、近くで暗躍するハーモナーが一人。
「ふふふ〜、これはなかなか良い行動を見つけました‥‥♪ 疲れた御姉様を優しく揉みほぐし、そして目くるめくアナザーワールドへ‥‥♪」
「‥‥よっしー? 何だかあちきの家にいる時の顔になってるんだけど‥‥」
クスクスと微笑む住吉を見ながら軽く首を傾げている常木だが、ようやく皆の軽口が聞けるようになり一安心している部分もあった‥‥
後日、彼女の作成するクスリの為にまた新たな素材を取りに行かなくてはならないのだが‥‥それはまた別のお話である。合掌。