タイトル:【東京】静かの陸を乱すマスター:夕陽 紅

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/05/11 11:21

●オープニング本文


――天竜川。

諏訪湖の唯一の出口である長野県岡谷市の釜口水門を源流として、愛知をかすめ静岡を抜け遠州灘に注ぐ。
流域は急峻な地形のため、古くから『暴れ天竜』と呼ばれるほどの激流である。



「と、この川を遡ってだな。俺達は静岡基地を強襲するわけだ」
 とん、と指示棒で画面を叩くのは、ミシェル・カルヴァン(gz0416)。彼は今回の作戦の増援として欧州から部隊員共々出向して来た形となる。
「先程も説明したが、この作戦の主眼は基地を陥落させることにある。つまり、西方から進撃する一之瀬大尉旗下のUPC軍とお前さん方傭兵の混成部隊での襲撃、次いで俺達が東方から進軍。二正面作戦‥‥挟撃だ」
 で、だ。それだけじゃない、とやや悪戯っぽくミシェルは笑う。
「キモは、基地を直接攻略する歩兵部隊だ。防衛部隊を軒並み俺達が引き付けて、その隙に指令系統を完全に押さえちまおうって腹なわけだな。つまり、俺達の役目は、陽動だ」
 そこまでミシェルは語り、そして少し思案するような表情を見せた後に、口を開いた。
「これは、既にお前さん達にも伝わっていることだとは思うが、今作戦の目標である敵基地の防衛主戦力は、鹵獲されたKV、及びそのパイロット達だ。洗脳じゃあなく、近しい人間を人質に捕られて、従わされているらしい。それも、どいつもこいつも手練揃いときた」
 そこで口を閉じて、ミシェルは周囲を見渡す。これがどういうことかわかるか、と。
「俺が言いたい事はだな。手心を加えろってんじゃあ、勿論ない。むしろ、戦闘中にこの事実を知っちまって動揺されたら困るからだ。いいか‥‥同情がないっちゃ、嘘だ。俺だってそれくらいの感性はお袋の腹ん中に居た時に十分貰ってる。ただな、奴等は、もう一度言うぞ。手練だ。お前さん達にだって引けを取るどころの話じゃない。下手したら、全力で戦ったって死ぬかもしれん」
 勿論、俺達もな、と独り言のように呟いた。
「‥‥ま、釈迦に説法かもしれんがな。それくらい、万が一のことがあっちゃあならないくらい重要な作戦で、しかも厄介だってことは覚えといてくれ。この基地を奪取出来れば、東京奪還はぐんと楽になる筈だ。それじゃ、幸運を祈るぜ」



 南部和人は、人間である。
 どれだけ苦い思いをしようとも、同胞の命を奪っても、それだけは違いないことだ。
 彼は自室で家族の写真を眺める。どこか懐かしむような、哀しむような、そして奥に怒りを湛えた、そんな瞳だ。
 彼が許せないのは、バグアか、それとも己か、しかし、それは瑣末事に過ぎない。
 己の咎を抱えるしか出来ない。
 そんな彼の部屋に、ノックもせずに無遠慮に入ってくる影があった。
「南部クゥーン、元気かなァ?」
 金属同士が擦れ合うような硬質の声。その耳障りさに、南部和人はどうしても慣れることが出来ない。
 とはいえ、慣れる必要もない。己の敵にどうして慣れ、親しまねばならないのか。歯噛みをすると、唸る様にその闖入者を威圧した。
「‥‥何の用だ、腐れ外道めが」
「おォ、怖い怖い怖いなァ。そんなに怖ェ顔するなよぅゥゥヒヒ」
 怖い怖いと言いながら、そのニンゲンは一向に恐れらしきものを抱いていない。むしろそれが愉快でならないようにきしきし軋むように笑う。
「用が無いなら、出て行けアヴァリス。ここは貴様のような糞虫が入ってきていい場所じゃあない」
「おォォ、つれないこと言うなよ、上司にさァ。え、南部くん。裏切り者の南部和人くんクンくぅん?」
「‥‥貴様が仕組んだことだろうが」
 ギリ、と南部が歯を食いしばる。額に浮かぶ血管は、激怒のあまり弾けそうな程だ。
「そォう、仕組んだのは俺だ、オレサマだ。しかし翻ってお前はどうだ、南部クン。お前には選択肢があった筈だよゥ、家族も、部下も、何もかもォォを捨てて!! ぼろ雑巾みたいに捨て去って、俺の命を狙いに来る!! ‥‥そんな選択肢がさァ」
「そんなことを言いにきたのか、失せろ!!」
 南部が叫び、机を大きく叩く。鬼の如きその様に首を竦めたニンゲン――バグア、R.I.D=アヴァリスは首を竦めると、その3対の腕を組み、べぇと長い舌を出した。
「勿論ソンナ事じゃあ、ないさ。命令だよ命令ィ‥‥人間共が、迫ってきてる」
「‥‥規模は」
 どれほど憎い相手でも、戦闘となれば途端に頭が冷える。思わず姿勢を正してしまった自分に舌打ちする南部を愉快そうにニタァと見ると、アヴァリスは続けた。
「規模は結構なモンだなぁ。まだ全部は確認出来ちゃ居ないが、一気にこの基地を落とそうって腹らしいぜェ? お前の元のお仲間かもなァ‥‥ 東西から挟撃を仕掛けるつもり見たいだぜェ」
「‥‥フン、楽に行きそうにはないということか」
「そォいうことだ。だから、オマエにも戦闘配備で待機してもらうぜ、南部クンよォ」
「了解した」
 一言答えると、それ以上は言葉を交わすまいと立ち上がり部屋から出ようとする。
 そのすれ違い様。
「くれぐれも体は大事にしろよォォ、何せこの俺、俺オレ俺の大事な身体候補なんだからなぁオマエは」
「知ったことか、肥溜めにでも沈んで朽ちろ」
「それと、オマエのティターンもだよォオう? 万が一傷付いちゃったら、なァ? 哀しいィ結果になるものなァ?」
「貴様がそれを言うか‥‥!!」
 
 押し殺すように唸り、南部は荒々しい足取りで部屋を出て行った。その後も暫く、6本腕のバグアは部屋に佇み、己を抱きしめるように腕を回してキシキシと笑う。
「あァ‥‥たまんねェなァ。強いツヨイ黒い感情だァァ‥‥あァいう身体を頂いた後の身を焦がすような情報の奔流が‥‥たまんねェよォ、今すぐにでも喰っちまいてェェェ」
 熱い息を吐くと、首を上げたバグアは踵を返す。
「だがよォ、まだだまだだマダ、もう少し美味しく寝かせねェとなァ‥‥それに、挟撃かァ、クヒヒ。傭兵共も、中々に美味そうじゃないか。せいぜい、退屈させないでくれよォォ?」
 途方も無い悪意が、唸っていた。

●参加者一覧

如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
金城 エンタ(ga4154
14歳・♂・FC
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
劉斗・ウィンチェスター(gb2556
18歳・♂・HD
御守 剣清(gb6210
27歳・♂・PN
鹿島 灯華(gc1067
16歳・♀・JG
ラサ・ジェネシス(gc2273
16歳・♀・JG
功刀 元(gc2818
17歳・♂・HD

●リプレイ本文



 敵が、迫ってくる。
 暴れ天竜の傍ら、対峙するお互いの戦力は完全に拮抗しているように見えた。急流は、しかしその対立までも止める程にはならず、むしろその激突を暗示するかのように白い鬣を荒立てている。
 富士の裾野の古強者、教導隊の戦術は荒々しくも雄雄しい突撃ではなかった。その姿は前評判通り、じりじりと焦らす様な、見えない剣先を眉間に突きつけられるような、そんな重圧を傭兵とUPC兵士達に突きつけてきた。
『Ahhh‥‥雁首揃えてようこそ傭兵サン共YEAHHH!!』
 その中にあって1人だけ騒がしく、両手の長剣をギャリギャリギャリと擦り合わせながらけたたましく哄笑するティターンの姿があった。それこそがこの基地の要の一角であるバグアであり、この鹵獲戦力の元締め。それを目の当たりにしてUPC兵達の戦意が否応無しに高まるのを、傭兵達は感じた。
 ギリギリで弾丸が届くその間合いに入るやいなや、急速に互いの距離が、まるで音を立てて崩れるように縮まる。
 戦いの火蓋が、切って落とされた。



 バグア側は高機動かつ前衛特化の第二小隊を中心に据えたまま、左右両翼から第一、第三小隊が進軍する。はじめに狼煙を上げたのは第四小隊。後方で竜牙の部隊が一斉にその砲門を構え、異星人によって手を加えられた砲門から弾丸を轟音と共に撃ち出した。応えるように欧州軍のB小隊が弾幕を形成し、双方の前進を押し止めようとする。
 先んじて張り出してきた第三小隊、極端な前傾姿勢のまま先陣を切って襲い掛かってくるティターン。その鋭く重い連撃を機盾「ウル」で受け流すKVが一機。アルヴァイム(ga5051)は『字』を駆って敵の突撃を止めるとそのままそのトルクを以ってティターンを弾き飛ばした。立て直す為に数十mは飛び退り対峙するティターン。
「ここを通るなら、我を抜いて行け」
 その能力を活かし主力機の影響力を遮断するアルヴァイム、更に跳び退ったティターンに紅の機体、如月・由梨(ga1805)の駆る『シヴァ』が追い縋る。ブーストを常時使用し身の丈を軽く超える巨大な剣を担いで接近、振り下ろすシヴァをティターンは十字に構えた長剣で受け止める。超重量の巨大剣の質量にティターンの関節が盛大に金属音を鳴らして軋むが、力点をずらすと体勢を辛うじて立て直した。
『イィィィ!! イィねェイィねェBINBIN来るぜェェェ‥‥やっぱりこうでなくちゃなAHH!!』
 ギャリィンギャリィン!!
 スピーカー越しに戦場に声を撒き散らして不気味に佇むバグアに、漸く後続の小隊が追いつく。第一小隊がアルヴァイム、由梨、欧州A小隊と砲火を交わす間に第三小隊が前線を押し上げようと切り込んで来るが、そうはさせじと御守 剣清(gb6210)とイルファ(gc1067)が対応する。剣清のKV『鬼吼刃牙』はノワールデヴァステイターの射撃で敵のシラヌイSを後退させると、雷電の懐に潜り込んで接近戦を試みた。
「熱くなるのはいいですが、こちらは‥‥向こうの味方も忘れずに、ってとこですかね」
 あくまで命を取らないよう戦闘を試みる彼はSAMURAIソードで雷電の右腕を刈り取ろうとする。敵は裂傷を受けるが未だ沈まず。その雷電をフォローするように竜牙が射撃を行おうとする、その機体を弾丸が直撃し、攻撃は中断された。イルファの『グースヴィネ』がブーストで飛び込みラスターマシンガンを連射したのだ。第二小隊が未だ行動に出ない以上、彼女はそちらを警戒しつつも第三小隊の対応に当たる。
「人質‥‥取られているのですよね。複雑な心境ですが‥‥」
 恨まれてもそれまでだと。彼女の決意は固く、一つの目的を達成する為の弾丸と成っている。
 そうして先に突撃した第一・第三小隊に傭兵の前線を押さえさせ、B小隊に突撃しようとするのは高機動の第二小隊。教導隊らしいセオリーに則った作戦だが、それだけに傭兵側も予測済だ。ブーストで接近するタロスに金城 エンタ(ga4154)の『真・韋駄天』がハイ・ディフェンダーを掬い上げるように叩きつけると、受けきれずに腕をひしゃげさせて大きく後退する。しかし、その傷も少しずつではあるが、治癒しているのが判る。タロスの特性だ。タロスを盾にエンタを突破したシラヌイ3機だが、そのうち一機は劉斗・ウィンチェスター(gb2556)が抜き付けた白雪のエネルギー刃に装甲を大きく抉られ、その隙を狙いラサ・ジェネシス(gc2273)の合図と共に一斉掃射を行うB小隊の火力により、3機とも上手く近づくことが出来ない。功刀 元(gc2818)は重傷の身を押しつつ、少ない手数の狙撃で敵機体を有効な位置へと誘導している。ラサもまた、愛機『Queen of Night』のマルコキアスを掃射。圧倒的な弾幕の嵐が第二小隊を襲う。その威力と精度に、避けきれずに手傷を負う第二小隊。
『やるな、傭兵! 最早バグアの機体にも引けを取らんぞ!』
 そんな一連の攻防を見て叫ぶタロスのパイロット。その顔は見えないが、どこか好戦的で、そして同時にどこか安堵の吐息にすら聞こえた。
「‥‥どうしてですか、貴方達は、何故人類を裏切っているのですか?!」
 それを聞き、好機とばかりに口を開いたのはエンタだ。彼の口調は責めるようで、詰るようで、しかし演技である。
「答えてください。何故ですか!!」
 それを聞いたティターンのパイロット――アヴァリスの口を割らせようとするのが目的だ。
『間違いとは判っている。だが俺達とて人の子だ。家族を人質に取られて、それでも刃向かえる者がどれだけ居よう!』
「その人質は‥‥!」
 なおも続けるエンタ。
 だが、しかし。彼は見誤ってしまった。
 アヴァリスは、ただ混乱を求めているのではないと言うことを。
『オォォい‥‥あんまり眠たァァいことしてんなヨ』
 そして、説得にのみ集中していた彼に、その攻撃を回避することは出来なかった。
 紫電が奔る。ティターンの右背に搭載された円筒が展開すると、激しい雷がタロス共々エンタを襲った。その一撃に動きが止まり
『人質ィ? これくらいの手間ヒマで潰せるくらいの扱いだYOOOO!!』
 両側から胴体部に激しく長剣が叩きつけられた。フレームが圧壊し装甲が弾け、その場で韋駄天が膝を突く。とどめを誘うとするティターンは、しかしアルヴァイムの牽制射で大きく下がった。
『HIHIHI‥‥違ェェだロ、そうじゃねェだろォォ、もっとイキリ立たせてくれよ興奮させてくれよォ、バグアの俺おれオレサマが死んじまうかもしれねぇそんなギリギリのスリルでさァ、ニンゲンよォォ!!』
 ギャリンギャリン、前傾姿勢のまま剣を打ち鳴らして哄笑するティターン。不快な金属音が戦場に鳴り響く。
「下卑で野蛮で、何とも気分が悪いですね‥‥」
 由梨が、その姿に顔を顰めた。まるで獣のようなその敵に対する不快感を隠そうとしない。
『GIHI、さァァまだまだ終わらないぜェェ!』
 その言葉の通りに、それぞれ剣や突撃槍を携えたシラヌイとタロス――第二小隊が再びその機動力を生かし撹乱にかかる。タロスが真っ直ぐ向かって来るのは由梨に対して。その巨大剣を封じるべく懐に執拗に潜り込むが、その大質量に対して由梨機はあまりに機敏だった。その悉くがかわされるが、しかしそれに加えて竜牙の一斉射が浴びせられ、流石に回避に専念させられる。同時に左右方向から第一、第三小隊が攻めあがる。このままでは、傭兵はともかくUPC軍は性能の差で圧倒的な不利に立たされるという状況。しかし、一方で最も速い第二小隊が、単独でいるという状況が出来上がった。
「今です――、ッ痛。ず、頭痛‥‥いえ、私は――此処を、知っている?」
 そんな作戦の刹那、天竜川を目にしたイルファの脳裏に、何かが浮かび上がった。記憶障害を持つ彼女が見た風景、それは果たして‥‥そこまで考えたところで頭を振ると、彼女は事前の作戦通り、UPC軍と連携しつつ押されているように見せかけ第二小隊の行動を誘導し味方射線上へと誘い込む。
「出来れば撃ちたくは‥‥いや、そんな状況でもないな。今だ!」
 劉斗の合図。同時に要請を受けた二機のソルダードがテンペスタを発動。歩兵KVの真価たる掃射にてシラヌイ3機の動きが著しく制限される。ソルダードは第四小隊の砲撃を受けて行動不能になるも、1機のシラヌイがアルヴァイムの電磁加速砲による一撃を受けてコクピット付近を大きく抉られ、機能を停止。劉斗機も援護に入る、白雪の一撃で1機の腕を切り飛ばすが、同時に敵の一刀に深く抉られ、機動に支障を来たした。しかしその一撃に怯んだシラヌイを、ツインブーストアタッケを発動させたラサがマルコキアスで撃ち貫く。弾痕を全身に開け、爆発するシラヌイ。もう一機のシラヌイは、B小隊の掃射を受けて損傷を蓄積し、尚も前に進もうとした。
「あと、一発だけでも入れます‥‥っ」
 しかし、機体ではなくパイロットの負傷により行動不能と見えていたエンタの不意の一撃により、3機目もまた胴の部分で両断された。一方でエンタも、圧壊したコックピット内で意識を失う。剣清は由梨とスイッチする形でタロスを引き受け、由梨は再び第一小隊の抑えへと回った。
『3機落とされたか、流石に統制された動きだ』
 静かに言うのはシラヌイSのパイロット。第三小隊、駆け上がり第二小隊のフォローに回ろうとする。しかし劉斗とラサ、それにA小隊の一部機体により前進を遮られる。
『Ahhh‥‥硬直したなァァ、こりゃいけねェ、こんなのは俺ェェの望みの展開じゃねえェよォォ?!』
 そう叫ぶと、動きを起こしたのはティターンだ。前進する自らを抑えていたアルヴァイムをシラヌイSと竜牙に任せ、由梨を大きく後退して振り払うと、四つ這いのような姿勢になり、左肩――今まで使わなかった武装を展開させた。
「っ、いけない!」
 即応したのは元だ。今まで息を潜めていたのはこの時の為。息を整え、集中、冷静に‥‥その狙撃は、狙い違わずその兵装に命中した。
「コレ、このママ撃たせるの絶対良くないですヨネ!」
 狙撃により体勢を崩したティターンに、B小隊と連携したラサのツインブーストアタッケが再度襲い掛かる。猛攻により小爆発を起こす装備だが、ティターンはそれでも射撃を諦めなかった。
『グッ、そォうかい、まずはオマエからぶち込んで欲しいってかァァ?!』
 その正体は、高出力のプロトン砲。大きな隙と引き換えの極太の知覚攻撃が、B小隊を襲う。ラサは味方を庇おうとするも、盾で弾けない程の高出力。UPCのKVが何機かと元の機体が直撃を喰らい重要機関が融解。機能停止。大きな損害だ。
 しかし、それが勝負を分けた。
 ダメージを受けた状態で無理に稼動させた兵器が暴走、爆発。ティターンが大きく体勢を崩した。
「此処を、逃すわけには‥‥!!」
 イルファが機を逃さず、ブーストの連続使用で第四小隊へと肉薄。合わせてアルヴァイムが電磁加速砲の猛射で援護を失った第一小隊の竜牙を撃つ。イルファの的を絞らせない機動とラサの援護射撃により的を見失い、射撃特化に調整された竜牙はなす術なくイルファのゼロ・ディフェンダーの錆となった。
 同時にタロスを一時的に振り切り、単独となったシラヌイSへと剣清が向かう。
「急いでるんだ、少し大人しくしていてくれ‥‥!」
 剣清、ツインブーストの加速により鋭く肉薄。居合いのようなシラヌイSの一撃を回避、すれ違い様にスパークリングワイヤーを胴に引っ掛け体勢を崩す。そのまま払うような2連撃により手足を立たれ、シラヌイSは活動を停止した。
『オォォ速ェ速ェ神業ってかァァァ! 気持ちイイなァァ!!』
 そんな様を見て悦ぶアヴァリスは、やはり異様に見える。ダメージから立ち直るとギャリギャリ、手近の由梨の懐に飛び込もうとするが
「――これ以上、貴方には口を開かせません」
 突然、由梨がシヴァを手放し機刀による一撃を繰り出してきたのだ。逆に飛び込まれたアヴァリスはたじろぐように攻撃を受け、そこにHBフォルムを起動した劉斗が切り込む。
『マダマダ速くなんのかァイイネェイイネェビンビンになっちまうぜェ!!』
 右肩の知覚装備を展開すると由梨に撃ち込む。シヴァを盾にしダメージこそ軽減するも一瞬動きを止めた。そのまま襲い掛かろうとするティターンだが、その剣の一撃が盾によって流された。アルヴァイムだ。そのままデアボリングコレダーを腹に叩き込む。電撃を喰らってティターンがのけぞった。その一瞬、出来た隙。ブーストを使って背面に回りこんだ由梨が、先刻の爆発箇所目掛けて超重量の巨大剣を叩き込む。それは異様なほどの威力を秘めた、切断というよりむしろ破砕で、再生速度が追いつかないのが目に見えるほどだ。
『ガフッ‥‥!! アァァァ、こりゃイケネェや』
 濁った声で呻くと、アヴァリスはブーストを使って逃げようとする。その足をワイヤーで絡め取る。搭乗者の焦りが、機体を通して見えるようだった。
『‥‥よォ、自分で気付いてンのかァァ? 化け物』
 引きつった声にも気を取られず、振り下ろされるシヴァ。
 大地を揺るがす轟音と共に、勝負は決した。


 戦闘は終わった。
 人質を取る者がいない今、傭兵達は残りの者に投降に応じるよう呼びかけた。しかし、返答は――
『君等と戦う気は最早ない』
 そう言うのはタロスのパイロットだ。
『だが、通信が入った。一佐が呼んでいる。俺達も行かなければ』
 今生の別れであると、本人が語った。
『UPC、それに傭兵諸氏。後は頼んだ』
 言うや否や、傭兵達の全力でも追いつけないような速度で彼等は駆け出す。
 彼等が静岡基地に向かい、自分達の機体を使って敵機を巻き添えに散ったことが知れたのは、傭兵達が助勢として基地に着いた時である。自爆装置のほかに、バグアへ向けての攻撃禁止措置などのバグアの保険が万全だった中で、彼らが為し得る最大の『戦果』ではあった。
「静岡基地は陥落だ。 ――お疲れさん。これはお前さん達のせいじゃあ、断じてない。気に病むなよ」
 ミシェル・カルヴァンは、ジョエルからの通信を傭兵に伝える。その顔は、じっとバグアに対する怒りを噛み殺しているように見えた。


 静岡は陥落した。
 ただ、気がかりなことが一つある。
 バグアR.I.D=アヴァリスの死体が発見されなかったことだ。機体は大破しようと、どこかに逃げた可能性はゼロではない。
 いずれどこかで出会うこともあるのか。少しの不安を抱えつつも、人類は東京へとその足を進めた。