●リプレイ本文
●作戦名はコウノトリ
傭兵たちは自分の愛機へと乗り込んだ。新型KVを操るものもいた。
新しき空護の剣。鋼鉄の鎧となるか、――鋼の棺おけとなるか。全ては彼らの力次第だ。
『母鳥が落とした赤ん坊を拾いにいく。父鳥たち、準備はいいか? OVER』
「俺達が粘れば粘るだけ人が助かるんだ。いっちょ気合入れていきますか!」
少佐の通信に、XN−01に乗るエミール・ゲイジ(
ga0181)が力強く答えた。
『今回の目的は敵の撃破ではない。あくまで陽動だ。無理して倒そうとする必要はない。敵の注意を引きつつ、攻撃を回避することに専念してくれ』
「一般市民の撤退作業が終了するまでの囮役‥‥しっかりとやりきらないと」
そう言ってLM−01の操縦桿を握る手に力を込めたのは高村・綺羅(
ga2052)だ。同じくLM−01に乗る真田 一(
ga0039)と共に、地上戦要員だ。
「全員助けたいとはほとんどの者が抱く気持ちだが‥‥覚悟も必要か‥‥辛いな‥‥」
『――諸君には悪いと思っている。辛い作戦を任せてしまったな』
「まさしく我々にふさわしい依頼じゃないかねェー。能力者はいつだってラストホープ、騎兵隊なんだよー」
ずれた眼鏡を指で直しながら、アホ毛を揺らして通信したのは、F−104に乗った獄門・Y・グナイゼナウ(
ga1166)。
「楽な仕事は勘が狂うからね。このくらいが丁度良いわ」
操縦席に座り不敵な笑みを浮かべる鯨井昼寝(
ga0488)。赤き征裁とでも呼ばれそうな覇気に満ちた彼女は、生身でKVを超える戦闘力を身に付けることを目標としている。これくらいのハンデはあって当然といった感じだ。
「色々と厄介な話ですが、護るべき者は護りませんとね。そうでなくなった軍隊は暴君と何ら変わりありませんしね」
アルヴァイム(
ga5051)はKVのモニターに表示される、予測敵戦力図を見つめ、冷静に状況を把握する。
「コウノトリ‥‥寓話で赤ちゃんを運んでくるっていうのを、ヒトの命を運んでくるって事に掛けてるんですかね?」
春風霧亥(
ga3077)は眠そうな瞳にかかる髪を掻き分けながら、抱いた疑問を口にした。
『ああ、なかなかうまいネーミングだろう』
「‥‥」
沈黙を守る傭兵たちの頭の中に、少佐の人を食ったような笑みが想像された。
『後一時間で夜明けだ。作戦を開始する』
傭兵たちが立てた作戦は、陸空二手に分かれての陽動だ。
陸を真田、エミール、高村、春風。空を黒崎、鯨井、アルヴァイム、獄門が担当する。
「練力の続く限り、動き続けるからね!」
今回が初依頼の黒崎 美珠姫(
ga7248)は緊張と不安を振り払うように、力強く言の葉を口にだした。
●鳥たちは歌う
戦いにおいてもっとも重要なのは、通常戦闘時、奇襲時に関わらず初撃である。初めの5分間で、どれだけ相手に損傷を与えられるかで、戦闘の流れが決まる。
先に戦場へたどり着いたのは空中班の4羽だ。風を切る音に反応した飛行型のキメラたちが、声を上げてあげて騒ぎ立てる。
「アンタ達の相手はこっちよ。さあ私が相手してやるから出てきなさい!」
初めに歌声をあげたのは鯨井昼寝。挨拶とばかりに、遠距離から試作型G放電装置を放つ。耐久力の低いキメラや、翼に直撃したものはくるくると螺旋を描いて堕ちていった。
「囮とは言っても、わざとらしくチョッカイを掛ける事も無いと思うねェー」
「なぁに、ちょっとした挨拶だよ」
キメラたちの絶叫に反応し、北側のタートルワームが咆哮をあげる。機体にまで振動が伝わってくるような重低音だ。
「プロトン砲が来るぞ!」
アルヴァイムの声とともに、傭兵たちの視界に淡虹色の光線が横切る。
「あああぁぁ!」
黒崎は寸での所でプロトン砲を回避。巻き込まれたキメラたちは跡形もなく消滅する。
「当たったらひとたまりもないねェー。みんな、気をつけるんだよ」
獄門とアルヴァイムは必要最低限の攻撃でキメラを落としつつ、プロトン砲をひらりと鮮やかに交わした。
流石に場数が違うだけあって、周囲の弾幕にも冷静さを失わない。
「新手が御出でなすったよ!」
タートルワームの咆哮に呼び寄せられたのか、小型のヘルメットワームが2機、加速と減速を繰り返す不規則な動きで4人の機体に接近してきた。
「ここからが本番だ」
「が、頑張ります!」
アルヴァイムと黒崎が連携して、タートルワームの気を逸らしにかかる。
プロトン砲は威力は高いが、十分注意を払えば回避はそれほど難しくはない。問題は飛行型キメラと、ヘルメットワームだ。
「君たちの相手はこの獄門だよ。分解してどんな構造になってるか調べたいところだけどねェー」
「じゃあ私がブチ壊してやるよ」
変則的な動きのヘルメットワームと、四方八方から襲ってくるキメラ。これを陽動しつつ攻撃を回避し続けるのは至難の業。
獄門は回避に専念し、鯨井は積極的に攻撃し敵の総数を減らすつもりだ。
4羽の鳥たちは空を縦横無尽に飛び回り始めた。
『unsungたちは既に敵と接触したようだ』
「先を越されたか‥‥」
LM−01を走らせる真田は少し悔しそうに呟いた。地上班は南東のタートルワームを撃破しようと、地上を駆けていた。
だが、道路上には乗り捨てられた自動車が点在し、飛行できないキメラも走行の邪魔をしていた。
キメラを轢き飛ばし、瓦礫を撤去し、自動車を避けながら前へと進んでいく。
空中班に多少遅れを取ったが、4機はタートルワームを射程に捕らえた。
タートルワームは北西の空中班に注意をひきつけられ、周囲の警戒を怠っているようだ。容易く背後をとることができた。
「ここは綺羅に任せて。皆はあっちを」
高村は変形し、後方から追いかけてくるキメラの相手を始める。他のものも変形を完了すると、タートルワームに攻撃を開始した。
「プロトン砲を破壊し、速攻でタートルワームを無力化する」
「機体の出力が段違いだからな‥‥ただのレーザーだと思うなよ?」
二人は高分子レーザー砲でプロトン砲を狙い、攻撃を仕掛けた。
だが、プロトン砲はタートルワームの唯一の兵装。そう簡単に破壊できるものではない。
『GWAAA!!』
攻撃に気づいたタートルワームは、図体からは想像できないほどの素早い動きで傭兵たちを牽制した。
プロトン砲が発射されたが、砲台の角度のせいで4人にはかすりもしなかった。
しかし、建物が砲撃により破損し、頭上から瓦礫が次々と落下してきた。これにはたまらず、各々回避行動をとる。
真田は試作剣雪村でタートルワームの首を狙っていたが、なかなかチャンスがない。
倒れてきた瓦礫を壁にして、キメラをチタンナイフで排除しながら隙を伺っていた。
刹那、背筋に冷たい感覚が走る。
戦場で培われた第六感が、危険を告げていた。転がるようにその場から移動しすると、一瞬前まで真田が立っていた地面から、突然何かが飛び出してきた。
それはミミズのキメラだった。銅の太さが杉の木ほどもある。体長は全身がでてこないため、わからない。
しかもよく見ると、身体の蛇腹部分は金属光沢と独特のぬめりがあった。
「真田さん、気をつけて! そいつ、銃弾が効きません」
他のキメラにバルカン砲を掃射しながら、高村が叫んだ。今度は頭上から攻撃が来る。
ミミズの口が大きく開いた。六つに裂けた口には無数の歯がびっしりと並んでいる。
あんなもので噛み付かれたら、さすがのKVの装甲もタダではすまないだろう。
ミミズはまた地中に潜り、地面を這いまわって今度はエミールと春風にも攻撃を仕掛ける。
「あの皮膚か‥‥」
ここでミミズ相手に雪村を使うわけにはいかない。しかし、チタンナイフで皮膚を貫けるかが、問題だった。
そうなると、狙うはもう一箇所。装甲の薄くなった、口の中。
「そこです!」
春風の放ったレーザーが裂けたミミズの口を貫く。ミミズは悶絶しつつ、また地中へともぐってしまった。
今度は地中から身体をださずに動き回ると、キメラと交戦中の高村の足元から出現して、機体に絡み付いてしまった。
「綺羅! くっそぉ、レーザーが撃てない、待ってろ綺羅」
エミールはタートルワームの背から降りると、高村に巻きつくミミズにソニックブレードを振り下ろした。
超振動する刃がぬめる金属皮膚を切断し、傷から体液が噴出する。身体を分断されてのたうちまわるミミズから、高村はすかさず逃げ延びながら追い討ちをかけた。
しばらくびくびくと脈動していたミミズも、ついに生命が果てた。
「とんだ時間を食っちまったな。みんな大丈夫か?」
「でも、あらかたこのあたりのキメラは排除できたようね」
「残すはタートルワームだけですね。頼みます、真田さん」
「‥‥一撃で、仕留める」
真田は操縦桿を握る手に力を込める。『斬る』という意思が、手から機体へ、機体から刃へと感応していく。
だが、タートルワームは殺気に反応したのか、首を甲羅の中にしまいこんでしまった。
さらに手足で強く大地を踏みしめ、時計回りに回転し始める。プロトン砲を発射しながら、どんどん回転速度をあげていく。
全方向に乱射されたプロトン砲が近くの高層ビルを次々と倒壊させていった。
「このままじゃ生存者の救助にも影響が‥‥!」
「真田さん‥‥!」
真田は眼を見開き、タートルワームの動きを計る。チャンスは一度、しかも確実に。
操縦桿を握る手に汗がにじむ。額からも玉のような脂汗が吹き出た。
プロトン砲の爆音と、倒壊の轟音が鼓膜だけでなく全身を振るわせる中。
真田の心は明鏡止水の境地にたどり着こうとしていた。
「――今だ!」
全身に錬力と生命力を漲らせ、砲弾のようにその場からタートルワームへと突進する。
一匹と一機が接触する一瞬、眩い電光が当たりを包んだ。
雪村の光り輝く刀身が、タートルワームの首の付け根に深々と突き刺さっていた。
「覇ッ!」
気合一閃、そのまま雪村を薙ぎ払い、タートルワームの首を斬り落とした。
すぐさまその場を離れる真田。遅れて巨大な独楽が倒れるように、タートルワームの巨体が地面に横たわった。
「お見事です、真田さん」
「‥‥早く合流しよう」
4人は瓦礫に溢れた道をキメラを排除しつつ北回りと西回りに別れて、北西のタートルワームへと向かった。
「どうやらあちらさんは片付いたみたいだな」
「タートルワームを倒すとは、流石真田さんだねェー」
「浦島太郎に怒られちゃいますね、私たち」
「あれは竜宮城へ連れて行ってくれない亀だから大丈夫だ」
プロトン砲の乱射に四苦八苦していた4人だったが、砲撃が止み仲間がタートルワームを撃破した知らせを無線で受けると、軽口をいう余裕がでてきた。
しかし一息つくことができたのは少しの間のみだった。
南東側のタートルワームが撃破されたことによって、キメラやワームの注意は全て4機へと向けられるようになったのだ。
仲間が合流するまでは、今まで以上の弾幕を回避しなくてはならない。
「ワーム<蟲>が鳥を落とせると思ったか!」
鯨井の試作型G放電装置が炸裂する。最後の一撃だ。残るは突撃仕様ガドリンクのみ。
「救助のほうは後どれくらいかかるんだ?」
『学校、警察署の救助は完了した。後は北の市役所のみだ』
「じゃあもう少し粘ろうかね。救助完了次第、反撃に移るよ」
「ラジャ」
上下左右、減速加速を織り交ぜ、タートルワームの周囲を飛び回る傭兵たち。
能力を使いつつもこの乱戦の中、4機とも堕ちずに飛び続けていられたのは、奇跡的といっていいだろう。
とはいえ、錬力も集中力も見る見るうちに削られていく。今は気力と体力で飛んでいた。
ヘルメットワームが、空中で方向を変えた。狙いは黒崎の機体だ。一番操縦技術と経験が少ないことを見抜かれたのであろう。
「黒崎、狙われてるぞ!」
「くっ‥‥」
左右から挟撃され、高速旋回で振り切ろうとしても、変速自在のヘルメットワームはぴったりと黒崎の背後にくっ付いてくる。
一機ずつ確実に落としていくつもりだ。
「もう、ダメ‥‥!」
長時間の高速移動に、黒崎の体力が限界になった。ヘルメットワームの砲門が、黒崎の機体を捕らえる。
今まさに放たれようとした時、ヘルメットワームにレーザー砲が撃ち込まれた。
「女の子1人を2人で追い回すなよな」
「しつこい男は嫌われますよ?」
黒崎の機体をかばうように、エミールと春風がヘルメットワームに攻撃を仕掛けた。
3機まとめてプロトン砲の餌食にしようと、タートルワームが狙いをつける。
「‥‥させるか」
「仲間は落とさせない!」
真田のスナイパーライフルと高村のレーザー砲が、タートルワームの眼球を狙い打つ。
「やれやれ、山場は乗り切ったみたいだねェ」
「お互い無事で何よりです。1対多で、ヘルメットワームに攻撃を仕掛けましょう」
「了解!」
地上班と空中部隊の連携に、流石のヘルメットワームも攻撃のみに専念できなくなる。
士気と戦闘の流れを取り戻した傭兵たちは、不利な状況をなんとか五分へと持ち直した。
『母鳥が赤ん坊を回収した、父鳥も撤退の準備にかかれ』
少佐からついに救出完了の無線が入った。厳しい状況を耐え抜いた甲斐があったというものだ。
「よし、反撃開始だ」
「弾薬全て打ち込んでやる! 今までのお返しだ」
「母鳥が安全な場所に逃れるまで、もう少し粘りましょ!」
「殿は私が勤めます。皆さんはお先に」
ヘルメットワームは予想以上に損傷を与えられたようだ。傭兵たちが撤退しはじめても、追撃してくることはなかった。
殿のアルヴァイムが街から離れると、東から太陽が昇ってきた。
空を飛ぶヘリと8羽の鳥たちが、優しい純白の光に包まれる。彼らの傷を癒すように。
鳥と赤ん坊は無事、巣へとたどり着いたのだった。