●リプレイ本文
●2008年2月3日 9:15分
山崎軍曹の説明の後、各自自分の罠の準備へと取り掛かった。
「オニか、確かジャパンのオーガだったか?」
「ああ。桃太郎を初めとして、日本には鬼の伝承が数多く残されているんだ」
「UNKNOWNさんは博識デスネ」
「名は体を現さない、というわけか。いや、正確には意味が違うか」
沢村 五郎(
ga1749)、ロナルド・ファンマルス(
ga3268)、UNKNOWN(
ga4276)、ダニエル・A・スミス(
ga6406)の四人と山崎軍曹の男性陣5人は、まず最初にスコップで庭に落とし穴を作り始めた。
なつきの提案した罠で、中には生ごみを入れておく。後で埋めれば生ごみも始末できるので一石二鳥だ。
落とし穴なんて子供のとき以来だったが、訓練所でうけた塹壕掘りの練習が役に立つ。山崎軍曹の指示もあり、穴は素早く広げられた。
一方女性陣の赤霧・連(
ga0668)となつき(
ga5710)は、エプロンに身を包み、台所で料理を始めていた。
冷蔵庫にある残り物の野菜をミキサーでジュースにする。特製青汁の完成だ。
さらに、唐辛子を細かく切ったものをわさびの中にいれ、一口サイズに丸める。
餡子をつけて中が見えないように丸めれば、激辛おはぎができる。
「食べ物を罠に使うのはちょっと気が引けますけど、効果は抜群のはずです」
「見た感じじゃ、どっちが激辛のおはぎかわからないね」
「間違って辛いほうを食べないように、騙す用のは別の皿に載せておきますね」
おしゃべりしながら二人で仲良くおはぎを作っていく。すぐにおはぎが大皿に山盛りになった。
「ほむ、これでいいでしょうか♪ でもちょっとかわいそうな気もしますね」
「時には非情になる事も必要です」
確かに針や画鋲を中に入れるよりはましだろう。
次にダニエルとロナウドが中心となり、風呂場とトイレ以外の水回りを止める。
二人は何も知らない福の者や激辛おはぎの餌食になった者が、水を飲みに洗面所へきたときを狙って風呂場に引き入れる作戦だ。
赤褌、白褌姿で鬼の仮面を被ると、身体を染めればまるまる鬼そのものといった姿だ。
UNKNOWNはそれをみて、鬼が漂流して日本に流れ着いた外国人のことであるという学説を思い出した。
沢村は物置から戸板を見つけ出し、背負えるように改造を施していた。
本物の銃弾を止めることは無理だが、豆の銃弾なら容易く弾き返せる。
「これでよし」
さらに墨汁で『危ない! 後ろだ!』という文字を書きなぐった。かなりの達筆だ。
沢村の長身を隠せるほどの板だ。迫ってこられればかなりの精神的効果が期待できる。
問題は、ひとつ。戸板を背負った姿が、ひどく滑稽に見えることだけ。
ダニエルが玄関のドアノブを外し、先に紐を結びつけて天井へ繋いだ。
ドアノブが引かれると、紐の先にある金タライが引っ張られて屋上から落ちてくる仕組みだ。
「ハリウッドの映画を思い出すな、ロナウド」
「YES! 残念ながらガスバーナーは使えないケド、この金タライはジャパニーズコメディの王道アイテムと聞いたよ」
「ひっかかるところが見れないのが残念だ」
「じゃあ、一度トラップが作動するかテストしよう! ダニー、そこに立ってノブを引いてくれ」
言われるままにドアノブを引くと、思惑通りに紐が切れて金タライがダニエルの頭に直撃する。
「YEAH! 成功だね」
「これは強烈‥‥ジャパニーズコメディアンは全員、石頭なのか?」
軽口を叩きながらも順調に罠の設置は進んでいく。
UNKNOWNは屋根に油を塗り始める。屋上はちょうど先日降った雪が解けて氷になっているので、自然の罠化していた。
さらにドアのノブの部分に整髪料を塗りたくる。階段はガムテープとワックスをかけて滑りやすくし、バケツに入ったビー玉も用意しておく。
赤霧となつきも加わり、てすりにもワックスをかけ、廊下にはバナナの皮が用意された。
最後に押入れに布団とクッションを詰め、その上に赤霧が隠れる。
UNKNOWNが敵をおびき寄せ、クローゼットに隠れたところを無線で赤霧に合図。
赤霧は敵にわざと見つかるように声をだし、押入れを開けさせるのだ。
「できれば女軍曹を捕まえたいものだな」
「やめておいたほうがいい。あいつはたたき上げの軍人、女なんか捨ててるからな」
「知っているのか? 山崎」
「‥‥あいつは能力者新兵訓練所で、俺が鍛えた。その時、肉体的、精神的に限界まで追い詰めてやったからな。恐らく今回は復讐のためにこの作戦に参加したんだろう」
「そうだったのか‥‥。なら、倒し甲斐ありそうだ」
全く引く気もないらしいUNKNOWNに、山崎軍曹はやらやれ、と首を振った。
「‥‥しかし、完全にトラップハウスだな‥‥。これは後片付けに難儀しそうだ」
罠を仕掛けろ、とは言ったが、流石の山崎軍曹もここまで派手に仕掛けるとは予想してなかったようだ。
そうこうするうちに、正午へと時間は進み。
『敵接近。各自配置につけ。作戦開始だ』
鬼たちに山崎軍曹の声が無線を通じて届く。鬼たちは福を打ち倒すべく、持ち場へついた。
※戦闘風景については、連動シナリオ「豆撒きバトル 福は内!」でお楽しみください。
結果的に勝利したのは、どちらだったのだろう。
ほとんどの罠が一度きりの使い捨てな上、仲間の鬼にはその場所がわかるようにしてあるとはいえ。
ビー玉やバナナの皮といったトラップは、鬼も引っかかってしまう。
福たちが罠を見破ろう、罠にかかってやろうという姿勢で攻撃してきたため、最初は思惑通り罠にかかってくれたが、結局はスポンジ金棒と豆銃での叩きあいになってしまった。
山崎は最終的に撤退を指示。鬼たちはしぶしぶその指示に従った。
「しかし、なぜわざわざ家をでたんだ? 折角あのままいけば勝っていたのに」
UNKNOWNは山崎の指示が不満だったようだ。
「あれを見てみろ」
家の外に並んだ鬼たちが、指差された方向を見る。
家の屋根は油まみれ、庭は大穴が空いたまま。廊下はバナナの皮と豆とビー玉が散乱し、階段にはそこら中にガムテープが撒き散らされ。
「田中家の皆さんが18:00に、一泊二日の温泉旅行から帰ってこられる。それまでに徹底的に清掃し、元の状態に戻さねばならん。あれだけやったのに、掃除を福の奴らに任せるというのもいただけないからな。鬼としての任務は、福にやられる部分まで含まれている。敗北したといえど、任務は遂行された。それに‥‥」
山崎軍曹が言葉を切る。タイミングを見計らったように、暁軍曹が恐ろしい形相で近づいてきた。
「山崎! 納得がいかん! もう一度勝負しろ」
「お互い任務を無事完了したのだ、どこに不満がある?」
「貴様に貸しを作ったようなのが気に喰わんのだ! 勝負がだめなら、掃除は我々がやる」
「では、協力して素早く終わらせよう。30分の休憩の後、清掃開始だ。‥‥と、言うわけだ、諸君。昼食を取った後、福と協力して掃除を開始するぞ」
「なるほど、それを予測しての作戦C、か」
山崎軍曹の作戦が理解できた沢村はひとりうなづいてみせた。
屋内は汚れているため、昼食は外でとることになった。
「はい、皆さん、お茶ですよ」
「熱いから気をつけてね」
なつきと赤霧が全員に熱いお茶を配る。疲れた身体に心地よいぬくもりだ。
「OH、ジャパニーズグリーンティですね。イタダキマス」
「弁当はこっちだ。経費削減のため、たいしたものじゃないがな」
山崎軍曹が配ったのは、オーソドックスな海苔弁当だ。
昆布の佃煮の上に海苔がのったご飯。白身魚のフライに焼き鮭、ちくわの磯辺焼き。
金平ゴボウにたくあん。
「本当に定番だね‥‥」
「おはぎもありますよー」
なつきが大皿に乗った山盛りのおはぎをもってくる。
「いっ!? おはぎはもう勘弁して」
ホルスと蓮沼の二人はその驚異的な威力を知っているので、おはぎをみてるだけで少し涙目になった。
「こっちは普通のおはぎですから、大丈夫」
そういって一つ自分で手に取り、口に運ぶ。餡子の甘みが口の中に広がり、もち米の食感が美味しさを脳に伝える。
「今日は日本の食を堪能できる一日だな」
日本食を食べなれていないダニエルにロナウド、UNKNOWNにホルスの四人に、家庭の味であるおはぎはとても好評だった。
食事も終え、ついに清掃にかかる。まずは水道が復旧された。屋上の油を落とさなければならない。
他の者も床に散らばったものを拾い集めてゆく。燃えないごみと可燃ごみにわけて。
「ちょっと、捨てちゃうのはもったいないけど‥‥食べられないしね」
激辛おはぎも燃えないごみとして処理された。
「自分がやったこととはいえ‥‥これはわずらわしいな」
UNKNOWNはドアノブに纏わりつく整髪料と画鋲、一つ一つ取り外し、さらにドアノブがしっかり回るように元に戻す。
「この福豆、意外とおいしいな、ロナウド」
余った福豆をぽりぽりと食べながら、カビだらけの風呂場をごしごし洗うのはダニエルとロナウドたちだ。
「HaHa! ダニー、豆は年の数だけ食うもんさ」
「食べ過ぎてはいけなかったのか?」
「年の数と同じか、一粒多く食べるとその年一年、丈夫に健康で過ごせるんだそうだ」
山崎軍曹が洗面所を綺麗にしながら説明した。
「といっても、なぜか食べ過ぎてしまうんだよな」
「そうそう、大しておいしいってわけじゃないのに。気がつくと自分の年の2倍食べてたり」
緋沼と蓮沼も、余りの福豆を口に放り込みつつ、床に散らかった方の豆を丁寧に拾っていく。
あらかた豆が拾われた部分を、赤霧が掃除機をかけて綺麗に仕上げる。
談笑しながらの作業だったが、段々と田中家が元の状態へと戻っていった。
作業が終わったのは17時過ぎ。皆居間のコタツに集まって、今日の疲れを取っていた。
「今日は皆、ご苦労だった。福の勝利で! 皆の依頼は無事達成だ」
「諸君、鬼役、清掃ご苦労。任務も無事遂行された。今日はゆっくりと休むがいい」
暁軍曹は勝利という言葉を強調して言った。
だが、傭兵たちにはもう勝ち負けはどうでもよかった。
「楽しかった‥‥よな」
「ああ、そうだな」
お互いの顔を見合わせ、罠にかかったことを思い出し、自然と笑みがこぼれた。
遠くから、声が聞こえる。
「鬼は〜〜外、福は〜〜内」
小さい子供の声だ。近所でも豆撒きが始まったのだろう。
「鬼は〜〜外、福は〜〜内」
今度は別のほうから、大人の声も聞こえてくる。
昼間の傭兵たちの声に誘われて、周辺の家の人々も豆撒きがしたくなったのだろう。
久々に懐かしい声が、日本の小さな町の中にこだました。
帰ってきた田中家の人たちに、残った豆と鬼のお面、世話になったお礼としてなつきが用意した菓子折りを渡す。
田中家の人は旅行に行く前より家の中が綺麗になったと、喜んでくれた。
「やっぱこれが無ねぇとな」
沢村がイワシの頭と柊を玄関に飾る。
きっと、田中家でもこれからまた豆撒きが始まるに違いない。
心の中に何か暖かい気持ちを持ちながら。福たちはヘリへ、鬼たちはトラックへと乗り込んだ。
素敵な福と鬼たちに、今年一年の健康を。