タイトル:【AK】祭りの準備!マスター:遊紙改晴

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/02 21:07

●オープニング本文


●つぎはぎ姫、またもや悪巧み

『ご覧のとおり、街はハロウィンに向けてかぼちゃで‥‥』
 テレビでは街のハロウィン特集が。
 画面からふと目を落とすと、拾ってきた傭兵向け雑誌を見る。
 大規模作戦の特集とともにいくつものハロウィンパーティの日程や、ハロウィンに関係した依頼の情報が載っていた。
「もうすぐハロウィンねー」
 これまたごみ置き場から拝借してきた古コタツに丸くなりながら、ぼろ布をつぎはぎして作ったドレスを着た少女が呟いた。
 アナスタシア・ピルカ。毎度おなじみ、AKTVの元気娘だ。
「あたしたちもハロウィンパーティしたいわ、くまさん」
(「うん」)
 巨体を動かして全身で返事をする、キッチンで皿洗い中のくまさん。
 太い手を器用に動かして、二枚の皿を同時に洗っていく。
「でも、ただのハロウィンパーティじゃ詰まらないじゃない? 何か面白いアイディアはないかしら‥‥」
 しばらく顎に手を当ててうんうん唸っていたアナスタシアだったが、台所で鼻歌を歌うくまさんの背中をみて、なにやら閃いたようだ。
「そうだわ! 男女取替え仮装パーティよ!」
 くまさんは洗っている皿を滑らせて割りそうになるのを、覚醒してなんとかこらえた。
 アナスタシアの方を振り返ると、小首をかしげて見せる。
(「‥‥男女取替え?)
「そう! 男の子は魔女とか女の幽霊の仮装でー、女の子はドラキュラとか、狼男の仮装をするの! 面白いんじゃない?」
(「面白いかもしれないけど‥‥服がないよ?」)
「そうね、まずは準備に取り掛からないと! 服はみんなで作りましょう! 兵舎の掲示板に手伝い募集の紙を貼っておけば、人も集まるわ! 早速行動よ♪」
 どたばたと部屋の奥から、ポスター用の画用紙を探し出すアナスタシア。
 くまさんは皿を洗いながら、自分が三角帽子とかぼちゃスカートをはいた魔女に扮した姿を想像して、頭を振った。
 またもやヘンテコな祭りの準備が、始まる。

●参加者一覧

弓亜 石榴(ga0468
19歳・♀・GP
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
真田 音夢(ga8265
16歳・♀・ER

●リプレイ本文

●かぼちゃがケケケ

 兵舎の片隅、おんぼろだが、よく手入れされた一室。
 ガスコンロの上で揺れるやかんと、秋風が窓を叩く音が部屋に響きわたる。
「ふんふふふーん♪」
 アナスタシアが危なっかしい手つきで、鼻歌と一緒に針を動かし、襤褸切れを縫い合わせていく。
「そろそろみんな来る頃かな〜、くまさん?」
 台所に立つくまさんは人数分のカップを用意しながらうなづいた。
 噂をすれば影。チャイムが来客を告げた。
「はいはーい」
 扉を開けた先にいたのは、和服姿の愛らしい少女、真田 音夢(ga8265)だ。
「初めまして‥‥真田」
 真田が挨拶をする前に、アナスタシアがその体を抱きしめた。
「か、可愛い〜! お人形さんみたいー!」
「う‥‥」
 帯を締めた腰にアナスタシアがくっついたため、息もできず振り払うこともできない。 真田についてきた子猫たちが苦悶の声を聞いて、助けようとにゃーみゃー声を上げた
「お邪魔するよー‥‥って、玄関開けたら美少女二人!? 桃源郷だ!」
 続いて入ってきた弓亜 石榴(ga0468)は、瞳を輝かせて真田とくっつくアナスタシアを抱きしめた。二人には持ち合わせていない豊満な凹凸が押し付けられる。
「むぎゅっ!」
「くぎゅっ!」
 雪、月、花が入り乱れたところに、今度は二人の男が近づいてきた。
「まいったね‥‥見目麗しいお嬢さん3人を見れるのはいいんだけど、廊下に立ってるのは寒いから中に入らせてもらいたいな。‥‥ねえ、漸さん?」
 衣装作りの材料やらお菓子やらが詰まった大荷物をもってきたのは、不敵な微笑を浮かべる周防 誠(ga7131)。
「一寸光陰不可軽。秋の日はつるべ落とし、とも言う。じゃれあうのもいいが、作業をしながらにすべきだな」
 料理も衣装も手間をかけて作りたいしな、と笑みを浮かべたのは、赤いチャイナ服が傭兵一似合う男、漸 王零(ga2930)だ。こちらは風と紅葉といったところか。
「ごめんごめん! 皆寒い中ありがと〜! ささ、狭いところだけどあがって、あがって!」
 アナスタシアに手をひかれるまま、4人の傭兵たちは部屋の中に入る。
 中は整理されてはいるが、如何せん荷物が多すぎて狭っくるしかった。
「この大量の段ボールは何なの?」
「うーん、ハロウィンで使う飾りとか、撮影機材とか、いろいろ。あたしもどこに何かあるかわからないんだ。必要なものがあったら、くまさんに聞いてね」
「倉庫でも借りればいいじゃないか」
「そうしたいのは山々なんだけど、お金がなくてねー」
 案内された居間はしっかりと作業スペースが確保されていた。無計画に荷物を積み上げているわけではないようだ。
 奥の台所からでてきたくまさんが一同にお辞儀した。手に持ったお盆の上では、淹れたての紅茶がいい香りを放って自己主張している。
 荷物を適当な場所に下ろし、4人は足を掘りごたつの中に入れた。つま先の骨の芯から温もりが這い上がってくる感覚が心地よい。
「‥‥掘り炬燵暖かい‥‥クッキー、よかったらどうぞ‥‥」
「我も試作品だが作ってきた。かぼちゃのクッキーだ。口に合えばいいが」
「そうだ、蜜柑持ってきたよ。炬燵と言ったら、みかんでしょ」
「気が合うねぇ。自分も持ってきたよ、みかん」
 わいわいごそごそとしているうちに、炬燵の上には、紅茶と真田と漸の手作りクッキー、弓亜と周防が持ってきたみかんとお菓子が並べられた。
「うぁあ、皆気を使わなくてもお茶請けくらいだすのに。作業のほうは急ぎじゃないから、食べながらゆっくりまったりやっていこう!」
 紅茶で喉を潤し、身体の中も暖まると、6人は作業を開始した。

●手作りだから味がある。

 周防がランタン用に作られたかぼちゃに、アーミーナイフで円を描くように切れ目をいれる。中身は綺麗にくりぬき、後で漸が料理に使うそうだ。
「よっと。一丁上がり」
「冥界を照らし、死者を導く希望の光‥‥」
 周防が大まかな形を作った後、真田が一つひとつのランタンに個性をつけていく。
 ジャックオランタンと呼ばれるハロウィンお馴染みの飾りは、天国にも地獄にもいけずに彷徨う魂がカブに憑依した姿と言われる。
 アメリカに移り、カブからカボチャに変わったランタンは今ではハロウィンの代名詞だ。今では悪霊を追い払い善霊を引き寄せ、旅人たちの道を照らすものとされている。
「‥‥人もバグアも、全ての魂が、等しく、迷わぬように‥‥」
 願いを込めて丁寧に作られていくランタンたちの表情は、どこか柔らかく、優しげに微笑んでいるように見えた。
「ちょっと漸さん、身長と肩幅とらせてくれる? 男物の衣装の参考にしたいの」
「ああ、わかった。‥‥だが、我の大きさでは少し大きすぎると思うが」
「そのへんはうまく調整するから大丈夫よ。傭兵の男って、結構大きい人多いし。‥‥そうだ、くまさんは専用のが良いかな? ちょっと測らせて」
 こくり、と頷くとくまさんは漸の隣にならんだ。漸も210cmという長身だが、くまさんはそれよりさらに20cmは大きい。二人で並んで立つと、天井がやけに低く見えた。
「うーん。我慢できない! ちぇい!」
 くまさんのお腹を見ながらうずうずしていた弓亜は、思わずお腹に飛びついた。
 Tシャツの下には鍛え抜かれた腹筋が隠されていて、想像と違う感触に少しがっかりする。
「もっとこう‥‥たぷたぷできるかと思ってた。うん」
「くまさん、いつも鍛えてるからねー。あ、でも覚醒したときは結構もふもふかも」
「本当? 触ってみたいなー」
 服が破れるので覚醒しませんよ、と困った表情で顔を振るくまさん。
 少しずつだが、着実に衣装ができていく。
「覇ッ! ‥‥よし」
 漸は墨を使って中国呪術の資料に書かれた札を模写していく。書の道は剣の道に通ずるところがある、と言われることもあり、中々の気迫のこもった文字が描かれた。帽子に付けるとかなりいい出来だ。
 黒いチャイナ服と赤い武道着に、壊れた鎧と矢の三つに、血糊をつけて雰囲気をだす。 キョンシーと亡霊武者の仮装の完成だ。
「これは負けられないな」
 漸の作品を見て競争心を燃やす周防は、黒と内側の赤い、ドラキュラマントを作り始めた。襟の部分に針金をいれて、独特の皺を作ることで禍々しさを表現する。
 ドラキュラの特徴である牙もしっかり用意していた。勿論、怪我をしないよう、先は丸めてある。
「うーん、足りない‥‥エロスが足りないよ、二人とも! もっとこう、胸元を強調して〜、スリットを入れて、露出を高めないと!」
 弓亜はそういうと、自分の作っている魔女の衣装を服の上からあててみせる。
 胸元はV字に開き、背中は完全に露出。スカートはかぼちゃ型になっているが、余りに丈が短すぎて下着が見えてしまいそうだ。
「す、すごい衣装だけど、それを着るのが男っていうのを想像すると‥‥」
 周防は自分の魔女姿を思い描き、複雑な表情で紅茶を口に含んだ。
 
 作業が続いていくと、部屋の中は心地よい沈黙に包まれた。
 真田の足の上で子猫たちがあくびをし、丸くなる。
 弓亜は真田と漸のクッキーに手を伸ばして口に頬張りながら、女性用の狼男の衣装を仕上げていく。
 漸は太い木の枝にガラス玉をはめ込み、魔女の杖を作っていった。
 周防は皆のカップに新しい紅茶をさし、できあがった死神の衣装とミイラ男の包帯をハンガーにかけた。
 話すことが尽きたわけではない。話したくないのではない。
 言葉が必要のなくなる、静寂の時。
 時間が引き延ばされたような、あるいは一瞬だったような‥‥。不思議な時間。
 気がついたときには、窓から夕日が差し込んできていた。
「ん‥‥もうこんな時間か。そろそろ料理に移るとするか」
 漸は道着の上から割烹着を身につけて台所へ向かう。
 南瓜に鶏の胸肉、乾燥椎茸にカシューナッツ、生姜に大蒜。
 材料を切り分け、中華鍋に入れて炒めていく。味付けに中華甘味噌と呼ばれるテンメンジャン。肉のうま味に南瓜の甘味、椎茸やにんにくの香ばしい匂いが鼻孔を刺激し、それだけで食欲を刺激する。白いご飯が欲しくなる一品だ。
 子猫たちを起こさないように真田も立ち上がり、調理にとりかかる。
 小さな体で広い台所を動き回り、てきぱきと下準備を進めていった。
 パンプキンパイにプリン、グラタンやスープにサラダと、南瓜料理がならんでいく。
 レシピにワンポイントアドバイスを付けて、クッキーの抜き型と一緒にアナスタシアに渡した。
「もらっちゃっていいの?」
 おずおずと差し出された物を受け取るアナスタシア。表情を変えずに頷く真田。
「ありがとう! これなら料理の下手なあたしにもできそう」
 アナスタシアの笑顔を見ると、微かに真田の表情も和らいだように見えた。
「ううー、可愛いなぁ音夢ちゃん♪ 南瓜と一緒に食べちゃうぞ〜♪」
 がおー、と完成した狼男の衣装を試しに着た弓亜が、小さい背に襲いかかる。
 顔にかぶった狼のマスクは、映画で使えるほどリアルな造り。しかもおしりについたしっぽは、着ている人間の感情を反映したように、パタパタと激しく左右に揺れる。
 真田も寝ていた子猫たちも、その姿におびえて竦み上がった。
「弓亜さん、そんなリアルなマスクじゃ怖すぎますよ。ほら、真田さん固まってしまって‥‥」
「っ!!」
 視線を動かした真田は、さらにびくっと体を震わせた。
 助け舟を出そうとした周防も、同じく狼男の衣装を試着していたため真田の表情をひきつらせた。子猫たちは我先にと、ジャックランタンの中に逃げ込んだ。
「えー、ハロウィンは無礼講だって、故郷の母が言ってたヨ」
「まだハロウィンじゃないでしょうが」
「やれやれ‥‥。衣装を着るのはいいが、料理をおきたいからこたつの上を片づけてくれないか? 皆で試食してくれ」
 呆れた顔で笑う漸は、お盆にいくつも皿を載せて持ってきた。
「いいにおーい! 私も運ぶ!」
「その前に着替えてきなさい」
 狭い居間でごちゃごちゃと6人が動き回りながら、料理が並べられた。
 南瓜の煮物から始まり、天ぷら、カレー。
 漸の作ったタルトに炒め物、ケーキにクッキー。
 真田の作ったパイとプリン、グラタンにスープ、サラダ。
 食卓を橙色と濃緑色が広がった。
 ランタンの中で寝ていた子猫たちが、目の前の彩り豊かな料理に、興味津津な鳴き声をあげる。
「猫‥‥提灯‥‥。皆には‥‥こっち」
 真田は頭をなでてやりながら、彼らに温めたミルクを用意してあげた。
「それじゃ、いただきまーす♪」
 狼のように大きな口をあけると、熱々の南瓜グラタンを口に運んでいく弓亜。
 口の中で南瓜味のマカロニから零れるクリームソースの甘さとチーズが混ざり合い、鶏肉のうま味と一緒に味覚を刺激し、ほっぺたが落ちそうになる。
「ん〜〜♪ おーいしいよ、音夢ちゃん!」
 隣にいた真田に抱きつく弓亜。もう諦めたのか、真田は固まったまま抵抗しなかった。
「ん‥‥この南瓜と鶏肉の炒め物、美味ですね。ご飯が進みますよ」
「そうか、よかった。大蒜と生姜は体にもいいからな。寒くなってきたから、身体が暖まるだろう?」
 こたつに並んだ料理が、次々と姿を消していく。猫たちもミルクを平らげると、満足げに毛づくろいを始めた。
 デザートも胃袋に収まると、食欲が満たされた傭兵たちを睡魔が襲った。

 炬燵の温もりの中で、作業を終えた達成感と心地よい疲労。
 この状況で、睡魔の攻撃を免れることのできる者が、この世界にいるだろうか?
 いや、いない!
 炬燵から5つの寝息が聞こえだしたのだった。

「ん‥‥」
 台所からする皿を洗う音で、真田は目を覚ました。
 起き上がろうとして、お腹に乗っていた子猫たちも目を覚ます。
 窓から外を見ると、すでに世界は夜の帳に覆われていた。
(「もう帰らないと‥‥」)
 体を起こそうとした真田の足に、痛みが走った。
「ん〜〜、お母さん、もう朝〜?」
 弓亜がその気配に気づき、足を抜こうとした。が、足が痺れて動かない。
「や、やめ‥‥弓亜さん、動かないで。足が絡まってる。動くと痛い」
「‥‥。夜まで寝込んでしまうとは、迂闊だな」
「漸さんだめー! 動くと私の足が‥‥」
 どうやら寝ている間に、5人の足が絡まってしまったようだ。
「誰の足が誰の足と絡まってるのかさっぱりわからない‥‥」
「‥‥帰りたい」
「ト、トイレ行きたい」
「ん〜、皆どうしたの〜」
「アナスタシア、足抜ける〜?」
「へ? あ、痛い。いたたたた‥‥何これ?」
「足が絡まってるんだよー」
「何これ、炬燵の中で戦隊物の必殺技みたいに5人で足合わさってるのよー」
「‥‥猫さん、助けて」
『みぃー』
「くまさーん、へるぷみー」
 エプロンで手を拭きながら、のそのそとやってきたくまさんは、こたつの惨劇を目の当たりにして、声を殺して笑った。
 くまさんがこたつの布団を持ち上げてみると、インドの舞踏文様のように交差し合った足の山が。
 ‥‥結局、4人が兵舎をでれたのは9時過ぎだった。

「みんなのおかげで助かったわ、本当にありがとう!」
「役に立ててよかった」
「‥‥ありがとう」
「ハロウィンのお祭り、楽しみにしてるわね♪」
「自分が作った衣装、大事に使ってくれると嬉しいな」
 4人の傭兵たちがそれぞれの兵舎に戻り、見えなくなるまで手を振るアナスタシアとくまさん。
「さ、皆が作ってくれた衣装と型紙で、今度は量を増やさないとね。頑張りましょう、くまさん! ハロウィンに間に合わなくなる前に」
 こくり、と頷くくまさん。これからまた夜なべで作業する日が続くことになるのだろう。
 傭兵たちの平和な1日は、こうして過ぎ去ったのだった。