タイトル:【AK】竹、取りに行くマスター:遊紙改晴

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/22 08:50

●オープニング本文


●七夕祭りの竹をとりに

「ん、なんだこりゃ」
 ある傭兵の目に入ったのは、モニターに映された一つの依頼。
 それは短い文章、簡潔な言葉の羅列で書かれたものだった。

『中国に竹、取りに行く。過酷な労働。無傷で戻る保証無し。報酬寸志。名声も名誉も得られない。だがやりがいはある 熊さん』

 傭兵の様子に気づいた受付嬢は、依頼の詳細を確認して告げた。
「ああ、その依頼ね。何でも七夕祭りに使う竹を取りに、中国の山に入るらしいわ」
「祭り用の竹を、わざわざ中国までいくのかよ?」
「依頼主のアナスタシアって子と熊さんの二人が祭りをやるんだけど、彼女かなり凝り性でね。やるんだったら徹底的に、って感じの子だから‥‥」
「キツイ上に報酬寸志なんて、こんな依頼受ける奴いるのか?」
「あらそう? 日本の侍なら、七人くらい集まりそうじゃないかしら」
「そりゃ映画の話だろうが」
「そうかしら。私はそんな命知らずを、毎日相手にしているような気がするけど?」
 受付嬢のからかうような笑顔に、傭兵は返す言葉もなく頭を掻いた。

●参加者一覧

奉丈・遮那(ga0352
29歳・♂・SN
鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
夏 炎西(ga4178
30歳・♂・EL
九条院つばめ(ga6530
16歳・♀・AA
神鳥 歩夢(ga8600
15歳・♂・DF
ナナヤ・オスター(ga8771
20歳・♂・JG
クイック前田(gb1201
20歳・♂・DF

●リプレイ本文

●竹取物語!?

 長江の流れを遡る船が一艘。茶色く濁った水を掻き分けながら、上流へと進んでいた。
『どれくらいかかる?』
『1時間程度だな。後は漁村で小船を借りて自分たちで探してくれ』
「1時間で漁村に着く。そこからは小船を借りていけ、とのことです」
 中国生まれの夏 炎西(ga4178)が船頭の言葉を仲間たちに翻訳して伝えた。
「1時間! もうだめ‥‥それを聞いただけで吐きそう‥‥おぅぇえ」
 真っ青な顔をしたアナスタシアが、船べりに張り付いて嘔吐感を必死に堪えていた。
 武装したくまさんがその背中を優しくさすってやる。
「皆、雇い主がこんなんでごめんね。まさか船酔いするとは思って‥‥うぷ、苦しい‥‥」
「しっかり。ほら、お水よ」
 美しい黒髪の大和撫子、鳴神 伊織(ga0421)がアナスタシアに水を手渡した。
 本当は脱水症状対策だったのだが、思わぬところで役にたつものだ。
「お祭りごとは大好きですからね。その縁の下になれるのならば喜んで身を貸しましょう」
 ナナヤ・オスター(ga8771)は双眼鏡で美しい山々を眺めながら笑いかけた。
「こちらこそ、今回は送れてすみません。できるだけ力添えになれるよう頑張ります!」
 遅れてきたことを気にしていたクイック前田(gb1201)も、名誉挽回汚名返上とばかりに胸を力強く叩いて見せた。
「うう、報酬だってそんなにでないのに‥‥ありがとう‥‥」
 船の中にはもう一人、名誉挽回に燃える者がいた。
「LHの傭兵の皆さんの思いを吊るす竹です。立派な竹を持ち帰りたいですね」
「はい、必ず成功させましょうね」
(「前回の依頼は酷い目にあったけど、今度はまともな格好だし、つばめさんにいいところ見せなきゃ‥‥!」)
 神鳥 歩夢(ga8600)は小さな体に強い闘志と思いを胸に、気合を入れなおした。
 今回は同じ小隊に所属する、九条院つばめ(ga6530)と連携して戦うことになった。
(「年下とはいえ男なんだから、ボクがつばめさんを護らないと!」)
 本人は意気込んでいるが、やはり傍から見ると愛らしい外見が災いして、可愛らしく見えてしまうのが難点だ。
「そういえば、七夕は女性の針仕事や機織の上達を願う祭だったそうですよ。七夕にそうめんを食べるのは、機織からきているそうです」
 アナスタシアの船酔いを少しでも紛らわそうと、奉丈・遮那(ga0352)が七夕の薀蓄を話して聞かせる。
「そうなんだ‥‥。それじゃああたしもそうめんを食べて、くまさんより手芸が上手くならないと。‥‥皆ありがとう」
 まだ青い顔をしているが、大分良くなったようだ。
 一行は漁村を目指して、(一名を除き)短い船旅を楽しんだ。

 目的の漁村へつくと、船はすぐさま舳先を回し川を下っていく。
 次に船が傭兵たちを回収にくるのは、明日の朝だ。
「漁村と言っても‥‥誰も居ませんね」
 夏が中国語で呼びかけても、返事が返ってこなかった。昼間だというのに物音一つしない村は、どこか不気味だ。
「もしかしたら、情報にあったキメラに襲撃を受けたのかも‥‥」
 奉丈の言葉に、傭兵たちの間に緊張が走る。皆自分の獲物をすぐさま構えられるよう、態勢を整える。
「いえ‥‥違いますね。村があらされてないですし、血の匂いもしません。恐らく別の場所へ避難しているんでしょう」
 無数の依頼と幾多の戦場を駆けてきた鳴神には、周囲に敵の気配がないことを感じとれた。
「でも用心するに越したことはありません。皆さん、いまのうちにこれを」
 鳴神が皆に渡したのは防虫スプレーだ。
「この季節、キメラでなくても虫には注意しないといけません。特に蚊は病原菌を運ぶ媒体となりますから」
 皆鳴神の忠告を聴いて、念入りにスプレーを吹きかける。
「これで蚊型キメラが寄ってこなければいいんですけど」
「流石にそこまでの効果は期待できないと思います」
 村には誰もいないので、船は無断で拝借することにした。
 木を張り合わせて作った船はかなり年季物らしく、所かしこに修理の跡が見える。
 ナナヤと前田が叩いたり試しに乗ってみて、状態の良いものを二隻、選び出した。
 片方には奉丈、鳴神、夏、ナナヤ、前田。もう片方に九条院、神鳥、アナスタシア、くまさんの四人が乗り込んだ。
「そういえば前のAKTV、見せてもらいましたよ」
「本当? ありがとう〜。と言っても、まだニ、三回しか放送してないんだけどね」
「もしよければ‥‥次の放送の時、私の兵舎にもいらして下さい、大歓迎ですっ」
「つばめお姉ちゃんの兵舎かぁ。実は今度の企画はね‥‥」
 女の子二人が会話に花を咲かせる中、くまさんは黙々とオールを漕いでいた。
「あの、くまさん、変わりましょうか?」
 4人乗りの船漕ぐのは中々体力の要る仕事だ。口を噤み、顔色ひとつ変えずにいるくまさんに、思わず神鳥も話しかけずにいられなかった。
「大丈夫。帰り、頼む」
 一度乗ってしまえば、熊さんが船を立って移動するとその重みで転覆する恐れもある。
 しかし仕事をもらえなかった神鳥は、しゅんとして顔を伏せてしまったので、くまさんは代わりに別の仕事を頼むことにする。
「周囲の警戒、頼む」
「え‥‥は、はい!」
 今度は生き生きとして瞳を輝かせ、船の周りに怪しいものは無いか調べていく。
「んー、今のところ異常は見当たらず‥‥」
 隣の船でも、ナナヤが双眼鏡を使って周囲警戒を行っていた。
 だが川の流れも風も、滞りなく穏やかに過ぎてゆく。
「このまま何も起きてくれなければいいな。この船の上では、満足に刀も振れない」
 そういいつつもすぐに居合いの態勢に入れるよう、前田は刀に手をかけている。
「もし襲撃されたら、私とナナヤさん、つばめさんの火器で何とかするしかないですね」
 奉丈はカプロイアM2007の安全装置を外し、銃弾をすぐ撃てるようにする。
「私も何か飛び道具になるものを持ってくればよかったかしら」
 鳴神も愛用の月詠を思う存分振るうことができないこの状況を、かなり警戒していた。
 確かに遮蔽物のない渡河中は、奇襲するにはもってこいの状況なのだ。
 相手からすれば船は動きが遅いし、攻撃も当てやすい。さらに船を沈めれば全員をおぼれさせることも可能だ。
 傭兵たちの警戒をよそに、船は上流の対岸へと無事辿り着くことができた。
「これは立派な竹林ですね。竹取物語にでもでてきそうです」
「金色に輝く竹、探してみる?」
 適度の緊張と会話を楽しみながら、竹林の中へと突き進む。
「ところでアナスタシアさん、竹は何本取りますか?」
「そうね、大きければ一本でいいわ。何本も取ったら竹もたまったもんじゃないでしょう」
「竹の本体は地中に生える根のほうだから、また伸びてきますよ」
「でも二本取ると身動きが取りにくくなると思うの。一本を素早く運んだほうがいい」
「先に役割分担を決めておいたほうがいいですね」
 相談の結果、A班、B班、中央の三つに分かれることになった。
 A班は奉丈、九条院、神鳥、くまさん。B班は鳴神、オスター、夏の3人。
 前田とアナスタシアは竹を傷つけないよう、真ん中で竹に随伴することになった。
「さて、決めることも決めましたし、竹取と行きますか」
「光った竹が見つかるかな?」
「かぐや姫って実はバグアだったりして」
「‥‥想像すると怖いからやめてください、アナスタシア」
 
「中国映画にでも使われそうなところですね」
 竹林の中は午後の日差しが笹の葉の間から差し込み、幻想的な光景を作っていた。
「観光だったらよかったな、本当」
「私の故郷でよかったらいつか招待しますよ」
「それは楽しみですね」
 笹の葉の絨毯を踏みしめながら、周囲の竹を調べていく。
 しかし、どの竹も根元に傷が付けられていたり、途中で折れていたりで、無傷なものが見当たらない。
「誰かに荒らされたんでしょうか‥‥?」
「そうだな、あいつに聞いてみようか?」
 九条院の問いに、前田が竹林の奥を指差した。
 そこには動物園の愛らしい姿からは想像できない、赤い目をした巨大なパンダが一匹。
 相手もこちらに気づいたらしい。鼻息を荒くし、どっしりとした歩みで間合いを詰めてきた。
「お前は‥‥裏山のシェイシェイ! ‥‥じゃないな」
 夏はホッと胸をなでおろしつつも、腕にゼロを付ける。
「希少動物をキメラにするなっ! 同志がどれだけ苦労して増やしたと‥‥!」
 涙目になりつつ、臨戦態勢に入る。
「パンダさんを傷つけるのは、心苦しいけど‥‥」
「戦わないと‥‥駄目みたいですね」
 九条院と神鳥も抜刀し、左側から相手の側面へと回り込む。
 鳴神と前田は右側に、夏とくまさんが正面、奉丈とナナヤが射撃で掩護する。
 まず最初に火を吹いたのは奉丈のカプロイアだ。竹林に銃声を響かせながら、七発の銃弾がパンダキメラの腕と腹部を狙う。ナナヤもS−01を続けて連射した。
 初めの2、3発は着弾したが、腹部の体毛と脂肪が衝撃を分散させているようで、ショックは与えられたが無傷。さらに見た目に似合わぬ素早い動きで、残りの銃弾を回避した。
「熊猫の名は伊達じゃないってことか。意外と素早いな」
 パンダキメラが転がった先に、鳴神が間合いを詰める。竹に斬撃を遮られぬよう、上段に構え、振り下ろす。
 渾身の一撃だったが、パンダキメラは攻撃を腕で防御し、そのまま横薙ぎに振り、鳴神を吹き飛ばす。
「おっと」
 竹に背中を打ちそうになるところを、前田がキャッチする。しかしその間にパンダキメラは二人を追撃するべく接近してきた。
「こっちにおいで!」
 九条院が片手でS−01を撃ちつつ、夕凪を振り回して気を逸らす。怒ったパンダキメラは、両手を振り上げて九条院に攻撃を仕掛けた。
「危ない!」
 追いついた神鳥が間に割り込み、レイシールドで攻撃を防御する。
 想像以上の力に、神鳥の膝が地面に付く。押しつぶされる前に、態勢を整えた九条院とともに両断剣をパンダキメラの腹へ叩き込む。
 これは流石に効いたようだ。腹を切られて仰け反ったところを、くまさんが覚醒し、背後からがっちり抱きしめた。
 いきなり後ろから持ち上げられたパンダキメラは踏ん張りが付かず、足をばたばたさせる。くまさんはそのまま巨体を利用してキメラを頭から地面に投げつけた。
 ふらふらと置きあがったパンダキメラの首に、夏の蹴りが入る。骨を砕く確かな感触。パンダキメラはしばらく痙攣してから身動きしなくなった。
「やはり、気持ちのいいものではないですね」
「邪魔者パンダキメラなんて、奥地の泉で溺れていればいいんですよ」
「お湯でもかけてみる?」
「あたし、出番なかったよ‥‥」

 鳴神の傷は大したことはなかったようだ。周囲の竹は戦闘によりなぎ倒されてしまったので、もう一度良い竹を探し出す。
「お、これなんかどうですかね? なかなかの大きさだ」
 ナナヤが見つけたのは、天へとまっすぐ伸びる若々しくも立派な竹だ。見た目からも生命力が溢れているように見える。
「うん、これに決めた!」
「それじゃあ、一刀、いきますか」
 前田が刀を納刀し、抜刀術の構えを取る。精神を集中し、刀を腕の延長と感じるまで、刀との感応を高め――――抜刀。
 反対側に薄皮一枚残して、竹を切り裂いた。
「倒れるぞー!」
 とアナスタシアがきこりの真似をして、大声を上げつつ竹をつっつく。
 鈍い音を立てて空から竹が倒れてきた。下から見たときより、かなり長く感じられた。
 くまさんが背中のリュックから、エアーキャップ(あのぷちぷち)を取り出して、皆に渡した。
 手分けして不要な枝の剪定し、傷が付かないようにエアーキャップで包む。
「では、B班から護衛をお願いします」
 奉丈、九条院、神鳥、くまさんの四人が竹の下に入り、掛け声を合わせて持ち上げる。
 神鳥がいいところを見せようと、一番重い根元。身長の高いくまさんが先頭だ。
 来た道は荒らされた竹だらけで、竹を傷つけずにすむが、足場が悪い。
 慎重に呼吸と歩幅を合わせて進んでいくには、かなり時間がかかった。
 「それにしても大きな竹ですね。熊さん、無理せず交代で運びましょう。」
 20分ほどで、護衛と運搬を交代し、夏、鳴神、ナナヤの三人が運搬する。
 竹林を抜けるころには、日が山際へと傾いていた。

 竹が大きすぎるので、二隻の小船を平行に繋ぎ、そこへ竹を横たえて運ぶことにした。
「それにしても、鳴神さんの防虫スプレー、よく効きますね。全然蚊に刺されませんでしたよ」
「え? じゃあこの羽音は‥‥?」
 ナナヤが振り返ると、竹林を飛び越えて飛ぶ影が三つ。
 耳障りな羽音に、血を吸う為の長い針。
「‥‥パンダに引き続き、ついてないな」
「船に乗り込む前でよかったと考えよう」
 今度こそ、と奉丈とナナヤの銃が火を噴く。
 だが、相手は蚊のキメラだ。空中での姿勢制御はお手の物。
 あちこちを不規則に飛び回る蚊キメラに、照準を合わせるのは至難の業だ。
 それでも二人で何とか一匹の羽に傷をつける。上手く飛べなくなった蚊キメラは、そのまま川の中へと落ちて沈んだ。
「今は貴方達の相手をしている暇は無いので‥‥消えて頂きます」
 鳴神が先ほどの戦闘の鬱憤を晴らすように、刀を強く握り締めた。自分専用に改造を重ねた愛刀・月詠が、彼女の覚醒に感応して青白く光る。
 淡い光に包まれた鳴神は、神速の一閃を放った。
 宙を舞う蚊キメラには、何が起こったかわからない。そのまま血を吸おうと鳴神に襲い掛かろうとしたとき、蚊キメラの胴体は真っ二つに解れた。
 残った一匹は劣勢と見るや、逃げ出そうと反転する。
「逃がしませんよ! 神鳥さん」
「はい、つばめさん!」
 神鳥が頭の上にレイシールドを構える。九条院は地面を蹴り、さらに盾を踏み台にして、飛び上がった。
 意外な攻撃に不意をつかれ、さらに九条院の覚醒による風が、蚊キメラの飛行を狂わせた。
 振り下ろされた夕凪が、蚊キメラの羽を切り裂く。落下してきた蚊キメラを、夏の拳が捉え、川の中へと殴り飛ばした。
「皆すごいすごい! ホントあたし出番なしだわ」
「いや、3匹しかいなかったところを見ると、偵察だったのかもしれません。増援が来る前に渡河したほうがいいでしょう」
 鳴神の意見に皆賛成し、すぐさま小船を漕ぎ出した。
「今日は皆本当にありがとう。そうだ、皆の願い事、最初に笹に結ぶから。短冊に書いてね」
「これだけ立派な竹があれば、きっとお祭も成功しますよ」
「参加できないのが残念ですけど‥‥ね」
 夕日が長江の水を照らし、世界を赤く染める。
 9人と竹の陰が、赤い水に映る。
 何千年も昔から変わらず流れ続ける河に、9人の存在が刻まれた一瞬だった。