タイトル:【PN】対EQ探知装置マスター:遊紙改晴

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/01 22:17

●オープニング本文


●指令:対アースクエイク探知装置を開発せよ

 ラストホープ内研究所の一室で、白衣を着た科学者たちが集まっていた。
 皆眉間に皺を寄せながら、上官から命令された問題について考えているところだ。
 つまり。『アースクエイク探知装置を開発せよ』と指令が下ったのだ。
 土の中を動き回るアースクエイクはその振動によって大体の位置を把握できるが、地中から這い出して攻撃してくる瞬間狙い、反撃を行わなければならない。
 いくら能力者とはいえ、予測不能なアースクエイクの攻撃を直感で回避し、さらにそこへ反撃を加えるような神業を、戦闘中ずっと続けることは不可能だ。
 KVに乗った能力者たちへ、アースクエイクの正確な位置を探知できるようにしなくてはならない。
 研究員たちが考えたのは次のような案だ。
 1.炸裂式発信機
 アースクエイクの通る場所へ発信機を埋める。この発信機はアースクエイクが土と一緒に呑み込むと、中で数十個の小型発信機に飛散する。これを探知することで位置を即座に把握する。
 この方法の欠点は、アースクエイクが大本の発信機を呑み込まなくてはならないことだ。偶然呑み込むにしても確率が低すぎる。
 2.熱・電気計測器
 兵器とはいえ、ミミズと同じ生態をしたアースクエイク。地中を這い動けば、体と土の摩擦により、熱と微弱な電流が発生する。それを即時に探知するのだ。
 しかし、この場合は先に計測器を設置しなくてはならない。設置した計測機が敵に発見、もしくは破壊されればそこで終わりだ。さらには地下深くまでは計測することができない。
 3.地殻変化計測器
 アースクエイクが移動すれば、地盤の緩みが発生する。地殻データからその位置を割り出すのだ。
 これも先に計測器を設置しなくては効果をなさない。地殻データからアースクエイクの位置を割り出せるが、地中深くまで感知できる代わりに、他の二種より情報量が多いために伝達が遅くなる。一瞬が生死を分ける戦場でこの誤差は大きい。

 どの装置も利点と欠点を併せ持つもので、実用できるほどではない。
 そこで研究員たちは傭兵たちにも広くアイディアを募集することになった。
 3つの品を改良するもよし、新しい探知装置を開発するもよし。
 諸君の創造力溢れるアイディアを期待している。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
NAMELESS(ga3204
18歳・♂・FT
エレナ・クルック(ga4247
16歳・♀・ER
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
北柴 航三郎(ga4410
33歳・♂・ER

●リプレイ本文

 研究所の長い廊下を、白衣をこれ以上なく着こなした男が1人、颯爽と歩いていた。
 揺れる白髪から垣間見える鋭い瞳と、口元に浮かぶ笑み。研ぎ澄まされた刃物のような美男子だ。
 白衣にかかった白い髪と、黒いシャツの胸元に光る十字架を揺らしながら。
 靴音を響かせ、たどり着いた先は研究所の一室。胸に着けた許可証をカードリーダーに通す。
「けひゃひゃ、我が輩がドクター・ウェスト(ga0241)だ〜」
 扉が開くと同時に、笑い声をあげながら部屋に入る。
 部屋には、誰もいなかった。
「‥‥‥‥」
 静寂に包まれた時間が流れる。
 部屋の中はごく普通の会議室だった。□型に置かれたテーブルに、6人分のパソコン。大きなスクリーンに映写機が置かれている。
 部屋の端には冷蔵庫があり、研究員の徹夜用なのか、寝袋も用意してあった。
「なんだ、わたしが最初だと思ったのに。ほら、入った入った」
 登場シーンに失敗して魂を飛ばしていたウェストの後ろで、芯まで覇気がこもった声が響いた。
 赤い髪を揺らし、ウェストと正反対の黒い上下の服を着こなす、戦乙女という言葉が似合う美女。鯨井昼寝(ga0488)だ。
「けけけけけー! こいつぁいい、こんなところで思わぬ相手と出くわすもんだ」
 今度はウェストを押し込む鯨井に声がかけられた。
 ウェストと鯨井が来たのとは反対側の廊下に、二人の男が現れた。
 1人は2m近い大男。胸をはだけ、鍛え上げられた筋肉をさらけ出している。豪放な大丈夫といった風格だ。
「新兵器開発なんてつまらない仕事と思っていたが、受けて正解だったな」
 ウェストよりも凶悪な笑みを浮かべて、NAMELESS(ga3204)は鯨井を楽しそうに見つめた。
 二人とも、戦場を生きる場所とし、戦いを生きるすべとし、相手に打ち勝つことを幸いとする戦闘狂。同じ穴のムジナであることを無意識に感じ取ったのであろう。
「‥‥やれやれ。こんにちは、お嬢さん、ドクター」
 ナナシの言葉に呆れながらも、被っていた帽子を浮かせ、鯨井とウェストに挨拶したのはUNKNOWN(ga4276)だ。黒いロングコートに身を包み、紫煙を吐き出す口から紡がれた言葉は女性の心を蕩けさせる響きがある。
「ナナシ、今回は皆で兵器開発の案を話し合うためにきたんだぞ」
「けけけ、わかってるよ。ここが戦場じゃないってことぐらいはな。今回はおとなしくしてるさ」
 まるで次にあったときは存分にバトろうじゃないか、とでも言っているようだ。
「すみませんー、第七研究室ってここでしょうか?」
 張り詰めていた場の空気が一瞬で緩くなっていくのが感じられる、人を和ませる声。
 さっきまで機械でもいじっていたのか、マシンオイルで汚れた白衣をまとった日本人の男だ。名は北柴 航三郎(ga4410)。
「私たち、ちょっと迷ってしまいまして‥‥。この研究所、広すぎますよー。テロ対策か何かわからないけど、異様に入り組んでますし‥‥」
 北柴の後ろからちょこんと可愛らしく顔をだしたのは、エレナ・クルック(ga4247)。鈴のような声はなんとも耳に心地よい。ただ少し人見知りしているようで、NAMELESSに睨まれると、同じ迷子だった北柴の背中にまた隠れてしまった。
「あ、ウェストさん。お久しぶりですー。ということは、ここが第七研究室でいいんですね」
「ああ。これで6人そろったわけだね〜。立ち話もなんだし、さっさと入ろうかね」

『こぽこぽこぽ‥‥』
 部屋の中に繊細な薫りが広がる。エレナが研究室においてあったポットで紅茶を入れていた。
「改めて、言おう。我が輩がドクターウェストだ!」
「私は鯨井昼寝。よろしく」
「僕は北柴航三郎です」
「俺はNAMELESS。ま、ナナシって呼んでくれや」
「俺はUNKNOWNだ」
「わ、私はエレナです。よろしくお願いします」
「では早速だが、話し合いに入ろうか。可能性は無限だけど、時間は有限だからねぇ」
 手馴れた手つきで端末を操作すると、今現在上げられている三つの案が映し出された。
「炸裂式発信機、熱・電気計測器、地殻変化計測器。この三つに手を加えるか、新しい方法を考えて発案するってことだけど、我が輩は電磁波探知方式を提案する」
 ウェストは白衣のポケットから自分の研究データが入ったMOディスクを取り出し、パソコンへ挿入した。
「EQのみならず、キメラを探知する小型の探知機があるといいなと思ってね〜。何、どちらも基本構造は同じだ〜」
 ウェストは以前、人に擬態したキメラとの戦闘を経験していた。そのときからの構想だったようだ。
「キメラが発するフォースフィールド(FF)の電磁波を探知する装置だ。我が輩は幾つかの事象から、FFの発生源は生体的なものと考えている〜」
 大画面に映し出された物体に、全員が紅茶を噴出しそうになった。
 Gタイプキメラ―通称ゴキメラの3D映像が現れ、様々な角度で回転表示される。正直見たくないというのが純粋な感想だろう。
「このGタイプキメラから剥ぎ取った羽からもFFが発せられたという報告もあったし、キメラの体内からは特にエミタやそれに似た装置など見つかった報告はない〜」
 皆の反応を気に留めず、眼鏡を光らせてウェストは核心に迫った。
「フォースフィールドを生体が生成すると考えた場合、通常時は効果を発揮しないほど弱めているものと推測する〜。このことからキメラは常時何かしら電磁波を発しており、この電磁波を特定できれば隠れているキメラを発見することが出来るだろう〜。というのが我が輩の考えだね〜」

「まあ、こういうのはとにかくアイデアを数出すのが一番、ってね。私は三つめの地殻変化計測器について提案があるよ」
 ウェストに続き、今度は鯨井が説明を始めた。
「これをKVの装備にして、岩龍やスカイクレーパーみたいな電子戦機とリンクできるようにしたらどうかと思うんだけど。複数の機体で連携すれば、処理速度もあがるしさ。単純にアースクエイクを探知するだけじゃ勿体無いから、他のキメラとかも探知できればいいっていうのはウェストと一緒だね」
 そこにNAMELESS、エレナ、北柴が続く。
「どうせなら漏電用のアースみたいにKVに取り付けられるようにすればいいんじゃねえか? 尻尾みたいに地面に垂らして、周辺の振動を感知できる奴」
「敵を発見するのとは違いますけど、アースクエイクの動きを観察して、補給基地とか警戒地点を見つけるのには地殻変化計測器も役に立つと思うんですが」
「KVに取り付けるタイプだと、たいして深くまで調べられないんじゃないかな。岩龍なんかと連携するのはいいけど、周辺にいくつも設置して、拠点本部と情報を行き来させることでもっと性能を上げられるんじゃないかな。エレナさんがいうように補給基地も見つけられると思う」
「‥‥何も1つで考える必要あるまい。他のものと機能を合わせて使えばいいのではないか」
 未成年のエレナがいるためか、火のついていない煙草を咥えたままのUNKNOWNが器用に話し出した。
「例えば炸裂式発信機は出現後、熱・電気計測器は敵が浅い場所に居るとき、地殻変化計測器は早期警戒時に用いるように、時と場所に適したものを使えばいい。ドクターの案は熱・電気計測器と同じだな。発信機は長い棒を地中に打ち込みS波/P波を棒先端より深い方向から来るもののみで測定して、地表波はKV歩行で起きる為測定せずにS波/P波の時間差で距離も大体判る」
 かなり話が込み入ってきて、ウェストや北柴以外はなかなか理解が難しくなってくる。
「熱・電気計測器はパッシブソナー、これにドクターの電磁波探知機のアクティブソナーを合わせればかなり性能が上がるだろう。こちらから電磁波を送って相手を誘導することもできるかもしれない」
「でもそれをKVに搭載するとなると、かなりKV自身のスペックを食っちまうんじゃないか? 電子戦機しか使えなくなったら、それはそれで不便だろうしよ。俺は熱計測器に自動追尾機能を付けたらどうかと思うんだが。空中から散布して地中に潜らせて、子機どうしで情報をやり取りするようにするんだ」
「小型で地中をアースクエイクの速度に追いつける自動追尾型熱計測器、は流石に今の科学力じゃ無理じゃないか」
「そうか‥‥。なら、酸素を奪う機能をつけたものを地中深くに埋める、ってのはどうだ? ミミズは地中の酸素がなくなると這い出てくるらしいからな」
「アースクエイクほどの大きさの地中の酸素を全て取り除くことはできないだろうね〜。ある範囲だけ取り出すなら可能かもしれなけれど、そこから移動されたら元も子もないしね〜」
「でも、ナナシさんの空中からばら撒くのというのはいい案だと思います。私の考えた探知装置は、フレア弾とラージフレアを足したような装置です。KVでアースクエイクが居ると思われるところに輸送して投下。一つから無数に分散して地中に潜るようにするんです。そうすれば事前に設置する必要もないし、地中にあるから破壊されることもないと思います。地中では振動探知する方式で、各機の振動の波を計測するんです」
「そのアースクエイクが居ると思われる場所を割り出す装置を作るんじゃなかったの? それに、フレア弾もそうだけど、結構自然破壊になるんじゃないかしら、それ。砂漠とかで使うならいいけど、そうあちこちにばら撒けるわけじゃないし」
「ではやはりUNKNOWNさんがいうように設置型のものがいいのでは? 電子戦機が突き刺して使うような持ち運べる形状にすれば、退避命令が出しやすくなると思うんですが」
「そうだな、槍状の既存兵器‥‥例えば機槍ロンゴミニアトみたいな物が使えるだろう」
「後はですね、炸裂式発信機も囮の車両とかに取り付けてアースクエイクに確実に飲み込ませるようにすればどうでしょうか。体内に残って吐き出されないように改造すれば‥‥」
「それならいっそ、エレナの案とくっ付けてフレア弾のように発信機をばら撒けばいいんじゃないも? もしくはKVの銃弾にすればいい。アースクエイクに打ち込んで発信機を埋め込めるわ」
「まぁ、あとはUPCがどこまで案を実現できる技術力があるかどうかの問題だね〜。とりあえずまとめて報告書を出そうか」
 報告書が終わったのは夜中になってからだった。その後も何度も案が重ねられ、生まれては消えていき、それに合わせて報告書を修正し、書き加えていく。
 地味な作業だ。戦場で戦うような華々しさは、この金属で囲まれた研究所の中にはない。だが、バグアに勝つためには必要不可欠なものだ。
 100万の想像と10万の企画、1万の試作品が作られる。
 兵器開発に必要なのは、人間のひらめきだ。
 AIやコンピューターには、まだ新しい何かを発明する力はない。だが、バグアには人間と同じくその力が備わっている。
 今後もバグアと戦っていく上で、ちょっとしたひらめきや小さな発明が戦局を大きく変えることになるかもしれない。
 六人の傭兵たちに、知恵と勇気の祝福を。