タイトル:タダイママスター:ユキ

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/24 22:08

●オープニング本文


「くっ‥‥あーーーー‥‥‥んっ」

 バキボキとなる関節を伸ばしながら、ドックを後にする。
身支度を整え、家路につこうと出口のハッチを開放すると‥‥

「っ! ‥‥朝かぁ」

 眩い朝日と、まだ熱を帯びない爽やかな空気が迎えてくれる。
『オカエリ』と。

‥‥‥‥‥‥‥‥

 傭兵の仕事に、昼も夜もない。キメラが現れれば夜でも現場に急行し、依頼を完遂するまで帰頭しない。それが当然だ。それで生活している以上、仕方ない。幸い、仕事はこっちで選べるんだ。嫌ならそういった仕事を請け負わなけりゃいい。
 けど、KVでの出撃、ありゃぁ最悪だ。
 居眠りもできなければ、終始Gのかかるせまーいコックピットの中で気を張らなきゃならない。皆が皆軍属上がりでもなければ、空が好きなんて連中ばかりじゃない。強行軍だけでもしんどいのに、あんなものに一晩中乗ってれば、そりゃぁ首も肩もバッキバキになるし、ケツも痛くなる。

 けれど、それでも俺はこの仕事が嫌いじゃない。
 給料がいいから?もちろんそれも理由さ。世の中金が全て。俺みたいな平々凡々の若いのがこうして生きていけるのも、このエミタってののおかげだしな。
 でも、やっぱりそれだけじゃないんだよな。
 『帰る場所がある』
 それが一番の幸せさ。

 仕事を終えて帰ってくる。血生臭い現場から戻って、割に合わない仕事だったと愚痴をこぼしながらシャワーを浴びて外に出れば、そこにはいつもとかわらない街があって、人の活気がある。
 家の近くの商店じゃあ、朝から元気なおばちゃんが開店準備をしながら、でかい声で挨拶をしてくる。
 すっかり馴染みになったバーにいけば、開店前だと怒りながらも、店を開けていつもの酒を振舞ってくれるマスターがいる。
 この陽気だ、近くの公園じゃあいい昼寝日和かもしれない。世間じゃ皆が仕事だなんだと忙しいときに、のんびり寛ぐ。最高じゃないか。
 そんでもって、家に帰れば、住み慣れた香りが俺に言ってくれる。『オカエリ』ってさ。
 そのまま、邪魔くさい上着を脱ぎ捨ててベッドに身を投げる。寝ちまったってかまわない。夜まで寝ちまったら、仕事を終えた仲間を捕まえていつもの酒場に繰り出せばいい。朝まで寝ちまったら‥‥そのときは、そのときさ。

「‥‥さて、どうするかね」

 一仕事を終え、心地よい疲労と、ちょっぴり膨らんだ懐。やけに醒めた、けれど時折まどろむ思考で、今日1日どうやって過ごそうか。それを考えるのが、今の俺の一番の楽しみさ。

●参加者一覧

アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
シーヴ・王(ga5638
19歳・♀・AA
百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
ユウ・ターナー(gc2715
12歳・♀・JG
クリスティン・ノール(gc6632
10歳・♀・DF
月居ヤエル(gc7173
17歳・♀・BM
日下アオカ(gc7294
16歳・♀・HA
星和 シノン(gc7315
14歳・♂・HA

●リプレイ本文

●奥様は大忙し
 カチャ。

 まだ日も昇らない、辺りが薄っすらと夜の帳に包まれている頃、シーヴ・王(ga5638)は静かに自宅の鍵を開けると、真っ先にある部屋へと向かう。そこに、穏やかに眠る愛する伴侶の姿を認め、ほっと一安心。よかった、まだ出かけていなかった。

「‥‥ただいまでありやがるです」

 夫を起こさぬよう静かに帰りを伝える。その表情は、とても穏やかなもの。疲れていないかといえば嘘になる。今も3日間に及ぶ護衛依頼から戻ったばかり。戦場の理不尽さに消え行く命。何もできない自分。身体だけじゃない。心も磨り減っていく。表情の乏しい彼女も、感情がないわけではない。怒り。悲しみ。眉間に皺を寄せることも多くなった。

 けれど、独りじゃない。

『俺が避難したらシーヴの帰る場所がなくなっちゃう。お帰りなさいとただいまが言える場所は大事だよ』

 夫の言葉。傭兵である自分を一人の女として、妻として迎えてくれた夫。自分の帰りを待つ。そう言ってくれた夫。かけがえのない、自分の帰る場所。そんな夫の顔を、なによりも早く見たかった。見れば、心の疲れなんてすぐに吹き飛ぶから。気がつけば、口元が綻んでいる自分。そんな自分に気付き、なんとなく幸せな気分に。

「さて‥‥朝食、何にしやがるですかね」
 自宅へ帰り夫の顔を見れば、思考はすっかり傭兵モードから主婦モードへ。ラジオパーソナリティやアイドルのマネージャーと忙しい彼。独り暮らしもしていたみたいだし、仕事でアイドルと一緒に料理をすることもあるようで、料理ができないわけじゃない。けれど‥‥
「またでありやがるですか」
 テーブルの上には用意されたパンとシリアル。ぎりぎりまで寝れるようにだろう。溜息1つ。壁にかけたエプロンの紐を結び、冷蔵庫を開ける。

 妻の帰宅に驚く彼。思わぬ朝食に喜ぶ彼。そんな彼の様子を眺めて、安らぐ心。慌しい彼は、すぐに出勤の時間。
「いってらっしゃい、です」
 おはようでできなかった分。3日間できなかった分も詰まった、見送りのキス。
夫を見送れば、家は静寂に包まれる。窓から空を眺めれば、辺りはすっかり明るく、空は雲ひとつない晴天。
「今日は絶好の洗濯日和でありやがるですね」
 うーんと伸びをすると、彼女は新たな戦いへと向かう。たまった洗濯物。空っぽの冷蔵庫。やらなきゃいけないことはたくさん。そこに『傭兵』の姿は微塵も感じられない。

 ただいまも、いってらっしゃいも伝えた。
 おかえりも、いってきますも貰った。
 次は私があげる番。オカエリを。
 夫のタダイマを待つ。そんな穏やかな主婦のひと時。


●懐かしい時間

「クリスちゃんと一緒で、びっくりっ! お仕事は大変だったケド‥‥今日はクリスちゃんといっぱい遊ぶんだーっ☆」

 朝日を浴びて動き出した、スローテンポの街並み。その一角を、元気に歩く少女2人。
ユウ・ターナー(gc2715)の背では、いつも一緒の赤いうさぎさんリュックの大きな耳が、彼女の歩みに合わせて大きく、楽しそうにリズムを刻んでいる。
 そんな楽しそうなユウの笑顔に、彼女の手をとり歩くクリスティン・ノール(gc6632)の気持ちも弾む。自分よりちょっぴり小柄な、けれど、大好きなお姉ちゃんとの、久しぶりの時間。気分はるんるん。足取りも軽く。

「あ、ユウねーさま、アイスクリーム食べましょうですの!」
 段々と熱を帯びる日差しに、キラキラと輝く街。そして、キラキラと輝くクリスティンの瞳。開店準備中のお兄さんも、可愛い少女2人のキラキラ視線には思わずにっこり。ユウはヨーグルトとオレンジのダブルを、クリスティンはチョコミントとストロベリーのダブルをゲット。依頼を終えて疲れているから? これくらい、女の子には当然。
 こぼさないように気をつけながら、さっそく近くの公園へ。時折おっとっと、危ない危ない、そんなこともあるけれど、思わずこぼれる笑み。4つの味を1口ずつ、1人よりも2倍の楽しみ。静かな公園に楽しそうな声が溢れる。

「施設の皆やシスター達は元気だった?」
 久しぶりの時間。思い出すのは、一緒に育った施設のこと。ユウより少し遅れて傭兵となったクリスティンは、ユウが傭兵になった後のこと、みんな変わらず元気なこと、ユウががんばっている様子を、嬉しさ半分、心配半分で、毎日お祈りをしていたことを話して聞かせる。
「そっか‥‥ユウの為に‥‥」

「ユウねーさまは、クリスがこちらに来るまでどんな風に過ごしてましたですの?」
 ユウが施設のみんなの顔を思い浮かべ嬉しく懐かしがれば、今度はクリスティンの番。ユウはクリスティンへ、傭兵になってからこれまでの出会いや経験を話して聞かせる。
「ユウね‥‥少しだけ大人になれた、かも! あとはね〜‥‥キメラをけちょんけちょんにしたり‥‥」
 クリスティンはユウの話にドキドキ、びっくり。そんな施設の頃と変わらないお友達の様子に、ちょっぴり安心して、笑みがこぼれる。穏やかな時間。

 日差しが強くなってくれば、最後はユウのとっておきの、秘密の場所へ。
 人気はなく、静かに佇む聖堂。穏やかな風を感じながら、大きな扉を開ければ、目の前には日差しを浴びて、一層キラキラと輝くステンドグラス。虹色の光を背に、マリア像が、少女たちに優しく「オカエリ」と囁きかけてくれる。
 施設を思い起こさせる聖堂の様子に、心を躍らせ瞳を輝かせるクリスティン。そんな様子を、どこかエッヘンと、そして嬉しそうに眺めるユウ。

「ユウねーさま。あのハーモニカ、また聞かせて欲しいですの。施設に居た頃の様に」
 クリスティンの言葉に、ぱっと顔を輝かせるユウ。
「ユウの得意なハーモニカ‥‥覚えててくれたんだねッ! 嬉しい、なv」
 うさぎさんの背中をゴソゴソ。取り出したのは、大事に手入れをされたハーモニカ。人前で吹くのは久しぶりかも。ちょっぴり緊張。でも、マリア様はちゃんと優しく見守ってくれている。なんだかまるで、施設の時に戻ったみたい。
 懐かしいのはクリスティンも同じ。懐かしいお友達と会えて、楽しい時間を過ごせて、なんだか昔の匂いのするこの場所で、懐かしい音に包まれる。安心。ハーモニカの調べに、いつしかうとうと、夢の世界へ。夢の中ではきっとあの日の2人、変わらない笑顔で楽しそうにしているのかな? そんな幸せそうなクリスティンの寝顔に、ユウの心もほんわか。何だかくすぐったくて、けど、嫌じゃない気分。暖かくて、とっても楽しくて、幸せな時間。


●Let‘s play!
「2人とも、ご苦労様。ヤエル、無茶しなかった?」
 ドッグに程近い、傭兵向けに24時間営業しているファーストフード店の一角。ロールカーテン越しに爽やかな朝日が感じられる窓辺のテーブルで、月居ヤエル(gc7173)、日下アオカ(gc7294)、星和 シノン(gc7315)、一見10代前半から半ばの仲良し3人グループは、依頼を終え、食事を取っていた。
「あ、うん。シィちゃん。おいていっちゃってゴメン、かなー?」
 マフィンとお茶をもぐもぐ。帰島してすぐにシャワーを浴びたヤエルの長い髪からは、良い香りが漂う。はて、おいていったとは‥‥
「‥‥そういえばシオン、あなたを置いていったことをすっかり忘れてましたわ」
 一緒に約束していた依頼への参加を忘れて、置いてきぼりをくらったシノン。そんな幼馴染を冷たく見やるアオカ。棘のある厳しい言葉で叱咤する幼馴染も、本音をぶつけてくれる、大事な、大好きなお友達。しょんぼりしつつも、でも、2人の無事にシノンは笑顔でシェイクを啜る。
「‥‥なじられて笑顔だなんて、気持ち悪い子ですの」
 そんないつもどおり幼馴染の様子に呆れながら、アオカもマフィンをあむり。野菜ジュースを一気に飲み干す。

 食事が済めば、ガールズトーク。シノンは男の子じゃないか? 大丈夫。2人の会話を楽しそうに眺めてる。人のいない朝の店内。周りを気にせず、女の子たちの声が響く。
「お芝居したいんだけど。どうしたらいいと思う?」
 ヤエルの提案に目を合わせる2人。
 元々役者の卵な彼女。傭兵業が忙しく、劇団も舞台も休んでいるけれど、やっぱり、好きなものは大事なもの。自分の好きな事と傭兵業って両立してもいいんじゃないかな‥‥と迷う気持ち。
 相談してくれる、それも素敵なこと。
「面白そうだねー!やってみたらいいと思うよ!しぃは賛成!」
 すぐに賛成するシノン。お手伝いしたいことがあれば、何でもお手伝いしたい。友達のためだもの。でもでも、しぃは楽譜で、アオは音符。2人で一緒。だから、アオも一緒だと嬉しいな。言葉にしなくてもそんないつもどおりのうるさい視線。
 ズズッと音を立てて、もう空になった野菜ジュースを啜ったアオカは、胸張り見下し、言い放つ。
「それなら演劇部を作ればいいですの。アオが部長になってあげるですの」
「え? でも、そんなのできるの?」
 言い出したものの、突然の提案。アオカの言葉に驚くヤエル。けれどアオカはビシッっと一言。
「いつだって考えるべきは『できる、できない』ではありませんわ。『やるか、やらないか』の二択ですの」
 なんだかカッコいい。横で目をキラキラさせるシノン。けれどそれはアオカが内心自分自身へ向けた言葉。失敗を恐れて踏み出せない。小さくまとめて、成長しない。そんな自分に。
「それじゃ、明日にでも申請にいくですの。今日はもうベッドが恋しいですの」
 お腹も満たされ、気だるい疲れに眠気がふわふわ。席を立って帰路につこうとするアオカ。だが、そうはいかなかった。彼女は行動派の友人に火をつけてしまったのだから。
「じゃ、早速、部活申請書出しに行こう!」
 元気に立ち上がるヤエル。アオカと一緒に依頼から帰ってきたばかりのはずの彼女は、元気一杯だ。
「な、今からですの?! むしろなんでそんな元気なのです?!」
 アオカの抗議も右から左。ヤエルはこれからやらなきゃいけないことを考えて、演劇のことを考えて、夢一杯、楽しさ一杯。
 体力バカー、人でなしー! などという断末魔を残しながら引きずられていくアオカと、楽しそうなヤエル。そんな2人の様子を眺めて、「あわてんぼうさんだな」と笑顔のこぼれるシノン。賑やかな2人の後ろを楽しそうについていく。3人のいつもどおりの光景。けれど、ここからはじまる、新しい光景。


●2人から3人へ
「お帰りなさい」

 扉を開けると、また一段とお腹を大きくした妻、百地・悠季(ga8270)が出迎える。つい先日、依頼に出発する前に見たときは、こんなに目立っていただろうか? あぁ、そうか。
「済まない。大分家を空けたな」
 東京、九州、アフリカ‥‥各地の戦場を飛び回っている間に、ずいぶんと日が経ってしまっていたようだ。彼女ももう8ヶ月になるはず。
「次はいつ?」
「明日の朝には」
 夫であるアルヴァイム(ga5051)は荷物を受け取ろうとする身重の妻を制し、自室へ戻る。部屋も、廊下も、家中が綺麗に掃除されている。あの身体で無理をしてはいないだろうか。ふとそんな心配を抱いていると、テーブルに置かれる、いつものモノ。
「‥‥ありがとう」
「どういたしまして」
 ウォッカ9.5:炭酸0.5。疲れた体、それも空腹な状態でそんなものを差し出す理由は、嫌がらせではなく愛情。先に一仕事を。そう思っていた彼も、妻の思いを察し、それを一気に煽る。ノドを焼くような感覚の後、渇いた身体に一気に巡る、アルコールの感覚。重い服を脱ぎ捨てると、洗い立てのシーツ、太陽の香りのする毛布に身を埋める。間もなく聞こえてくる、穏やかな寝息。

「おやすみなさい」
 仕事がないと落ち着かない。いつも飛び回っている。そんな彼にも、家に帰ってきたときくらい、休んで欲しい。久しぶりに見る、愛する夫の穏やかな寝顔に満足すると、さぁ、妻の仕事。夫の荷物を整理し、脱いだ服を洗濯機へ。大きなお腹。しゃがむのも大分つらくなってきた。でも、はっきりとわかるようになってきた、お腹の命。時折中から蹴るヤンチャっぷりに、思わず笑みがこぼれる。
 家に帰ってきた時くらいは手料理で迎えたい。私の手料理を食べているのに、太れないなんて、そんな悩みを持たれるなんて。料理を手がけるものとして、主婦として、妻として。夫のためもあるけれど、プライドの戦い。戦闘は無理だけれど、こういう戦いだって、悪くないじゃない? 夫が眠る家の中。夫のために家事をこなす。そんな幸せなひと時。

 正午過ぎ。6時間くらい寝れただろうか。妻の優しい声に目を覚ませば、ありがとうと一言、そのまま風呂へ。風呂には当然お湯が張られている。いつものこと。
入浴を済ませれば、そこには昼食の支度が。今日はなにやらずいぶん量が多い気がする。鳥のささみ‥‥あぁ、なるほど。
 多くの言葉は要らない。夫の思いを妻が察し、配慮する。夫は妻の配慮を察し、感謝を忘れない。お互いに通じ合った夫婦。食事の時間は静かに過ぎていく。

 食事が終われば、ボディーケア。四つん這いになる妻の腰を、夫が優しくさする。数回したら、ちょっと疲れて休憩。夫は何も言わず、休む妻の足を揉み解し、爪の手入れをしてやる。心地よい時間。穏やかな時間の流れに誘われてやってくる、心地よい眠気。夫に支えられ寝所へと入る。彼のキスが、幸せな夢を運んできてくれる。

 妻が寝たのを確認すれば、今度は夫が家事をする時間。自分が家を空けている間、できるだけ妻に負担をかけないようにしなくては。
 冷蔵庫や日用品を確認。足りない物をリストにして、どこに買いに行けばいいかを確認。効率的なルートを組み立てる。このあたりは、職業柄だろうか。
 買い物途中。ふと本で読んだ『酸味のあるもの』と『低反発のマット』を思い出す。思いついた物を購入し、帰宅したら通販をチェックし、注文を。そんな夫の気遣い。
 
 夫に起こされれば、辺りはうっすら暗くなる時間。洗濯物も取り込まれ、畳まれている。依頼で疲れているはずなのに、優しい人。でも当然。自分が好きになった夫だもの。
 夕飯の支度をしようと台所を覗けば、目に付くのは果物の山。買ってきたのはもちろん彼。その様子を想像すると、思わず笑いがこみ上げる。きっと妊婦には酸味のあるものがいいと、本で読んだんだろう。でも、それは悪阻の話。もう8ヶ月になって、悪阻も落ち着いてきてるのに‥‥。いつも正確な彼のそんなちぐはぐな気遣いも、嬉しい出来事。

 夕食を済ませ、夫婦の歓談。話すことは山のよう。けれど、楽しい時間は短いもの。夜も更ければ、休む時間。
「おやすみ」
 今夜は、隣に彼がいる。2人の夜。と、ふと感じる胎動。お腹を優しくさすってくれていた彼が、思わず「痙攣か?」と戸惑う。そんな様子に、またクスッっと笑みが漏れる。そうね、家族3人、ね。

 明日は早く起きよう。この子と一緒に、彼に『行ってらっしゃい』を言うために。