タイトル:メロンと雪合戦マスター:愉縁

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/02/16 23:09

●オープニング本文




 極寒の地、グリーンランド。
 そのどこまでも続く大雪原に、十数名のカンパネラ生達と聴講生が集まり、特別課外授業を受けていた。

「‥‥雪合戦、ですか?」
 先頭でカンパネラ特別講師、スヴェア・ペーデルの話を聞いていた金髪碧眼の美少年、何故か極寒でも半ズボン姿のカンパネラ生、オズワルド・ウェッバーが、彼女の手の上の雪玉を、くりくりっとした可愛い瞳で追いながら言った。ペーデルはその雪玉を軽く握り、生徒達へ突き出す。
「この直径7cmの雪玉は脆く、能力者が本気で投げれば、易々砕け散る。覚醒状態で、いかに力を抑えながら投擲するか。その感覚を身に付けろ」

 ペーデルの行う特別授業は、一風変わっている事で有名だ。畑仕事をやらされたり、一日中釣り糸を垂らしたり、3分デッサンを延々繰り返したりと、一見して、何の役に立つかよくわからないものが多い。もしかしたら、戦いの役に立つものではないのかもしれない。

 選ばれた者、能力者。

 その超人的身体能力は一般人を裕に凌駕し、桁外れのエネルギーを生み出す、スチムソンエネルギーシステム、通称SESを操る力を与えられている。それは『バグアという脅威に立ち向かう為の力』であるが、同時に、それは『バグアに類する力』を得たこということでもある。扱いを間違えれば、それはただの凶器。扱う人間の資質が試される――と、ペーデルは言う。
 何時の時代も、人は強大な力を、過ちからしか学んでこなかった。空に夢を追い求めた翼は、戦闘機として。生活をより良くする為に生み出された核エネルギーは、核爆弾として。過ぎた力は、時として、悲劇に繋がる。能力者の力も、例外ではない。
 彼らには戦う以上に、身につけなければならないものがあると、彼女は考えているのかもしれない。

 しかし、見れば男性にも見紛う凛とした横顔を、オズワルドはボーっと見詰め呆け、常日頃、軟弱ボーイっぷりを発揮している自分にも、あの凛々しさがあればなぁ‥‥とか、ちょっぴり思ったりしていた。
「ルールを説明する。一度しか言わない。心して聞け」
 ペーデルは、オズワルドを注意するように、軽く咳払いをすると、言葉を続けた。
「敵陣のフラッグにタッチするか、フラッグを除く相手チームプレイヤー全てに雪玉をヒットさせ、撃退するのが目的だ。制限時間内に決着しなかった場合、その時点で生き残っていた人数が多いチームの勝者。残人数が同じ場合は引き分け。これを1セットとし、3セット先取した方が勝利。1ゲーム、制限時間は3分。
 チームはフォワード4名、バックス3名、フラッグ1名から成る。フォワードは、自陣のバックラインより後ろに下がることができない。敵陣に進入できる人数は同時に3人までとするが、フラッグはこの人数制限に含まない。反した場合は反則となりセットを失う。
 なお、使用する雪玉はバックラインより後ろのシェルター後方にのみ備蓄できる」

 メモを取りながら、オズワルドは頷いた。
「なるほど、フォワードは、バックスとの連携も大事なんですね」
「そうだ。実戦において、チーム力程大切なものはない。ただの雪玉遊びだと思うなよ。実戦さながら、殺し合いのつもりでやれ」


「うー。さみぃなぁ‥‥」
 面倒くさそうに、のそのそ歩いて来るビジネスマン風の眼鏡の男。寒そうにコートの襟を立て、両手を脇で挟むようにして、寒さに耐えていた。
 その隣には、直径1、5m程の緑色の不思議な球体。いや、不思議というか、異様というか。それは巨大なマスクメロンから、逞しい脚が生えた、謎の‥‥――え? なに、これ? と、誰もが首を傾げてしまう、そんな物体だった。だが、並外れた回避運動を行う脚力と自走プログラム。そして、ボディはしっとりサラサラ、もちっとした適度な弾力。漂うほのかな甘いアロマの香りは、リラックス効果を持つという、恐るべきメロン型ロボである。
 開発したのは彼、ロズウェル・ガーサイド(gz0252)。ふざけた物体だが、その実、凄まじいテクノロジーの集合体なのだ。何の目的で、この形状にしたのかは、未だに謎に包まれているが。
「言われた通り、メロン持ってきたんだから、俺はもう帰るぞ。ちゃんと後で返せよ」

 ゆっくり踵を返したガーサイドに、ペーデルが「待て」と制止の声を上げた。
「ロズウェル・ガーサイド、貴君も訓練に参加しろ」
 ガーサイドにしてみれば、寝耳に水。これから研究室に戻って、暖房の利きまくった研究室で、ぬくぬくしようと算段を立てていた彼は、たまったものじゃない。
「お前が、やりゃーいいだろうが」
「私は審判がある。‥‥どうせ暇なんだろ」
「暇じゃねぇよ、忙しいよ。超忙しいよ」
「お前の上司の許可は既にとってある。これは命令だ」
 予算を貰っている都合上、上司の命令には逆らえない悲しきニート。嫌々そうな顔で、ロズウェルは深く溜息をついた。
「手回し良いなオイ。‥‥まー、いいけどよ」


 少しの沈黙。


「適当に雪玉当たって、さっさと抜けようと思っているな?」
「なっ、おまっ、エスパーか!?」

 図星か。

「ガーサイドとウェッバー。両名に特別ペナルティを追加する! 雪玉が命中したら撃退と同時に、AUKV、防寒具、服の順番に脱いでいってもらうぞ!」
「‥‥えっ、なんで僕も?」
「てめぇの血は何色だ!?」
 キョトンとしたオズワルドに対し、ギョッとしたロズウェル。

 両名にペナルティがサクっと決定した瞬間、手前の女生徒の手が上がった。
「あの、先生。3セット先取ということは、最大5セットまであるということですよね? 彼らが裸になったあとに雪玉が命中した場合、新たに罰ゲームを用意してもいいですか?」
「自主性を重んじるのがカンパネラの方針だ。‥‥好きにしろ」
 ペーデルは、『どうでもいい』くらいの、半ば投げやりに返事を返した。

「わー。どこ剃ろうかなー」
「剃るって、何をだ!?」
「チャイナドレスもいいよねー」
「な、な、何が始まるんです!?」
 得体の知れない熱気を帯びた少女達の、ギラギラとした眼差しに、ガタガタ震える顎鬚のオッサンと半ズボンのショタ。

「おい、ウェッバー‥‥」
「はい、ガーサイドさん」
「死んでも生き残るぞ!」
「はいっ‥‥!」


 ガシッと固く交わす握手とは裏腹に、『いざとなったら、コイツ盾にしよう』とか、二人同時に考えていた。

●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
最上 空(gb3976
10歳・♀・EP
ジン・デージー(gb4033
16歳・♀・DG
祈宮 沙紅良(gc6714
18歳・♀・HA
不破 イヅル(gc8346
17歳・♂・DF

●リプレイ本文

 
 雲ひとつ無い晴天。突き抜けるような青空から、柔らかな日差しが降り注いでいる。それでも、グリーンランドの気温は厳しく、研究室に篭って、コタツでごろごろしているような人種には特に、堪えるものであった。

「衣服を剥ぎ取り、ニートさんを恥辱の渦に堕とそうと思いますよ!」
「羞恥心より寒さのが問題だろ‥‥」
 元気に息巻く最上 空(gb3976)に対して、遠い目をして、只管極寒と飢えに耐えるペンギンのように微動だにしないロズウェル・ガーサイド(通称ニート)は、クールに応えた。既にトランクス一丁にされた経験のあるニートにとって、−10度という環境の中で裸になる方が問題が大きい。まぁロシアじゃ、−30度の中で寒中水泳なんて話も聞くので、早々に死ぬことは無いとは思うが。
 しかし、ニートを弄ぶのに、もしかしたら命くらい平気で懸けてしまいそうな空が要求するものは、ニートの想像を上回っていた。
「勿論、全裸といったら、パンツもですよね!?」
「パンツはやめたげてェ?!」
 空としても、そこまでするつもりは無かったが、ニートに羞恥心が生まれないのでは、意味が無い。そんな様子を見ていたペーデルが、ひとつ咳払いをする。
「あー。パンツはやめておけ。まーその。‥‥困る」
 普段ズバズバ物を言うペーデルだったが、そういうことには慣れていないのか、珍しく言葉が詰まり、表情を僅かに崩した。学園生達が、ここぞとばかりに声を上げる。
「あ、ペーデル先生が赤い」
「かおまっかー!」
「う、煩い! さっさとコートに行けっ!」
 ペーデルの声に合わせて、緑色の球体に足が生えた物体が、しゃばだばだーと、元気に雪の中に飛び出していった。氷結対策と、バランサーの調整が上手く働いているのか、そこを跳ね回るメロンの動きは、雪の上ということを感じさせないほどに機敏で軽快だった。

「あのメロン、中に人が入っているんですよね? あの形状からして、随分動き難そうですけど」
 そんな様子を眺めていたジン・デージー(gb4033)が呟くと、空がニートの所からてこてこ戻ってきて答えた。
「中に、誰もいませんよ?」
「ハハハ、ご冗談を」
「信じたくない気持ちはわかります。科学というより、怪奇の類に分類してもおかしくないかもしれませんが、紛れも無く、事実です」

「‥‥雪合戦、か」
 日本有数の豪雪地帯出身の不破 イヅル(gc8346)が、兄や友人達と遊んだ、雪合戦を懐かしみ、少しだけ表情を緩める。しかし同時に、バグアに奪われたことへの怒りと憎悪が湧き、険しい感情に支配されそうになったが、その瞬間、目の前をメロンがピューっと通り過ぎ、「‥‥えっ。‥‥ええっ!?」と、思わず二度見、三度見する動揺を見せ、その無駄なポテンシャルの高さに唸り声を上げ、気が付けば禍々しい感情は、ポーンと、どっかに飛んでいってしまった。
「‥‥あれが噂のメカメロン‥‥。ハイテクの無駄遣いすぎる‥‥」
「メロンさん‥‥、良い香りですわ」
 駆け抜けた後のほのかな香りに、ほわほわと暖かな微笑を携えた祈宮 沙紅良(gc6714)が、雪にはしゃぐ子供を見送る母親のような大らかな眼差しを、メロンの後姿に注いだ。


 一方敵陣地では、AU−KVを纏った、ショタとニートが、作戦の打ち合わせをしていた。
「よし、ウェッバー。その作戦でいくぞ。どうせ勝敗そっちのけで、俺達に雪玉当てることに終始してくるだろうしな‥‥」
 遠い目をしたニートの脳裏に、走馬灯のように苦悩の日々が過ぎていく。大破したハードディスク、晒されたエロ本、綺麗に処理された脛毛、妄想の坩堝に堕とされた日々。もう、悲しみは沢山だ。
「成績も惜しいですが‥‥。それよりも大切なものがあります」
 コートに分かれる直前、ジンと沙紅良が、何故か凄く優しい目をしてこっちを見ていたことに、ショタは動物的本能で危険を察知している。二人は分かっていた。

 自分達は、羊だ。飢えた狼の群れに放り込まれた、哀れな二頭の子羊なのだ、と。


 ***

 開始の合図。一発の銃声が天に轟くや否や、先手必勝とばかりに、フォワードの空、ジン、イヅルの3人が、一気に敵陣に駆け出した。力を抑えながらの雪玉投擲に慣れていないと踏んでの、奇襲作戦だ。
 まずは相手の出方をと、深い位置で様子を見ていた相手チームは虚を突かれる形となったが、ここで、敵も味方も呆気に取られる事態が起きた。

 なんと、フラッグであるはずのメカメロンが、オーバーラップしてきたのだ。
 場の全員に、電流走る――。圧倒的っ、自爆行為‥‥っ!!

 しかし、ニートはその様子を満足そうに見送っていた。AU−KVリンドヴルムのセンサーが、鈍く光る。
「雪玉に当たる前に、さっさと負けちまえばいいって寸法よ! 試合に負けて、勝負に勝つとは、こういうことだ!!」
 ペーデルは雪玉に当たった時のペナルティしか話していなかった。つまり、彼らにとってリスクとなるのは、『負けること』ではない。『雪玉に当たること』なのだ。ここで早々にノーダメージで1敗しておけば、後2セット、2回雪玉が当たっても、最悪全裸は避けられる。しかし、ニートとショタ以外のメンバーは、負けることにメリットは無い。二人の独断で作戦は実行された。

 ――だがしかし。

 空もジンも、メロンには目もくれず、ただ一直線にニートとショタを、それぞれ目指した。
「え?」
 イヅルだけが、勝利目的を放り出して突っ込んでいく味方と、自爆狙いのメロンを2回交互にその場で見比べて、うろたえた。2秒程思考が停止して、だが、まぁいいかという結論に達し、とりあえず二人のバックアップに付くべく、二人の後を追う。

「なん‥‥だと‥‥!」
 ニートがプルプルと拳を震わした。‥‥そう、彼女達にとっても、勝敗などどうでもいい事。ただ一つ、彼らを素っ裸にすることだけが、全てなのだ。――なぜなら、そうすることが、一番面白いから。
「‥‥おっさん、恨みは無いが‥‥成仏しろよ」
 二人の闘志に触発されたかどうかは知らないが、イヅルがそんなことを呟き、ニートが唇を噛んだ。どうも、作戦が裏目に出たようだ。

「仕方ありません。ここは迎撃を‥‥」
 ショタの声に、ニートはハッとした。そうだ、まだ慌てる時間じゃない。と、ニートがショタに振り向くと、ショタがあひる座りでペタペタと雪玉を作っていた。女性的フォルムなAU−KV、アスタロトを纏っているのもあるが、首をかくんと横に倒したショタは、確かに性別が疑われてもおかしくないかもしれない。ニートは目を細めた。

「くっ‥‥!」
 後手に回った学園生達が、遅れて迎撃に出るが、奇襲作戦と裏切りのメロン作戦によって、見事なくらいに前衛が瓦解していた。戦いにおいて、確たる信念を持ち、目標に向けて一心な者と、そうでない者の差は、歴然なものとなって現れる。この戦場とルールにおいては、彼らの力は僅差であったが‥‥。
 しかし、幸運のスキルを発動させ、運を天に真っ直ぐに突っ込んでいく空と、ジグザグ走行と竜の翼を織り交ぜた、緩急のあるジンの動き。その二人を援護するイヅル。それぞれ違った速度で攻め上がる彼らの動きに翻弄され、後手に後手に回ってしまう。また、人数も弾数も彼らが勝るはずだが、こう、間合いを詰められては当たるものも当たらない。
 矢嵐が如く、放物線を描きながらバックラインのシェルターから、援護の雪玉が無数に放出されるが、狙いをつけず、無作為に投げられた雪玉など、能力者の動体視力と運動神経には通用しない。一方の空達は、手持ちの雪玉を大事に、冷静に狙いをつけ、投擲。前線のフォワードを、一人、また一人と、倒していった。

 だが、防戦に徹し、深く構えた敵防衛ラインを突破できない。フードやヘルムの中に入れて携帯していた雪玉も、底を尽きかけている。一旦自陣に戻って補給を受けるべきか。いや、それでは相手に態勢を立て直す時間を与えてしまうし、制限時間がある以上、今引けば、目的を果たせない。

 ニートとショタの位置は、沙紅良のバイブレーションセンサーによって暴かれている。手持ちの雪玉はそれぞれ一発。空とジンが、アイコンタクトを交わし、頷く。

「青、春、だいなみーっく!」
 一呼吸置いて、ジンが叫ぶ。それを合図に、残ったフォワードを無視して、バックラインへ滑り込むように突っ込んだ。イヅルがフォワードの射線へ飛び込み、流し切りを発動しながら、最後の雪玉を飛ばす。雪玉が交差し、そしてその場には、雪玉が命中して立ち竦む学園生と、もふもふの雪の中に顔面ダイブしたイヅルが残った。


 ***

「‥‥」
 バックラインでは、終夜・無月(ga3084)が、全身の感覚に気を張るように静かに佇んでいた。遠くで雪玉が弾ける音がした気がしたが、ここからでは、詳しく知りようが無い。バックスの学園生と一緒にせっせと雪玉を作っていたフラッグ・沙紅良が、そんな無月を見て、かくりと首を傾げた。学園生達も、何か声を掛け難いのか、互いに顔を見合わせ、なんとも言えない表情。
 ここに居る参加者は、暖かな軍用外套を身に纏っていた。彼以外全てが、だが。見た目がどうにも、寒そうだ。
 しかし無月は表情を崩さない。鼻水が垂れそうになるのを堪えている気もする。どうでもいいが、雪玉作るのを少し手伝ってもいいと思う‥‥。沙紅良を除くハーモナーの女子二人が、怪訝そうな表情を浮かべた。

「あ」
 ふと、コンテナの上に、メロンが上下にぷるんぷるんしながら立っていることに、沙紅良が気付いた。メロンのほのかな良い香りが漂い、周辺に散らばった。無月が、動く。相手は攻撃手段を持たないメロンだが、無月は、手を抜くつもりは無い。どういう経緯でフラッグが現れたのかは、彼には見当がつかなかったが、勝利が目の前にあるのならば、取らない手は無い。
 全身全霊を込め、獅子が兎を狩るような心持ちで踏み出した足は、重く、滑り易くて、勢いを殺せないまま、どかーんと、正面からコンテナにタックルする形になった。
 雪が、ぼふんと舞い上がり、メロンはぴょーんと、コンテナから飛び降りた。そして、ぷるぷるしながら、ダバダバ縦横無尽に駆け回るメロン。復活した無月が、今度こそはと掴みかかるが、シェルターを利用して跳ね回り、スルリと器用にかわされてしまった。連携を取ろうにも、鬼神のような重い闘気を吐き出す無月に、学園生は引いてしまい、下手に手を出せずに困っている。

「あら?」
 このメロン、回避能力も高いが、何か、危険を察知する能力も持ち合わせているように、沙紅良は感じた。頬に手を当て、ほわほわした桜色のオーラを発した沙紅良に、メロンが反応を示す。まさに、太陽と北風。彼女の暖かな雰囲気に引き寄せられ、フラフラと寄ってくるメロン。
 一寸考え、バイブレーションセンサーを発動させた沙紅良は、現在の状況を確認すると、両手を広げ、メロンを優しく向かい入れた。


 ***

 1セット目を快勝した空達は、勢いに乗り、続く2セット目も制し、3セット目にいたっては、防寒具を奪われたニートとショタが、ほとんど戦力にならず、バックスを欠いた敵陣営には裏切り者も出てグダグダになり、呆気なく勝敗が決まった。
 辛うじて攻めあがっても、鉄壁ハーモナーの三重奏に阻まれ、フラッグに近付くことすら叶わない。献身的なバックアップは2セット目から効果的に働き、雪玉の補給もスムーズに行われた。
 3セット目は、フラッグの沙紅良も攻撃に参加し、逆転のチャンスもあったが、執拗にニートとショタを狙う空とジンに後衛から崩されゲームセット。終ってみれば、一方的な試合運びであった。

「ふふふ。空に小細工は通用しませんよ」
「小細工仕掛けてきたのは、テメェだろうが!?」
 敵を惑わすべく、倒れた後も、外野から散々「空は囮ですよ!」とか「フラッグが危ない目にあっている手筈です!」とか適当に言ったり、腐った女子に吹き込んで寝返らせたり、あらゆる手を尽くして、ニートに雪玉を当てに行った。あまりに全力を尽くした結果、一度負けておかなければならないところを、全勝してしまったが。
「さぁ、約束通り脱いでもらいましょうか! さぁさぁ!」
「畜生、覚えてろよ‥‥」
 変な所で妙に律儀な受身体質のニート。渋々、服を脱ぎだした。まぁ、変な魔法少女のコスを着せられるよりは、万倍マシか。
「おっと、空も鬼ではありません! ネクタイと靴下だけは残してあげます! あ、当然眼鏡は外してはいけませんよ!!」
「それならいっそ、全裸でいいよ!?」
「全裸には萌えはありません!」
「知るか!!」
 そうして、いいようにひん剥かれたニート。‥‥無駄毛を剃られなかっただけ、マシだったかもしれない。

「へぷしっ!」
「大丈夫ですか、オズワルドさん」
 ぷうっと膨らんだオズワルドの鼻提灯に、沙紅良はクスッと小さく笑う。オズワルドもパンツ姿ではあったが、何故かシャツの着用を許されていた。一応彼も能力者であり、ある程度の寒さには強いとはいえ、この凍る寒さでは鼻水の一つも垂れてしまうだろう。
「さ、流石に‥‥」
「お寒いでしょう? 私、何故かこのような服を持っておりましたの。よろしかったら、どうぞ」
 と、沙紅良が取り出したのは、水色ワンピースにエプロン、リボンカチューシャ、パニエ‥‥。アリスのコスチュームだった。オズワルドの顔が、ピキッと引きつる。彼女はさも偶然持っていたと言うが、明らかに、それは嘘だ。
「さぁ、オズワルドさん」
 春の日差しのような麗らかな微笑を携えながら、獲物の隙を窺うジャッカルのような動きで、ジリジリとオズワルドを追い詰めていく沙紅良。不意に、ショタの背中から、ガシッと、何者かがホールドした。そこには、何か面白い事を見つけてしまったジン・デージーのうっすらとした微笑み。
「髪もきちんと、整えて差し上げませんと‥‥」
「‥‥ちょっ、寒いだけで着せるなら、髪型は関係ないですよね!? や、やめっ、や‥‥アッ――!」



「はい、完成です」

 涙目になり、俯くオズワルドのアリス姿。普段の半ズボン姿でも、無駄に色気を発揮している彼だが、少女アリスの姿はまた別方向の色気を開拓してしまった。幼さの残る風貌、そしてくりっとした眼が上目遣いにこちらを見れば、誰もが息を呑んでしまう。

「これは、アリですね」
「ああ、アリだ‥‥」
 ジンが頷き、イヅルが同意した。オズワルドは益々恥ずかしくなって、手近にあったメカメロンを、きゅうと、抱きしめて身体を隠そうとするが、演技ではない、本気の恥ずかしがりようが輪をかけて、妙に色っぽくなった。
「ぐすん。‥‥もう、お婿にいけない」
「大丈夫、お嫁にはいけます」
「‥‥ああ、いけるいける」
「僕は男ですよぉーー!?」

 オズワルドの叫びは、グリーンランドの雪原に呑まれ、儚く霧散した。