タイトル:アウフブリューエンマスター:愉縁

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2012/01/18 20:31

●オープニング本文


 ドイツ、クルメタル本社。

 重々しい空気の漂う大会議室の大型スクリーンの前、七島恵那は居並ぶドイツ人役員達を前に、流暢なドイツ語で静かにプレゼンテーションを開始した。
「大気圏内に限定すれば、クノスペは改良の必要性のない機体ですが、戦場が宇宙に拡大した現在。売り文句にしている『戦場を選ばないタフな運用性』は、宇宙への対応も求められています」

 スクリーンに映し出されたのはクノスペの4面図。続いて、機体の全形。そしてそれは、ゆっくりと可変していき、寝そべるような姿をした独特の人型形態へ。この運搬一点に絞ったスマートな形状により、先行して販売していたドローム社のリッジウェイの一歩先を行くことにも成功している。そして、支援部隊での運用に主眼を絞り、余計な戦闘能力を持たせず、完全な後方支援機としてカテゴライズさせたことも、良好な販売実績に繋がっていた。

「…とはいえ、宇宙対応となってしまうと機体そのものを、一から再設計する必要があります。最早別の機体となってしまうでしょう。そこで、クノスペ最大の特徴である『換装コンテナシステム』を改良しました。宇宙空間での運用に主眼を置いて、改良を加える予定です。資料のご確認を」

 資料には2種類のコンテナが描かれていた。物資輸送コンテナには手は加えられていないが、人員輸送コンテナ、メディカルコンテナには、2重の気密扉と気圧調整機能を備えたエアロックが増設されている他、人員輸送コンテナには空間限定ではあるが、単体航行能力が、メディカルコンテナには気密性の高いメディカルポッドが取り付けられるなど、宇宙での運用に主眼を置いた設備が増やされるようだ。無論、これは評価試験用の試作機であり、販売ベースの機体にその全ては採用できない。

 一人が手を上げ、物資輸送コンテナについて質問をすると、七島は首を竦めた。
「輸送艦も就航を始めていますし、コストの問題もあります。物資輸送そのものは現状のまま、手を加える必要は無いでしょう」
 ‥‥最もな話だ。小回りはクノスペが勝るが、積載量では輸送艦の足元にも及ばない。宇宙空間における物資運搬は、輸送艦が取って代わることになる。宇宙におけるクノスペの役目はもっと別の部分に集約されると、七島は続ける。
「今回のバージョンアップ最大の特徴は、人員輸送。敵拠点・艦船への上陸能力です」

 次にスクリーンに映し出されたのは、クノスペの胸部。拡大されたそこに、見慣れない円筒状の装備が取り付けられていた。
「試験用にマルチプルアンカーを装備しました。最大射程50m。アンカーの先には返しがついており、岩壁を易々貫いて食い込み、メトロニウム製のワイヤーとKV動力による強力なウインチで機体を引き寄せて、目標地点へ上陸します。これにより、移動している目標にも、安定して上陸することが可能でしょう」

「海賊でもするつもりかね」
 役員の一人が冗談のつもりで言うと、七島は不敵な笑みを浮かべた。

「実際に敵艦へ歩兵を下ろすことを想定した、運用試験を行おうと思っています」


 ***

「今回の依頼は、クルメタル社からの依頼です」
 今日も元気な半ズボン‥‥ではなく、新人オペレーターのオズワルド・ウェッバーが言った。思いなしか、いつもより表情が明るい。元来、争いごとが苦手で、能力者適性が見つかって、能力者となったものの、戦闘関連の成績が芳しくなくてオペレーターに回ってきた子である。戦闘の危険が少ない依頼を案内するときは、バニラのような、まっさらで、甘い表情をすることが多かった。
「衛星軌道上のカンパネラ付近で、クノスペ改良型が試験運用を行います。その護衛と、実際に試験運用に参加し、データの収集を行うのが目的です。試験内容はこちらに」

 差し出された試験内容に目を落としながら、チラと、オズワルドを見ると、上目遣いにキラキラしながら、青い瞳でこちらを見ていた。頬も少し紅潮させているものだから、思わず傭兵は一歩引いて、「え? 何?」と訊ねると、オズワルドは少し照れた様子で、
「あの、宇宙って、憧れるじゃないですか。‥‥僕、まだ行ったことないんですよ」
 と、口に軽く手を当て、もじもじする姿は、完全に女子だ。

「‥‥?」
 複雑な表情を浮かべた傭兵を前に、金髪の美少年は小さく首を傾げた。

●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
威龍(ga3859
24歳・♂・PN
キョーコ・クルック(ga4770
23歳・♀・GD
オリヴァー・ジョナス(ga5109
17歳・♂・EL
フィー(gb6429
12歳・♀・JG
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
ラサ・ジェネシス(gc2273
16歳・♀・JG
キャメロ(gc3337
18歳・♀・ST

●リプレイ本文



「ディルクはスナイパーライフルを使え」
 カタパルトデッキに移動したS02に向け、自ら搭乗するKVのコックピットのヘッドセットを引き寄せ、トウヘッドの女が言う。髪を仕舞うのが面倒という理由で、宇宙に上がるときに、髪はバッサリ切り落としたが、長年の癖か、右手は無い筈の後ろ髪を撫でていた。
『スナイプなら、大尉がダンチでしょうに。なんでまた』
 まだ若い男の声がして、それにあわせる様に、S02の頭部が女性に向いた。大尉と呼ばれた女性は、その機体に視線を移す。その鋭い翡翠色の眼光は、男を黙らせるには十分だった。
「ファーナーは宇宙(そら)に上がったばかりだ。私がお守りをする。――ツァルダ、調子はどうか?」
 続けて別の回線を開き、今度は映像らしきものがモニターに映し出された。女性よりも大分年上の、彫りの深い男が、慣れた手付きで稼動準備を進めている。彼の巨躯に、そのコックピットは少々窮屈そうに見えた。
『まずまずですな。ドローム製は性に合いませんがね』
「クライアントのオーダーだ。私達もプロだということを忘れるな、中尉」
『了解』

 それを確認して、まだ真新しいシートに女は身体を滑り込ませた。しかし、今まで型遅れの中古品ばかり乗ってきたせいか、新品のシューズのような硬さを感じる。息苦しくて、KV隊を指揮する彼女、スヴェア・ペーデルはパイロットスーツの襟首を、ザックリと下ろした。華奢な首筋から鎖骨にかけて、深い傷跡が覗く。
「軍曹、相手は射程外からスナイパーを狙ってくるぞ。箱付きは足が遅いからな」
「深く引き付けろってんでしょ? わかってますよ」
「――それでいい。試験評価に付き合う形だが、宇宙では初の実戦形式。我々にとっても良い経験になる。各員、気を抜くな」
『ハッ』
 赤い光を点滅させ、航行する宇宙大型輸送艦から、漆黒の虚空に向けて5つの光が放出された。


 ***

「前方に光。目標の船ですね」
 目視で確認したオリヴァー・ジョナス(ga5109)が言った。バグアとの戦闘、ジャミングを想定しての模擬戦の為、レーダー類はほとんど作動しないように設定されている。視覚情報が頼りだ。
「敵拠点への強襲揚陸の為の機体か。作戦とサポートする仲間次第では面白いかもなあ。その有効性が実証出来れば、こちらの打つ手が一つ増える訳だし、何かと成功させたいものだぜ」
 併走するクノスペを一瞥し、そして敵影に視線を移す威龍(ga3859)。VU検証機である、クノスペB型が後方、その前にオリヴァー、威龍、ラサ・ジェネシス(gc2273)の駆る3機のハヤテが直援に付き、左右に終夜・無月(ga3084)の乗るミカガミ、フィー(gb6429)のリンクス。正面にキョーコ・クルック(ga4770)の駆る、天。その天が、クノスペから少しずつ先行を始めた。
 前方の光は全部で5機確認できる。恐らく残る1機がスナイパーであろうが、肝心のそれが確認できない。まぁ、スナイパーがわざわざ目立つような真似はしないだろう。派手な忍者が意味を成さないのと同じだ。

 少し、不穏な空気が流れたのを、クノスペの輸送コンテナの中でも感じた。シートに身体を固定して、じっとして祈るしかないというのは、戦いを知り、自らの力で切り開いてきた能力者にとって、最も苦しいひと時だろうか。歩兵として参加した夢守 ルキア(gb9436)と功刀 元(gc2818)は視線を絡めた。外の様子が分からないのは、送られる側にしては不安しか無かったが、それはもう、操縦者を信じるしかない。
「正直、軽傷なら物資コンテナにぶち込んで、拠点に戻ってくる方が多いんだ。手が足りないし、広さも無い」
 パイロットスーツのメットに、小さく息が篭った。自らを固定するシートは、着席者に負担をかけないよう、身体にフィットする形を取っている。ある程度の衝撃は和らげる構造だろう。
「流石に、地上と同じようにはいかなそうだケド」
 ふわふわ簡単に揺れる手足をきゅっと引き締める。無重力下では、トラックの荷台のように扱うには難がありそうだ。
 事前に彼女が行っていた無重力下での簡易オペだが、これも重力下で行うのと、勝手が全く違っていた。新コンテナは気圧調整が施されているので、縫合だけならば慣れ次第で問題は無いが、無重力では液体が流れない。身体から出た水分は全て、肌に張り付いたままなのだから、顔に水が少量かかっただけでも窒息する恐れがある。当然麻酔も回らないので、本格的な手術には相当な覚悟が必要になるだろう。重体であるならば、いかに安静に、医療設備に速やかに送るかが、重要になりそうだ。

「当機はこれより作戦を開始します。慣れない処女飛行ですので少々揺れますが御了承下さい」
 クノスペの操縦を買って出たキャメロ(gc3337)の声が響いた。輸送コンテナには、彼ら傭兵2人を含め、6人の歩兵が武装した状態で乗っている。搭乗者数そのものに変更はないようだ。ただ、これ以上の搭乗者となると、装甲や装備を削って安全性を落とす必要が出てくる。ギリギリ一杯、限界の搭乗者数が8人のようだ。

「かぼちゃの馬車のお通りだよっ! 道を開けな!」
 キョーコの駆る天『あまん』が、D02ライフルで火蓋を切る。右に3機、左に2機と編隊を組んだリヴァティーは、牽制弾に動じず、更に加速した。
「‥‥ふぁいありんぐろっく解除」
 フィーのリンクス『ケット』も、LPM1ライフルの射程に捕え、援護射撃に加わる。あまんのロックオンサイトが、5機を囲む緑の光を、次々と赤色に変えた。K01ミサイルの射程に捕えたのだ。250発にも及ぶ、壮大な光の尾が、コンピュータグラフィックスでモニターに形成され、撃ち出されていく。合わせる様に、各機がミサイルを放射した。夥しい数の閃光が、眼前を優美に彩る。

「‥‥艦が速度を落とした?」
 相対速度の僅かな変化にラサが気付く。目標の艦が制動を行っているのか、少しずつ接近する速度が速まってきている。ラサが観測したデータは、直ぐにクノスペのキャメロに送られ、速度の微調整が行われた。
「私の愛機、かるがもちゃんの大事なVUですから、悔いの残らないように‥‥」

 弾けた光の向こう、迎撃に飛び出してきたS02は何機落とせたか。反撃の兆しは無く、ただ静かに視界が戻っていく。
「やったのか? 編隊を崩して、左右に散ったように見えたが‥‥」
 威龍が言い終わるより早く、無月の操るミカガミ『白皇月牙極式』が動いた。左右上下から無数の光が降り注ぎ、白皇がそれをかわし、クノスペの直援にあたっていた、オリヴァーとラサのハヤテが逸早く動き、身を挺して攻撃を防いだ。
 驚異的な反応を見せた白皇が発射元を瞬時に捉え、虎の子の粒子加速砲を放とうとするが、射線上にケットの姿。直感的に嫌なものを感じて、急速に距離を取った。想像以上に視界が狭く、周辺の状況を掴み難い。距離が近すぎる為だ。

 人型に可変する6機のKV。それを囲うように、散漫なライフルの光が降り注いできた。命中力を欠いているが、狙いが絞られていない分、下手に動くことができない。先行したあまんが、再度K01の発射を試みるが、味方機が近過ぎて、狙いが定まらない。スナイパーの発見が遅れている今、輸送艦に向かって、進行ルートを確保するのを優先した。フィーのケットも距離を取るべく、それに続く。
 結果的に後手に回ることになったが、白皇が囲いの一機に狙いを定め、白雪を振りかざした。
「後ろだ!」
 威龍の声に、無言のまま機体を旋回させ、普通の人間ならば身体が捻じ切れるであろう機動の中を、器用に光の渦をすり抜け、泳いでいく白銀の流星。狙いはそのままに。しかし、その機動を変更したその僅かな瞬間に、そのS02は、味方機を遠く、蹴り飛ばした。反動で勢い良く離れていく二機の間を、白皇の遠慮も手加減も無い強力無比の一撃が、突き抜ける。

『た、たいちょぉ〜!?』
 間の抜けた声が聞こえた。弾丸はCGだが、物理的なものはそのまま処理される。きりもみしながら、バランスを崩したS02を気にかけることなく、蹴り飛ばした方のS02は、その場で軽くバーニアを噴射して、機体をひる返し、白皇に銃口を向けた。
『目で引かず、心で引かず、闇夜に霜の降るように‥‥』
「‥‥」
 呪文のように呟く、抑揚の無い女性の声。無月はただ無言で、その白い機体を見詰めた。


「しかしこの機動‥‥。クノスペの中じゃ、酔いそうですね」
 編隊を組み、崩し、速く動いたと思えば、動きを緩め、攻撃は散漫だが、下手に動くと別方向から確実に当ててくる、そんな動きをされ、簡易ブーストをかけた3対3のKVは、ぐるぐると、犬の尻を追い回すように、戦闘を続けていた。
 こちらから決定打を出せない状況だったが、それは相手も同じだったようで、目標のクノスペに未だ一撃も与えられずに居た。遊撃に回る威龍と、張り付いて防衛に当たる、オリヴァーとラサが、良く攻撃を防いでいる。

 不意に輸送艦から、光が放たれた。過剰に詰まれたブースターが火を噴き、あまんを押し上げる。その回避した先、狙い済ましたような一撃が届くが、これも難なく回避し、その視線は発射元へと注がれる。

『いい動きだ、悪くない』
 渋い、男の声。それは、プローンポジションで甲板に伏せているS02から発せられていた。
「‥‥――まさか、目標‥‥輸送艦の上!?」
『――だが、この三発目が本命だ』

「見ィ‥つけたッ!」
『遅い!』
 D02が火を噴くより先に、あまんの胸部へヒットの表示。これにより、射撃が中断された。
『‥‥ほぉ? 直撃させたつもりだったんだが』
「ぬかせ!」
『おっと!』
 ワンテンポ遅れて、D02が発射される。直ぐに身を転がし、艦側面へと、機影を忍ばせた。

 そこに――ライフルを静かに構える、ケットの姿。
「FCSの精密さなら、こっちが‥‥上‥‥」
 発せられる声は儚く、ただ静かに流れを引き寄せるだけ。

「‥‥外さない」
『外れるさ』

『調子に乗るな、軍曹。上だ』
『うっ!?』
 ライフルのリロードを終えたあまんが、甲板の上に移り、覗き込むように狙撃。辛うじて回避したその先に、ケットの正確な一撃が、命中を示す表示を弾き出した。


 戦闘の光を掻い潜り、クノスペがマルチプルアンカーを射出した。弾丸のように発射されたアンカーが甲板に固定され、KV動力によるウインチが、機体を引き寄せる。これをマーカーにして、相対速度をVTOLで調整しながら、機体を指定ポイントに接舷させた。思ったより、振動は少ない。
「どう? いけそうー?」
「問題ありません。そちらはどうですか?」
「うーん‥‥。軽く、酔った」
 コンテナ内で待機していたルキアが、操縦士のキャメロへ無線で呼びかける。巻き上げまでにかかった時間は十数秒というところだろうか。無重力下だからか、巻き上げは想像以上に早かった。
「キャメロさんハッチ開閉願いますー」
 元の言葉に合わせ、コンテナの後部ハッチがゆっくりと開く。この後部ハッチは特に重厚に作られている。人員輸送型コンテナの特徴だ。その分、積載量は物資輸送コンテナに比べ、少ない。
 艦側面に横になるように張り付いたクノスペから、歩兵達が降りる。磁力ブーツに、ズシリと重みが加わったのと、上半身を駆ける浮遊感が、‥‥気持ち悪い。どちらが上か、下か、少し考えてしまうだけで、この虚空の空に、無限に堕ちていってしまいそうな感覚。

「うっ‥‥」
 歩兵の一人が、思わず膝をついた。吐きそうになっているのを、必死に堪えている。ルキアが肩を抱え、コンテナの中へ戻した。元を近くに寄せて、メットとメットを引き合わせる。会話する為だ。
「時間が無い。キミ達は直ぐに降りて。私は彼と残る」
「わ、わかった」

 慎重に開口部から入っていく6人の後姿を見送り、ルキアは小さく溜息を吐いた。人類にとって、この宇宙というステージはまだ、問題が多そうだ。


 ***

 ――宇宙要塞カンパネラ。

 地球が見渡せる展望台に傭兵達は集められ、彼らを前に七島は成果を発表した。相対速度の変化における、マルチプルアンカーの有効性、それに伴う強度のデータが収集され、今後に生かされると七島は言う。なお、アンカーのFF対策についても聞かれたが、これは作業への転用も視野に入れており、攻撃と作業を切り替える機能が、検討されているとのこと。

 また、傭兵からは、戦闘能力を犠牲にしてでも防御力の向上と、あと、水上フロートを残して欲しいという意見が出たが、七島は難しい顔をした。
「VTOLの燃費に関しては、機体重量がネックになっているからね。で、軽量化するとなると、装備の排除か、装甲を削るしかないわけよ。元々、不要な要素を徹底排除して生まれた機体だからね」
 戦場も少しずつ宇宙に移り、地上での活動も減ると見込んでの水上フロート機能の排除という結論に至ったが、確かに戦域を選ばないという機体コンセプトに反している。かといって、装甲を削っては安全性を損ねてしまうだろう。あちらを立てればこちらが立たない。『手を加えない』という方向性が、ベターかもしれない。

 宇宙対応ということで、簡易ブーストを期待する者もいたが、これにはハッキリNOと、七島は言う。大体、簡易ブーストを備えるとなると、一から設計し直さなければならない。改修というレベルを超えている。
「そもそも、クノスペはあくまで支援主体で、KV戦は考慮していないのよ。宇宙対応も、コンテナにエアロックを装備するのが精一杯だし、それに、仮に簡易ブーストがつけられたとしても、輸送されている人は、たまったもんじゃないでしょ?」

 ――然り。
 輸送コンテナに乗っていた二人は顔を合わせ、胃から酸っぱいものが込み上げるのを感じていた。慣れない無重力で三半規管がバランスを失っていたというのも一因だが、キャメロの安定した操縦でも、軽く酔いを感じた二人。そこに輪をかけて空間機動など取られた日には、降りる前に意識が飛んでしまうだろう。ある意味、拷問器具に近い。

「四方からエアーを抜いて、推進にするんデスね」
 ラサが、分厚いガラスの向こうに顔を張り付けて、クノスペのコンテナが流れていくのを、じっと見送っていて、誰かがクスリと、笑みを零した。
「宇宙ならではの使い方ね。使ってない換装コンテナを、船外作業員の送迎用に貸しているわ。『足場』にもなるわね」

 ラサに並んで、ルキアがカメラを構えている。
「宇宙に来れなかった、オズワルド君に」
 無数に輝く星々は、数百、何千年の時を越えて届く、太古の便り。美しく輝く光は、今はもう、失われてしまったものかもしれない。

 ぼんやりと灯篭のように淡い青い光。それはとても尊くて美しくて、今眼下に広がる、いつも大きいと錯覚していたその小さな水の種を、ルキアは優しく、フレームの中に収めた。