●リプレイ本文
●到着
能力者たちが孤児院に入ると、その光景に肝を潰した。
ずらりと並んだ子どもたちが、『ULT能力者ご一行様』との横断幕を持ち笑顔で能力者たちを迎えている。
大地守(
gb0745)はぽつりと呟いた。
「これが私達の守るべき‥‥もの‥‥」
代表との短い挨拶をする。
「‥‥ん。大丈夫。遊ぶのは得意。頑張って遊ぶ」
最上 憐(
gb0002)は小さく頷く。その間にも周囲には子どもたちが群がってきていた。
「孤児院の子供達にも平等に、俺との運命が訪れる機会はある。出会いは早いに越した事は無い」
各務・翔(
gb2025)はその子どもたちを撫で付けながら語りかける。その横をすり抜け、蒼河 拓人(
gb2873)は職員への挨拶もそこそこに子供達の下へ向かっていた。
「自分の名前は蒼河拓人。呼び捨てで良いけど希望はお兄さんかなっ!」
朗らかに笑う蒼河は子どもたちを連れ、広場へと向かっていく。
そんな中、けたたましい足音をたてながら疾走して来る影が一つ。
「待って! 待って! あたしもー!」
遅れてやってきた火絵 楓(
gb0095)が駆けてくる。そのままの勢いで広場の中に入ってくると、そのまま子どもたちにダイブした。
笑い合ってはしゃぎ合う子どもたちに、曽谷 弓束(
ga3390)は穏やかな笑みを見せた。
「‥‥些事。どすな」
思い思いに行動するみんなに、イレーヌ・キュヴィエ(
gb2882)は手を叩いて注意を促す。
「はいはい、まずはどちらも、元気にご挨拶」
その声を聞き、夜十字・信人(
ga8235)は一歩前に出た。
「‥‥夜十字信人だ。是非とも、よっちーと親しみをこめて呼んでほしい」
時間が、止まった。
●午前
イレーヌはスタッフと話をしていた。子どもは繊細だ。一人一人の留意点は聞いておかねばならない。
「お父さん、お母さんがいなくなるのはせつないよね。3歳くらいだとまだ死というものがわからないかもしれないから余計にね」
呟くイレーヌ。ふと広場を見ると子どもが数人、砂場で遊んでいた。あぶれてしまったのだろう。
イレーヌはその子たちにそっと近づいていく。そして優しく、肩を叩いた。
曽谷は建物の中で、子どもたちと折紙に興じていた。
「あら。スゴイとこ期待してはった‥‥? 堪忍え。うちはまだまだ駆け出しやから眼ぇの色しか変えられへんのやわ」
指が流れるように紙を折っていく。時々その手を止め、子どもたちに折り方を教えている。
あっという間に紙飛行機が出来ると、風に乗せるように優しく飛ばした。ふわりと舞い上がる紙飛行機に歓声が上がる。
「ふふ。折紙は女の子だけの遊びとちゃいますのんえ」
一所懸命紙飛行機を折る子どもたちの顔を見ながら、曽谷は折紙を続けていく。教えてくれているものと違うものを折っているので疑問に思ったのか、数人が不思議そうな顔をしていた。
「秘密どす」
曽谷はそうはぐらかしながら、紙を折り続けた。
夜十字は広場で子どもたちと遊びながら呟いた。
「‥‥このように、子供がはしゃぐ平和な姿を見ていると、つくづく思う‥‥メイド服着て来なくて良かったと」
この男、誤解を受けがちな外見を緩和するため、メイド服を着てこようかと本気で悩んでいたのだ。ちゃっかり持ってはきてるけど。
「さあ、お兄さんと共に遊ぼうではないか、熱く、そして楽しく」
一人を肩車すると、周囲の子どもたちは目を輝かせて夜十字に群がっていく。すぐに子どもたちに埋もれた。
あまりにも人数が多いので、一度子どもたちを離し、叫んだ。
「一発芸、よっちー忍法背後霊の術〜。ニンニン」
覚醒と共に、夜十字の背後に黒い翼の少女が現われる。歓声が上がるが、格好はパジャマ姿で枕抱いてるので、みんな首を傾げている。
「何でだろうねー。世の中って不思議だねー」
その言葉が、少女の幻影に対してなのか、幻影の少女の格好に対してなのか、知るものはいない。
火絵は走り回っていた。
此方では、子どもをリアカーに乗せ、広場の端から端へと疾走していた。
彼方では、子どもたちの中心で、鉄棒で大回転していた。
そして今は、かくれんぼをしている。
火絵は隠れた子を探して、茂みを掻き分けていた。子どもは背後に隠れているが気付いてはいない。
しばらく茂みを掻き分けていると、一人の少年がぼんやりと外を見つめていた。遊んではいないようだ。火絵は迷わず声をかける。
「ねぇお姉ちゃんと一緒に遊ぼうよ」
一瞬躊躇う少年。火絵はその手を掴むと、一緒に茂みの外へと飛び出していった。
「‥‥ん。私。最上憐。グラップラーやってる。よろしく」
最上は広場で子どもたちを集めて自己紹介をしていた。
「‥‥ん。好きな食べ物。カレー。カレーらしき物。カレーっぽい物。嫌いな物‥‥きゅうり。あれは凄く危険。バグアより。危険かも」
その気もないのに、着々と子どもたちにきゅうりに対する恐怖を植え付けている。
充分打ち解けたところで、最上は指を差し出した。
「‥‥ん。鬼ごっこ。する人。この指にとまる」
差し出した指を折らんとする勢いで、一人また一人と集まってきた。
「‥‥ん。鬼は。私が担当する。30数えたら。捕獲しに行く」
最上が数えだすと、今まで集まっていた子どもたちが散開していく。数え終わり、最上は駆け出した。
「‥‥ん。捕まえた。もっと逃げないと。どんどん捕まえる」
適度に追いかけ、また適度に逃がしていく。しばらくは鬼ごっこが続いた。そして、
「‥‥ん。全員捕まえた。次は。私が逃げる。全員で捕まえに来て」
逃げる最上を子どもたちが追いかけていく。けれどひらりひらりとかわし、その体に触れさせはしない。
「‥‥ん。個別に来ても。捕まらない。一斉に来ないと。無理」
直後、徒党を組んだ少年たちが一斉に襲いかかってきた。
●昼食
大地は年長の子どもたちと昼食の準備をしていた。
年長組は、普段年少組を世話しているからか、意外としっかりしている。大地は料理も得意ではなく、口数も多い方ではない。それでも、年長のみんなと一緒に準備をしていると、少しずつ打ち解けていくような気がする。
そんな中、火絵が一緒に遊んでいた子供達と泥だらけで帰ってくる。その後ろにも、子ども達を連れた最上がいる。
「ご飯〜、ご飯〜、ま〜だかな〜」
「‥‥ん。お腹空いて来たかも。ご飯何かな?」
大地が時計を見ると、もうそろそろ時間だった。集まってくるみんなのために、年長組と共にご飯をよそっていく。
全員が卓に着くと、食事の挨拶と共に一斉に食べ始めた。
「あっはっは。取れるものなら取ってみろー!」
蒼河が子ども達とおかずの奪い合いを繰り広げている。本気だった。けれど一人の少年が背後を取ってから、形勢が逆転する。
「ちょっと待って! おかず! 自分のおかずがー!」
もがく蒼河のおかずが消えていく。だがどちらも笑顔だった。その戯れる様子を見て、大地は小さく笑った。
●午後
昼食も終わり、大地は着物の着付を教えようと、女の子を集めていた。
きっと役に立つ日は来るだろう。その一心で、持っている着物を着付けていく。モデルになった女の子は笑顔だ。他の子も、その着付け方を熱心に見つめていた。
一工程ずつ説明しながら、着付け終わるとしばらく堪能させ、順番に回していく。どの娘も輝いていた。
各務は先ほどは孤児院のスタッフに挨拶をしていたが、今は子どもたちの、とりわけ男の子たちの中心にいた。その体にはリンドブルムが装着されている。滅多に見ることの出来ないロボットを前に、みな目を煌めかせている。
「不用意には近づくな。危ないからな」
最初は子どもたちを持ち上げようとしたのだが、スタッフに止められてしまった。怪我をさせるヘマはしないが、万が一と言うこともある。それに、一般人にしてみればよくわからないロボットなのだから、気が気ではないのだろう。スタッフを心配させるのは本意ではないので、各務はさらに注意を払うことにした。
各務はゆっくりと歩いていく。子どもたちは遠巻きにそれを追いかけてきた。慣れてきたのか、駆け寄っては触って逃げるなど、だんだんと近づいてくる。
「この俺の素晴らしさに、孤児院のスタッフ達も関心しているな」
各務は小さく微笑むと、子どもたちとの交流を続けていった。
蒼河は子どもたちの提案でかけっこに興じていた。
全力で。
呼吸もおかない疾走で、子どもたちをぐんぐんと引き離していく。その差が五メートル、十メートルと開き、その体がゴールの木に辿り着こうとした時。
その勢いのまま、盛大にこけた。
「ぐふっ!? こ、これが日頃の行いの報いだというのか‥‥がくりっ」
倒れる蒼河に子どもたちが群がっていく。持っていた洋弓を奪い取ると、急いで離れていった。
悪戯に成功した子どもたちは、戦利品を弄っていく。そして矢に手をかけた時、背後から近づいていた蒼河がそれを取り上げた。
「やるなら、みんなでね」
突然現われた蒼河に驚く子どもたちに、間髪いれず矢をつがえ、積んであったレンガの一つを貫いた。
「力はただの手段だ。自分はそれを誰かの幸せのために使いたい‥‥皆はどうかな?」
弓を奪い取った子どもたちに届くように、蒼河は優しく微笑んだ。
イレーヌは年長組と共にお菓子作りをしていた。
さつまいもやかぼちゃで茶巾絞りを作っていく。茹でて柔らかくしたイモやかぼちゃを裏ごしし、ラップで包んで絞るのだ。言い方は悪いが、粘土細工みたいで楽しいのではないだろうか。
不揃いの茶巾絞りが並べられていく。皆が作っていくので、茹でていくのが追いつかない。
そんな中、伸びる手からぴしゃりと音が鳴った。
「つまみ食いは駄目。今日のおやつなんだから」
イレーヌはそう言うと、微笑みながら続けた。
「出来たら、一度みんなで味見しましょうね」
子どもたちから、歓声が上がった。
●帰還
日も暮れ、帰る頃合となった。
子どもたちが並んで見送る中、曽谷は一歩前に出た。
「形に残るもの、思い出にしてあげたかったから‥‥良かったら今日の記念にここに飾って貰えると嬉しおす」
その手に持っていたのは折紙で作られた花のクス玉だった。子どもたちは小さく感嘆の声を漏らす。
夜十字と各務は、子どもたちに囲まれている。
「‥‥萌え、もとい燃え尽きる」
「お前達には十年後、俺との運命が待っている。それまで花嫁修業を積んでおくが良い」
お兄ちゃんお兄ちゃんと呼ばれ夜十字は何故か感極まり、各務は少女たちに別れを告げていた。
そこに、火絵が何かを持ってやってきた。
「花火いっくよ〜」
花火に点火し、離れていく。子どもたちの見守る中、それは勢いよく打ち上がった。
ヒュルヒュルと音をたて、空へと上っていく。やがて、ドンと、盛大な音を立てて爆発した。その火の粉がキラキラと、夕焼けを彩っていく。音と共に熱まで伝わってくるかのようだった。お腹の底が震えるような感覚に、子どもたちの歓声が最高潮に達する。
花火の興奮の残る中、能力者たちは孤児院を出た。
「今日は最高に楽しかったね。またこんな風に遊びたいな〜」
火絵は大地に笑いかけた。大地はまだ別れを惜しむ子どもたちに小さく手を振っている。その顔は表情に乏しかったけれど、その目尻には、夕焼けがキラキラと反射していた。