●リプレイ本文
低空飛行で行くKV隊――。
「砂漠には月も狼も良く映える‥‥この熱砂の大地に結末を求めて旅立つ狼王とは、我ながらよく言ったものですが」
終夜・無月(
ga3084)の言葉に、ソード(
ga6675)が突っ込みを入れる。
「そりゃあ無月さんの白皇はどこでも映えるでしょうねえ。月狼隊の象徴であり、最強の機体でもある。どこにいたってよく敵に狙われるでしょう」
「それは‥‥ソードさんも同じじゃないですか。フレイアは地球で戦うバグア軍の賞金首リストの上から何番目ですかね‥‥」
「いや、無月さんには負けますよ。白皇に比べたら、俺のフレイアが可愛く見えますよ」
「まあそうだとしても‥‥きっとバグア軍は逃がしてはくれないでしょうけどね」
「全くですね‥‥さて、ザーヘダーンの精鋭部隊が相手と言うことですが、敵はどう出ますかね」
「今回の敵は強敵ぞろいみたいだね。なら、いつも以上に気合を入れて戦わないと」
と呟くアーク・ウイング(
gb4432)。
「うむ、全くだアーちゃん氏! 何やら今回は敵さんも、随分と強そうなのを揃えてきたな! だが、此方も精鋭揃いだ! 遅れをとる理由は無い!」
言ったのは孫六 兼元(
gb5331)。オウガには桜吹雪が舞う。
「小細工無しの真っ向勝負なら、ワシの最も得意とする所だ! 撃墜章代わりに機体に描いた、返り血の紋様を増やさせて貰うぞ! ガッハッハッハ!」
「ようやくここへ来て成果が出てきましたよね。イラン南部を押さえることが出来るんですね」
「何とかキングスレーの妨害が無ければもっとスムーズにことは運んだだろうな!」
「アレン・キングスレーですよね。あのヨリシロにはやられっ放しと言うか、絶頂期のダム・ダルを思い出しますよ」
「ガッハッハ! アーちゃん氏! 奴は強敵だろうが、何とかキングスレーはダム・ダルとは比べ物にならん! 何とかキングスレーがどんなに足掻いたところで、ダム・ダルが残したものを越えることは出来んよ!」
「それは分かっているんですよアーちゃんも。ダム・ダルは‥‥言葉では言い表せないですよね。もしダム・ダルがここにいたら、アーちゃんたちはイランに上陸も出来なかったでしょうね」
「そうだ! ダム・ダルが相手ならば‥‥ワシらは今頃砂漠のどこかに生き埋めにされているだろうな! 全盛期の奴がここにいたら、とてもではないが中東に入り込む隙などなかっただろう! ガッハッハ!」
孫六は世界から消えたあのバグア人を思い出し、懐かしさを覚える。こんな砂漠のど真ん中にいても、あのバグア人の記憶は孫六の郷愁を呼び起こした。アークは孫六ほどにダム・ダルに思い入れは無いが、北九州での激戦は彼女にとって確かな経験となっていた。
そこでソーニャ(
gb5824)が割り込んだ。
「孫六さん、ダム・ダルがそんな話を聞いたらこう言うに違いないよ。それが答えなのか、俺は死んだのになぜ自分たちが負けるなんてことが言い切れるのか、てね」
「なるほど! 奴なら確かにそんなことを言いそうだな!」
「絶対そうよ」
言いつつ、ソーニャはソードの横に位置取りを保つ。
「ソードさんよろしくね。ボクのフォローなんていらないかも知れないけど勝手についていかせてもらうよ」
「やあ、ついてこれますかね」
「またそんな‥‥ソードさんには確実にエースを落としていってもらわないとね。敵がフォーメーションでソードさんを抑えに来たら、突撃攪乱してやるんだから。それに、アレンが来てソード機が押さえにまわった時には援護、連携攻撃だよ」
「あのキングスレーは大した奴ですよ。まあ確かに、ダム・ダルも凄かったですけどね。ダム・ダルが残した記録は特別ですからね」
「‥‥‥‥」
ソーニャは肩をすくめる。自分はまだ生きている。ダム・ダルはバグア人で何を考えていたのか分からない奴だったが彼女に言葉を託したものだ。ソーニャは口に出しては異なることを言った。
「駒鳥部隊も少なくなっちゃったね。パトリック、もう少し君で遊んでいたかったんだけどボクが行くまで少しはいい男になっていてよね」
ソーニャは吐息する。
「問題はアレン・キングスレーね。こっちはもとからいい男なんだと思うけど、危険すぎるのよねー。ほんと、本気で抑えにかからないと群れを散らされちゃうわね。彼が空に上がってきたらだけど」
「ソーニャさん、気を付けて下さいね。あいつは、俺が止めて見せますから」
「うん、ソードさんの力を信じてるよ。アレンは確かに強いかも知れないけど、うまくカバーすれば押さえられない相手じゃないと思う」
「今危険すぎるって言いましたよね?」
「え?」
「アレンは良い男だと思うけど危険すぎるって‥‥」
「ボクそんなこと言ったね」
「ソーニャさん、本当に、気を付けて下さいね。ま、今更言うことじゃないかも知れませんけど、ソーニャさん時々遠くを見ている気がしますからね」
「そんなに心配してくれるの? 大丈夫だよソードさん。ボクも任務を放棄したりしないから」
綾河 零音(
gb9784)は新鋭のディアマントシュタオプに搭乗していた。まだ機体の力はそれほどでもないが、綾河は自分の力の限界を知っていた。
「タロスがわんさかいるんだねえ。お手柔らかに願いたいな」
それから綾河は明るい口調で言った。
「空戦班にシラヌイ十機と雷電四機の同行を希望。やってほしい事は3つ。兎に角連中を攪乱する事。死なない事。死にそうになったらあたしを置いて逃げる事。運がよかったら不意をついてぶっ飛ばす事。‥‥あ、これじゃ4つか」
「綾河さん‥‥死にそうになったらソードさんのところへ逃げるんですよ? 死なないことと死にそうになったらあなたを置いて逃げることは‥‥まるで自分を見捨てて構わないと言ってるみたいじゃないですか」
無月は言って、苦笑した。
「そんな風に聞こえた? いや、違うの。あたしを置いて逃げたってあたしは死なないから。だって、そんな風になったらあたしだってとっくに逃げ出してるわ。だから、みんなにもあたしを捨てて逃げて欲しいの」
「なるほど‥‥まあでは綾河さんに何かあったらどうすればいいんですか」
「無月‥‥ま、とにかく、戦争は帰るまでが戦争です。胸張って皆で凱旋しましょ」
綾河は言葉を探しながら、元気に言って肩をすくめた。
そこで、隊長機から全機に通達が入る。
「全機、間もなくザーヘダーンだ。いよいよ敵さんのテリトリーに入るぞ。ラスホプ組、よろしく頼むぞ。お前さんたちは軍にとっても頼みの綱なんだからな」
「了解です‥‥敵は精鋭‥‥心してかかるとしましょう」
無月は言って、操縦桿を傾けた。
「では‥‥みなさん行きましょうか。俺たちの持てる力を出しましょう‥‥今‥‥出来るだけのことを‥‥」
傭兵たちは砂漠の空を加速した――。
「上空、カスタムティターン、カスタムタロストリプルプラスが1機、エースタロスブルーが4機、カスタムタロスプラスが5機、カスタムタロスが5機!」
「ティターンはこちらに来ましたか」
ソードは言いつつ、レギオンバスターの発射態勢を整えていく。
「兵装1、3、4、5発射準備完了。PRM『アインス』Aモード起動。マルチロックオン開始、ブースト作動」
前進して来る10機を補足する。
「ロックオン、全て完了!」
コンソールを操作して、ソードはミサイル発射ボタンを押した。
「『レギオンバスター』、――――発射ッ!!」
2100発のミサイルが発射される。
「レギオンバスターだ!」
「構うな! そのまま突破だ!」
カスタムタロスの集団は加速する。直撃が炸裂して爆炎が飛び散る。
「ソードに続け! 撃て! ありったけのミサイルを叩き込め!」
軍傭兵たちもミサイルを叩き込む。
「あたしも行くよ! はいどーん!☆」
綾河は太陽を背に降下すると、G放電ミサイルを叩き込んだ。
「さすが精鋭部隊だね。大規模作戦でかきまわされる前に減らせって、言うほど簡単じゃないけど理屈はよくわかるよ。一機一機確実につぶしていかないとね」
ソーニャはソードの背後からバレルロールで飛び出すと、GP−02Sミサイルポッドを撃ち込んだ。
最初のミサイル攻撃を受けたカスタムタロスは、罵り声を上げつつ前進して来る。
「今度はこちらの番だ! 食らえ傭兵ども!」
カスタムタロスから反撃のプロトン砲が飛んで来る。
「あなたとはどうも因縁が出来そうですねキングスレー」
ソードは加速してエニセイを叩き込んだ。
銃撃が直撃するも、ティターンはアクロバットな機動で接近して来るとプロトン砲を撃ち込んで来る。
「全くやってくれるよソード。俺の行く先々でことごとく邪魔をしてくれるんだからな」
フレイアは直撃を受けて爆発した。
「それはこちらの台詞ですよ」
「ああ、俺たちには共通するものがあるよな。お互い譲れないことばかりだ」
ソードとキングスレーは正面から打ち合い、激しく火花を散らした。
「敵も味方もエースだらけ、ク〜〜テンション上げていくよ」
ソーニャはソード機の側面から飛び出すと、ミサイルポッドをティターンに叩き込んだ。直撃――!
「ちっ‥‥エルシアンか」
キングスレーはちらりと視線を向けると、旋回してプロトン砲で牽制する。
「危険な男、いい男かなキングスレー、会ってみたいとは思わないけどね」
「ソーニャ、ダム・ダルはイタリアの町へ降りた時、お前と会ったことを知っていた。こっちの記録には残っている。奴はあの時は危なかったと言っている」
「そうなんだ。ダムは知っていたんだね」
「あれが戦場ならお前は生きてはいなかっただろうな。ダムは作戦中だったから町中で大っぴらに動きはしなかったがな」
「そうか‥‥」
「お喋りはそれくらいにしてもらいましょうか」
ソードはキングスレーに撃ち掛かった。エニセイを連射する。
キングスレーはアクロバットに回避する。
「思い出話に浸るほどボクも酔ってないよ」
ソーニャもレーザーライフルを叩き込んだ。
「それを言うなら、イランは諦めろ。お前たちに勝ち目はない。それにラストホープが地上から消滅する」
「そんなことはさせませんよ」
綾河は友軍と編隊を組んでカスタムタロス+3に加速した。
「徹底的に撹乱するよ。簡単には行かないだろうけどね。よし行こう!」
「綾河、フォローするぜ!」
フェニックス乗りがローリングして上下に「ひゃっほう!」と飛び跳ねる。
タロス+3はアクロバットに加速して来ると、プロトン砲を連射して来る。
綾河はディアマントSを操り、上下左右に機体を振って撹乱する。
「勝てば官軍て言うしね! 上はあんたらまで構ってる暇ないんでー」
「私たちもお前に構っている暇はない。死にたくなければそこをどけ」
「死にたくはないけど、まだ諦めるには早すぎるのさ!」
「ならば撃墜してやるわ!」
次の瞬間、バレルロールで加速したフェニックスがソードウイングでタロスに激突した。
「何っ――!」
タロスの胴体が切り裂かれた。
「今だ撃て綾河!」
「頂き+3! これで止め!☆」
レーザーガンを連射して叩き込んだ。光弾が連続して直撃して、タロス+3は閃光とともに爆発した。
「よし! いっただきー!」
「次行くぞ綾河! まだ終わってない――」
無月はロンゴミニアトを突き出した。凄絶な一撃がカスタムタロス+3を貫通する。
「残念ですが‥‥ここまでですよ‥‥」
「く‥‥おのれえ‥‥!」
強化人間は最後に悲鳴を残して、タロスとともに爆散した。
「さて‥‥地上にもおよそ半数の敵軍ですか‥‥おや?」
キングスレーのティターンが地上へ降りて来たのだ。
「キングスレーですか‥‥空はどうしましたか‥‥」
「お前は、いわゆる神改造ミカガミの終夜無月か。手元のデータによると、随分派手にやってくれているな」
「今日ここで終わりにしましょうか、ヨリシロキングスレー‥‥」
「ほう‥‥では来い無月。ソードは俺を倒し切れなかった」
「‥‥‥‥」
無月は加速した。
激しく打ち合う。互いに譲らず十合に及んで打ち合う。
「さすがですね‥‥では‥‥これならどうですか‥‥!」
「ぬっ‥‥!」
無月は雪村の二刀流で切り掛かった。光線の軌跡がティターンを切り裂く――かに見えた。ティターンが鋭く加速する。交錯するティターンと白皇。
「今のは‥‥」
無月は後ろを振り返った。白皇の右腕が切り落とされていた。
「さすがだよ無月、並みの機体なら寸断されていた。俺も久方ぶりにわくわくしたよ」
「やりますね‥‥キングスレー」
「俺はアジアオセアニア本部の上級戦闘員だ。舐めて貰っちゃ困る」
「勝負はここからですよ‥‥」
「片腕が落ちたのに?」
「ではハンデを差し上げましょう」
「言うじゃないか。んじゃ、行くぜ終夜無月!」
――アークはスライドしつつガトリングを連射する。タロスレッドらがそれを回避しつつプロトン砲で応戦して来る。
「我々を甘く見るなよ傭兵ども!」
「それはアーちゃんたちだってそうなんだよねっ」
後退しつつ、D2ライフルを撃ち込む。
「逃がさんアーク・ウイング!」
軍傭兵たちも戦闘隊形を取ってタロスレッドの前進を阻む。
「ガッハッハ! アーちゃん氏! ここはワシが出る! しかし赤だの青だの、随分と派手なタロスの登場だな! まぁ、刀身が如き我が愛機のカラーに比べれば、まだまだ地味かな? ガッハッハッハ!」
孫六は側面から突進すると、天雷を叩き込んだ。
「ぬう――!」
タロスレッドの胴体を貫通する。
「おのれ!」
強化人間は咆哮すると刀を撃ち込んで来る。
孫六は圧縮装甲で受け止めると、ツインブーストBでデアボリングコレダーを撃ち込む。タロスの顔面を吹き飛ばし、右逆手持ちで長兼を抜刀し、居合いの抜き打ちで敵の胴を払う――。
「KV抜刀・稲妻!」
両断されるタロスレッド。スパークとともに爆散した。
「あの孫六を止めろ! 俺はアーク・ウイングをやる!」
突進して来るタロスレッドに、アークは機盾ウルを構えた。一撃二撃と弾いて、練剣「白雪」を一閃した。
「これでも!」
「――!」
タロスの腕を切り飛ばした。そのまま至近距離からガトリングを押しつけて銃撃を叩き込んだ。凄絶な銃撃がタロスレッドを貫通する。爆発炎上するタロスレッド。
「いいぞアーちゃん!」
友軍シラヌイが支援銃撃を行いながらタロスレッドを押し返していく。
「傭兵どもに後れを取るな! ここを明け渡すわけにはいかん!」
「びびってないでかかってきなよ、バグアくん」
アークは軽く挑発して、タロスプラスを味方の包囲網の中に引き込もうとする。
「アーク・ウイング、ならば貴様をあの世に送ってやるわ!」
突進して来るタロスプラスを引き付けるように、後退するアーク。
「今だ撃て!」
集中砲火で粉々に吹っ飛ぶタロスプラス。
やがてワームを後退させていく傭兵たち。その後UPC軍の攻勢に応じてザーヘダーンを破壊した。