●リプレイ本文
バンダレアッバース、UPC軍基地――。
「みな揃ったようね」
女性がブリーフィングルームに入って来ると、「起立!」と副隊長の山本大伍長の声が飛ぶ。
「知っての通り、ケルマーンへの攻撃命令が出たわ」
女性――シャーリー・如月軍曹はホワイトボードに空撮画像を張り付けて行く。
「ケルマーンまでは三百キロ、KVであれば三十分もあれば到着出来る距離だけど、見ての通り、バグアの対空施設は相当なものよ。今回の目標はケルマーンバグア基地の破壊、この方面を完全に制圧。ワームの抵抗を排したら、地上から敵の全ての対空施設、対地施設を破壊。――何か質問は」
ソード(
ga6675)が手を上げた。
「バグアには幾つかの防衛戦があるようです。俺たちは先行して防衛網に入り、孫六 兼元(
gb5331)さんと共に味方が突破しやすいように対空兵器を破壊し防衛網に穴を開けます」
「ラスホプ組には期待してるわよ。UPC軍は目下のところ激しく人手不足ですからね」
ソードはにこやかに頷いた。
「それはどうも。二つ目の防衛戦ですが、こちらは強襲となってます。俺たちは先行して空から攻撃を仕掛け、敵兵器を破壊し地上班が攻撃しやすいように敵の気を引き付けます。後レギオンバスターの使いどころですが、ティターンを含めた部隊が迎撃に来た場合はここで発射するつもりです」
「ティターンね‥‥難しいところだけどあなたに任せるわよ」
「肝心のケルマーンですが、レギオンバスターが残っていれば、ここで使うつもりです。俺たちは主にエースクラスの抑えに回るつもりですがね」
「よろしく。他に――」
続いて、美海(
ga7630)が手を上げると、シャーリーは「どうぞ」と指名した。
「大型砲台、総身に知恵が回りかねなのです。美海は防衛線への陽動を仕掛けるのであります。空路にて第一次防衛線を陽動後、別ルートで降下。第二次防衛線の足もとに潜り込んで相手の体を盾にしつつ防空網を破壊。本隊の内陣侵入の手助けを行った後に、美海達も突入するのでありますよ」
「地上からの支援部隊が必要になるわね」
「そこはお願いががるのでありますよ」
「どうぞ」
「雷電、スピリットゴースト、サイファーくらいは借りて行きたいところなのであります」
「了解したわ。山本伍長、スピリットゴーストで美海をサポートして頂戴」
「了解しました」
山本伍長は、美海に向かって軽く頷いた。
「では他に」
続いて手を上げたのは絶斗(
ga9337)。
「俺も傭兵として長く戦ってきたが、ようやく中東方面へ展開できるようになったんだな」
「中東は長らく放置されてきましたからね。バグアの防備も相当蓄えられてるでしょうね」
「少し気になったんだが、次の大規模作戦はアフリカと言う話も出ているようだが、中東への影響は?」
絶斗の問いに、シャーリーは思案顔で答えた。
「影響はあるでしょう。アフリカを解放することが出来れば、西アジアとの連動を遮断することが出来るわ。そうなれば中東の開放作戦にも有利だし、アラビア海の制海権や制空権も確実に抑えられるかもしれない。ユニヴァースナイトが安定して活動出来る範囲も広がって来るでしょうし、南アジアへ部隊を展開するのにも有利になって来るでしょうしね」
「アフリカと連動して一気にバグアを叩くことが出来れば‥‥」
絶斗の言葉に、シャーリーは肩をすくめる。
「UPCの中東戦略は何もないところから始めないといけないし、難しいところではあるわね。――他には?」
孫六 兼元(
gb5331)が手を上げる。
「ガッハッハ! 今回は、かなりの敵戦力を相手にするが、こんな所で遅れをとる訳にはイカンな! 敵基地への侵攻は、速やか且つ大胆に行うべし! 戦況は夢守 ルキア(
gb9436)氏からの情報に常に従い、確認を怠らず友軍と連携するぞ!」
「孫六は相変わらず余裕そうだわね。インドの有里大尉から聞いたわよ。若い連中には負けていられないですって」
「ガッハッハ! そんなことを言った覚えはないがな! 第一ワシは若い!」
「それは言い過ぎでしょう」
「まあとにかくだ! ワシとソード氏でまず空戦にて、第一防衛線で撹乱役になるかな! 先に突破する班が抜け終わるまで、対地攻撃と陽動を続けるとしよう! MM−20ミサイルポッドを満載して来たからな! 対地攻撃は任せてもらおう! 目標は集中的に狙い防衛線に穴を開ける!」
「撃ち落とされないでね」
「ガッハッハ! 第二防衛線では、此処でワームは待ち構えとると予想するので抑えに行くかな!! その後、敵部隊が何とかなれば対地攻撃に移行しようと思う!! 敵基地にMM−20ミサイルの残弾全て使って対地攻撃をお見舞いしてやろう! 友軍にも対地攻撃を支援してもらいたい! ミサイルはありったけ積んでもらえると助かるがな!」
「いいわよ。山本、各機にミサイルを搭載するように言ってちょうだい」
「了解しました」
「では他に」
ソーニャ(
gb5824)が手を上げる。
「ボクたちも第一、第二防衛線空域突破。先行し陽動、後続を援護するよ。ソードさんと兼元さんたちと連動するよ。敵航空戦力が来た場合は引き付け、対応する。偵察隊が持ってきてくれた情報、使わせてもらうね。これは予想だけど、基地付近まで引き付けて一気にワームを投入するんじゃないかな。ボクらも防衛線で止められる気ないし。ともかく、防衛線はさっさと突破したいね」
「その通りよ、要望があるなら言って」
「ロビン隊を借りたいかな。ボクもロビン乗りだしね。最近ロビン乗りも少なくなったかな。でもロビンの良さはボクたちが一番知っている。ロビン使いの素敵さもね」
ソーニャの言葉に、シャーリーは肩をすくめた。
「オーケーよ。ロビンは任せるわ。ロビンを使いこなすのはあなたの言う通り難しいけど、エルシアンに乗るあなたの言葉には説得力があるわね。――では他には?」
そしてシャーリーは室内を見渡す。何本か手が上がるが、シャーリーはルキアを指名した。
「私は空での管制にて、破壊行動の補助に回るけどね。オリジナルのアルゴシステムで電子支援させてもらうよ」
「確かイクシオンだったっけ? 噂には聞いたことがあるけど」
シャーリーは「続けて」とルキアを促した。
「第一防衛線は可能な限り陽動で引きつけ、ブースト突破、空戦に分かれるところだね。私も早期の突破を図るつもり。突破はオウガとフェニックス。空に破暁、シュテルン、ソーニャ君たちのロビン、それからシラヌイ。地上には陽動部隊が突破班の突破を助け、その後突破。支援は雷電、サイファー、スピリットゴーストだね。空でフレア弾投下など、撹乱、照明弾も忘れないでね。その後、地上へ降り第二防衛線へ」
シャーリーはその話を聞きながら、ホワイトボードの空撮画像に外線作戦のラインを書き込んでいき、マークを付けて行く。
「第二防衛線では、早期突破班で引きつけ、回避を徹底して相手を油断させ、それから空戦班の合流だね。空で引きつけている間に、地上で入って貰って破壊工作。照明弾を撃ちあげて貰い、合流合図と言う流れかな。レギオンバスターが残っていれば良いんだけどね」
そうしてやがて質疑が終わると、シャーリーは空撮画像にみなの視線を集めた。
「みなの予測では、決戦は第二防衛線ね。私もそう思う。恐らくワームの迎撃が来るだろうから、そのワームさえ落とせば、制圧は大きく進むわ。KVは一般人の通常兵器とは桁違いの性能だから、ワームの妨害さえ排除出来れば、作戦はほぼ成功でしょう。後は、仲間たちの知恵と勇気で。――ではブリーフィングはこれまで。出発するわよ!」
シャーリー軍曹が言うと、傭兵たちはハンガーに向かって駆け出した。
――低空から第一防衛線に殺到するソードのフレイア。凄まじい勢いでエニセイを撃ち放って行く。地上のバグアの施設は反撃する間もなく破壊されて行く。
「ここはすぐに突破させてもらいますよ」
絶斗も低空から20mmレーザー機銃を叩き込んでいく。一度の発射で八連射の機銃が地上の対空施設を無力化して行く。
「ガッハッハ! 天之尾羽張の斬撃を受けてみよ!」
ラスターマシンガンで地上を掃射する孫六。高速回転するマシンガンからもの凄い勢いで銃撃が放出される。
「よーし行くぞ爆撃開始!」
雷電、サイファー、スピリットゴーストがフレア弾を投下して行くと、一帯で爆発が沸き起こり、灼熱の炎が巻き上がった。
アルゴシステムを起動したルキアは、各機にデータを送信開始する。
「先行部隊、第一防衛線の破壊を確実に。現在ケルマーンからワームの敵影なし。後続機、先行部隊が破壊した後を通過してね」
ルキアは言いつつ、アルゴシステムを操作する。
「陽動作戦は十分だよ。地上と空から第一防衛線を突破していこう」
「ロビン隊、ボクに続いて」
「美海も行くでありますよ。第二防衛線に地上から接近するであります」
「各機、ワームの攻勢に備えてね。対空ミサイルは半端じゃない」
ソーニャや美海が突破するのに、ルキアはカメラが捉えた映像を確認する。
「第二防衛線のプロトン砲台とタートルワームの位置情報を送るから確認してね。――おっと、ケルマーンからワームの姿を確認。ティターン一機、タロス十五機、ヘルメットワーム十五機。カスタムティターンはヨリシロのアレン・キングスレー。これ誰だか知ってる人いる?」
「キングスレーが来ましたか。ここ最近アジアで活動しているヨリシロです」
ソードの言葉に、ルキアは「そうなんだ」と頷く。
「キングスレーは俺が引き受けます」
「美海たちは地上から攻撃を開始するであります」
「そっちへはタロスが向かってるよ。気を付けてね美海君。地上の座標を送るよ」
「兵装1、3、4、5発射準備完了。PRM『アインス』Aモード起動。マルチロックオン開始、ブースト作動」
ソードはコンソールを操作して行くと、 ピピピピピピピピ! と敵機をロックして行く。
「ロックオン、全て完了!」
ソードはミサイルの発射ボタンを押した。
「『レギオンバスター』、――――発射ッ!!」
ブースターとPRMを起動。錬力100全てを状況に合わせた能力に使用しミサイル2100発を発射するフレイアの空戦必殺技である。
「今日の天気は晴れ時々ミサイルでしょう」
回避行動を取るHWに次々とミサイルが命中して行く。凄まじい爆発が空中で炸裂する。
爆炎を突き破って、加速してくるキングスレーのティターン。
「いつまでも邪魔はさせんぞソード!」
「それはこちらの台詞でしょう」
ソードとキングスレーは撃ち合った。
孫六がタロスを切り裂いて加速する。
「キングスレー! アーガを唆したのはお前だな?! 人の心の弱みにつけ込むとは卑劣な輩め!」
「何だ孫六、アーガ・ドーナは純粋に力を求めていた。俺は奴の願望をかなえてやっただけだ」
「言うか! ただ単純に敵を倒すダケの力は、強さに有らず!!」
「やはり人間だな孫六。だがお前が言うと説得力がある。反論はせんよその言葉にな」
キングスレーはアクロバットに飛行しつつプロトン砲を放ってくる。
「ヨリシロと言うのも、いちいち勘に障る奴がいるな‥‥」
絶斗は言いつつ、旋回してロックすると、HWにハンタードッグを叩き込んだ。命中! 爆発四散するHW。
「ん――?」
「絶斗君、地上からロックされてるよ。加速して」
「俺としたことが」
次の瞬間、絶斗のCOPフェニックスを衝撃が襲う。対空ミサイルが直撃したのだ。
「ミスしたな。これは、ケルマーンからのミサイルか?」
「そのようだね。ケルマーンも完全武装かな。別方面から、一度に中へ滑り込もうか」
ルキアは機体を旋回させる。
「これは‥‥網の目を探すより、一回撃った方が早いと思う。ケルマーンの防空設備は凄いね」
ソーニャはロビン隊を率いて加速する。先陣切って飛び込むエルシアン。
「アリスシステム起動、マイクロブースト起動――貫けエルシアン!」
バレルロールで加速すると、AAEMとプラズマリボルバーをHWに叩き込む。
後に続くロビン乗りも、AAEMを連発した。爆発撃墜されて行くHW。
それからキングスレーと撃ち合うソードのアシストに回る。
アリス、Mブースター、通常ブースター起動でミサイルポッドを放出する。
「行くよキングスレー」
G放電、ブラズマリボルバー! 直撃を受け止めるティターン。
「今更あがいても無駄だぞソーニャ。戦う理由があるのか」
「戦う理由? ボクには傭兵をするしか飛ぶ手段がないからね。飛べればそれでいい‥‥と思っていたんだけどね。最近はちょっと+α。君にボクを刻みたい、ボクに君を刻みたい。ボクの中には逝った仲間、殺したバグア、強化人間たちがいる。ボクたちは生きて、世界は変っていく。この瞬間、ボクの前に君がいて、君の前にボクがいる。こんな出会いでも絆を感じるんだ。ボクたちの生きた証は何に変っていくんだろ? 君はどんな世界が欲しい? 生き残った方が見届けるんだよ」
「俺は死んで終わるつもりはない。出来るなら未来に望みを託したいがね」
美海は地上から侵入。友軍の雷電、SG、サイファーらとともに突撃する。
「煙幕弾発射。――ここからが盛大な打ち上げ花火でありますよ」
M−181大型榴弾砲を連続して発射する。友軍機も対地攻撃を開始する。
砲台を破壊してタートルワームを粉砕しつつ、ケルマーンに接近する。降下してくるタロスと撃ち合い、足止めを食う。
「全機左右に展開、十字砲火に追い込みつつ間合いを詰めろ!」
山本伍長は四連カノン砲を撃ち込みながら加速した。
美海も右翼から装輪走行で加速する。タロスのプロトン砲を弾き返しながらブラストシザースを叩き込んだ。爆散するタロス。
「行くぞ! 突入!」
ケルマーン内部へ侵入する。
あちこちに触手のような生体機械が走っている。
美海たちは攻撃を開始。次々とケルマーン基地を内部から破壊して行く。
上空では、傭兵たちがワームを後退させ制空権を確保しつつあった。
キングスレーは状況を確認して撤退する算段を立てていた。
「逃げる気かキングスレー!」
孫六と絶斗が側面から、ソードとソーニャが正面から包囲した。
「逃がさないわよヨリシロ!」
キングスレーの退路を絶ったのはシャーリー軍曹だった。
「俺を甘く見てるのか。死ぬのを待つほど酔狂じゃないんでね」
キングスレーはシャーリー軍曹が搭乗するシラヌイに突進すると、プロトン砲とミサイルポッドを叩き込んだ。
「軍曹――!」
爆炎がシラヌイを包み込む。シャーリーが脱出しようとした瞬間、キングスレーはウイングでシラヌイを真っ二つにした。シャーリーもろとも、シラヌイは爆発して消滅した。
「そんな‥‥」
傭兵たちは撤退するキングスレーを追撃は出来なかった。ここは敵地のど真ん中である。
その後、壊走するワームを確認して、傭兵たちはケルマーン基地を完全に破壊、制圧した。