●リプレイ本文
ボーパール、UPC軍基地――。
情報部門の士官ジャイロは、グナのバグア軍の動きを端末で補足していた。
「司令官。敵に動きありです。ティターンにタロスがグナの近郊を旋回しています」
「動き始めたか。詳細は出そうか」
「ええ。カスタムティターン一機。これはヨリシロのアレン・キングスレーが搭乗する専用機のようです。残りはエースタロスが五機。カスタムタロスが15機です」
「アレン・キングスレー? 確か、先日轟竜號を襲撃したバグア人だな」
「はい」
「傭兵たちに敵の情報を伝えておけ。敵は出撃態勢にあると」
「了解しました」
――傭兵たちは間もなくボーパールを出立するところだった。
「アレン・キングスレーだと?」
孫六 兼元(
gb5331)は情報を確認すると、思案を巡らせた。
「これで奴とで会うのは三度目だな‥‥」
孫六は気がかりを覚えた。ラストホープの仲間たちを呼び集める。
「みな、知っての通り、敵の指揮官はアレン・キングスレーだ。ソード(
ga6675)氏はすでに交戦したことがあると思うが」
「孫六さん。何か気がかりでも」
「ここ最近キングスレーにワシらの情報が筒抜けになっているのは、内通者がいるからと考える。今回も基地内にスパイがいる可能性がある」
「なんですって!? 基地にスパイがいるって本当でありますか?」
驚きを隠せない美空(
gb1906)。
「それは大事ですが。確証はありますか」
ソードの問いに、兼元は腕組みして顎をつまんだ。
「確証はない。だが、ワシらが行く先々でキングスレーが先回りしているのは、明らかに不自然すぎる」
「アジアは広大ですからね。毎回こちらの動きに先回りしていると言うのは不自然ではありますね‥‥」
「俺も報告書は見ているが、不自然なところがあれば、キングスレーの動きには要注意だな」
絶斗(
ga9337)の言葉にレイド・ベルキャット(
gb7773)は思案顔。
「どうするつもりですか? スパイの可能性を考えるとしても、表立って知らせるわけにはいかないでしょう」
「やってみるしかないと思う。背後で脅かされてはワシらが作戦を遂行したとしても無駄になるかも知れん。何か、破壊工作でも仕掛けられたら‥‥」
「まあバグアのスパイというのは、こちらが存在を掴んでいないだけで活動はしていますよね」
「スパイとやらが邪魔をするなら、排除せねばならんのう。いずれにしても、ジャディフには内々に話してみたらどうじゃ。要は、邪魔が入らぬようにすればよいのであろう」
ティム=シルフィリア(
gc6971)の言葉に、孫六は頷いた。
「そうだな‥‥ソード氏、軍傭兵に少し遅れると伝えてもらえないか」
「了解しました」
「俺も行こう兼元。司令官を説得するなら援護がいるだろ」
絶斗の申し出に、兼元は頷いた。
――司令室で、ジドは作戦を指揮していたが。
「アーガ、傭兵たちは何を待機しているんだ」
「ラストホープ組の機体に一部整備不良が見つかったとか」
「冗談だろう?」
と、司令室に孫六と絶斗が入って来た。
「孫六、絶斗、何だ。作戦は始まってるんだぞ」
「ジド司令――」
やって来たジドの手に、絶斗は素早く手紙を滑り込ませた。
「それに目を通してくれ。適当なことを話しながら」
ジドは少し考えて歩き出した。
「こっちへ来てくれ。もう一度作戦の概要を説明するから」
ジドは絶斗からの手紙を開いた。
内通者がいるかもしれない事を予想し、立案した作戦とは別の作戦を展開する。もし、内通者がいるとすると、司令であるあんたに情報を持ってくる者が怪しいと睨んでいる。もし、敵にこちらの作戦がバレていたらそいつは焦る、もしくは普段とは違った反応を取ると思う。分からない場合に備え、武器と防具を密かに服の下に着けておいてくれないか?もし、作戦中に暗殺されれば前線で戦う俺達にも悪い影響が出る。取り越し苦労ならば作戦後、俺に説教してくれ。覚悟はできてる。この事は内密に。全ては「完全勝利」のために。
ジドは執務室に二人を連れて入ると、吐息して向き合った。
「どういうことなんだ」
「ジド司令、これは大事な話だ!」
孫六は言った。
「ワシが此方に来て、どうもバグア側の動きが周到過ぎる! 故に何らかの形での情報漏洩を警戒しとる」
「というと?」
「根拠として、何故、キングスレーは慣性制御装置の輸送航路と、轟竜號の稼動試験の詳しい日時と場所を知っておったのか? 何故、今回も奴は我々の攻撃を見越して、待ち構えておったのか? 三度も続けば、最早偶然とは言えん。疑いたく無いが、内通者の可能性も有る。その可能性を思い立ったのは、以上の機密事項を知りえる人物は限られとるし、バグアによる盗聴の可能性は大きいので、遠方との通信を何度も行う事は考え難い。となれば、司令部内に何か『仕掛け』が有っても不思議では無かろう。特に奴は、元軍人だから尚更だ! 万が一に備え、指令には護衛を何人か付けて貰えんだろうか? お願いだ! 捕虜の件も怪しいが、居るのなら救助せねば!」
孫六の言葉に、ジドは唸った。
「相手も情報収集は普段から行っているだろう。ここに内通者がいるとは限らない。別の場所から情報を得たのかも」
「部下を信じておるのだな。だが、今はワシらを信じてもらいたい!」
「俺からも頼む」
二人の説得に、ジドは肩をすくめると、電話の受話器を持ち上げた。KV隊の隊長に連絡する。
「隊長、私だ。作戦に変更があるが、ラストホープの傭兵たちから説明を受けてくれ。この件は内密に」
それから警備兵に連絡して、自身の身辺警護を命じる。
受話器を置くと、ジドは孫六と絶斗を見た。
「これでいいかな」
「ああ。それでいい」
「分かったよ。言うとおりにする。だがグナは頼むぞ」
「了解した!」
「行ってくれ。私は大丈夫だ」
孫六と絶斗は部屋から出て行くと、
「取り越し苦労で済めばそれに越したことは無い」
「全く。ああ孫六、先に行っててくれ。ちょっと俺は情報部門に寄って行く」
絶斗は別れると、能天気を装って情報部門を訪れた。
「よお、任務は順調かいみんな」
「何だお前はさっきから、傭兵だろ。何してる」
アーガは、絶斗に声を掛けると険しい顔を見せた。
「そうかっかしなさんな。任務が順調か見に来ただけだぜ」
「作戦が遅れてるんだぞ」
「これから出発する」
「もう敵が待ち構えてる」
絶斗はアーガの肩を軽く叩くと、司令室を後にした。
KVはすでに滑走路に向けて待機していた。絶斗は軍傭兵たちにも手紙を渡し、別の作戦で行くことを伝える。
それからラストホープの仲間たちを呼ぶと、
「敵が待ち構えているようだが、空陸同時に攻撃開始。グナを制圧する」
そう言いながら、手紙では空陸別行動で作戦を行うことを伝える。
「今回の作戦は神速を持ってバグアのたくらみを打ち砕かねばならないのでありますよ」
美空は言って、KVに乗りこんでいく。
「いやはや、何とも”あからさま”な情報ではありますが、人質がいる以上は動かざるを得ませんしねぇ‥‥」
レイドは言いつつ、自機のガンスリンガーに搭乗した。
傭兵たちは発進した。
――先に進発したのが孫六、美空、レイドに雷電五機にディアブロ五機。地上からグナに攻撃を開始する。
タロスは全機が地上に降りてくると、加速してくる。
「ワームは全機が地上から来る!」
「迎撃するぞ!」
傭兵たちは攻撃態勢に入った。
「傭兵ども、また会ったな。今回は確実に潰させてもらうぞ」
「キングスレー! 今回もそうはさせん!」
「いいや孫六、今回は俺の勝ちだ」
「全機ティターンには注意しろ!」
美空は操縦桿を傾けると、煙幕銃を叩き込んだ。
「行くでありますよ」
レーザーガンを叩き込むと、美空はワームの側面に回り込んでいく。
数は傭兵たちの二倍。正面から突っ込んで敵の十字砲火に身を晒す事を避けるために、ワームの側面を突く。
「各機、支援しますので、後ろは気にせず、思う存分暴れてくださいね」
レイドも回り込みながらマシンガンを撃ち込む。
「敵ワーム、正面から来る――」
「全機ブースト加速! 接近戦に移行するぞ!」
「ぬ――!」
バグア軍は煙幕が晴れたところで、傭兵たちの動きを察知する。
「UPC、側面から来ます!」
「全機旋回! プロトン砲で至近攻撃!」
タロスの群れが旋回して、プロトン砲を叩き込んで来る。
「行くでありますよ」
美空はスロットル全開で突撃する。ルシファーズフィストでタロスの腕を吹き飛ばすと、指揮官機に肉薄。
「超限界稼働――! 起動です!」
美空はタロスを連続攻撃で撃砕して行く。
「美空さん、支援しますよ」
レイドは接近するとDFバレットファストを使用し、ファランクスを叩き込む。スライドしつつタロスの死角に回り込むように動きながら銃機関砲を撃ち込む。
バレットファストの高速リロードで装填すると、銃機関砲を連射する。
「その隙、見逃しませんよ‥‥。畳みかけます!」
凄まじい銃撃がタロスを撃ち抜いて行く。
「行け行け! 全機加速!」
孫六は機槍を振り上げてタロスの胴体を貫いた。
「たかだか十機で押し切れると思うなよ!」
キングスレーは前進してくると、部下達に命じて素早く陣形を変えていく。
「さすがにしぶといでありますね。でもそろそろでありますか?」
「持ち堪えて見せますよ‥‥ですが、ここまでの動きをみる限り、敵の動きには不審なところはありませんんが」
美空はタロスを粉砕して後退し、レイドはクロスマシンガンを撃ち込みつつ弾幕を張る。
「よし、来たか!」
孫六はレーダーに目を落とし、上空を振り仰いだ。
「UPC軍、上空から来ます!」
「空から?」
キングスレーはそれを確認して、部下達に命じる。
「よし、第三班と四班上空へ上がれ! 俺も飛ぶ!」
キングスレーは部下たちとともに上空へ舞い上がった。
「ふむ、どうやらバグア軍も、ここまでは予期していなかったようですね。それともスパイはいないのか」
ソードは言いつつ、コンソールを操作して行く。
「兵装1、3、4、5発射準備完了。PRM『アインス』Aモード起動。マルチロックオン開始、ブースト作動」
ピピピピピピピピ――! と敵をロックして行くソード。
「ロックオン、全て完了!」
ミサイルボタンに手を置く。
「『レギオンバスター』、――――発射ッ!!」
フレイアの必殺技『レギオンバスター』。ブースターとPRMを起動。錬力100全てを状況に合わせた能力に使用しミサイル2100発を発射するフレイアの空戦必殺技。
「フレイア――! 性懲りもなくレギオンバスターか!」
バグア軍から狼狽の声が上がる。レギオンバスターはバグア軍にとっては脅威の攻撃だ。
凄絶なミサイル攻撃がタロスに叩きつけられる。
「うおおおおお――!」
「回避不能!」
「全く‥‥こいつはいつも最初にやってくれる」
キングスレーは舌打ちすると、プロトン砲でフレイアを牽制する。
「行くぜ、FOX2ミサイル発射――」
絶斗はバレルロールで加速すると、タロスをロックしてミサイルを叩き込んだ。ミサイルを三連射。ラプター、ハンターを立て続けに打ち込む。逃げるタロスを追尾するミサイルが、直撃する。
強化人間の悲鳴を残して、タロスは爆発四散した。
「よし、このままドッグファイトに移行するぜ」
絶斗はアフターバーナーを吹かせると、旋回してタロスの側面からレーザーを撃ち込んでいく。
「奪われたらゲットバックで奪い返せってのぅ!」
ティムは加速すると、レーザーガンフィロソフィーでのドッグファイトに移行する。
「行くぞワームども!」
ワームからのプロトン砲をバレルロールしつつ軸ずらしで回避行動を取る。
回避しつつ、レーザーガンで撃ち合う。照準先のタロスに次々とレーザーを叩き込む。タロスは直撃を受けて爆散する。
「むう――」
HBシステムを起動して敵の砲火をかわしつつ、Δレーザーライフルの射程内に入ったタロスを撃墜する。
「やってくれるな傭兵たち――」
キングスレーのティターンが加速してくると、ティムのシュトルムに襲い掛かって来る。
「アレン・キングスレーか――たやすいことではないんでの! 発射ぁ!!」
ティムは主砲であるM12強化型帯電粒子加速砲を撃ち放った。閃光がティターンを貫通する。ティターンは爆発したが、構わず突進してプロトン砲を撃ち込んで来る。
凄まじい衝撃に包まれるシュトルム。爆発を起こして傾く。
「やりおるのティターン――さすがはヨリシロじゃ」
ティムは旋回して回避行動を取る。
「そこまでですよキングスレー」
ソードが突進する。エニセイを連射する。激しい銃撃がティターンを後退させる。
「フレイアか‥‥全く信じ難い奴だよ」
キングスレーはプロトン砲で牽制しながら距離を保つ。
「わしの力では及ばぬかもしれぬが――これでも受けるがよい」
ティムはEBシステムを起動して粒子加速砲の一撃を見舞う。直撃――!
「ちっ‥‥! 小癪な」
「キングスレー司令官!」
「どうした」
「地上部隊が後退します。UPCがグナへ突入します」
「これ以上は持たないか」
「どうやらそのようです」
「分かった。撤収だ。全部隊を撤収させろ。作戦は終了だ」
「は――!」
そうして、ワームは反転すると、戦場から離脱する。
そうしてグナへ入った傭兵たちは、人質を確保してバグアの基地と化した旧市街を制圧した。
「人質情報は確かだったか‥‥残るは‥‥」
傭兵たちはボーパールのUPC軍基地へ急いで引き返した。
「スパイは見つかったか――」
絶斗の問いに、ジドは肩をすくめた。
「いや、不審な動きは無かったぞ。本当にスパイがいると思うのか」
「情報漏れがあったのは間違いない」
兼元は司令室の中を見渡した。
と、若い士官がやってきた。ジドの副官カーシーである。
「司令官、依頼のあったスパイ調査の件ですが」
傭兵たちは驚いたようにジドを見た。
「彼は?」
「副官のカーシーだよ。それで?」
「基地内からの通信を確認しました」
カーシーは端末を操作すると、それを再生した。
――基地が手薄になれば、機会はあるはずです。
――グナなどいつでも取り戻せるが、勢いの出てきたジャディフは早く片づけたい。アーガ、任務を果たせ。
「一人はキングスレーだ。アーガって?」
「この通信は確かか」
「声紋は一致しています」
「アーガを拘留する。警備を呼べ」
ジドは情報部門へ向かうが、アーガの姿は無かった。
「くそ‥‥全館を封鎖しろ! アーガを逃がすなと言え!」
そこへ連絡が入る。
「司令官、北東出入り口で警備兵が射殺体で発見されました」
「突破されたか‥‥」
「スパイですか?」
孫六の問いにジドは吐息した。
「お前たちが正しかった。情報部門の士官がスパイだった。逃げられたよ」
「あなたが無事で良かった」
傭兵たちの言葉にジドは肩をすくめると、市内全域の部隊に非常線を張るように通達を出したが、アーガが捕まることは無かった。