●リプレイ本文
みやこ町に到着した能力者たちは、UPCから状況を確認する。
「‥‥君たちがやってくるのに合わせて、敵ワームは後退を開始した。それと同時に、前線にキメラの一群が姿を見せ始めている」
能力者たちは顔を見合わせる。あるいはバグアは能力者たちを引きずり出すつもりなのだろうか‥‥。
「残念だが軍はキメラで手一杯だ。援護は出来そうにない。ワームはしばしば姿を見せて長射程のプロトン砲を打ち込んでくる」
士官は肩をすくめる。
「偶然とは思えないな。これは、君たちを挑発しているのかも知れない」
白鐘剣一郎(
ga0184)は思案顔で腕組した。
「こちらの出方を伺うつもりか? ゴーレムの位置取りは? 相変わらず散ったままか」
「いや、一箇所に集まりつつあるようだが」
これで各個撃破の芽は消えた。敵が一箇所に集まりつつある以上、数の上では互角。
「敵さんも馬鹿じゃないってことやね。反応が早い‥‥奇襲は無理かな」
カーラ・ルデリア(
ga7022)の呟きに士官は吐息する。
「ヨリシロにしろ強化人間にしろ、西園寺であればどんな手を使ってくるか分からんぞ」
士官はそう言って、みやこ町の地図を取り出した。
「今のところ戦力は拮抗している」
士官はそう言って地図の上に線を引いた。
「このラインを境に防衛戦が続いている。何とかゴーレムを倒して前進したいものだが‥‥」
能力者たちは防衛ラインに目を落とし、それから前線の方へ目をやった。
また、親バグアの人がいるのか。
今度は、その人達と、戦わないといけない。
何で、人間同士で、戦わないといけないんだろう。
できるなら、人同士と、争いたくない‥‥
それでも‥‥俺はあの人に、「ただいま」と言って、帰りたい。
コクピットの中で萩野樹(
gb4907)の脳裏にあの人? のことが一瞬よぎる。同僚の中には甘い、と言う者もいるだろうが、能力者の大半はこれまでごく普通の生活を送っていた一般人がほとんどなのだ。スーパーマンのような超人的な能力を有する彼らは否応なく戦場に放り込まれたと言っても過言ではない。人類最後の希望として‥‥。
戦闘機形態で八機のナイトフォーゲルは防衛ラインを超えてゴーレムが待ち受けているであろう、敵陣へ飛び込む。
と、その時無線機にバグア側からの通信が流れ込んできた。
「能力者たちに告げる。私はゴーレム部隊を率いる西園寺明‥‥春日基地に就任されたダム・ダル司令に代わってお礼を言っておこう。再び戦いの地を与えてくれたことを、ダム・ダル司令も喜んでおられる。お前たちとは出来るなら戦場以外でまみえたかったと、ダム・ダル司令も申しておいでだ。私も同様。出来ることなら無用の戦いは避けたいところだが、これも運命と言う奴だろう。戦うからには正々堂々と渡り合いたいものだ」
そこまで言って無線は切れた。
「エリア九州にダムさん赴任? ははは、こやつめ。みんな油断するな。ダム・ダルは死んだ。バグアが正々堂々なんて言葉を口にするなんてあり得ない。こっちの隙を作ろうとしてるとしか思えない」
かつてのダム・ダルを知る鈴葉・シロウ(
ga4772)は仲間達に告げる。
「見せ掛けの挑戦状か。西園寺とやらもふざけた真似をしてくれるな。無駄なことだがな。敵は皆殺しにするまで、バグアに情けはいらん」
乱暴な口調で言ったのは鹿嶋悠(
gb1333)、覚醒の影響らしい。
能力者たちのKVは適度な距離を保ち、二班に分かれて残骸と化した市街地上空を低空で飛んでいく。
と、地上から閃光がほとばしり、ビームが空中を貫いた。旋回する能力者たち。
「敵か」
地上からの攻撃に着陸する。
人型形態に変形したナイトフォーゲルは隊形を組んで残骸と化した市街地を歩いていく。
と、遠方から爆音が響いてきたかと思うと、次々と八機のゴーレムが建物を破壊しながら突入してきた。敵は全機超低空で飛んでいる。もの凄いスピードで散開してプロトン砲を打ち込んでくる。
ゴオオオオオオオオオオオ!
高速旋回するゴーレムにKVも超信地旋回で向きを変える。
「好きにはさせん!」
剣一郎は飛び交うゴーレムにスラスターライフルを叩き込む。弾丸が流れるようにゴーレムの軌道を追う。弾丸の嵐がゴーレムを掠めるように飛ぶ。
飛び交うプロトン砲がシロウの雷電を直撃。
「やってくれるな。ゴーレムだからって格闘戦とは限らないってことかね」
シロウは盾でプロトン砲を防ぎながらライフルで応戦する。
「西園寺‥‥いや、バグアよ、やられっぱなしで済むと思うな。ここでお前達を叩き潰す!」
阿修羅に乗る麻宮光(
ga9696)は飛び交うゴーレムたちに突撃した。
「シロウ、鳳! 援護を頼むぞ!」
鹿嶋の雷電も突撃する。
「連携攻撃‥‥合わせるよ‥‥」
鳳覚羅(
gb3095)は援護射撃のバルカンを連射する。シロウもライフルでバックアップした。
装輪走行で駆け抜ける阿修羅と雷電がゴーレムを捕らえる。
「食らえ!」
麻宮はツイストドリルを叩き込んだ! 爆発がゴーレムを傾かせる――が、ゴーレムは超スピードで離脱するとプロトン砲を連射してくる。
鹿嶋は盾を構えながら機槍「黒竜」を突き出して飛び掛る。槍がゴーレムを直撃し、大爆発を起こす。だがゴーレムは直後には離脱してプロトン砲の連射に切り替える。
剣一郎のシュテルンと最上憐(
gb0002)のナイチンゲールも大地を装輪で走った。
「ゴーレムが高速移動とは‥‥予想を裏切ってくれるな」
「‥‥ん。抜き足。差し足。忍び足。一気に行く」
剣一郎はライフルを打ち込みながら突進し、憐もライフルでゴーレムを牽制しながら相手の軌道に回りこみながらジグザグ走行で間合いを詰めた。
「‥‥! 剣一郎、横からエース機だ!」
カーラは視界に入った赤い機体を確認してロックオンキャンセラーを発動させる。カーラはガトリング砲を撃ちまくった。エース機は疾走してガトリングをかわす。
「何!」
剣一郎は振り向いてエースを確認する。
「エース機を、確認しました。みなさん、エースに注意を」
萩野は語尾を強調しながら言うと、ショルダーキャノンを放った。エース機は砲弾を難なく回避して剣一郎の機体に突進する。
低空飛行で疾風のように走るエース機の影が剣一郎のシュテルンに迫る。
刹那、剣一郎のシュテルンの懐から、機刀「セトナクト」が抜き放たれた。超音波の震動が狼の咆哮を思わせる唸りを上げる。
「‥‥天都神影流、鍔鳴閃っ!」
PRMシステムを使った抜き身の抜刀攻撃がエース機に炸裂する――! が、エース機は飛んだ!
飛んでシュテルンを飛び越えると、エース機はプロトン砲を浴びせて後退する。
「飛んだ!?」
舌打ちする剣一郎。
その隙に二体のゴーレムが剣一郎の間近に迫る。ゴーレムの長大な剣がシュテルンに叩きつけられる。剣一郎は盾で受け止めながら後退する。
「‥‥ん。やられないように。近づいて。斬る」
憐は真ツインブレイドをゴーレムに叩き込む。爆発炎上するゴーレム。
ゴーレムは浮き上がって後退しながら距離を取ると、プロトン砲の連射で反撃する。
エース機が出現したのも束の間、前に出た剣一郎、憐、麻宮、鹿嶋はプロトン砲の集中攻撃を受けることになる。
ゴーレムはナイトフォーゲルの接近を慣性飛行の高速移動で許さず、徹底してプロトン砲を叩き込んでくる。
‥‥エース機の中で西園寺は不敵な笑みを浮かべていた。
「我々の想像以上だ。ナイトフォーゲルの戦闘能力の向上には目を見張るものがある。能力者? 奴らには不可解なことが多い‥‥ひとたびナイトフォーゲルを操れば我が軍の精鋭ですら打ち倒す力を持っている。まあ、今後の楽しみが増えたと言ったところか。もっとも、あのお方たちの考えは分からんが‥‥」
一瞬西園寺の表情から笑みが消え、無機的なマシーンを思わせるそれに変わった。だが直後にはまた笑みが浮かび上がった。
「さて‥‥お遊びはここまでだ」
戦闘は乱戦の模様を呈していた。飛び交うゴーレムに対応するために能力者たちは建物を盾にしながらライフルやガトリングで応戦している。
何とか陣形は保っているが、ナイトフォーゲルは二機一組で互いの死角を庇っていた。
「‥‥!? ゴーレム突進してきます!」
萩野は二機のゴーレムが突進してくるのを確認して剣一郎に警戒の声を告げた。
「さすがに敵も焦れたか。だが、いつまでも飛び回っていられては捕まえ切れん。援護を頼む」
「はい」
萩野はMSIバルカンの銃身を持ち上げる。
「よし、行くぞ!」
剣一郎は飛び出した。
萩野は襲い来るゴーレムにバルカンを叩きつける。
二対一、剣一郎は盾でゴーレムの剣を受け止めると、バーニングナックルとソードウイングで反撃した。
「‥‥敵も焦れた? それならいいやね。出来れば西園寺を捕らえて色々と話を聞きだしたい所やね。‥‥拷問でも何でもして」
最初から西園寺の言葉など信じていなかったカーラは突撃する憐のナイチンゲールを援護射撃しながら呟いた。
憐は突撃してくる二体のゴーレム、内一機はエース、に向かいながら練剣「白雪」を抜いた。レーザーブレードの刃が伸びる。愛くるしい10歳の能力者のナイチンゲールは驚くべき戦闘能力を有している。
敵のプロトン砲をかいくぐって突進する憐のナイチンゲールは一体のノーマルゴーレムを切り裂き、赤いエース機の盾に白雪を叩きつけた。ノーマルゴーレムは爆発したが、白雪の一撃を西園寺のエース機は受け止めた。
エース機は剣を振るうが、憐はツインブレイドで受け止め後退する。味方の援護が乏しい。エース相手に無茶は出来ない。
「‥‥ん、やられる前に。やる」
憐はハイマニューバを使って敵の連続攻撃をかわすと、後退した。
「‥‥ん、カーラ、ひとまず逃げよ」
「確かにエースは憐でも厳しいやね」
憐とカーラは逃げ出した。
覚醒して頭部が白熊になったシロウ。ライトニング・クマ? らしい。雷電を操りながら真ツインブレイドを突撃してきたゴーレムに叩き込む。ゴーレムも盾で跳ね返しながら反撃してくる。何とかかわそうとするが間に合わないので盾で受け止める。
「春日基地のダム・ダルに伝えてくれ、あのダム・ダルの遺体を弄ぶお前達のやり方は正直好かないとな!」
「‥‥‥‥」
シロウは言葉とともに剣を叩きつけたが返答があるわけでもない。
「すっかり相手のペースに持っていかれたな‥‥プロトン砲は警戒していたつもりだが‥‥」
麻宮はゴーレムの剣を受け止めながらツイストドリルを叩き込んでいた。ドリルがゴーレムの装甲をえぐって激しい爆発を引き起こす。だがゴーレムも怯むことなく反撃してくる。
と、そこへ逃げてきた憐とカーラが合流する。
「ご免、エース機が相手やの!」
カーラはガトリングを打ちながら後退する。
と言って、シロウと麻宮も手一杯だ。
プロトン砲を打ち込んでくるエースとノーマルゴーレム。
憐はライフルで応戦していたが、逃げる算段をつけ始めていた。
「シロウのところにエース機が現れたようだが‥‥取り巻きもうるさい」
「‥‥うん、何とかしたいね。多少の被害は覚悟で後退しようか」
鹿嶋と鳳はゴーレムを迎撃しながら何とかシロウたちの援護に向かおうとしていた。
「いつまでもお前達の相手は出来ん! 沈め!」
機槍とレッグドリルの連続攻撃についに爆発轟沈するゴーレム、一機撃破。
「よし、援護に向かおう、弾幕でもう一機は近づけるな!」
鹿嶋と鳳は銃火器を持ち上げると、弾幕を張って装輪走行で後退する。
ゴーレムは追撃してくる。プロトン砲が飛んでくるが構わず後退する。
剣一郎と萩野も敵を振り切ってエース機と戦っている仲間達のもとに駆けつける。剣一郎はゴーレムを一機撃破していた。
エース機の攻撃を受けたシロウは揺れる機体に顔をしかめながら反撃。ガトリングナックルとレーザーブレード雪村を叩きつけるがエースはかわした。
その背後から麻宮がサンダーホーンをエース機に叩き込んだ。
その麻宮に別のゴーレムがフィールドアタックを仕掛けてくる。
「くっ‥‥」
揺れる機体を立て直しながら麻宮は後退する。
そこへ鹿嶋と鳳も合流してくる。
ロボット十機以上が入乱れる乱戦に周囲への被害も凄まじい。飛び交う銃弾が建物を木っ端微塵に破壊する。
鹿嶋はレーザー砲をエース機の牽制に打ち込んだ。そうする間にも別方向からプロトン砲が飛んでくる。
萩野がバルカンでゴーレムを足止めする間に剣一郎がエース機に迫る。
「今度は逃がさん」
セトナクトを抜いて抜刀攻撃の鍔鳴閃を打ち込む。命中! 小さな火の玉が起こってエース機の装甲を吹っ飛ばした。
向きを変えたエース機に鳳のディアブロが突進する。
「いくよアズラエル‥‥奴を破壊するんだ‥‥」
機杭「エグツ・タルディ」を構えて突入する、アグレッシブフォース発動――。
「掴まえた‥‥乾坤一擲の一撃を持って穿つ」
が、機杭は空を切った。寸前のところでエース機は反転して瞬時に飛びすさった。そのままエース機は後退する。
「‥‥能力者たちよ、楽しませてもらったぞ。だが戦いはまだ続く。これは私からの贈り物だ、受け取ってくれたまえ‥‥」
西園寺の声が無線から流れてくる。エース機は戦場から離脱し、他のゴーレムはナイトフォーゲルに向かって体当たりを仕掛けてくる。
「何のつもり‥‥!」
直後、ゴーレムが大爆発してナイトフォーゲルを吹っ飛ばした。
「自爆だと‥‥西園寺‥‥やってくれるな」
少なからずダメージを受けた機体で能力者たちは立ち上がる。
こうして西園寺は逃げた。確実な勝利とは言い難いが、能力者たちはバグアの侵攻を退けたのである。
「次に会った時は落としたいものですが‥‥」
覚醒を解いた鹿嶋は西園寺が去った地平線を見送った。
西園寺の言う通り、この地でも戦いは続くのだろう。
萩野はコクピットで吐息した。何とか生き延びた。あの人に「ただいま」と言って帰ることが出来る。
「続きがあるってところやね‥‥戦術的撤退てところでしょ」
カーラの言葉に一同沈黙する。
敵ワームの撤退を促したが、背後では再びキメラたちが地上部隊と交戦に入ったようだ。みやこ町の攻防は、終わりそうに無い。