●リプレイ本文
バグア軍陣営――。
ダム・ダル(gz0119)は、ファームライドの中で、接近してくる傭兵たちの姿を確認していた。
「ダム司令――」
地上から、青いティターンに搭乗する強化人間の洋子の声が届く。
「傭兵たちが来ますが‥‥我が軍は不利な体勢にあります。ここは無理をせずに、退くことを考えるべきかと」
「お前の考えは恐らく正しい。ここでまともに傭兵たちと打ち合うのは得策ではないだろう」
「では‥‥」
「だが、私は、ただ逃げるのでは、興ざめだと考える」
「それは‥‥」
「ここまでのストーリーは、私の想定内だ。少なくとも、熊本からの撤退は予測していた。UPCがよほど負けない限りは、この可能性はあると思っていた」
「では、UPCとの決戦は福岡ですか」
「あるいは、北熊本か。北九州の情勢にもそろそろ決着を着ける時が近いようだな」
「それでは――いよいよ決着を。それはウォン司令の指示なのですか」
「ウォン司令はそれどころではないようだな。大陸の動きが慌ただしい。いずれにしても、機は熟しつつあると言うことだ。我々にとっても、敵にとっても」
「逃げるのではないとしたら、今日の戦いは‥‥」
「それもまた、ストーリーだ洋子。我々には、逃げるという選択肢はないのだ」
ダム・ダルはそう言うと、ファームライドをゆっくりと前進させるのだった。
「敵が動き出したようね」
櫻小路・なでしこ(
ga3607)は言うと、レーダーを確認する。
「陸の敵も行動を開始した様子。ここで敵の反撃を叩いて、熊本からバグア勢を一掃してしまいましょう」
「陸にはティターンの姿があるのですね。さて‥‥この反応は高橋麗奈とは違うようですが‥‥一体パイロットは誰なのでしょうか」
ソード(
ga6675)の言葉に、ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)は思案顔で応える。
「また別の強敵か。ティターンは厄介な相手だからなあ‥‥簡単に沈めることは難しいだろうな。ソードは気をつけてな」
「バグアに反撃するためにも、絶対に負けられない戦いだね」
アーク・ウイング(
gb4432)は呟き、操縦桿を握りしめる。
「この戦いに勝利すれば、熊本から敵を追いやる契機になるかもです。アーちゃん頑張らないとっ」
「ガッハッハ! ティターンか! ここいらでダムの側近の一人は潰しておきたいところだな! ゆえにティターンは撃破するぞ!」
孫六 兼元(
gb5331)は豪快に笑うと、軽くコクピットに手を置いた。
「行くぞアメノオハバリ!」
「わかんなくなってきちゃった――」
ソーニャ(
gb5824)は自問自答する。このところ戦いの中で葛藤することが多い。
強化人間と話した。バグアの占領下は悲惨だと。洗脳なしって事は良い扱いを受けていると思ったんだけど‥‥。ではなぜ九州の強化人間は自分を犠牲にしてまで戦うの。占領地で違うの? 結局、占領地を開放して直に確認するしかないかな。
「‥‥いくよ、エルシアン。戦いの中に答えがあるならボクは答えを見つける」
夢守 ルキア(
gb9436)は敵との間に回線を開いてみる。通信を投げかける。
「ダム・ダル、応えて。そっちには聞こえるはず」
「‥‥UPCか、俺を呼び出すとは、得意の陽動作戦か」
「ダム! 違うよ。脳が痺れる程強いパイロット、強い機体、ダム君に聞いてみよう、好奇心には勝てない! ね、どうしてきみは戦うの?」
「‥‥‥‥」
「敵トカバグアトカ、ツマンナイ理由じゃなきゃいーな。そんな理由じゃ、親バグアの方がマシ。戦いたいって本能だよー、生きてるって思う」
「分かっていないようだな。私が戦う理由か? 私に選択肢などないのだ。私は巨大な歯車のほんの一かけらにしか過ぎないのだ。私はもう随分前に考えることはやめた。そんなことは考えても仕方のないことなのだ」
「大層なごたくはいいんだダム・ダル。お前がこれまでにしてきたことを、きっちりそのつけは払ってもらうぜ。因果応報って奴だな」
ブロンズ(
gb9972)がそう言うと、ダム・ダルは珍しく笑声を上げた。
「ブロンズ、正直お前のことは好ましく思っている。敵としてこれほどやりやすい相手はいない」
「やかましい、今日は簡単には落とされねえぞ」
会話はそこまでだった。ダムとの通信を切ると、傭兵たちは作戦を確認する。
「FRは強い、俺たちが何もせず戦ったのでは‥‥全滅必死だ。だから俺は、策を練る。今回の局面を乗り越える為に」
秋月 愁矢(
gc1971)は言って、空戦班の仲間たちとともに策を確認する。
【作戦】
A隊はB隊とサポート陣除く空戦班全機
B隊は秋月と軍シュテルン5機
●手順
1段階
A隊
従来通りの戦闘を行い、B隊の存在を感じさせない
B隊
高度を取って待機
サポート陣に紛れて攻撃企図を悟らせない
二段階
A隊はダム・ダルの注意を惹きまくる事によりB隊の攻撃企図を秘匿
B隊は夢守機・サポート陣からの合図でブーストダイブ開始
秋月機を先頭に太陽を背にしてブーストダイブ
速度を稼ぎ、FRに反応させる時間を減らし意表を突く
被攻撃時には全機PRMS防御使用ダイブ保持
回避時にはバレルロール等で失速防止
三段階
A隊はB隊強襲に合わせ本攻撃開始
B隊は強襲実施
全機ブースト保持PRMシステム命中全力使用FR目標全弾発射
終了後、UPCシュテルンは即時離脱
「これはFR破壊ではなくFRに隙を作るための攻撃だ。FRでも、避けるにしろ耐えるにしろ交差射撃するにしろ、隙が発生するはずだ‥‥ホンの数瞬だろうが、その隙を拾ってくれ、頼んだぜ」
「ま、何だな、どこまで策を練っても常に予測の上を行くファームライドだからな。これで確実と言うことはないだろけどな」
ブロンズは言って、軽く頭を掻いた。
「孫六ちゃん、バックアップは任せろ。思い切り切りこんでいいぞ」
ニコラス・福山(
gc4423)は言って、頭を軽く触った。覚醒するとアホ毛が出来るニコラス。通常は1本であるが、調子の良い時は2本、極めてまれに3本になることもある。
「お、アホ毛が三本も! これは今日は何か奇跡が起きるのかも!」
そうして、傭兵たちは空と陸に分かれて、加速して行く。
【陸戦部隊】
ソード(蒼いティターンの抑え)
孫六 兼元、ニコラス・福山(ペア1)
櫻小路・なでしこ、アーク・ウイング(ペア2)
・軍KV班
ミカガミ×5
阿修羅×5
雷電×2
ディアブロ×5
ロビン×5
イビルアイズ×1
ウーフー×1
【空戦部隊】
A隊
ユーリ・ヴェルトライゼン、夢守 ルキア、ブロンズ(
gb9972)
対FRにソーニャ
B隊
秋月 愁矢
シュテルン×5
・軍KV班
シラヌイ×1
フェニックス×1
雷電×3
ワイバーン×5(B隊)
「来ましたね傭兵たち。ここで黙って引き下がるわけにはいきません。私がお前たちを止めます」
ワームの先頭に立っているのは青いティターン。
ソードはその声に聞き覚えがあった。
「蒼いティターン! 洋子ですか、ついにその機体に乗ることができましたか。おめでとう‥‥といっておきます。まあ、こちらにとっては凶報ですがね」
「レギオンバスター、ソードですか‥‥また会えるとは。今日はその機体もらっていきましょう。我が軍でも捕獲に人気の機体ですからね、あなたのフレイアは」
「そうはさせませんよ洋子」
「全機攻撃開始――」
タロスとゴーレム達が前進する。洋子も前に出てくる。
「軍のみんな! ゴーレムをお願い! 私たちはタロスを押さえる! いくわよアークさん!」
「アーちゃん突入します!」
「ガッハッハ! 行くぞ福山氏!」
「オッケー、孫六ちゃん! しっかりサポートするぜ!」
「よし! ラスホプ組に続け! 俺たちも突入だ!」
「全機突撃!」
傭兵たちは最大戦速で突進していく。
ライフルを連射する福山とアーク。粒子砲を叩き込むなでしこ。
対するワームからは例によってプロトン砲の応射が来る。
アークとなでしこは流れるように展開すると、タロスに向かって銃撃を開始する。レーザーとライフルを叩き込むが、タロスも素早く移動しながら、プロトン砲を撃ち込んで来る。光線と銃撃が飛び交い、めくるめく閃光が視界を埋め尽くす。
「福山氏!」
「任せろって!」
タロスに向かって突撃する孫六に、ライフルで支援する。
「いいか! トリガーは霜が降る如く引くもんだ、力任せじゃ当たらないよ」
孫六は機槍「天雷」を主軸に使用する。福山の支援射撃で動きの鈍った敵を順次狙って行く。槍は右手で槍の中程を持ち、穂先は下向き。左上から右下にかけ、体の前を斜めに隠す様に構える。防御は槍で受け流したり、下から穂先を半月を描く様に跳ね上げ、武器を弾く。突く時は左の脇に抱える様に絞込み、体全体で突き込む。孫六曰く「正に攻防一体の構え方だ!」
タロスと打ち合う孫六。槍で攻撃を捌きながら、一撃を見舞う。突きがタロスを捕える。
「ソード氏は!」
すでにソードは洋子との戦闘に移っていた。
「洋子! あなたを倒してまずは勝利への布石とします!」
加速する青いシュテルン、フレイア。1ターン目でPRM『アインス』Aモードで攻撃を上げた機槍の連続攻撃でティターンの姿勢を崩し、ブーストを使い間合いを一気に詰めてそこをPRM『ツヴァイ』Aモードで知覚を上げたシャイニング・ペンタグラムで仕掛ける。
☆必殺技:シャイニング・ペンタグラム
PRMで知覚を上げ雪村で敵を五芒星(錬剣5回攻撃)に切りつけてから女神剣フレイアで敵を突き刺す。女神剣の光は敵を浄化する様。
「PRM『アインス」起動。この攻撃を凌げますか? 洋子!」
「鋭い‥‥さすがフレイアですね」
しかし洋子は冷静であった。フレイアの槍を剣で軽く弾いた。
「やりますね――フレイアの真価。PRM『ツヴァイ』起動! ブースト作動!! 『シャイニング・ペンタグラム』!!」
練剣の五連続攻撃を受けつつ、洋子はティターンをアクロバットに操り被害を最小に食い止める。
「浄化!!」
ソードは女神剣で最後の一撃を突き入れた。しかし、そこにティターンの姿はなかった。ティターンは女神剣の一撃をすり抜け、接近してくると、剣をフレイアの足に叩き込んだ。
「――まだ動く!」
ソードは操縦桿を引いたが、遅れた。足を切り落とされ、フレイアは沈んだ。
そしてシュテルンが離脱する前に、洋子はコクピットに剣を叩きつけた。
ソードはすんでのところで脱出する。
そしてフレイアは捕獲された。
「ソード! 生きてる!?」
なでしこの声に、ソードは無戦機で応えた。
「ええ、何とか。機体を奪われました。不覚です。甘く見すぎましたか‥‥脱出します」
そうして、洋子たちは傭兵の攻勢を捌きつつ、後退していく‥‥。
「行くぞ軍傭兵さんたち、ダムがまだ後ろにいる間にヘルメットとキューブを叩く」
ブロンズはシラヌイS型を前進させると、カプロイアミサイルを放出する。轟音が轟き、命中した数百のミサイルが爆炎を上げる。
「さて‥‥ここからが‥‥」
ユーリは適当な機体とロッテを組むと、加速してキューブを撃墜していく。ソードウイングで止めを差す。
キューブの怪音波が頭痛を引き起こして視界がぶれるが、どうにか撃破する。
「コイツ好き。狂わせようってところが」
ルキアはキャノンでキューブを落としていく。
「行くよエルシアン。今日も空を制覇するんだ」
ヘルメットワームにレーザーを撃ち込むソーニャ。
空のワームは少数だ。軍傭兵も加わり、やがて傭兵たちは圧倒していく。
「ファームライド、方位02接近。全機警戒せよ」
ルキアはレーダーを確認して加速する。
やや高度を上げ友軍KVを抜き、FRへブースト接近、最高速でペイント弾発射。
「優秀なパイロットなんだ?」
ワイバーンにMブースト、ペイント弾入りガトリング砲指示。
「全身デコレーション!」
しかしファームライドは簡単に捉え切れない。
「よおダムダル、久しぶりに俺に会った感想でも聞かせてみな」
言いつつブロンズは接近。的を絞らせないよう軍属ワイバーンにも注意ひくように指示する。
「また撃墜してやろう。確実にな。今度は無事かな」
「言ってろ」
ファームライドのプロトン砲をバレルロールでどうにか回避する。が、光線が機体をかすめて行く。
「さすがにFRだな、ティターンとかとは格が違う。ちっ、食らえ」
強化ショルダーで反撃。ラージフレアを展開してFRの命中を下げる。
「行くぞダムダル。いつも通り土産を持って来てやった」
ユーリがミサイルを放出する。
「ユーリ・ヴェルトライゼンか、そしてそっちにはソーニャ」
ダム・ダルはミサイルを回避しつつソーニャの突進に備える。
「G放電が3発、とても全部は撃てないだろなぁ。ねぇ、全部撃てたらほめてね」
加速するエルシアン。アリス、Mブースター起動突入。
軍KV、I−01同調発射。
ラージフレアと通常ブーストの旋回、ロール機動を組み合わせた回避技「ファントム」を使用。
ラージフレアからG放電、レーザーから離脱。
「ダムの集中が少しでもミサイル回避に削がれれば‥‥ミサイル群に紛れる。クッ、フレア展開、ブースト回避。G発射」
数百のミサイルがファームライドに襲い掛かる。
FRは慣性飛行アクロバットにかわす。
「これをかわす、ファントム! G! 2発目いけー!」
ファームライドはその時別のことに気を取られて、G放電の直撃を受ける。
「はぁはぁ、無茶な機動Gを無理やり押さえ込むAUKV。操縦性の上がったエミタ。HDはKV戦に向いている。特にこんな無茶なドックファイトにはね。いけー、ファントム、そしてこれが最後のG」
「行くぞ! ブーストダイブ! みんなを信じて突っ込む!」
上空から秋月とシュテルンが突進してくる。
「PRMシステム起動! ミサイル全弾放出!」
バレルロールで突貫しながらミサイルを放出する。千発を越えるミサイルがファームライド目がけて飛ぶ。
「今だよ。A隊ファランクス陣形でファームライドを包囲」
ルキアは後衛に着いた。
シラヌイ超伝導、ワイバーンMブースト。
ブロンズはこの瞬間を待っていた。横からK−02と十六式を発射する。
「ナイスタイミング、十字に放たれたミサイル群、回避出来るもんならしてみなよ!」
「食らえダム・ダル!」
ユーリも全弾放出。
ミサイルはファームライドを次々と捉える。爆発と閃光がFRを包み込む。
そしてブロンズはソーニャの攻撃に合わせて死角をとる。超伝導アクチュエータVer.2を発動、軍属シラヌイにも発動要請して同時攻撃。出来た隙に一斉攻撃をするように味方に指示。
「俺たちが隙を作る! タイミング合わせて一斉に仕掛けろ!!」
「行くぞ――! 全弾放て!」
軍傭兵たちは残りのミサイルを撃ち込んだ。
果たして――。
閃光と煙が晴れて後、ファームライドは悠然とそこに浮かんでいた。
そしてダム・ダルは後退する。
「熊本の決戦は近いようだ――傭兵たちよ、この戦、まだどう転ぶか分からん。お前たちは勝つかも知れないが、逆転で負けることもあり得るのだ」
ダム・ダルはそう言い残して、撤退した。