タイトル:【BD】亡命マスター:安原太一

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2010/09/28 16:31

●オープニング本文


 コロンビア、UPC軍作戦本部――。
「掃除屋、と呼ばれる敵部隊がいる」
 場違いに綺麗な軍服姿の男は、開口一番そう告げた。軍部の大規模な作戦行動の後に現れる、バグアの有人と思しい部隊の事だ。
 大規模な交戦では「通常の状態ではまず起きない事」が起きる。100、200のワームが撃墜される中で、稀に自爆に失敗する個体があった時に、「掃除屋」はその破壊のみを目的とする部隊らしい。
「初めて目撃されたのはメトロポリタンX攻略戦の直後だ。正規軍の部隊が迎撃を試みた際には、文字通り一蹴された。それ以来、基本的にアンタッチャブルとして処理されていたのだが、‥‥ご存知の通り状況が変わった」
 2月のVD作戦の成功。そしてヴァルキリー級の実用。自爆に失敗した敵は、大きな損害を考慮してなお手に入れるべき財宝と化したのだ。
「敵の数は10機前後。いわゆるネームドと呼ばれる連中ほどではないが、腕が立つ。最後に目撃された隊は、タロスで構成されていたようだ」
 そして、任務の為に死ぬ覚悟であろう、とも。北伐において偶発的に遭遇した部隊が一機を撃墜する事に成功したが、その搭乗者は機体を失った後、生身で交戦を継続したという。
「逆に言えば、だ。今のUPCの戦力で奴らを1機落とせた、という事だ」
 傭兵がかかれば『掃除屋』を殲滅‥‥は無理でも、回収の間だけ食い止める事はできるかもしれない。誰かが言い出した結果、任務が掲示されたと言うわけだ。
「勝手に『掃除屋』と我々が呼んでいるが、出てくるのはおそらく毎回別物だ。故に今までの情報はあてにならん。‥‥誰か、質問は?」
 男は最後に、思い出したようにそう付け足した。

 ‥‥大規模作戦中にそんな話を聞いてから間もない頃だった。
コロンビア上空を飛ぶ傭兵たちの哨戒に、接近してくるヘルメットワームとタロスが探知された。
「こちらデルタワン、接近してくる敵機を確認、これより迎撃に向かう」
「待て、何か様子がおかしいぞ」
「何だ?」
「敵機よりSOS信号だ――回線を切り替える」
 すると、雑音の中に、敵パイロットの声が響いた。
「SOS、SOS、私はバグア軍のパイロット、強化人間のジル・カイル。私は、UPC軍に亡命を希望するものである」
 傭兵たちは耳を疑った。
「亡命だって?」
 強化人間は続ける。
「私はUPC軍に投降を希望する者である。受け入れの準備を進めてほしい。至急用意されたし。追手が掛かっている。時間はない」
 傭兵たちは当然ながら罠の存在を疑う。
「気でも狂ったのかジルとやら。そんな話を信じると思うのか」
「叩き落とすか」
「迎撃準備」
 そうして、傭兵たちはワームの集団に接近していく。
 ――だが、本当にヘルメットワームに乗ったジルはまっすぐに向かってくる。そして、タロスの集団はヘルメットワームに攻撃を開始した。
『あのパイロットを逃がすな。奴を何としても殺せ!』
 異星人言語で激しい口調の言葉が回線に流れる。
「おいおい‥‥何だ、本物か?」
「助けてくれ! 私は洗脳されてはいない! 家族をバグアに人質に取られていたが、その家族も死んだ! 私は本気で亡命を望んでいる!」
 傭兵たちは、とにかくも、ワームの迎撃に向かう。
「バグア人が直々に出てくるとは‥‥一体何が」
「とにかく、敵機を迎撃。本当に亡命かどうかは、いずれ分かることだ。本部に連絡を」
 そこで、バグア人たちは傭兵たちに言葉を投げる。
「UPC軍よ、退け。我々はお前たちと戦うつもりはない。我々の役割は、裏切り者を始末するだけだ。下がれ」
「それで、はいそうですかと下がれるか、バグア野郎」
「馬鹿め、死にたくなくば下がれ。追撃はせん」
 傭兵たちは操縦桿を傾けた。
「全機気合入れて掛かれよ。どうやらバグア人が直に乗っている機体らしい。――行くぞ!」
 傭兵たちはスロットルを全開にすると、タロスに向かって加速した。

●参加者一覧

如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
瑞浪 時雨(ga5130
21歳・♀・HD
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER
鹿嶋 悠(gb1333
24歳・♂・AA
蒼河 拓人(gb2873
16歳・♂・JG
ファサード(gb3864
20歳・♂・ER
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
秋月 愁矢(gc1971
20歳・♂・GD

●リプレイ本文

 ――如月・由梨(ga1805)は混乱していた。強化人間が亡命?
「無月さんが心配で一緒に行ってみれば、厄介な‥‥! 何もこんな時に、イレギュラーが発生しなくても良いでしょうに! くっ、どうすれば、何が最善‥‥!?」
 と言って答えが見つかるわけでもない。ワームはぐんぐん迫って来る。
「分かりませんが、とりあえず、目の前の敵を排除するのが‥‥!」
「心配掛けてしまいましたか‥‥」
 重体の終夜・無月(ga3084)は、ミカガミの中で、ちらりと由梨のディアブロを見やる。
「何が最善かは分かりませんが‥‥今俺たちができることは、ワームの侵入を食い止めることですね‥‥。由梨、落ち着いて下さい‥‥」
「無月さん‥‥頑張ります」
「亡命‥‥? 強化人間を延命する技術はこっちには無いはずなのに‥‥」
 瑞浪 時雨(ga5130)は、にわかには疑念を拭えないでいた。
「本当なら受け入れればいい‥‥、罠ならそれごと叩き潰すだけ‥‥。行きます‥‥!」
 時雨は、鋭い視線を向けると、スロットルを全開に加速する。
「逃亡者の支援に当たるぜ! 持病の歯槽膿漏が苦しいが‥‥やってやるさ」
 きりりっと眉をひそめるのはハヤブサ乗りのヒューイ・焔(ga8434)。今回は重体であり、亡命者の護衛に向かう。
「バグアの攻撃を受けているのを見捨てるわけにはいかない。それに、無傷の機体はどこかの偉いさんが言っていたように得難い財宝だからな。少しはUPCに助力しようじゃないの」
 ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)も頷いた。
「俺も同意見だ。亡命の真偽のほどは後で確認すればいい。まずは、ヘルメットワームの確保を最優先で行うぞ! バグア人の動きに注意しよう」
「この時期にバグアからの亡命ですか‥‥無傷でHWと強化人間をこちらに引き入れるのは大きな利益になりますが‥‥本当に信じていいんだろうか‥‥いや、今は亡命の真偽より目の前の敵を叩く事に集中しますか」
 鹿嶋 悠(gb1333)はそう言うと、目前に迫るタロスの集団に目を向ける。確かに、にわかには信じ難い出来事だが。
「亡命か‥‥よく分からないけど、この場面で演技して罠を張る必要もないよね。何かが変わる瞬間‥‥なのかな?」
 蒼河 拓人(gb2873)はそう言って、フェニックスを前進させる。
「あのヘルメットワームはこのままだと本当に撃墜される。あれが演技とは思えないしな‥‥。とにかく、バグア人を叩き潰してから、事の真偽は確認すればいいさ」
「それにしても、危険な任務なんですね‥‥(がっくり)」
 コクピットで肩を落とすファサード(gb3864)は、初任務で哨戒に当たっていたのに、こんな危険な事態に遭遇するとは思っていなかった。
「とにかく、ボクに出来ることはします。そして、何としても生きて帰りますよ‥‥本当に」
「こんなところで、このチャンス。一言でもいい、強化人間の話を聞きたい。だから、絶対守る。行くよ、エルシアン、ブースト起動!」
 ソーニャ(gb5824)はそう言って、ブースターの準備をする。常ならず強化人間に興味を抱くソーニャは、必ずジルを救うつもりであった。確かに、こんな機会はまずない。ジルの話が本当なら、彼は洗脳されていないらしい。バグア人にとって人は道具? 共存関係はあるの? 洗脳なしにバグアに協力する人っているの? その人達は利益以外に理想とかあるの? どんな社会を作ろうとしているの? ‥‥とは聞けないが、でもいつか聞きたいと、ソーニャは思っていた。
「バグアからの亡命‥‥か。‥‥難しい事は助けてからだ。助けを求める声を俺は見捨てない。少なくとも俺の力は、この為の『力』だと思いたい」
 秋月 愁矢(gc1971)は言って、拳をパチン! と打ち合わせた。助けの声を見捨てない――それは秋月の矜持か。
 そこで、本部から男の声で通信が入る。
「亡命機と遭遇している哨戒中機、応答せよ。こちら本部のヘンダーソンだ」
「こちら哨戒機、終夜無月です‥‥ヘンダーソンどうぞ」
「その亡命機を何としても確保しろ。強化人間は死んでも構わん。機体の慣性制御装置さえ無事なら後は構わん。何としても装置を確保しろ。いいか」
 ヘンダーソンの鋭い命令口調に、無月は軽く呼吸した。
「敵はタロスが10機、バグア人が搭乗しています‥‥俺たちも最善を尽くしますが、及ばない可能性もありますので‥‥」
「そいつらは恐らく掃除屋だ。掃除屋の話は聞いているか」
「ええ‥‥先日伺いましたが‥‥」
「全力で奴らを撃破しろ。これは好機なのだ。掃除屋を撃破すれば、追手は来ないだろう。いいな、確実に慣性制御装置を確保するのだ。これは最優先事項だ。何としても確保しろ」
 このヘンダーソンと言うのはマウル少佐やミハイル大佐と言った現場の指揮官とは随分異なる人物のようだ。確かに傭兵たちはUPCの指揮下に入っているが、このような扱いを受けるいわれはない。傭兵たちの誰もが、微かに苦虫を噛み潰したような表情になる。
「了解しました‥‥全力を尽くします‥‥」
 無月は議論しても無駄だと思い、ヘンダーソンとの通信を切った。
「‥‥と、本部からのお達しだ。まあ、やれるだけのことをするまでだな」
 ユーリは仲間たちの心情を察して、言葉を紡いだ。
「いずれにしても、強化人間を見捨てるつもりはないけどね。ヘンダーソンとやらがどう思うと関係ないよ」
 蒼河の言葉に、秋月は頷いた。
「むかつく奴だなあ確かに。俺たちを機械か何かと思ってるのか全く‥‥物扱いしやがって」
「みなさん、すぐに敵機との交戦区域に入ります」
 フローレンスの声に、傭兵たちは戦闘隊形を取って加速する。
「こちらUPCの傭兵です。ジル・カイル応答して下さい」
 ファサードは言って、機体を蒼河の横に付けた。
「こちらジル! 急いでくれ! もう追いつかれる!」
「すぐに護衛に向かいます。こちらの防衛ラインの中へ入って下さい。タロスは撃退します」
「よし、行きますよ‥‥間もなくエンゲージ。正面のタロスにミサイル放出用意‥‥」
 無月の言葉に、傭兵たちはミサイルの照準を合わせる。
 そして、バグア人から激しい言葉が来る。
「UPC軍よ! これが最後通告だ! これ以上関わると、貴様らを全滅させるぞ!」
「ロックオン、ミサイル発射」
「FOX2!」
 返答の代わりに、傭兵たちはミサイルを発射した。
「くそ! まずは傭兵どもから片づける!」
 タロスは散開したが、次々とミサイルの直撃を受けて炎上した。
「ユーリさん‥‥!」
「行くぞ由梨、ロングレンジで支援頼む!」
 ユーリと由梨のロッテは斬り込んだ。
 機関砲を叩き込みつつドッグファイトに持ち込むユーリ。ソードウイングで切り掛かった。――直撃がタロスを切り裂く。
「由梨!」
「行きます――!」
 由梨はトリガーを引いて、バルカンを連続で叩き込んだ。凄まじい勢いで銃撃がタロスの外郭を吹き飛ばし、そのまま打ち砕いた。爆発四散するタロス。
「まず一機!」
「おのれ――!」
 タロスは反撃のプロトン砲を叩き込んで来る。ローリングで回避するがユーリは直撃を受ける。衝撃がコクピットまで伝わってくる。
「やってくれるな‥‥掃除屋か」
 機体を反転させ、突撃するユーリ。
 プロトン砲の連射が来るが、かすめながら特攻する。ソードウイングを叩きつける。
「行けええええええ!」
「ユーリさん!」
 由梨は側面に回り込むと、タロスを次々と撃ち抜いた。
 バグア人の怒号が回線に轟く。異星人言語で何を言っているのか分からない。
 そして――タロスは粉々に吹っ飛んだ。
「ファサード君! 大変だろうけど援護射撃よろしく!」
 蒼河は加速すると、タロスに向かってライフルを叩き込んだ。
 直撃を受けるタロスはものともせずにプロトン砲で応戦してくる。
「そうはさせませんよ‥‥」
 ファサードは回り込み、ちくちくとライフルを当てて行く。
「邪魔だ! 人間!」
 バグア人は怒りの咆哮を上げると、プロトン砲を連射する。
 ファサードは一気に加速して旋回、どうにか回避する。
「君の相手はこっちだ!」
 蒼河は突進してプラズマライフルを撃ち込む。
 連打を受けたタロスは激しく爆発して後退するも、真正面から反撃してくる。
「奴を殺せ!」
 もう一機が突進してくる。プロトン砲の連打が蒼河の機体を捕える。
「くっ‥‥! 何の!」
 加速して逃れる蒼河。
「えーっと、バグア人のみなさん、逃がしてもらえませんかね」
 ファサードはのろのろと言ったが、バグア人の怒りは爆発。
「貴様らと遊んでいる暇はない!」
「これ以上関わるな! 退け人間!」
「そうはいかないんだ」
 ユーリと由梨が合流して反撃の態勢を整える。

 時雨は、鹿嶋とロッテを組んでの迎撃――。
 鹿嶋は高高度からブーストダイブ。怒涛の勢いでミサイルを叩き込む。
「幾らタロスと言えども、再生能力以上のダメージは堪えるでしょう?」
 凄まじい威力のミサイルがタロスを吹き飛ばす。
「SESエンハンサー! スタビライザー起動!」
 時雨も加速して、ミサイルを叩き込む。
「こっちも余裕がない‥‥まずはこれで‥‥!」
 もの凄い威力のG放電のエネルギーがタロスを包み込み、凄絶な打撃を与える。
「おのれ‥‥! 手こずっている時間はないぞ! ジル・カイルが逃げる!」
「突破しろ!」
「そうはさせませんよ」
 鹿嶋はタロス二機の前に立ち塞がり、アテナイとライフルで激しく攻撃を加える。
「容赦は致しません‥‥!」
 取っておきの荷電粒子砲を連射する時雨。
 猛烈な攻撃を受けて、吹っ飛ぶタロス。ほとんど機体は大破寸前まで追い込まれる。

「行くわよエルシアン!」
 加速するソーニャの青い機体が駆け抜ける。プロトン砲をバレルロールでかいくぐり、ミサイルを叩き込む。
「やっぱり速いな‥‥ついて行くのがやっとだけど‥‥限界まで行く!」
 秋月もスロットル全開で突入する。
「行けええええええ!」
 ソーニャは加速してレーザーを叩き込む。
 光線が立て続けにタロスを撃ち抜く。
 反撃のプロトン砲をローリングで回避する。
「ソーニャ、チェック6だ」
 ミサイルを放出する秋月。直撃がタロスを捕えるが、バグア人は全く退く構えを見せない。
「OK秋月さん! 行くわ!」
 ソーニャは加速してミサイルを連打する。
 次々と命中するミサイルに、爆発炎上するタロス。

 ‥‥追撃を振り切ったジル・カイルは、無月とヒューイの護衛を受けた。
「ありがとう‥‥助かった。礼を言う」
「まだ早いようですね‥‥」
「来やがったぜ!」
 二機のタロスが突撃してくる。
「そいつを渡せば死なずに済む! 下がれUPC!」
「しつこいぞバグア人! こいつの身柄は渡せん!」
「ならば‥‥貴様らを排するまでのことだ!」
 突進してくるタロス。プロトン砲を叩き込んで来る。
「逃げろジル・カイル! こいつらは俺たちが止める!」
「逃がすな!」
「そうはさせません‥‥ここから先へは行かせませんよ‥‥」
 ヒューイは煙幕を張ってジルを逃がすと、そのままタロスに向かい、ロケットにミサイルを次々と放った。更に加速、ソードウイングでぶち当たる。
 タロスはミサイルをよけながらウイングを受け止めたが、激しく切り裂かれて爆発する。
 無月は鉄壁のようにタロスの前に立ちはだかり、真正面からプロトン砲を跳ね返して機関砲を叩き込んだ。瞬く間にハチの巣になって崩壊するタロス。
 その時である。タロスの機体から、影が飛び出してきた。
「何ですか‥‥?」
 見れば、黒い異形の人の形をしたものが空を飛んでいる。
「おい! バグア人だぞ! 生身でやる気だ!」
 二人のバグア人は手元の無線機で最後通告を送りこんで来る。
「これが最後だ。我々は命と引き換えにしてでもあの強化人間を追う。それを邪魔する者は、何人であろうと殺す」
「生身であれば‥‥なおのことあなたたちを通すわけにはいきません‥‥」
「時間切れだ傭兵」
 バグア人は羽を生やしており、飛びかかってきた。
 無月もヒューイも距離を保って銃撃を浴びせる。
 しかし、バグア人は銃撃をものともせずに突撃してくる。
 機体に取りつくと、バグア人は生身でKVをぶち切ろうとする。
 無月はブーストで加速すると、ローリングで振り落とした。
 旋回して、帯電粒子加速砲を叩き込む。貫通する粒子砲がバグア人を焼き尽くした。咆哮を上げて、バグア人は消失する。
 ヒューイはバグア人を振り落とすと、ウイングで体当たりする。バグア人は信じ難いことに生身で受け止めたが、直後に切り裂かれて真っ二つになった。

「――そっち! 行ったぞ! 大丈夫か!」
 ユーリは叫んだ。タロスから飛び出したバグア人が生身で戦闘を仕掛けてくる。
「もはやこれまでだ地球人! 貴様らは全員死ぬ!」
 飛びかかって来るバグア人に由梨はアグレッシブフォースを起動させるとG放電を叩き込んだ。
「最期を迎えるのはあなたたちです‥‥!」
 由梨は裂帛の気合とともにミサイルを叩きつけた。
 放電がバグア人を包み込み、その肉体を焼き尽くした。
 時雨は驚いていたが、容赦はしない。バグア人の頭のような場所や翼などを狙い、確実に追撃を不能にする。
「ただ、無慈悲に‥‥。この星があなたの墓標‥‥。散りなさい‥‥!」
 荷電粒子砲がバグア人を焼き尽くす。
「目標が小さくなってもやることは同じ‥‥ですからね」
 鹿嶋はライフルを叩き込み、バグア人の肉体を打ち砕いた。
 スキル全開で上空から加速する蒼河のフェニックス。雪村を抜いた。
「縁も運命も魂さえも‥‥極光を以て断ち切る!」
 閃光が、バグア人を両断した。

 ‥‥戦闘は終結した。傭兵たちはバグア人の生身による凄まじい抵抗を受けたが、最終的にそれらを粉砕して、強化人間とヘルメットワームの確保に成功する。
 ジルは機体を損傷して、不時着していた。傭兵たちがやってくるのを確認すると、ジルは両手を上げて交戦の意思が無いことを示す。
 鹿嶋はジルのボディチェックを行い、危険が無いことを確認する。
 ソーニャはジルに歩み寄った。
「占領地での生活。辛い事が多いと思うけど、ささやかな幸せはあった? 家族の方は笑えてた? 君が家族を思い、家族も君を思っていたなら、きっと笑えたよね」
「私たちに選択肢などありませんでした。想像だにできないでしょうが。私たちはバグアに従うしかなかったのです」
 言って、ジルは小さく笑った。
 やがて、本部から輸送用の軍用機が来る。
 軍用機から降りて来た軍服の男は、ジルを見据えると、同行してきた傭兵に短く「連れて行け」と命じる。そうしてジルは連行されて行った。
「ご苦労だった、よくやってくれたな。諸君らの働きに感謝する」
 男は無月ら傭兵たちに無機的な声で言うと、ヘルメットワームを取り囲む兵士たちに指示を出していく。
「あの強化人間、どうなるんだろうね」
 蒼河は軍用機に姿を消したジルの背中を見送り、小さく言った。