タイトル:【DR】スクランブルマスター:安原太一

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/04 22:06

●オープニング本文


 ヤクーツク、シベリアの凍土で大規模な戦いが始まろうとしている――。
 ヤクーツクに到着するUPC軍とともに、この地にも傭兵たちが集まっていた。
 氷点下20度という凍て付くような寒さに、傭兵達もすっかり防寒装備に身を包んでいる。
 UPCの軍人が傭兵達に作戦の説明を行っている。
 敵の基地――今回の大規模作戦の目標であるウダーチナヤパイプにはすでに東京からラインホールドが鎮座し、アグリッパを展開して鉄壁の防御を敷いている。これにはすでに傭兵達が対処に向かっていた。
「この極東の地で、あの怪物――ラインホールドを沈めることが出来るのは‥‥残念ながら諸君を置いて他にはいまい」
 士官は傭兵達の顔を眺め回した。激戦が予想されるラインホールドとの戦い‥‥果たしてあの巨人を止めることが出来るのだろうか‥‥。
 ウダーチナヤパイプに向かって進軍するUPC陸軍を援護するのも傭兵達に与えられた役割である。
 士官は戦略上の要となるであろう最前線、ミールヌイ、スンタル、ニュルバ、ビリュイスク、ハンバと言った都市を差し、ウダーチナヤパイプの攻略に向けて、これらの地上都市への速やかな進軍の重要性を説いた。
 またUPC軍の空中母艦ユニヴァースナイトの到着に向けて、恐らくバグアの攻撃目標となるであろうことから、あの壮麗な人類の空中空母の護衛につく能力者たちが求められている。
「‥‥敵はかつて無い規模であり、この作戦の成否が我々の命運を決すると言ってよい。諸君ら傭兵には、一層の献身、貢献が求められる。厳しい戦いになるだろうが、諸君らはこの星の砦。バグアと正面切って対抗出来るのは諸君らを置いて他にはいない‥‥」
 と、その時である、ビー、ビー、とサイレンが鳴り響き、スクランブルを告げる声が鳴り響く。
「――敵機来襲、敵機来襲、アジア方面より、十機のワーム編隊が接近中‥‥第一、第二空戦隊、および待機中の傭兵は直ちに迎撃に向かえ‥‥繰り返す」
 士官は苦々しげにスクランブルの声を聞いていた。
「無論、敵がこのヤクーツクを直接攻撃してくる可能性は大だ。こちらには困難なことも、敵は簡単にやってのけると言うわけだ。忌々しい話だが‥‥いや、君ら傭兵には詮無い話だな。――十機のワーム編隊、恐らく一撃離脱狙いだろう。奴らを一歩も通すなよ」
 士官は吐息すると、十人の傭兵を選んで出撃を命じた。
 かくして傭兵達は走り出すと、待機中のナイトフォーゲルに飛び乗っていく。
「オペレータ、敵さんとはどれくらいの距離だ、時間的距離でいい」
「上がって間もなく、十分くらいで遭遇するでしょう。敵はヘルメットワームです」
「サンキュー。十機のヘルメットワームに十人の傭兵か‥‥」
 戦い慣れた者もいよう。だが、と傭兵達は手綱を締めて掛かる。
 敵がヤクーツクに入る前に落とす。傭兵達はナイトフォーゲルを滑走路に進めると、次々と飛び立っていった。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
西島 百白(ga2123
18歳・♂・PN
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
三島玲奈(ga3848
17歳・♀・SN
王 憐華(ga4039
20歳・♀・ER
シリウス・ガーランド(ga5113
24歳・♂・HD
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
澄野・絣(gb3855
20歳・♀・JG

●リプレイ本文

「零‥‥絶対に無茶はだめよ‥‥約束ですからね‥‥破ったら帰還した後に皆様の前でいちゃいちゃしますからね」
「憐華、心配するな。無茶はしないよ‥‥無茶はね‥‥我が一度だって無茶したことがあるか?」
「いつもそうです‥‥!」
「‥‥大丈夫。今回も生きて帰るさ」
 漸王零(ga2930)はそう言って愛妻の王憐華(ga4039)に口付けした。
「愛か‥‥この戦場で美しいものだが‥‥」
 クールガイのシリウス・ガーランド(ga5113)は微笑を浮かべて二人の様子を見つめていた。
 白鐘剣一郎(ga0184)は自身の愛妻のことが脳裏をよぎる。苦笑しつつ二人のもとへ歩み寄る。
「お二人さん、いちゃつくのは帰ってからにしろ。今は一刻を争う」
「ほら離せよ憐華、行かなきゃ。みんな待ってる‥‥」
 王零は憐華をなだめると、仲間達と共に空へ飛ぶのだった。

「一筋縄で行かなさそうだが、恐れていても始まるまい。俺たちの出来る限りを尽くそう」
 剣一郎はUPC軍や仲間達に呼びかける。
「ペガサス、見苦しいところを見せたな。まさか夫婦で参戦することになるとは‥‥」
「気にするな王零、うちも似たようなもんだ」
「ラブラブ?」
「まあな」
 剣一郎の口もとが緩む。
「時間であるな。こちら強襲班B、後で会おう」
 リヴァル・クロウ(gb2337)と西島百白(ga2123)は高高度からの強襲に向けて上昇していく。
「了解B班、後で会おう」
「では我らも行くとするか。――憐華」
「はい」
 王零と憐華も上昇していく。
「ラブラブかあ‥‥いい話だなあ‥‥ここは全編カット!」
 三島玲奈(ga3848)は誰に言うともなく突っ込んでいた。
「ま‥‥カットしたくなる気持ちも分からんでもないが‥‥」
 シリウスはいかにも真面目な口調で応じる。玲奈のギャグは通じなかったらしい。
「ラブ? くだらん‥‥」
 レーダーに目を落とす時枝・悠(ga8810)は吐息する。傭兵となった時から過去は捨てている。愛など‥‥自分に人並みの幸福など望むべくもないだろう。
「正直羨ましいけど、今は敵に集中するわ」
 平坦な口調で言う澄野・絣(gb3855)。覚醒すると感情の起伏がなくなると言う。
 と――ピッ、ピッ、ピッ、ピッ‥‥。
 レーダーに光点が浮かび、高速で接近してくるヘルメットワームに能力者たち、UPC空戦隊は隊形を組む。

 高高度、強襲班は位置に付いていた。
「敵は‥‥皆殺しだ‥‥」
 西島の瞳に残酷な光が宿る。覚醒の作用だ。すでに高高度に達し、向かって来るヘルメットワームへの準備は出来ている。
「こちらB班目標高度に到達」
 クロウは仲間達に呼びかける。
「ファーストコンタクトで戦況が変わる。システムドライブ、仕掛ける」
 高高度からのパワーダイブ‥‥能力者というのは本当に無茶をするものだ。
「ブースト用意、三つ数えて突入する」
「了解‥‥」
 王零と憐華もレバーに手を置く。
「1‥‥2‥‥3‥‥突入‥‥!」
「行くぞ」
 四機のナイトフォーゲルは超音速で急降下していくと敵HWに襲い掛かった。

 十機のヘルメットワームはコースを変えることなく直進していたが、上空から迫り来るナイトフォーゲルに加速前進した。
「突破を図るか‥‥予測の範囲だ。我はここで敵の虚をつく‥‥憐華は皆との合流を優先してくれ」
 王零は操縦桿を傾けながらHWに突進していく。
「空に轟け‥‥虎の‥‥雄叫びを‥‥」
 急降下しながら西島はミサイルを放った。ロングボウの誘導システムから放たれる長射程のミサイルがヘルメットワームを襲う。
 轟音が雷鳴のように轟き、命中したミサイルが壮麗な火球となって炸裂する。
 クロウ、王零、憐華らもG放電ミサイルを叩き込む。逃げるHWにミサイルが直撃し、放電が爆発する。
 王零の機体がローリングしながら弾丸のように敵中を駆け抜けていく。F.B.A:Flame Bullet Assault――機体を回転させる事で弾丸の様に貫通力、突破力をあげる王零の飛行だ。
「零〜〜〜〜!! あなたは、またそういった無茶を!!」
 憐華にとってはそのような突進は無茶な真似に見えるらしい。言いつつ憐華も王零を追う。
 HWはさらに速度を上げて前進する。
 強襲班の初撃は成功したがワームは一気に彼らを引き離して突進する。

「来るぞ! 迎撃用意!」
 正面からHWを迎え撃つ攻撃班、遊撃班、UPC空戦隊はミサイルを発射する。
 弾道の軌跡が流れるようにHWに向かって飛んでいく。――命中!
「挨拶代わりだ、受け取るがいい」
 爆発と放電が炸裂するがHWが高速で飛び出てくる。
 行き過ぎる傭兵達とHW。すれ違いざまに攻撃を叩きつける能力者たち。
「一機もヤクーツクへ通すな!」
 旋回してHWの後に追いすがる。ブーストで加速してHWの背後を捉える。
「何という速さだ‥‥」
 UPC空戦隊のパイロットは振り切られて呆然とナイトフォーゲルを見送った。

「抜かせるわけには行かない!」
 剣一郎はG放電ミサイルを放った。命中――するかに見えた瞬間、HWは急上昇してミサイルを振り切った。
「逃がすか!」
 玲奈はD2ライフルを連発。HWは旋回して逃げる。
「我がいるのだ。そう貴様等の思い通りにはさせぬぞ」
 シリウスもミサイルを放ったがHWは高速旋回してかわした。
 悠もミサイルを連射、流れるような軌跡で追尾するミサイルはワームのでたらめな機動力に振り切られた。
「ちっ‥‥化け物め」
「ここを抜けさせるわけには、いかないのよ!」
 澄野もミサイルを叩き込む。今度は命中して放電がワームを包み込む。
 このままヤクーツクへ向かうかに見えたHWだが、急旋回して散開すると反撃に転じてくる。
 バグアの心情を図ることは出来ないが、あるいは追撃を脅威と見たのか‥‥。
「敵の足止めには成功したが‥‥」
 剣一郎の顔が険しいものに変わる。
「ようやく面白くなってきた、来る敵は叩き潰すまで」
 覚醒によって強い者を追い求める性格が現れているようだ。
 襲い来るHW、プロトン砲がナイトフォーゲルに叩きつけられる。
「ここで全機撃墜してやるさ!」
 玲奈は機体を傾けると飛びすぎて行くHWに食らいつく。
「行ったぞシリウス!」
「承知」
 シリウスはHWの背後につくとレーザーガトリングを叩きつける。
 急速旋回、急上昇急降下のドッグファイト。悠は機体を操りながらHWに攻撃を叩き込む。
 敵を追う澄野。だが今のところ数で勝るHWは背後に付くと、プロトン砲を澄野の機体に叩き込む。衝撃に揺れる機体。
 澄野は機体を振ってHWの追撃をかわす。
「くっ‥‥振り切れない」
 そこで玲奈が援護に入る。
「澄野さん逃げろ」
 リニア砲をワームに叩き込む。ワームは澄野の背後から離れて上昇。
「助かったわ玲奈」
「気をつけて」
 悠はHWの側面からエネルギー砲を叩き込んだ。爆発炎上するHW。
「今日は墜とす」
 逃げるワームに食らいついてバルカンを叩き込む。
 そこで別方向からヘルメットワームが悠の機体に体当たりを仕掛けてくる。フォースフィールドを使った体当たり、フィールドアタック。
 揺れる機体を建て直してワームから離れる悠。ワームは背後についてプロトン砲を連射してくる。
「でたらめな攻撃を‥‥」
 旋回する悠の機体を剣一郎が援護する。シュテルンのスラスターライフルを叩きつける剣一郎。激しく爆発するHW。

「どうやらドッグファイトに移ったらしい‥‥」
「足止めには成功したようであるな」
 強襲班は空中戦を繰り広げる仲間たちのもとへ合流すると、HWの背後に襲い掛かってミサイルを連発する。
「逃がしはしない‥‥」
 西島のロングボウから壮麗なミサイルの嵐が飛ぶ。数百発のミサイルがHWに襲い掛かる。――ミサイルは全弾命中して空中を火球で彩った。壮観な光景だ。
「来たか強襲班。待ちかねたぞ」
「待たせたな、一気にかたをつけよう」
 シリウスの声に王零が応じる。
「新システムの本領‥‥見せてやろうか‥‥闇天雷‥‥『Grenze−Transzendenz』!!」
 王零の雷電が黒銀の粒子に包まれ、ミサイルが次々と放たれる。
 HWを追尾するミサイル群は全弾命中して爆発と炎が空を紅蓮に染め上げる。
 憐華のアンジェリカは王零の機体の死角を補う様に飛んでいるが、程なくして乱戦の中に放り込まれることになる。
「ヤクーツクへは一機も行かせない、ここで破壊するのだ」
 クロウもミサイルを全弾発射。ミサイルはHWを放電で包み込んだ。

 UPCのパイロットはゴーグルを上げると、信じられん‥‥とKVとHWの戦闘を見守った。
 戦闘機の最高速度に近い速さで旋回上昇下降を繰り返す凄まじい空中戦を目撃して、パイロット達は半ば呆然としていた。

 ゴオオオオオオ‥‥!
 振り切られそうになりながら操縦桿を傾ける剣一郎。スラスターライフルを叩き込んで背後の敵機をかわす。
 飛び交うプロトン砲が直撃するがシュテルンは耐える。
「持ってくれよシュテルン‥‥食らえ!」
 剣一郎はライフルを叩き込んだ。爆破轟沈するワーム。一機撃墜。
「‥‥面倒は‥‥嫌いなんだ‥‥堕ちろ」
 西島はロングボウを操りスラスターライフルを放つ。
 ドドドドドドドドドド! 
 爆発するHWは旋回して逃げる。深追いはしない。
「西島機、背後に付かれるぞ」
「そいつはご免だ‥‥」
 西島は操縦桿を傾けて上昇する。
 それを援護するクロウ。HWにレーザー砲を打ち込んで僚機の危機を救う。
「テストは完了だ、後は貴様らを落とすまで‥‥!」
 王零はスラスターライフルをワームに叩きつける!
 爆発炎上、轟沈するHW。これで二機目。
「零の邪魔はさせません!」
 憐華のアンジェリカが王零機に近付くHWにD2ライフルを放つ。ワームは回避しながら反転する。
「剣一郎さん、そっちへ追い込みます!」
 玲奈はHWを猛追しながらライフルを連発していた。ワームはローリングしながら玲奈の攻撃をかわす。
 剣一郎はやってくるHWにレーザー砲を打ち込んだ。爆発して逃げるワーム。
「良いフォローだ、助かった」
 シリウスは澄野と組んでワームを狙っていたが――。
「しぶとい‥‥高性能機か」
 レーザーガトリングを連射するシリウスだが、ワームはくるくる回りながら回避する。
 澄野のイビルアイズはロックオンキャンセラーを発動させながら戦闘を支援していた。シリウスと交互に死角を庇うように飛び、ヘビーガトリングで反撃していた。
 八機になったHWはそれでも高い機動力で傭兵達を翻弄したが、ヤクーツクへの突破は諦めたようである。
 急速旋回して戦線を離脱すると、南に向かって逃げ出した。
「やったのか‥‥?」
 UPCのパイロットたちは飛びすぎて行くワーム編隊を見送った。
「‥‥逃げたか」
 剣一郎は小さくなるワームの影を見つめて呟いた。
「あるいは一方的に突破される可能性もあった。幸運と言うべきかも知れん」
 シリウスの声を聞いて玲奈は背伸びする。
「ま、どっちにしろ終わったみたいだ。基地に戻ってゆっくりしたい‥‥その暇もないか」
「‥‥UPC友軍機へ、敵機の撃退に成功した。ヤクーツクの家に帰ろう」
「了解した、ご苦労だった。諸君の助力に感謝する‥‥」
 ナイトフォーゲルとUPC戦闘機はヤクーツク基地へ帰頭する。

 ‥‥帰還後、ヤクーツク基地にて。
 憐華はナイトフォーゲルから飛び降りると、王零のもとへ駆け寄った。憐華を抱きしめて受け止める王零。夫婦は熱い口付けをかわす。
「零‥‥また無茶をして‥‥約束したでしょう?」
「ごめんよ‥‥燐華」
 仲間達の反応は様々だ。やってられんわとその場を後にする者、にやにやしながら夫婦を見つめる者、二人の熱愛振りを羨ましそうに見つめる者、そして呆れ返ったように眺める者など‥‥。
 いずれにしろ、極東の戦いの幕は切って落とされた。バグアの侵攻を止めることは出来るのか? あの浮沈艦ラインホールドを倒すことは出来るのか? 人類の存亡をかけた戦いは続く‥‥。