●リプレイ本文
篠崎 公司(
ga2413)はキューブのジャミングで乱れるレーダーに目を落とした。
「ここまで押し返されるとは‥‥春日の反撃は予想以上です」
「築上放棄と簡単に言ってくれるな! 陥ちたら地元関係者は戦う意義を失うんだ」
北九州が故郷の三島玲奈(
ga3848)は、UPC軍の言葉に感情を露わにする。
「ここは‥‥私にとっちゃ譲れない戦場なんだ」
「ここまで押し込まれたか‥‥」
夜十字・信人(
ga8235)は言って、これまでの戦いを思い浮かべる。脳裏に浮かぶのは進軍するガルガの隊列。
「今はこの空が戦場だ。‥‥こちら亡霊、戦闘空域に突入する」
「夜十字さん。よろしくお願いしますね。ここは初めてですけど、凄い数の敵ですね」
「ああ和泉君。ここは厳しい戦場だよ。地上には無限のキメラ、空には圧倒的な敵軍とね」
「そうですね‥‥こんな戦いは初めてです」
和泉 澪(
gc2284)は、操縦桿を握る手に力が入る。これほどの大規模戦は初めてなのだ。
「まったく、敵さんもでたらめな戦力を投入してくるな。一気に築城を落とすつもりか」
ヒューイ・焔(
ga8434)の言葉に、ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)は思案顔で応じる。
「ダム・ダル(gz0119)の奴、最近は調子に乗ってるからな。どこかで逆撃を食らわしてやりたいよな」
「あの自信に満ちた顔を踏み潰して八つ裂きにしてぎたぎたにしてめためたにぶちのめして叩き潰して‥‥」
続くヒューイの言葉に、ユーリは肩をすくめる。
「滾るな‥‥負け戦こそ戦の花よ!」
堺・清四郎(
gb3564)は言って、友軍を鼓舞する。
「バグアどもに、悪あがきをする人間の底力を見せつけてやろう! ここまで攻め込まれて、無傷で帰れると思うなとな!」
ここいらが潮時か‥‥だがただでは負けん! UPC軍の精強さを見せ付けて奴らに一泡ふかせてやる!
「厳しい戦いが続くね。しかし今日は小細工なしだよ。ひとつづつ確実に減らす」
ソーニャ(
gb5824)は、そう言って、ぱちん! と拳と掌を打ち合わせた。
「ここで勝って、丘へ行ってみよう‥‥」
ソーニャは眉間にしわを寄せると、厳しい顔で気合を入れる。
「福岡南に続いてこちらもか‥‥流石は牡牛座、ですかね」
とはいえ、彼に特別な感情は抱いていない‥‥今回もただの命を取り合う仕事だ。ラナ・ヴェクサー(
gc1748)はあのバグア人の顔を思い起こす。
悠然とことを進めるダムの戦略に、ラナは認めざるを得なかった。遂に軍を熊本へ展開させることに成功したあのバグア人の手腕を、ラナは否定できない。
「キューブ対応班、確実に落としていくぞ! あの怪音波が取り巻いている間は、俺たちの攻撃は全く封殺されるも同然だからな!」
ヒューイは友軍に呼び掛けると、適当にロッテを組んで機体を傾けた。
「まあ焼け石に水よりはましでしょう」
篠崎はジャミングの中和を試みるが、実際これだけのキューブの怪音波に飛び込んだら、ほとんど効果はない。
「こちら三島駆除班、狩りを始める。いくぞ御龍13!」
「了解。狩りを始めるとしよう」
「まず周辺の妨害排除だ。各機へ、CWは接近に伴い頭痛を感じる。我慢できる距離まで接近して教えて欲しい。私がSライフル2門を連射して遠距離撃破する
MRはペイント弾を浴びせる。岩龍、MRを上空から撮影したデータをリンクしてくれ。違いを見極めて親機を探す。発見したら急接近、Sライフル2門を浴びつつ機体スキルで一撃離脱、回避する
岩龍は班上空で目視で敵の奇襲を警戒! ウザがられ始めたら駆除作業が奏功してる兆候だぞ♪」
「岩龍で頑張ってみるよ、玲奈さん‥‥築上はきっと守りぬけるから」
岩龍乗りのパイロットは、三島に言葉を掛ける。
「ありがとう、私には全く妥協するつもりはないのだけど、一人で戦えないことも分かってる。」
「大丈夫ですよ、きっと、みんなで戦えば、負けはしません‥‥」
篠崎はウーフーを前進させると、眉をひそめる。
「さて、ここからが勝負ですね。大量のキューブをどうにかしませんと‥‥」
「和泉君のライトウイングを中心に、S01は左右に、岩龍は後ろに付いてくれ、先頭は亡霊が仕る‥‥!」
夜十字は友軍各機にバンクサインを送ると、戦列を整える。
十の文字のような陣形、自分は夜十字。集団火力を構築し、死角をカバーし合い戦闘する。
「共に行こう。弾幕を頼む」
中心には和泉。
「これ以上北九州を落とさせるわけにはいきません。全力で潰させてもらいますよ」
「キューブの妨害が消えれば、戦いやすくはなるが、それまではどうにか持ちこたえるぞ」
ユーリはそう言って、機体を傾けた。堺、ソーニャ、ラナ他、軍属KVもヘルメットワームとタロスに向かう。
「全機エンゲージに備えよ。キューブの妨害がある。開始からすぐにドッグファイトに移行、適時ロッテを組みつつ敵機の迎撃に当たれ」
「ラジャー、管制官、キューブから片づけて行く」
傭兵たちは砂嵐のレーダーを確認してから、照準を上げると、有視界内での戦闘に備える。
前方からキラリと光がほとばしって、プロトン砲が叩きつけられる。
「来るぞ!」
ヒューイは機体を傾けると、バレルロールで突撃した。
「キューブから落としていくぞ!」
キュウンキュウンキュウンキュウン‥‥! と怪音波が脳裏にこだまする。激しい頭痛がヒューイを襲う。
「ちっ‥‥!」
視界がぶれて操縦桿を握る手が揺れる。複数のキューブと当たって、ヒューイは歯を食いしばった。
「これでも食らえ!」
プロトン砲が飛び交う中、バルカンを叩き込んだ。キューブの耐久はもろい。攻撃さえ当たれば落とすのは容易いが怪音波の影響は絶大だ。ヘルメットワームからプロトン砲の連打を食らって、ヒューイは舌打ちして距離を保つ。
「くっ‥‥! 行くぞ、キューブを駆り取るのが先だ」
三島たちは、敵の攻撃を受け止めながら牽制して、キューブに接近して行く。
「激しい頭痛が‥‥厄介な」
「操縦に著しい影響が、馬鹿にならんぞ」
「だからこそ、先にこいつを落とさないと、耐えて仕掛けるぞ!」
キューブに殺到して行く三島たち。ライフルを叩き込んで、次々とキューブを撃退して行く。キューブはほとんど滞空しているだけなので、操縦に影響を受けつつも、三島たちはどうにか撃墜して行く。
岩龍はメイズリフレクターを監視していた。メイズはじわじわと増殖して行く。
「あれが親機ですか」
岩龍のパイロットは親機の位置を伝えると、三島たちはメイズの親機に攻撃を仕掛けた。
「反射能力がある、私が行く」
三島は加速すると、メイズにライフルを連射した。砕け散るメイズに、直後に機体に反動が来る。メイズリフレクターの反射能力で攻撃が跳ね返ってくる。
「どうにか‥‥いけるか」
三島は一撃離脱でメイズを破壊する。
「怪音波ですか‥‥今更ですが、キューブの能力は厄介ですね」
篠崎は顔をしかめつつ、キューブを撃墜して行く。そうする間にも他ワームの攻撃が来るので、キューブの撃墜は実際骨の折れる仕事だ。
「メイズリフレクター確認、三機で仕掛ける」
夜十字は友軍に呼び掛けると、バンクサインを送った。PRM起動、防御に50の練力を回し、増速、S01二機とSライフルRで同時射撃。
「夜十字さん――」
「和泉君、君は中心にいて、後に備えてくれ」
「はいっ」
「行くぞ」
夜十字たちは加速して、メイズに銃撃を浴びせる。反射の衝撃が来るが、次々とメイズを撃ち落としていく。
「増加装甲の二枚重ねだ。まだいける」
夜十字は照準先のメイズにリニア砲を叩き込んだ。爆発炎上するメイズ。
ヘルメットワームの大軍が襲い掛かってくるが、傭兵たちはキューブとメイズを打ち砕いて行く。
「いいぞ。妨害電波が収まっていくぞ。ここまでくればまともに行ける。ここからが我々の戦よ!」
堺は操縦桿を傾けると、タロスに反撃する。
「我が剣虎の牙! 恐れぬならばかかってこいやぁ!!」
ライフルを叩き込んでドッグファイトを演じる。
アリス常時起動。突入時マイクロブースター多用、バレルロールで螺旋を描きながらかわし突入攻撃、すり抜け離脱。
ターン機動を少なく、高速を維持、通常ブースト多用。
G放電からAAMEからレーザーそして離脱。
ソーニャのエルシアンはヘルメットワームを撃墜しながら空を駆け抜ける。
「伊達に空戦ばかり渡ってきたわけじゃない。今日のボクは落ちない。常に戦域にいることで影響力を行使するよ――青い鳥健在、みんなあきらめないで!」
ラナはサイファーを操り、スラスターライフルでドッグファイトを演じる。
「私の栄光のために落ちなさい!」
照準先のワームは連打を食らって爆発炎上、消滅した。
「ふう‥‥それにしても数が多い、押されている。どうにかしないと」
ラナは回復したレーダーに目を落とす。
敵の大部隊を足止めするのは至難の業だ。
「でも、これ以上牡牛座の思い通りにはさせませんよ」
キューブの掃討から参戦した三島、夜十字、和泉、篠崎、ヒューイらも加わって、戦闘は激しさを増していく。
「私の故郷をこれ以上蹂躙することは許さん!」
三島は友軍とともに編隊を組むと、加速する。
「よし‥‥行くぞ、支援攻撃を頼む。前のタロスを落とす」
ユーリはアクロバットな機動で旋回するタロスを捕まえると、機関砲を叩き込んだ。銃撃を浴びたタロスはハチの巣になって装甲が吹き飛ぶ。
「今だ、FOX2」
「ミサイル発射」
友軍の放ったミサイルがタロスを捕え、敵ワームは悲鳴を残して沈んだ。
「そっち、ヘルメットワームを追い込みます」
篠崎はプロトン砲をかいくぐって、敵機をライフルで追い込んでいく。
「了解篠崎、撃墜は任せろ!」
二機のS01がヘルメットワームに照準を合わせて、ミサイルを叩き込んだ。爆発轟沈するワーム。
「なかなかやるわねUPC! ダム司令が手こずるだけのことはあるわね!」
敵の指揮官機さやかが前進してくる。
「でも、この戦いはまだここからよ!」
さやかは集団を率いると、急速に前進して、戦列を突破する。
「敵エース! てめえ! 行かせるか!」
ヒューイは旋回してリボルバーを撃ち込んだが、さやかのエース機はアクロバットに回避しつつ前進する。
「残念ねUPC、ここからは私、ダム司令の腹心さやかが仕切らせてもらうわ」
「さやか君か、出て来て早々悪いが退場願うぞ!」
夜十字は加速する。
「これ以上、北九州を明け渡すわけにはいきません!」
和泉も夜十字に続いた。
「はは! 私を甘く見るなよ! ダム司令の機体には及ばんが、無策でここへ攻め寄せたと思うな!」
さやかはタロスとヘルメットワームのエース部隊を率いて最大戦速で加速すると、その他の集団をUPC軍に叩きつけた。
「何だこいつ‥‥逃げる気か!」
「いや違う、あっちは築城の中央方向だぞ」
「築城基地ね、まさか基地を狙う気? ここで――」
傭兵たちはさやかの追撃に掛かるが、雑魚ワームとタロスたちが立ちふさがる。
「邪魔だどけ!」
ヒューイはリボルバーを撃ち込み、ユーリもウイングで切り掛かる。
「ここであの女を行かせてたまるか‥‥!」
ラナもミサイルを撃ち込んでワームの撃破に掛かる。
「UPC! 築城基地が危ない! 一部でも出来るなら基地へ向かえ! 俺たちもどうにか敵を突破する!」
堺は回線に怒声をぶつけて、目の前のワームを打ち落とした。
「あのエース機か! ふざけた真似を!」
傭兵たちは悪戦苦闘してワームの大軍と向き合う。
さやかはそれをあざ笑うかのように超音速で加速する――。
――築城基地。
「敵ワーム、一気に突破してきます!」
「ここまでか‥‥基地の全ての兵士に退避命令を出せ! すぐにここを離れろ!」
しかし、大佐の言葉が終わらぬうちに、衝撃が来た。
あっという間に基地上空に達したさやかのタロス部隊は、容赦なく基地にプロトン砲を撃ち込んでいく。
悪夢のような閃光が降り注ぎ、築城基地は崩壊して行く。
逃げ惑う兵士たちに、容赦なくプロトン砲が降り注ぐ。
大佐は天井に開いた穴を見つめた。そこに、さやかのタロスがいた。
タロスは基地の中に入り込むと、大佐を掴み上げた。
「逃げるな! UPC! 貴様らは私がもらった!」
さやかの笑声が響き渡った。
「こんなことになるなんて‥‥基地の人たちは無事でしょうか」
和泉は機体を操り、ミサイル叩き込み、戦況がはっきりするのを待った。
「夜十字さん、敵のエース機を止めないと」
「ああ、だが、このワームを振り切らないと‥‥」
「支援を頼む! どうにか離脱する!」
ヒューイとユーリ、それからUPCの軍属機の一部が戦場を突破し、フルスロットルで築城基地へ急行する。
「遅かったか‥‥!」
半壊した築城基地を確認する。
すでにさやかたちは撤退した後だった。ワームの姿はない。
ヒューイ達は着陸した。
「ひどいな‥‥」
兵士たちが駆けてくる。
「大佐たちが連れて行かれた! タロスに捕まってしまった」
「何だって?」
――交戦中の傭兵たちは、練力が少なくなってきて後退する。ワームの追撃を振り切り築上の南まで後退する。
UPC軍の地上部隊もガルガの攻勢を支えきれずに撤退した。
傭兵たちは、築城基地が壊滅したことを、ヒューイらの口から聞く。
‥‥戦闘終結後、ソーニャはまたバグア占領地域の丘に向かった。どういうわけか、バグア兵にもキメラにも遭遇しなかった。
真っ赤に熟れ切ったすもも、果皮は中の果汁ではちきれそうだ。そっと歯を立て、果汁を吸う。吸血鬼の様に。
と、ソーニャが振り返った先に、ダム・ダルが立っていた。銃を構えている。
「忠告はしたはずだぞソーニャ」
ソーニャは震える呼吸を整えると、
「ダム‥‥今日もいっぱい人が死んだよ。ボクも殺した」
「‥‥‥‥」
「君が望んだ戦だよね。ボクたちラストホープが戦うことの中に何があるのかまだわからないけど。エミタを埋め込んだ傭兵‥‥強化人間にバグア、この辺の関係だよね」
「‥‥‥‥」
「きれいごとを言うつもりはないよ。ボクは飛ぶ為ならなんでもする。ボクの命は飛ぶ為のもの。だから罪悪感もないんだ。この戦のおかげでボクは飛べた」
「それで‥‥?」
「ただ、きづいた屍にたむける花くらいは欲しいな。この戦いの意味でもいい。たとえ愚かでも、未来へつなげるなにかがあればいいなぁ。だから、怖くても君から逃げるわけにはいかない。君が一番教えてくれそうだから」
ダムは銃を下した。
「愚かと言うなら今のお前がそうだぞ。だが‥‥」
「じゃぁ、また戦いの空で会おうね」
「そうはいかん」
ダムは加速するとソーニャのみぞおちに一撃叩き込んだ。
「あ‥‥」
ソーニャの意識が闇に落ちて行く。
「お前を殺すのは簡単だが‥‥」
――ソーニャは熊本基地のベッドの上で目を覚ます。ダム・ダルから通信があり、意識を失ったソーニャは熊本北部で発見されたのだった。