●リプレイ本文
中国、とある戦場で――。
激しい戦場の中に彼はいた。中国の激戦区を転々とする彼は、傷つき、今、崖っぷちであった。
「あやこ‥‥すまない。俺はもうお前にもう会えないかも知れないな。本当に、すまない‥‥ここで逝く俺を許してくれ」
男は、恋人の名を口にすると、燃え上がる戦場の中へ突進して行った――。
――山東省。ワームの大部隊が接近しつつあった。スクランブルが掛かり、今、省の北部で、KVの大部隊がワームを迎撃しようとしていた。
藤田あやこ(
ga0204)は、アンジェリカのコクピットの中で、消息を絶った恋人のことを思い出していた。風の便りに、彼は今中国戦線にいると聞いた。
消息不明の恋人が中国で戦っている、力に成れればと安否を祈りつつ‥‥故郷大分のみならず、彼氏まで脅かすアジア統括バグア、ジャッキー・ウォンに恨み骨髄! いよいよあやこの憎しみは、故郷や家族、恋人を脅かすアジアの元凶ウォンに向けられていた。
「未確認機体か‥‥今度はどんな怪物を用意して来たのかね」
須佐 武流(
ga1461)はそう言って、電子戦機から送られてくる情報に目を落としていた。バグア軍に含まれている未確認機体は一機。編隊の中央に位置しており、恐らくは指揮官クラスが搭乗しているのだろうと目されていた。
「さて、どんなものかな‥‥」
UNKNOWN(
ga4276)はそう言って、超機体K−111改「UNKNOWN」を操る。艶消し漆黒一色に塗装されたUNKNOWNは、ラストホープトップクラスのナイトフォーゲルである。バグアエース機をも凌駕するその機体は、長年の地道な改造の産物だ。
「未確認機体の主と対面したいものだが‥‥」
UNKNOWNは、高級煙草を吹かしながら、レーダーに目を向ける。
「やれやれ‥‥傭兵稼業も長くなったけど、寿命を縮めて来てもんだねえ」
ヒューイ・焔(
ga8434)はそう言って、赤毛を掻き回した。現在エミタが不調を起こしており、研究所に通いながら依頼を受けている。長く戦場を渡り歩いてきたヒューイの体は、ガタが来ていた。
「ま、やれるところまではやってみるつもりだけど‥‥俺の体よりも、戦争の方が長引きそうだなあ、やれやれ」
今は、100パーセントの力でなくて、戦闘に支障のない程度の力の配分が必要な時だった。力の配分と言うものを、最近になってヒューイは心がけていたのだった。勢いで戦っていた頃には、そんなことに頭を巡らせる機会はなかった。
「バグアの新型機か。聖天大斉とウーフーが居るなら大丈夫とは思うけど‥‥一応俺もデータ取れるだけ取っておくか」
ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)はそう言って、謎の機体の位置を確認する。
「エース機も相当に出払っているようだから、要注意だな。それにしたって、西安方面に降りて来た敵さんの大部隊も気がかりだけど、北京を巡って各地で動きがあるみたいだし。本当に北京を解放できるなら、それに越したことはないよな。あそこに暮らす人々は、ジャッキー・ウォンに飼殺しにされているという噂だからな‥‥。ウォンの目的は分からないけど、厄介な状況には違いないよ」
麻宮 光(
ga9696)は、ユーリ団長に応じる。
「全くですね。ウォンの考えることは不明です。いずれにしても、すでに何百万人の命を奪ってきたアジア統括バグアですから、北京の民を飼殺しにして、何かを実験材料にしているとか‥‥そんなところですかね。人類にとっては災厄で悪魔のようなバグア人ですが、それだけに何を考えているか分かりません。今回のDAEBだって、ウォンが最後まで静観しているかどうか分かりませんしね」
「ウォンが動くと言うことは‥‥それは大量の死者が出ることを意味するんだけど‥‥考えたくないな」
「‥‥ふむ、それにしても呆れた数だな。味方も多いとは言え」
カララク(
gb1394)は、レーダーに浮かぶ100を越えるマークを見て、吐息する。
「今は、奴らをどうにか食い止めないと、アジア軍の椿中将が北京解放を謳っているのだから、是非に協力は惜しまないところだがな。西安方面の動きはまだはっきりしないか。こちらは押さえておきたいところだ」
「大量の敵援軍の到着か。これは本気で対応しないと、勢力図が一気に塗り替えられるかも」
呟くアーク・ウイング(
gb4432)。
「アーちゃんたちで山東省を食い止めておかないと、各地の作戦にも影響してくるからね。青島はUPCの重要拠点だし、何としても守り抜かないとね」
「アーちゃんさんの言う通りですのね。立てつづけにこれだけ‥‥物量作戦に出られたらどれだけ持つんでしょうか‥‥いいえ、持たせなきゃダメ、ですの。そのための私たち、なんですから」
ストライクフェアリーのシルフィミル・RR(
gb9928)は、言って形の良い眉を寄せる。元チャイルドモデルのシルフィミル、まるでお人形さんのような可愛らしい容姿をしている。流れるような青い髪が清楚な印象を与える。
「大量の敵、しかもタロス中心か、厄介だな」
ジャック・ジェリア(
gc0672)はスピリットゴーストを操りながら、レーダーに目を落とす。
「一度差がついちまえば、後は加速度的に形勢が決まるだけ。態々逐次投入的に部隊を分けてきてくれたんだ、順番に食い潰して行くだけさ」
「全機エンゲージに備えよ、間もなく敵機との交戦区域に入る」
電子戦機からオペレートの声が流れ込んで来る。軽いジャミングがレーダーと回線に雑音と砂嵐を巻き起こす。
――と、その時である。回線に、突然男の声が流れ込んで来る。
「ごきげんよう人類諸君! 俺はゼオン・ジハイドの6、オリ・グレイだ! 全く本星もいかれちまってるが、それ以上にこの戦争はいかれてるぜ! 何しろ、バグアの侵略にここまで耐えた星はない! こんなに長く留まっていると、俺も望郷の念に駆られるぜ! 宇宙戦争って知ってるか? こんな地上とは比較にならん戦いだ! それに比べたら、重力に捕らわれているこの戦いは、俺に言わせれば全くクレイジーだぜ! 全く、だから本星もクレイジーだが、俺はさっさとお前たちとの戦いを終えて、ゆっくり催眠カプセルの中で観戦していたい気持ちだぜ! というわけで、さっさと終わらせてもらうぜUPC!」
オリ・グレイの言葉が途切れると、傭兵たちは呆気にとられた。
「何だ今のは‥‥ゼオン・ジハイド? 未確認機体か」
「オリ・グレイと言えば、先のアフリカ侵攻作戦でも確認されたジハイドの一人か」
「しかし‥‥いかれた奴だな。よくぺらぺらと意味不明の言葉を」
「全機へ通達――未確認機体はゼオン・ジハイドが搭乗する新型機の可能性あり、十分に警戒せよ」
「了解‥‥もっとも、そう簡単にはいかないわよゼオン・ジハイド」
「全機攻撃準備、距離400で敵先頭集団にミサイル発射」
そして――戦闘が始まる。
「FOX2」
「FOX2。ありったけのミサイルを受け取れ!」
「カプロイアミサイル発射!」
「よし、持ってけ! お釣りはいらんぜ」
ヒューイはロケットを放出。
「よし、行くぞ」
ユーリもミサイルポッドを叩き込む。
「アーちゃんからもミサイルをあげるよ」
PRMシステムを使ってカプロイアミサイルを撃ち込む。
「受けてみるか200mm四連キャノン砲――」
ジャックはキャノン砲を連打。
凄絶な火力を真正面から撃ち込まれたワームの編隊は次々と爆炎と轟音に包まれて爆発四散して行く。
「敵編隊――正面から扇状に展開して接近してきます」
「甘く見過ぎだな。戦力配置のミスも良いところだが」
ワームの編隊が集合してくる。
「行くわよカララク。ワームを焼き尽くしてやるわ」
あやこのバンクサインにカララクは応えると、ロッテを組んで前進する。
「新型機か‥‥食い止められれば良いが」
「シルフィだって‥‥いつまでも新人ではいられませんの。私も傭兵、ですから」
シルフィミルは赤いペンブラッドを加速させる。狙いは雑魚ワーム。
ジャックも雑魚対応だ。機体を傾けると、友軍とともにロッテを組んで前進する。
ユーリ、光、アークは敵エースの対応に回る。
「行くぞみんな。これだけの数だ。簡単に決着が着くとは思えないけど。エースを確実に落としていこう」
「了解ユーリ団長」
「アーちゃん了解です」
UNKNOWNに武流、ヒューイらはエース対応とともにオリ・グレイの対応に回る。
「やってきたのはゼオン・ジハイドのオリ・グレイか‥‥」
「ふざけた性格をしているな‥‥叩きつぶしたいところだが」
「そう簡単にはいかんだろうがな」
やがて、両軍は接近してミサイルとプロトン砲の応射が交わされ、今度は本格的なドッグファイトに移行して行く。
「ジャッキー・ウォンの部下ども! 焼き尽くしてやる!」
あやこは感情をむき出しにしてトリガーを引く。レーザーがヘルメットワームを貫通する。あやこは冷静に距離を保ちつつ、ライフルで追い打ちを掛ける。
「どうも藤田は凶暴な性格になっているな‥‥」
カララクは僚機の攻撃を確認しながら、ショルダーキャノンを撃ち込んだ。プロトン砲の応射はバレルロールでかわす。
「ウォンの部下ども! 彼の分まで私が落としてやるわ!」
あやこはライフルをばらまきながら、逃げるタロスにミサイルを撃ち込む。
「ロックオン。FOX2」
カララクも追撃のミサイルを叩き込む。
爆発炎上するタロスは、編隊行動を取りつつ、反撃してくる。ワーム編隊からプロトン砲が立て続けに飛んできて、ナイトフォーゲルを撃ち貫く。
「やる――!」
「敵さんもさすがに有人機だな、各自、適切にロッテを組んで迎撃せよ」
シルフィミルはヘルメットワームとドッグファイトを演じていた。プラズマリボルバーとライフルで応戦する。大規模戦の経験はまだ少ないシルフィミル。敵に囲まれるプレッシャーを気力で跳ね返す。
「シルフィにも‥‥出来ることがありますの」
ぐっと操縦桿を傾けスロットルを吹かせる。回避行動を取りつつ、照準先にヘルメットワームを複数捕える。
「ツヴァイの前に群がるなんて‥‥危機感が足りないですの。ブラックハーツ、起動ですわ」
そして、トリガーを引いた。
「フォトニック‥‥クラスター!」
閃光がペインブラッドの前方500メートルを貫き、ワームの集団を焼き尽くした。
ジャックはゴーストを操り、敵機の背後に付く。
「勝負ありだな」
ヘルメットワームをライフルで叩き落とす。
と、直後にプロトン砲の応射が左右から飛んでくる。
「ジャックランタン、支援する」
「助かるぜ」
ジャックは回避行動を取りつつ、プロトン砲を受け止めながら旋回する。頑丈なゴーストはワームの攻撃に耐える。
「さて‥‥乱戦の模様を呈してきたが、エース組は大丈夫かな、と」
ジャックは呟きながら、敵の銃撃を装甲で弾き飛ばすと、真正面からライフルを叩き込んだ。
「行ったぞアーク」
ユーリはエースタロスを追いこみながら、機関砲を連射する。ほとばしる銃撃がエース機を直撃する。
そこへアークがプラズマライフルを叩き込む。
「逃がしはしないよ。よし、そっちへ――」
追撃するアークから逃れるタロスへ、さらに光の阿修羅が牙を剥く。
「残念ですね。逃げられませんよ」
咆哮する阿修羅のライフル。タロスの装甲が吹き飛び、胴体を貫通する。
「オリ・グレイとやらの動向が気がかりだけど‥‥」
ユーリはライフルを叩き込んでエースタロスを沈めた。
「おっと、団長、オリ・グレイが動き出しましたよ」
「え、いよいよか、出来るだけデータを取りたい」
「アーちゃんは、エース対応に回ってUPC軍を支援します」
「分かった、それならアーちゃんはそちらへ。光は――」
「団長を支援しますよ」
「頼む」
アークは二人と別れる。
ユーリと光は、派手に動き始めたオリ・グレイの機体に向かう。
「あれが新型機か。デヴィルにゥイーヴス、次はてめえか!」
武流はUNKNOWNとヒューイとともに、前進してくる流線形のフォルムをした機体を確認した。
「あれは‥‥アフリカで目撃された新型機では。確かフォウン・バウとか言った」
「なぁあれ、本当にトカゲが動かしてるのか!? マジか!? マジなのか!?」
エース機複数を落とされ、オリ・グレイは驚いていた。
「もの凄い勢いだな人類のナイトフォーゲルとやら! 確かに、技術の進歩には目を見張るものがある! そして、能力者とやらも大したものだな、これほどの機体を操るとは‥‥正直想像していなかったぞ」
オリ・グレイは、回線を開いて言葉を投げかけた。
「ファーストコンタクトは大概驚きに満ちているんだよ!」
武流はブースト起動で突進する。
スナイパーライフル、レーザーライフルで相手の回避機動を誘導。誘導した先にブースト移動をしてすれ違いにソードウィングで相手を切りつける。旋回し戻ってきたところでエナジーウィングでもう一度切り付ける‥‥。
「相手に合わせるのではなく、そう見せかけて相手をコントロールするのが腕ってヤツだ!」
武流はシラヌイをフルスロットルでブースターで突貫したが、フォウン・バウの機動は予測を、いや、想像を越えていた。
フォウン・バウはバレルロールで回転しながら真下に落下すると、シラヌイをかわしてアクロバットに上昇反転し、プロトン砲を叩き込んだ。
「ふざけろ‥‥! この‥‥!」
シラヌイは一気に炎上して武流は慌てて距離を取る。
「ちっ、武流――!」
ヒューイはバルカンでフォウン・バウを牽制、ブーストと翼面超伝導流体摩擦装置を重ねて使用した状態で20mmバルカンで牽制しながら剣翼で突撃。
「喰らいやがれ!!」
「ファーストコンタクトは驚きに満ちている、そう言ったな」
オリ・グレイは個性的なアクロバットな操縦でハヤブサの突撃をかわすと、そのまま機体頭頂部をハヤブサの方向に固定したまま宙返りすると、あざ笑うかのようにプロトン砲を叩き込んだ。
「どわっ――!」
爆発炎上するハヤブサ。
そこへ、UNKNOWNが交信を試みる。
「オリ・グレイ、是非ともお前と話したい。着陸してはもらえないか」
「着陸しろ?」
オリ・グレイは耳を疑った。
黒いK−111を見据えると、返礼のプロトン砲を叩き込んだ。
が、UNKNOWNの機体はブースター状態でかわした。
「かわしたっ」
オリ・グレイは目を疑った。
「着陸しないか?」
UNKNOWNは凄まじい勢いで加速してフォウン・バウの側面を捕えると、エニセイを全弾放出した。UNKNOWNには確信があった。
――次の瞬間、直撃を受けたフォウン・バウが射線から消えて、直後に離れた場所に出現した。
「あー、びっくりしたぜ」
オリ・グレイはコクピットで吐息すると、戦況を確認する。
「エース機が複数撃墜か‥‥ウォンに何と言い訳するかな。一応UPCにも打撃は与えたし、潮時か」
そうして、オリ・グレイは全軍に撤退の命令を下したのだった。
「フォウン・バウか‥‥」
UNKNOWNは、退却したバグア軍を見つめて、煙草に火を付けた。