タイトル:【ODNK】福岡南の熱波マスター:安原太一

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 3 人
リプレイ完成日時:
2010/07/06 09:45

●オープニング本文


 八女郡の戦闘から春日基地に戻ったダム・ダル(gz0119)は、高橋麗奈の出迎えを受ける。
「司令、八女郡の戦果はいかほどでしたか」
「川上優子が死んだ」
「そうですか」
 死者の名を口にするダムも、それを聞いた高橋も、ほとんど言葉に感情はない。
 高橋も驚くことはなかった。川上が軍の中で自分を敵視していることは知っていたが、あの女が自分に遠く及ばないことも知っていた。
 だが川上の死は、春日基地に在籍するポスト高橋の座を狙う強化人間たちには衝撃をもたらす。それに比例して、最前線で生き抜いてきた高橋麗奈は周囲の強化人間たちに畏怖される存在となりつつあった。
 それからしばらくして会合が開かれ、春日基地の要人たちが一堂に会する。要人と言ってもダム・ダルを中心とする最前線の強化人間のエースパイロット・上級指揮官たちだ。
「諸君、ここ最近までのストーリーに、私としてはほぼ満足している」
 上座に付くダム・ダルの言葉に、強化人間たちは背筋を伸ばす。そのダムの背後に、控えるように高橋麗奈が鋭い視線を投げていた。
「熊本の陥落もそう遠い日ではないだろう。ここまでの展開を見て、現実味を帯びる話になってきた。我々は戦略においても戦術においてもUPC軍よりも優位にあり、負ける要素はない。唯一の懸案事項とすれば、最近では大規模作戦においてチュニジア奪還の功を上げたラストホープの傭兵たちだ。正規軍以上に、あの島の傭兵たちは特別だ。一人が十人の力を発揮する。侮ることは出来ない」
「司令! 何を弱気な! ラストホープの敵など、烏合の衆ではありませんか!」
 そう言ったのは青年だ。名を中川和樹と言った。北九州で被災した市民であったが、春日基地に引き取られて改造を受け、バグア軍のエースパイロットとなった。
「あのような敵、恐れるに足りません! ティターンをお貸し下さい! 俺一人で奴らを始末してやります!」
「勢いは嫌いではない」
 ダム・ダルは手を上げて和樹を制した。
 それから作戦会議は進み、大分と佐賀へ小部隊を送り、再度福岡南へ攻勢を掛けることが決まる。
「中川――」
 ダムは和樹に視線を止めると、言葉を投げた。
「みやま市へ攻勢を掛けると同時に、有明海から熊本へビッグフィッシュを飛ばす。お前にはそのビッグフィッシュを守り抜いてもらいたい。ティターンは出せないが、エース型タロスを与えよう」
「はい! いっそのこと、俺が熊本をひと思いに落としてやっても良いですよ」
 和樹の言葉に、同僚たちは冷ややかな視線を送る。だが和樹は自信に満ち溢れていた。自分は今でも高橋麗奈にも勝ると信じている一人であった。
「司令がみやま市を急襲する間に、俺は熊本を叩きます! 構いませんよね?」
「構わん。期待しているぞ」
 本心かは分からないが――ダムはそう言うと、立ち上がった。自身はファームライドに機乗し、高橋麗奈始め、部下たちと福岡南、みやま市へ出撃する。

 ――UPC軍が福岡南への三度目の敵軍侵攻を察知したのは、それから間もなくのことであった。スクランブルが掛かる。
「また敵さん出張ってきたか。いい加減諦めないかな」
「情報によると、ファームライドとティターンがみやま市へ展開しているそうだ」
「‥‥てことは、ダムとあの高橋麗奈のダブルボスか」
「前回同様、有明海にも敵軍の姿があるわ。ビッグフィッシュ――こちらは囮かしらね。熊本へ向かって飛んでいる」
「何にしても、俺は生きて帰るぞ。恰好良く死にたいなんて思わないんでね」
「本部から増員が掛かった。50機程度が援軍に来るそうだ」
「おおそうかい。だがいいのかな? その分他の守りが手薄になると、それはそれで危ない気もするが」
「今はダムの部隊を止めないことにはな。福岡南を落とされたら、戦局は一気に変わるぞ」
 そうして、傭兵たちはナイトフォーゲルを駆り、次々と飛び立っていった。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
ソード(ga6675
20歳・♂・JG
瑞姫・イェーガー(ga9347
23歳・♀・AA
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
奏歌 アルブレヒト(gb9003
17歳・♀・ER
希崎 十夜(gb9800
19歳・♂・PN
秋月 愁矢(gc1971
20歳・♂・GD

●リプレイ本文

●有明海方面
 榊 兵衛(ga0388)は、雷電「忠勝」のコクピットの中で、言葉を投げた。
「活発に動き始めたようだな、ダル・ダム(gz0119)達も。敵がビッグフィッシュを繰り出してきたと言う事は、熊本方面に有り難くないプレゼントを送り付ける気満々か。ダル・ダムや高橋も気になるが、とりあえずそちらを抑える事にしよう」
「いや、まあ何だ、今年に入ってからのダム・ダルの動きは活発どころじゃないぜ」
 傭兵の一人が応じる。
「築城方面の巨人キメラに、先日の八女郡への攻撃、そしてここ福岡南と、北九州からの圧力はとんでもない。何か、確実にじりじりと熊本方面へ押しやられている感じだ」
「劇的な勝利もないからな。ダムが死ぬとか‥‥でもないと、状況は全く動きそうにない」
 別の傭兵が言った。
「ダムが死ぬか‥‥何か遠い世界の話に聞こえますね。報告書を見る限りでは、ファームライドはまともに傷つくことすらないみたいですし」
 瑞姫・イェーガー(ga9347)が言った。
「有明海の敵は囮っていう話みたいだけど、なんか囮というより捨て駒みたいな気がするなー」
 とアーク・ウイング(gb4432)は警戒していた。
「捨て駒ってことはないと思うが‥‥」
「でも、あからさまに戦力差があるしね。エースタロスはいるにせよ‥‥」
 それから敵の自爆を警戒して、不用意な接近戦を行わないようにするべきと、味方にも同様の注意をしておく。ビッグフィッシュにキューブワームなどの支援兵器が搭載されている可能性を考慮して、出現したら即座に撃墜できるように警戒しておく。味方の数機にもお願いしておく。
 秋月 愁矢(gc1971)は胸の内に呟く。
 九州で戦うのもこれで三度目か。
 少しは成長できただろうか‥‥?
 今回は、状況が厳しい。
 実力的にかなりの無茶があるのは感じてるし、理解してる。
 だが、オレにもやれる事があるはずだ。
 それを全力でやるだけだ。
「多少の無茶は覚悟の上だ。絶対に有明海は抜かせない‥‥!」
 この戦いを通して得られる経験が今後、俺の力になって行くはずだ。フローラさんがオペレーターか‥‥今回も生き残れそうだ。
 秋月はフローラの表情を思い出した。出撃前にモニター越しに顔を合わせたフローラは、いつものように複雑な表情を浮かべていた。
 それから秋月は友軍に言葉を投げた。
「友軍各機、こちら秋月。頼むぜロングボウ。的はでかい。大魚を撃墜してくれよ!」
「任せとけ。ありったけのミサイルは積んできた。全弾ぶちかましてやるさ」
「が、大魚もでかいからな。中に何を格納しているのやら。実は増援のワームとかだったら洒落にならんぞ」
 そんなことを言いつつ、傭兵たちは敵に接近して行く。
「UPCか! 来たな! 俺はバグア軍のエースパイロット中川和樹! 蒼いタロスのパイロットだ! ダム司令の勅命を受けて熊本を討つ者だ!」
 突然流れ込んできた声に、傭兵たちは首を傾げる。
「有明海はもらった! ビッグフィッシュには数千のキメラが満載されている! 熊本は地獄と化すだろうな!」
「何だこの敵は‥‥」
「まあいい、その自信打ち砕いてくれる」
「行くぞ!」
 傭兵たちは加速した。
 巨大なビッグフィッシュはヘルメットワームに守られている。ビッグフィッシュが回避行動を取りつつ、ヘルメットワームが迎撃に出てくる。その最前列に蒼いタロス。
「相手は青いエースタロス一機のみでも相手に不足無し」
 無人機じゃなければ単機で挑むのは愚行だ
「ねぇ、キミはなんで戦ってるの」
 イェーガーは言った。‥‥こいつはもう一人のボクなんだ。恩に報いる為に戦ってる‥‥、けどそいつは敵だ。喰らってやる魂ごと。
「俺は春日のナンバー2になって見せる! 高橋麗奈を越えてやる! 俺が怖いか!」
「別に、聞いただけ」
 イェーガーはそっけなく言葉を返すと、操縦桿を傾けた。
「有り難いことにあのエースは前に出てくるようだな。行こうか――」
 榊はバンクサインを交換すると、イェーガーとロッテを組んで前進する。
「さして変則的な動きはなしか。真正面から来やがる」
「ミサイルを叩き込むぞ。ビッグフィッシュの分は残しておけ」
「行くぞ、FOX2」
「FOX2――!」
 アークもカプロイアミサイルを全弾放出した。
 回避行動を取りつつ、ワームはプロトン砲を放ちながら突進してくる。
 直撃――! ミサイルが炸裂して紅蓮の炎を巻き上げる。
「雑魚どもが! 俺に勝てると思うなよ!」
 中川は牙を剥いて蒼いタロスを加速させると、プロトン砲を連打してくる。
 直撃を受けた友軍機が炎上する。
「そこまでだバグアのエース」
 ドッグファイトに持ち込んだ榊はスラスターライフルを撃ち込んだ。しかし中川はかわした。
 さらに背後からイェーガーのオウガが切り掛かるも、慣性飛行で跳躍するようにかわす。
 だがアークも狙いを定めていた。螺旋弾頭ミサイルを叩き込んだ。直撃する――。
「ぬお!」
「意外にやるね。捨て駒かと思ったけど」
「ふざけるな!」
 そうする間に、三人は蒼いタロスを包囲する。
 一方秋月は、ペインブラッドとロングボウとともにすり抜けようと動いているビッグフィッシュに狙いを定めた。
「それ以上通すわけにはいかないんでね! 沈んでもらうぜ!」
「全機ロックオン。大魚を撃ち落とす」
「FOX2」
「FOX2、発射!」
 ロングボウから長距離レンジで大火力のミサイルを放出した。
 ビッグフィッシュから迎撃のバルカンが出るが、ミサイルは全弾命中して行く。次々と粉々に砕けって四散して行くビッグフィッシュ。中のキメラごと海の藻屑と消えて行く。
「よっしゃあ!」
 秋月はガッツポーズで消滅するビッグフィッシュを見やる。
「ビッグフィッシュを叩いたか。目的の半分は達成したな」
 榊はライフルを蒼いタロスに撃ち込みながら吐息する。
「残念だったなバグアのエース」
「畜生! これじゃダム司令に会わす顔が無いぜ! 貴様らの一機でも落として帰る!」
 中川は突進してきたが、最後には撃退されて逃げ出すことになる。

●みやま市方面
 ソーニャ(gb5824)のロビン、エルシアンは太陽の中にいた。
「いくわよっ」
 太陽を背に上方より奇襲攻撃。ブースト、Mブースター、アリス使用。フルスロットル、最高速度突入でAAEM、G放電、レーザーを撃ち込み、敵機とすれ違いざまブースト再起動180度旋回して照明銃発射する。
「いまよ」
 味方機に攻撃の隙を作る。
「非力だと油断した?」
 が、これはさすがに突出し過ぎた。敵の前衛に巻き込まれて大きな被弾を食う。慌てて逃げるソーニャ。
 一瞬きらめいた照明弾に傭兵たちはミサイルの発射態勢を整える。
「兵装1、3、4、5発射準備完了。PRM『アインス』Aモード起動。マルチロックオン開始」
 開始の合図はミサイル攻撃。ソード(ga6675)もコンソールを操作していく。
「ロックオン、全て完了! 『レギオンバスター』、――――発射ッ!!」
 フレイアから2100発のカプロイアミサイルが発射される。
 友軍各機からも、ミサイルが放たれる。
「FOX2」
「ミサイルパーティロ――フェザーミサイル発射!」
「フェザーミサイル発射」
 希崎 十夜(gb9800)は友軍のフェニックス乗りたちと、フェザーミサイルを一斉に発射した。
 回避行動を取りつつ、前進してくるワームの大部隊。
 直撃を受けて炎上するもの、かわして加速してくるワームからプロトン砲の応射がなされる。
 終夜・無月(ga3084)は超強化のミカガミを操り、敵陣に突入して行く。機関砲を叩き込みながら加速する。
「此度は高橋麗奈に落ちてもらいましょうか‥‥最低でも」
 照準先のタロスを捕えてトリガーを引く。猛烈な銃撃がタロスを撃ち抜いて行く。
「バグア兵、お前たちも大変だな、俺達に攻撃され、上官からは盾にされ‥‥ヨリシロになるのも大変だ」
 カルマ・シュタット(ga6302)は挑発気味にバグア軍に言葉を投げてみたが、返ってきたのは高笑い。
「この命、一度は捨てたも同然よ! 我々は一度死んだ! 強化人間になるとはそういうことだ! 甘いな人間! 我々の意思はダム司令とともにある!」
「そうか‥‥それなら遠慮はいらないな」
 ツングースカでヘルメットワームを撃ち貫く。恐らく強化人間たちは都合良く洗脳されているので何を言っても無駄なのだろう。
 ソードはいったん戦場の外へ出ると、サポートの西王母からミサイルを充填してもらう。
「ありがとう。もう一度レギオンバスターを撃てるなんて、補給機さまさまですね」
 ソードは戦場に戻ると、もう一撃、レギオンバスターを叩き込んだ。爆発四散するヘルメットワームの群れ。
「噂の高橋はまだ後ろか‥‥さすがに数が多い」
 十夜はミサイルを撃ち込みながら、プロトン砲をかわした。が、直後に真下から直撃を食う。
「ど‥‥わ!」
 エースヘルメットワームだ。並みのタロスを遥かに超えるプロトン砲である。フェニックスは炎上した。
「やってくれるな‥‥ヘルメットワームが」
 十夜はスロットルを吹かせると旋回する。
「ダムは‥‥いませんか‥‥このまま戦闘が続けばじり貧です‥‥どうにか指揮官機を撃墜しておかないと‥‥」
 奏歌 アルブレヒト(gb9003)は味方のロビンたちと連携して、ダムを追う。ファームライドの反応は遠い。
 大空中戦は混戦と化し、みやま市上空で閃光と銃撃が飛び交う。両軍の戦力は拮抗しており、容易に勝敗の天秤が傾くことはない。
 やがて、前線に出てくる高橋とダム・ダルを傭兵たちは捕える。
 無月とカルマ、ソードに十夜は高橋機との交戦に入る。ソーニャと奏歌は友軍とともにファームライドに立ち向かう。
「何でも会話を聞いていると、私、高橋を引きずり下ろすつもりらしいが」
 高橋麗奈の赤いティターンは、エースを引き連れて魔王のように立ちふさがった。
「そろそろ高橋には退場願いたいね。こちらとしては脚本の変更を要求したいところなのでね」
 カルマはカプロイアミサイルを放出したが、全弾回避される。
「バグア兵、高橋のために死ぬ気か? お前たちも奇特な奴らだな。同じ強化人間だろう。毎回盾にされるばかりで、うんざりだろう」
 カルマはもう一度敵の気を逸らすように言ってみる。
「我々は全体の勝利のためなら犠牲はいとわん。少なくとも交戦に入った限りは指揮官のために命を尽くす。‥‥と言えば聞こえはいいが。実際我々に選択肢などないのだ人間よ」
「そいつは気の毒だな。理不尽な命令にも従わないといけないのか」
「我々はバグアのために戦う。理不尽であるとかそうでないかは我々の判断することではない」
「そうか。ならば同情する余地はなさそうだな」
 カルマが時間稼ぎをしている間に、上に回り込んだ十夜と、下に回り込んだソードが突進する。
「行っけー! 『焔舞』『終演』!」
 十夜は空中変形スタビライザーでティターンに突撃した。
 ソードはミサイルを叩き込んだ。
「散れ!」
 高橋は十夜の攻撃をやり過ごし、ソードのミサイルを受け止めつつ後退した。
 ――さらに、ティターンの背後に回り込んでいた無月のミカガミがブースターで加速する。
 ミサイルを放出して、超威力の帯電加速粒子砲を撃ち込んだ。ビームがティターンを貫通する。
 ブーストを起動したまま、最高速で移動し続けるミカガミ。
「少しはやるか――」
 高橋はティターンを加速させると、アクロバットな動きで無月の背後に着き、ライフルを叩き込んだ。
 ミカガミの装甲を貫くティターンの銃撃。
 無月は揺れるコクピットの中でティターンを引き離しに掛かるが、その機動をもってしてもティターンを引き離すことは出来ない。
「他は止めろ! 私はこいつを落とす!」
 高橋はカルマとソード、十夜にエース機を差し向ける。
「そうはいくか」
「今日と言う日は決着を付けます。エース機だろうと邪魔はさせませんよ」
「ほざけ。高橋様だけが相手と思うなよ」
 敵エースも果敢に攻めかかってくる。
 カルマたちはドッグファイトに突入する。
「しつこい連中だな。その忠誠心は無駄になるぞ」
 カルマはエース機を撃ちながら舌打ちしていた。
「感心しませんよ」
 ソードはエニセイを連打して、エース機を撃ち貫く。フレイアの攻撃力は凄まじい。エースタロスと言えどもフォースフィールドを容易く貫通する。が、敵機も数でカバーする。フレイアに複数で掛かって足を止める。
「やってやれー! 何て怪物たち!」
 十夜はフェニックスを操りながらエースと渡り合うが、敵の実力も相当なレベルだ。痛烈な反撃を食う。
 無月はどうにかティターンを眼前に捕えて機関砲を放つが銃撃はそれる。ティターンの速度は凄まじい。ブースターを使っているのに捉え切れない。
「ここまでの機動性を持つとは‥‥」
 無月はちらりと燃料ゲージに目をやる。ブースターを使っているので見る間に練力が減っていく。
「勝てない相手ではないですが、予想以上ですね‥‥高橋」
 小戦闘ならともかく、集団戦でこの機体を捉えるには‥‥無月は、敵を封じめるだけでも上出来なのかと、自問したが答えは出ない。
 その頃‥‥ソーニャと奏歌はファームライドとの交戦に入っていた。
「ダム、何を仕掛けようとしているの。思惑に乗ってやってるんだから少しは尻尾を出しなさいよね」
 ソーニャはファームライドとドッグファイトを演じながら問う。
「言ったはずだぞ、答えはお前たちの中にある。メトロポリタンXが陥落してラストホープが出来てからのお前たちの戦いの中に、全ての答えはある」
「それじゃ答えになってないわよ!」
 ソーニャは高分子レーザーを叩き込んだが、あっという間に背後に付かれてプロトン砲を撃ち込まれる。
「きゃああああ‥‥」
 ソーニャのロビンは炎上して降下して行く。
 そうしてソーニャが命がけの時間稼ぎをする間に、奏歌は陣を張り巡らせていた。
 密かにロビンとアンジェリカ15機をFRの前上下左右に展開していた。
「行きます」
 後方の電子戦機数体から照明弾発射、それを合図に友軍と奏歌自らもブーストを起動し散開。
 FR攻撃機以外は派手に動き回り指揮官機以外に撹乱攻撃、隙あらば弱った敵を複数で狙う。
 その隙に展開しておいたロビンとアンジェリカでFRを前上下左右から一斉知覚射撃、自身は敵死角からAAEMを推進器狙いで連射、以上全て一撃離脱で行い奇襲。
 が、ファームライドは全弾かわした。
「‥‥かわされた‥‥」
 FRに対し2〜300mを保ち継戦する奏歌。機体性能の差を数でカバーする。友軍と連携してFRを追いこむが――。
 やがて、味方のUPC軍各機が限界に近づいてくる。
「これ以上は無理だ。一旦後退するぞ」
 それに合わせるように、バグア軍も兵を引く。
 みやま市はどうにか死守、有明海の通過も阻止したが、じわじわと熊本へ迫るバグアの影が、傭兵たちに圧力を掛けていた。