●リプレイ本文
苅田町旧松原町――。
ガルガの前進を阻むべく作られたバリケードの向こうで、傭兵たちはその巨人キメラが接近してくるのを待ち受けていた。
「爆破!」
次の瞬間、地上を埋め尽くす爆炎が巻き起こり、ガルガの群れを包み込んだ。
「閃光手榴弾!」
続いて閃光手榴弾が投擲される。
そして、ぴかっと、フラッシュが炸裂して、ガルガの狼狽した声が鳴り響くと、傭兵たちは突入した。
「ここへ来るのも随分と久しぶりですね‥‥手ごわいキメラがいるそうですが。実際どれほどのものか、戦ってみれば分かるでしょう」
鳴神 伊織(
ga0421)はそう言いつつ、刀と小銃を構えて前進する。
市街地の残骸を盾にしながら、ガルガへ接近して行く。
家屋を飛び越えてガルガが数体出現する。ガルガは散開すると腕に仕込んだガトリングガンを撃ち込んで来る。
鳴神はかわしながら小銃を叩き込んだ。八連射を叩き込めば、ガルガは粉々に砕け散った。
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)は友軍とともに前進すると、バリケードを使いながらガルガを迎撃する。
「スナイパー、そっちへガルガを追い込む。足止めしてくれ」
「ラジャー」
「行くぞ」
「援護する」
ヘヴィガンナーが立ち上がると、制圧射撃を開始する。
突入するホアキン達。一気怒涛の攻めで、ガルガを蹴散らしていく。
カンタレラ(
gb9927)は後方にあって、戦況の把握に努めるとともに、各方面へナビゲートを行っていた。今回は負傷中と言うこともあって無理は出来なかった。
「‥‥チームブラボー、これより松原の西方からガルガを挟み込む」
「了解ブラボー、味方は良い感じに進んでいますから、そのまま前進して下さい」
カンタレラは地図のポインタを動かしながら、応答する。
「さて‥‥負傷中と言うのはふがいないけれどね‥‥出来る限りのことはさせてもらうわ」
カンタレラの側にいるUPC軍の一般人兵士は、思案顔で言った。
「先年は北九州を奪還されてからの反撃だった。どうにか苅田とみやこ町を取り戻したが、今年はバグアの猛烈な反撃だな」
「そうですね‥‥春日基地司令のダム・ダル(gz0119)がいなくても、この築城方面は最近ガルガだけで動かしているようですが。あのキメラ‥‥ここにしか生息していないのですよね」
「らしいですな。有り難くない話ですがな」
「ガルガも一部がじわじわと性能が上がってきているようで、ボスガルガの戦闘能力は凄まじいレベルに上がってきていますね」
「そうです。あんなキメラは初めてです。ダム・ダルの趣味でしょうかねえ」
「こちらチームチャーリー! ボスガルガと遭遇した! 松原の中央地区だ! 至急援軍をよこしてくれ!」
「了解。負傷者は後退させて下さい、回復します――。チームデルタ聞こえますか」
「こちらデルタチーム」
「松原中央のチャーリーと合流して下さい。ボスガルガが出没した模様です」
しばらくして、カンタレラのもとへ負傷した傭兵が運び込まれてくる。ひどい有様だ。
「心肺機能低下」
衛星兵が緊迫した声で言うのを、カンタレラは抑えて、練成治療を施した。
「持ちこたえて‥‥」
「ボスガルガ‥‥あれがそうですか」
伊織は、初めて見るその異形の姿を確認する。巨人、グロテスクな人型キメラ。悪魔的な外見をしている。
「鳴神さん――来ましたか」
「ホアキンさん。あなたですら逃がしたそうですが‥‥」
「全く、尋常ではない生命力ですよ」
軍属傭兵たちと、ボスの封じ込めに向かう。
ボスの咆哮に周囲のノーマルが勢いづいて突撃してくる。
ホアキンと伊織は、ノーマルを叩き伏せながらボスに向かって加速した――。
二人の連続攻撃がボスガルガを捕える。
肉体を破壊されたボスは、群がる軍属傭兵を吹き飛ばすと、見る間に肉体が膨れ上がっていく。
「身体強化――こいつが厄介だ」
ホアキンと伊織が打ち掛かる――ラストホープのトップレベルに位置する二人の凄絶な一撃がフォースフィールドを貫通する。
それでもボスは万力を込めて伊織に打ち掛かった。
ズシン! と伊織の肉体が地面に沈む。
「これほどの一撃を‥‥想像以上ですね」
対する伊織はボスガルガの腕を切り飛ばした。
直後にずるり! と腕が生えてくる。
「怪物め‥‥!」
ホアキンがボスガルガの足を切断する。
ボスは片足でジャンプして後退すると、足を元通りに復元して後退する。
友軍が追撃して行く。ホアキンは落ちたボスの腕と足を拾い上げると、未来研に持ち帰ることにする。
旧若久町――。
赤、か‥‥気に喰わねぇ色だな‥‥
「奴」の声が一々頭ん中を掻き回しやがる‥‥
‥‥いや、今はアレに集中しなきゃ
倒すに至らないとしても、出来る事はあるはず!
CHAOS(
gb9428)は首を振って、目の前の戦場に目をやる。ノーマルガルガを切り倒していく孫六 兼元(
gb5331)らを見やり、いつでも支援できる位置に付く。
「ボスガルガにも必ず限界はあるのである。今まで勝てなかったのは美紅達が奴らを必死にさせていないからなのである」
美紅・ラング(
gb9880)は戦闘が始まる前に言っていた。
前回シスターズの姉である美空が収集したガルガのデータを一瞥して、美紅はガルガ戦では個体の肉体的な能力の解析では足りないと判断。ボスガルガをつぶしてこその勝利。そのためには無尽蔵ともいえるスキルの使用を空振りさせ、練力消耗を促進させることが必要と判断。増強の戦力として姉妹を呼び寄せる。
又、スキルの発動には現有テクノロジーではエミタを埋め込む必要があることからすると、ボスガルガのどこかにもエミタがあると推測、その位置を探って無力化することも検討する。
これには、孫六にも疑念があった。
「体にSESが内蔵されているのではないか?」
この辺りの想像は、漠然としていて想像の域を出ないが、ボスガルガの不死身ぶりをいまだに解決できない傭兵たちには憶測を呼ぶところであった。
「天魔覆滅! 異形の者よ! 常闇に帰れ!」
孫六は流れるような、雄大な海流を思わせる八双の構えから繰り出す一撃をガルガに撃ち込んでいく。縦横に流れる孫六の剣さばきが――。
剣と体の動きが一体と化したような独特の攻撃。鮮烈に、凄絶に、ガルガを切り裂いて行く。
「兼元兄ちゃんさすがだね‥‥」
CHAOSはインターフェイスに映るデータを確認しながら、友軍の気配を探る。
戦況はどうにか持ちこたえている。
「ボスが出てくればどうなるか‥‥」
ラングは、土嚢から身を乗り出して、ライフルを撃ち込む。赤い瞳が鋭く閃き、照準先のガルガを撃ち抜いて行く。
そして――遂にこちらにもボスガルガが出没する。
「醜い‥‥としか形容出来ねえなありゃ‥‥」
CHAOSは、顔をひそめて、異形の巨人に対する孫六の支援に向かう。
「ガッハッハ! その弱点! 見極めさせてもらうぞ!」
「兼元兄ちゃん! 支援は任せてくれ!」
「頼むぞCHAOS氏!」
「要警戒だラストホープ組。お前たちでもこの怪物を倒した例はまだないからな」
軍属ファイターが孫六の横から声を掛ける。
「うむ、これほどまでに交戦経験があるのに、いまだに打開策すらないのだからな! しかし、今日は倒す!」
ラングはシスターズに声を掛けると、スキル全開でボスガルガへの攻撃を開始する。
「ここからが勝負なのである。ボスを倒してこそ、戦局の打開につながるのである」
「周りの雑魚は封じ込める! あの怪物を止めてくれよ!」
軍属スナイパーがガトリングガンを撃ち込みながら、ラングに言葉を投げる。
「全力は尽くすのであります」
走り出ると、スキル全開でボスガルガの膝頭に貫通弾を撃ち込んだ。
貫通弾はボスガルガにめり込み、僅かに勢いを削いだが、ボスはそのまま突進してくると傭兵たちを吹き飛ばした。
木っ端のように孫六も吹き飛ばされたが、空中で剣をボスの腕に付き刺し、体によじ登った。
「どこかにSESかエミタが埋め込まれているのでは‥‥」
ボスガルガが死んでいるならともかく、戦闘中にそれを確認するのは至難の業である。
「兼元兄ちゃん危ない!」
CHAOSは叫び、練成強化を掛けた。
振り落とされそうになる孫六は、舞い上がると垂直に剣を振り下ろした。剣はめり込み、深々とボスガルガの肉体を抉ったが、反撃のパンチを食う。
「シスターズの根性を見せてやるのである」
貫通弾を連射するラング。ドウ! ドウ! ドウ! とボスガルガの肉体を貫くが、ダメージは見る間に回復して行く。
「ちいい! この怪物が!」
孫六と肩を並べるファイターが切り掛かったが、次の瞬間ボスガルガの腕が数倍に膨れ上がり、高速の一撃を繰り出した。――ザン! とファイターの首が飛ぶ。
「何!」
孫六は立ち上がり、怒りに身を任せてボスガルガに突撃した。
「みな! 全力で奴を止めるのだ! あの怪物は一軍に匹敵する!」
若久では苦しい戦いが続く。
中央戦闘地域――。
激戦の末に、赤いガルガが前進してくると、ノーマルガルガが潮が引くように道を開ける。
夜十字・信人(
ga8235)は顔を上げた。足元には、切り倒したノーマルの死体が転がっている。
「おでましか。赤ガルガ。いつか上位種が来るとは思っていたが、ちと速いな‥‥」
刀をガルガの死体から引きぬく。
「ロリ――」
芹架・セロリ(
ga8801)はいつものように信人の傍らに控えていた。
「赤いボスガルー‥‥か。色と言い見た目と言い。なんだかお前に似ているなよっちー。 友達になれんじゃね?
でもまあ‥‥友達になるには、お互いを知らないと、な」
「相互理解には程遠い相手だな」
「ノブ、セロリ――ボスガルガが要注意らしいが」
小隊仲間のフォルテ・レーン(
gb7364)が声を掛けると、信人は肩をすくめる。
「紛れもなく怪物だぞあれは。注意どころじゃないな」
「考えはある、打つ手はあるんだよ」
「新種とは‥‥まだボスガルガさえ倒せていないのに」
負傷中の緑(
gc0562)は言って、戦場の後方で友軍に指示を飛ばしていた。
「ダークファイターのみなさん、赤ガルガに注力して下さい。ファイターで余裕のある方も赤ガルガへ。サイエンティストはデータを取るためにも、赤ガルガへ虚実空間をお願いします」
「敵さん出てくるぞ」
赤ガルガは大きさは二メートルほどでボスガルガよりは小柄である。ざわざわ‥‥とガルガの群れがその背後に展開する。
「行くぞ。最後まで立っていれば俺たちの勝ちだ」
信人、セロリらは友軍と前進する。
フォルテはスナイパーとともに赤ガルガを包囲する位置に付く。
「赤ガルガは少数精鋭で行きましょう。ノーマルも無視するわけにはいきませんから」
緑は言って、友軍に伝達する。
じりじり‥‥と距離を詰めるキメラと傭兵たち。
と、赤ガルガが空に向かって咆哮すると、ノーマルたちも咆哮して、一斉に加速してきた。
「ノーマルとは言え後ろに通すわけには行きません。迎撃を――」
緑は言いつつ、赤ガルガとの戦闘に臨む信人たちの近くまで歩み寄った。
周囲で再び戦闘が始まったのに、そこだけは時間が止まったようだった。
赤ガルガと睨み合う傭兵たち。
「出てこないならこっちから行くぜ! ありったけのペイント弾を食らえ!」
フォルテたちは、ありったけのペイント弾を赤ガルガに撃ち込んだ――。
しかし、赤ガルガはスライドして全弾かわす。だらりと下げた長い腕を持ち上げて、内蔵のガトリングを連射する。
傭兵たちの前を掃射するように薙ぎ払う。
「散れ! 一斉に打ち掛かるぞ!」
信人とセロリはともに突進する。
フォルテは遠距離から攻撃しながら味方に指示を飛ばす。
「グラップラーとフェンサーは撹乱攻撃を頼む! スナイパー君たち、支援攻撃を!」
言いつつ、フォルテは超機械と銃を振るって赤ガルガを狙う。超機械の一撃が赤ガルガを包み込むが微動だにしない。
加速する信人、最初の一撃を撃ち込んだ――。
キイイイイイイン! と弾き返されるが、続く一撃を叩き込んだ。ズシン! と刀身が赤ガルガにめり込む。
「ボスガルガ並みか‥‥堅い奴だ」
瞬天速で赤ガルガの側面に回り込んだセロリ。
「切り捨てめんご、言う奴だな。ちぇすとー」
赤ガルガを刀で切り裂き、一撃離脱。赤ガルガの範囲攻撃を警戒する。
軍属傭兵も打ち掛かり、多数で赤ガルガを取り囲む。
赤ガルガは動き出すと、跳躍して舞い上がり、軍属グラップラーの顔面を踏み潰した。グラップラーの顔が砕けて、地面にめり込み首の上が飛んだ。
ズウウウウウウン‥‥と、衝撃が地面を揺るがす。
「一撃で――」
その様子を確認する緑。尋常ではない赤ガルガの一撃に衝撃を受ける。
「一撃で殺したか――」
信人とセロリはコンビネーションで反撃する。
連続攻撃を捌いて、パンチで二人を弾き飛ばした。
「畜生!」
フォルテは死んだ友軍の亡骸を見やりながら、スナイパーたちと銃撃を撃ち込む。
「すみませんが、銃持ってる方。援護願いますー」
セロリは言いつつ、加速する。銃撃での支援を受け、自分は側面に移動。
同時に信人が赤ガルガに突撃する。
「良いぞ、よっちー。そのままヤツをひきつけろ。俺はその隙にアレだ。アレするからっ!」
赤ガルガと激突する信人、その間隙をぬって、セロリはマヨールーを赤ガルガの頭部に連打した。
「咆哮を潰してやるぞ」
マヨールーの連打を食らった赤ガルガ――。
傷が見る間に回復して行く。そして――。赤ガルガは信人らを弾き飛ばすと、片腕を天に突き出した。直後、赤ガルガの肉体が赤い閃光を放ってフラッシュし、体から赤いオーラが噴き出した。しゅうしゅう‥‥と音を立てて、赤いオーラに包まれる赤ガルガ。
「気を付けろ、オーラなんてものをまとっている奴だ」
信人は手を出して味方を制する。
そして次の瞬間、赤ガルガの姿が消えた。いや、実際には信人の反射速度を越えて加速したのだ。
目の前に出現した赤ガルガは、信人を頭突きで吹き飛ばした。十数メートル後方に吹き飛ぶ信人。
「がっ――! 何だっ!」
加速した赤ガルガは神速の勢いでセロリにロケットキックを叩き込んだ。地面に沈むセロリ。
「は、速い――!」
「何だこいつは!」
フォルテたちは銃を叩き込んだが、赤ガルガは全弾かわしてフォルテらを薙ぎ倒す。スナイパー一人の首が飛ぶ。
「援護を! 至急援護願います! こちら中央!」
緑は危険を感じて仲間たちを呼ぶ。
「んな馬鹿な」
信人とセロリは立ち上がると、再度赤ガルガに挑む。
ぎゅん! と加速してくる赤ガルガを、今度は信人は受け止めた。
ドウ! ドウ! ドウ! ドウ! と激しく打ち合う。
セロリは一撃離脱で、フォルテらはどうにか銃撃を当てる。
傭兵たちはどうにか持ちこたえる。やがて練力ぎりぎりのところで松原方面のホアキンと伊織らが駆け付け、赤ガルガは全軍を率いて後退するのだった。