●リプレイ本文
有明海上空――。
「北九州での戦闘もいい加減長いな」
榊 兵衛(
ga0388)の声が回線に響く。
「ダル・ダム(gz0119)の攻勢を一時的にでも挫く為には腹心である高橋を墜としておくべきだろう。役者不足なのは分かっているが、可能な限り尽力する事としよう」
「役者不足ってことはないと思いますけどね」
ソード(
ga6675)は突っ込みを入れるが、榊はいたって真面目に言葉を返す。
「いや、先の戦闘であの赤いティターンの力は見た」
「高橋麗奈ですか‥‥あの女とも、思えば、ダムの影に隠れていますが、相当長く戦ってきましたね。一年以上になるでしょうか」
「長い付き合いになったものだな」
榊は肩をすくめる。思えば、みやこ町で高橋麗奈相手に戦った。
レティ・クリムゾン(
ga8679)も北九州へ数度参戦したことはある。が、ダム・ダル直衛下の高橋クラスと交戦するのは初めてである。
出撃前に軍へ作戦を提案していた。
1.傭兵による囮
ラストホープ組の機体には高性能の物が多いようなので、正面衝突の乱戦だと味方の被害も増えるため、少しでも敵の数を減らす。
2.正規軍部隊による各個撃破
敵には精鋭が多いようなので1:1の状況はなるべく作らせない方がいい。「傭兵による囮」で彼我の戦力比が傾いたら、その分を各個撃破に向けてもらう。
3.敵指揮官の包囲殲滅
「正規軍部隊による各個撃破」後、戦力差が出来たら、最後に敵指揮官、高橋麗奈の撃破に本腰を入れる。指揮官を逃がさない為にも包囲網は敷きたい‥‥
と言ったところである。ブリーフィングでこの提案は採択されて、軍の行動方針にも加えられる。
「一機ごとの性能は向こうが上なのは百も承知。ならやり方を変えるまでだ」
「それにしても、敵さんもなかなか凄い編成で来たな。だからと言って負けてやる道理はないが」
ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)は言って、僚機の秋月 愁矢(
gc1971)と言葉を交わす。
「愁矢、敵さんはそっちへ追いこんでやるからな」
「任せておけよユーリ、バグア機は確実に落とす! 戦闘になれば、新米だろうと敵には関係ない。俺もそれを知ったよ」
‥‥今回も目的はやはり自己の技術の研鑽だ。前回の依頼で少しだが経験を積めたように思う。ただ無事に依頼を遂行出来たのは作戦のお陰か、ただの運か‥‥それは判らない。フローラさんの様な綺麗なオペレーターの運なのかも知れないな‥‥幸運の女神って奴だな。出撃前の「幸運を祈ります秋月君」というフローラの言葉が脳裏によぎる。
「実力が足りないなら戦術・連携でカバーして実力以上にやるだけだ。やれるさ、やってみせる
高橋麗奈を叩く味方にエース級のタロスを近寄らせない。味方と連携しながらやれば‥‥やれるはずだ」
秋月はレーダーに目を落とした。凄まじい数の敵が近付いてくる。
――みやま市上空。
「ここで負けたら、形勢を一気に塗り替えられそうだね。だから、絶対に負けるわけにはいかないね」
呟くアーク・ウイング(
gb4432)。
「ガッハッハ! アーク氏、キミの杞憂ももっともな話ではあるな!」
応えたのは孫六 兼元(
gb5331)。
「ここ最近のダム・ダルの攻勢は尋常なものではない。福岡南を一気に落とそうかと言う勢いだ! だが、ワシらは負けてやるわけにはいかんがの!」
「アーちゃんはとても気がかりだよ。ダム・ダルの思惑がどこにあるかも見えないしね。噂によると、人類地域のどこかで大きなデモが起こりそうだと言うし、偶然とは思えないのだけどね」
「噂レベルの話ならば、バグアのスパイがどこに潜んでいても不思議はないからな! それにUPC軍とて無能ではあるまい! 今のところ、ワシらに打つ手はないがな」
「アーちゃんたちは、差し当たり熊本への侵入を防がないとね。熊本へ入られたら北九州の本部が危険に晒されるからね。それだけは何としても食い止めないといけないね」
「ガッハッハ! そのためにも、ダムに一撃でも与えて、南下を阻止したいところだ!」
「問い続けろ、ね‥‥」
ソーニャ(
gb5824)は、ダム・ダルがかつて言い放った言葉を思い出す。バグアの秘密を知りたくば、問い続けろ、と。それが答えにつながると、ダムは言った。
「敵にかける言葉じゃないね」
ソーニャは思う。ボクらに対等に立てる存在だと示せってこと? 多くの同胞の命まで犠牲にしてそんなこと‥‥するかもね。為政者や指揮官ってのは‥‥。
迷いを断ち切るように、ソーニャは顔を上げる。
「いこうか、エルシアン、ボクらの存在を刻みに」
「それにしても‥‥、何かしら対策を打たないとどうしようもないなこれは」
敵の大部隊を前に、ブロンズ(
gb9972)は呟く。ここ最近北九州とは相性が悪いブロンズ。立て続けにダム・ダルに撃墜されている。
「今日こそは何とか借りを返したいところだがな‥‥あのバグア人に。だが恐らく名前も顔も覚えてないだろうな向こうは‥‥」
言ってブロンズは吐息する。
「ブロン君、中々の策士らしいな、ダム・ダルと言うのは」
世史元 兄(
gc0520)が言うと、ブロンズはコクピットの中で背筋を伸ばした。ブロンズにとっては、余りいい体験ではない。
「まあ策士でもあるが。だが、本格的な攻勢に入る時には、確かに戦略を練ってくる。今回のような大攻勢が良い例だ」
「と言うと?」
「奴は常に負けないだけの兵力を揃えてくる。戦う前に、ある程度の勝算を立てて攻め込んで来る。あのバグア人は何の準備もなしに攻めてきたりはしない。奴は、戦う前にある程度勝っているんだ。春日の一司令官とは言え、それが小憎らしいと言うか何と言うか‥‥」
「ふーむ、戦略家か。単なるエースとは違うのだな」
「だからと言って、あのファームライドが脅威でないかと言うとそうでもない。確実に撃墜出来る機体を落として、自分は無傷で撤退する。‥‥話していると腹が立ってくるな」
ブロンズも聖人君子ではない。やられた記憶が蘇ってきて沸々と怒りが湧いてくる。
そこで、電子戦機から、バグア軍との交戦に入るとの報が入ってくる。傭兵たちは操縦桿を傾けた。
再び有明海上空――。
「兵装2、3、4、5発射準備完了。PRM『アインス』Aモード起動。マルチロックオン開始、ブースト作動」
開始の合図はミサイル攻撃。ソードもコンソールを操作していく。
「ロックオン、全て完了! 『レギオンバスター』、――――発射ッ!!」
フレイアから2000発のカプロイアミサイルが発射される。
友軍各機からも、ミサイルが放たれる。
「FOX2」
「FOX2 食らえうぞうぞどもが!」
接近するワーム群は、回避行動を取りつつ、しかし直撃を受けつつもプロトン砲で反撃してくる。
「抜かせはしない」
クリムゾンの真紅の瞳が閃く。
「FOX2」
カプロイアミサイルを全弾放出する。
「さて、行くぞ愁矢。落ちるなよ」
「やってやるぜ!」
突進したユーリは、機関砲を叩き込み、ソードウイングで切り掛かる。
加速するタロスがユーリの眼前から離れるが――。
照準先のワームを、愁矢のアイスブルーの瞳が捕える。
「そこだ!」
D2ライフルを撃ち込めば、タロスは一撃ごとに吹っ飛ぶような反動を受けて空中で反転した。
反撃のプロトン砲が来る――!
秋月の視界を閃光が襲った。がくがくと揺れるコクピットで、秋月は機体を立て直すと、すぐさま旋回した。
ユーリがサポートに入る。タロスを側面から急襲する。
「エース対応、頼むよ」
ユーリはUPC軍にもエース機への対応を頼んでいた。軍にもそれなりの実力者がいるからだ。
最低でも2:1で当たる様に。可能なら3:1で。
ノーマルタロスや強化HWに対しても、必ず2機以上で当たる様に依頼していた。
ウーフーのみやや後方に下がって、全体の観測と敵機のナンバリング等を含め簡易管制を願い、イビルアイズのキャンセラーは、練力の都合もあるだろうから、状況を見て使用は適宜判断。
破暁の能力は使用時必ず周囲の機体がフォローに入れる様に注意して、決め撃ちの時にだけ使う様に。
細かな連携についてはそれぞれに任せる。そこまで指示も出来ない。
「愁矢、ここからだ。立て直せるか」
「まだ行けるさ!」
「よし、行くぞ」
榊はでたらめな機動を描くHWにライフルを叩き込んだ。激しい銃撃がHWの装甲を吹き飛ばしていく。
と、そこで雷電の背後からプロトン砲が直撃する。揺れるコクピットで、榊はレーダーに目を落とす。
「赤いティターンか‥‥来たな。望外の幸運だ」
榊は機体を反転させると、高橋機と向き合う。
「高橋麗奈か。お前と会うのも何度目か。我が忠勝の前に、今日こそ消えてもらうぞ」
「お前は先日の‥‥雷電乗りか。面白い。私を落とせると思うのか」
「その傲慢がお前の敗因だ」
榊はミサイルを牽制に撃ち込んだ。
赤いティターンは全弾アクロバットにかわすと、ライフルを撃ち込んできた。
凄まじい衝撃が雷電を襲う。
「ちっ‥‥」
榊が加速すると、高橋機は慣性飛行で的を絞らせない。
そこへ、加速してきたソードがレギオンバスターを発射する。2000発のカプロイアミサイルが赤いティターンを襲う。
「何――!?」
高橋は驚愕しつつも、もの凄い機動でミサイルをかわしていく。数百発が命中する。
「ちっ、化け物KVか――グエン、リグス、アレン!」
高橋は三機のエースを呼び寄せると、ソードに叩きつけた。
「赤いティターンと交戦に入ったか‥‥もう出て来たのか」
クリムゾンはディアブロを突入させる。ライフルを撃ち込み、榊を支援する。
周りはまだ混戦だ。高橋の形勢判断は正確で、戦える間はこのティターンで可能な限りKVを落とすつもりであった。ただし、相手が悪かった。
ユーリと秋月は高橋機の周辺で露払いに専念し、ソード、榊、クリムゾンが高橋と相対する。しかし、その間、ソードはエースをぶつけられて足を止められる。
「ダム・ダルに似て姑息な手を使うな」
榊は言いつつ、ティターンにライフルを撃ち込んだ。
「あははは‥‥何とでも言うがいい。忠勝。落ちるのはお前だ!」
「そうはさせんぞ」
クリムゾンもミサイルとライフルを撃ち込むが、高橋は全弾回避する。
最後は練力勝負。負けたのは榊。ティターンと互角に打ち合うが、相当なダメージを食らって戦線から離脱する。
ようやくソードが高橋と相対するも、高橋はさらに多数でソードを封じ込め、最終的にはティターンはフレイアに大打撃を与える。
「‥‥ここが幕引きか」
高橋は傷ついた自機の中でそう呟くと、戦況を確認し、友軍が一割程度離脱している状況で、有明海の制空権を断念する。ワームを率いて撤退する。
みやま市上空――。
「ファームライドの出現を確認したわ!」
ソーニャは、レーダーに大きな反応が出たのを確認して、味方に警戒の声を投げかけた。
戦況は混沌としていて、両軍ともに激しいドッグファイトを繰り広げていた。
ファームライドは瞬く間に数機のKVを瞬殺する。
「奴を止めるぞ! 行くぞ!」
孫六はオウガで切り掛かって行く。
「ダム・ダルよ! お前が何を考えておるかに興味は無い! ワシの答えは唯一つ、この地球に生きるモノをレスキューするだけだ!!」
「貴様は‥‥孫六か」
ダムは記憶力が良いらしい。FRを滞空させると、孫六と正面から向き合う。コクピットの中で、オウガを見つめていた。
「行くぞダム!」
「面白い」
加速するオウガに、FRは前進する。孫六はFRをわざと後ろに付かせ、ブースト無しの全速水平飛行から機首を垂直付近まで一気に引き上げ急減速、FRに追い越させて、失速寸前にブースト使い、水平に復帰しFRの後ろを取る――! 同時にツインブーストB発動で、斬る!
「曲技飛行『プガチョフ・コブラ』の実戦応用だ! ツインブーストが、お前だけの十八番だと思うな!!」
しかし、ダムのFRは凄まじい速度でオウガの真上に回り込んだ。
「マニューバなど、実戦でも見飽きたぞ」
ダム・ダルはそう言って、オウガの上から体当たりをぶちかました。
「ぬううう!」
スパークが巻き起こる。
「孫六のおっさん、退避しろ! ミサイルをぶち込むぞ!」
ブロンズは友軍機とありったけのミサイルを叩き込む。ドゥオーモ、十六式螺旋弾頭ミサイル、ミサイル類を装備してる軍KVに同時攻撃を要請。
「同時だろうが時間差だろうが構わない、とりあえず数で対応だ」
FRはアクロバットにかわす。
「いけー、エルシアン!」
ソーニャも突進した。
「乱戦に持ち込ませないで、常に2、3機で波状攻撃。確実に消耗させるのよ!」
言うは易し。FRは高レベル強化KV複数でも翻弄する強敵だ。
ダムは波状攻撃を易々と跳ね返して潜り抜ける。
「アリス、ブースト、Mブースト起動!」
G放電からAAMEからレーザーを打ち込んだ。
「声紋認証、イチゴの傭兵か」
ダムはソーニャを認識して、アクロバットにかわすと、ライフルでエルシアンを打ち落とした。
「ダム‥‥!」
ブロンズは罵り声を上げてスラスターライフルでドッグファイトを挑むが――。
「いつまでもやられっぱなしじゃいられないんだよ!」
しかし正面から受け止めるFRは、シラヌイをあっと言う間に撃墜する。
「アイツがダム・ダル?」
仲間たちが落ちて行くのに、世史元は残りのミサイルを全弾放つ。それをかわして、プロトン砲の直撃が来る。
「っツ! おいおい!! 嘘だろう? 策士のクセにこんなに強いとは、予想以上だった」
世史元は慌てて後退する。
「最低でも撤退に追い込まないと、みんなが倒されてしまうよ」
「アーク氏! 何とか奴を止めたい!」
「孫六さん。危険だね。でも止めないと」
アークと孫六は友軍各機と全力で当たる。アークは残りのミサイルを放出して、FRとドッグファイトを演じる。
「ダム・ダル、これ以上はやらせないよ」
だが、慎重に運用していたアークのシュテルンも激しく被弾してFRに撃墜される。
「アーク氏! ちい!」
FRはその後も暴風のように戦場を駆け抜けて、UPC軍に大きな被害を出す。しかしみやま市の制圧には至らず、最後には兵を退いた。
‥‥戦闘終結後。
「結局これかよ‥‥何も変わっちゃいない‥‥」
力不足を嘆くブロンズ。
「占領地の学校、ベートベン5番、ダムはよく人を見ている。ハーモニウムにとって人はおもちゃ。強化人間改造、人間爆弾‥‥どうみてるのかな?
みんな全然違うと言う事はみんな同じってことかな。バグアも人もおんなじ、みんな全然ちがう」
斜陽の地平線に目をやるソーニャに若いエースパイロットが声を掛ける。
「ソーニャ、バグアと人が同じわけないだろう。あいつらは、人外の怪物だぜ。ダムと何かあったのか」
ソーニャは微笑むと肩をすくめる。
「ううん‥‥ところで、みやま市の特産品ってなんなんだろ?」
すると、若者は果物を投げてよこして踵を返した。
「え、すもも? ありがとう、うれしい」
かぷっ