タイトル:【AA】ギリシアの楔マスター:安原太一

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 5 人
リプレイ完成日時:
2010/05/05 23:23

●オープニング本文


「アフリカ、‥‥か」
 ピエトロ・バリウス中将は地図を見ながら独言した。かの地を攻めると言うのは容易い。しかし、その為には幾つかの準備が必要だった。部隊は整いつつある。あと必要な物といえば。
「情報か」
 UPCが叩き出されてから、10年。長きにわたり、バグアに支配されてきたアフリカの情報は余りにも少ない。ゲリラがいるとも言われるが、連絡は取ることが困難だった。
「私の知るかつてのアフリカとは、もう違う土地やもしれん。立案に際して不安が無い、とは言わないがな」
 狙いが奇襲である以上、軽々しい調査でこちらの狙いを知られる事も、慎まねばならない。ピエトロは作戦直前になって初めて、現地の強行偵察を指示した。その結果如何で、北アフリカの一部を占拠するのみに止めるか、内陸まで踏み込むかを彼は決めるつもりだった。
 ――アークエンジェル「AA」、アフリカへ向かって、大規模作戦が始まろうとしていた。

 ――ところ変わって北九州、春日基地。
 司令官のダム・ダル(gz0119)は、珍しい人物とモニター越しに向き合っていた。異形の巨人、彼はヨリシロであった。その名をザ・デヴィルと言った。
「デヴィル‥‥懐かしい顔を見たな。ゼオン・ジハイドのお前も遂に地球入りか」
 ザ・デヴィルは、凶暴な牙を剥くとモニターの向こうで巨躯を揺らした。
「今ではダム・ダル、と言うヨリシロに乗り換えたらしいな。地球人はどうだ」
「実に興味深い。知っていよう、これほどまでに我々の攻撃に耐えた種族はいない」
「然り、差し当たり俺はこのアフリカへ派遣されたわけだが、人類の動きはある程度は予習してきた。アフリカへ侵攻を企てていると言うことは知っている。が、どの程度本気なのか、その辺りがどうにも掴めん」
「アフリカ方面の指揮官か、人類が本気なら、それなりのアクションがあるだろう」
「それだ。ダム・ダル、お前のファームライドは隠密行動にも優れると聞く。一つ、奴らの動きを探ってみてはくれんか」
 ザ・デヴィルの意外な要請に、ダム・ダルは思案顔で顎をつまんだ。
「ヨーロッパか‥‥」
 ダム・ダルは、ザ・デヴィルの要請を保留にすると、ひとまず通信を切った。

 それから、ダム・ダルはアジア統括のジャッキー・ウォンと連絡を取る。
「アフリカの?」
 ウォンは真面目な顔でモニター越しに見返してきた。
「はい。アフリカの知人から、人類の動きを探ってみてはくれないかと」
「アフリカか‥‥そうなると古きゾディアックの仕事をするのは久しぶりだねえ」
「命令でもなければ、デヴィルの依頼ですから、春日の指揮官と言う立場上ウォン司令の裁可を頂きたく」
「行っておいで。ヨーロッパ方面には連絡しておく。気分転換にはなるだろう」
「気分転換ですか‥‥」
 ダム・ダルはウォンが冗談を言っているのか図りかねたが、こうして、このバグア人は数年ぶりに北九州を発った。

 ――ギリシア。アークエンジェル作戦が密かに発令され、ヨーロッパ方面のUPC軍は強化されていた。各地から軍団が集められ、それが本格的に動きだすのも時間の問題であろう。
 そんな中の出来事である――。ギリシア上空を飛行していたKV小隊がたった一機のファームライドに全滅させられると言う事態が勃発する。時が時だけにUPCに緊迫が走る。そして、事件を引き起こしたダム・ダルが搭乗するファームライドがギリシア上空に滞空する。
「UPC軍よ、俺は古きゾディアック牡牛座のダム・ダル。今から24時間以内にギリシア上空を制圧する。これはアフリカへ向かうお前たちへの挑戦状である。俺がいる限り、地中海を渡ることは出来ないと知れ」
 UPCの将校たちは、記憶を辿るのにしばし時を擁した。
「ダム・ダルって‥‥今は日本にいるはずの元ゾディアックメンバーか」
「正気か? たった一機で乗り込んでくるとは‥‥」
 そこへ別の士官がやってくる。
「いや。奴は本気だ。地中海を越えてワームの集団がバルカン半島へ向かっている」
「何ですと?」
「これは偶然ではあるまい。示威行動だろうが、無視は出来ん。アジア軍からダム・ダルの資料を送ってもらえ。あのファームライドをギリシアから叩きだすのだ」
 こうして、ギリシア上空にて、傭兵たちはダム・ダルと相見えることになるのであった。

●参加者一覧

ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
櫻小路・なでしこ(ga3607
18歳・♀・SN
カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
ソード(ga6675
20歳・♂・JG
ヨグ=ニグラス(gb1949
15歳・♂・HD
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER
孫六 兼元(gb5331
38歳・♂・AA
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
グロウランス(gb6145
34歳・♂・GP
綾河 零音(gb9784
17歳・♀・HD

●リプレイ本文

 出撃前――。
 ソーニャ(gb5824)は整備士たちのもとを訪れていた。それは、煙幕装置のスモーク弾頭をペイント弾頭に交換してもらえないかと言うことだった。ペイント弾頭を爆発させる事によりペイントの霧を作り、そこを通過する機体を着色。光学迷彩を破るための秘策だ。
 が、――整備士たちは頭を掻いて困った顔。
「お嬢ちゃん、そいつは誰かが試したことがあるって話だが、煙幕弾の改良は俺たちじゃ出来ねえな。それに弾頭を塗料に変えると普通は暴発するんだよ。悪いが諦めてくれ。良いアイデアだと思うんだがな」
「えー、そうなの。残念だな」
 と言うわけで、ソーニャの秘策は夢と消えた。

 ――ところ変わってギリシア上空。滞空するファームライドのコクピットの中で、ダム・ダル(gz0119)は目を開けた。レーダーに映るナイトフォーゲルの反応が接近してくる。
「来たか」
 ダムは迎撃の態勢に入った。

「ギリシア上空にファームライドを確認。行くわよトロイメライ‥‥奏でてあげましょう死の詩を」
 ケイ・リヒャルト(ga0598)が言うと、櫻小路・なでしこ(ga3607)が応じる。
「さて、皆様、招かれざるお客様には早々にお引き取りいただきましょう」
 珍しく日本から出て来たんだな、とカルマ・シュタット(ga6302)。
「さて、行きますか」
 ソード(ga6675)は青きシュテルンフレイアを駆る。
「んと、雑魚は任せて下さいね!」
 ヨグ=ニグラス(gb1949)はバンクサインを送る。
「長期出張か何か知らないけど、こんなところで邪魔される分けにはいかないからね。さっさとお帰りいただこうかな」
 呟くアーク・ウイング(gb4432)に、孫六 兼元(gb5331)は「ガッハッハ!」と笑う。
「サポート班のみな! 今回はありがとう! よろしく頼む!」
「ラジャー」×5
「むー、ペイント煙幕が不発とは残念なの。知恵と勇気のローテクだと思ったんだけど‥‥」
 ソーニャは気を取り直して操縦桿を傾ける。
「大規模のために欧州に来ていたら、またダムと遭遇するとは。FRの踏破能力には呆れるな」
 グロウランス(gb6145)は言って肩をすくめる。
「‥‥地中海は私のテリトリーだ。お前の思うようにはさせんぞ、牡牛座!」
 綾河 零音(gb9784)は言って形の良い眉根を寄せて怒りを露わにする。
「敵機、アフリカ方面から接近、総数15機です」
「ギリシア方面のダムは‥‥動き出しました! 一気に接近してきます」
「全機迎撃準備。FRを足止めしつつ、アフリカ方面の敵に当たる」
 傭兵たちは操縦桿を傾けると、FRに対して牽制するように動いて、アフリカ方面から来るワームに備える。
 射程に捕えたヘルメットワームの集団に、レギオンバスターを放出するソード。2000発のK02ミサイルを全弾発射するフレイアの必殺技である。
「兵装2、3、4、5発射準備完了。PRMをAモードで起動。マルチロックオン開始、ブースト作動」
 コンソールを操作していくソード。
「ロックオン、全て完了!」
 ヘルメットワームは回避行動を取るが。
「『レギオンバスター』、――――発射ッ!!」
 シュテルンから放出される2000発のK02ミサイル。初めて見る者には圧巻の光景である。ミサイル群がHWを追尾して、命中、爆炎を巻き上げる。
「こっちも行くわよ‥‥オーバーブーストA起動!」
 ケイも逃げるHWにK02ミサイルを放出した。命中し、また回避される。
「今回ばかりは出し惜しみできないっ! 全部持ってけドロボーッ!」
 綾河もまたG放電ミサイルを全弾を発射する。命中したミサイルから放電が炸裂する。
 なでしこはタロスを確認すると、突進してレーザーバルカンを撃ち込む。重体のなでしこ。動きは鈍い。全弾命中とはいかず、タロスはなでしこに挑発的な動きを取りつつ反撃してくる。
 HWの反撃を回避しつつ、ツングースカを叩き込むカルマ。連打を食らったHWが爆発四散する。強化人間の悲鳴が雑音に混じって響いた。
 ヨグはライフルをタロスに叩き込んでウイングで切り掛かる。装甲を切り裂かれたタロスから反撃のプロトン砲が飛んでくる。命中した怪光線が機体を揺るがす。
「FRが来るね、拙いね」
 アークはK02ミサイルを全弾放出した。500発のミサイルがワームに襲い掛かる。命中したミサイル群が紅蓮の炎を巻き起こして空を染め上げた。
 孫六は加速するとウイングで切り掛かった。プロトン砲の直撃を受けつつ、ヘルメットワームに突貫する。ウイングが貫通する。
 バレルロールで加速するソーニャのロビンがヘルメットワームに加速。肉薄してレーザーを叩き込んだ。
「貴様らにはしばらくダンスの相手をしてもらうぞ」
 グロウランスは時限信管付きのロケットを撃ち込み、ワームを牽制する。
「黒獅子より全機へ。散開し、『レギオンバスター』直後に合図を出します! それに合わせて一斉射撃を!」
 綾河の偽情報がジャミングの中で流れる。「黒獅子」から始まる言葉は偽情報である。
「んと、了解なのです!」
 ヨグがあえて散開するような動きを見せると、ワームがわずかに後退する。
 その隙を突いて、傭兵たちは反転攻勢に転じる。
 HWとタロスの集団は虚を突かれたように乱れるが、態勢を立て直してくる。
「ファームライドが接近してきます」
「来たか!」
 ソード、孫六、ソーニャたちがFRの方へ転進する。
 HWとタロスの撃退がまだであり、全機でぶつかると言うわけにはいかない。
「あの世でキーラーが寂しがっとるぞダム・ダル!」
 孫六は回線に声を叩きつければ、
「キーラーか、懐かしい名を聞いた気がするな」
 とダムは静かに応じる。
「貴様は強い! だが、仲間を信じぬ事が最大の弱点だ!」
「それは褒め言葉だな人類よ。では、行くぞ」
 ダムはFRを加速させた。一気に加速する赤い機体から、プロトン砲が飛んでくる。
 孫六は直撃を一撃受けて炎上した。
「ぬう! さすがに並みの機体ではないが――」
 加速するミカガミ「フツノミタマ」、旋回してFRの側面に回り込む。
 ソーニャも旋回してFRの側面に回り込む。
「さて、この青い女神としばらく踊ってもらえないですかね? 拒否は認めませんよ」
 ソードの高改造機体フレイア、対空砲エニセイが火を噴いた。並みのワームなら数発で粉微塵と化す壮絶な威力のエニセイだ。命中力も抜群。
 しかし、それをFRは慣性飛行でスライドするようにかわした。
「かわします、か」
 後退しながらプロトン砲を応射するダム・ダル。
 直撃を受けたフレイアから小さな炎が巻き起こった。

「早く片づけたいところね、こっちは‥‥邪魔よ!」
 ケイはバレルロールで突貫しながらミサイルを叩き込んだ。逃げるHWは、ミサイルを振り切った。
「SESエンハンサー起動!」
 なでしこはレーザーバルカンをタロスに撃ち込む。レーザーが貫通してタロスを焼き尽くす。
 が、反撃のプロトン砲は熾烈。重体のなでしこには厳しい。直撃を食らって機体が激しく爆発する。
「無理はするななでしこ」
 ケイが支援して、なでしこを下がらせる。
「すまない、今回は支援に徹するわ」
 なでしこは言って、後退した。
 カルマは黙然と目の前のワームを落としていく。アテナイをばら撒きつつ、ツングースカを叩き込んだ。爆発四散するHW。
「しぶといですねえ‥‥」
 ヨグはタロスとドッグファイトを演じながら、操縦桿を傾ける。
「えと、いつまでも構っていられないので!」
 背後から放電ミサイルを叩き込むヨグ。
 命中したミサイルが放電を巻き起こし、タロスの肉体を吹っ飛ばした。
「これで‥‥終わりだよ!」
 加速してライフルを叩き込んだ。銃弾がタロスを打ち砕く。ぼろぼろになったタロスから閃光がほとばしって、爆発四散する。
「中々、敵もしぶといね」
 アークはD2ライフルを連射する。激しい銃撃がHWを吹き飛ばした。
 ずたぼろになったHWから突如閃光がほとばしって爆発四散する。
 グロウランスは二機のHWに追われて、プロトン砲の連打を食らった。
「ちいっ――」
 ブーストを起動させると、180度旋回して一気にHWをやり過ごして、逃げを打つ。
 HWは慣性飛行で回転すると、反転して追ってくる。
 グロウランスはブースターを使用して、敵とすれ違いざまに180度旋回して背後に着く、ブースタッブを行い背後からキャノンを叩き込む。
「そう何度もこんな芸当は出来んが‥‥」
 綾河はHWと空中戦を演じながら、レーザーを撃ち込む。
「エーゲ海よ‥‥否、地中海よ! 私に力を!」
 レーザーを連射する綾河。HWを貫通して、レーザーが焼き尽くす。
 ――と、次の瞬間、アンジェリカに衝撃が走った。別方向からのプロトン砲だ。
 KV搭載AI「メガエラ」が直撃を告げる。
「‥‥機体側面に被弾。後方から敵機接近。警戒せよ」
 綾河はレーダーに目を落として、舌打ちする。
「やられたな、数では奴らの方が上か‥‥」
 ブースターを起動させて旋回、回避行動を取る。

 そして、ダム・ダルは乱戦の中へ突進してくる。
「FRが突入してきます! 全機警戒せよ!」
 サポートの声がジャミングの中で響いた。
 FRの機体が一瞬赤い光に包まれる。
「どこへ行くんですかダム・ダル。お前の相手は俺が務めますよ」
 ソードは加速してエニセイを叩き込むが、FRはアクロバットな動きでかわしながらカルマのシュテルンに向かう。
「――? 奴か」
 カルマはまさかダムから向かってくるとは思わず、それでも機体を正面に向けるとペイント弾を撃ち込んだ。が、全弾かわされる。
 逆にプロトン砲の直撃を受けてシュテルンが爆発炎上する。
「やってくれるな‥‥」
 カルマはブースターで旋回すると、FRに食らいついてアグニを叩き込んだ。
 FRはこれまたアクロバットに回避する。
「ここはあなたのいる場所じゃないのよ、坊や‥‥これで、どう!」
 オーバーブーストBを使ってK02ミサイルを撃ち込むケイ。250発のミサイルを、FRは流れるように回避する。
 直後に別方向からタロスの攻撃が着弾する。
「厄介な‥‥」
 他のワームも健在な今、FRだけに気を取られていると、反撃を食う。
 ケイはレーダーに目を落として、飛び交う敵味方のマークに目を落として吐息した。
「みんなFRには注意するのよ。ダム・ダルに惑わされずに、敵機を確実に減らしていきましょう」
 なでしこは言いつつ、タロスとHWに牽制の射撃を行う。
「私が全快ならね、もう少し楽に戦えるところだけど。この有様じゃ‥‥」
 SESエンハンサー起動で帯電粒子加速砲を叩き込む。貫通した粒子砲がHWを粉砕した。
「黒獅子から全機へ。FR対応班はそちらへ集中せよ。それ以外は僚機とロッテを組んで各個撃破に専念せよ」
 綾河がここで偽情報を流す。
「んと、了解なのです黒獅子。FR対応に回ります」
 ヨグは言って、操縦桿を傾ける。この乱戦の中でFRを捕えるのは困難だが、それらしく動きながら、目の前のHWにライフルを叩き込む。
「易々と落とせると思わないことだねダム・ダル」
 アークは言いつつ、FRに向かってミサイルを叩き込んだ。
 流れる軌跡を描いて、飛行するミサイルは、FRを追尾したがロストする。FRは例のごとくアクロバットに回避した。
 反撃のプロトン砲が飛んでくる。アークのシュテルンは直撃を受けて炎上する。
 グロウランスはダム・ダルと交信を図った。
「ダム・ダル、試みに問うが、貴様の在り様は、破壊の為か、支配の為か、それとも進化の為か? 何故人を超えたと言いながら、人の真似を繰り返すのだ」
 意外にもそれに対しては返答があった。
「人間よ、それは我々の秘密に通じる。答えてやることは出来ん。だが問い続けろ、問い続けるのだ。それが答えにつながるだろう」
「相変わらず人を食った答えだな‥‥」
 グロウランスは目の前のHWを追いながら、ぼやいた。
「孫六さん、ソーニャさん、本気かどうかともかく、奴をここから退散させないと」
 ソードは孫六とソーニャに言って、FRに突撃した。
「ダム・ダルめ! 全く奴は正面から戦おうとせん! 今回も時期が来たら逃げる気か!」
「あのバグア人が消える前に決着を付けたいところだけど」
 三人は加速してFRに迫る。
 と、FRの動きががくんと落ちて、減速する。
「いけるか‥‥!」
 ソードの超威力のエニセイが遂にFRを捕える。エニセイ八連射が炸裂。
 同時に、突貫したミカガミとロビンのウイングとレーザーがFRに叩きつけられる。
「ん‥‥何だ?」
 孫六は手応えのなさに眉をひそめる。
「何かおかしいよ」
 ソーニャも滞空するFRに警戒する。
「このまま一気に奴を押し切って‥‥!」
 ソードは勢いを得て次の攻撃準備に入る。
 その瞬間、FRが加速してプロトン砲の閃光がほとばしった。
「何です――!」
 ソードは回避できない凄絶なプロトン砲を叩きつけられて、驚く。束の間の停滞は擬態であったのか。
 FRのプロトン砲は強化されているフレイアの装甲を貫通して大爆発を起こした。
 孫六のミカガミ、ソーニャのロビン、ともにプロトン砲が貫通して大爆発に包まれる。
「何の! これこそ奴が最後の反撃に転じてきた証であろう!」
 孫六は機体を立て直して、後退する。それでも今のプロトン砲は凄まじい破壊力だった。機体の生命の大半を削られた。
「一瞬にしてここまで‥‥何て威力」
 ソーニャも後退して距離を保つ。
 唯一耐えたのはソードのフレイア。
「これほどの力がありましたかダム・ダル‥‥FRと言うのは、今でも俺たちを驚かせてくれますね」
 ソードは突進してエニセイを撃ち込んだ。
 FRを直撃するエニセイに、一瞬、赤く閃くフォースフィールドが張り巡らされた。
「バリアー? ですか」
 FRは加速して後退すると、再び混戦の中に紛れ込んだ。
 そして、例のごとく、無傷のままで光学迷彩で姿を消す。
「FRがロストしました。光学迷彩です」
「消えた? ダム・ダルの奴‥‥どうするつもり」
 ケイはタロスを撃墜して、レーダーに目を落とす。
 敵機は半数近くまで減少している。
「全機FRの反応に注力せよ。消えた奴を捕まえるのは至難だが。FRに警戒しつつ敵機を押し返す」
 綾河は言って、操縦桿を傾けた。プラズマリボルバーをHWに叩き込む。
 直後、ロックオンアラートが鳴り響き、背後からのプロトン砲が綾河のアンジェリカを行動不能に追い込んだ。
「奴め! まだいるぞ!」
 そして、ダム・ダルの声が鮮明に回線に響く。
「人類よ、今回はここまでだ。次はイタリアで会おう」
 そう言うと、FRは戦域を離脱する。目には見えないが。
 ワームも撤退し、ギリシアは事なきを得るが、バグアの動きにUPC軍も警戒を強める。間もなく、アフリカ侵攻作戦が始まろうとしていた。