●リプレイ本文
篠崎公司(
ga2413)は双眼鏡でガルガの方角を確認する。
「敵は12体ですか‥‥小型――と言っても十分に巨人ですが噂のガルガが10体。それから、あの一回り大きな怪物は‥‥」
あの大型のキメラは要注意だ‥‥。
「油断は出来ませんね。キメラが緻密な戦術を取ってくるとは思えませんが」
「何だろうと関係ないぜ。あのけだもの野郎‥‥ぶちのめす!」
キラ・ミルスキー(
ga7275)はアサルトライフルを構えると、先の戦いを思い出す。
「全く懲りない連中だぜ! ボスガルガだかなんだか知らねえが、俺様が厳しくしつけてやるぜ!」
どこかの不良娘のような口調でからからと笑うキラ。
「またガルガか‥‥。これが俗に言う運命の赤い糸ならば、連中の小指を残さず斬り取ってくれるわ」
夜十字・信人(
ga8235)はいつもの調子である。
「ボスだかなんだか知らんが、バグア本星の連中も、あんなの作るのに血税払ってるのかね。御苦労さんだな」
言って妹分の芹架・セロリ(
ga8801)の頭を小突く。
「ロリ、遅れるなよ」
「よし、よっちー。いつもどおり背中は任せろ。後は全部任せるからな」
セロリの言葉に信人は肩をすくめる。戦場でジョークをやり取りするのも、二人の信頼関係を表していた。
「それにしても、ん〜、ガルガってどんな意味なんでしょうね? 戦力の単位か何かでしょうか?」
セロリはうなった。
「あのでっかい奴が、ひょっとしたら完全体だったりしてな」
ヒューイ・焔(
ga8434)の口から完全体という言葉が飛び出すと、篠崎は眉をひそめた。
「完全体?」
「そうですよ。何でもダム・ダルが関わっていたって事例もあるし、完成したんじゃないかって」
「‥‥新型キメラですか。あり得る話ですね。あれが張り子の虎とは思えません」
「出てくるたびに強くなってるからなあ‥‥あのキメラ」
ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)の疑問に、篠崎が応じた。
「これまでの報告は見ました。色々なタイプがいたのは確かなようですね」
「うん。腕に仕込んだ銃器、並外れたパワーやスピード、再生能力とか‥‥何かと厄介なキメラだったからね。しかしあの馬鹿でかいのが、さらに改良されたやつなのかね。凄い姿になってるけど」
ユーリは双眼鏡でボスガルガの姿を観察した。
「よお! 怖い顔してるけど、緊張してんのか?」
キラは、バディを組む予定のロゼア・ヴァラナウト(
gb1055)の肩を叩いた。
「え‥‥えっと、私、みなさんほどに戦い慣れていませんから。敵には注意しないと」
「そんなの俺様だって同じだぜ。俺様なんてまだ数回しか依頼受けてねーからな」
キラはそう言って豪快に笑った。
「こ、怖くないんですか?」
「俺様だって怖いけどよお、ま、一人じゃねーしな。やるしかないじゃん」
「私も気持ちは負けないようにしないと。と言って、キメラ相手に甘い考えは通じませんが‥‥」
「まあ何とかふんじばろうぜ」
アリエーニ(
gb4654)はブロッサム(
gb4710)とともにバディを組む。
ドラグーンの愛機AUKVを撫でながらアリエーニはぐっと拳を握りしめる。
「噂に聞くガルガ‥‥簡単にはいかないと思いますけど、負けませんよっ。‥‥にしても、気持ち悪いなぁ」
頭を掻きながらぼやくアリエーニ。
一方ブロッサムは吐き捨てるように言い放った。
「炎槍使いに頼まれて来てみたが‥‥、まったく、クソったれた戦場だ」
ブロッサムは普段クールを装っているのだが、今回は素が出てしまった。ほとんど傭兵としては活動歴がないのだが、今日の戦場はブロッサムにとって腹立たしいことこの上ないらしい。
「後に面倒だから、逃がさん。全滅させる。私に後れを取るなよアリエーニ」
「何で怒ってるの?」
「タロスもそうだが、バグアもよくよくくだらないモノを量産するものだ。そうは思わないか」
「ま、まーねえ」
苛立たしげなブロッサムにアリエーニはぽりぽりと頭を掻いた。
「ずいぶんとグロテスクな‥‥これがたくさんか‥‥」
紳士的な風貌のハンサム湊影明(
gb9566)は、涼やかな表情でガルガを観察する。
‥‥さて、あの肉塊どもをいかに料理してくれようか‥‥キメラ相手ならば何の手加減もいらん‥‥。
湊は胸の内に呟きながら、戦闘前の高揚感の中にいた。見た目も口ぶりも紳士的ではあるが、湊は本質は冷酷非道で敵を倒すことに快感を覚え自身の負傷は気にしない狂人で、陰気な戦闘狂であった。
それから軍属傭兵たちとも手早く班分けを済ませていく。篠崎、ヒューイ、湊がノーマルガルガ殲滅後にボスガルガへ。キラとロゼア、ユーリ、アリエーニにブロッサムはノーマル専門。信人とセロリはボスガルガに当たる。
「では行きましょうか。それぞれに全力を尽くしましょう」
篠崎はそう言うと覚醒する。
「行くぞ」
「当たって砕けるにー」
傭兵たちは覚醒すると、ガルガに向かって走る。
風を切って、傭兵たちは加速した。
ボスガルガは、傭兵の接近を確認すると咆哮を上げてノーマルガルガに指示を飛ばした。ガルガの群れが前面に出てきて、ボスの盾になる。と、ガルガは長い腕を持ち上げると、一斉に腕に仕込まれたガトリングガンを発射し始める。
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガ――! と、地面を撃ちながら銃弾は傭兵に近づいていく。
傭兵たちは散開して駆け抜ける。銃撃をかわしながら、ガルガの懐に飛び込んでいく。
「これでもいかがですかな」
篠崎は走りながら弾頭矢を撃ち込んだ。矢は狙いを過たず、ガルガを直撃する。ドカーン! とガルガを吹き飛ばした。
ガルガは怒りの咆哮を上げて篠崎にガトリングを叩き込むが、篠崎は矢を装填しながら銃撃を右に左に回避する。
「中々に激しい攻撃ですね。これが噂のガルガの銃撃ですか」
篠崎は矢を放てば、うなりを上げて飛ぶ一撃がガルガを貫通する。
「行くぞロゼア!」
「焦らなくてもいいのよ‥‥順番に壊してあげる!」
キラとロゼアは走りながらガルガの銃撃から逃げる。
銃撃が追ってくるが、キラは飛び上がって前進すると、空中を舞いながらライフルを連射した。ドウ! ドウ! ドウ! と三連射を叩き込む。
「援護する!」
ロゼアは強弾撃を連射する。ライフルの四連射をガルガに撃ち込んだ。
ガルガの反撃は凄まじい。何十発もの弾丸が暴風のように傭兵たちを襲う。
キラとロゼアは常に走りながらどうにかこうにかライフルを叩き込んでいく。
背後でボスガルガが奇声を発すると、配下のガルガたちは二つのグループに分かれて、攻撃に切れ目なくガトリングを撃ち込んで来る。ローテーションで間断ない弾幕を張る。
「当たるものかよ!」
キラは交錯する銃撃の中、ライフルを撃ち込みながら仲間たちを見る。傭兵たちはガルガの銃撃を回避しながら確実に間を詰めていた。
「一体でも早く倒すことが出来れば‥‥」
ロゼアはライフルにて支援攻撃を行いながら戦場を掛ける。ライフルはガルガの肉体にヒットしているが、キメラはしぶとい。
「よっし! 行くよノーリ! 気持ち悪いのぶっ飛ばそう!」
AUKVを装着すると、アリエーニは装輪走行で追いすがる銃撃をかわしつつ、パイルバンカーを撃ち込む。ドウ! ドウ! ドウ! ドウ! とバンカーを叩き込めば、ガルガは咆哮して踏み出してきた。
ガトリングの連射にアリエーニは回避する。
「ノーリ! 今日もご機嫌だね! 良い調子だよ。このままキメラを追い散らすよ!」
アリエーニは愛機のAUKVをまとって調子良く攻撃を加えて行く。
「くすくす。ブロッサムさんも頼りにしてますよ?」
アリエーニはバディのブロッサムに軽く手を上げて見せると、加速してバンカーを連射する。
「背中は任せておけ。存分に暴れて来るといい、『白き雌鹿』」
ブロッサムはガトリングガンを構えて連射していた。アリエーニの背後に付きながら、AUKVの装輪走行で流れるように銃撃を行う。
ユーリは走りながら応戦。手近な相手にSNGを叩きつける。銃撃がガルガを打ちのめし、だがこの巨人キメラは小揺るぎもせずに反撃してくる。
「さすがにタフだな。簡単にはいかないか」
回避しつつ銃撃を行うユーリ。
「背に腹は変えられんか‥‥」
湊はAUKVをまとい、銃撃をかいくぐって、ガルガの一体に突撃する。
「行くぞ怪物‥‥破壊して肉塊に変えてくれよう」
湧きあがってくる衝動に身を任せ、湊は突進した。
銃撃を左右にかわしつつガルガの懐に飛び込む。二刀を銃火器のある腕に叩き込んだ。――キイイイイイン! と、刀がガルガの腕に弾かれる。
「硬い‥‥ならば‥‥それ以上の力を以て叩き伏せるまで!」
湊はさらに万力を込めて刀を叩き込んだ。――ザン! と刀身がガルガの腕にめり込む。ガルガは咆哮すると、湊に高速でパンチを繰り出した。
ドゴオオオオオオオ! と直撃を受けた湊が吹き飛ぶ。湊はAUKVの中で歓喜を覚えながら、この強大な敵に立ち向かっていく。
「叩きつぶしがいのある!」
加速した湊は竜の咆哮を撃ち込んだ。ドラグーンが持つ一撃でガルガが吹き飛ばされた。
「キラ、ロゼア、援護を頼むよ」
ユーリは二人に合図を送ると、軍属ファイターとグラップラーでガルガに突撃する。スナイパーとエクセレンターも支援攻撃を続行する。
ウリエルとクルメタルに武器を持ちかえ、ユーリも突進した。クルメタルをガルガの銃口に向けて連射しながら加速する。
「行っくぜえええええ! ラストホープ組に後れんなよ!」
「ラストホープ組に負けませんよ!」
軍属傭兵たちも意気盛んに駆け抜ける。
ガルガに接近、集中攻撃を浴びせる。
ユーリは練剣ウリエルで足を切りに行った。レーザーブレードが貫通するが、ガルガは銃撃をやめて拳を交差させてユーリの真上から振り下ろした。
ドッカアアアアアン! とユーリは直撃を受けて地面に叩きつけられた。
「いたたたた」
続いて踏み潰されそうになるところを軍属傭兵に救われる。
転がるように逃げたユーリは、「相変わらずやっぱり化け物だな」と立ち上がって反撃する。
サイクロンの二つ名を持つヒューイは、紛れもなく竜巻のごとく旋風のような勢いでガルガに突進する。その加速力はラストホープ屈指の実力。両手に剣を持って、もの凄い速さでガルガの懐に入った。
「ガルガ、あんまり進歩されても困るけど、俺には当たんないよ」
ヒューイは余裕の口ぶりで剣を叩き込んだ。ドズバアアアア! とガルガの腕が切り裂かれる。が、腕が落ちることは無い。
「少しはタフになったか」
信人とセロリはガルガの壁を突破。信人はハンドガンを撃ち込みながらガルガの壁を抜ける。セロリは超機械マジシャンズロッドを撃ち込みながら抜けた。
加速する信人とセロリ。ボスガルガ二体は、抜けてきた二人を見やると、咆哮を発し、配下のガルガを呼び寄せる。が、傭兵たちもその動きを封じる。その間に信人とセロリはボスガルガと相対する。
「雄たけびで指揮をしているとは思えんが、一応喉を潰しておく」
信人は貫通弾を込めたマヨールーに両断剣を乗せて、ボスガルガの喉に撃ち込んだ。――果たして、キイイイイイイン! と、フォースフィールドがかすかに輝き、ボスガルガは掌で正面から貫通弾を握り潰した。ボスガルガの腕は更に活性化して異常に盛り上がっていた。
「貫通弾を握りつぶすか‥‥何だそのパワーは」
信人はでたらめなボスガルガのパワーに呆れながら、背中の大剣を抜いた。
セロリは迫りくるもう一体のボスガルガと相対する。小さなセロリは、ちょこまかと動きまわってボスガルガの目を引く。
「そんなにデカイ体だと動きにくくないか? チビ助の俺の為にそんな態々屈まなくても良いのに‥‥隙が出来きちゃいますよ? ちょいさっ!」
掴みかかってくるボスガルガの手から逃げながら、機械剣と刀を叩き込んだ。
向き合う信人。大剣を撃ち込んだ。巨大なボスガルガは信人の一撃を受け止めると、拳を叩き込んできた。
ズウウウウウウウン! と信人はボスガルガの拳を受け止めた。力比べ。と、ボスガルガの腕がまたしても活性化して、信人をもの凄い力で押し始めた。
「お、お?」
ずぶずぶと、信人は地面にめり込んでいく。何と、ボスガルガは凄まじい力で信人を地面に埋め込んでしまった。
勝利の雄たけびを上げるボスガルガ。と、地面から伸びてきた信人の手が、ボスガルガの足を掴んだ。
「――?」
次の瞬間、地面が盛り上がって、信人が飛び出してきた。呆気にとられるボスガルガの脳天に、信人は大剣を撃ち込んだ。
ドゴオオオオオオオ! と、剣がフォースフィールドを貫通してボスガルガの頭にめり込む。
「キメラにこんな目に遭わされるとは‥‥」
信人は土を払って、着地する。
「よっちー大丈夫か!」
「大丈夫じゃないな。しかしこいつは‥‥とんでもない」
セロリはちくちくとボスを叩いていたが、ガルガは意に介する風もなく、悠然とセロリを見下ろす。
「ダスヴィダーニャ‥‥地獄でまた会いましょう」
アリエーニはバンカーを撃ち込んだ。ダスヴィダーニャとはロシア語で「さようなら」の意味。アリエーニは止めの一撃を――いや、ガルガはまだ生きている。無数の銃撃を受けてなお、ガルガは不死身のように立ちふさがる。
傭兵たちはノーマルガルガとも格闘戦に入っていて、ユーリやヒューイ、湊を中心に打撃を与えていた。
「‥‥下手な部分を狙って弾かれても面倒だ、破壊する」
ブロッサムもガルガの首や手足、関節の切断を鋏の要領で試みる。しかし、ガルガの生命力は半端ではない。
「まだ動くか。生命力はゴキブリ並みだな」
そこでボスガルガから咆哮が轟き、これら配下のガルガたちは今度こそ傭兵の攻撃を振り切って後退する。
ボスガルガを確認するブロッサム。
「悪趣味だな。こんなもの作った奴は余程の変態と見た」
ともあれ戦力は拮抗している。今回はトップクラスのヒューイでさえガルガを撃破していない。
その時である。不意に空中からダム・ダル(gz0119)が出現して戦場に降り立つ。
ダム・ダルが指揮棒のような装置を一振りすると、ガルガは整然と後退する。傭兵たちは突然の事態にダム・ダルと対峙する。
「傭兵たちよ、ガルガの改良が完成したことを告げておこう。これがガルガ完全体。バージョン4だ。今後、単独で戦闘地域に投入される機会もあるだろう。どうやら、十分に成果を出すことが出来るようではあるが‥‥今回はかなり手こずっているようだな」
ダム・ダルは余り見せない厳しい顔で傭兵たちを見やると、それ以上語ることは無く、ガルガを率いて西に撤退して行った。
「何だあのバグア人は‥‥相変わらず何を考えているのか」
傭兵たちは去りゆくガルガを見送り、複雑な表情を浮かべるのだった。