●リプレイ本文
‥‥レーダーに光点が浮かび上がってくる。エンゲージを前にいつもの情動が湧きあがってきて、ソーニャ(
gb5824)はロビンのコクピットで吐息した。
レーダーを操作しながら電子戦機と情報をリンクする。レーダーには六つのロッテがこちらに向かって進んで来る。
「こちらウーフー、敵ワーム編隊12機、六つのロッテを組んで前進してくるぞ。前に五つの壁を作って、少し離れて背後に二機のワームが確認されている」
「それってタロスじゃないんですか?」
カルマ・シュタット(
ga6302)は、言って電子戦機から送られてきた情報に目を落とす。
「S−01H、ハヤブサ、ミカガミ、シュテルン、ディアブロ、ロビン、アンジェリカ各機はそれぞれロッテを形成、ウーフー、イビルアイズはサポートをよろしくお願い」
ソーニャはそう言うと、操縦桿を傾けてカルマのウイングマンの位置に付いた。カルマはコクピットから首を巡らせると、親指を立ててグッドラックとサインを送った。ソーニャは笑顔を浮かべて頷くと、同じようにコクピットからサインを送る。
「全機、前方に展開するワーム編隊に攻撃開始」
「ラジャー。ここまで来て押し返されてたまるものかよ。全機撃ち落としてやるぜ」
「注意しくれよみんな。タロスは瀋陽で驚異的な強さを見せた。無理はするなよ」
カルマの呼び掛けに、通信回線に笑声が沸き起こる。
「バグアの新型か。どれだけの実力か、たっぷり拝見させてもらうぜ」
軍属傭兵のエースパイロットは、自信たっぷりに満面の笑みを浮かべていた。
「全機――エンゲージ」
軍属傭兵たちは恐れる風もなく突進していく。
カルマとソーニャは慎重に敵機を見据えながら、機体を傾けた。
最初に飛び込んできたのはヘルメットワームである。前進してくると、例によってプロトン砲を撃ち込んで来る。
傭兵たちはミサイルで反撃しつつすれ違った。
「ドッグファイトに移行する」
カルマとソーニャは二機のヘルメットワームを追って旋回する。加速するヘルメットワームは突進してくると、フォースフィールドを利用した体当たりを仕掛けてきた。
「同じ手は何度も食いませんよ」
カルマとソーニャは機体を傾けて散開してワームの体当たりを回避する。旋回してワームの背後を狙うが、HWは加速して逃げ切る。
軍属傭兵たちも空中戦に突入し、あちこちでプロトン砲やミサイルが飛び交う。
「マイクロブースト起動」
ソーニャはスロットル全開で突撃すると、ワームに食らいついてミサイルを叩き込んだ。その影からさらに追撃してレーザー砲を叩き込む。
カルマはHWを射程に捕えると、ツングースカを連打した。凄まじい銃撃がワームの装甲を貫通して炎上する。
逃げるHWに、カルマはスロットル全開で突入すると、敵機を粉砕した。爆発轟沈するワーム。
――と、そこで滞空する二機のタロスが視界に入ってくる。
「タロス接近! 気をつけて!」
ソーニャは逃げるワームを深追いせずに、タロスに備える。
「可能な限りタロスを足止めする。各機、可能な限りありったけのミサイルを叩き込め」
傭兵たちは旋回すると、タロス目がけてミサイルを撃ち込んだ。
タロスは急速に慣性飛行で向きを変えると、ミサイルを上下左右ジグザグ飛行で回避する。
「ソーニャさん、タロスを足止めする」
「援護します」
カルマとソーニャはタロスに向かう。
敵編隊を側面から削り、包囲を阻む。上を取って峡谷へと敵を押し込む。中央に釣り出された敵は包囲し集中攻撃。
機動力に優れた機が一撃離脱で戦線を霍乱。アンジェリカとロビンが電子戦機を直掩。ウーフーが上空を警戒し、索敵情報を集約。
イビルアイズが地上を警戒し、奇襲を発見次第、特殊能力を発動。
傭兵が奇襲をインターセプト。
損傷機は後方へ。
集団撃破後は他班を掩護。
これがホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)とM2(
ga8024)が属する最南端のE班の基本戦略である。
対するワームの基本戦術は例によって機動力で圧倒し、ナイトフォーゲルに練力の消耗を強いるというものであった。
ワーム編隊は接敵直後から散開して傭兵たちのロッテを乱さんと撹乱してくる。
だが傭兵たちも基本作戦通りになるだけ敵を各個撃破しつつワームの上空を取って峡谷へと敵を押しこんだ。対するワームは慣性飛行で対抗し、容易に釣りだされることは無かった。タロスを軸に逆襲に転じ、ナイトフォーゲルの押さえを突破して一部が上に抜けると、戦闘は乱戦状態に突入した。
「敵さんもなかなかやってくれる‥‥タロスのパイロットかな」
ホアキンは呟きながらアハトを叩き込んで目の前のHWを撃墜した。
M2は電子戦機と情報を交換しながら自らもウーフーで情報収集に努め、ホアキンのサポートに当たる。
軍の電子戦機とデータ共有、簡易情報網を形成して管制と戦闘を並列で行う。
‥‥最近ちょっと並列処理に慣れて来たから、前よりは余裕持って戦闘出来るかな。ジャミング濃度や各計器の測定値からFRの警戒も行っておくけれど、これはミンティアの逆探知の方が正確そうかな?
M2は端末の電子機器を操作しながら、眼前のHWをライフルで撃った。
「タロスが来るぞ」
ホアキンは言って、M2とバンクサインを交換する。
「来ますかタロス。支援します」
「頼む」
ホアキンはM2とともにタロス一機と相対する。
タロスは慣性飛行で加速してくると、プロトン砲を連発してくる。ホアキンとM2は回避しつつ、ホアキンは突進してエニセイを叩き込んだ。猛烈なエニセイの攻撃を受けてタロスの装甲と生体パーツが吹っ飛ぶ。
と、タロスの生体パーツが見る間に回復して行き、その動きが急激に加速する。
ホアキン機の攻撃を高機動で回避して宙返りしながらプロトン砲を撃ち込んでくる。ホアキンの雷電を捕えるプロトン砲。
「ほう‥‥俺のインティを捕えるとは」
ホアキンは驚いたが、冷静に機体の向きを変えると、エニセイを撃ち込んだ。直撃を受けたタロスは凄まじいダメージを受けて装甲が粉々になった。
エニセイをリロードするのと、タロスの動きが落ちるのはほとんど同じだった。
M2はタロスの側面から後方に回り込んで、凄まじい破壊力のホアキン機をサポートする。タロスにスラスターライフルを撃ち込んだ。
「軍属傭兵各機、善戦しています。ファームライドの気配は今のところありませんが」
M2はレーダーに目を落としながら、戦況を告げる。
「このタロス。意外にしぶとい。軍属傭兵には十分警戒するように伝えた方がよかろう。HWとは桁違いだ」
「そのようですね」
M2とホアキンはタロスを追い詰めていく。
アルヴァイム(
ga5051)とミンティア・タブレット(
ga6672)は中央北側のB班に位置していた。
前衛にF−108、S−01H、Mk−4D、ミカガミ、F−201A、GFA−01。後衛にXF−08D、CD−016、PM−J8、ES−008、R−01Eを置いた。直衛と前線は消耗次第で交代。
通常機はHW優先対応、他隊との合流前に部隊再編。
電子戦機は若干後方に位置、R−01Eは陸、ES−008は空の警戒を担当。精鋭機所在は最優先で伝播を依頼。奇襲はキャンセラーにて奇襲迎撃を支援する。
軍属傭兵にはそれらを依頼した。
「これだけ味方がいれば骸龍も飛ばし甲斐があるというものね」
ミンティアは骸龍のコクピットで端末を操作しながらレーダーに目を落とす。
「全機エンゲージ」
アルヴァイムはK−01ミサイルをHWの中央に放って一気に突破を図るが、敵ワームは散開して正面からぶつかってくる。
ミンティアは後方に下がり、アンチジャミングと共に骸龍の逆探知機能を使い、敵の索敵に力を入れる。端末を走る指先が、味方機に情報を送っていく。
FRはジャミング能力が高かったと思うので特にジャミングがキツイ部分にFRがいるであろうと予測するが、ジャミングにこれと言っても乱れはない。赤外線などでの発見報告を検索する。
ミンティア自身は攻撃には積極的に向わず、射程に入ったものだけ主兵装のライフルで攻撃していく。
混戦のため、アルヴァイムをサポートする余裕はなかった。アルヴァイムのディスタンは並みのワームに撃墜されるような機体ではないが。
ライフルの弾には一応ペイント弾入りの弾を用意し、FRの出現に備えた。
「FRには何度撃墜されたことか。恨み晴らすため少しでも相手に嫌な事をしてあげるわ」
そして、中央を抜けたアルヴァイムは旋回してHWを追うが、タロスが静かに接近していることを確認する。
「タロスか‥‥瀋陽では辛酸を舐めたが、貴様にはあの借りを返させてもらいましょう」
アルヴァイムはスロットルを吹かせると、タロスに突進する。ライフルを連射して突撃。ソニックブームが空を切り裂いた。
タロスは瞬時に超音速に加速すると、ジグザク飛行でプロトン砲を叩き込んで来る。
直撃を受けるディスタンが小さく揺れる。
「頼みますよ軍属傭兵のみなさん」
タロスの攻撃を強固な防備でしのぎながらライフルで追い込んでいく。
それをミンティアが友軍各機に情報を送る。
HWを撃墜した友軍が支援に駆けつけ、タロスを挟撃する。
レーザーとライフルの嵐を受けて、タロスは後退した。
中央南側のD班、砕牙九郎(
ga7366)とノーマ・ビブリオ(
gb4948)が属する班は苦戦を強いられていた。
ノーマのツインブースト・ミサイルアタックで幕を開けた戦闘は、タロスを軸にした反撃に合い、一進一退の攻防であった。
「野郎‥‥年末に厄介なものを連れてきやがって!」
砕牙は粒子砲を撃ち込みながら、悪態をついていた。高機動で動き回るワームを捕まえるのに苦労する。照準に捕えたHWが加速して逃げだせば、別方向からプロトン砲が飛んできて砕牙機を直撃した。激しく揺れる雷電。
「なろっ‥‥こいつがタロスか‥‥!」
悠然と浮かび上がる人型の生体ワームは、砕牙の雷電をじわじわといたぶるようにプロトン砲を叩き込んでいく。
「砕牙さん‥‥! 友軍各機へ、タロスへの支援をお願いします」
ノーマはフェイルノートを突進させると、エネルギー砲を連打した。
タロスは直撃を受けて揺らいだが、ノーマに向かってプロトン砲の反撃を叩きつける。
「く‥‥!」
激しく爆発するフェイルノートに、ノーマのあどけない顔にかすかに恐怖がよぎる。
「やらせるかよ! 超電導アクチュエータ!」
砕牙はアクチュエータを起動させると、狙いを定めてタロスにミサイルを叩き込んだ。三発の螺旋弾頭ミサイルは確実にタロスにヒットし、爆発と炎を舞い上げた。
炎の中から姿を現したタロスの生体パーツが見る間に回復していく。
ノーマは後退し、砕牙は突進した。
「ちっ! 援護はまだか‥‥」
そこへ友軍のディアブロとシュテルンが駆けつける。
「遅れてすまん。HWに手こずった」
「おう! 頼むぜ! ノーマ、大丈夫か!」
「はい、何とか。私は支援攻撃に回ります」
「仇はとってやるからな」
砕牙は軍属傭兵とともにタロスに攻めかかっていく。
強固なタロスの防備は傭兵たちの攻撃を受けても中々大きなダメージを通さなかった。
逆襲のプロトン砲はナイトフォーゲルを直撃して激しくスパークした。
「これが新型か‥‥HWとは桁違いだな」
軍属傭兵たちは驚いた様子で操縦桿を傾ける。
「集中攻撃、一気に行くぞ!」
砕牙は軍属に呼び掛けると、タロスを包囲してありったけのミサイルを叩きつけた。ノーマも支援攻撃を行う。
ミサイルが着弾して、幾つもの火球が炸裂、タロスを包み込む。
――それでも、タロスは不死身のように起き上がってくると、反転して逃げ出した。
中央部隊、熊谷真帆(
ga3826)と須磨井 礼二(
gb2034)たちは、真ん中の敵部隊に攻撃を掛けていた。
基本は確固撃破。戦略は友軍機がHWを潰すまでタロスを足止め兼遊撃。状況に応じ傭兵は助っ人する。
雷電、アンジェリカなど知覚、物理各特化機ごとに束ね互いに攻撃を補完する。
ウーフーに全体の管制とHWのナンバリングを依頼。攻撃が被らないようにする。
また各機の赤外線機能をウーフーで集約し点描絵を俯瞰するようにFRを「透かし見」て検出する策を取った。
あるいは友軍他班にFRの奇襲あれば警戒すること。
雷電、アンジェリカその他各特化機編隊が前衛。残りがウーフーの死守。
被弾した機は即座に後方へ下げ援護射撃又はウーフー直衛を願うこと。
これは意外に功を奏した。軍属傭兵は対タロスに戦力を割き、残りでHWの迎撃に専念した。軍属傭兵たちは確実にHWを撃退していき、熊谷と礼二もHWを確実に落としていった。タロスの反撃も凄まじいもので、軍属傭兵たちは出血を強いられたが、数の上ではすぐさま傭兵たちは有利を確保する。
熊谷はタロスを丸裸にするためにHWを確実に仕留めていく。
「耶麻渓を親の牧場をよくも。数々の狼藉許しません。牧場は復興出来ても別府八湯は再建できません。温泉グルメの真帆は死守を誓うです!」
怒りに燃える熊谷は、ほとばしる感情をライフルに叩きつけてワームを撃った。ワームは反撃のプロトン砲を連打してくるが、真帆はバレルロールで回避しながら突進し、ヘビーガトリングを叩き込んだ。猛烈な銃撃を受けて爆発炎上するHW。粉々に砕け散った。
「耶麻渓の仇です! 牛たちの仇です!」
真帆は感情がコントロールできずに、溢れてくる涙が頬を伝う。自分でも驚いた。ゴーグルを持ち上げて、涙を拭いた。
礼二は軍属傭兵のフェニックスとロッテを組んだ。
「よろしくお願いしますよ。お手柔らかに」
「と、感傷に浸っている暇はないな。行くぞ須磨井!」
二機のフェニックスがきらめく陽光を受けて反射する。アフターバーナーが火を噴き、スロットル全開でHWに突進した。
軍属傭兵がミサイルを撃ち込めば、礼二は接近してライフルを叩き込んだ。HWは反撃するも、撃墜される。
「――こちらタロス迎撃班! 何とか足止めしているが、早くしてくれ! こいつら馬鹿にならんぞ!」
「了解、すぐに援護に向かう」
熊谷と礼二たちはHWをあらかた掃討してタロスの迎撃に向かう。
「タロスへは残るナイトフォーゲルで集中攻撃を」
礼二は味方に通告すると、再編された友軍各機はバンクサインを送ってくる。
「行くぞ新型!」
須磨井は先陣切って突進し、軍のフェニックスとタイミングを合わせてオーバーブーストB+空中変形して急接近。タロスに同時攻撃。練剣「白雪」で連打を浴びせる。赤い力場に包まれたフェニックスの剣がタロスを切り裂く。
タロスは熊谷たちの猛追を受けて後退した。
そして――。
「‥‥友軍各機へ。FRの痕跡はなしね。HWの撃破を確認。タロス全機撤退。耶馬渓に敵影なし」
ミンティアの声が回線に響く。
「終わったか‥‥何とか食い止めたな」
傭兵たちは辛くも耶馬渓の戦域を守り抜いたのであった。