●リプレイ本文
苅田町西部――。
山岳地帯を陸路から進むKV集団、UPC軍とアーク・ウイング(
gb4432)、神楽菖蒲(
gb8448)の姿があった。
「いよいよ正念場といったところかな。何にせよ、まかされた仕事はきっちりと果たさないとね」
アークは呟きながらシュテルンを進める。
「これでも戦場経験は豊富なのよ。ルーキーの恐ろしさ、見せてあげるわ」
神楽は前方を注視しながら友軍に呼びかける。
敵ゴーレム部隊は30機と言う情報だ。その目的は不明だが、放置しておくことも出来まい。ここの味方は少数だが、全体としては傭兵たちは北の戦場と特に空港奪還に戦力を展開しおり、ここは少数でも持ち堪える必要があった。
と、その時である。前方の林に大きな影が複数出現する。ゴーレムである。
「敵さんおいでなすったな」
傭兵たちが言うのと同時に、ゴーレムがライフルを打ち込んでくる。
「コンタクト! アイリス、エンゲイジ!」
神楽は機体をバックさせながら煙幕銃を打ち込み、ライフルと機関砲で応戦する。
「(ピーガガ‥‥)アーちゃんはここで敵を食い止めるよ。全力で攻撃を開始するよ」
アークもシュテルンを操り、バックしながらライフルで応戦する。
「全機後退しつつ弾幕を張って敵を寄せ付けるな!」
部隊長達の怒鳴り声が回線に響くと、ゴーレムは次々と突進してくる。
「ルーキーの弾でも当たれば痛いのよ!」
神楽はひたすら弾丸を撃ちまくったが、ゴーレムの接近を許す。
ドガアアアア! とゴーレムの刀が神楽のアイリスを打ち据える。神楽は険しい顔で操縦桿を引くと、全速後退しながら機関砲を叩き込んだ。
次々と出現するゴーレムたちはUPC軍に迫り、プロトン砲やライフルなどで応戦してくる。
山林の銃撃激戦で双方ともに凄まじい被害を出して、ゴーレム部隊は後退していく。UPCも傭兵も尋常ではない善戦をしたと言うべきか。
「こちら西部山岳部隊、哨戒中の旋龍応答せよ」
神楽はコクピットを開けると、降り注ぐ陽光を吸い込んで無線に呼びかける。
「山岳部隊どうぞ」
「ゴーレム部隊と交戦。敵は撤退しました。こちらも相当な被害だけど」
「ご苦労様です。北と空港方面でも激戦が続いていますが、戦闘継続が不可能な場合は後退して下さい」
「そうさせてもらうわ」
神楽はそう言って吐息すると、空を見上げた。
苅田町北方、空戦域――。
双方合わせて150機近い機体が飛び交い、両軍ともに一歩も引かぬ構えである。
「ダム・ダルからUPC軍へ。まさかここまで攻め込んでくるとは、かつてのダム・ダルならばお前達の武勇に賞賛の念を送ったことだろうな。‥‥いずれにせよ、お前達のいかなる攻撃もここで砕け散ると知れ」
傭兵たちの間に束の間沈黙が落ちるが、ダムの通信は彼らの闘志に火をつけただけだ。
「ビアダルうるさいなあ‥‥黙って落ちれば良いのに」
三島玲奈(
ga3848)は操縦桿を握りながら、北の部隊全体を補佐する音影一葉(
ga9077)の言葉を待った。
「数では同等、戦力は劣勢と見るべきですか‥‥厳しい戦いになりそうですね。ダム・ダルの言葉もあながち余裕の表れかも知れませんね」
音影の言葉に続いて、管制官が告げる。
「管制官より空戦各機へ、ファームライドは恐らく敵後方だ‥‥」
「エース機をナンバリングする」
「敵はこちらと同様、中央を厚くし、両翼に展開。もの凄い数だ」
「全機戦闘隊形を崩さず敵に向かえ」
音影は全機に通達する。
「行きましょう。全機攻撃開始」
「攻撃開始――挨拶代わりのカプロイアミサイルだ! 食らえ!」
数千発のカプロイアミサイルが敵ワーム目がけて飛んでいく。
轟音と火球が炸裂して空中を赤く染め上げる。爆炎の中からHWが姿を見せると、プロトン砲の反撃が嵐のように飛んでくる。
「いい〜やっほ〜! どこもかしこも敵だらけだわさ! ‥‥重体じゃなかったらテンション上がるんだけどな〜」
まひる(
ga9244)は機体をローリングさせながら突進すると、二千発を越えるバルカンをばら撒きながら突撃する。
「‥‥こんな体だけど、やれるだけのことはしっかりやろう。ダム・ダルと直接戦えないのは残念だけど、他にもやれる事はある」
こっちも重体のカルマ・シュタット(
ga6302)は翼部隊の後方に位置取ると、D2ライフルで小物を狙いながら、管制官と協力してファームライドの位置解析に当たる。
レーダーにマーキングされたファームライドは、現在敵の最後方に位置して静止している。
UNKNOWN(
ga4276)と狭間久志(
ga9021)は音影の中央部隊の陰に潜み、ファームライド出現の機会を伺いながら、エース機を狙って攻撃を仕掛ける。
三島はプロトン砲をかいくぐって敵エースに接近、二門のライフルで敵の軌道を抑制する。
「もう逃げも隠れも出来ないぞ」
「逃げも隠れも? 逃げるのはそっちだ!」
パイロットの強化人間は手下のHWに合図を送ると、三島の雷電の背後から襲いかかってくる。
だがUPC友軍機もすぐさまカバーに入ると、敵を引き付ける。
「三島機、援護するぞ」
「援護に感謝する」
三島はエース機と一騎打ち。互いに空を旋回しながら攻撃を繰り返す。
「往生際の悪い奴め!」
「そっちこそなあ!」
エース機は慣性飛行であっという間に三島機の側面を捉える。が、三島はスロットル全開で引き離すと、超伝導アクチュエーターを起動、回りこんでエース機の背後を捉える。
「このっ超伝導アクチェータ発動」
そしてトリガーに手を置くと、照準先のエース機を見つめる。
「天下無敵の試作リニア砲食らえ」
リニア砲の三連射直撃を受けたエース機は大爆発。
「スナイパーを舐めるな」
よろめくエース機にリロード兵器を嵐のように叩きつければ――遂にエース機は最高速で離脱する。
まひるは嵐のごときプロトン砲の中をディアブロがローリングで駆け抜ける。バルカンを連射し、雑魚ワームを叩き落していく。
「くう‥‥重体じゃなければね〜、ほーら、まひるさんが、呼んでもないのに即参上! なんてね」
苦戦している友軍機を援護するまひる。
「あんたらはここの要‥‥落ちてもらうわけにはいかんのよ。無理せず下がりなって」
それからレーダーのマークに目を落としてスロットルを全開で突進。
「見つけたよ敵エース! まひるさんがお仕置きしてあげよう!」
ディアブロを加速させると、バルカンを叩き込みながら肉薄する。
「ぬお!」
パイロットの強化人間が乗るエース機は、まひるのバルカンを次々に食らって激しく爆発する。
上下左右に逃げるが、まひるのディアブロが食らいついて離れない。
「2250発のバルカン砲‥‥よけ切れるものならね」
エース機は最高速で加速すると、慣性飛行でディアブロの背後に回りこむが、まひるも操縦桿を傾けると、急旋回で回避する。
「そうは簡単にいかないよ」
ぐっとスロットルを吹かせると、バルカンを叩き込みながら突撃し、ソードウイングを叩き込む。
「ぐ‥‥あああああ‥‥!」
エース機は爆破四散した。
音影は中央部隊後方にあって、全体を見渡していた。戦況はほぼ互角。敵も味方も被害を出して離脱する機体が続出している。
「みなさん、何としても持ち堪え、空港方面を援護しましょう」
そこでカルマから通信が流れてくる。
「ファームライドが動き出しました」
「了解、第六部隊前進」
音影の号令で第六隊が前進する。
UNKNOWNと久志も密やかに友軍の影から飛び出す。
「あんのんさんとは何度も顔合わせてますけど、一緒に飛ぶのは初めてですね。怖いのと同じくらいワクワクしますよ」
「光栄だね」
久志の言葉に、UNKNOWNは煙草の灰を灰皿に落しながら答える。
程なくして前線にファームライドが姿を見せる。
「――ダムよ、肉球の恨み、晴らさせて貰おう」
「にくきゅう?」
「いや、実は単なる八つ当たりだ」
UNKNOWNはふーっと煙草を吹かした。
「『獅子の牙』‥‥凶暴なナニか、か」
刹那、UNKNOWNのK−111が加速する。ファームライドの下方からブーストアタック。
機関砲を受けて回避行動を取るファームライドに久志のハヤブサが接近、ミサイルを撃ち込む。
「全機、ミサイル発射‥‥あの友軍二機への被弾は気にせず撃って下さい。何故にエースか、見せてくださいます‥‥多分」
音影の合図で第六隊がG放電ミサイルを発射。音影はドゥオーモを撃った。
「このミサイルは味方‥‥追い風にして‥‥!!」
ミサイル群の中、久志は逃げるファームライドに肉薄する。
FRはミサイルを全弾振り切ったが、UNKNOWNと久志の機体が追いかける。
「ぬっ‥‥!」
ダムの死角から久志のソードウイングが切りつけた。が、ファームライドは小さな爆発が起こった程度で小揺るぎもしない。
がUNKNOWNが機関砲でファームライドを追い回せば、ダム・ダルは後退し、プロトン砲をばら撒いた。
その上から突進、レーザーを打ち込む久志。
「ここだ! あんのんさん!」
UNKNOWNは加速したが、先の教訓を得てかK−111の機体が近付く前に、ダムは光学迷彩で消えた。
そこへまひるが駆けつけるが、遅かったか。
「やっほー、ダムさん聞いてる? いやあ‥‥やっと同じ空の下だ。一度会ってみたかったんだ‥‥拙い踊りだけど、少しばっかり寄っていって頂戴よ。出来れば生身で手合わせ願いたかったもんだけど‥‥そうも、ね」
「酔狂な連中だ。尤も九州占領の目的は果たしているが‥‥」
ダム・ダルの声はそこで途切れた。
北九州空港方面――。
地上から進軍するのは第12部隊を率いる麻宮光(
ga9696)と他サポート。
「行くぞ、俺達が空からの道を作る! 各機無理のない様こっちに敵の目を向けるんだ」
連絡橋を渡り、空港への上陸に向かう。これは無論バグアの察知するところであったが、UPCと傭兵たちは空港奪還に何と半数以上の部隊を割いてきた。
西と北を足止めする間に、空港を制圧するつもりか。
空には榊兵衛(
ga0388)、ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)、鹿嶋悠(
gb1333)、鹿島綾(
gb4549)、紅アリカ(
ga8708)、伊達士(
gb8462)らが控え、対空班から陸上降下班、降下支援などに分かれて傭兵たちはバグア軍に攻撃を開始する。
「‥‥しかしおかしいな。莫大な戦力を有するのなら、何故にこんな戦を続ける? バグアの勝利は明白だろうに。誘導か? それとも――」
綾の疑問に、不意に強化人間の高橋麗奈の耳障りな笑声が回線に響く。
「不思議か傭兵たちよ。だがな、人間に人間の考えがあるように、バグアにもバグアの考えがあるのだ」
「要するに肝心なところはいい加減じゃないか」
綾は強化人間の言葉に唸った。
「全機攻撃を開始せよ」
管制官の号令とともに攻撃が始まる。
「ミサイル発射」
「初手での切り崩しに必要な物は、迅速な行動と最大火力――行くぞ、野郎共!」
榊や綾がミサイルを発射すれば、他、空戦担当のKVからもカプロイアミサイルが放たれる。三千発のカプロイアミサイルが空のHWに襲い掛かる。
空港上空で紅蓮の炎が炸裂し、戦闘空域の空を赤く彩った。
「行くぞ」
榊、ユーリ、綾は空戦部隊の先陣を気って突入。
「北では重体の仲間達が戦線を支えてくれているんだ‥‥一刻も早く決着をつけるぞ」
ユーリは仲間達の身を案じ、スロットルを吹かせる。
最大火力をぶつけたUPC軍の攻撃と平行して、降下部隊を率いて悠が空港南部エリアに着陸していく。伊達とアリカも変形しながら着陸する。
すでに光たちが先行してタートルワームやゴーレムと交戦に入っている。
降下部隊はタートルワームの砲撃を浴びながらも、次々と降り立っていく。
悠は眼前の敵軍に牙を剥く。
「野郎ども、花火の中に突っ込むぞ! しかっり付いて来い!!」
「北、西の皆さんがんばっとるんや。ここで負ける道理はないわなぁ、いつまでも初陣前とは違うんよ。舐められたらかなわんわ」
伊達はバルカンを構えると、敵陣に向かって進んでいく。
降下部隊も続々と降り立ち、銃撃を開始する。
「ぎょうさんおるねぇ。ぶぶ漬け出すよって、分かってもらわな」
伊達は慎重な足取りで機体を進めながら、友軍を支援するようにバルカンを打ち込んでいく。
「ミサイル発射!」
悠はミサイルポッドを打ち込めば、友軍機もミサイルを発射する。
「‥‥まさに目には目を、物量戦には物量戦、ね。まぁ、いつも通りにやるだけ‥‥行くわよ、黒騎士(ブラックナイト)」
アリカはレーザー砲を構えて掃射しながら前進する。
「‥‥ジェイさん、援護よろしく。無理はしないでね」
「煙幕銃を発射!」
光の指示で12部隊は味方の降下に合わせる様に後退すると、連絡橋を完全に封鎖する。
「みんな、空港を一気に制圧だ!」
「光、ご苦労だ、行くぞ! バグアどもは叩き潰す!」
悠は先頭に立って突進する。プロトン砲が飛んでくるが、構わずゴーレムを真っ二つに切り裂いた。
「いかん‥‥! 奴らの数が、多すぎる‥‥!」
ゴーレムの強化人間は怒涛の様な傭兵の攻撃に後退する。
「‥‥例えエースであろうとも、私の刃からは逃がさない。このまま三枚に下ろしてあげるわ」
アリカもタートルワームを両断すると、ゴーレムを粉砕する。
「‥‥一気に制圧やわ!」
伊達も慣性飛行で逃げ出すゴーレムや海に飛び込んで逃げるタートルワームに追い討ちをかけた。
「空港制圧はほぼ完了、掃討戦に移る」
「了解、ご苦労さん」
悠の言葉に応じた榊は、目の前のヘルメットワームを撃ち抜いて、眼下に目をやる。
「空港制圧は無事に進んでいるぞ、ここの制空権を確保する」
「高橋麗奈の機体を確認‥‥野郎ども、あの女を包囲殲滅するぞ!」
綾は友軍機に呼びかけると、編隊を組んで高橋機に襲い掛かる。
「ラジャー、一気に決めよう」
「高橋は‥‥とにかく数が多いからな。正規軍を信用しない訳ではないが、イレギュラーな敵に対抗するのは俺たち傭兵の方が向いているのでな」
榊も高橋機に向かうが高橋は逃げた。
ユーリは戦況を見やりつつ、各方面と連絡を取った。
「どうやらここは勝ったな‥‥哨戒中の旋龍へ。空港制圧部隊より」
「こちら旋龍、どうぞ」
「空港方面の制圧はほぼ完了、各地の戦況を知りたい」
「はい、西部方面のゴーレムは足止めに成功、友軍にもかなりの被害が出たようです。北の戦場は、ダム・ダルの出現を押さえ込み、敵を撤退させることに成功しました。味方も半数近くが戦線離脱、小破、中破多数の激戦でした」
「そうか‥‥やったか。ではこちらの状況を友軍にも、司令部にも伝えてくれ。空港の制圧に成功したと」
「司令部にも報告します。ご苦労様でした」
かくして大激戦の幕は下りる。UPC軍は北九州空港の制圧に成功。正規軍地上部隊はバグアの撤退を受けて北進を開始し、苅田町の制圧に乗り出すことになる。