●リプレイ本文
九州に接近した能力者たち。
「‥‥間もなく戦闘区域に入るぞ。デルタ編隊、準備はいいか」
榊兵衛(
ga0388)は全員に呼びかける。
「いつでもOKよ。傭兵には残業手当も夜勤手当も無い〜ってね♪ それならさっさと終わらせて午後のティータイムが理想かしら」
「はっ! 久々のKV戦燃えるね! 気合い入れていくぜ!」
狐月銀子(
gb2552)、九条・運(
ga4694)はひたと前方を見据える。
故郷を蹂躙された藤田あやこ(
ga0204)はコックピットで怒りに燃えていた。あやこの静かな瞳は無機的な光を放つレーダーに向けられていた。と、やがてレーダーに幾つもの光点が浮かんでくる。
「近い」
あやこが呟くのと、通信機から音声が入ってくるのはほとんど同時だった。
「‥‥こちら‥‥後ろに付かれた‥‥逃げ切れ‥‥!」
「‥‥待ってろ‥‥今すぐに‥‥しまった‥‥やられる!」
「‥‥この怪物ども‥‥速い‥‥! ‥‥援護を‥‥背後に付かれる!」
通信機から交戦中と思われるパイロット達の声が鳴り響く。時折爆音とザザーっという砂嵐のような音声が無慈悲に流れる。苦戦を強いられているようだ。
「ブースト用意」
榊の合図で一同加速態勢に入る。
「三つ数えて突入するぞ‥‥1‥‥2‥‥3‥‥突入!」
超音速で加速するナイトフォーゲルは一気に空を駆け抜ける。
飛び交うヘルメットワーム編隊とUPCの戦闘機の傍らを通り抜け、能力者たちが操るKVは旋回して二手に分かれる。
先鋒と後衛に分かれた能力者たちはヘルメットワームを挟み撃ちにするつもりだ。
「では、ボクたちは作戦方針通りブーストを使って回り込むよ。グッドラック!」
クリア・サーレク(
ga4864)ら後衛部隊は敵の背後に回りこんでいく。
高速で飛行するヘルメットワームを能力者たちは視界に捕らえる。幾度と無く見てきた流線型の機体、触角のように生えたから二本の突起から怪光線が飛び交い、友軍機を襲っている。
突然現れたKVの一団に気付いたのか、ヘルメットワームは急速旋回して能力者たちに向かってくる。
「UPC友軍機へ、ラストホープからの援軍だ。後は任せろ、サポートを頼む」
「‥‥了解‥‥した‥‥! 各小隊‥‥能力者の‥‥援護に回れ‥‥!」
「ワーム編隊、前から来るぞ!」
カルマ・シュタット(
ga6302)の叫びが響き渡るのとヘルメットワームが突進してくるのはほぼ同時であった。
「ちいっ! 回避行動!」
藍紗・T・ディートリヒ(
ga6141)は仲間達に叫びながら操作レバーを傾けた。急速旋回で強烈なGが掛かる。
「京夜‥‥わしを守ってくれよ‥‥」
散開する先行部隊。突進してきたヘルメットワームはKVの側面にプロトン砲を叩きつける。
ズズウウウンンン‥‥。
衝撃に揺れるKV。能力者たちの背中に冷たいものが走る。
「この程度で!」
一人時枝・悠(
ga8810)は真っ直ぐ進んでエネルギー砲をヘルメットワームに叩き込んだが――ワームは高速で先鋒隊のKVとすれ違う。
「やってくれるな」
榊はレバーを傾けながらワームの背後に向かう。
あらかじめ進路を変えていた後衛部隊は一気に直進してワーム編隊の後方を捉えた‥‥!。
「燕流儀の対多戦術を見せてやるよ」
あやこはミサイルのボタンに指を置いた。
「油断は禁物だが‥‥これで決めたいところだ、マイクロブースト!」
赤村咲(
ga1042)はブーストを起動させる。加速するワイバーン。
「アイキャンフラ〜イ! こっちも行くぜ赤村!」
九条もマイクロブーストを起動させて突撃する。
「バーニア、1番から4番出力臨界。ブーストシステム、オールグリーン、発動! 疾空(はし)れシュテルン!!」
クリアのシュテルンが空を駆け抜ける!
「ほらほら、一気に追い詰めてあげるよ! ‥‥ミサイル‥‥発射!」
銀子はミサイルボタンを押した。
一気に距離を詰めた能力者たちは背後からヘルメットワームにミサイルを叩き込んだ。
散開するヘルメットワームを追尾するミサイル――ドドドドウッ! ドドーン! 命中。爆発と炎がワームを包み込んだ。
「ワームは!?」
しかして能力者たちの視界からヘルメットワームが消えた。一体どこに?
「こっちだ! 下にいるぞ!」
榊は急降下しているヘルメットワームを追いかけながらミサイルを発射した。今度は急上昇してミサイルを振り切るヘルメットワーム。
「化け物じみた機動力だな‥‥」
カルマは射程内に捕らえたワームを追いかけながら急上昇していた。
「ミサイル‥‥発射‥‥!」
カルマが放ったミサイルの連弾は命中してワームを爆炎と放電で包み込んだ。
「ヌシらの機動は、もう慣れた‥‥堕ちるが良い!」
藍紗の機体から百発のミサイルが飛び出し、一斉にヘルメットワームを追尾する。壮観な光景だ。
ドドドドドドドドォォォォォォォォ‥‥!
命中したミサイルが凄まじい放電を放ってヘルメットワームを包み込む。
「追い返す、等と言う気は無い。慈悲も躊躇も例外も無く、全て等しく砕いて墜とす。これ以上お前たちの好きにはさせない‥‥!」
時枝は旋回するワームにエネルギー砲を叩き込む。エネルギー砲がワームのフォースフィールドを直撃して確実にダメージを与えている‥‥はずだ。
数で勝る能力者たちに背後を取られ、身動きできないヘルメットワーム、このままミサイルの餌食となって轟沈するのか‥‥ワームを追う能力者たちは最後まで手を緩めず、攻撃を加えていく。
と、背後を取られっ放しだったヘルメットワームが急加速する。ブースト並か、それ以上の超高速で加速しながら上昇旋回する。
「引き離される‥‥!」
「こっちもブーストを使え!」
加速するKVがワームを追う。超音速で飛び交うKVとワーム編隊。もはやUPCのパイロットには常識外の戦闘だ。
急上昇、急降下、急旋回を繰り返し、飛び交う両軍。
「速い‥‥!」
「くっ、追いつけないぞ‥‥!」
機体が悲鳴を上げるような急旋回を繰り返しながら、能力者たちはワームに食らいつくが――。
次の瞬間、急降下していたヘルメットワームがぴたっと空中で急停止した。
「何おっ!」
行き過ぎる能力者たちのKV。
「ジーザスクライスト! そんなのマニューバでもありえねえ!」
九条はあっという間に後方についたヘルメットワームに目を向けながら半ば呆れていた。
そしてあっという間にマッハまで加速するヘルメットワームは能力者たちの背後から襲いかかった。でたらめな機動力だ。
プロトン砲をいいように叩き込んでくるヘルメットワーム。
ズズウウウンンン‥‥。
揺れるコクピットで懸命にワームを引き離そうとするあやこ。
榊がワームとの間に割って入り、あやこを救う。
「あやこ、離脱しろ。こいつは俺が引き受ける」
「すいません榊さん、一つ貸しですね」
「気にするな。全くでたらめな機動を見せてくれるよ。ふざけた相手だ。だがまだ終わりじゃない」
榊はレバーを傾けながらワームを引きつける。
「この『忠勝』を並の雷電と同一視して貰っては困るな。俺が手塩にかけたこの機体、墜とせるものならば、墜としてみるがいい!」
それに応えるようにヘルメットワームから激しいプロトン砲の応射が。
ズズン‥‥ズズン‥‥。
揺れる機体を操りながら、榊はワームを引きつけ、僚機の攻撃の機会を作った。
「数ではこちらが勝っている、俺と榊、時枝でワームの注意を引きつける。いけるか」
「了解カルマ、何とかなりそうだ」
時枝は仲間達とワームの間に割って入り、味方を援護する。
「任せろ、このくらいの攻撃で堕ちる機体じゃない」
榊もカルマの言葉に応える。
他の六機は三人の援護を受けて離脱、再度ヘルメットワームの背後に回りこむ。
「頼むぞ!」
だが能力者たちの連携プレーにヘルメットワームは目の前の榊、カルマ、時枝機に向かって突進してきた。超高速の体当たり、フォースフィールドを生かしたヘルメットワームの近接攻撃フィールドアタックだ。
KVが激しく振動する。
ズズン‥‥! ズズン‥‥!
「こっちから先に潰そうってか‥‥そうはいくか!」
旋回する榊、カルマ、時枝。追いかけてくるヘルメットワーム。プロトン砲の連打を食らいながら逃げる。
他の六機は何とか背後に付こうとするが、中々うまくいかない。
そんな中、銀子が上方からワームの背後を捉えることに成功。
「悪の栄えた試し無し! これがシュテルン君の加速力+位置エネルギー×あたしのやる気!」
こんな状況でもローリングパフォーマンスを見せる銀子だ。
「いこーる、破壊力ね♪」
8式螺旋弾頭ミサイル、ロケットランチャーを全弾撃ち込む銀子。だが――ワームはミサイルを全て振り切った。
ぐるぐると旋回、上昇、下降して飛び交う両軍機。
「指揮官よ聞こえるか――」
あやこは回線を開いてバグア軍に呼びかけた。
「――人類をあざ笑う北九州の放送は聞かせてもらった。それでよく分かった‥‥栄枯盛衰を知らないバグアこそ愚劣だと言う事が良く判った! 熱力学の第二法則が実証している! 滅びぬ種族はいない。我等は宇宙の理に従い抗うだけ。それを嗤う貴様等こそ哀れ」
「‥‥‥‥」
無論回答などあるはずもないが、あやこはふっと吐息した。
「淘汰の連鎖は終わらないよ。精一杯、今護れる物を護るだけさ」
終わりなき戦い――いつ果てるとも知れない空中戦が続く。能力者たちは数では勝るが、圧倒的な機動力を持つヘルメットワーム相手にミサイルは全て撃ち尽くした。
ワームのプロトン砲とレKVのーザー、ガトリング砲などが飛び交い、激しいドッグファイトが繰り広げられる。
「喰らえSESエンハンサー!」
あやこは借りを返すべくワームの側面にレーザー砲を叩き込む。
「ここまで翻弄されるとはな‥‥」
榊の機体「忠勝」は実際強力な攻撃力を始め高いレベルでバランスの取れた機体だが、ワームのでたらめなまでの機動力には付いていけない場面もあった。
「ロシアの戦線に行かなきゃ行けないんだから、ここで落とされるわけには行かないんだよっ!」
「やれやれ、あとは整備書にサインをして終わりじゃったというのに‥‥夕飯の仕込をしておけばよかったのぅ‥‥」
「敵が強いのはいつもの事。時間が無いのもよくある事。負けられないのは言うに及ばず。他の仕事と何一つとして違いなど無い。ただ普段どおりに勝って帰る、それだけの事だが‥‥な」
普段通りに勝って帰るのが何と難しいことか。
能力者たちは憮然としつつも操縦桿を握る手に力を込め、至近距離のワームに狙いを定めて一撃離脱を繰り返す。
と、その時である、一方通行の通信が流れ込んできた。
「‥‥定時連絡‥‥前線のヘルメットワームを帰還させろ‥‥次の目標に備える時が来た‥‥交戦中のヘルメットワームを福岡基地まで撤収させろ‥‥繰り返す‥‥」
「何だあ? 撤退だとお?」
九条は素っ頓狂な声を上げた。
「次の目標って何だろう?」
「分かりませんが‥‥まあいいでしょう、シベリア方面でこれから忙しくなることですし」
「ちっ、バグアの逃げ足というか見切りが早いのは今に始まったことじゃないか‥‥」
「いえ、幸運と言うべきでしょう。今回の敵は小者とは思えませんでした。被害がこれくらいで済んだのは‥‥」
そうこうする間に、六機のヘルメットワーム編隊は上昇して隊形を組むと、超音速で北方向に飛び去っていったのである。
能力者たちは吐息してUPCの空戦隊と連絡を取り合った。
「こちらナイトフォーゲル、何とか敵さんを追い返したが‥‥次の攻撃があるようだ。注意した方がいいな」
滑空するKVの横にUPCの戦闘機がやってくる。
「ご苦労だった。ここは東アジアの激戦区の一つだ。何が起こっても不思議じゃないが‥‥差し当たり、諸君の力添えに感謝する」
パイロットはコクピットから敬礼すると、ナイトフォーゲルの側を離れて帰還して行った。
「それじゃ、お先にお茶の準備に戻るわね〜」
銀子の機体が一足先に離脱していく。
それを追う様に、能力者たちはラストホープへの帰路に着くのだった。