●リプレイ本文
――20:00:00
ロス市街、件のビルを取り囲むブロックの一角に展開したエインレフ・アーク(
ga2707)、終夜・無月(
ga3084)、熊谷真帆(
ga3826)、ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)、皇流叶(
gb6275)、月城紗夜(
gb6417)、日野竜彦(
gb6596)、伊達 士(
gb8462)らは、それぞれの配置に向かって散っていく。
「それでは、ビルの屋上で会おう」
無月は言って、月城とともに待機中のヘリのもとへと向かう。無月と月城はA班。民間のヘリで上空からバグアに強襲をかける。
「それじゃ、ぼちぼち始めましょうか」
エインレフは工事の作業服を身にまとうと、ユーリともにビルの中に入っていく。エインレフとユーリはB班。件のビルに直接入り込み、屋上まで上がって直接奇襲攻撃を仕掛ける。
「戦場の風紀委員として、張り切っていきますね」
真帆は皇とともに西隣のビルに向かっていく。
「さて‥‥どんなものかな。バグアも警戒しているようだが‥‥」
皇の口もとに笑みが浮かぶ。覚醒し、黒い瘴気をまとって戦を楽しむ好戦家になった若年の少女。
二人はC班。西隣のビルから目的のビルへ飛び移って攻撃の位置に付く予定だ。
「無茶な仕事が回って来るは傭兵の宿業なのかな? 英雄扱いはゴメンだけど、成功して明日の百人の命に繋がるならこの仕事を全うする意味はあるよね」
竜彦は伊達とともに地上で待機する。
「民間人のみなさんは避難してくれましたかなあ?」
伊達と竜彦はD班。地上で待機し、パーツの落下、敵がビルから飛び降りた場合などに備える。
竜彦も作業着をまとっている。
ビルの周辺住民には、市街に入り込んだキメラの掃討と言う名目で避難勧告が出されている。
そしてビルに入っている各企業などには電気系統がトラブルを起こしたということで、全民間人がビルからいなくなっている。
傭兵たちはビルに入り込む、また周辺に展開する傭兵たちはみな工事スタッフの作業着を着て、バグアの目を一応誤魔化している。短時間で出来ることは限られているが。
――20:18:38
ヘリに搭乗した無月と月城は、上空から夜のロス市街を眺めていた。
「間もなく作戦開始ですね‥‥任務の無事成功を祈るとしましょう」
無月は金色の瞳で市街地を見やる。湧き上がってくる情動が無月の感情を揺さぶるが、解き放つにはまだ早い。
「‥‥倒せない相手ではない、傷つくことが無い相手ではない。それは事実。家族を奪った奴等が憎くないとは言わんが、我が目標とする所はそこではない。パーツ未回収なら、傷ついた者が出ても放置、敵を追うぞ」
月城はどうも暴走する気配がありそうだが‥‥。
「任務は完遂する、何があろうと」
無月はドラグーンのアーマーをこつこつと叩くと、月城にクールダウンするように手を差し出した。
「無月、心配するな、止められなくとも我は死に急ぎはせん」
「市街戦は御法度ですよ」
「それは分かっているが‥‥」
月城は吐息して前を向く。
――20:20:25
「‥‥全く、突然のトラブルとは、ついてないねえ」
エインレフとユーリは、エレベータで48階まで上がった後、もっともらしく工事員のように世間話しながら屋上を目指す。
「このビルのここで最後だなあ、やれやれだよ」
「まあそうぼやくなって。これも給料分と思えばこそ‥‥」
二人はぼやく振りをしながら配電盤に向かう。
「ああ、ここも完全にいかれてやがる」
「ああ、こりゃ駄目だな」
ユーリは適当に配電盤を弄った後、監視カメラに近付いていく。
「こいつが動いていると数値が狂う」
ユーリは言って、監視カメラを切った。
それから二人は視線を交わすと、頷いて屋上へ向かって移動を開始する。
――20:22:58
「‥‥こちらC班、熊谷です。配置に着きました。敵はまだ作業中のようですね」
覚醒してボディビルダーのような肉体になった真帆は双眼鏡を覗き込みながら、西隣のビルからバグアの様子を伺っていた。
二人の強化人間とエイリアンの姿のバグアが、打ち上げ装置の前で何やらごそごそやっている。装置の中央には、直径一メートル程の銀色の物体が置かれていた。ステアーのパーツであろう。
「B班へ、敵は装置に釘付け、こちらの動きには気付いていないだろう。間もなくA班も空から合流するだろう。全く、初手はきみたちに掛かっているぞ」
皇は無線機でユーリとエインレフに言葉を投げる。
「‥‥こちらユーリだ、B班は今のところ異常なし。粛々とことを進めるよ」
「しくじるなよ。敵に気取られれば‥‥どうなるか分からん」
「まあ無事に進むことを祈ろう」
ユーリは無線機の向こうで苦笑しながら皇に応える。
「頼むぞ」
皇は無線を切ると、件のビルの方を見やる。
「さて‥‥この戦どう転ぶか」
――20:25:45
「仕事は堅く、ジョークは緩く、楽しく生きるコツだよ」
作戦決行間近となり、竜彦はシートの被ったKVの中で無線機に声を流した。
「感度は良好、今なら仲良さそうな嫁姑の陰口も聞取れそうだよ」
「ホント! いけずな依頼やわ‥‥」
嘆く伊達を竜彦はなだめすかした。
「緊急で無茶な内容の仕事が来るのはいつもの事だよ。怒らない怒らない」
「いや‥‥怒っとはおまへんけどねえ。成功させたいんよこの依頼。いっつも負けばかりは嫌やしね」
肩をすくめる竜彦。時計を見て、顔を引き締める。時間が迫ってくる。
「こちら日野、各チーム、準備はいいかい」
「B班配置に付いてるぜ。そっちも万が一に備えてくれ」
「C班、準備完了。いつでもいけるです」
「よし‥‥」
そこで、近くまで来た上空のヘリからも通信が。
「A班、作戦開始とともに突入する」
――20:30:00
「これより作戦を開始する。合図の閃光手榴弾で突入せよ」
ユーリとエインレフは無線機に最後の言葉を投げかけると、ビルの屋上の扉を開ける。
そこでユーリは間一髪手を止めた。
「待て、エインレフ」
扉の隙間からワイヤーが見える。ブービートラップだ。
「バグアにしては原始的な方法を使う」
ユーリはドアの隙間から手を伸ばして、トラップを解除する。
「よし、行くぞ」
それからユーリとエインレフは屋上に飛び出した。
頭に叩き込んだ地図をもとに、空調設備や貯水タンクの陰からバグアの位置を探る。
「閃光手榴弾」
二人は手榴弾を投げ込んだ。
ぴかっと轟音と閃光が炸裂し、バグアと強化人間から狼狽の声が上がる。
ユーリとエインレフは突進する。
屋上まで浮上したヘリからも無月と月城が行動を開始する。
ばばっと降下用のロープを下ろすと、二人ともラベリング下降で屋上に降りていく。月城は敵にペイント弾を撃ち込み、超機械で攻撃を開始する。
無月も拳銃を叩き込みながら滑るように屋上に降り立つ。
真帆と皇は隣のビルから大ジャンプで飛び移ってくる。
真帆はアサルトライフルを打ち込みながら突撃してくる。
「戦場の風紀委員真帆ちゃん参上です! パーツは渡しませんです!」
皇は疾風のごとく駆け抜けると、バグアにエアスマッシュを放ち、迅雷で背後へ移動、刹那で斬りかかる。
「霞みの双刃、‥‥避けれるかい?」
「く‥‥敵襲か! 人間ども! パーツを狙ってきたか! だがパーツは渡さんぞ!」
強化人間とバグア人は不意を食らって連続攻撃を受けたが、怯むことなく態勢を立て直すと、傭兵たちに打ちかかってくる。
「パーツを守れ!」
バグア人は無月に突進してくると目にも止まらぬ速さで拳を繰り出してくる。
ズン! と無月は凄まじい衝撃を受け止めた。
「にっ!?」
「お前達の思い通りにはさせん。‥‥上層部の思惑がどうあれな。我々は任務を果たすのみ」
無月は刀をバグアに叩き込むと、バグア人は腕で刃を受け止めた。
その側面から月城が二刀で切りかかる。ザザンッ、と切り裂かれて後退するバグア。
「何をしているお前達! パーツを守るんだ!」
ユーリとエインレフがパーツの方へ向かうのを見て、バグア人は叫ぶ。
「そうはさせんぞ!」
強化人間はユーリに飛び掛ってくる。
ユーリはクルメタルを打ち込んで距離を保つと、強化人間の拳を回避する。
ズドン! と強化人間の拳が屋上の足元を打ち抜いた。
「さすがにやるね‥‥」
ユーリはエインレフに目配せして、クルメタルを打ち込みながら接近、刀で切りかかる。強化人間はガキイン! と刀を跳ね返すと、鋭いキックを連打する。
ドドド! とユーリは腕で強化人間の蹴りを受け止める。
そこへエインレフが疾風脚で突進、ファングを連発して強化人間を傾かせる。
「ちい!」
強化人間はエインレフに回し蹴りを叩き込めば、エインレフは吹っ飛んでビルから落ちそうになるが、発射装置を掴んで何とか踏ん張った。
「これが悪の親玉ですかぁ、成敗するですぅ〜」
真帆は目を輝かせて紅蓮衝撃で発射装置をライフルで撃ちまくる。凄まじい火花が飛び散って装置が爆発する。
「畜生! この小娘が!」
罵声を吐く強化人間に皇が迅雷で先回りする。
「どこへ行く気‥‥かな? 貴様の相手は私だ」
「どけ小僧!」
強化人間は加速して皇に打ちかかって来る。
凄まじい速さの格闘攻撃を皇は捌きながら、強化人間を引きつける。
「手前ら人間じゃねぇ叩き切ってやるですぅ」
さらに真帆がバスタードソードに持ち換えると流し斬りで強化人間と叩き切る。
「ぐお! このままでは!」
強化人間は後退すると、とにかくパーツの死守に転じる。
「バグアも大根も一緒くたですぅ、稲刈りの季節ですぅ」
真帆は皇とともに強化人間に襲い掛かる。
「破壊すれば‥‥良いのだよな? 死の舞踏、踊るは‥‥私等だけで良いだろう? ‥‥手は出させんよ」
「司令官! このままではパーツが破壊されるのは時間の問題です!」
「そうはさせん‥‥」
そう言うと、バグア人は無月を殴り飛ばして、何かを念じるように目をつむった。するとバグア人の体がみるみる溶けていき、バグアの真の姿へと変わっていく。
「これは‥‥」
無月は警戒するように身構える。
「行くぞお‥‥人間ども!」
バグア人の姿が大地を蹴って弾けた。凄まじい加速力で無月に迫る。
ズウウウウウウン! とバグアの拳が無月にめり込むが――無月はバグア人の重量級のパンチを受け止めた。
「何!」
ぐぐっと、無月はバグアの拳を押し返し、金色の瞳で見据える。
「バグアよ‥‥ここからが勝負だ」
「ぬう‥‥」
油断なく無月を見つめるバグアに、月城が切りかかる。
「小賢しい奴らだ!」
バグアは刀を跳ね返して月城にパンチを叩き込んだ。もの凄い衝撃で吹き飛ぶ月城。
ユーリとエインレフは強化人間を追い詰めながらパーツに攻撃を加える。
エインレフが強化人間に格闘戦を仕掛け、ユーリはクルメタルをパーツに叩き込む。
皇もエネルギーガンをパーツに叩き込み、真帆もアサルトライフルを打ち込んでいく。
「おのれい‥‥! こうなったら‥‥」
バグア人はパーツに駆け寄ると、直径一メートルほどはあるその物体を持ち上げ、銃撃が体に打ち込まれるのも気にせずに、屋上から飛び降りた!
ユーリとエインレフ、皇と真帆の前に強化人間が立ちはだかり、足止めする。
「あいつ‥‥!」
だが無月と月城がバグアを追って屋上から飛び降りる。
五十階建てのビルの屋上から飛び降りたバグアと能力者、空中を急降下しながら無月と月城は空中でバグアに追いつく。
「貴様ら! どこまでもしつこい!」
「逃がすと思うのか」
無月はバグアにタックル。
月城はバグアの腕を刀で何度も打ち据えた。
空中でもみあうバグアと能力者たち。
そして、バグアの手からパーツが離れると、月城がパーツを奪ってそのまま落ちていく。
無月はバグアに膝蹴りを叩き込み、そのままの態勢で地面に急降下していく。
そうして――。
ズウウウウウウウウウン! と三人は地面に落ちた。
「落ちてきた」
地上で万が一に備えて待機していたKVの竜彦とドラグーンの伊達は、もうもうと煙が上がる現場を取り囲んだ。
月城はパーツの上に乗っており、しがみつくようにパーツを抱きかかえていた。
竜彦と伊達はパーツを確認して確保する。
「月城さん‥‥ですか、じゃああっちは?」
「バグアだろう」
竜彦の問いに頭を振って応える月城。衝撃で少し目まいがするが立ち上がって状況を確認する。
伊達はスコーピオンを構えながら恐る恐る無月の方へ近付いていく。
「うわあ‥‥」
伊達は驚いて無月とバグアを見やる。
もうもうとした煙が晴れて、無月はバグアに膝蹴りを叩き込んだ状態で地面に激突していた。道路にクレーターが出来ていて、その中央で、バグア人は横たわっていた。
手ごたえはあった。無月は眼下のバグアを見やる。
「ぬうううう‥‥」
バグアは唸って無月の体を持ち上げると、無月を投げ飛ばす。バグアも中々に不死身っぷりだ。
立ち上がったバグアは、ジャンプしてクレーターから飛び上がると、そのまま市街地へ逃走を図る。
能力者たちも追撃はしない。パーツをかろうじて確保できた以上は。
しばらくすると、再び屋上から強化人間たちが飛び降りてくる。二人の強化人間は、何も言わずに脱兎のごとく逃げ出した。
――21:11:05
戦闘を終えた能力者たちのもとへ、UPC軍が到着する。
「緊急の任務だったようだが、良くパーツを回収してくれた。諸君らの働きに軍は感謝する」
駆けつけた部隊を率いる士官が傭兵たちの労を労う。
パーツは軍用トラックに積み込まれ、軍の本部へ運び込まれることになる。
回収したステアーのパーツから収穫があるのだろうか‥‥傭兵たちはこのささやかな成功が、次の戦いに実ることを願うばかりであった。